「いきなりの対戦カードだね」
「あぁ…なんで今シーズン初めが荒船達なんだか…」
少し手狭になった黒崎隊の隊室で一護はボヤくように言葉を吐きソファに沈んでいる。
正直ランク戦はあまりするつもりは無かったのだが黒崎と戦うといい経験になるから、と林藤さんやら忍田さんに言われて強制参加となった。
「それにしてもいいの? 黒崎くんだけで」
「コイツらは玉狛第二と当たる時に出てもらう。 その方がいいって迅の奴が言ってたしな」
そう、部屋が手狭になった理由は黒崎隊に暫定的にだが二人増えたからだ。正式な加入はまだ後日なのだが…
「オレも暴れたいんやけど」
「アタシはパス。 大体こっちでの検体集めに便利って酷い理由で招集されてるだけだし。 別にアンタと織姫の為じゃないし!」
「…つーわけで、行ってくる」
「…う、うん? 頑張ってね黒崎くん」
「おー、行ってら一護」
「ダサい負け方しないでよねっ!」
井上と二人だった部屋がどうにも騒がしくなってしまった。 いや、まぁ2人っきりってのもアレだったんだが…なんであの二人なんだよ。片や寝転がり、片や何故か偉そうに俺を送り出した。
『始まりました夜の部。 実況担当は昼に引き続き風間隊の三上。 解説はボーダー広報でお馴染み嵐山さんと加古隊で今試合に参加している黒崎さんの同期の黒江さんです』
『『どうぞよろしく』』
『嵐山さんと解説は緊張しますが勉強させていただきます』
『今回は俺からお願いして解説席に座らせて貰ったので頑張ります。 なにせ黒崎の試合を実際に見るのは始めてなので』
『19歳組は仲が良いんですね』
『各隊員転送されました。 ステージは市街地A。 時刻・天候は夜・雨』
『鈴鳴第一のステージ選択ですね。狙撃手編成の荒船隊は立ち回りが厳しくなりそうですが…』
『確かに荒船隊にとっては少し厳しくなるかもしれませんが逆に荒船隊に捕捉された場合は何処から撃ってきたのか、把握するのも難しくなりそうです』
「さてと、近くにゃ居ねぇが…」
【うん、荒船隊も鈴鳴第一も大分離れた位置に転送されたみたい。黒崎くん、様子見る?】
「いや、折角だ。全員を相手にするぐらいの気概でやらしてもらう。そっちの方が面白そうだしな」
【そうや、それでこそ一護】
【流石ね一護】
褒められてる気が一切しねぇ。
レーダーからは次々とバックワームで消えていく中、黒崎を表す光点は消えること無く表示されたままだ。 勿論、トリガーセットの中にバックワームを入れてないからである。あの太刀川でさえ入れているというのに。なんならシールドすら入っていない。
軽く飛び上がり家屋の上へと上るとそのまま空中にグラスホッパーを展開し凄まじい速度で他の部隊の連中が居たポイントに向かって宙を走っていく。使い方、工夫の仕方については緑川や空閑には及ばないが単純にグラスホッパーを用いた高速移動については一護が群を抜いて速い。
「……ッ!!」
視界の端でチカッと何かが光ったと同時にわざとグラスホッパーから足を踏み外し空中に身を落とした。瞬間、先程まで身体があった場所に一筋の光が通り過ぎる。 弾速から考えるにライトニング…ということは
「太一見っけ」
鈴鳴第一の別役太一が仕掛けてきた。
荒船隊はイーグレットバカなので確定だろう。
【狙撃ポイント割り出したよ!】
「ナイスだ井上。これで他の狙撃バカ共も釣れれりゃ最高だけどな」
空中で身を捻り屋根の上に着地するタイミングで再度遠くのマンションの一部が光る。移動せずに2度目の狙撃は悪手だが来間さんや鋼の為に少しでも俺を削っておきたいって考えは分かる。
ライトニングが着弾するよりも速くエスクードをカタパルト代わりにまた飛び上がり高層マンションに向けて2度目のグラスホッパー高速移動を強行した。
『凄いな黒崎!』
『黒崎隊員、別役隊員の狙撃を2度躱し凄まじい速度で狙撃ポイントに迫っていますね』
『別役さんは何故今のタイミングで仕掛けたのでしょうか。黒崎先輩を削るため…にしては引き付けが足りなかった気もします』
『黒崎が元々向かっていたポイントには荒船隊に囲まれて孤立した来間さんが居る。 鋼くんが合流する前に黒崎が現着してしまえばどうやっても対処が厳しくなるから姿を晒した…って感じかな』
『なるほど。ありがとうございます』
『さあ、黒崎隊員が別役隊員を追い詰めました! しかし、それを狙う形で穂苅隊員も狙撃ポイントに付いています』
『鈴鳴第一にとっては別役くんのナイス判断でしたね。荒船隊の一角が黒崎に向かって行った為、来間さんが抜け出しやすくなった』
【穂刈さんが別役くんに合わせて黒崎くんを囲もうと動き始めたよ! そこから北東のビル!】
「太一よか、そっちを潰した方が安全策か? ビル事崩したら不味いか」
「─ッ!!」
突然、自分の遥か後方に現れた感覚に横っ飛びすると数瞬前まで立っていたその場へ二筋の光が飛んでいった。
穂刈と太一は別方向。 イーグレットでクロスショットとくりゃ……
「井上」
【うん、バックワームで消えちゃうかもしれないけれど大体の動きはマーク出来ると思う。狙撃ポイントを幾つか割り出しておくね】
「荒船、半崎見っけ…!」
来馬さんと鋼を探すよりも誰か一人落とした方が試合は動く。 そう判断した一護はわざと釣り出す為に空中を飛び回っていた先程とは打って代わり、建物の中をぶち抜くように疾駆し始める。
夜に加えて雨、幾ら狙撃の名手たる奴らとはいえ神経のすり減りは普段以上だろう。
これが東さんだったならば腕一本払ってでも突撃しなければ危なかったが。
家屋郡を抜けて高層マンションの二回へと転がり込む。 上層階に太一が居るはずだ。
そして逃げる俺を追って荒船隊もここを狙撃できるポイントに移動する。
音を立てないように上層へと向かうとトリオンとは違う、圧のようなモノを直感的に感じ取り身を捩るが判断が遅かった。
ズバンッ!! と風を斬る音ともに肘から先の左腕が宙を舞っていた。
「……今のを躱すんですか」
「そりゃ躱すだろ。殺気が漏れ出てたぞ……!」
トリオンが漏れ出る左腕を一瞥し右手にしっかりと今回のエモノを握る。
「……スコーピオンでも孤月でもなくソレですか。今回は」
「あぁ、玉狛にレイガストを使う奴がいてな。 今度、特訓を付けてやるのに……そいつとほぼ同じ構成にしてるんだ」
スラスターを吹かせ、グラスホッパーも併用して一瞬で肉薄するとシールドモードのまま鋼の腹へ叩き込んで吹き飛ばした。
「ぐっ……はっ!?」
「トリオン体は削れねぇが……なかなかいい使い勝手だ」
盾モードから刃モードに切り替えて追撃を図るが腹部を背後からアステロイドで撃ち抜かれた。
「来間さんか……っ!」
【黒崎くん、それ以上は危険だよ!】
鋼に気を取られすぎた。
バックワームでレーダーから消えていた来間さんが突撃銃を構えて立っている。
咄嗟にエスクードを使い狭い通路、鋼側に壁を作ると来間さんと一対一の空間を作り出す。
「あっ、このっ!」
攻め方は堅実で思考も柔軟。それでも来間さん自信だけでは決定打に欠けるというのが一護の評価だった。
だがしかし、自分と鋼が分断される可能性を考えていないはずがなく、もう一手二手隠しているのがこの人来馬辰也なのだ。
疎らにアステロイドを撃ってくる来間さんに向かってこちらも同じようにアステロイドをバラ撒くと、来間さんはステップを踏むように奥へと下がっていく。
追いかけると同時に鋼側に展開したエスクードが叩き切られ、来間さんの背後からはライトニングが飛んできた。
「太一まで降りて来やがった…!」
背後には鋼、正面には来間さんとそれを援護する太一。来間さんの余裕はこれかよ……。
おいおい、完全に追い詰められちまってるじゃねーか。
「…………ふぅ、井上。荒船隊は」
【荒船隊は黒崎くん達がいるビルを囲うように居るみたい。 荒船さんはバックワームを使ってないから……プレッシャーを掛けてるんだと思うよ】
「二人ぐらいは落としておきてぇもんだな……」
レイガストを構えながらアステロイドを狭い廊下からビルの外へ飛び出すように撃ちまくる。
トリオン感知が出来る俺の突然素っ頓狂な方向へのアステロイドに来間隊は、そこに何かが居ると思ってしまった。
一瞬、ほんの一瞬だが太一を除く二人がそちらに視線を向けて一護が視界から失せる。
「……ぉらァ!」
斜めに配置したグラスホッパーを踏み、前傾姿勢の状態で来間さんの真横を抜けスラスターを吹かせながら刃モードのレイガストを通路の奥へとぶん投げた。
落ちれば最高、最低でも腕が足一本! と思っていたが当たりどころが良かったのか
「旋空弧月…!」
「ッ!!」
縦切りの旋空が俺の横スレスレを通り過ぎる。若干、来間さんと俺の身体が被っていたから当たらなかったのか…。
「雨の中待たせるのも可哀想だし、そろそろ荒船隊とも遊んでやろうぜ来間さん」
「え、なにを…」
「来間先輩…!」
「メテオラ…………!!」
『黒崎のレイガストが吸い込まれるように別役隊員の脳天に当たったな』
『毎度の事ですが黒崎先輩の攻撃は酷いものが多いです。 私も韋駄天を使った時に移動先に孤月が置かれていて、そのまま真っ二つになりました』
『正面に来間隊長、別役隊員。背後に村上隊員を据えた状態からの反撃は見事ですね。 しかし、黒崎隊長がレイガストを使うのは初めて見るような気がするんですが』
『あぁ、なんでも三雲くんに訓練を付けるのに使い方がわからないといけないって急遽トリガーに設定したらしいですね。 初陣だって先程会った時に言ってました』
『……なんなんでしょうかあの先輩。 いえ、同じ時期に入ったものの実力差はよく分かっているのですが…はい』
「ほんとムカつくわねあいつ!?」
「葉子、少し落ち着いて」
『ここで黒崎がメテオラを使いビルの一角を吹き飛ばしましたね。 爆煙が雨と風に流され中が丸見えになったということは』
『穂刈隊員、半崎隊員が狙撃を開始! 村上隊員もこれには堪らず建物内部に』
『黒崎先輩はここぞ、という時の思い切りがいいですね』
『そうですね、黒崎は戦いながらも上手く場を回している感じがします。 それに彼のメテオラは威力だけで言えば二宮さんや出水以上だからこその使い方ですね』
『あんな威力のメテオラをポンポン撃たれたらたまったものではないですね』
『荒船隊長は村上隊員を追いました。 そして穂刈隊員、半崎隊員も手負いになっている黒崎隊長を狙っているようです』
『膠着状態から一気に動き出しましたね。左腕を失っている黒崎はそろそろトリオン量も厳しいでしょうが頑張って欲しいです』
通路を走る一護の後ろからはイーグレットの雨霰が襲い来る。 最早、勘を頼りに右に左に避け少なくなってきたトリオンを使ってエスクードで道を塞ぐ。 狙撃バカ共はエスクードを突破する手立ては無いはずなので多少の時間稼ぎは出来る……と信じたい。
「さてと、追い詰めたぜ来間さん……よくも土手っ腹に穴開けてくれたっすね…」
「く、黒崎くん…………いや、戦いだから!」
それはそうだ。
因みに、一護が来間を追い詰めているシーンもしっかりと中継されており後輩や同期、果てにはC級隊員からもその光景は悪鬼羅刹が仏を追い詰めている様に見えた。
盾モードのレイガストを構え直し突貫する。
アステロイドとハウンドを器用に防ぎながら鋼を殴った時のように盾のままぶつかろうとするもガッ! とナニカに妨げられた。
「シールドってそんな使い方も出来たんすね……!」
「は、初めてやったけどね……!」
言わばシールドとシールドの鍔迫り合い。鍔はねーけど。
一護はそれ以上進めず、来間もシールドを解けば一瞬で仕留められる。
動けないのならば相手を動かせばいいと考えた一護は来間さんの足元にグラスホッパーを置いた。
「え?」
ぽーん。
なんて軽く真上に飛んだ来間さんは天井にそのまま激突。落ちてくる瞬間に目掛けて4×4×4キューブに分割したアステロイドを打ち上げて来間さんを蜂の巣にした。
【来間さん緊急脱出! 黒崎くん、気をつけて村上さんがそっちに向かってるよ!】
「あー、でも俺もそろそろ限界っぽいんだわ」
身体に入ったひび割れが徐々に大きく、広くなっていく一護の身体が上下に真っ二つに切れた。
【「あ」】
『黒崎隊長ここで
『鋼の旋空弧月ではなく、鋼と切り結んでいた哲次の旋空弧月が見事に黒崎に当たりましたね!』
「バカだバカ」
「あんな落とされ方しやがって」
「こりゃ後で50本勝負だな」
「あら、私もやろうかしら」
「むしろ全員で黒崎先輩を叩きましょう」
黒崎が落とされることは多々あるものの、それは真正面からぶつかり合って競り負けたり絡め手に見事に引っかかってやられたりなのだが、今回の緊急脱出はあまりにも呆気なく情けないものだった為にブースにいた攻撃手、射撃手達は邪悪な笑みを浮かべていた。
『嵐山さん、なんで嬉しそうなんですか』
『黒崎の珍しいシーンが見れたからかな』
『黒崎隊長が落とされたことで荒船隊三人に対し村上隊員が一人で戦うというかなり厳しい状況になりましたね』
『鈴鳴第一としては1ポイントでももぎ取っておきたいでしょうし鋼の粘り所ですね』
『最終局面、どう動くか見ものです』
「ごめんね黒崎くん、荒船さんと村上さんの動きにもっと注意していれば…」
「いやどの道、トリオン量も危なかったしな。 緊急脱出が早いか遅いかの誤差だろ? 井上が謝ることない」
「そうよ、悪いのは余裕ぶっこいて普段使ってないモノ使ってアホみたいな負け方したこいつが悪いだから」
「せやな。一護が悪いわ」
言われようはアレだがなんの間違いでもないので口を紡ぐ一護。
気まずいのでモニターを眺めると半崎の狙撃が鋼の脚を吹き飛ばし、体勢を崩した所で荒船の孤月がそのまま首をはね上げた。
「決着か。 今日のは酷評されてんだろうなぁ…」
『決着が着きました。 本試合のポイントは黒崎隊が2ポイント、荒船隊が生存点含め4ポイント、鈴鳴第一は惜しいことに0ポイント』
『荒船隊長の旋空弧月が決まらなければ黒崎隊長に与えたダメージを加味して鈴鳴第一に点数が入っていましたが、これもまた面白いシーンでしたね』
『荒船隊は夜に加えて雨という視界不良のステージでしたが30分ものあいだ忍び、黒崎隊長が開けた大穴からの突入で上手く状況を掴みました』
『鈴鳴第一は別役隊員の黒崎隊長への初撃が来間隊長の包囲網を解いて合流に繋げました。あの判断は宇井さんの判断かな?』
『逆に黒崎先輩はアドリブが過ぎた……んでしょうか』
『うん、黒崎の強みはどんな相手でも即座に対応出来る……ポジション的な意味合いではない本当のオールラウンダーだし、自分とオペレーターの二人部隊だから自分の生存と戦略を組めば戦いになる。 けれど今回の様に鈴鳴第一に囲まれたり、そこに荒船隊が混じってくると後は彼のポテンシャル頼りだからね。 ひっくり返せない状況も多々あると思うよ』
『なるほど。ありがとうございます』
『しかしあの包囲から穂刈隊員、半崎隊員を止めて来間隊長を撃破するのは流石でしたね』
『多対一でも強い黒崎だからな!一対一なら太刀川さんや迅、桐絵と並んでトップクラスだと思う』
『明日の試合は弓場隊、柿崎隊、生駒隊となっています。皆様、お疲れ様でした』
「なんや、オレらの出番はまだか」
「一週間以内には来るだろ」
「別にアタシはやりたくないんだけど……」
「折角一護の為に来たんや、手伝うぐらいええやろ…………と、来客か? オレらは隠れる」
二人とも長髪をなびかせ別部屋に引っ込むと隊室と扉がノックなしに開かれた。
今結花だった。
これはアレだ。怒られるやつだ。
「黒崎さん! 太一になんてことしてくれるんですか!?」
「いや、仕方ねぇだろ!? ランク戦だぞ!」
「太一が言ってたんです。 スコープを覗いたら光が迫ってきて顔がぐしゃって」
「うわぁ……」
「うわぁ、って黒崎さんがやったことですよ!?」
「結花さん、落ち着いて……!」
「織姫も黒崎さんになんとか言ってよ!」
「え、えっと……ダメだよ黒崎くん?」
「…………すまん」
不服だが謝らないと話が進まない気がする。
「おい黒崎! 五十本勝負やるぞ!」
「黒崎くん、やっぱりうちの隊に入らない? 双葉も喜ぶし」
「黒崎、テメェ何ふざけた殺り合いしてんだ」
「少し出かけている間に鈍ったんじゃないですか?」
来るわ来るわ、今との話が終わってもいないのに太刀川さんやら加古さんやら……
一護が暴れるのも虚しく襟首を捕まれてランク戦へと連れていかれてしまい、部屋には井上と新参二人だけが残されることとなってしまった。