力を求めて   作:セッカ

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第一話

地獄を見た。

 

野次馬共が騒ぎ出し、辺り一帯に耳を塞ぎたくなる程の狂騒に包まれる。

普通の日常では殆ど見ることの無いであろう場面を見て、悲鳴を上げ、助けを呼び、逃げ惑う者もいた。

 

そんな中、スバルは目の前のそれを、ただ見つめていた。

 

車体に滴り流れて道路に拡がる血、ばちばちと音を立てながら燃え上がる炎。

スバルの視界は、赤で塗りつぶされていた。

 

何も出来なかった……。

 

()()()がこういった行為を躊躇いなくするという事は知っていた筈だった。

父が()()()()の手助けをしていたのだ、こうなる事は容易に想像出来た筈だった……が、結果はこの様だ。

 

何も出来なかった自分への怒りと、あの時対策さえしていればという後悔で思考が塗り潰されていく。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」

 

嘆く事しか出来ない負け犬の慟哭が辺りに響く。

与えられた力も磨きあげた必殺技も、理不尽の前には何処までも無力だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…くん……スバルくんッ!!」

「……んぁ…」

 

聞き慣れた幼馴染みの声で目を覚ます。

机に突っ伏していた身体を起こすと、幼馴染みの女の子、小野冬香が若干頬を膨らませながら、此方を睨んでいた。

その手にはナフキンに包まれた弁当箱を持っている。

 

「…今、何時だ?」

「12時半、もうとっくに授業終わったよ。一限目からずっと眠ってたでしょ?」

「……そんなに寝るつもりは無かったんだが…起こしてくれてありがとな、冬香」

 

冬香は小学校からの幼馴染みで、スバルが心を許せる数少ない友人だ。

明るい性格だった昔と性格が随分と変わっていて、清楚な女の子という評価を受けている冬香は周りからの人気も高い。

その為、こうして一緒に昼食を食べていたりすると周りから変なやっかみを受けることが多く、今も周りの男連中から睨まれているのだが、久々に夢で見てしまった昔の事で気が滅入っていたスバルにとって、そんなモノは些細な事でしか無かった。

 

「そもそも、授業中に寝るって言うのが可笑しいの」

「いや、まぁそうだよな…ごめん」

「ホントにもう…午後はちゃんと授業受けないとダメだよ?」

 

素直に謝ると、お説教はすぐに終わった。

冬香は、隣に座っていた女子に一言断ってから、その女子の机を借りてスバルの机にくっ付ける。

広くなったスペースに自分の弁当箱を広げると、スバルにも早く弁当箱を出すようにと施した。

 

「……相変わらず綺麗だね、スバルくんのお弁当」

「まぁ、昔から作ってるからな。慣れだ」

「なんか女の子としては複雑なんだけど…いつもスバルくんのお弁当を食べられる久遠先生が羨ましいな」

 

スバルの父である久遠道也はこの学校、『蓋世学園』の教師を務めている。

学校内では必要以上に関わったりしない為、道也とスバルが親子関係にあると言うことは余り知られていないのだが、幼馴染みである冬香は当然知っていた。

 

「そんなに食べたいならお一つどうぞ」

「え……ッ!?」

 

父の事を羨んでいたようなので、何か食べさせてあげようと適当な具材を自分の箸で掴む。

一口サイズに切り分けられた卵焼きを差し出すと、冬香は困惑したような声を上げて顔を赤くした。

 

「えっ!?あ、あの私、そんなつもりじゃなくて……」

「卵焼き1つぐらい無くなってもどうって事ない」

 

「だから遠慮するな」と続けると、冬香は迷ってはいたが最終的にはゆっくりと顔を近づけて、スバルの箸で摘まれた卵焼きを頬張った。

 

俗にいう、『あーん』という奴だった。

 

相手に自分が使っていた箸などで食べ物を食べさせる事によって、相手に食べさせるという本来の目的と同時に、間接キッスまでする事が出来るという、付き合っているラブラブカップルなどが使う高等テクだ。

 

スバルも普段は周りの目など気にしてこういった行為はあまりしないのだが、悪夢を見たせいで精神的に弱っていた事で注意力が落ち、無意識にしてこういった行為をしてしまった。

そのせいで、周りの女子からは黄色い奇声、男子からはスバルに対する怨さの声が上がっていた。

 

「………美味しいです」

「なら良かった。他にも欲しいものがあったらいってくれ」

「も、もう大丈夫…ほら!私、自分のお弁当もあるから…ッ!そ、それよりもーー」

 

と冬香が弁当の事から話を切り替えた。

それからはもう間も無く始まる夏休みの事や、身近にあったことなんかの何気ない話が続いていく。

途中、「あっ」と何か思い出したような声を上げ、制服のポケットから1枚の写真を取り出した。

 

「これ、昨日マモルくんの家から送られてきたの」

「これは……」

 

差し出された写真には見覚えのある人物が写っていた。

 

「凄かったよね、マモルくん達…」

「…あぁ」

 

そこにはスバルのもう1人の幼馴染み、円堂守が仲間達と共にトロフィーを掲げて写っていた。

 

『フットボールフロンティア』

 

中学サッカーの日本一を決める大会で、昨日はその大会の決勝戦である『雷門中』VS『世宇子中』との戦いが行われていたのだが、円堂率いる雷門イレブンは見事その試合に勝利して日本一になった。

この写真はその時のモノで、言わば勝利報告みたいなモノなのだろう。

 

(あのサッカーバカは相変わらずだったな……)

 

試合から既に3日程たっているが、あの時の戦力の差異は絶望的で、今思い返して見ても円堂達に勝ち目は無かった。

打ちのめされて円堂とその仲間達が傷つく様は酷いモノで、実際テレビ中継でその試合を見ていた冬香も見ていられず、目を逸らす程だった

 

『まだ、終わってねぇぞ……ッ!!』

 

そんな状況でも円堂は新しい必殺技である『マジン・ザ・ハンド』を完成させ、勝利を収める事が出来た。

明らかな戦力差の中、最後まで諦めなかったからこそ勝利を掴む事が出来たのだろう。

あれ程、心を踊らせ胸を熱くさせた試合は見た事が無かった。

 

(あの事故が無ければ、俺もあの舞台に立てたのだろうか…)

 

「スバルくん…?」

「…ッ!?いや、何でもない……」

 

突然、黙り込んだスバルを心配した冬香に声をかけられて意識を取り戻す。

 

(何を考えてるんだ…俺はッ!!)

 

それまで考えていたバカな考えを振り払う。

チームメイトとして円堂に隣に立っている自分を想像したが、それはIFの話で天地がひっくり返えっても有り得ない事だった。

 

何故なら、あの日の事故が原因で、久遠スバルはサッカーを辞めたのだから…

 

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