World SoulReaper   作:阿良々木日和

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日常に向けて

黒崎一護、浦原喜助が元の世界へ帰った翌朝。

ボーダー内部は大騒ぎになっていた。アフトクラトルに連れ去られた24人の訓練生に中央オペレーター2人の死者、街の被害に新たな敵であるホロウの解析とやるべきことが沢山あり過ぎる。

これからの方向性、何処までの内容を何処までの隊員に伝えるべきかの精査もしなくてはならない。そんな上層部がてんてこ舞いな中で織姫、宇佐美を始めとするオペレーター数人や東、二宮と切れ者が揃って男に向かい合っていた。中には太刀川や米屋など頭上に?を浮かべた面々も居るが。

 

「そもそもホロウ? というのは何なんですか」

「虚、現世を荒らす悪しき霊で正体は何らかの理由で堕ちた人間の魂。人間の魂魄が主食で、生者を襲う好ましくない存在だよ」

「それが何故、撃破したトリオン兵の姿を変えて現れたのでしょうか」

 

綾辻が手を挙げ質問をするとモニターには先日の近界民の襲撃と共に現れたホロウトリオン兵の映像が映し出される。どれも通常のトリオン兵とは違い仮面のようなものが張り付いており、その身体もトリオン兵の白とは違い砕けた内部は光を吸い込むような黒色だった。

 

「今までのトリオン兵からは現れなかったのはトリオンの質の違いだろう。 ボーダー基地のように一定の供給からトリオンを捻出し兵を作っている近界民も居れば…」

「……攫い、人体から無理やり奪い取ったトリオン供給器官を利用して兵を増産している国もあるのでは」

 

東の呟きに空気が凍る。

 

「僕もそう推測している。 そして供給器官と魂魄がイコールだとすれば、非業の死を遂げた人間の魂がトリオン兵という殻から解き放たれた時、虚として表に現れているのではという仮説が浮かび上がった」

「それは人としての意識はあるのでしょうか」

「虚の強さにもよるかな。強力なやつほど狡猾で頭も回る。 最も普通の人間のような感情はないから安心して狩ってくれたまえ。 キミたちのトリガーは虚を狩れるように作られているからね」

 

月見蓮の質問に対して男は希望の一つない答えを用意し、それに加えてまるで初めから虚が現れることを見越してトリガーを作った。そんな言い方をした。

 

「あぁ、そうだ。 この場にいる皆は黒崎一護くんが死神と知っているんだったね。 折角だ、彼の戦いを観て新しい戦術のキッカケにでもしてみるといい」

 

モニターが切り変われば会議室や現場で見た死覇装を纏う黒崎一護が痩躯で、肩にかかる程度の長さの黒髪をもつ、白皙の中性的な容姿の男性と切り結ぶ姿が映った。

音声は無いものの血を流しながらも止まらぬ二人の姿にオペレーター達は目を逸らし、普段から嬉々として戦っている面々も息を呑んでいる。

 

「見せ過ぎでは?」

「少しぐらい彼の過酷さを知っておいた方がいいと思ってね」

「社長が良いのなら僕は止めません」

 

映像から目を離せない隊員たちに黙ったまま技術者でありスポンサーである彼は市丸ギンと共に部屋を出る。

 

「これから彼等には巻き込まれてもらわないと困るからね。 緊急脱出があるから、と気を抜かない為にも戦いの苛烈さを知っておかなければ」

「戦い…ねぇ」

「備えてもらわねば僕達がわざわざ滅却師の霊子兵装を用いたトリガー…何てものを作った意味が無いからね」

「マッチポンプって言葉、知っとります? 藍染社長」

「なんの事だろうか」

 

現世の人間達が皆、並外れたトリオン量(霊力)を持ってしまったのは自らの不手際だと言うのに何ともまぁ…

 

「それよりギン。キミから見てあちらの黒崎一護はどうだったかな」

「そうですねぇ。 脅威、って言葉がしっくりくるやろか」

「ほう、脅威」

「始解であれ程の霊圧。戦況の判断力に柔軟な思考、下手しなくとも尸魂界の隊員…副隊長クラスなら歯牙にも掛けない戦闘力。 前もって浦原さんから聴いていた話で想定していた彼よりも何段階も上やった」

「門を閉ざし腑抜けたこちらの尸魂界ならば彼一人で攻め落とせるかい?」

「……相性次第でしょう。 が、京楽隊長や総隊長には届かんかと」

「であれば、僕とギン。そして彼が加われば良い所まで行けそうだ」

 

ゾワリ、とそんな感覚がボーダー本部の廊下に走り抜ける。

感覚の強いものならば気が付く程度の圧だが何人かは体を震わせてしまっていそうだ。

 

「社長、漏れ出てます」

「おっと、すまないね。とにかく一度目の戦いは終わったんだし今日まで頑張ってきたキミたちを慰安旅行にでも連れていこう」

「それはいい考えですね。雛森ちゃんとか仕事漬けやったし」

 

今も目を回しながら新トリガーの調整をしつつ、ぶつぶつと文句を垂れ流しているちっこい社員を宥めているであろう少女を思い出して苦笑した。

 

「それにしっかりと休暇を取らせないと労基がね」

「変なところで現世に馴染んでません?」

 

 

 

 

暫くして、部屋から出てきた面々は様々な表情を見せており太刀川達は有無も言わせない勢いでランク戦ブースへと走っていった。

 

「織姫ちゃん、大丈夫?」

「えっと、はい…ありがとうございます栞さん」

「あれは刺激が強かったもんね〜」

「黒崎くんが渡った危険な橋はアレだけではないんでしょうね」

「そもそも行方不明事件の調査のために並行世界…でしたっけ? そんな所からわざわざ来ている時点で黒崎先輩は何度も命を張ってるのは間違いないですよ」

 

一方、休憩所で織姫を囲っているのは宇佐美に国近、月見、氷見とボーダートップクラスのオペレーター兼、織姫と黒崎を生暖かい視線で見守ってる織姫大好き組である。

 

「トリガーとは違って緊急脱出も無いのにどうして黒崎くんは戦い続けるのかしら」

「ん〜お姫様を助けに?」

「お姫様……」

 

黒崎くんは元の世界に恋人とか居るのだろうか?

 

「月見さんの所は黒崎さんになにか無いの?」

「三輪くんは意外と大人しいわ」

 

おぉ…とちょっとしたどよめきが周囲に広がる。 周囲とは織姫達だけではなく彼女たちの会話に聞き耳を立ててた事情を知っている男組だ。

 

「三輪くんも分かっているのよ。1年近く一緒に過ごして黒崎くんも三輪くんを気にかけていたし悪い人ではないって」

「二宮さんもあまり気にした様子はなかったなぁ」

 

黒崎一護という人物が別の世界の人間であろうと彼が一年近く見せてきた誠意がボーダーの隊員たちにとっていい方向に働いていた。もっとも本人が知る由もない所でだが。

 

「問題は華ちゃんね」

「染井さん?」

「えぇ、というより香取隊かしら?」

「でも葉子ちゃんは黒崎くんの弟子ですよ?」

「みんな織姫ちゃんや加古さんぐらいさっぱりしていると楽だったんでしょうね」

 

2つしか上じゃないのに蓮さんはとてつもなく大人っぽい…こういう人が黒崎くんのお相手なのかな…

 

「三輪くんや太刀川さん達みたいに一緒に現場で戦えない私達オペレーターの中にはやっぱり割り切れない子もいるってことなのよ。 華ちゃんは家族を近界民によって失っている訳だし。そんな華ちゃんに過保護な香取隊は黒崎くんとの距離を測りかねてるんじゃないかしら?」

 

これには宇佐美も国近も頷いた。

宇佐美は玉狛に空閑が居る。 国近は入隊の時から黒崎と遊んでいる(一方的に)し、氷見も辻がちょくちょく黒崎と模擬戦をしたり最近は二宮に射手トリガーの扱い方を教わっていたのも知っている。

対して染井華は香取越しの黒崎一護しか知らなかったのだ。 というのも、香取が黒崎に毎度毎度突撃していたせいで隊絡みの交流をしなかったせいでもあるが。

 

「蓮さんは黒崎くんの話を聴いてどう思ったんです?」

「あまり何も思わなかったわ。だってトリオン量が飛んでもない駄菓子屋さんで死神ってだけでしょう?」

 

宇佐美の質問にシレッと答える。

それを「だけ」と言えるのはこの人だけじゃないか。

 

「それに彼が帰ってきたら約束しているのよ」

「約束?」

「えぇ、デートの」

「ん?」

「え?」

「…なんと?」

「おっしゃいました?」

 

何かとんでもないことを言っている気がする。そう思ったのは休憩所に居る面々全員だろう。

 

「黒崎くんとデートするのよ」

『ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』

 

何だかよく分からない感情が入り交じった悲鳴がボーダー内にコダマした。

 

「おーおー、賑やかやな」

「なんであんたはそんなに気楽そうなのよ。てか、折角来たのに一護帰っちゃってるじゃない!」

「キミたちを本部に迎えるのは可能だ。しかし試験は受けてもらう」

「そしてこの仏頂面は全く知らぬ存じぬだし!?」

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

 

「くしゅん…ッ!! 誰か噂でもしてんのか…」

「おかえり、黒崎くんっ」

「おぉ、井上。こんな時間…ってまだこっちは昼なのか」

「向こうとはだいぶ時差?で済ませていいのか分からないけど…あるみたいだからね」

 

空座町の浦原商店に着いた俺たちを出迎えてくれたのは俺と同い年でなんかよく分からないが同じ大学を受けようとしていた井上織姫だ。

 

「……………大きい井上?」

「…えっと、小さい私が居るんですか?」

「大人っぽい織姫さん…?」

「あ、あはは…大人っぽくなんてないよ〜」

 

満更でもなさそうに笑う井上を風間さんと三上が眺めている。

 

「井上、この2人は向こうの世界で戦っている風間さんと三上だ。 風間さんは俺たちの2つ上で三上は2つ下…だったか」

「そうなんだっ! えっと、井上織姫ですっ。 んー、黒崎くんが何時もご迷惑をかけてます?」

 

お前は俺のなんなんだ…。つーか、迷惑はかけてねーよ。…風間さんには結構かけてたか。

 

「風間蒼也だ。黒崎はよく働いてくれている」

「み、三上歌歩です。 えっと…私はオペレーターなので一緒には戦ってませんが…」

「オペレーターってどんなことをするの?」

「俺とか風間さんが現場で戦ってる時に相手の数とか他の連中がどう動いているか、とか情報分析をしてくれてんだ」

「えぇ!? 凄いっ! 歌歩ちゃんとっても凄いんだね…私には出来そうもないなぁ」

 

いや、お前もオペレーターしてるんだ。とは言わないでおくか。

 

「…? 井上も黒崎のオペレーターをしているが」

「へ? そうなの黒崎くん?」

 

最早面倒になったので井上にも風間さん達にも説明をする事にした。とは言っても簡単に一言でだが。

 

「向こうの世界には17歳の井上が居る。 んで、こっちの井上は俺と同じ19歳の井上だ」

「それじゃあ高校生の黒崎くんも居るのかな?」

「あー、多分?」

 

もしあの世界で俺が俺と出会ったらどうなるんだろうか。 消滅…とかしねぇよな?

 

ブルり、身体を震わせながら頭を振って余計な考えを取り払っていると浦原さんからお呼びがかかる。

 

「2人のことは井上サンに任せて黒崎サンはとっとと始めまスよ」

 

じゃあ、と3人に軽く手を振り浦原さんと共に訓練部屋までやってきた。 疲れるからあまりやりたくねーんだよな…

 

「ここでやるのか」

「あぁ、まぁ常時霊圧を放って月牙天衝を撃ちまくって霊力の残量を減らすんだと」

「霊力とトリオンが同じならば訓練をすればトリガーがなくとも戦えるのか?」

「そこはどちらかと言うと滅却師に近いかもしれませんね。 やり方さえ覚えてしまえば飛廉脚は役に立ちまス……って風間サン!?」

「は、風間さん!?」

「なるほど、浦原さん。俺に使える技術を叩き込んでくれ」

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