『強いヒーロー』を目指す私の奮闘紀   作:御鍵

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三話です。
次回更新は少し日が空きます。


・ここが私のヒーローアカデミア!

「……………!」

 

 入学試験から数日が過ぎた。

 あれからしばらくの間夢から覚めたばかりのような脱力感というか浮遊感というかに苛まれながら生活していた。それでもトレーニングは欠かさなかったし、試験の自己採点や復習、そして実技試験で改めて見えた自分の個性の限界を超えられるよう、私なりに努力はしていたけど……この数日間にはどうも現実味がなかった。これが燃え尽き症候群なのかな。

 

「雄…英…!」

 

 でも今はそんなたるみきった感情は消え失せ、それどころかこの上ない緊張感に包まれている。下手したらこの緊張は入試当日以上だ。

 何故なら、私が今座っている自分の部屋の机の上には、雄英から届けられた封筒が乗っているからだ。ここにあるのは間違いなく合否通知。あの日出し切った自分の全てを信じてなお、このプレッシャーに打ち勝つのは困難だった。

 

「……いつまでもこうしてたって始まらない!それ!」

 

 私は思い切って封を開けた。中から出てきたのは小さな円形の機械一個。中央にボタンのようなものも見える。

 

「…へ?何これ?」

 

 よく分からないまま私はとりあえずボタンを押してみた。すると機械からホログラム映像のようなものが映し出され——

 

『私が投影された!』

 

 ——との事です。

 驚きすぎると言葉が出ないって本当なんだね。

 何しろ投影された映像に映っているのは、アメコミ画風の筋骨隆々なおじさん。彫りの深い顔に安心感のある笑顔を浮かべ白い歯を見せている。

 この国この時代に生きる者なら知らない人はいないほどの有名人。そしてヒーローを目指す子供の多くが憧れる存在であり、同時に圧倒的な強さを誇る敵への抑止力的存在。

 No. 1ヒーロー『オールマイト』その人が雄英からの合否通知に映っているのだ。

 

「…あれ?でも雄英ってオールマイトの母校ってだけだよね?教師でもないオールマイトがどうして雄英の合否通知に?」

『うーん、驚いているね!実は今度の春から私も雄英に教師として勤める事になってね。せっかくだから今年の入試結果は私から通知する事になったのさ!』

「…すごい!」

 

 二つの意味ですごい!一つはもちろんオールマイトが雄英で先生になるって事なんだけど、もう一つは私が疑問を持ったタイミングぴったりで答えを返してくれた事!

 No. 1ヒーローは子供のビックリ具合くらいお見通しなのかな。

 

『さて気になる試験結果だが……まずは筆記!こちらは惜しくも満点を逃したが、余裕で合格圏内!むしろ受験者全体の中でもトップレベルさ!』

「惜しくも、なんてのを先に言わないでよ!一瞬ヒヤッとしちゃった!」

 

 自己採点では余裕で合格ライン乗ってたから本当に焦った。

 

『そして実技試験だが、これも非常に優秀な結果だ!君が仮想敵を倒し獲得したポイントは42P!』

「42P…終盤動けなかったしこんなもんか…」

 

 って、うん?今、ちょっと引っかかる言い方だったような…。

 

But(しかし)!それだけではない。君の成績を優秀と評したのは、試験中にもかかわらず君がヒーローとしてあるべき姿を見失わなかったからだ!』

「あるべき……姿?」

『今回の試験!我々が見ていたのは敵Pのみにあらず!ヒーロー本来の姿、すなわち他が為に己を犠牲にできるかどうか!』

 

 ここでオールマイトは数拍間を置き、私を焦らしに来た。本当に、にくいまでにエンターテイナーだ。

 

救助(レスキュー)ポイント!!しかも審査制!君は他の受験生を危機から救うべく、それをしなければ稼げたであろう己のポイントを犠牲にしてでも0P敵を止めに動いた!よって君に与えられた救助ポイントは、34P!敵ポイントと合わせて実技総合成績は76P!!こちらもまたトップクラスだ!』

「お、おおお…!!」

 

 ご丁寧に、オールマイトの背後にあるモニターではちょうど私が響香ちゃんを0P敵から守るシーンが再生されている。演習場内に撮影用のカメラなんて見当たらなかったのに、こんな映像どうやって撮ったんだろう。

 

『君なら分かるだろう?正しい事(人助け)した人間を排斥するようなヒーロー科など、あってたまるかよっていう話は!ヒーローは命を賭して綺麗事を実践するお仕事なのだから!』

 

 なんかもう、感無量だ。

 伝説のNo. 1ヒーロー、存在そのものが犯罪への抑止力、平和の象徴とまで謳われているオールマイトに、ここまで言ってもらえるなんて!

 

『来いよ、隆野少女!ここが君の——ヒーローアカデミアだ!!』

 

 映像はそこで終わっていた。

 合格した…。私はあの雄英高校ヒーロー科に、合格したんだ!

 

「〜〜〜〜やっっっっっっっったあああああああ!!!!」

 

 両手を高く揚げて万歳のポーズになり、それでも足りなくて椅子から立ち上がり爪先立ちになって、でもまだ足りなくて飛び跳ねながら合格を喜んだ。最高のヒーローを目指すなら、雄英合格は絶対条件とまで言われてるんだ。

 嬉しくないはずがない。明確に夢へ、憧れへ、目標へ近付いているという一つの指標なのだから。

 

 さあ、そうとなれば忙しくなるぞ。

 入学準備を進めなきゃいけないし諸々の手続きもある。勉強だっていくらしてもし足りないくらいだし、0P敵一体を無力化してバテるくらいなんだからもっともっと体力強化も必要だ。

 翌朝にはひかりんも無事雄英に合格した事を知り、入学までの一ヶ月間は二人で準備をしたり勉強したり修行したり特訓したりで、もの凄い勢いで過ぎ去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして迎えた入学初日の朝。

 真新しい灰色のブレザーと深緑のプリーツスカートに身を包み、私とひかりんは再び雄英の門を一緒に潜った。今度は受験生ではなく、生徒として。

 

「合格通知、っていうか宣言をもらった時も思ったけど…感無量だね。ここが、私のヒーローアカデミア!」

「だね。あたしもドキドキしちゃった。でも今は、ワクワクしてるよ」

「早く教室行こう!ひかりんもA組でしょ?」

「うん。フー子から聞いた時驚いちゃった。こんなに良い事続きで良いのかなってさ」

「良いに決まってるよ!」

 

 だって、今まで積み重ねてきた努力がそれだけ報われているって事なんだから。とは、照れくさいから言わなかったけど。

 雄英は国立の名門校というだけあって、学内のあらゆるもののスケールが大きかった。設備一つひとつもすごくキレイだし、廊下も広いし、あとは…。

 

「ドアでか!」

「バリアフリー、なのかな?」

 

 ひかりんと私で顔を見合わせるくらいには教室のドアも大きかった。まあ、異常に身長というか体格が大きくなっちゃうような個性もあるし、そういう人への配慮かも?

 教室の中はまだ人影がまばらで、私たちは少し早すぎる登校だったと悟った。でも既に登校している人の中には私の知ってる顔もあって。

 

「響香ちゃん!」

「…あ、風子!合格(ウカ)ったんだ!よかった」

「とーぜん!これからよろしくね!」

「うん、よろしく!えっと、隣の人は?」

 

 耳からプラグの人こと耳郎 響香ちゃんも無事合格していたようで、私のテンションはうなぎ登りだ。でもひかりんが話に置いてかれてたり響香ちゃんがひかりんを見て紹介を求めてたりするので、私も一旦落ち着いて響香ちゃんに幼馴染みを紹介する。

 

「この子は私の幼馴染みの調野 光ちゃん!ひかりん、この人は耳郎 響香ちゃん。実技入試の時に会って、あの0P敵からお互いを助け合ったんだよ」

「そうだったんだ。響香って言ったっけ?改めて、あたしは光。フー子を助けてくれてありがとね」

「いやいや、全然そんな。あの時はむしろウチが助けられてばっかりだったよ。光、ウチからも改めて。耳郎 響香、よろしく」

 

 友達と幼馴染みが親睦を深めているのって、なんかすっごく良い。

 けどお(はなし)している間に他の生徒たちも続々登校してきて、いつまでも教室の真ん中に突っ立っている訳にもいかない事を察した。というわけで私たちは一旦自分の席に荷物を置いて座り、担任の先生が来るのを待つことにする。

 五十音順で決められらた座席順では、私とひかりんが前後になる事も珍しくない。今回もそうでちょっと安心した。

 

「高校生活、どんな感じになるのかな」

「楽しみだね、フー子」

 

 なんて他愛もない話をしていると、突然私の隣の席辺りが騒々しくなった。

 

「机に足をかけるな!雄英の諸先輩方や机の製作者に申し訳ないと思わないのか!」

「あぁ?思わねーよ!!テメーどこ中だよ端役がァ!!」

 

 片方は実技試験の説明会場にて、キツイ言葉で質問していた眼鏡の男子だ。もう片方は…初めて見たけど、爆発したようなっていうか爆発そのものっていうか、ツンツン頭の金髪男子だ。その金色もマイクさんのとは違ってくすんだ感じなんだけど。

 

「ぼ…俺は聡明中学出身、飯田(いいだ) 天哉(てんや)だ」

「聡明ィ?クソエリートじゃねーか!ブッ殺し甲斐がありそうだなあ!」

 

 爆発金髪の方はいかにも不良っぽい振る舞いだ。どうしよう、私こういう感じの人を見ると「実は動物好きで、捨て猫とか見つけたら素直になれないながらも餌あげたり人目につきやすい所へさりげなく移動させたりしてるんじゃないかな」って妄想が膨らんじゃうタイプなんだよね。

 一方飯田くんみたいな超真面目系はなんだか怖いイメージがあってちょっと苦手。……って私は何失礼な事考えてるんだ。人となりなんてちゃんと話してみないとわかんないのに。

 

「フー子?どうかした?」

「なんでもない…」

 

 反省のつもりで頭を振っていたらひかりんに心配された。

 そんな茶番をしている内に教室の前方が少し騒がしくなっており、私は他のみんなよりワンテンポ遅れてそっちを見た。

 

「はい、君たちが静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

 そこには縮れ毛男子や飯田くん、あとショートボブの女子の他にもう一人、寝袋から現れたやたらくたびれた様子の男性が立っていた。言ってる事は小言多めの先生がよく使うお決まりの言い回しなのに、彼の場合気怠げにそれを言うものだから余計に不審者感がある。

 

「担任の相澤(あいざわ) 消太(しょうた)だ。よろしくね」

 

 まさかの担任。言っちゃ悪いけどあんな小汚いヒーローもいるんだなあ。

 

「早速だが体操服(コレ)着てグラウンド出ろ」

 

 …はい?

 

 

 

 相澤先生に言われるがまま雄英指定の体操服に着替えてグラウンドに集合する一年A組生徒一同。体育館ではそろそろ入学式が始まる時間だろうに、どうして私たちはここにいるんだろうか。

 その答えはすぐ相澤先生から聞けた。

 

「これより、個性把握テストを行う」

 

 個性把握…テスト?

 

「入学式は?ガイダンスは!?」

「ヒーローになるんなら、そんな悠長な行事出てる時間ないよ」

 

 ショートボブの女子がすかさず抗議するも、相澤先生はこれをばっさり切り捨てた。

 いや、私も納得いかない。悠長って、いくらなんでも入学式すっぽかすのはまずいんじゃ…。

 

「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは、先生側もまた然り」

 

 相澤先生は一貫して気怠げな態度を崩さずにいる。ある意味冷静とも言えるし、取り付く島もないとも言える。

 そして彼は私たちに、手にした端末の画面を見せてきた。

 

「君らも中学の頃からやってるだろ?個性禁止の体力テスト。国は未だ画一的な記録を取り平均を作り続けている。ま、文部科学省の怠慢だな」

 

 どうやら個性把握テストとは、中学生の頃まで個性の使用禁止でやってきた体力テストを、その制限なしで実施するものらしい。

 より具体的なデモンストレーションのためか、相澤先生は実技入試一位の生徒を目で探し名を呼んだ。

 

「爆豪、中学の時ソフトボール投げ何mだった?」

「67m」

 

 あ、爆豪くんって言うのね。あの不良っぽい爆発金髪の(キミ)

 

「じゃ個性使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。はよ。思いっきりな」

 

 相澤先生に促され、爆豪くんはソフトボールを持って円の中へ進み出た。さすがの彼も一瞬だけ思考の時間を取ってから、思い切り振りかぶる。

 

「死ねェ!!」

 

 そしてヒーローらしからぬ掛け声でボールをぶん投げた。

 掛け声もそうだけど爆豪くん、ボールを押し出す瞬間に派手な爆発を掌から起こしたね…。あの髪型はネタじゃなくて個性由来のものだったんだ。

 さて、気になる記録は?

 

「705.2m」

 

 700m超え!?なるほど、個性を使っていいってこう言う感じなんだ。

 

「まず己の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

「何コレ!?おもしろそう!」

「個性思いっきり使えんだ!さすがヒーロー科!」

 

 体力テストでは初めて見る大記録にクラスみんなが沸き立つ中、ある単語を耳にした相澤先生は疲れたような顔から一気に不機嫌そうな顔になった。

 

「おもしろそう、ね…」

 

 決して大きい声じゃない。

 それでも、纏う雰囲気の冷たさだけで、クラス全員の注目を集めるには十分だった。

 

「ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごすのかい?…よし、じゃあ8種目トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」

「はあああああ!?」

「生徒の如何は先生の自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」

 

 そして無慈悲な宣言が下される。

 ちょっと待ってよ、体力テストの成績最下位を除籍って…!ひかりんや響香ちゃんの個性は体力テストじゃ活かしにくいんじゃ…。個性次第でこんなに有利不利がハッキリつくのに理不尽すぎるよ!

 

「除籍って…入学初日ですよ!?いや、初日じゃなくても理不尽すぎる!」

 

 あ、ショートボブの人と感想が被った。やっぱりみんなそう思うよね。

 

「自然災害、大事故、身勝手な敵たち、そしていつどこから来るかわからない厄災——日本は理不尽に溢れている。そういうピンチを覆していくのがヒーロー」

 

 それでも相澤先生は動じないどころか、語気を強めて言い放った。

 でも、先生の言う通りかも。ここで萎縮して動けなくなるようなら、そもそもヒーローの器じゃないって事なのかな。

 

「放課後マックで談笑したかったならお生憎。雄英はこれから三年間、全力で君たちに苦難を与え続けるだろう。『更に向こうへ Plus Ultra』さ。全力で乗り越えて来い」

 

 この演説で生徒一同は俄然本気になった。もちろん私だって焚き付けられた一人。

 でもそれとは別に、ひかりんの事がどうしても不安でチラッと顔を見てみた。

 

「ん、どーした?フー子」

「ひかりん…」

 

 ひかりんは私が心配してる事も分かってたのかな。本当に一瞬チラッと見ただけなのに、バッチリ目が合った。

 

「ははぁ、さてはあたしの事を心配してるな?」

「ど、どうして…!?あ、いや……バレてた?」

「バレバレだよ。でも大丈夫!体力テスト向きじゃない個性の子なんてあたし以外にもいるんだから、あたしは地力でそれを超えればいいだけじゃん?」

「そうだけど…」

 

 ひかりんの自信に満ちた言葉を聞いてもまだ不安を拭きれなかったけど、正面からひかりんの顔を見ると私の中に蔓延るそんな不安も消え失せた。

 本気だ。ひかりんは本気で、身体能力だけで勝負する気でいる。

 

「フー子は自分の心配しな。ま、フー子の個性なら心配するような事もないだろうけど」

「…うん!」

 

 そうだ。ひかりんだって私と同じ学校に合格した実力者なんだ。

 




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