ダンジョンでハイエルフに出会うのは間違っているだろうか   作:98zin

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いざダンジョンへ

ホームにたどり着いた後、僕はまた神様に怒られてしまった。そんなの当たり前で、僕が全面的に悪いんだけど。

どうしてロキ・ファミリアのホームでお泊りをしたのか、その怪我はどうしたのか、根掘り葉掘りいろんなことを聞かれ、気づいたら外はもう日が落ちるころだった。

 

「まぁ、アルファ君が無事なら何も言うことはないわ。ちょうどいい時間だし、ご飯にしましょ」

 

いや、もう充分言われたんですけど...

長時間正座をしながら、お説教をいただいていた僕は痺れる足を叱咤(しった)しながら神様と一緒に狭い調理場、もといただの水道しかない場所に立った。

「ホントに便利ねー」

そう言いながら使用しているのは、魔石コンロだ。この神時代、魔石を使わない家庭用製品なんて滅多に無い。

ましてや、オラリオで魔石を使用しないで生活をする人なんて絶対いないよ。

チチチチチッと小気味良い音を鳴らしボウッと火が付く。

その上に少し焦げたフライパンを置いた神様は、バイト先からもらってきた牛肉を細かく切って入れる。

僕はその横で付け合わせの野菜を盛り付ける。流れるきれいな水で土を落とし、汚れを取り払った。

横で煙にむせる神様を見かねて僕は背伸びをして少し高いところにある天窓を開けた。

西日がちょうど目に入り目を細めて外を見る。その時、茜色に焼ける空を見ていた僕は天啓に打たれた。

「か、神様!ずっと引っかかってたことが、今分かりそうな気がします!天啓が降りました!」

窓から顔を戻し空の色と同様に染めた僕を見て神様はため息を吐いた。

(わたし)の前で天啓が降りるとか言う?」

「魔法です!昨日初めて使った魔法!いや実際には初めてじゃないですけど!」

「魔法がどうしたの?」

興奮する僕と温度差が凄い神様はやっぱりまだ少し怒っているみたいだ。

だけど!今思いついちゃったんだよ!

手慣れた様子で焼きあがった牛肉を皿に移し机に運ぶ神様に僕は続けた。

元素(エレメント)!僕の魔法です!昨日食人花と戦った時に風が出たって言いましたよね?」

「うん、凄い速さで動けたってヤツね」

「それです!あの時僕は速く動きたい!って思いながら魔法を発動したんです。あの時起きた風は僕の意思を汲み取ってくれたんじゃないかなって」

いただきます。と手を合わせ、僕らは食事をしながら魔法について考察し合う。

元素(エレメント)って何のことか全くわからなかったんですけど、たぶんそういうことです!...あ、おいしいですね。この牛肉」

美味しいごはんをゆっくり味わいたいところだけど、自分の魔法について分かったこと、分かりそうなことを確認したい気持ちも強い。

熱々のお肉を頬張りながら僕は考察を続ける。

「そういうことってどういうことよ。ちなみにソレはピーちゃんよ」

「名前付けてたんですか...。食べづらくないんですか?」

「大丈夫よ。命をもらうことに感謝して食べてるわ。で、どういうことなの、元素(エレメント)って」

モグモグとピーちゃんを頬張る神様はさっきの疑問をぶつけてくる。

頭の中に浮かんでいた、茶色い牛のピーちゃんに感謝しながら僕は説明した。

「さっき、火、水、土、って目に入った時に思い出したんですよ。お祖母ちゃんの部屋にあった本を」

僕がそう言いながら思い浮かべたのは、かつてお祖母ちゃんの部屋を掃除していた時に見つけた古めかしい本だった。

いつお祖母ちゃんが帰ってきてもいいように、思い出が褪せないように、毎日のように掃除をしていた。

その時お祖母ちゃんが持っている大量の蔵書のうちの1つに神聖文字(ヒエログリフ)で『元素(エレメント)』と書いてあるのを思い出した。

埃を払っている時に腕が棚に当たり1つ本が落ちてきたのだ。

ぱさっと床に対して開いた状態で落ちたその本を拾い上げた僕はその中心に書いてあったものをまだ覚えている。

少しだけお祖母ちゃんに習った神聖文字(ヒエログリフ)を使って解読しようと試みたんだけど、ちゃんと読めたのはその見出しの『元素(エレメント)』と下に図と共に表記されていた『火、地、気、水』という単語だけ。

内容は少しだけ、飛び飛びだけど、読めた内容はこれだけ。

『自然.....司る.........妖精......』

とまぁ、よくわからないけど、おそらく自然に由来する何かなんだろう。

「なるほどね。よくわからないわ」

「そうですよね...」

生き生きと説明した元素(エレメント)のこと。神様はよくわからないの一言で一蹴し、黙々とご飯を食べ進めていた。

確かにこれじゃあ元素が何なのか、それは説明できていないけどきっとそういうことなんだろう。

僕は、火と水と...地?土?と......気ってなんだ?

まぁとにかく、火と水を出せる魔法を持っているんだ!

元素(エレメント)を生成する』

なんて書いてあったけど、きっとこの魔法は火と水を使えるってことだ。

あれ、じゃあなんでこの前は、アイズさんみたいな風が...?

うーん、分からない。

この時僕は頭の隅で引っかかる違和感を見つけることが出来なかった。

「そういうのは追々見つけていければいいと思うわ。ひとまずすぐに精神疲労(マインドダウン)しないようにしてね」

「はい...」

「ご馳走様。あ、アルファ君。あなた今日は私を心配させた罰として、私と一緒に寝ることね。異論は認めないわ。神の決定よ」

「い!?」

スタと立ち上がり食器を手早く片付けていく神様。

彼女から告げられた言葉に思わず噛んでいたピーちゃんのお肉じゃなくて自分の舌を噛んでしまう。

「り、理不尽だ...」

その言葉にニヤリと吊り上がっていた神様の顔はとても楽しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん...」

天窓から入り込む光を瞼の外側から受け目を覚ます。

体に掛かる布団以外の重み、僕に覆いかぶさるように寝ている神様にギョッとするがすぐに昨日の神様の言葉を思い出す。

神様を心配させた罰として、添い寝、と言うより、神様の抱き枕となって一夜を明かした。

もちろんいかがわしいことなんて微塵もする気はなかったし、神様も僕がそんなこと出来ないのを分かって発言したんだろう。

僕は柔らかい女性の感触にトギマギしながらもなんとか眠りにつくことは出来た。

「...」

仰向けで寝ていた僕の上でうつ伏せで爆睡する神様。はだけかけている衣服の隙間から見える生々しい肌の艶とかもう甘い香りとか...

悶々とする気持ちと同時に僕は、少しだけ懐かしさを感じていた。

お祖母ちゃんと2人で過ごしたあの森の家で、僕達はよく一緒に寝ていた。

優しい彼女の手に抱かれ、何も恐れるものは無いと思っていたあの頃が懐かしい。

そんなことを考えながら微睡(まどろ)んでいた僕はようやく冴え始めた目をこすり、そっと神様を見下ろした。

「失礼します...」

彼女を起こさないようにそっとその身を抱え横へずらす。ホントに体重があるのかと疑うくらい軽いその体を横にずらした僕は静かに身を起こし、朝の支度を始めた。

シャカシャカと歯を磨きながら今日の予定を練る。

魔法を使えるようになったのかどうなのかは分からないけど、ひとまず魔法の練習をしようかな?

いや、それとも雫に今後の事を尋ねようかな?

怪物祭の次の日から会ってないし、このまましばらく会わないのもどうかと思う。

『しばらくはパーティを組まない』

そのしばらくがどんな期間か明確には聞いてない。

なら僕の判断でもう、しばらくは経ったことでいいだろうか?

うん、そうしよう。

いや、別に1人でダンジョン探索するのが心細くなったとか誰も言ってないけど。

後ろを守ってくれている安心感が恋しいとか言ってないけど。

口を綺麗に濯ぎ、誰に言い訳してるかもわからないけど、今日はひとまず雫の鍛冶場に行くことに決めた。

すっかりボロボロになっている軽装備を慣れた手つきで着て僕は扉の前まで歩いていく。

ドアノブに手をかけ外に出る寸前、僕は部屋を、ベッドの上でまだ眠っている神様を振り返り、そっと挨拶を送った。

 

「行ってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーン。カーン。

小気味良い金属音が鳴り響く工業地帯。

聞こえてくるのはダンジョンに潜る冒険者に送る為の装備を打つ音と、食人花によって荒らされた建物を復建すべく振られる鉄鎚の音だ。

少し遠くの魔石工場では、食人花による甚大な被害によってしばらく稼働の目途がたっていない。

ただそこで働いていたものは、ギルドからの臨時の措置として鍛冶場の復建の手伝いを任せられているのだ。

このギルドの対応のおかげで仕事を失わずに済んでいる人も多く、流石ギルドと言ったところだろうか。

そんないつもより金属音が多く響く工業地帯の一角、一見ただ平屋に見える張りぼてで出来た建物の中にいる雫は今日も頭を抱えていた。

「うがー」

意味もなく発した声に反応するものは誰もいない。

怪物祭以降こんな調子の雫はいつもなら無言で振っていた鉄鎚を置いてボロボロの椅子に腰かけていた。

頭の中でぐるぐる繰り返されるのは自分の名前を呼ぶアルファの姿だった。

突如としてヘファイストスから、椿から紹介された他派閥の冒険者。

冒険者になりたてで、オラリオの事をあまり知らない彼と突然パーティを組めと言われたことには驚いた。

雫はもう何度目かもわからない奇声を発した。

「むぁー」

目の上のたんこぶのように扱われてきた雫を何とでもないように、普通に接する少年にペースを崩されたのはいつだっただろうか。

どれだけ汚い言葉を吐いてもいつまでも笑顔で話しかけてくるアルファを少し気持ち悪いやつだなと思ってしまったのはいつだっただろうか。

どうして自分がこんな態度をとっているのかも知らない少年を少し疎ましくも、嬉しく思ってしまったのはいつだっただろうか。

 

自分がどうしてこんな性格になってしまったのはどうしてだろうか。

 

頭の中で過去が逆流する。ほんの少ししか交流していない少年に心を乱された時を思い返す。

いつもなら頭の中を空にして槌を振り、日々を送っていたのにそんな気はいっさい起きない。

今日も一日を無駄にして、明日も無駄にして、このまま胸の中の気持ちを風化させていくだけなのだろうか。

 

「でも、また傷つくのはいやだなぁ」

 

ふと漏れ出した呟きに少ししてから自嘲する。

こんな弱音を吐いたのはいつぶりだろうか。少なくともオラリオに来てからは無かったはず。

雫は腰かけていた椅子を引き、炉で燃え燻ぶっている炭を自身と重ねた。

火がついているのかついていないのか、消えたいのか消えたくないのか、消したいのか消したくないのか。

雫の瞳にはそんなとても小さい火がとても不思議にうつっていた。

 

「雫ー。いるー?」

 

と不意に聞こえてきたのは頭の中の少年の声だった。

ビクッと跳ねる肩に苦笑いしつつ、いつもの()()を被った雫は声を返した。

「いるぞ」

「入るよー」

この建物が張りぼてであると知っているアルファは慎重にドアを横に引き数日ぶりに会う雫に笑顔を向けた。

「久しぶり。数日ぶりだね」

「あぁ、これでお前はまた魔法が使えなくなったぞ?」

「どうしてそんなこと言うかなぁ」

歓迎されていないような雫のセリフに苦笑しながらもアルファは歩を中へ進めた。

「今日は何しに来た」

「いつからまた一緒にダンジョンに潜ってくれるかなと思って」

「しばらくはパーティを組まないと言ったはずだが」

「僕としては、もうしばらくは経ったつもりなんだけど」

ああ言えば、こういう感じで会話が成り立っていく。

普通というか、雫と話す人はこの雫の言い草に気を悪くしそもそも会話をしたがらないし、一緒に居たくないと思う。

ただアルファは雫の、どうして突き放すような言い方をするのか、自身がどうして嫌われるようなことをするのか、を理解して特に気にすることなく会話を続けていく。

「まぁいい。別にいつでもいいぞ」

「ホントに!?よかったぁ、今日こそ『もうお前とは一緒には行かない』とか言われるかと思ってたよ」

「そんなこと言ってもお前なら食い下がるだろうから、無駄なことは言わないさ」

一緒にダンジョンに潜れるということに喜び顔を綻ばせるアルファに、また調子を崩されそうになって少し顔を背ける雫。

「じゃあ早速今日から一緒に行ってくれる?」

「構わないが」

「よし!じゃあ行こう!」

張りきった様子ではしゃぐアルファを見て雫は1つだけ質問を投げかけた。

「なぁ、どうして私と一緒にいる?そもそも私と一緒にダンジョンに潜ったのはたった一回だけだろう?」

真顔でそう尋ねられたアルファは一瞬迷ったような素振りをみせたがすぐにその答えは返ってきた。

「どうしてって、最初は神様に言われたからだけど、今は、雫が僕と似てると思ったからかな」

「似てる?」

「少しね。別に雫のことを憐れんでいるわけじゃないけど、1人って...辛いと思うんだよね」

戸惑いながらも口にしたアルファは、上からじゃないかと心配になり尻すぼみな声になる。

「...そんな心配なんていらない」

「そうだよね。ごめん...」

案の定、雫の気を悪くさせてしまったアルファは小さく謝罪の言葉を述べた。

その様子をみて複雑な感情になった雫は、そのもやもやを吐き捨てるためにガタンと椅子をならして刀を手に取った。

「え!?ごめん!そんなに嫌だった!?え、殺さないで!」

「バカ!ダンジョンに行くんだろ?準備だよ!」

不貞腐れた顔で刀を持つ雫に何を思ったのか、というか殺されると思ったアルファは声を震わして必死に謝っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せぁ!」

数日ぶりに潜ったダンジョンにて、ウォーシャドウを手に持った刀で斬り払っていく雫の勢いに感嘆するアルファ。

アルファが暴れて、それを雫がカバーするという構図から一転、配役が逆になっている。

アルファとしてはパーティプレイを練習するために、僕が僕が、ではなく協調性をもって戦いに臨んでいて、雫は久しぶりに扱う刀の感触を確かめつつ、胸の中の小さなモヤモヤを斬り捨てていた。

雫が討ち漏らしたフロッグシューターを片手間に捌いていき、雫の死角からウォーシャドウが襲いかかろうとすれば即座に駆け付け助太刀を行う。

雫の呪詛(カース)の効果で魔法が使えないアルファだが、上手く扱えないことで精神疲労(マインドダウン)を起こし雫に迷惑をかけるくらいなら、と考えていた。

「これで最後か」

残り一匹になっても勇敢に立ち向かってくるゴブリンを無造作に斬り払った雫は静かにその刀を鞘に納めた。

「もうこの辺(7階層)も余裕だね。油断はしちゃいけないんだろうけど」

神様に怒られちゃうから、と丁寧にモンスターの死体から魔石を取り出し始める。

「ああ、9階層までは似た造りだが、10階層からは造りが変わってくるからな。進むならまず8階層くらいまでか」

「え、雫、10階層まで言ったことがあるの!?」

衝撃の事実に目を見張り、思わず魔石を採取していた手を止める。

「まぁな、椿に連れられて数回。そうでもしないとソロで潜ってるだけじゃLv2なんて何年かかっても上がれないからな」

「雫って今...?」

「まだLv1だ。いくつかアビリティはBに到達してるやつもあるがな」

またまた衝撃の事実に開いた口が塞がらないアルファ。聞いたところによると鍛冶師は鍛冶のスキルを取るためにLv2になることは必須だそうだ。

確かに1人でLv2に上がるのは難しいだろう。そこのところをよく考えていなかったアルファは今さらながら雫がパーティを組んでくれたことに改めて感謝した。

倒したモンスターから魔石を抜き取り終えた2人は腰を上げ次なる階層へと目標を定めた。

「今日は8階層まで行く?」

「いいぞ」

慢心さえしなければ、油断さえしなければ、敗走する理由もないと2人は気を引き締めて正規ルートを進んでいく。

複雑、と言っても上層の構造は知れている。迷うことなく進む彼らは道中、集団で現れたニードルラビットを時間は多少かかるが、危なげなく撃退していく。

下へと続く階段を見つけ、アルファにとっては初めてである8階層へ足を踏み入れようとした時だった。

 

「流石ベル様です!今日もこんな早くバッグがいっぱいになちゃいました!」

「褒めすぎだよぉ~」

 

8階層から7階層へ上がってくる冒険者。白髪の髪を揺らし、隣に居る小さな小人族(パルゥム)にまんざらでもない表情を浮かべる少年は、アルファの既知の冒険者だった。

「ベル!」

「あれ?もしかしてアルファ?」

ベルが階段を上りきろうとしたところで声をかけたアルファは久しぶりの友人との出会いに声を上げた。

ダンジョン内では冒険者同士は基本不干渉ということもあって、まさか誰かに声をかけられるなんて思っていなかったベルは一瞬硬直したが、すぐに顔を綻ばせて黒髪の少年の名を呼んだ。

「ベル様?こちらは?」

「僕の友達のアルファだよ!」

見定めるように、警戒するように顔つきを鋭くしたリリはアルファを睨むとまではいかないが、少し低い声で尋ねる。

「ベルも8階層に居たのか。先こされてるなぁー」

「そんなことないよ。リリがいてくれるから、負担が軽くなって。そういうアルファは1人でここまで来てるんだね」

「1人?」

何とでもないように発せられたその言葉に疑問を覚える。

ハッとして横を見ても、後ろを見ても、どこにも白髪の少女はいない。

(人を避けるって、こんなに...)

自分が声をかけたことで雫に気を遣わせてしまった。

アルファがベルに声をかけたと同時に赤の他人のように去った雫。

「どうしたの?」

急に横を向いたりするアルファを不思議に思ったベルは首をかしげる。

「いいや。何でもないよ。ごめんな、声をかけちゃって、また今度一緒にご飯でも食べに行こうな!」

そう言ってアルファはその場から立ち去る。

8階層ではなく、正規ルートからも外れ横へと続く、あまり冒険者が通らない通路へ。

「うん、じゃあね」

ベルの言葉を背中に受けながら足早に進むアルファ。ベルは少年の不可思議な行動に首をさらに傾げつつも、リリの「ベル様、早くいきましょう」という言葉に足を地上へと向けた。

そんな2人の会話を遠くで聞きながら、アルファはおそらく雫が居るであろう方向へぐいぐい進んでいく。

「雫~」

普段横道など誰も通らないので、構うことなく声を上げ雫を探し回る。

と、微かに聞こえてくるのは剣戟の音とキラーアントの軋んだ鳴き声。

あわてたアルファは音の鳴るほうへ駆け出す。

流石にいくつかアビリティがBにあるとはいえ、ソロでの戦闘は危険だ。

まして、キラーアントは集団で襲い掛かってくる。

アルファは滲む冷や汗と、軽く切れる息を感じながら、数M(メドル)先のルームへ飛び込んだ。

 

「すご...」

 

そこに広がっていた光景は、蹂躙と呼ぶにふさわしかった。

そのルームは食糧庫(パントリー)と呼ばれるモンスターの安息地だったのだが、そこに突如として現れた白髪のくノ一によって場は荒らされる。

数十匹のキラーアントを危なげなく捌いていく雫の姿はまるで舞っているかのようで。

アルファと2人で戦闘を行っていた時の隙は全くなく、死角から現れたキラーアントの攻撃も逆手に持ち替えた刀で余裕で対処する。

もうどのモンスターも声を上げることが出来ず、ただ地面に沈むだけだった。

「雫、強くね...?」

「...」

帰ってくる言葉は無い。代わりに空を切り血を振り払った刀を鞘に納める。

先ほどの行動、雫の事を考えずにベルに声をかけてしまったことを謝ろうとアルファが雫に向かって口を開こうとした時。

「...私は、私が嫌いだ」

ポツリと呟かれた言葉がアルファの耳朶をうった。

その言葉の意味を考えて、否定しようにも肯定しようにも何も言えなくなってしまったアルファは口をただ開閉させる。

何を言っても彼女を否定するような気がして、何も言えない。

なら自身の考えを言えばいいんだ。簡単なことだ。

「僕は好きだよ」

アルファが雫に思うことをただ単純に発しただけ。

「つっけんどんな性格をしているようで、繊細な部分があって、優しいところが」

雫の気持ちを、過去を、今を、何も知るわけではないけど、ただ1人では無いということを伝えようとしてアルファから漏れ出た言葉だった。

アルファの衝撃発言に少し驚いた雫は一瞬目を見張ったがすぐに元の表情に戻る。

「優しいのはどっちだ」

響いたその言葉はどちらの胸にも突き刺さった。

 

 

 

 

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