Persona4 THE NEW SAKURA WARS 作:ぺるクマ!
約1年ほど放置して申し訳ございませんでした。
この作品の構成が中々得られなかったのと、もう一方の作品が山場だったのでそちらにかかりっきりになり、就職活動で忙しかったのが、原因です。
これからもまた不定期の更新になると思いますが、よろしくお願いします。
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かあかあとカラスたちのかん高い鳴き声が不気味に鳴り響く。そんな不気味という言葉が表現される薄暗く人一人近寄らないような場所にその者たちはいた。薄暗いどこかも知れない大広間。そこの中心にて、黒いフードを被った男2人が佇んでいた。
「ジライヤを失ったか」
「ええ、そのようです。まあ、あの者がいなくなろうとも我々には微々たる程度の被害にしかならないのですが……」
ひと時の沈黙が周囲を支配する。端からすると、とても悪い報告に聞こえるのだが、男は怒ることも雷を落とすこともなく、ただただ深いため息をついた。言葉通り、痛くもかゆくもない損害だったらしい。
「まあ、あの者のことはどうでもよい。それより、あの件はどうなっている?」
「はっ。順調に事は進んでいるようですが、どうも我らの計画を嗅ぎつけた犬がいるようで」
「ふむ……あの華撃団の者か?」
「ええ、華撃団大戦にて天宮さくらと激闘を繰り広げたあの者です。しかしご安心を。策は練っておりますゆえ」
「ほう……」
策という言葉を聞いて、ふと目の前の者の奥で佇む黒フードに目を向ける。この者がこの場にいるということはつまり、そういうことなのだろう。
「あの者の力が未知数であるが故、別の切り口、つまりは外堀から埋めるということか。いいだろう、今度こそ奴らに大打撃を与えてやれ」
「ええ、そうさせていただきます」
主からの許しを得た。黒フードは気付かれないようニヤリと口元を歪めた。
♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~
聞き覚えのあるメロディーが聞こえて目を開けると目の前にあの光景が広がっていた。全てが群青色に彩られたリムジンの車内を模した不思議な空間。そう、ここは【ベルベットルーム】。
「ようこそ、我がベルベットルームへ」
証拠に向かいにはここの主を名乗る奇怪な老人【イゴール】とその従者を名乗る白金色の髪の女性【マーガレット】が鎮座していた。
「先日はお疲れ様でございました。お客様が彼女たちとの共闘を経て、得たアルカナは【恋愛】・【女教皇】。ふふふ、順調のようで何よりでございます」
ペルソナ全書から顕現されたのは彼女が言っていた【恋愛】と【女教皇】のアルカナが描かれたタロットカード。1つ目のページには悠と【恋愛】のアルカナを手にするキッカケとなった天宮さくらとのこれまでのやり取りが、2つ目のページには【女教皇】のキッカケとなったクラリスとのやり取りが映像で流れていた。
自分の向かいに座るイゴールは目を開いてカードを見つめたと思うと、次第にニヤリと笑った。
「フフフ……実に素晴らしい。さて、これは戯言でございますが、お客様はまだご自身のお力を十分に発揮しておられないのでは?」
イゴールの独り言に首を傾げてしまった。その言葉の真意が全く分からなかったからだ。しかし、その反応が予想通りだったのかイゴールは思わず不気味に笑みを浮かべた。
「お客様はこの世界で、以前では成し得なかった現での召喚を成功なされた。それ故に、その力で可能となることがまだあるのではと思いましてな。かの饗宴にて、戦闘行為以外でのお力を発揮したように……」
「……」
言われてみれば、その通りだ。
かの饗宴……真下かなみと関わった絆フェスでの事件ではダンスでシャドウを倒すという戦闘行為以外でのペルソナの使用方法を編み出した。つまり、この異世界でも戦闘以外でペルソナの力が発揮できるのではないかと言いたいのだろう。
「ペルソナは心の力。貴方様の心の有りようでその姿を変えて行くことでございましょう。さあて、ここから貴方様がこの力をどのように扱われるのか……楽しみですな……」
それはとある朝焼けが美しい日のこと
「はああっ!」
「くっ……!」
剣と剣がぶつかり合う音がした。
帝国大劇場が有する広大な中庭にて、片は青年、片は少女が朝方には似つかない剣劇を繰り広げていた。そして、その剣劇を保護者らしき男性がじっくりと見守っていた。
「ふっ……」
攻める、攻める、攻める。
己が今出しうる限りの全力で青年は攻めに攻めるが、未だに一撃も当てられていない。それどころか、少女は手慣れたように攻撃をいなしてカウンターを加えていく。まさに、年季の違いを見せつけるように。
「そこだ……!」
「遅いっ!」
「ぐはっ」
剣劇の最中、青年の好機と捉えた一撃は少女に容易く跳ね返されてしまった。そして、その隙に胴体に数撃入れられてしまう。それが決め手となり、青年は顔を歪めて地に膝をついてしまった。
「はあっ……はあっ……くそっ……」
「間合いはよかったが、最後の詰めが甘かったな。そんなんじゃ、さくらに一撃を入れられないぞ」
「はあっ……はあっ…………もう……いっか……い」
「やる気があるのはいいが、そろそろ朝食の時間だ。鳴上も腹が減ってきた頃合いじゃないか?」
「(ぐうううう~)………………」
「ふふ、鳴上くんの身体は正直ですね。さあ、朝ご飯を食べに行きましょう」
あのジライヤという自身の相棒に似た敵による事件から数日、悠は朝練としてさくらと神山から剣の指導を受けていた。理由としては数日前にさくらの師匠であるという人物に会った時のことだ。
「やあ、さくらが言っていた鳴上悠という青年は君のことかな?」
「はい、初めまして」
事件の翌日、さくらが是非とも悠に合わせたい人がいるとのことで、食堂で待ち合わせて出会ったのが、この【村雨白秋】という人物だ。
白髪のどこか浮世離れした麗人といったイメージがピッタリな女性だった。どこか自分と親近感が湧いてしまったのは気のせいだろうか。
その村雨さんと多少談笑した後、実際に手合わせした際の見立てが以下の通り。
『剣の筋は良いが、立ち回りが対人戦に向いていないな。君の戦闘スタイルは言わば使い魔を使役して戦う対降魔向きだ。当然切れ者は使い魔の召喚者の君を叩けばいいと、君自身を狙ってくるだろう。その対策のため、さくらと神山くんから剣術を学べばいい』
その見立てになるほどと悠は思った。
成り行きでテレビの世界が関わった事件にて戦闘を数多くこなしてきたわけだが、日本刀を選んだのは偶々自分に合っている武器がこれだと思ったから。剣道の経験もなく我流でこれまでやってきたので、このようにちゃんとした剣術を学べるのは悠にとってありがたかった。
「大分さまになってきましたね」
「ああ、俺も人に剣を教えるのは初めてだが、白秋さんが言ってた通り鳴上は筋がいいと思うよ」
「つーか、あいつ結構食うようになったな……」
朝練の後、食堂でがつがつと年相応な食欲を見せる悠に同じテーブルを囲う神山たちは三者三様の反応を示していた。
剣を教えたのは神山だ。ここ数日で神山の剣術である二天一流の基本を悠は既にものにしている。まだ応用には程遠いが筋はいいので、これから実践を積めば更に向上するだろう。久しぶりに教えかいのある者が出てきたと密かに心が躍っていた神山であった。
それに、あの事件から悠の帝都での環境に変化が起きていた。
「おう! 新しい帝劇の兄ちゃんじゃねえか」
「いつもありがとうね」
「これ、少ないけどお裾分け。クラリスちゃんと食べてね」
仕事である買い出しに出かける際、前まで他人行儀だった近所の人たちがこうやって好意的に接してくれるようになった。中には、先ほどのおばちゃんのように野菜や果物をお裾分けしてくれる親切な人もいる。
「ふふふ、鳴上君もすっかり帝都に馴染んできましたね」
「ええ、クラリスさんや天宮さんたちのお陰です」
途中一緒になったクラリスが微笑みながら言ってくれると、どこかこそばゆくなる。
ちなみに、あの日に発動したペルソナチェンジのことはすみれたちに報告してある。そして、ジャックフロストの性能と姿を見たすみれは何を思ったのか、悠を新たな役職に任命した。
その役職とは【舞台装置】。要するに、悠の使役するペルソナの能力、例えば先日使用したジャックフロストであれば氷結属性の魔法で雪が作れるので、それを舞台に合わせて演出してほしいとのことだった。
なんだこれ、と当初は思ったが、予算削減のためだと思ってと神山から頭を下げられたのでは、仕方なかった。もしかして、夢でイゴールの言っていたことはこのことなのかと、少々泣きたくはなったが……
さて、買い物は済んだしそろそろ帝劇内の清掃でもするかとクラリスに御礼を言って別れようとしたその時だった。
「おおおおいっ! 大変だああああああああああああっ!!」
エントランスホールに響いた叫び声と共に、誰かがこちらに走ってきた。よく見ると、妙に汗だくになっていた初穂だった。初穂の形相になんだなんだとちょうどその場に居合わせた神山とさくらも集まってきた。
「初穂さん?」
「どうしたんですか? そんなに慌てて」
「どうしたもこうしたもねえ! これを見てみろっ!!」
突如現れた初穂が握りしめていた新聞を放り出す。どうやらいつもの如く新聞を読んでいたらしいが、その一面には大きくこんな見出しが書かれていた。
【倫敦華撃団ランスロット氏逮捕 組織ぐるみの密輸が原因か?】
「はあっ!?」
「な、なにこれっ!! ランスロットが……どうしてっ!!」
「そんな……」
見出しの内容に神山たちは信じられないと言わんばかりに驚愕した。特に、さくらの驚愕ぷりが激しかった。
「倫敦華撃団って確か……」
この世界には帝国華撃団と同じ活動をしている華撃団が世界中に存在していることは悠も神山から聞いている。それに、この新聞に記載されているランスロットという少女がさくらの良きライバル関係であるということも。
「それが、一体……」
新聞に記載されている少女……ランスロットの写真に呆然とするしかなかった。
まるで、日常の終わりを告げるかのように、写真に写っているランスロットと呼ばれた少女の表情はどこか諦めているような悲しげなものだった。
事態を聞いた一行は居ても立っても居られなくなり、その足ですぐにすみれのいる所長室に直撃した。
「すみれさん、これはどういうことですか!? ランスロットが逮捕だなんて」
「落ち着きなさい。正直私も混乱しておりますから」
やれやれと額に手を当てるすみれは興奮するさくらたちを落ち着けさせた後に、分かる範囲での状況を説明してくれた。
昨夜、帝都の港に到着した貨物船の中で不審な物音がした。何事かと思い、見回りをしていてた船員が音のした方に駆けつけてみると、貨物室にて血を流して倒れる船員とその血痕が付着した鈍器を手にした少女が呆然と立っていたらしい。その少女こそが、件のランスロットだったのだ。
「更に、その貨物室から倫敦華撃団が現在追跡している違法の麻薬や盗難品などの密売品が多数見つかったそうです」
「現場の状況から倫敦華撃団が密輸に関わっており、秘密を知った船員の口封じのために今回の犯行が起こったと調査した警官たちが判断されました」
「なっ!?」
「そんな……」
これは最悪だと神山は絶句した。
魔から人々を守る華撃団が密輸に関わっている。それだけでも、華撃団のイメージダウンは避けられないというのに、一般人にまで危害を加えたとなると世間がどう捉えるのか、火を見るより明らかだ。
「ランスロットさんは今帝都の留置場に拘束されています。捜査が進み次第、倫敦の警察に引き渡される手筈になってます」
「このこともあって、倫敦華撃団の方もガサ入れされているそうです。ランスロットのみならず、他の団員や団長、もしくは司令部も関わっているのではないかと疑われてますから」
それは当然の流れだった。組織の一人が密輸に関わっているとなれば、他の団員も関わっているのではないかと疑われるのは必至だ。
「……倫敦華撃団が、ランスロットがそんなことするはずありませんっ!!」
「さくら」
「あんな正義感があるランスロットが、密輸なんて……」
「さくらっ、落ち着け!」
熱くなるさくらを落ち着けさせる神山だが、その心情はよくわかる。
華撃団大戦にて、魂をぶつけあって互いに認め合ったさくらはランスロットが犯罪に手を染めていたなんてありえないと信じていた。だが、現実はそうはいかない。
今世界中は倫敦華撃団に疑いの目、あるいは批判的な目で見ていることだろう。
今は状況把握が最優先だから、自分たちにできることはないとすみれに言われ、その場は解散となった。
その日、帝劇内にいる職員たちの顔色は優れなかった。
衝撃的なニュースから一晩明けてた朝、朝食を取ったのちにサロンに集まった帝国華撃団の面々の表情は昨夜よりも暗かった。
「どこもかしこも、倫敦華撃団の話ばっかだな」
「倫敦に引き渡されたら、向こうで裁判が行われるそうですね」
「多分、今の状況だと即有罪だな」
「無実だって証拠もありませんし」
圧倒的不利な状態。もはやランスロットの有罪は確定したような状況だった。
「さっきアーサーから通信が来たよ。こんなことになってしまって、君たちの国で問題を起こしてしまって申し訳ないって」
どうやら神山の元に倫敦華撃団の団長アーサーからお詫びの連絡が入ったらしい。
何ともあの責任感の強い倫敦華撃団団長のアーサーが言いそうなことだ。心なしか、その時のアーサーの表情がとてもやつれていたことを神山は思い出す。
「一体どうしてこんなことに……」
「ランスロットのやつ、どうなっちまうんだよ」
「このままだとまずいわね。華撃団の人間が密輸に関わってたなんて、あってはならないことよ。こんなこと言いたくないけど、世界中の華撃団のイメージダウンに繋がるし、私たちもそういう目で見られるかもしれないわ」
アナスタシアの一言に、さくらたちは更に表情を暗くする。華撃団大戦で絆を深めた倫敦華撃団が今世界中から犯罪者扱いされている。この状況に何かできないのかどうてもやるせない気持ちになった。
もうランスロットに、倫敦華撃団に味方はいないのか。
「俺たちにもできることがあるはずです」
だが、悠の発したその言葉にさくらははっと顔を上げた。
「鳴上……?」
「俺は皆さんと違って、ランスロットさんや倫敦華撃団の人には会ったことがありません。でも、天宮さんたちが間違いだって信じるなら、俺も信じます」
何を言ってるんだと皆は思った。でも、悠の一点も曇りがないその瞳に光を見た気がした。
「でもよ、こんな状況であたしらに何ができるっていうんだよ」
「例えば、俺たちで事件の真相を確かめるとか」
「はあっ?」
悠の突拍子もない発言に全員がポカンとした。だが、さくらはその手があったかと言わんばかりに椅子から飛び上がった。
「そ、それです! 私たちでランスロットの無実を証明すればいいんです!」
「ちょっ、さくら」
「おいおい、無暗に調べようとしてどうすんだよ。ランスロットが無実か分かんねえんだぞ」
「それを調べるためにやるんだよっ! やってみなきゃわからないじゃない!!」
人が変わったように捲し立てるさくらに流石の初穂もたじろいでしまった。
「私は、ランスロットはやってないって信じてます! 今、ランスロットを救えるのは私たちだけです!! ランスロットを助けるなら、今しかないんです!!」
溢れ出す感情が止まらなかった。
華撃団大戦で剣と交えて本気でぶつかり合い、再戦を約束した宿敵にやれることがない自分が悔しい。例え、突拍子のない方法でもランスロットを助けられる可能性があるのなら、自分は賭けてみたい。
何より、ここで何も行動しなかったら、自分はずっと後悔するだろうと思ったから。
「……ああ、そうだったな」
「神山さん?」
さくらの想いをしずかに聞いた神山は覚悟を決めたように立ち上がった。
「そうだ、さくらの言う通りだ。倫敦華撃団がそんなことするはずがない。俺もそう信じてる! みんなはどうだ?」
神山の問いかけにさくらと悠以外の団員が一斉に顔を上げる。悠とさくらの言葉に心を動かされたのか、各々の瞳はそうだと言わんばかりの光を灯していた。
「神山さんっ!」
「ああ、俺たちの心は決まった。俺たちでランスロットの無罪を証明するぞ!!」
「「「「「了解っ!!」」」」」
────-帝国華撃団の心は一つになった。
(あれ?)
その時、悠の心のうちに何か変化が起きた気がした。特に、先日の事件で覚醒した【恋愛】と【女教皇】のアルカナに。
「おうおう、やっと動き出したな。おせえんだよ」
「し、司馬さん?」
「令士?」
すると、どこからか格納庫で作業していたはずの司馬が姿を現した。どうやら自分たちの話を聞いていたようだが、いつからそこにいたのだろうか。
「お前、何しに来たんだよ」
「ちょいと、渡すものができたからな。ほらよ」
令士はキザッぽくそういうと、手に持っていた茶封筒をサロンのテーブルに放った。
「こ、これって」
「ああ、今回の事件の資料だ。カオルさんがこっそり仕入れてたのを拝借したのさ」
「ちょっ、おま!」
令士が持ってきたのはランスロットの事件に関わる捜査資料だった。開けれ見ると、今回の事件現場となった船内の見取り図や現場写真、更にはランスロットに事情聴取の記録など、公に公開できないような機密情報が山盛りだった。
カオルがこんなものを仕入れてきたことにも疑問を感じるが、そのカオルからくすねてきたということはもっと問題だろう。
「いいって。どうせカオルさんもこれをお前らに渡すつもりだったようだし、倫敦華撃団のやつらを助けるなら、遅いより早い方がいいだろ?」
「……助かるよ、令士」
「おうよ。ランスロットちゃんのこと、頼んだぜ」
令士はそう言い残すと、その場から去ってしまった。
あの後、令士はカオルからきつく絞られて減給処分になってしまったが、それは別の話である。何はともあれ、令士のお陰で自分たちのやれることが増えた。
早速調べてみようと、事件資料が入っている茶封筒の封を開けた。
「事件概要は大体同じですね」
「ああ……」
「一個も見つからねえよ」
あの後、皆で事件資料を隅から隅まで読み漁ったが、無実の証明になりそうな記載が全くなかった。
現場を見たという監視員の証言も問題なし。被害者の船員はまだ意識不明で証言が取れていないようだが、それでも現場の状況とランスロットが凶器として使用したとされるパイプにはランスロットのものと思わしき血痕も発見されたとある。
書類は何のおかしいところはなかった。出来すぎるくらいに。
「まあ、予想していたとはいえ、この資料からは何も手掛かりはなさそうね」
「なら、直接現場に行ってみるか、関係者に話を聞くしかないかもしれませんね」
「でもよ、現場にはあたしらは入れねえだろ。聞き込みしたって無駄かもしれねえし」
「あれ? そういえば、鳴上くんはどこに……」
初穂の言う通り、例え帝国華撃団といえど管轄外極まりないので、現場には立ち入らせてくれないだろう。それに、資料を見る限りこちらの警察もランスロットが犯人だと決めつけているような節が見受けられるので、聞き込みをしても無駄な気がする。
それに、さっきまで一緒に資料を読んでいた悠はどこに?
「それなら、俺に策があります」
だが、その言葉に皆が一斉に悠の方を見た。どこかに何かしに行った後のようだが、彼がそんなことを言う策と言うのはまさか、
「それって……まさか、この状況に適したペルソナを持ってるってことですか?」
先日の件で夢遊霧なしでのペルソナの召喚に成功した悠は現在帝劇で舞台装置としての役割を果たしている。それと同じくこの状況を打開できる能力を持つペルソナを持っているということなのだとクラリスは確信した。
「ペルソナ? 一体どういう」
「実際に見せてみますよ。神山さん、いいですね?」
「えっ?」
なぜこの時、悠が自分にそんなことを言ってきたのか、この時はその意味をまだ理解できなかった。
その策を見せるということで、悠は皆を中庭に集めた。そして、悠はおもむろにタロットカードを顕現する。そして、
―カッ!―
「【リャナンシー】っ!!」
顕現したタロットを砕いて現れたのは、長い金髪の人間の女性に似た姿をしたペルソナ【リャナンシー】。“妖精の恋人”という意味を持つアイルランドの妖精だ。逸話では、彼女は愛を受け入れた男に取り憑き、霊感を与える代わりにその生命を吸い取ったと言われている。
またも知っている名前が出たと、クラリスは内心興奮していた。
「ふーん、リャナンシー。如何にもって感じのペルソナね」
「で、このペルソナが何なんだよ」
「まあ、見てください」
悠はふと笑うと、神山の方を見た。頭にはてなマークを浮かべるも、悠は容赦なしに指をパチンと鳴らした。
すると、リャナンシーは一瞬のうちに神山の背後に回り込んだと思うと、その唇を耳に近づけてふうと息を吐いた。
「ぎゃあああああああああああっ!!」
「せ、誠十郎さん!?」
息を吹きかけられた神山に頬を膨らませていたさくらだったが、突然奇声を上げた神山に悲鳴を上げた。それはさくらだけではない。
「お前、神山に何したんだよ!」
「リャナンシーの魔法【テンフラワー】で混乱状態にしました」
「混乱!?」
「はあっ!!」
「お、俺は……ああ……一体……何を……して……」
混乱と聞いて意味が分からなかったが、魔法をかけられた神山を見ると、目をぐるぐると回してふらふらになっている。言動も何か怪しい。
「た、確かに混乱しているように見えますけど」
「ここからどうなるんだよ」
「まあまあ。神山さん、今日何か変わったことありませんでしたか?」
動揺するさくらたちを落ち着けた後、悠は神山にありきたりな質問をしてみた。
「そ、そういえば……今日浴場を掃除してたら、こんなもの拾ったような……」
「あっ……」
「「「えっ、えっ、えええええええええええええええっ!?」」」
フラフラしながら神山がポケットから取り出したのは……神山が手に握っていたのは、女性用の白い下着だった。あまりの出来事に悠は呆気にとられ、アナスタシアとあざみを除く女性陣は悲鳴を上げる。
この事実に、悠は若干頬を引きつらせていた。
「か、神山さん……一応聞きますけど、それは?」
「い、いや……これは、クラリスの下着で。その……落ちてたからそのままっていう訳にはいかないし、あとでクラリスに渡しに行こうかと……あっ」
気付いたときには遅かった。うっかり滑らしてしまった口はもう戻らないし、取り返しもつかない。そして、
「神山さん…?」
「く、クラリス……?」
顔を伏せたクラリスから黒いオーラが発せられている。この反応を見れば、もうお分かりだろう。
「どうして私の下着を知ってるんですか?」
「そ、それは……前に見たから?」
「じ、地獄に落ちてください!!」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああっ!?」
羞恥で赤面したクラリスはこれでもかというほどの重魔法を放った。神山は成す術なく、まるで天罰が下ったかのように重魔法の乱舞に気を失ってしまった。
後でエナジーシャワーを使って混乱を解こうと思っていた悠も、あれだけ攻撃を食らえば解く必要もないだろうと考えながらも唖然としてしまった。この神山という男、先日の風呂場の件といい、どれほどさくらたちにセクハラを働けば気が済むのだろうか。
同じ男として恥ずかしくなってきた。
「ま、まあ……とにかく、こんな風にリャナンシーの能力で混乱状態を与えれば情報を吐かせられるかもしれませんよ」
「な、なるほど……?」
「確かに」
神山が混乱状態でクラリスの下着をくすねたことを吐いたように、現場に立ち会った船員たちも同じようにすれば何か無罪につながるような証言がでるかもしれない。見方を変えれば、洗脳に近いかもしれないが……
「葛葉ライドウ……」
「えっ?」
すると、ここまでの流れをジッと見ていたあざみがふとそうつぶやいた。
「前に師匠が言ってた。かつてこの帝都には【葛葉ライドウ】という探偵がいて、その探偵は悪魔の力を使って事件を解決に導いたって」
「へえ……」
この世界にそんな探偵がいたのか。だが、それは創作の話であると後で聞かされることになるのだが、自分とは違う世界の日本で自分の同じような能力を持った人間がいたというのは何とも不思議だ。
「そういえば、そんな話を私も聞いたことがあるわ。おそらく、今ナルカミがカミヤマにしたように、使い魔の魔法で当事者から情報を引き出したんじゃないかしら?」
「そうですね。でも、これなら何か手掛かりが掴めるかもしれません。さっすが鳴上くん!」
「ははは……」
物は試しにと思って神山にかけてみたが、何だか申し訳ない気分になった。今度からは絶対前もって確認を取ってからにしよう。
何はともあれ、残された時間は少ない。
一刻も早くランスロットの無実を証明する手がかりを掴むため、帝国華撃団は更なる武器を手に事件現場へと向かうことにした。
ーto be continuded