二次創作 バカとテストと召喚獣   作:じゅつふいつみかし

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前回の続きです。前回は福原先生が教卓を交換するために教室を出るところで終わっています。


第二問

「あ、あはは・・・・・・・・」

姫路が苦笑いをしていた。無理もない。俺達みたいな奴らはともかく、彼女はこんな劣悪な環境でこれから一年間勉強をするのだ。

「・・・・・・雄二、ちょっといい?」

明久が雄二に真剣な表情で語りかける。彼も何かしら思うところがあるのだろう。

「ん?なんだ?」

「ここじゃ話しにくいから、廊下で」

「別に構わんが」

「雪耶も一緒に来てほしい」

「あいよ」

「んで、話って?」

「この教室についてなんだけど・・・・・・・」

この教室とは言うまでもなくFクラスのことだ。

「Fクラスか。想像以上に酷いもんだな」

「確かに。一年間ここで過ごすのは陰鬱だな」

「雄二に雪耶もそう思うよね?」

「もちろんだ」

「ああ、それには同意だ」

「Aクラスの設備は見た?」

「ああ。凄かったな。あんな教室は他に見たことがない」

一方はチョークすらないひび割れた黒板で、もう一方は値段もわからないほど立派なプラズマディスプレイ。これに不満のない人間はいないはず。

「そこで僕からの提案。せっかく二年生になったんだし、『試召戦争』をやってみない?」

「戦争、だと?」

「ふーん。で、どこと戦うつもりだ?」

「うん。Aクラス相手に」

「・・・・・・何が目的だ」

「言っておくが俺達は学力最底辺なんだぞ。なぜAクラスに?」

「いや、だってあまりに酷い設備だから」

「嘘をつくな。まったく勉強に興味のないお前が、今更勉強用の設備の為に戦争を起こすなんて、そんなことはありえないだろうが」

「雄二の言う通りだ。なぜ今更設備にこだわる?勉強には興味ないだろ?お前は」

「そ、そんなことないよ。興味がなければこんな学校に来るわけがーー」

「お前がこの学校を選んだのは『試験校だからこその学費の安さ』が理由だろ?」

「あー、えーっと、それは、その・・・・・・」

「・・・・・・姫路の為、か?」

「ど、どうしてそれを!?」

「明久。それだけ動揺したら誰だって解るぞ」

「本当にお前は純粋だな。カマをかけるとすぐに引っかかる」

「べ、べつにそんな理由じゃ――」

「はいはい。今更言い訳は必要ないからな」

「だから本当に違うってば!」

「気にするな。お前に言われるまでもなく、俺自身Aクラス相手に試召戦争をやろうと思っていたところだ」

「え?どうして?雄二だって全然勉強なんてしてないよね?」

「だな。それについては俺も疑問に思う」

「世の中学力だけが全てじゃないって、そんな証明してみたくてな」

「ふーん。今朝言ってたことは本気だったのか」

「???」

「それにAクラスに勝つ作戦も思いついたし――おっと、先生が戻ってきた。教室に入るぞ」

「あ、うん」

「さて、それでは自己紹介の続きをお願いします」

壊れた教卓を替えて(それでもぼろぼろだけど)、気を取り直してHRが再開される。

「えー、須川 亮です。趣味は――」

特に何も起こらず、また淡々とした自己紹介の時間が流れる。

「坂本君、キミが自己紹介最後の一人ですよ。」

「了解」

ゆっくりと教壇に歩み寄るその姿にはいつものふざけた雰囲気は見られず、クラスの代表として相応しい貫録を身に纏っているように思えた。

「坂本君はFクラスの代表でしたよね?」

福原に問われ、鷹揚にうなずく雄二。

別にクラス代表とは言っても、学年で最低の成績を修めた生徒たちが集められるFクラスの話。何の自慢にもならないどころか恥になりかねない。

それにも関わらず、雄二は自信に満ちた表情で教壇に上がり、こちらの方に向き直った。

「Fクラス代表の坂本雄二だ。俺のことは代表でも坂道でも、好きなように呼んでくれ」

クラスメイトから大して注目される訳でもない。Fクラスというバカの集まりの中で比較的成績が良かったいうだけの生徒。他から見れば五十歩百歩といった存在。

「さて、皆に一つ聞きたい」

そんな生徒が、ゆっくりと、全員の目を見るように告げる。

間の取り方が上手いせいか、全員の視線はすぐに雄二に向けられるようになった。

皆の様子を確認した後、雄二の視線は教室の各所に移りだす。

 

かび臭い教室。

 

古く汚れた座布団。

 

薄汚れた卓袱台。

 

俺達は雄二の視線による誘導に乗せられ、それらの設備を順番に眺めていった。

「Aクラスは冷暖房完備の上、座席はリクライニングシートらしいがーーー」

一呼吸おいて、静かに告げる。

「―――不満はないか?」

『大ありじゃっ!!』

二年F組生徒の魂の叫び。

 

「だろう?俺だってこの現状は大いに不満だ。代表として問題意識を抱いている」

『そうだそうだ!』

『いくら学費が安いからと言って、この設備はあんまりだ!改善を要求する!』

『そもそもAクラスだって同じ学費だろ?あまりに差が大きすぎる!』

堰を切ったかのように次々と上がる不満の声。

「みんなの意見はもっともだ。そこで」

級友たちの反応に満足したのか、自信にあふれた顔に不敵な笑みを浮かべて、

「これは代表としての提案だが―――」

これから戦友となる仲間たちに野性味満点の八重歯を見せ、

「―――FクラスはAクラスに『試験召喚戦争』を仕掛けようと思う」

Fクラス代表、坂本雄二は戦争の引き金を引いた。

 

 

 

Aクラスへの宣戦布告。

それはFクラスにとってあまりに現実味の無い提案にしか思えなかった。

『勝てるわけがない』

『これ以上設備を落とされるなんて嫌だ』

『姫路さんが居たら何もいらない』

そんな悲鳴が教室のいたるところから上がる。AクラスとFクラス普通に戦ったところで負けるのは火を見るより明らかだ。

文月学園に上限の無いテストが採用されてから四年が経過した。

このテストには一時間という制限時間と無制限の問題数が用意されている。その為、テストの点数は上限がなく、能力次第でどこまでも成績を伸ばすことが出来る。

また、科学とオカルトと偶然により完成された『試験召喚システム』というものがある。これはテストの点数に応じた強さを持つ『召喚獣』を呼び出して戦うことのできるシステムで、教師の立会いの下で行使が可能となる。

学力低下が嘆かれる昨今、生徒の勉強に対するモチベーションを高めるために提案された先進的な試み。その中心にあるのが、召喚獣を用いたクラス単位の戦争―――試験召喚戦争と呼ばれる戦いだ。

 

その戦争で重要になるのがテストの点数だ。AクラスとFクラスとでは点数に天と地の差がある。正面から戦うとしたら、Aクラス一人に対してFクラスは最低でも四、五人は居ないと話にならないだろう。つまり、正面からでは勝算はないのだ。ではどうしたら勝算があるのかだが、Aクラス相手に弱みを握り戦うか、特殊なルールが必要だろう。それもFクラスが有利な。現状はかなり難しところだ。

「そんなことはない。必ず勝てる。いや、俺が勝たせて見せる」

そんな圧倒的戦力差を前に雄二はそう宣言した。

『何をバカなことを』

『できるわけないだろう』

『何の根拠があってそんなことを』

否定的な意見が教室中に響き渡る。彼らの言うことはもっともだ。だが雄二はあえて言ったのだ。「勝たせて見せる」と。彼なりに考えがあるのだろう。

「根拠ならあるさ。このクラスには試験召喚戦争で勝つことのできる要素が揃っている」

こんな雄二の言葉を受けてクラスの皆が更にざわめく。ただクラスを鼓舞するだけではなく、具体性があるかのように言ったのだ。ざわついて当然だろう。

「今から説明してやる」

雄二はお得意の笑みを浮かべ、檀上からクラスメイトを見下ろす。

「おい、康太。畳に顔を付けて姫路のスカートを覗いてないで前に来い」

「・・・・・・・・・!!(ブンブン)」

「は、はわっ」

必死になって顔と手を左右に振り否定のポーズを取る康太と呼ばれた男子生徒。姫路がスカートの裾を遠ざかると、アイツは顔に着いた畳の跡を隠しながら檀上へと歩き出した。

流石だ。あそこまで恥も外聞もなく低い姿勢から覗き込むなんて、アイツ以外に出来る人間はいない。階段の下から除くしか方法が思い浮かばない俺とは格が違う。

「土屋康太。こいつがあの有名な、沈黙なる性識者《ムッツリーニ》だ」

土屋の本名は有名ではない。クラス外の奴に聞けばほとんどが知らないというだろう。でも、彼のあだ名のムッツリーニという名前は別だ。その名は男子生徒には畏怖と畏敬を、女子生徒には軽蔑を以て挙げられる。

『ムッツリーニだと・・・・・・?』

『馬鹿な、奴がそうだというのか・・・・・・?』

『だが見ろ。あそこまで明らかな覗きの証拠を未だに隠そうとしているぞ・・・・・・』

『ああ。ムッツリの名に恥じない姿だ・・・・・・』

畳の跡を手で押さえている姿が果てしなく哀れを誘う。たとえどういった状況であろうとも、自分の下心は隠し続ける。異名は伊達じゃない。

「???」

姫路は多数の疑問詞を浮かべているみたいだ。おそらく土屋のあだ名の意味がよくわかっていないのだろう。ムッツリスケベ故についたあだ名なのだが。ただ、知らない方がいいことだって時にはあるのだ。

「姫路のことは説明する必要はないだろう。皆だってその力はよく知っているはずだ」

「えっ?わ、私ですかっ?」

「ああ。ウチの主戦力だ。期待している」

試召戦争で彼女ほど頼りになる戦力はいないだろう。

『そうだ。俺達には姫路さんがいるんだった』

『彼女ならAクラスにも引けを取らない』

『ああ。彼女さえいれば何もいらない』

おい、どさくさに紛れて熱烈なラブコールするなよ。

「木下秀吉だっている」

秀吉は学力では有名ではないが、他のことで有名だったりする。例えば演劇部のホープといわれていたりとか、双子の姉の優子のことだったりとか。

『おお・・・・・・!』

『ああ。アイツ確か、木下優子の・・・・・・』

補足すると、秀吉は演劇などは金を稼げるレベルで上手だが、演劇に打ち込みまくってい居るせいで学力は絶望的だ。まあ雄二のことだ。今はモチベーションを落とすようなことは言わないだろう。

「当然俺も全力を尽くす」

『確かになんだかやってくれそうな奴だ』

『坂本って、小学生の頃は神童とか呼ばれていなかったか?』

「さらに吉井雪耶だっている。こいつも姫路と並んで主力の一人だ」

『おおおお・・・・・・!!!』

『吉井がAクラス入りは確実だったって噂を聞いたことがあるぞ』

『なんでFクラスに居るんだ?体調でも悪かったのか?』

『実力はAクラスレベルが三人もいるってことだよな!』

絶望的ともいえたクラスの雰囲気が一気に良くなった。やはりこれも雄二の計算の内なのだろう。神童と呼ばれていたのは小学生の時だが、実は今もその頭脳は健在なのかもしれない。

「それに、吉井明久だっている」

 

・・・・・・シン―――

 

良かった雰囲気が一気に凍り付いた。

明久はオチ扱いのようだ。ドンマイ明久!

「ちょっと雄二!どうしてそこで僕の名前を呼ぶのさ!全くそんな必要はないよね!」

『誰だよ、吉井明久って』

『聞いたことないぞ』

『吉井って二人いるけどもしかして・・・・・・』

「ホラ!折角上がりかけていた士気に翳りが見えるし!僕は雄二たちと違って普通の人間なんだから、普通の扱いを―――って、なんで僕を睨むの?士気が下がったのは僕のせいじゃないでしょう!」

「そうか、知らないようなら教えてやる。こいつの肩書は<<観察処分者>>だ」

あーあ。もう知らね。

『それって、バカの代名詞じゃなかったっけ?』

クラスの誰かがそれを口にする。悲しいけどそれ・・・・事実なのよね。

「ち、違うよ。ちょっとお茶目な十六歳につけられる愛称で」

「そうだ。バカの代名詞だ」

「肯定するな、バカ雄二!」

「はぁ。間違っているぞ雄二」

「いいぞ!雪耶もっと言って―――」

「学習意欲に欠け、成績不良の、更生する余地のないどうしようもないバカだ」

「悪化したっ!」

<<観察処分者>>。普通に生活していたら絶対に縁がない称号だ。余程学校生活において問題を起こさない限り、成績が悪くてもこの称号は付かない。

「あの、それってどういうものなんですか?」

彼女はこの学校の頂点に居たのだ。縁のなかった最底辺の事情など知らないのも無理はない。

「具体的には教師の雑用だな。力仕事とかそういった類の雑用を、特例として物に触れるようになった試験召喚獣でこなすといった具合だ」

本来は試験召喚獣は物に触ることができない。彼らが触れることができるのは他の召喚獣だけ。要するに幽霊みたいなものだ。もっとも、学校内の床には特殊な処理が施してあるらしいから、立つことだけはできるみたいだけど。ただ、明久の召喚獣が特殊なだけだ。

「そうなんですか?それって凄いですね。試験召喚獣って見た目と違って力持ちって聞きましたから、そんなことができるなら便利ですよね」

姫路の目がキラキラと輝いている。なぜ明久に羨望と尊敬の眼差しを向けるのだろうか?教師にこき使われる、都合のいい存在だけだというのに。

「あはは。そんな大したものじゃないよ」

「大したことないどころか、それはむしろ足かせになるかもな」

何故かというと、まず召喚獣は教師の監視下でしか呼び出せない。なので教師の承認が必要で、当然私的な利用が許されるはずもない。なので彼に何のメリットはない。さらに、明久は試験召喚獣に負担が自身に何故フィードバックする使用なのだ。例えば、召喚獣に重い物を持たせ走りまわすと、その分の疲労の何割かがフィードバックする。これは彼に与えられた賞ではなく罰だ。当たり前だが、生徒の都合のいいように作られているわけがない。

「雪耶!?なんで本当のことを言っちゃうの!」 

『おいおい。<<観察処分者>>ってことは、試召戦争で召喚獣がやられると本人も苦しいってことだろ?』

『だよな。それならおいそれと召喚できないヤツが一人いるってことになるよな』

「気にするな。どうせ、いてもいなくても同じような雑魚だ」

「雄二、そこは僕をフォローする台詞を言うべきところだよね?」

「とにかくだ。俺達の力の証明として、まずはDクラスを征服してみようと思う」

「うわ、すっごい大胆に無視された!」

「皆、この境遇は大いに不満だろう?」

『当然だ!!』

「ならば全員筆を執れ!出陣の準備だ!」

『おお――っ!!』

「俺たちに必要なのは卓袱台ではない!Aクラスのシステムデスクだ!」

『うおお――っ!!』

「お、おー・・・・・・」

バラバラで無気力そうなFクラスの奴らをここまで乗せることができるのは、雄二の才能だ。

何故、かつて神童と呼ばれていた男が、学力だけが全てじゃないことの証明をしたいのかはわからないが、なかなかに捻くれていて面白そうだ。システムデスクは手に入るか分からないが、授業は試召戦争で確実に潰れるのだ。丁度いい暇つぶしにはなるだろう。

「明久にはDクラスへの宣戦布告の使者になってもらう。無事大役を果たせ!」

雄二がどさくさに紛れ明久に大役を押し付けた。使者とは宣戦布告をする役目で基本酷い目に合うのだ。

「・・・・・・下位勢力の宣戦布告の使者ってたいてい酷い目に遭うよね?」

「大丈夫だ。やつらがお前に危害を加えることはない。だまされたと思って行ってみろ」

「本当に?」

「もちろんだ。俺を誰だと思っている」

「大丈夫、俺を信じろ。俺は友達を騙すような真似はしない」

「わかったよ。それなら使者は僕がやる」

「ああ、頼んだぞ」

明久は雄二の説得に応じ、使者の役割を果たしにDクラスへ行った。明久よ、そこでお前はもっと疑わないからバカなんだぞ。

 

 

 

 

続く


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