とあるモブ死神だった奴の話 作:ピューレッド
「ハアッ!!」
俺は上手くコントロールした彼女の力を使い、卯ノ花隊長の背後から切りかかる。
「こんなので私の背後をとれると思っているのですか?」
すると始解によって強化された俺の斬撃を振り返りもせずに止め、易々と弾き返す。俺は、体勢を立て直すと攻撃の手を緩めることなく卯ノ花隊長に連撃を浴びせるが、これも表情一つ変えることなく捌ききってしまう。
「ちくしょう、どうやったら攻撃が当たるんだよ……」
そう考えている間に、卯ノ花隊長は地を蹴って俺の懐へ入ると斜め上に剣を振りあげる。キンッ!と甲高い音が鳴れば俺は間一髪、体に斬撃を受けることから免れる。
「戦いに集中なさい。次はありませんよ」
「すいません。少し考えすぎたようです」
考えてもどうせ勝てないと悟った俺はとりあえず、卯ノ花隊長の剣を真似することにした。俺は先ほど卯ノ花隊長が見せた動きを再現し、今出せる最大限の速さで卯ノ花隊長の懐に入り剣を振りあげる。
「っっ!!」
すると珍しく距離をとる卯ノ花隊長は焦った顔をする。どうやらやることは決まったようだ。一筋の光が見えてきた俺はやっと少し気が楽になる。
「やっとやり方がわかってきたようですね?今日はもうこれくらいにしておきましょう。さあ帰りますよ」
そう言っていつものごとく巨大なエイらしき生物を出せば、俺も続いて背中に乗る。
「卍解のほうは進捗どうですか?」
珍しく卍解について聞いてくる卯ノ花隊長はこちらを見つめる。
「それがまあまあ大変でして…中々上手くいかないですね」
「そうですか。焦っても仕方がありませんからね。ゆっくりと自分のものになさい」
苦笑いする俺に優しく包み込むような笑顔を向けてくださる卯ノ花隊長。鍛練開始から五年が経った今、折り返し地点の俺は少し焦っていた。始解するのに何十年もかけたのに、卍解を十年以内で会得しろなんてなぜこんなに厳しい課題を出したのだろうか。俺は今日も頭を悩ませる。
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宿舎に帰らずに俺は卍解の鍛練をするため鯉伏山へと向かう。時刻はまだ昼過ぎ、休日だろうと休む暇はない。いつもの場所へ着いたがどうやら珍しく先客がいたようだ。
「おお!茜二ではないか!どうしたのだこの様なところに」
嬉しそう顔をして木から降りてくるのは、四楓院隊長。どうやら隠れていたようで話しかけられるまで気付かなかった。
「いえ、私は卍解の鍛練をするために…いつも鍛練はここでしているんです。四楓院隊長こそなぜここへ?」
「わしは仕事から逃げてきたのじゃ!書類仕事なぞわしには合わん!」
「えぇ……」
今頃砕蜂さんは必死に捜索しているだろうな。やはり二番隊は大変そうだ。
「それより茜二、卍解の鍛練ならとっておきの場所を紹介してやろう」
「本当ですか!四楓院隊長がよろしければお言葉に甘えさせていただきますが…」
しかしながら不満げな顔をする四楓院隊長。なにかまずい言葉を言ってしまったのだろうか?心の中に緊張が走る。
「ただし、条件がある。わしを名前で呼ぶことじゃ。その呼び方はあまり好かん。わしとお前の仲じゃ。もっとこう、夜一さんとか色々呼び方があるじゃろう?」
予想外のことに絶句する俺はフリーズしてしまう。
「ですが、そのような呼び方は畏れ多いといいますか…」
途端に悲しそうな眼をして訴えてくる四楓院隊長。その破壊力を受け止める防御を持ち合わせていない俺はしばらくの間を持って折れる。
「わかりましたよ。では夜一さんと呼ばせていただきますね」
「うむ!それでよいのじゃ。では早速、とっておきの場所へ案内してやる。ついてこい!」
そういって走り出す夜一さんはかなりの速さで走り出すと俺も遅れず付いていく。
「ほう、砕蜂から聞いておったがかなり瞬歩に自信があるようじゃの。もう少し上げるぞ?」
「え、ちょま…」
俺の意見は聞かずにスピードを上げていく夜一さんについていくこと二十分、肩で息する俺は目的地で大の字で倒れる。
「ここはわしとお主含めて三人しか知らぬ地下広場じゃ」
「ハアハア、そんな大事な場所、俺なんかに、教えてよかったんですか?」
「別に良い。いつかの借りを返しただけじゃよ。好きに使うて構わぬぞ」
夜一さんには申し訳ないと思いながらも、こちらもかなり切羽詰まった状況だ。温泉もついていて鍛練には絶好の場所だ。有難く使わせてもらおう。
「ありがとうございます。では使わせていただきます」
「よし、そろそろわしは仕事戻る。いい加減戻らないと大前田が怖いのでの。存分に使っていくとよい。それじゃあの!」
するとこれまた速く出口へ向かう夜一さんの背中を見届けると俺は気持ちを切り替える。
「よし、やるか!」
そうして俺は今日も卍解の鍛練へと身をやつす。
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「あ〜あ。最近つまんないな〜。茜二は相手してくれないし、卯ノ花隊長は最近忙しくて私の仕事が増えるし、なんなのよ、もう」
私、坂上純連は退屈していた。以前ならば茜二と朝に鍛錬をやったり、からかってみたり楽しかったのだが、この間の任務で茜二の親を亡くしてから何か一皮剥けたように見える。いつの間にか始解も習得していたようだし油断ならないわね!そんな事を思いながらダラダラ一向に減らない仕事と睨めっこしていると私の友達が訪れる。
「やっほー!純連ちゃん。今から飲み行かない?」
「乱菊さん!待ってましたよ。私もそろそろ集中が切れてきたんです。仕事も残り半分切ったところなので行きましょうか!」
現れたのは十番隊副隊長の松本乱菊。大きく着物をはだけさせ胸がより一層強調されている。厚い唇とくるくると曲がりくねった髪はなんとも色気を引き立たせる。私の飲み仲間の一人であり、親友とも言えるほど仲がいい。
「今日は京楽隊長もいるから盛り上がりそうね!」
「本当ですか⁉︎三人で飲むのも久々ですね」
私と乱菊さんと京楽隊長は、時よりサボっては一緒に昼から酒を飲むことが多く、いつも二人には可愛がってもらっている。最近は忙しくてあまり二人に会えていなかったので今日ぐらいは良いだろう。私は、仕事をしっかりとこなしてからサボるのであり、決して放ったらかしにしているのではない。自分の仕事だけはしっかりと片付けてから息抜きに席を外す。茜二はブーブー文句を言うが最近、卯ノ花隊長には黙認されている。
「よし!そうと決まれば八番隊舎にれっつごー!」
私は支度を済ませて乱菊さんと京楽隊長の元へ向かう。いつも京楽隊長と飲む時は、大体美味しいお酒をご馳走してくれるので気分があがる。私も一応上級貴族だが、その中でもお酒好きの京楽隊長が出すお酒には敵わない。
「そういえば純連ちゃん。あんたの相方はどこ行ったの?」
「茜二は最近、卯ノ花隊長に付きっきりですよ。おかげで仕事が多すぎて……」
「あら、そうなの。純連ちゃんと言えどもうかうかしてられないんじゃない?卯ノ花隊長は強敵よ!」
「いえ、そんな感じには見えないんですよね。卯ノ花隊長がそういう感情を弟子に抱くとは思いませんし」
「そうね、考えすぎかしらね」
そういう間にも八番隊舎へ到着すると慣れた足取りで京楽隊長の元へと向かう。
「京楽たいちょー!純連ちゃん連れてきましたよ〜!」
「こんにちは。お久しぶりです、京楽隊長」
「やあ純連ちゃん、久しぶり。二人共待ってたよ。さあ、早く飲もうじゃないの」
そう言って部屋へ招き入れると私は乱菊さんと京楽隊長の正面に座る。乱菊さんは今にも待ち切れないと言った様子でソワソワしている。
「今日は久しぶりに三人揃ったからね、とびきりの酒を用意してきたよ」
「やったー!京楽たいちょー大好き!」
乱菊さんはお酒を手際よく三人に回すと乾杯の音頭をとる。どうやら我慢の限界のようだ。
「それではこの三人が久々に揃いました事を祝しまして、乾杯!」
『乾杯』
三人とも一気にお酒を煽ると、それぞれ美味しそうな息を漏らす。各々お酒が入ると最近話せてなかった分、いつも以上に会話が弾みだす。隊長、副隊長関係なく話し合えるこの場が私は好きだ。
「純連ちゃん。やっぱり君は四番隊以外の隊に行った方がいいと思うんだよね」
「いえ、私は四番隊が良いんですよ。近くであいつを見て、からかって、一緒にお昼食べて、鍛練して、それが最高に楽しんです」
私はお酒が入って言うつもりも無かった恥ずかしい心中を曝け出してしまう。後に私が聞いたら悶絶するであろう内容をスラスラと言えてしまうのだから酒は怖い。
「そうか。その剣の才能は勿体無いなぁ。卍解も会得しているようだし君の武の才能は計り知れないね」
「ええぇっ⁉︎純連ちゃん、卍解なんていつの間に⁉︎」
そういえば乱菊さんに伝えてていなかったなと今思い出した。乱菊さんは驚きと嬉しさと焦りと悔しさとお酒が混じって凄い複雑な顔をする。
「もう数年前に。ごめんなさい、隠していたつもりはなくてただ忘れていただけなんです」
「そうかぁ〜。先越されちゃったわね。なんだか凄い凹むわね」
「なんか……ごめんなさい」
私は思わず気を使って謝ってしまうが、乱菊さんは『そんな事気にしないでいい』と笑って祝福してくれた。すると、その話を聞いていた京楽隊長が思いついたように私に尋ねてくる。
「そういえば純連ちゃん。四番隊の東雲くんと仲良いんだよね?」
「ええ、まあ。幼馴染というか腐れ縁ですね。茜二を知っているんですか?」
「勿論知っているよ、なんてったって卯ノ花隊長の一番弟子だからね。あの卯ノ花隊長が自分から弟子に招き入れたってことは相当優秀ってことさ」
長く一緒にいて別に普通の死神だと思っていた私は首をかしげる。卯ノ花隊長はあいつのなにを良しとして弟子にしたのだろうか?永遠の疑問である。
「それで、茜二がどうかしたのですか?」
「いやぁ、ね。これはあくまで噂なんだけどさ彼、近々卯ノ花隊長の弟子を卒業して二番隊に入隊するらしいじゃないの」
「ええっ⁉︎そんな話、私聞いてません!あいつどういうつもりなのかしら。せっかくこの私があいつの為に四番隊に入ったというのに……」
私は思わず取り乱す。最近、卯ノ花隊長と二人で鍛練に行くことが増えたのでこの噂は恐らく本当だろう。逆になぜ今まで気づけなかったのか、私は頭を抱える。
「純連ちゃんさ、彼が本当に二番隊に行ったとしたら、どうするの?」
「私は……どうしたいんだろう……」
京楽隊長に聞かれたこの単純な質問は、私の心に突き刺さる。今まで何となくあいつの側にいて楽しくやってきたが、恐らくあの任務以来、何があったかは知らないが、あいつは何かしらの覚悟を決めたのだろう。親への仕送りという目的が消えた今、あいつは今までいい加減に何となく過ごしてきた日々を捨て、修羅の道へと進もうとしているのだ。その心に映るのは復讐心か、はたまた正義の心か、それともそれ以外なのかは私には知る由もないが私もいい加減、自分の道を進んで行った方が良いのかもしれない。
「まあ、今無理に考えることもないさ。時間をかけてゆっくりとやりたい事を探すと良いよ。困ったらいつでも僕の所へおいで」
「はい、ありがとうございます。焦ってもしょうがないですからね。ゆっくりと考えますよ」
私は少々無理な作り笑いを顔面に貼り付けると、グイッと酒を煽り心を洗い流す。
「もう、久しぶりに三人揃ったのに、こんなにしんみりとした空気になっちゃ台無しよ!もっとパァーっと行きましょうよパァーッと!」
「本当によく飲むね……僕も負けてられないなぁ」
どうやら乱菊さんは相当ペースが速いようでもう既に出来上がってしまっている。対して京楽隊長はお酒に強いのかまだまだ飲んでいないのか、顔色一つ変えずにお猪口を持つ。
「どうしたのよ純連ちゃん!今日はやけに進みが悪いわね!お酒は残したら罰が当たるのよ!」
「お前は飲み過ぎだ松本!仕事がまだ残っているようだが楽しそうだな?」
後ろを振り向けば、白髪の子供が腕を組んで仁王立ちしている。
「げっ!冬獅郎。何でここにいるのよ!」
「げっ!じゃねーよ!お前も隊長もザボリやがって!仕事を終わらせてからとどんだけ言えば分かるんだ!」
「別にいーじゃないの冬獅郎。そんな小ちゃいこと言ってるといつまで経っても身体は小さいままよ?」
「うっせぇー!余計なお世話だ!早く戻るぞ松本!」
いつもの如く途中でお迎えが来た乱菊さんは強制的に日番谷三席にブチ切れられながら連行される。
「いや〜参ったね、どうも。それじゃあこれにて解散にしようか」
「分かりました。また近いうちに伺いますね京楽隊長。今日はありがとうございました」
「じゃあねー純連ちゃん。またいつでもおいで」
私は京楽隊長に一礼して部屋を出ていくとモヤモヤした心を中途半端に洗い流せぬまま四番隊舎へ歩みを進める。
本来なら冬獅郎は、原作の時系列的にまだ出てきませんが登場させました。その他にも色々と変更がありますのでその都度連絡いたします。