Persona4 THE NEW SAKURA WARS   作:ぺるクマ!

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明けましておめでとうございます。

今年初めての投稿はこの作品となりました。
今話は逆転裁判などの作品のような推理要素を含んでます。推理要素はあまり書いたことがないので、更新まで結構時間がかかってしまいました…。辻褄が合わないことがあると思うますが、それはご了承ください。

これからもまた不定期の更新になると思いますが、よろしくお願いします。




#8「剣と探偵 2/2」

「ふふふ、やっぱり動いたわね」

 

 ランスロットを助けるために悠の新たな力を手に帝劇を飛び出したさくらたち。その様子を帝国劇場の支配人室、その窓から帝劇の支配人であるすみれはバッチリ見ていた。

 

「しかし、いいのですか? もし失敗すれば帝国華撃団も倫敦華撃団と同じように……」

「…………」

「すみれさん?」

「あら失礼。あの子たちを見ていたら、現役時代を思い出して」

 

 無実の証明に失敗した際の心配をする秘書を尻目にすみれは物思いにふけっていた。なんとなく、ランスロットを信じて助けに行こうとする神山たちを見て、すみれはかつてこの帝劇のトップスタァだった時を思い出していた。

 かつて、お家の事情で全く好きではなかった相手とお見合いされそうになった時がある。だが、自分はそれを了承した。自分がお見合いを受ければ、当時財政難に陥っていた帝国華撃団を助けることに繋がったからだ。しかし、自分だけ犠牲になるのを良しとしなかったあの人たちは神崎邸に乗り込んでくれてまで助けてくれた。

 

「……安心したわ。あれから時が経っても、私たちの帝国華撃団としての精神は受け継がれているのね」

 

 焚きつけたのはおそらくあの未来から来た少年かもしれない。だが、それでも隊員たちは仲間を守るために行動している。ならば、

 

「……カオルさん、少し調べ物を頼んでもいいかしら?」

「と言いますと?」

「少々今回のことで気になることがありましてね。場合によっては鳴上くんの助けになるかもしれませんわ」

 

 かわいい部下たちが動いたのだ。ならば、自分も彼彼女らの上司として、動かなくては示しがつかない。すみれは窓ガラスに不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<帝国留置場>

 

「…………」

 

 ここは犯罪を犯し、まだ裁判所からの判決を受けていないものが待つ留置場。その最奥に存在する特別収監室にて、先日入ったばかりの少女が膝を抱えてうずくまっていた。

 倫敦華撃団団員ランスロットである。帝都に密輸品を横流していた疑いでこの場所に収監されているのだ。

 

(どうして……こんなことに)

 

 ランスロットは絶望に苛まれながらも、これまでのことを回想していた。

 

 昨今になって倫敦に出回っている密輸品。その中にはアヘンなどの麻薬はもちろんのこと、生活必需品のみならず偽札までも紛れており、倫敦全土の経済を悪化させた。物価は高騰し、生活に困窮する人々が続出。貨幣への信頼も失い、人々の心は容易に荒れてしまった。

 このままでは倫敦だけでなく世界の経済までも破綻に追い込まれてしまい、大規模の世界恐慌が起こるだろう。

 だが、それ以前に目の前で生活に苦しむ人々を見て、ランスロットは絶対にこれ以上被害を出さないようにしてやる、そして自分でこの密輸の首謀者を捕まえてやるんだと意気込んでいた。

 そして、団長アーサーを中心とした倫敦華撃団による綿密な調査のお陰で、ついに密輸品の出所を突き止めることに成功した。更には次の密輸品を運び出す場所やその目的地も判明。密輸グループの次なる目的地は帝都。ランスロットのライバルであるさくらの祖国だった。

 そのことを知ったランスロットは胸に秘めた使命感を抑えきれなくり、居ても立っても居られなくなってしまった。アーサーから単独行動はダメだと散々咎めていたのに、命令を無視して帝都に向かう密輸船に単独で潜入。証拠を掴もうと貨物室に身を潜めた。

 その後は……

 

 

「良いざまですね、ランスロット卿」

 

 

 その時、どこからか自分を嘲笑う声が聞こえてきた。ここには限られた人物でしか入れないのに誰だと思って顔をあげてみる。

 

「あ、あなたは……」

 

 それはランスロットに見覚えのある顔だった。確か、あの船で自分を逮捕した帝都の警察だった気がする。貨物室での惨状を目のあたりにして呆然とした途端、有無を言わさず連行されて理不尽だと憤ったのを思い出す。

 何しに来たのかと怪訝そうな表情をすると、その男は口元ににやりと笑みを浮かべていた。

 

「貴女のお陰で我々の計画は旨く運びました。愚かにも我々の尻尾を掴もうと勝手な行動で貴女を貶め、倫敦華撃団に罪を擦り付けることができたのですから」

「えっ?」

 

 一体何を言ってるのだろう。だが、牢屋の檻越しから垣間見える邪悪な笑みと瞳に背筋が凍った。

 この時、ランスロットは初めて嵌められたのだと気づいたのだ。

 

「あ、貴方は……まさか……」

「くく、密輸なんてどこもやってることでしょう? それを一々摘発したところでなくなりはしない。貴女がやろうとしたことは全部無駄だったんです」

 

 確定した。目の前にいるのは間違いなく自分が追っていた密輸犯だ。薄暗くて顔は見えなかったが、服装が帝都警視庁のものだったので、敵は内部に潜んでいたことが伺える。つまり、自分のどう言葉を上げようが握りつぶされる未来が容易に想像できた。

 それは、自分の終わりを意味していた。

 

「どうやら貴方を無罪だと信じている愚か者たちが嗅ぎまわっているようですが、無駄に終わるでしょう。何せ、証拠なんて残ってないのですから」

「えっ?」

「それと、貴女の護送は明日になりました。あちらも早急な事態終息を望んでいるようですし、もうおしまいです」

 

 突き付けられた事実に今度こそランスロットは項垂れてしまった。

 心の底で本国の団長が何かしてくれるのではないかと期待していたが、それはないと分かった途端に無為に終わった。

 希望の灯は潰えてしまった。ランスロットは今度こそ絶望の淵に追い込まれてしまった。檻の前で自分のその様を面白そうに口元を歪めて笑う黒幕の存在すらどうでもよくなってしまうほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<帝国船場>

 

 ついに来てしまった。倫敦への引き渡しの時が。

 特別収監室から連れ出されたかと思うと護送車に乗せられ、護送船が停泊している波止場へと連行された。久方ぶりにみた青空はこれで最後かもしれないと思わせるほどきれいだった。

 そして、波止場には自分を護送するために送られてきたであろう倫敦の使者たちが待機していた。

 

「……貴公がこの者を捉えたという」

「ええ、帝都警視庁で請謁ながら警部を任されている“白鐘直斗”と申します」

「ふん、こんな男か女か分からない猿が我らの標的を捕まえたとは、俄かに信じがたいな」

「そう言われるとは光栄ですね。何せ貴方方が捕まえられなかった密輸犯を捕まえられたのですから」

「……ふん」

 

 本国から来たと思われる国務管の男が自分を見据える目は厳しかった。よくもやってくれたなと訴えるように。今頃本国にいる団長たちは更なる尋問を受けているに違いない。

 

(これで終わりなんだ……私のせいで)

 

 そう、すべては自分のせいだ。団長の反対を押し切って勝手に船に潜入したのが間違いだった。そのせいで団員たちに迷惑をかけ、しまいには壊滅まで追い込まれてしまった。すべては自分のせい。

 

(団長……ごめんなさい…………さくら……ごめん)

 

 あの華撃団大戦で互いの全てを出し尽くして戦ったライバルとの再戦。その約束も果たされないままで終わってしまう。

 そう思って今国務管の手が自分の腕を掴もうとしたその時だった。

 

 

 

 

「そこまでです!」

 

 

 

 

 

 刹那、ランスロットの絶望を打ち砕くような声が聞こえた。

 はっと顔を上げると、その眼に映る光景に涙が出そうになった。それは

 

 

 

「「帝国華撃団、参上っ!!」」

 

 

 

 助けにきたと警官たちの行く手を阻むように神山率いる帝国華撃団。最も、現れたのは花組隊長の神山とさくらの2人だけだったが、その2人の登場だけでもランスロットは微かな希望が見えた気がした。

 

 

「て、帝国華撃団だと!?」

 

  そして、突然の帝国華撃団の登場にランスロットの引き取りだけを目的とした現場は困惑した。だが、その現場の頭である白鐘警部は部下と違って冷静を保っていた。

 

「帝国華撃団……何をしにここにきたのです?」

「俺たちは掴んできました。ランスロットが無実であると。そして、真犯人が誰なのかを」

「ふっ、何を言ってるんです。あなた方は私たちの捜査にケチをつける気ですか?」

「その通りです」

 

 警部の問答に神山は即座に肯定した。己を疑ってなどいないその迷いなき眼に白鐘警部は多少感心を示したが、すぐに笑い飛ばした。

 

「はははははっ、それは面白いっ!! 残念ですが、もう彼女を倫敦に引き渡す時間です。貴方の世迷言に付き合ってる暇は」

 

 

 

ドンっ!

 

 

 

 白鐘が言葉を言い終えようとした瞬間、波止場に停泊していた護送船から爆発音が聞こえた。そして、その事態を指し示すかのように、黒い煙が上がる。そんな突然の非常事態にまたも警官たちは慌てふためいた。

 

「ど、どうしたんだ!?」

「はっ、それが先ほど護送船の機関室から煙が……」

「なんだとっ!?」

 

 どうやら護送船に煙が出るほどの異常が出たらしく、船内はもちろん報告を聞いた一同が騒然となった。これではランスロットを護送できない。更に、修理には数時間かかると告げられた。

 

「誠十郎、首尾は上々」

「よくやったな」

 

 そして、騒然とする警察とは対照的に事後報告をしにきた少女とそれを労う隊長の姿が帝国華撃団にあった。突如現れたあざみに白鐘警部は何か察したのか、神山を憎々しげに睨みつけた。

 

「やってくれましたね……」

 

 白鐘警部が初めて表情を崩した。その迫力にお付きの部下は恐怖するが、そんなものは気にも留めず、神山は視線を戸惑う倫敦からの使者たちに向けた。

 

「倫敦の皆さん、このままでいのですか?」

「……何のことだ?」

「倫敦は現在市場に出回っている密輸品のせいで大きな打撃を受けていると聞いています。ですが、その事態を引き起こしたのはランスロットたち倫敦華撃団ではありません! ランスロットに密輸の濡れ衣を着せた真犯人がこの中にいるんです」

 

 さくらの発言に今度は倫敦側がざわざわとした。

 そう、ランスロットが調査していたのは自分たちの経済に打撃を与えた密輸品の調査のため。それは華撃団だけでなく倫敦全体となって追っていたはずだ。その犯人がランスロットではなくこの中にいる誰かとなれば、話が変わってくる。

 だが、

 

「ふん、その真犯人がこの女だろ。証拠は十分に揃っていると聞く。貴様らの話を聞く必要は」

「いいんですか?」

「なに……?」

「もし、ランスロットが犯人ではなく、この場にいる本当の犯人を取り逃がしたら、貴方はどう責任を取れるんですか?」

「ぐう……!」

 

 神山の指摘にこちらを見る倫敦の国務管の目の色が変わった。己の保身の話をされたこともあるのだろうが、今の発言は明らかに効果的だった。

 

「一体……それは誰だと言うんだ。貴様らの答えをきかせてもらおう」

「それは……」

 

 神山は質問の問いに答える前に一息入れた。これから自分たちが告発しようとしている名前は大きな意味を持つ。それは一歩間違えれば、自分たちも破滅へと追い込まれてしまう。だが、それでも自分たちはやるのだ。目の前で無実の罪に囚われている華撃団の仲間、ランスロットを助けるために。

 神山はこの場にいるさくらたち、そして今はこの場にいない悠を思い、覚悟を決めてある人物に向けて指をさした。

 

 

 

 

 

 

()()()()、お前だ!!」

 

 

 

 

 

 

 告発した相手が相手だっただけに、周囲がまたもざわつき始めた。

 帝都側はそんな訳ない、何を言っているんだと神山を非難するが、告発された本人は全く動揺していなかった。

 

「くくく……おかしな話ですね。なぜ帝国の警察たる私が彼女を貶めなければならないのです? 証拠でもあるんですか?」

「ありますよ」

「なに?」

「そろそろ来る頃だと思いますよ。貴方も予期しなかったものがね」

 

 

「おう、神山。連れてきたぜ、この証人をな」

 

 

 その時、タイミング良く別任務で行動していた初穂がその場に現れた。一緒に同行しているその人物は帝都の警察の制服に身を包んでいた。

 

「それは誰だ?」

「ははっ! 本官は帝都警視庁所属“原灰ススム”と申します! あの日、白鐘警部と共に事件を捜査したでありますからにしてええええっ!! 

 

 ビシッと敬礼したと思いきや、甲高い声にオーバーリアクションで捲し立てる警官に周囲は訝しげな表情になった。

 

「この方は事件の日に問題の貨物船の捜査に参加していた警官です。この方に先日お話を伺ったところ、面白い話を聞きました」

 

 現れた人物たちに周りは難色を示していたが、その中でも明らかに白鐘警部の顔色が変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日前、聞きたいことがあると警察署を訪ねた際に出会ったのが、この原灰警官だった。彼は倫敦華撃団の事件で現場になった船の調査に加わっていたという。この人物なら何か知っているはずだと神山たちは当たりをつけていたのだ。そして、その予感は的中していた。

 

「わ、私は……何も知らないでありますっ! あの初動捜査には参加したのは事実ですが、何もおかしいことなんてありませんでしたからにしてええええええっ!!」

 

 軽く質問しただけなのに己が取り出した手錠で首を絞めてしまうというこの異常な慌てよう。何かおかしいと感じた悠はリャナンシーの魔法を発動した。

 

「あああ~~~……うううううううう~~~……め、目がくらくらするでありますからにしてえええ~~~」

「おいおい、こいつ大丈夫なのかよ」

 

 初穂の言う通り、こんな警察に状態異常の魔法を使ってしまったことに若干後悔を覚えてしまった。だが、

 

「あ、あの……何か思い出したことはありましたか?」

 

 

 

「ああああ~~…………………………あっ、あああああああああああああああああああああああああああああっ!? 

 

 

 

 突然耳を塞ぎたくなるほどの奇声を上げる原灰巡査。あまりの大音量とオーバーリアクションに悠たちは仰天したが、次に原灰巡査から発せられる言葉に更に衝撃的なことを聞かされる羽目になる。

 

「は、はいっ!! じ、実は……言いにくいのでありますが……この度ランスロット卿が凶器として使ったとされているあのパイプ管……実は、本官が発見しましたからにして……」

「えっ?」

「それと……実は、本官……うっかり、その()()()()()()()()()()()()からにしてえええええええっ!? 

「はああっ!?」

 

 衝撃の事実。だが、情報はこれだけでは終わらない。

 

「し、しかも……本官、その時は職務中にも関わらず、小腹が空いてしまって……か、片手にチョコレートなる洋菓子を食べながら捜査してしまい……そ、その汚れてしまった手で、ぱ、パイプ管を触ってしまったからにしてええええええええええええっ!? 

 

「「「「………………」」」」

 

 もはや開いた口が塞がらない。大事な証拠品を迂闊に汚れた手で触るなど、警察でない自分たちでも重大な過失であることは分かる。こんな人物がよくぞ警察になれたものだ。

 

「おいおい、それちゃんと上司に報告したのかよ」

「そ、そうです! 貴方がそれを報告したら、ランスロットの罪も」

「し、したであります……本官もこれはまずいと思い、その後上司に報告したであります。しかし……そのから先の記憶がすっぷりと抜けちまって……本官、貴方たちに聞かれるまでこのことを忘れていたでありますからにして……」

 

 あまりの忘れっぷりにもう呆れてしまった。初穂など呆れを通り越して怒りを覚えたのか、今すぐにでも殴りそうな勢いな形相で原灰巡査を睨んでいた。

 しかし、悠と神山は今の発言に違和感を覚えた。たとえこの警官が空前絶後のポンコツであったにしても、上司に報告したことを忘れるだろうか。

 

「それに、少し奇妙なこともあるのです」

「奇妙?」

「はい、元々我々はあの船には調査ではなく、何故か捜査という名目で訪れたのです。その際に本官がパイプ管に触れちまった際に、その場にいた上司が現場にいたランスロット卿を逮捕したのです。まるで、このようなことが分かっていたかのように……」

 

 それは確かに奇妙な話だ。話では貨物船で物音がしたので張っていた警官が調査で貨物室を調べ、その過程でランスロットが発見されたと聞いている。それが最初から捜査という名目で訪れたというのはどうもおかしい。

 

「その上司というのは?」

「は、はい。それは本官の直属の上司でかつ、この帝都警視庁1の敏腕刑事であらせられる、()()()()()()であるからにしてええええええええええええっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 時は戻って現在、原灰巡査の奇妙な発言に周囲がざわめいた。この巡査は本当に警察なのかと疑ってしまう人間性が出てしまったが、今回の件に関しては重要な証言といえよう。

 

「ふっ、それがなんだ。単にその男の勘違いだったというだけでは?」

「そ、それが……本官だけでなく自分の他に初動捜査に参加した者たちが全員同じく記憶が混濁していたのでありますからにして……まるで、誰かが全員の記憶を操作したかのように……まさに、摩訶不思議であるからにしてええええええええええええっ!!

 

 大音声で告げられた事実に周囲は騒然とした。

 これはこの男の記憶が混乱していたとか忘れていたという次元じゃない。もちろん悠がリャナンシーのテンフラワーをかけたこともあるが、原灰巡査の他に初動捜査に参加した警官全員の記憶が同じように改竄されていたことが判明した。

 そのことを報告すると、一気に周囲の視線が問題の白鐘警部に向けられた。

 

「ふっ、それが何なんだ?」

 

 だが、白鐘警部は痛くも痒くないと言わんばかりに肩をすくめただけだった。

 

「そんな証言でこの女の無罪を証明できたとでも? 仮にその男のことが真実だったとしても、私以外の誰かが私に罪をなすりつけるために仕組んだかもしれない。それだけでは私がやったという証拠になりませんね」

「ええ、でももう一つあるんですよ。決定的なものがね」

 

「カミヤマ、来てもらったわよ」

 

 神山の発言と共に、帝国華撃団の第2矢が到着した。

 戦闘服に身を包んだアナスタシアと共に登場したのは白衣に身を包んだ女性だった。年齢は20代後半と見受けられ、頭にはピンク色のサングラスを掛けている。

 

「きみは……?」

「この事件の被害者の診察を担当した医師【宝月茜】さんです。この方によると、貴方方が持つ情報と違うものがあるんです」

 

 今度は担当医師がやってきたことに警察間の動揺が更に激しくなった。その事態を目にした倫敦の政務官はやれやれと呆れかえっていた。

 

「……警官の報告忘れに今度は書類ミスだと? 帝都の警察はこんなにも無能なのか?」

「ええ、本当に信じがたいことですが、嘘は受けませんし。そこの自国のことも解決できないお方の黙らせるために報告させていただきます」

 

 見た目によらずお偉いさんにもグサッと毒を吐いた彼女は静かにそう言うと、ページを開いた。

 

「被害者の重症の要因はパイプ管で脳天を打ち付けられた傷とありますが、それは間違いです。正しくは、()()()()()()()()()()()()()()()です」

「えっ?」

「背中に広範囲にかけての打撲跡が確認されました。どうやって改竄されたかは知りませんが、貴方方が持っている資料に記載しているパイプによる殴打ではこのような傷はつきません。ちなみにパイプ管による殴打痕はこの後につけられたものであると断定されています」

 

 宝月女医のはっきりとした発言に周囲は再び動揺が広がった。

 言われたみれば、確かにその通りだ。背中に広範囲の打撲となれば、パイプ管で脳天を打ち付けられたとは考えられない。考えられるのは落下によるケガ。つまり、被害者は墜落でケガをしたのだ。

 

「そ、そんなもの……こいつが被害者を突き落とした後にパイプ管で殴ったと考えれば済む話だろっ!」

「……供述によると、ランスロットは密輸の現場を掴むために、貨物室の置かれていた樽の中に身を潜めていたようです。ちょうど、船員さんの落下地点付近のね」

「なっ!? どうしておまえたちが……」

「ランスロットはどうやらここに張り込んで密輸の現場を押さえようとしていたらしいです。それはそちらの調書にも記載してありますよね?」

「それに、もし貴方の推測通りなら何故ランスロットは隠れていた場所に戻らなかったのでしょう? 被害者を落とした後にパイプ管で殴る必要もないですし、物音を出してしまったのですから、そのまま呆然としたままだったなんて、それこそおかしい話ですよ」

 

 宝月医師ではなく、資料を手にしたクラリスだった。国務管が何故こちらの資料を網羅しているのかと突っかかってきたが、それを無視してさくらが言葉を続けた。

 先ほどから口を挟んでくる倫敦の政務官の推理をさくらとクラリスが完全に看破した。してやったりと微笑むさくらに対して、政務官は再度の失言で悔しそうに顔が真っ赤だった。

 几帳面な書記官が書いたものゆえか、一蹴されそうなランスロットの話も記録していたらしい。つまり、ランスロットが樽の中に隠れていたのなら高いところから被害者を落とすのは不可能。現にそれを裏付ける証拠は発見されていると、調書にも書いてある。

 

「ちなみに、私が検査の報告をしたのは白鐘警部。貴方でしたよね?」

「!?っ…」

「貴方にこの結果を報告した後、”後は自分から下の者に伝えるから資料をもらうだけで結構”とおっしゃいましたよね? 帝都警視庁で信頼のおける人だから言う通りにしたのに、これは一体どういうことですか?」

「……………」

 

 痛いところを突かれたのか、先ほどの冷静な反論のなく黙り込んでしまった白鐘警部。

 察しの通り、彼女も例外なく記憶を改竄されていたのだ。悠のペルソナの力で記憶が戻ってから、何てことをしてしまったのだと頭を抱えていたほど落ち込んでいたのだから、その原因であろう白鐘警部を見つめる目は冷たい。

 ここが正念場と判断した神山は畳みかけるように追及する。

 

「つまり、話はこういうことです。犯人は船員を高所から突き落とした後、犯行不可能なランスロットに罪を着せるために偽の凶器、パイプ管をあらかじめ用意した。そして、それをパイプ管で殴った後にそれを現場に残した。それをランスロットに拾って貰うはずが、原灰さんが拾ってしまった。そこで、プランを変更してランスロットを強引に逮捕した。違いますか、白鐘警部っ!!」

 

 神山の怒涛の追撃に、周りの疑惑が一気に白鐘警部に集中する。

 ここまでくれば、白鐘警部の疑惑は確実なものになっただろう。すると、白鐘警部はうつむいたままであったが、観念したのかついに顔を上げた。

 

「ふふ、ふふふふふふ。良く調べたようですね。しかし、ここまでバレてしまっては隠し通せませんね、()()()()?」

「へっ?」

 

 だが、こちらの予想とは違い、視線を向けたのはまさかの原灰警官だった。

 

「貴方は私に報告した際に言いましたよね。“私が密輸犯で倫敦華撃団のランスロット卿と共謀していた”と」

「「「「なっ!?」」」」

「なななな何を……? ほ、本官は……」

 

 疑惑の目が自分に向いたとは思わなかったのか、原灰警官は慌てて涙目になってしまった。

 

「ま、まさか……」

「ええ、先ほど貴方たちが仰っていた通り、原灰巡査は記憶をなくしていた。ですが、彼は私を脅した際に言っていたんです。“自分はあまりに顔に出るから事件当時の記憶をなくす振りをする。だから、上手くそのことも隠し通すように。さもないとお前の立場も危ないぞ”と。だから、私は宝月女医や部下たちを欺くしかなかったんです」

「そ……そのような覚えは…………」

「でしょうね。あなたは自らその時の記憶をなくしてしまったんですから。しかし、安心してください。万が一の時に備えて、この方にその時の会話を記録してもらいましたから」

「なっ!?」

 

 白鐘警部はそう言うと、いつの間にか傍らに控えていた警官がその時の記録と称した書類を渡してきた。コピーとあるということなので見せてもらうと、確かに今白鐘警部が口にした内容がそのまま記載されていた。

 

「ははは、私は多少用心深い性分でしてね。部下に傍から記録してもらうのはやりすぎ化と思いましたが、まさかこの性分が役に立つ日が来るとは。お陰で、貴方の存在を公にできたことですしね」

「あば、あばばばばばばばばば……」

 

 突拍子がないが、あまりに具体性のある話に原灰警官は手錠を首に絞めて泡を吹いてしまった。その様子に次の疑惑が原灰警官に移ってしまった。

 まずい、この男は自分が罪を逃れるためにまた別の誰かに罪を着せようとしている。現にこの書類には信憑性がない。だが、自分たちにそれを証明する手立てがない。現に原灰巡査は記憶をなくしていた。記録という証拠を覆さない限り、その間にあったことなど確認のしようがない。

 

(くそっ……まだか鳴上。早くしないと……)

 

「さて、帝国華撃団の皆さん。貴方たちのお陰でもう一人の密輸犯を確保することができました。あとは我々に任せて大人しく」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「異議あり!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、どこからか放たれたその言葉にその場にいた人物の時が止まった。

 

「ふふふ、一度言ってみたかったセリフですわ」

「すみれさん!?」

 

 もはや頭打ちと思われた状況の中、颯爽と現れたのは帝国華撃団支配人であるすみれだった。傍らには悠とカオル、それに見知らぬ男性を引き連れていた。

 

「あ、あれは……!」

 

 だが、その男性を目視した帝都の警官たちは目を丸くして驚愕した。

 

 

 

「「「()()()()っ!?」」」

 

 

 

「「えっ?」」

 

 警官たちが口にした人物名に一同は言葉を詰まらせてしまった。

 一体どういうことだろうか。白鐘警部とはさっきまで自分たちと対峙していた男ではないだろうか。こっちは若々しい男性に対して、あちらは随分と衰弱している熟年の男性。間違えようにも間違えないはずなのだが。

 

「一体、これは?」

「我が神崎重工の探偵部、更には鳴上くんのペルソナの力を持って調べましたの。帝都の郊外にある小屋に縛られていたのを発見しましたわ。しばらく軟禁されていた故にこのように衰弱しておりますが、【白鐘直斗】警部ご本人と見て間違いありません。証拠に、彼の身分証もこの通り」

 

 すみれはそう言うと、男性はおずおずと懐から警察手帳を取り出した。開かれた身分証を見てみると、確かに名前が“白鐘直斗”となっていた。偽造したものではないかと考える者はいたが、警察の身分証はそう簡単に偽造できるものではない。現に、ちゃんと然るべきところに然るべき証明印が押されていた。

 これはこの人物が”白鐘直斗”であるという確固たる証拠だ。それに加えて、先ほどの反応通り帝都の警察たちの反応はまるで正気に戻ったというようなものだったので、間違いないだろう。

 

「となれば、そちらにいるお方はどちらの白鐘直斗警部なのでしょう? よろしければ、貴方の身分証も見せてもらってもよくって?」

 

 すみれの問いかけに件の白鐘警部?はそのまま動かず、だんまりとしてしまった。

 今度こそ、追い詰めた。ここまで決定的な証拠を突き付けられたのでは、反論のしようがない。

 未だにだんまりを決め込んでいるが、悠にはその正体は分かっていた。

 

 

「もう終わりだ、()()()。と言えばいいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くくくくく……まさかここまで見破られるとは」

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、その場にいた全員に寒気が走った。視線が集まるその人物から邪悪な気配を感じた。この気配に帝国華撃団のメンバーは覚えがあった。

 

「我が名は【スクナヒコナ】、お察しの通り禍津日の一員です」

「やっぱりお前が」

「ええ、せっかくあの船員を傷つけて、倫敦華撃団にその罪をなすりつけて我々の計画を遂行する話がめちゃめちゃです。そうすれば、責任は全てそこの間抜けな役人に押し付けられ、我々は今まで通り勢力を拡大できるはずだったのに」

「……あなたが、ランスロットを」

「ですが、ここまで見破られては仕方ありません。落とし前をつけさせてもらいますよ」

 

 白鐘警部もといスクナヒコナはそう言うと、懐から禍々しい赤に染まったカードを取り出した。そして、それを握りつぶしたと思うと、周囲に大型の魔法陣が展開された。

 

 

 

 

Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!! 

 

 

 

 

「こ、降魔!?」

 

 突如、大量の降魔が出現したことにより波止場にいた他の船員たちや警官たちは対応できずにパニックになった。その元凶たるスクナヒコナは目の前の状況に邪悪な笑みを浮かべている。

 計画がご破算になった途端、全てをなかったことにしようと破壊工作を目論む敵の姿勢に対峙していた帝国華撃団は怒りを覚えた。

 

 

 

―カッ!―

「ペルソナっ!!」

 

 

 

 だが、最も怒りを覚えたのはこの男だった。

 状況を把握した悠がすぐさまペルソナを召喚して対応する。召喚したペルソナは先日解放したばかりの女教皇のペルソナ【ハリティー】。

 日本では鬼子母神として知られる女神で、元は人間の子供を食らうという邪悪な鬼。釈迦により百人いる我が子のうちの一人を隠され、戒められた後に改心して以来、子供の代わりにザクロの実を食べるようになった。そして、子供の成育を守る神へと変貌したという逸話を持つ。

 そのハリティーは召喚されて早々、降魔たちを自慢の冷気で凍り付け、次々と粉砕していった。悠の行動に続いて、帝国華撃団総司令のすみれが隊員たちに檄を飛ばした。

 

「神山くんたち、今すぐ霊子戦闘機に乗りなさい! 鳴上くんだけに負担をかけさせてはなりません」

「えっ! でも」

「安心なさい。すでに翔鯨丸であなたたちの機体を輸送してもらっています」

 

 すみれの言葉の後、いつの間にか上空に現れた強襲揚陸輸送空船【翔鯨丸・甲壬】から神山たちの霊視戦闘機が降下された。もしや、すみれはこのような事態を予測していたのではないかと確信するほどの手際のよさに神山たちは感服した。

 

「鳴上くんはそのままペルソナで迎撃しなさい! そして、ランスロットさんの安全の確保をっ! 決して犠牲者を出してはいけませんよ」

 

 はい、と力強く返答した悠は眼鏡をかけて学ランのボタンを全開にする。刹那、ハリティーから放たれた緑色の光が周囲を包み、再びハリティーの豪雪が再び降魔たちに襲い掛かった。そして、そこから悠は怒涛の勢いで降魔を駆逐し、事態に置いてきぼりにされているランスロットの元へと駆け出した。

 

「こ、このっ!!」

 

 だが、事態を把握しきれていなかったのはランスロットを囲っていた帝都の警官たちもだった。混乱して敵味方の区別がつかなくなってしまった者たちは疾走する悠を敵と誤認して切りかかる。

 

 

「二天一流、長剣四の型……“右受け流し”」

 

 

 しかし、悠は迫る白刃に恐れることなく腰にかけた護身用の日本刀を抜刀。神山に教授された型を用いて敵の攻撃を受け流した。

 そのまま悠は襲い掛かってくる警官たちを次々といなしていく。その様子に師範である神山とさくらは弟子の成長に感銘を受けていた。

 そして、警官と降魔たちを蹴散らしてついに保護対象のランスロットの元へと駆けつけることに成功した。

 

「き、君は?」

「大丈夫、もう安心してください」

 

 不安げにこちらを見上げるランスロットだが、悠の言葉に多少安心感を覚えたのか、表情が和らいだように見えた。

 頃合いだと思った悠は、ハリティーをチェンジして掌に青く光るタロットカードを顕現した。その時、

 

 

 

 

バアアアンっ!! 

 

 

 

 

「……っ!!」

「おっと、そうはさせませんよ」

 

 タロットを砕こうとした刹那、何かが悠の頬を掠めた。それにより精神を崩された悠のタロットカードは消えてしまった。

 見ると、スクナヒコナが悠に向けて拳銃を構えていた。

 

「貴方の内なる力は厄介ですが、こうして本人に攻撃を加えれば召喚は不可能」

 

 冷酷に淡々と話しながら“逃がさない”と言うように拳銃を突き付けるスクナヒコナに悠は動きを止めて歯ぎしりしてしまう。

 恐れていた事態が起こった。先日の『君の戦闘スタイルは言わば使い魔を使役して戦う対降魔向きだ。当然切れ者は使い魔の召喚者の君を叩けばいいと、君自身を狙ってくるだろう』という白秋の言葉が現実になった。

 これまでの戦いから、悠のペルソナが厄介だと認識した敵は召喚者である悠に狙いを定めたのだ。

 

「鳴上!!」

 

 霊子戦闘機に乗り込んだ神山たちが悠を援護しようと接近するが、その行く手を降魔たちが阻んだ。

 

「くそっ! そこを」

「おっと、貴方たちも動かないことです。下手をするとランスロット卿ごと彼を撃ってしまいそうです」

 

 くくくと笑うスクナヒコナ。その表情に悠の顔が更に険しくなった。

 先日のジライヤもそうだったが、こいつらの顔は全て稲羽の特捜隊のメンバーそっくりだ。たとえ偽者だと分かっていても、元の世界にいる大切な仲間たちの顔で他人を傷つけようとするなんて腸が煮えくり返る。

 

「それと、狙撃なんて考えないことです」

 

 その言葉に神山たちはハッとなった。

 どうやらあちらもこちらの情報は網羅したのか、出撃した機体にアナスタシアの無限がいないことで察したようだ。所定の場所で愛銃を手に狙撃の準備をしていたアナスタシアも存在がばれたことに舌打ちしてしまった。あちらがこちらの存在に感づいている。このまま狙撃してもいいが、相手が何かしてくるか分からない以上、手出しはできない。

 緊迫した状況の中でも降魔たちは波止場で暴れている。一刻も早くこの状況を何とかしなければ甚大な被害が出てしまう。

 

「わ、私のせいだ……」

 

 ここにきて、悠の背後で蹲るランスロットの心的に追い込まれる状況になってしまった。

 この事態を招いたのは全て自分のせいだ。自分のせいで倫敦華撃団の仲間はおろか、更には帝国華撃団のさくらたちにも被害を与えることになってしまった。

 

 

(私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ私のせいだ)

 

 

 自動的に追い詰められた表情をするランスロットを見て、スクナヒコナの笑みも邪悪になっていった。標的が絶望した際に見せる表情。それが彼にとって至極であり最高の愉悦なのだ。

 

 

 

 

「落ち着け」

 

 

 

 

 すると、割って入ってきた一声がランスロットの沈んだ心を引き上げた。

 

「落ち着くんだ、ランスロットさん。この状況は貴方のせいじゃない。むしろ、()()()()()()()()()()()()()()

「えっ……?」

「貴方は倫敦の人たちが苦しんでいるのを見ていられなくて、心に従って行動した。そのお陰で、あいつを表に引っ張り出すことができたんだ。貴方がしてきたことは間違いじゃない」

「で、でも……」

「たとえ、それを誰かが愚かだと蔑んでも、俺は貴方を肯定する。心が壊れそうになっても、支えてみせる!」

「!! っ」

 

 

「立ち上がれ、倫敦華撃団ランスロットっ!!」

 

 

 放たれた言霊がランスロットの絶望に染まった胸を打ち抜いた。

 ”貴方が居てくれてよかった”。そう言われただけで、目が涙で霞んでしまうほど嬉しかったから。この時、ランスロットは久しぶりに笑うことができた。

 

 だが、

 

 

 

 

バアアアンっ!! 

 

 

 

 

 それは、一発の銃弾に再び奪われた。

 

「それが最後の言葉ですか。何とも……情けないものですね」

 

 悠の言葉が気に障ったのか、もしくは始めからそうするつもりだったのか、スクナヒコナは唐突に引き金を引いた。成す術もなく銃弾は悠の胴体に直撃した。

 その瞬間を目撃した神山たちの表情が一気に青ざめる。ペルソナもましてや霊視戦闘機に搭乗していない生身で銃弾を食らったのだ。生きているわけがない。よしんば生きていたとしても生死を彷徨う重症となるだろう。

 そう皆が最悪の未来を想像する中、当人は

 

 

 

 

 

「……いたっ!」

 

 

 

 

「「「えっ!?」」」

 

 悠はまるで何かぶつかったくらいのリアクションでピンピンしていた。仕留めたと確信していたスクナヒコナもこれには激しく動揺してしまった。

 

「ふ、ふざけるな! 確かに銃弾は胴体に直撃したはずだ。死んでもおかしくないのに、なぜおまえは生きている? 化け物か、お前はっ!?」

「今だっ! アナスタシアさんっ!!」

 

 悠の叫びに我に返ったアナスタシアは構えていた引き金を引く。そして、放たれた銃弾はスクナヒコナの右手に直撃した。

 

「がああっ!?」

 

 銃弾が貫通したことによりスクナヒコナは苦痛の表情で跪く。その一瞬をついて、さくらとクラリスが目の前の降魔を一掃。刹那、あざみが一気に悠のそばへと接近し保護。その周囲で神山の無限が警戒態勢を敷いたことで悠とランスロットの安全は確保された。

 それを確認した初穂とアナスタシアはすぐさま波止場で暴れまわる降魔の掃討に繰り出した。

 

「悠、大丈夫?」

「いっ……な……何とか」

 

 機体から降りたあざみが悠の体調を確認する。銃弾が直撃したにも関わらず傷は打撲程度で済んでいる。更に、直撃した銃弾は何かダイヤモンド並みの鉱物に当たったかのようにへこんでいた。

 あまりに人間業ではない奇妙な事態に普段無表情であるあざみも驚愕を隠しきれなかった。

 

「鳴上、一体どういうことなんだ? さっき銃弾を受けたのに、軽傷で済んでるなんて」

「…………バフです」

「バフ?」

「ええ、俺のペルソナ【ハリティー】を召喚したときに()()()()()をかけていたんです。効果が切れるギリギリだったんで、ひやひやしました」

 

 そう、悠は先ほどすみれからの指示を受けた後、ハリティーの魔法の一つ【マハラクカジャ】を発動していたのだ。一定時間自身の防御力を上げるこの補助魔法で悠は銃弾のダメージを軽減していた。軽減したと言ってもそれなりの痛みは出る。表情には出ていないが、身体には尋常ではないほどの痛みが襲っていた。

 それでも、一発の銃弾を防いだ時点で神山たちにとっては驚天動地なことなのだが。

 

「ひやひやしたって……撃たれた時こっちがびっくりしたぞ。ちょっとは見てたこっちの身にもなってくれ」

「ははは……」

 

 確かに、そうかもしれない。現に一番近くで見ていたランスロットに至ってはこれでもかというほど目を真っ赤にしてこちらを睨んでいた。本当に申し訳ないと心から思う。

 

 

「ふ、ふざけやがって……こんな……こんなああ……」

 

 

 刹那、怨嗟の籠った声が背後から聞こえた。アナスタシアの狙撃で右手を撃たれ、激痛に悶絶していたスクナヒコナだ。傷は深そうだが、それ以上に状況をひっくり返されたことに相当腹を立てている様子だった。

 

「お前は次に“この化け物め”、と言う」

「“この化け物め”……なっ!?」

 

 某奇妙な冒険の主人公よろしく十八番の決め台詞で仕返しをする悠。スクナヒコナの殺気が更に上がったが、どっちが化け物だと思った。

 

 

 

 

「こ、このおおおおおおおおおおおおおおっ!? かくなる上はあああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 

 

 

 その時、雄叫びを上げたスクナヒコナの周囲が黒い靄のようなものが発生し、次第にそれらは大きさを増し、スクナヒコナを中心に収束されていく。そして、

 

 

 

「はははははははっ! この姿ならば、私は無敵だあっ!!」

 

 

 

 スクナヒコナはシャドウ化した。案の定、その姿は直斗のシャドウに酷似していた。秘密結社のロボットを彷彿とさせる胴体とおもちゃのような光線銃。あれを見てすぐに老化の状態付与の地獄が蘇ったが、それでも立ち向かわなければならない。

 悠はよろけながらも神山と肩を並べてペルソナを召喚しようとしたその時だった。

 

「鳴上くん・誠十郎さん、ここは私に任せてください」

 

 応戦しようとした2人の前に現れたのはさくらの霊子戦闘機だった。

 

「天宮さん……でも」

「鳴上くんとランスロットの借りを、ここで返します」

 

 チャキっと刀を抜刀して構えるさくら。さくらの背後から感じる確固たる覚悟と気迫を受け、2人はこの戦闘を任せることにした。

 

 

 

 

 

「ふんっ、内なる力も扱えない分際で。彼の助力なしに私に勝てるわけないでしょう!」

 

 ペルソナ使いの悠ではなく、華撃団の一隊員が立ち向かってきたことに苛立ったのか、スクナヒコナは不意打ちに光線銃を発射する。反応できずさくらは光線をもろに受けてしまったが、ダメージも何も感じなかった。一体何だったのだろうと思ったが、すぐに攻撃に移ろうと攻撃態勢に入る。だが、

 

(な、なにこれ……?)

 

 一歩踏み出そうとした時、機体は動かなかった。これに焦ってどうにか動かそうにも、霊子戦闘機はびくともしなかった。その様子にしめたと思ったスクナヒコナはすぐさま銃弾で攻撃を開始する。さくらはそれに気づくことができず、それをもろに受けてしまった。

 

(一体……どうなってるの……?)

 

 最初の光線を受けてから何かがおかしい。機体どころか、さくらの身体事態の動きが鈍くなったどころか、普段より一つ一つの動きに対する負担が大きすぎる気がする。更に、どこか霊力が戦闘機に行き渡っていないような感じがする。

 どうなっているのか、ふと画面のモニターに映る自分の顔を見た途端、全てが判明した。

 

(きゃ、きゃああああああああああああああああああああっ!?)

 

 モニターに映っている自分の顔が老けていた。正確には伏せておくが10代の顔とは思えない。こんなもの、想い人の神山や弟弟子の悠には見せられない。これがこの一連の違和感の原因なのだと分かったが、これはどうしようもない。

 老化ということは全身の身体能力はともかく、霊力も格段に少なっていること。これでは霊子戦闘機を思うように動かせるはずがない。完全に詰んだ。

 

「くくく……いかがですか? 老化で思うように身体を動かせない感覚は」

 

 まさに電光石火。常人の目では追えぬ速度で攻撃を加えていく。さくらはその攻撃に対して反応することができず、まともに食らってしまった。

 

「きゃああああああっ!」

「さくらっ!?」

 

 強い衝撃を受けたさくらはそのまま波止場の壁に激突してしまう。機体の損傷はそこまで酷くはないが、パイロット自身の精神的・身体的ダメージは著しい。老化というのはここまでダメージが酷くなるものなのか。

 前回のジライヤを名乗る者の事件から分かっていたことだが、この敵は強すぎる。生身の剣術でも適わなかったのだから、シャドウ化した状態であればなおさらだ。今だってこうした状態異常のせいで劣勢に強いられている。今だってみんなには到底見せられない姿になっている上に体力的にも精神的にも限界が近い。

 

「くくく……これで終わりです」

 

 勝利を確信したスクナヒコナは勝ち誇ったように笑みを浮かべて銃を構えた。これで勝った。やはり自分の持つ“老化”の異常付与魔法は無敵だ。目の前の小娘を屠ったら、次はあの青年の番だと次の戦いへの意識を固めていた。

 

 

 それが、自身の敗因になるとは思わずに。

 

 

 

「……はああっ!!」

「っ……なに!?」

 

 

 悠長に構えて少しもしないうち、その刹那に自身の身体に痛みが起こっていた。斬られた感覚が全身を襲う。それを与えたのは……

 

「さくらだけを相手にしてると思ってたら、大間違いよ」

「き、貴様は……!?」

 

 手錠を掛けられたまま日本刀を手に取っていたランスロットだった。自身の獲物は取り上げられているため、悠が使用していた日本刀を使ったようだが、それにも関わらずスクナヒコナに対してダメージを与えられるほどの斬撃を繰り出せるようであった。

 

「今だよ!」

「いけっ! 【リャナンシー】!!」

 

 ランスロットの一太刀が決まった瞬間、悠はペルソナを召喚。リャナンシーの魔法【エナジーシャワー】をさくらに発動させ、彼女の老化状態を回復させた。更に、回復魔法【メディラマ】も発動したお陰で先ほどまでのダメージも軽減され、いつもの調子に戻っていた。モニターを見ると、いつもの若々しい顔に戻っている。これである意味、一安心だ。

 

「ありがとう、2人とも。お陰で……みなぎってきました!!」

 

 弟弟子に回復してもらったさくらは即座に動いた。スクナヒコナがそれに気づいたときにはすでに間合い。もう同じ手は食らわないと言わんばかりに、さくらはついにスクナヒコナに一撃を食らわせた。

 

「ぐおっ……ちっ!?」

 

 スクナヒコナは負けじと反撃を仕掛けるが、全てはじかれた。老化の魔法光線を撃たせる暇を与えることなく、次々に攻撃を繰り出していく。

 そこからは一方的だった。攻撃を躱され、カウンターを決められていくスクナヒコナは驚きを隠せないでいた。先ほどと動きが違う、否洗練されている。一体なぜこんなことにとスクナヒコナは疑問を感じずにはいられなかった。

 

 確かにスクナヒコナは強い。老化という異常付与魔法にしてもそうだが、前回戦ったジライヤと同等、それ以上に強い。だが、

 

(それでも、私の知っている強い人たちの方が強いっ!)

 

 己が目標とする想い人・ライバル、そして仲間たちなら絶対にこんな強敵と対峙する場面に入ってもくじけない。

 己の憧れであり、想い人でもある神山はこれまでもそうだった。どんな強敵だってあきらめずに戦い、華撃団大戦にて帝国華撃団を優勝にまで導いた。

 ランスロットの強さだって、昨年の華撃団大戦で直に味わった。ランスロットとの闘いだって、桜武の性能のお陰で渡り合ったに過ぎないので、勝ったとは思っていない。この無限でこの相手に勝てないようでは、ランスロットに勝てるはずがない。

 

 

 

「やあああああああああああああああああああっ!!」

 

 

 

 そう心に刻んださくらはありったけの力でスクナヒコナにラッシュを叩き込んだ。

 

「ぐうっ……この」

 

 攻撃のラッシュを受けながらも反撃を試みるが、さくらはその隙を与えない。こちらが優勢だった状況が開始数分で一気に逆転されていた。

 

「ばかな……このスクナヒコナが……この私が…………こんな、小娘に……負けるなど」

 

 そうだ、本来ならこんな霊力が高いだけの小娘に負けるはずないのだ。それを許したのは、あの内なる力を行使する未来の青年のせいだ。

 その恨みを込めて攻撃対象をあちらに向けようとした時だった。

 

「鳴上くんとランスロットに指一本触れさせません!」

 

「ぐああああああああああっ!?」

 

 一瞬よそ見をしてがら空きになった胴体にさくらは強い一撃を叩き込んだ。不意に強い攻撃をもらったスクナヒコナは膝をついてしまった。

 

「好機っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼天に咲く花よ…敵を討て!

 

 

 

 

 

 

 

天剣 桜吹雪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……あああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 

 

 

 さくらの必殺技は見事に決まった。急所を的確に撃たれたスクナヒコナは存在を保つことができず、身体にノイズがかかったように崩れかかっていた。

 

「こ、この……恨みは……かなら……ず」

 

 微かな声をそう言い残したスクナヒコナは灰になって消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、終わった……」

「さくら、大丈夫か?」

「え、ええ……何とか」

 

 戦闘が終了した途端、今までにないほどの疲労感と倦怠感がさくらの身体を襲った。老化の異常付与を受けた影響なのか、戦闘が終了した後に一気にぶり返してくるとは思わなかった。

 それにしても、厄介な相手だったと思う。ランスロットと悠の助けがなかったら、一方的にやられていたに違いない。

 

「ありがとう、さくら……神山たち、私のために」

「そんなこと言わないで、ランスロット。私の方こそ、ありがとう」

 

 互いに感謝を示すように照れながらも握手して笑顔を分かち合うさくらとランスロット。

 

「それと、君に一番感謝しなきゃね。ええっと」

「鳴上悠です。気軽に番長とでも呼んでください」

「えっ?」

「おいおい、あれだけえらい目に遭って随分余裕だな」

 

 一番の功労者かつ最もダメージを負った割には余裕な会話をかます悠に初穂は思わず呆れてしまった。だが、ランスロットは思案顔でジッと悠の顔を見つめた。

 

(この子、やっぱり不思議。霊子戦闘機を使わずに降魔を倒した能力もそうだけど、あの刀……)

 

 ランスロットが目を向けたのは先ほどスクナヒコナに攻撃した際に使用した悠の日本刀。霊子戦闘機なしでも相当な実力を持つランスロットでさえ十分に扱えなかった。というより、その刀自体に意志があるような感じがした。だからなのか、その刀はランスロットに扱われることが嫌だったのか、ランスロットにとって十分な力を発揮できなかった。

 そんな不思議な刀を使いこなせる技量、更には沈みかけた自分の心を救い上げてくれた精神を持つ悠に戦闘狂と恐れられるランスロットの好奇心をくすぐるのに、十分過ぎた。

 

「ねえ悠、私と手合わせしてよ」

「えっ?」

「君の剣の腕、興味あるんだよねえ。まるでさくらに初めて会った時と同じでワクワクしたというか。とりあえず、早速やろう!」

「え、ええっと……」

「頼むからここでは勘弁してくれ。それに、その前にやらなきゃいけないことがまだあるんだからさ……」

「むっ……」

 

 事件の黒幕であったスクナヒコナを倒したとはいえ、まだ一連の密輸事件は終わっていないのだ。ランスロットは無実を証明されたとはいえ、今後倫敦華撃団として事件解決にかかりっきりになるだろうから、その事件が終わった後でどうだと神山は提案する。

 神山の仲裁に流石のランスロットの不服ながらも引いてくれた。

 

「それじゃあ、いつものあれをやりましょうか」

 

 いつものあれ、と聞いて皆は示し合うかのように頷いた。そして、是非ともランスロットも一緒にと、こちらを見守るように見下ろす翔鯨丸に向かって、花組一同は一斉に顔を上げた。

 

「行きますよ」

 

 

 

 

 

「「「勝利のポーズ! 決めっ!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日談

 

「それでは、無事に今回の事件の原因となった密輸犯たちは全員逮捕されたと」

「ええ、疑いの解けたアーサーたちが頑張ったお陰らしいです」

 

 あの事件から一週間、事態は収束に向かっていた。神山は今回の事件の全貌を話すべく、帝劇の食堂を訪れていた白秋とテーブルを囲っている。

 疑いを掛けられたランスロット、及び倫敦華撃団の無実は証明され、晴れて通常業務に戻ることができた。そして、黒幕であるスクナヒコナが倒れて組織として機能しなくなった密輸犯たちは全員倫敦華撃団に捕まった。

 この手柄に、今まで倫敦華撃団を密輸犯だと疑っていた人々は認識を改め、本部まで謝罪しに行った事態が急増していると先日アーサー本人から聞いた。その時のアーサーは先日見たやつれた顔と違って生き生きと爽やかだったのを記憶している。

 改めて、ランスロットの無実のために頑張ってよかったなとこの時思った。

 

「そういえば、君たちが助けたランスロット卿はどうしたんだい? 君の話では、密輸犯たちの逮捕には彼女が大方貢献したとのことだが」

「ああ、そういえば……」

 

 先日のアーサーとの通信の際にランスロットの話題になった途端、先ほどの爽やかな表情とは一変して困ったような仕草を見せていた。一体あれはなんだったのだろうと思ったその時だった。

 

「た、大変です! 誠十郎さんっ!!」

 

 突如、食堂のドアが勢いよく開き、慌てた様子のさくらが駆け込んできた。

 

「さくら、どうしたんだ? そんなに慌てて」

「な、鳴上くんが……」

 

 その時、中庭からドカンと大きな衝撃音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの、もう終わり?」

「はあ……はあ…………い、いきなり……」

「ほらほら立った立った。もう一本行くよー!」

 

 さくらに連れられて来てみると、その中庭で悠と倫敦にいるはずのランスロットが試合をしていた。一方的にやられたのか、すでにボロボロな悠だが、それにも関わらずランスロットは容赦なく剣劇を叩き込んでいた。

 悠が静止を懇願しても、まだ続けようとするランスロット。もはや鬼畜の所業と言わざるを得ないので、慌てて仲裁に入った。

 

「ら、ランスロットっ! 何をやってるんだ!」

「おお、神山―! それにさくら、久しぶりー! 元気にしてたー?」

「いや、そうじゃなくて……鳴上くんに何を」

「ああ、悠のことね」

 

 ランスロットはそう言うと、痛めつけられて呼吸を整えている悠を引き上げたかと思いきや、急に腕を抱きしめた。その行為にも驚いたが、その後に更なる衝撃的な発言が飛び出した。

 

 

 

「ねえ神山、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「「はあっ!?」」

「ふむ…」

 

 いきなり現れた上にとんでもないことを言い出したランスロットに混乱が止まらない。悠のテンフラワーが掛けられたわけでもないのに。そんな神山とさくらの動揺を露知らず、ランスロットは喜々と話を続けた。

 

「悠と戦うのが楽しみ過ぎて、ささっと密輸犯共を潰して来てみたらさ、全然だったもん。さくらの鍛え方が足りないせいかもしれないけど」

「なっ!?」

「でもね、悠はまだまだ発展途上ぽいからさ、それなら私の元で鍛えた方がいいかなって。きっと凄腕の剣士になるかもしれないし、こうしてみると可愛いし鍛えがいがあるなって」

 

 まるで新しいおもちゃを見つけた子供のように話すランスロットだが、その言葉を聞いた悠は恐怖した。冗談じゃない、今だって散々痛めつけられたのにあれが毎日続くなんて耐えられるわけがない。

 

「ほほう…彼女もまた見どころが良い。確かに、彼が彼女に元で育てれば、更に強くなるだろうな」

 

 そして、何故か半眼でむくれているさくらを見ながら、愉快そうに白秋がそんなことを言い出した。これには神山も悠が不憫だとそろそろ止めようとした時だった。

 

 

「ダメですっ! 鳴上くんは私の弟子なんです!」

 

 

 師匠の言葉とランスロットに“鍛え方が足りない”と言われてカチンときたのか、対抗するようにさくらがもう片方の腕にしがみついてきた。

 

「あ、あの……天宮、さん?」

「ええ、確かにランスロットの言う通り、今までの鍛え方では足りなかったかもしれません。だから、それを踏まえて更に私が鍛えてあげます! 誠十郎さんの型も様になってきましたから、もっともっと師匠である私が鍛えてあげないと。ランスロットじゃ、鳴上くんが壊れてしまうかもしれないですし?」

「へえ~……でも、私の方がさくらよりもっと頑丈に鍛えることができるよ。さくらの3割増しで」

「わ、私だってランスロットより3割増しで強くしてあげますっ!」

「ねえ悠、どっちがいい? 当然、私だよね?」

「わ、私ですよね! 鳴上くんっ!?」

 

 突如始まったラブコメのような展開に悠は状況の整理が追い付かなかった。しかし、思うのは一つ。

 

 

(何だ、この二択はっ!?)

 

 

 こんなのどっちに転んでも地獄しかない。選ぶのは、どっちの地獄がマシなのかということだけだ。助けを求めようと神山に顔を向けるが、当人は巻き添えを恐れたのか、すでに中庭から逃亡していた。白秋は白秋で面白そうに傍観しているので、当てになりそうにない。

 

 

 

「「さあ、どっち(ですか)!? 悠(鳴上くん)っ!!」」

 

 

 

 迫りくる地獄の使者たちからの選択。状況が最悪であれ、選ぶしかない。ここは……

 

 

 

 

 

「りょ、りょうほう……?」

 

 

 

 

 

 

 それから一日中、帝劇の中庭から苛烈な剣戟音ととある青年の悲鳴が響き渡ったという。

 

 

 

 

 

ーto be continuded




次回予告

いやあ、鳴上が来てから事件が続きで起こってんな。
って、倫敦華撃団の次は上海華撃団かよっ!?
一体何で華撃団が狙われたんだ?


次回、Persona4 THE NEW SAKURA WARS


【激震!龍虎激突】


太正桜に浪漫の嵐!



パワー勝負なら、あたしは負けねえぞっ!
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