是非ともお付き合い頂ければ幸いです。
唐突だが、諸君は『強さ』とはどういう物か考えた事はあるだろうか。
力があれば強いのか?競争相手に負けなければ強いのだろうか?あるいは人を殺せれば強いのか?殺されなければ強いのか?
先に生きた者たちの中には、または今を生きる者たちの中にも、こう言う者はいるだろう。強さとは優しさであると。他者に優しくできる心こそ真なる強さだと。
これは、私が突撃ヒーロー『アタッカー』として諸君に認知されるまでの物語であり、同時に。冒頭の問いに対する私なりの答えを、その根拠の原点まで振り返りながら綴ったものだ。
♢ ♢ ♢
これは春のある日の事。
「事の始まりは中国軽慶市。発光する赤子が生まれたというニュースが最初だ。それ以来生まれたばかりの子供に特異な体質が宿るという現象が、世界的に見られるようになった。原因は未だ判然としないが、悪しき野心家に超常的な力が備わるというのは願ってもない好都合。この力を犯罪行為に使う者は
この世界に生きる人たちなら誰もが知っている、『個性』の歴史。そう、今この地球に生きる全人口の内実に約8割が『個性』と呼ばれる何らかの特異体質を持っている。
こんな話、もうすぐ進路を決めて自分の将来を本格的に考えなければならない中学三年生の私たちにとっては、常識中の常識だ。だと言うのに、今年の担任の先生はご丁寧に改めて解説し直した。
「個性には殺傷力の高いものや破壊力の高いもの、日常生活を送る上で枷となるもの、本当に様々なものがある。みんなの進路希望は大体ヒーロー志望だろうが、今一度冷静に己の個性と向き合い、己の過去と向き合い、己の今と向き合って真剣に考えるように。進路希望票は今週中に提出する事。以上だ。一限準備」
先生の無駄に長いお説教じみた話がようやく終わると、生徒一同はそれぞれに今日の授業の準備を始めた。
一時間目は数学。私にとっては好きな教科だし担当もあの担任の先生ではないため、中学三年生の授業一発目としては最高だ。
教科書とノートを開いて机に置いた私は、今日ばかりは予習もそこそこに自分の進路を考えていた。
「よっ、フー子。調子どう?」
「ひかりん!私は今日も元気だよ!」
私に声をかけてきたのは幼馴染みの
見た目じゃ分かりにくいけどひかりん——私は光ちゃんをそう呼んでる——にも個性はある。さっき先生が言ってた通り個性の内容は多岐に渡るけど、その特異性が見た目に分かりやすく現れるものは少なくない。私やひかりんは見た目じゃわかりにくい個性だ。
……厳密に言えば、ひかりんの場合は意図的に分かりにくくしてるんだけどね。何もしないでいると日常生活に支障をきたすから。
「おー、そりゃ良かった。でさ、本題なんだけど」
「うん?」
「フー子、進路はもう決めた?」
「ああ、その話。うん、もちろん!ずっと決めてた事だもん」
私は自慢の短いおさげを振って自分の進路希望票に目線を向けた。そこにはまだ
「ヒーロー科!私はヒーローになるために、そこで勉強するんだ!」
「だと思った」
「ひかりんは?」
「あたしもヒーロー科」
「だと思った」
お互いの考えがお互いに分かっていて、私たちは小声で笑い合った。
「学校は?どこ受けるの?」
「ふっふっふ。それはねー…」
ひかりんに聞かれて、私はさらさらとボールペンを走らせる。進路希望票、その第一志望の学校名に、あの高校の名前を。
「雄英高校!だよ!!」
「雄…英…!?本当に!?」
「本当も本当、超本当!さすがにビックリした?」
「うん、ビックリしたよ!だって——」
ひかりんのこんな顔を見れるなんて珍しい。でも無理もないよね。
何しろ雄英は学業面だけで言っても日本最高峰。噂じゃ今年の偏差値は79にもなるらしいけど、ヒーロー科は特にすごい。倍率も300倍を越えるけど、全国のヒーロー科の中でもトップクラスと言われる所以はそこじゃないんだ。
「——だって、私も雄英志望だから」
「へ…?」
「ほれ」
ひかりんはずっと後ろで組んでいた手を解いて、一枚の紙を見せてきた。進路希望票だ。
その第一志望の枠には間違いなく雄英高校ヒーロー科と書かれている。
「えええええ〜〜〜〜!?!?」
「あっはははは!!」
今回こそはひかりんの先を越せたと思ったんだけどなあ…。
「あたしはそう簡単に負けないよ、フー子」
「むう…。こ、今回は引き分け…かな」
昔からいつもこうだ。ひかりんはいつだって私の先を行く。
個性の発現時期からそうだ。
そもそも個性の発現は生まれてから4歳までの間、個人差はあるけどこの範囲内で起こる。生まれた瞬間から個性が発現している子もいれば4歳の誕生日に突然発現する子もいる。
ひかりんは前者で、私は後者。心のどこかで諦めかけていた頃に個性を得た私は、それまで他の暴れ盛りな男子たちから守ってくれてたひかりんの背中を追いかけるようになった。
「違うよ、フー子」
「え、何が?」
「雄英ヒーロー科の実技入試、合否を判定する以上は絶対に成績が出るでしょ」
「…あー。なるほど」
「負けないよ、フー子」
「………うん、私だって!」
そう、私はいつも背中を追いかけてばかり。事あるごとに勝ちとか引き分けとか冗談めかして言う事はあるけど、ひかりんの余裕ある大人っぽい態度を見ていると、一々そんな事を気にしている私がずっと負けているような気になってしまう。
「あ、でも私の方が先に気付いてたって事は、その分加点して今回はやっぱり私の勝ちかもね」
「そんなのアリ!?」
「あり、あり!今日早速出して来ようかなー」
「〜〜!次は負けないからね!!」
だからこそ、ひかりん。私だっていつまでも負けっぱなしでいるつもりはないんだよ。
「………………」
「あ、もう授業始まるね。んじゃフー子!また後で!」
「……あ、うん!」
昔を思い出してたらボーッとしてたみたい。
この際徹底的に私の原点を思い出そうかな。
二人とも苗字に『野』が入ってるね、なんて、幼稚園児同士が仲良く話し始めるキッカケには十分だった。もちろん当時の私たちに漢字は読めなかったけど、そんなの些細な問題。
初めて会った時のひかりんは、とっても輝いていて綺麗だった。
「あたし、ちょうの ひかり!よろしくー!」
「まっ、まぶしい…!」
そう、物理的に光っていた。
調野 光。個性『調光』。
常に全身から発光している。ひかりんはその自分から出ている光に限り、可視光線の範囲内で自由自在に操れる。色、明るさ、指向性や形、熱までも操れる個性。
と言っても、この頃のひかりんはまだ操れる幅が狭かったんだけどね。後から聞けばこの頃も頑張って抑えようとしてたらしいけど、正直全然そんな風には見えなかった。今がすごすぎるっていうのもあると思うけど。
「なーおい!きょうもみんなでヒーローごっこしようぜ!」
この日もクラスで人一倍元気な男子が声をあげた。ヒーローごっこはヒーローに憧れる子供がその真似事をする遊び。所詮幼稚園児の
私はみんなの輪から少し離れた所で、いつも様子を見てばかりだった。数分間そうしていると、隣にひかりんが来るのもいつしか当たり前になっていた。
そういえば、初めてひかりんが私の隣に来た時には、朝お話していたから既に仲良くなってたっけ。
「ふうこちゃんは、みてるだけ?」
「うん…。わたし、まだ個性ないから…」
個性が出てる子供たちはみんなで戯れあってヒーローごっこ。私は隅っこで膝を抱えて座り、それをただ見ているだけだった。
ひかりんも最初は戯れあいの輪に入っていたけど、この日は気まぐれなのか何なのか、私の隣で同じように腰を下ろした。
「ね、みてるだけって、たのしい?」
「…た、たのしいよ?みんな、個性すごいし……」
「ふーん…。 ……じゃ、きょうは、あたしもいっしょにみてる」
「え…?」
「ダメ?」
「う、ううん。ぜんぜん、ダメじゃないけど……いいの?」
楽しいはずがない。本当はみんながもう個性を持っているのが羨ましくて、自分もその輪に入りたくて仕方なかった。でも私には個性がないから……他にできる事もやりたい事もないから、しょうがなく見ているだけだったんだ。
何より、見ているだけで楽しいなら、ひかりんが私の隣に座る必要なんてなかったんだ。
「たのしいことは、ひとりでするよりもさ。だれかといっしょに、のほうが、もっとたのしいでしょ?」
「………うん」
だけどこの日は、ひかりんのおかげですごく楽しい時間になった。いつも一人でみんなの個性を羨むだけ——妬み、僻むだけだった時間が、ひかりんと一緒にみんなの個性を観察する時間に変わったから。
「ふうこちゃんは、しょうらいのユメとかって、あるの?」
「ユメ……いまは、ないけど…」
「じゃあ、好きなヒーローは?」
「ヒーロー……『かまイタチ』って、しってる?わたし、好きなんだけど…」
「かまイタチ…ごめんね。あたし、そのヒーローはしらないや。でもふうこちゃんが好きってことは、きっとステキなヒーローなんだろうなあ!」
「うん………うん、すごいんだよ!」
だってそのヒーローは、お母さんなんだから!
って、この時続けられれば良かったんだけど。個性が出てない事で気弱だった当時の私に、そんな自慢を言える勇気はなかった。それにお母さんはこの約4年後——今から6年前に、プロヒーローを引退している。それでも、私の一番の憧れである事は変わらないけどね。
「ひかりちゃんは、あるの?しょうらいのユメ」
「あるよ。あたしのユメは——」
びゅう、と。
その時吹いた突風に身を縮ませ、私はひかりんの言葉を聞き逃してしまった。すかさずひかりんは私の方に手を伸ばす。
「ふうこちゃん、もっとこっちにきて」
「え?う、うん……わっ」
言われるがままひかりんに近付くと、彼女はその左腕を私の右肩まで回した。そして纏う『光』が少しだけ明るくなる。
「…あったかい」
「でしょ?これ、あたしの個性。じぶんからでてる『光』だけ、好きなようにあやつれるんだ。あかるさ、かたち、いろ…あと、おんど!」
幼稚園児の語彙や知識量では説明できない部分だけど、ここで言う温度は色温度とは別物だ。
蛍光灯や豆電球、太陽なんかを見れば分かる通り、光を発するものは必ず熱を伴う。ひかりんはその熱さえ操る事ができ、何なら光そのものに熱を与える事もできてしまう。
まだ肌寒さの残る春風を浴びて縮こまる私を、この力で暖めてくれたというわけだ。
「さっき、きこえなかったよね?あたしのユメ」
「あ、うん…」
「あたしのユメはね、ヒーローになること。この光で、せかいじゅうをあかるくてらして。かげでふるえてる子には、こうやってよりそって、あったかくしてあげる。そんなヒーローに、あたしはなりたいんだ」
「すごい、すごいよひかりちゃん!きっとなれるよ、ひかりちゃんなら!」
だってこの時のひかりんは、私にとっては紛れもなくヒーローそのものだったんだから。
「ありがと、ふうこちゃん」
それからしばらくの間は、みんなのヒーローごっこをひかりんと二人で見る日々が続いた。でもそれは、それまでの幼稚園生活や近所の子供たちが遊んでいるのを見ていた日とは違って、すっごく楽しいものだった。
まだ4歳の誕生日まで時間はあるけど、中には誕生日が来ても個性が出ない子だっていて、私も心のどこかで諦めかけて。そんな暗い気持ちも確かにあったけど、ひかりんはいつも私の隣で明るく照らしてくれていた。
そんなある日の出来事だ。
この日はとうとう個性が出ないまま迎えた私の誕生日。直前の夜は9割の諦観と1割の期待であまり寝付けず、平日だというのについ朝寝坊してしまった。
「風子ー!急ぎなさい!もうバス来ちゃうわよー!」
「う、うん!いまいくー!」
慌てて支度を済ませて家を飛び出す。いつも時間には余裕を持つよう教えられてきた私にとって、遅刻は重罪だと刷り込まれていたから。
けれどドアを開けて玄関を飛び出した瞬間、すぐに何かが違うと気付いた。いや、その違いによる影響を受けた後だからこそ、気付けたと言うべきかもしれない。だって——
「あいたぁっ!?」
いくら慌てていたからって、普通自分の家のブロック塀に頭から突撃する事はないだろうから。
百歩譲って焦っているが故に目測を見誤ったとしても、その直後。
「〜っぅ!?」
声にならない悲鳴をあげて庭の木に頭をぶつけるなんて普通じゃない。間に家の門があるんだから、そこから出れば良いだけなのに。
「お、おかぁさ〜ん…!」
「どうしたの風子!?さっきからすごい音がはぁっ!?」
半泣きでお母さんに助けを求め家の中へ駆け出せば、ちょうど様子を見に玄関から出てきたお母さんに正面から激突。どう考えても普通じゃない。
でもプロヒーローとして活動しているお母さんの腹筋は固く、またもや頭をぶつけた私はそのまま跳ね返って後頭部から地面に倒れ込んだ。そのまま私は気を失ったらしく、その日の記憶はしばらくない。
次に目を覚ました時、私は病院にいた。
「先生、この子は…」
「大丈夫、ただの軽い脳震盪です。連続で頭をぶつけたせいで脳が揺れ、気絶してしまったようですな。幸い軽傷ですし後遺症も勿論ない。今日発現したばかりの個性に振り回されただけと考えれば、むしろ喜ばしいくらいでしょう」
後から聞けばお母さんとお医者さんの間でこんな会話が交わされていたらしい。
「じゃあ、あの高速移動みたいなのが」
「ええ、娘さんの……風子さんの個性でしょう。失礼、ご両親の個性は?」
「はい、私のは気体を含む周囲の物体を飛ばすもので、夫は手で触れている壁や地面を隆起させます」
「ふむ……」
そうして専門家の分析と実験、そして私が自分の興味による実践を重ねた結果、私にもちゃんと個性が発現した事が確定した。便利だけどかなり攻撃的、それでいて気弱だった私の性格さえ今のようなものに変えてしまえるほど、ヒーロー向きな個性が。
そして、ここから始まったんだ。いつも隣にいてくれたひかりんの、背中を追いかける日々が。
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原作の設定と異なる部分については、大半がこの風子たちの世界だからという理由で片付きます。なお作者はアニメしか見ていないので、時々本当に作者の勘違いや知識不足な面があるかもしれません。違和感をおぼえる箇所がありましたら遠慮無くご指摘ください。