夢の様だった。
オーディションに合格して、営業先の社長に挨拶し、出された飲み物を飲んで意識を失った後、目覚めたら見知らぬ部屋のベッドに拘束された事に気付くまでは。
「どうです先生、今日の娘は中々の上玉でしょう? しかも2人も」
「うむ、どちらも甲乙付け難い。報酬は期待していたまえ」
「ぐふふ、ありがとうございます」
先程までの社長の、物腰の柔らかいお爺さんのイメージは見る影もなく、私が今からどうなるかを想像してかいやらしくニヤついている。
先生と呼ばれた隣のでっぷりとした老人は、下卑た視線を隠そうともせず、思わず私の視界に入った膨らみから目を逸らすと、その反応で一層喜悦の表情を見せた。
「それにしても、服を着せたままで良かったのですか? あぁいえ、いつもの事ですが、少々気になりまして」
「うむ、私が脱がせてやるのが、一番良い表情をするのだよ。益々私の逸物も昂るというものだ」
「成程、趣味がよろしいようで、ぐふふ」
ずっと手首の縄を外そうと藻掻いていたが、余計にキツくなった。
…もう無理だ、心が折れた瞬間、全身の力が抜けた。
カクンと顔が傾き、隣のベッドの、一緒に攫われたらしいもう一人の少女が視界に入る。
「ん? あぁ、心配しなくて大丈夫ですよ」
あっけらかんとした声は、存外大きかった。
「ぐふふ、お嬢さん、自分が無事に帰れると思ってるのかな?」
「えぇ、当然」
するりと、どんな手品か、少女は手首と足首を縄から抜いた。
「「はっ?」」
「縄抜けは忍びの初歩ですから」
そう言って取り出したのは、忍者の出てくる漫画でしか見た事のない、オーソドックスな見た目の苦無。
瞬きの間に、私を拘束していた縄が切れ、目の前の老人達の両方のアキレス腱が血を吹いた。
「「ぎゃあああああああああっっ!!!!」」
「生け捕りの依頼故、殺しはしませんが…迎えが来るまで、多少尋問するくらいには時間があるでしょう」
いつの間にか切り取っていたらしいベッドのシーツの切れ端を、両方の老人の口に突っ込み、置いてあった縄で猿轡をした。
「あ、今から聞くに耐えない、汚い鳴き声で五月蝿くなりますが…寝ていますか?」
いっぱいいっぱいの頭でかろうじて頷くと、少女はキスしそうなくらい近付いて、目を覗き込む。
「では、良い夢を」
少女の、この世のものとは思えない蒼い瞳を認識した瞬間、意識が落ちた。
・・・
「あやめちゃん、ファンレターが来てますよ」
「おぉ、ありがとうございます! 早速拝見しましょう!」
事務員のちひろさんに呼ばれ、手裏剣での的当てを切り上げたあやめは、ウキウキした様子でファンレターを開く。
「『先日怪しい男に襲われた時、颯爽と忍者の女の子が助けてくれました! あやめちゃんに似て可愛いくノ一で、益々あやめちゃんが好きになりました!』…なんと、やはり時代は侍より忍者ですね!」
「むぅ、聞き捨てなりませんぞあやめ殿! ファンレターの送り主も、侍の活躍を見ればきっと…」
「侍は目立つから、『お仕事』しない方がいいと思うなー」
「ぐぬぬ…忍者はやはりきたないですぞ…」
気が向いたら続くと思う。