ダンジョンでハイエルフに出会うのは間違っているだろうか   作:98zin

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妖精の加護

ベートさんが新たに現れた、脱皮?をした食人花に向かって駆け出した頃。

広間の端で僕は死に物狂いで迫りくる触手を避けていた。

「ハァ!ちょっと...!多くない!?」

両手は抱きかかえているロキ様でいっぱいで、バランスをとるのが難しい。おかげで普段のような動きが出来ず、上手く走れない。

「おぉー!自分やるなー、頑張れー」

腕の中には愉快そうにはしゃぐロキ様。なんでそんな余裕でいられるんですか!?

そう聞きたいのは山々なんだけど、口を動かす暇があるぐらいだったら走らないと死ぬ!

空間の中央ではベートさんが数多の触手を捌きながら、本体へと攻撃を繰り出している。

が、なかなか有効打を与えられず攻めあぐねているようだ。

打撃は効かない、さっきのように魔法、魔力で攻撃しないと意味が無いんだ。

今も地面から現れ続ける触手。明らかに量がおかしい。さっきの脱皮する前の食人花が出していた触手の2倍はある。

さっきから腰に差さっている魔剣に手を伸ばそうとしているベートさんだけど、物量が多すぎてなかなかその隙を与えてもらえない。

触手のばらけ具合は、8:2ぐらいでベートさんが大半を捌いてくれている。

多分食人花は一度致命打を与えられた相手を警戒しているんだ。おかげで僕は、なんとか柱の陰を利用したりして触手から逃れているけど、それも時間の問題だ。

暴れ狂う触手は柱や壁を破壊し、遮蔽物を徐々に失くしていっている。さらにこのまま破壊が続けばこの地下空間は崩落する。

こんなやつを地上に出してしまったら、怪物祭(モンスターフィリア)どころの騒ぎじゃない。

それはベートさんも分かっているはずだ。時折、微かだが見えるベートさんの顔は焦りで歪んでいるようにも見えた。

「くっ!このままじゃ...」

ジリ貧だ、そう言おうとした時、不意に死角から触手が放たれる。反射的に足を振り上げ、紙一重で躱す。

危ない、喋ってる余裕なんて!?もう一度襲来した触手群の間をすり抜けなんとか落ち着く。

ベートさんが暴れてくれているおかげで量は少ないが、(Lv1)にとっては充分脅威な量だ。

「なぁ、自分なんで生きてるんや?」

さっきの奇跡的な回避を見ていたロキ様は1つ呟きを漏らした。

腕の中から聞こえてきた声。それは純粋な疑問だった。

僕だってそう思う。

「僕が、、死んだら!ロキ様も、死、にますよ!?」

まるで一本一本が意志をもって行動しているような複雑な動きでやってくる触手をジャンプや緩急のある動きで何とか避けながら答える。

「やけど自分駆け出し(Lv1)のはずや。やっぱりなんかあるんとちゃうか?」

「なんも!無いです、、ってばっ!」

いや、あるにはある。と思う。おそらく雫の呪詛(カース)の効果が切れて、魔法妖精の加護(フェアリー・ピレイン)が発動したんだ。

昨日雫にしばらくバーティを組まない宣言をされてから24時間経ったんだ。

そうだよね!全然危機的状況だもんね!

両手が塞がって武器でガードすることも出来なければ、いつもと重心の位置も違う。

それでも首の皮一枚繋がっているのは妖精の加護(フェアリー・ピレイン)の効果、ステイタス大幅上昇、のおかげだ。

駆ける足の回転は今までになく速い。だけどそれでようやく触手よりちょっと速く動ける程度。

なんとか2人分の命を繋ぐだけで精いっぱいだった。

 

「死ぃぃぃねぇぇぇえぇ!!」

 

その時、突如響いた怒号。

ハッとして中央を見ると物凄い形相で食人花を睨むベートさんが。

...こわ。

「あーあ。キレてもうたわ」

ロキ様曰く、キレたらしい。食人花の奇声と同声量で叫ぶベートさん。

魔剣をなかなか出さしてもらえず、ちょこまかと邪魔ばかりをする触手に痺れを切らし本体に突貫するのが見えた。

彗星の如く飛び出したベートさんは一直線に顔面目掛けて蹴りを繰り出す。

入った!そう思った。

しかし数十本の触手が顔面の数M(メドル)前で瞬時に盾を作り、それを余裕でガードした。

全力の蹴りを容易くガードされたベートさんは、こんなに離れていても、ブチブチと聞こえそうなほど、怒り狂っていた。

「ウガアァァァァァッ!!!」

もはやどっちがモンスターか分からないほど顔が怖い。

腕の中では、ハハハッ!と自身の眷属のキレ具合をみて腹を抱えて笑う主神が。

...なんで僕この(ひと)抱えて逃げてるんだろう。

緊張感のないロキ様を食人花の餌にしそうになる。

そこで僕は不意に魔法の()()()()について思い出した。

「......」

ベートさんの暴れっぷりに触手が多少向こうに行き、考える余裕が生まれた僕は全力で仮説を組み立てる。

もし、失敗したらただじゃすまないことは分かっている。だからまずこの状況で確認することにした。

「ロキ様、もしヤバかったら言ってくださいね」

「え、ナニ、ヤバいって...」

妖精の加護(フェアリー・ピレイン)!!」

その瞬間、僕の体は風に包まれた。

「なんや!?アイズたんか!?」

全身を取り囲む風は薄い水色に彩られ、目に見えるほど濃密に渦巻いていた。

ロキ様の言うアイズさんの魔法と酷似している。だけどアイズさんほどの出力はない。

魔法の発動の仕方何て分からない。だから僕はただ、リヴェリアさんと練習した魔力の循環を体全体で実践した。

「上手く、いった...!!」

まず仮設の第一段階、クリアだ。

しかし初めて任意で発動できた魔法にウキウキワクワクの余韻に浸らせてくれるほど、食人花は我慢できなかった。

魔法、魔力に反応した食人花は目の前にいるベートさんに目もくれず全ての触手をこちらに向けてきた。

「アルファ!?なんかいっぱい来たでぇぇ!?」

突如として標的にされ流石に恐れを感じたロキ様が僕の首筋にがっちりと掴まり悲鳴を上げる。

「しっかり、掴まってて、ください!!」

体全身にみなぎる力を信じ、僕は足を一歩踏み出した。

「うぉっ!?」

踏み込んだ足に力を入れた瞬間僕の視界は、ブレた。

風を纏い触手の大群に向かって進んだはずが、今僕は中央に居たベートさんから少し離れたところに居る。

「やば...」

自身が起こした状況に自分自身でも驚きを隠せない。纏う風は轟々と空を切り、まるで僕を守るようにそこにあった。

「なんや自分!こんな魔法あるんやったら最初から使いーや!」

「今日初めて?発動したんです」

正確には初めてじゃないので思わず疑問形を口にしながら説明する。

僕を逃がした触手群は一斉に方向転換しまたまたこちらに向かってやってくる。

よし、第二段階、というか後は僕が囮になって、ベートさんの魔剣を使う時間を稼ぐだけ。

こうして触手から逃げることは出来ても、きっと(LV1)の力じゃ食人花の耐久を凌駕するほどの攻撃力は出せないだろう。

そこでベートさんにさっきの火力を出してもらう訳で...

「ベートさん!」

「なんだァァァ!?」

今にも本物の狼になりそうな勢いで声を張り上げるベートさんに多少引きつつ言葉を続けた。

「30秒くらいあれば十分ですかっ!?」

何がとは言わずとも通じたようで叫び殺さんばかりの怒号が返ってくる。

「10秒で十分だボケェ!!」

なんで僕がボケって言われないといけないんだろう...

白目を向いてそうな勢いで、フゥーッフゥーッ、と息を荒くするベートさん。下手したらそこら辺のモンスターよりモンスターしてるよ、あの人。

「じゃあ、お願いしまーす!!」

後はお願いしますの気持ちを込めて、彼らの主神であるロキ様を放り投げる。

「うぎゃーーー!!??」

突然投げられたロキ様本人は悲鳴を上げながら綺麗な放物線を描く。

それをなんと片手で受け止めたベートさん。スゴイ。

なんとか地面に下ろされたロキ様は離れたところから僕に向かって文句を飛ばした。

「よそのファミリアの主神を投げるバカがおってたまるか、ボケェェ!!」

またまたボケとはやっぱり子は親に似るんだろうか。

それにバカかボケ、どっちかにして欲しい。

しょうがないじゃないか、だってもうそこまで触手が来ているんだから。

と心の中で言い訳しつつ、本音は不満で溢れかえっていた。

まず、ベートさんが苦手。リヴェリアさんのことをババァ呼ばわりして。ガキガキ言うし、名前だってちゃんと教えてくれなかった。

次にロキ様も苦手。いくらリヴェリアさんの主神だからって、必死に逃げている僕の腕の中でのうのうと笑ってたり、「やっぱりなんかあるんとちゃうか?」ってまだ疑われてるし、許すまじ。こっちは必死に触手から貴女を守ってたのに。

ちょっとくらい怖い思いしてもらってもいいじゃないか。沸々と沸き上がる黒い感情を少しだけ零す。

そんなどうでもいいことを考えてる間に触手の群れが目の前まで迫ってきていた。

「10秒くらい、やってやる!」

頭から雑念を振り払い目の前の敵に集中する。

正直、10秒全力で逃げまわったら魔力が持たない気がする。さっきの大跳躍で感じた、自分の中身がゴソッと持っていかれる感じ。きっとそれが魔力なのだろう。

それをさっきの勢いで使い続けたらきっとすぐにまた精神疲労(マインドダウン)するだろう。

なんとか抑えながら、それでいて触手に負けない速さで...。

「こうッ!!」

何ともダサい掛け声で走り出した僕は触手を次々に躱していく。

魔法に反応する食人花は全力で僕を追いかけてくるけど、なかなか捕まえられない。

ベートさんよりは遅い速度なのに捕まらない理由は、僕が攻撃していないからだ。

(3秒...)

攻撃するには必ず相手の体のどこかを狙わないといけない。ベートさんは頑なに本体ばかり狙っていたので、防御を常に体付近で行えば食人花(じぶん)より速い速度のベートさんの攻撃も防げる。

それの逆で、さっきの食人花が僕だ。

触手の猛攻も、一人間を捕らえるという点では厳しいものがあるらしい。

実際多すぎるその触手たちはお互いにぶつかりあい、なかなか僕までたどり着けない。

(6秒...)

ただそれも僕のほうが速さが勝っていれば、の話。さっきまであんなに出来ていた魔力の循環が不安定になってきている。

多分、魔力の低下と、動き続けているからだ。

動き続けることで魔力の制御が上手くいっていない。

徐々に遅くなる僕の速度に追いつきはじめる触手一同。

ここまでなんとか勝っていた速度が急激に落ちる。繰り出された触手たちが僕を徐々にとらえ始めた。

頬を掠める触手に血を流し、危うく寸でのところで避けた横薙ぎの攻撃。

(8秒...!!)

体に酸素が行き渡らない、完全に慣れていない速度で動いた弊害だ。

体が魔法に追いついていない。

ここでついにもろに攻撃をくらった。

縦に振られた触手攻撃に腕だけなんとか反応し、頭の上で交差させガードする。

黄緑の触手と僕の腕が触れた途端、途方もない衝撃が腕を襲った。

あ、折れたわ。

そんな味気の無い感想と共に数十M(メドル)も吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。

「いっったぁー...」

完全に両腕、イッた。妖精の加護(フェアリー・ピレイン)のおかげで体にダメージはあまりないけど、腕の感覚が無い。

体の周りの風も弱々しいそよ風程度になっている。

流石にLv1の耐久じゃ一撃で沈む。

ようやくとらえた獲物(ぼく)に雄たけびを上げながら食人花は触手をこちらに向けた。

「10秒...もう、僕の役割は、終わったよ...」

その言葉と同時に、パキンッと結晶がはじけるような音が聞こえた。

 

「クソヘビがぁぁぁあ!!こっち向けェェ!!」

 

それはベートさんが使っていた魔剣が砕け散った音だった。

見るとそこには鬼の形相を浮かべたベートさんが。もう目が吊り上がりすぎてて誰だかわからない。

それにようやく気付いた食人花は命の危機を感じ触手を中央、本体に集めた。

ベートさんの足には地面すら焼き殺さんばかりの炎が宿っていた。

あれ、怒りで増幅したりするの...?

そう思うくらいさっきの炎とは比べ物にならないくらい燃え盛っている。

「ウガァァアァ!!」

走り出したベートさんは一瞬で最高速まで加速した。というかもう全く見えない。

見えるのは次々に蹴り飛ばされているであろう触手たちと、微かに残る緋色の軌跡だけ。

まるで天を駆ける雷霆のように空を切る炎は徐々にその大きさを増していく。

「ただ闇雲に駆け回っているわけじゃないんだ」

移動を続けることで足の炎に空気を送り込み大きくしているんだ。

理性を失っているようでまだ保っているのか、それとも本能でどうしたら攻撃力を上げられるか分かっているのか。

どちらにしろ僕のあずかり知れるわけではないけどそんなことを思った。

次々に蹴り倒されていく触手たち、残るは本体周りに数本、数える程度しか残っていないタイミングで緋色の軌跡は食人花の真上へ飛び出した。

ようやく姿を現したベートさんに食人花は怒りの声を上げ残りの触手を全て攻撃に送り込む。

天井まで跳びあがったベートさんは、その足を天井に着けグッと踏み込むのが見えた。

「消し飛びやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!」

砲声と同時に天井を蹴りだしたベートさん。一瞬で蜘蛛の巣のように罅が生じ天井が破裂する。

崩落する瓦礫よりも速く、音を置き去りにする勢いで突貫する。

天から降り注ぐ炎塊はベートさんを包むように広がり、まるで巨大な炎の矢のような形を成していた。

足の周りの空間は熱で歪み、とんでもない音を鳴らしながら進む。

食人花はたった数本の触手でそれをガードしようとするがまったくもって意味がない。

足の周りの高温の空間に触れた瞬間、表皮が一瞬で燃え始め、蹴りの勢いで左右に弾かれる。

ベートさんの怒りの一撃は何にも邪魔されることなく食人花に直撃した。

瞬間、爆裂。

凄まじい速度と、効果力の攻撃が食人花を真上から圧殺する。

顔面にとてつもなく大きな花火を咲かせその体さえも爆散させていく。

縦一直線に食人花の体を蹴り裂いたベートさんは地面に埋まってしまったその右足を豪快に引き抜いた。

「クソがっ!」

ガラガラと天井が崩れ落ちる音の中、真っ二つに裂け顔を失くした食人花に唾を飛ばす。

 

とまぁ、案の定そこで僕の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽がすっかり沈み夜の帳が降りた頃。ロキ・ファミリアのホーム、黄昏の館では首脳陣による報告会が行われていた。

酒樽や酒瓶、何が入っていたかも分からないボトルがそこかしこに転がるロキの自室。

集まっていたのはリヴェリア、フィン、ロキ、そして昏睡状態のアルファだった。

流石に何度もロキファミリアに他派閥の者が出入りしていると内部からも、外部からも怪しまれる。

しかしロキとしてはやっぱりいろいろ聞きたいことがあったのでアルファが目を覚ますまでホームに居てもらいたかったのだ。しかし、いつ目を覚ますか分からないアルファをこのまま保護、というか軟禁していると、なかなか帰ってこない眷属にガイアが心配してしまう。なのでガイア・ファミリアのホームを知らないロキはギルドに手紙を依頼し、ガイアに「自分とこの子、アルファ。今日はうちんとこにお泊りしてくわー」というかるーい内容の手紙を飛ばした。手数料はかかったがアルファから得られる情報料と思えばいいだろうと躊躇なく払った。

 

「まず、どうしてアルファがここにいて、ロキのベッドに寝ているのか説明してもらおうか?」

 

ロキに呼び出され部屋にやってきたリヴェリアは入室するとともにロキのベッドに横たわるアルファを見つけきつめの語調でそう神に問いただす。まさか他派閥の眷属に手を出したのか、(ひと)の道を踏み外したのか、と言外に伝える。

リヴィラの街であった出来事を報告するためにフィンも部屋に居るのだが初めて見る少年の寝顔と、リヴェリアの剣幕にとりあえず黙って話の行く先を見守ることにした。

「まぁまぁ落ち着いて。これには深ぁーい訳がありまして」

実際にはただ「アルファも調査に連れてったら食人花見つかるんじゃね?」的な発想で巻き込んでしまったのだが、それを今のリヴェリアに、正直に言えば拳骨が降ってくるのは間違いないだろうと思い伏せる。

ただ変な勘違いをしているのもそれはそれで面白いので今は流してみることにした。

「はぁ、とりあえず呼び出した理由を聞かせてくれ。私たちも報告すべきことがある」

リヴェリアは両目を瞑り、主神の言葉にため息を吐いた。

一時ではあるがリヴェリアの追及を避け拳骨の危険から逃れたロキは地下水道での出来事を話し始める。

「実はな、今日ベートとアルファと食人花を見つけたんや。相変わらずきっしょかったわ。それでしっかり倒したんやけど、そのあとこんなもんが落ちてたんや」

そう言って机の上に置いてあった薄紫の花を摘まみ上げる。

それはもう萎れかけているが辛うじて形を保っていて、茎から伸びる花はあたかも鶏冠のようにも見える。

初めて見る花にフィンとリヴェリアはまじまじと観察する。

毒々しい雰囲気を醸し出すそれを左右に揺らすロキはこう続けた。

「でな、今回の食人花ちょいと特殊やったん。ベートが一発とどめを刺したあと、脱皮してもう一回襲ってきよったんや。まぁ強化種やったんやけど。以前アルファが言うてたようにどこぞで魔石でも喰らってきたんやろな。キレたベートがもう一回トドメ刺して魔石まで木端微塵にしてもうたんやけど、触手が生えてたところにこいつが落ちてたん」

「不思議だな。地下水道に花が咲くとは思えないし、モンスターから出てきたとも信じがたい」

「そうだね。何か関係があるのかもしれないけど今の僕達にはさっぱりだね」

お手上げとばかりにそれぞれの意見を述べロキを見やる。

2人の反応を見て、今までにはなかったものだということが分かっただけで十分だと花を机の上に戻す。

「ほんで?2人の報告って?」

もう自分の話は終わったと椅子に深く腰掛け首領と副首領の話を聞く体勢に入る。

リヴェリアとしてはアルファの事について問いただしたい気持ちもあるが、まずは報告が先決だとリヴィラの街での事件について切り出した。

 

ガネーシャ・ファミリアの冒険者、ハシャーナが何者かによって殺されたこと。

その何者かが赤髪のおそらくLv5相当の調教師(テイマー)だったということ。

彼女が、『アリア』という名前を知っていたこと。

また、食人花がリヴィラの街に現れたこと。

おそらく強制的に強化された強化種が現れたこと。

 

半日で起きた出来事としては少々多すぎる量にロキの頭はパンクしそうになっていた。

「...ざっとだけどこれで全部かな。今日起きたことは」

リヴェリアが話す内容をフィンが補足する形で行われた報告。そしてロキは全て食人花関連であることに頭を抱えた。

「まぁー情報があるようで無いなぁ。起きたことは多いんやけど、それが何故、どうして、の部分が見えてこやんから厄介やな。この案件は」

「そうだね、分かったのは食人花の群れを統率する調教師(テイマー)が居ることと緑の宝玉?を狙っていたことかな」

残念ながらそれは食人花に寄生し失われてしまったので地上に持ち帰ることは叶わなかったが。

部屋には少しの沈黙が訪れ、誰しもが脳内を整理していた時だった。

「うーん...」

部屋に響いたのはアルファのダルそうなうめき声だった。

バサッと布団を落とし、上半身だけ起こしたアルファは寝ぼけ眼で部屋を見渡す。

「...ここは?」

まだ完全に脳が覚醒していないアルファは自分が夢の中に居るのか、はたまた起きているのか判断がつかない。

「おお、起きたか!」

「あれ?ロキ様...と、リヴェリアさん!?」

声がするほうを向けば朱色の髪を揺らすロキがいて、さらに首を動かせばそこには心配そうな目で見るリヴェリアがいた。

その姿を目視した瞬間、頭にかかっていた(もや)は完全に吹き飛び、背筋を伸ばし声を張るアルファ。

「僕もいるんだけどね」

ひょいとリヴェリア陰から顔を出す金髪の小人(パルゥム)を視認し目をこするアルファは申し訳なさそうにゆっくりと首をかしげる。

「ははっ。冗談だよ。会ったことないよね?初めまして、僕はフィン。君の名前は?」

アルファは自分が置かれている状況を覚醒した頭でも把握しきることが出来ずにひとまず名前を名乗る。

「アルファです。ガイア・ファミリアのアルファ・イロアスと言います」

「よろしく、アルファ君」

「よろしくお願いします」

丁寧にあいさつをしてくれるフィンに、アルファに、互いに好印象を抱く

「アルファ、お前の口から聞きたいのだが、どうしてここにいるんだ?」

ロキを横目に制しながら穏やかな口調で尋ねた。

「僕もあんまりわかんないんですけど、確か僕、また精神疲労(マインドダウン)したんです。よね?」

「せやで」

アルファは淡々と返ってきた答えにホッとしたのか安堵の顔を浮かべるが、しかしやっぱりまた迷惑をかけたと申し訳ない表情を浮かべたりと忙しい。

リヴェリアは懸念していたロキの愚行ではなかったことにひとまず安心する。

しかし、ならば何故、アルファが食人花の調査に関与していたのかが気になってくる。

「もう1つ聞くが、どうしてロキとベートと行動を共にしていた?」

アルファは質問の通り、どうしてロキとベートといたのか、どうして精神疲労(マインドダウン)してしまったのか思い返した。するとニヤニヤしたロキに肩を組まれている情景を思い浮かべ、少しだけ意趣返しをしたくなった。

「ダンジョン探索が終わった後にホームへ帰ろうとしたらロキ様に攫われました」

「人聞きの悪いこというなぁ!?」

「ロキ、貴様よそのファミリアの子を攫うとはどういう了見だ?」

「だから、これには深い、深ーい訳があって!?」

「問答無用。なんにせよまたアルファを厄介ごとに巻き込んだんだ」

ゴツンと振り上げられたリヴェリアの拳がロキの脳天に落とされる。

アルファが少しだけニヤリとしながらロキを見れば「こんのガキィ...」と頭をさすりながら睨んでいる。

「はぁ、無事だからいいものの、アルファはまだLv1だ。そんな少年を未知のモンスターの調査に駆り出すとはどうかしてるとしか言えないぞ?」

「いや、そうなんやって!何で無事なんかが不思議でたまらんのやわ!こいつ強化種の攻撃をしばらく避けて、そんで一撃くらっても生きてんのやで!?」

ギャイギャイと言い訳がましく並び立てるロキにもう一度拳骨を落とすリヴェリア。

再度飛来した拳に沈黙するロキ。

アルファはロキの言葉によってようやく腕の異変に気付く。

「あれ、腕が動かない」

というか痛い。と意識を腕に向けたことによって脳が痛みを認識し始める。

アルファの異変に気付いたリヴェリアはアルファが乗るベッドに歩み寄り腕を触診する。

「いだだ...」

「すまない」

明らかに腫れている両腕に驚きすぐさま治療に入ろうとするが痛がるアルファにさっと腕を引く。

「折れてる、な」

ロキの言う通り強化種の攻撃を受けて生きてはいるが、腕は無事ではなかった。

腕のいたるところで内出血を起こし痣が出来ている。

ひとまず腕を固定しこれ以上悪化させないようにしなければとリヴェリアはどこからか包帯を取り出した。

「少し我慢しろ」

「すいません、ありがとうございます」

優しく腕をとり包帯を巻いてくれるリヴェリアにアルファは感謝の言葉をおくる。

憧れの存在にまたもや介抱されている自分に腹が立つとともに、嬉しさがこみ上げ、そんな自分のどうしようもない感情にまた腹が立つ。

「あとはこれを飲んでおけ」

そう言って腰のポーチから取り出したのは鮮やかな色をした液体が入った試験管、高等回復薬(ハイ・ポーション)だ。

アルファに手渡そうとしたリヴェリアだがそうできない事実に気づく。

アルファの両腕は今自分が包帯を巻いたばかりで、さらには動かすことは出来ない状態だ。

中途半端に差し出した高等回復薬(ハイ・ポーション)を少し引っ込めやっぱり差し出す。

「口を開けろ」

そう命令し、試験管をアルファの口元へ近づけた。

「へっ?あ、え?」

物が物だが、リヴェリアに飲ましてもらうという行為に戸惑いを隠せないアルファは情けない声を漏らした。

グイっと差し出された試験管から中身が零れそうになり慌てて口で蓋をするアルファ。

リヴェリアはアルファの飲むペースを考え、丁寧に、中身を零さないように試験管を傾ける。

「ぷはっ、ありがとうございます...」

恥ずかしさのあまりしりすぼみになるお礼にリヴェリアは「まったく世話の焼けることだ」と立ち上がる。

リヴェリアは何故かニヤニヤしながら「母親(ママ)にも春が...」と呟くロキにはもう一度拳骨を、笑みを零さないように必死に耐えるフィンをキッと睨みつける。

ただフィンは彼女の顔がうっすら赤くなっているのを見逃さなかった。

「コホン、ともかくこれ以上アルファに迷惑をかけてはいけない。以前もミノタウロスの件でも迷惑をかけた。謝罪をすることはあれど彼を疑うことは許しはしないぞ」

はっきりそう告げるリヴェリアにロキは不満そうな顔を浮かべた。

「えー、コイツ絶対重要参考人やと思うのに~」

「仮にそうであったとしても危険にさらす必要が何処にある?」

「ちぇ~」

ロキはあからさまにアルファの肩を持つリヴェリアに口をとがらせ渋々納得する。

一連の様子を見ていたフィンは面白おかしそうに口をはさんだ。

「とりあえず、今日はもうお開きにするかい?アルファ君も疲れているだろうし」

「そうだな。こんな時間にその怪我で1人外に放り出すのは流石に気が引ける。今日は客間に泊まっていけ。明日の朝もう一度怪我の様子を見てから帰そう。せもてもの償いだ」

ロキの部屋ではいろいろと不安なところがある、と続けるリヴェリアにアルファは、なんだかとんでもないことになったなと他人事のように思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お泊りか~」

ボロボロの風車小屋の地下、扉の前に置いてあった手紙を読み1人呟くガイア。

今日はずっと1人だということを理解し寂しく感じる部屋を見渡す。

「ロキもいろいろ嗅ぎまわってるみたいね」

座っていたソファから立ち上がり壁に掛けてあったガイアにとっては少し大きめの外套を身に纏う。

手紙をビリビリと引き裂きゴミ箱に捨てたガイアは扉を開け、階段を上り、月明かりの下へ繰り出す。

黒い外套を纏ったガイアの姿は夜の世界に溶け込んでいた。

ゆっくりと歩き始める彼女が向かう先は黒天を突き刺し、地上を見下ろすバベルの塔だった。




リヴィラの街で起きた事件はちゃんとこの世界線でも起きてます。
ベルもリリと頑張ってダンジョン探索してます。
ロキがディオニソスと話したことも、ウラノスに確認しに行ったこともやってます。
その時ベートはずっとアルファをおんぶしてました。
顔面を異常に歪ませながら。
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