「ふむ…、面白いね。 トリオン兵の中から虚とは。 虚圏から来た可能性は捨てきれないはずだヨ」
解体されたトリオン兵達は、先日のアフトクラトルからの侵攻時に撃破された個体。それも一護や風間をはじめとする面々にやられた虚化ともいうべき変化を見せたトリオン兵の外装。
「ありえるのか…? だいたい虚圏も尸魂界も門が閉じて100年近く経つだろ。それが今になって?」
「可能性。 少なくとも何事も、有り得ないという事象こそ有り得ない。 キミが藍染と共に現世で働いているなどということすら、過去にはない発想ではないかね?」
せせら嗤うように言うのを無視し、小さな男は手馴れた手つきでスコーピオンを使い更に細かく外装を切り分けていく。
「待ち給え……、なるほど。 相手は随分と自信家のようだが実に愚かしいことだ」
「は? 何か見つけたのか」
「私がやりました。 とでも言うような印、いやこれはトリオン兵の生産元を記すための記号か。 どちらにせよ大層な自信家がアフトクラトルどころか近界民に兵を卸しているということだネ」
「ちっ、趣味がわりぃ…」
「危な!? ちょっと、少しくらい手加減ってもんを知らないわけ!?」
「巫山戯たことを言うのが好きなのね…!」
互いにグラスホッパーを踏みながらアステロイドを撃ち合い、住宅街の屋根を駆け回る葉子とリルカ。 下では修と麓郎、雄太が位置取りを選びながら互いに仕掛け合う。 麓郎が負傷しており、ワイヤートラップが効いているからこそ一対二でも均衡を保てている。自分たちが有利に進める為ワイヤー陣を張りたい修からすればこの場は離脱し、すぐにでも空閑と合流すべきだか…
「空閑は…!」
『ゴメン、オサム。 こっちも中々厳しい相手みたいだ。 どーにか、かきざき先輩のところに擦り付けてみる。 チカの一撃にも頼ることになるとおもう』
「…っ、わかった! ぼくもここを離脱してなんとかそっちに向かう!」
「行かせるわけがないでしょ…っ!」
ビュンッ! 風を切る音に咄嗟に首を振ると先程まで修の頭があった場所に伸びたスコーピオンが突き刺さっていた。 葉子がリルカとやり合いながらも取れる点を狙っているのか視野が広い。 離脱するにはどうすれば、と修が考えた所で辺りが吹き飛び始めた。
千佳の援護…、と思ったがそれにしては規模が狭い。 つまりは…!
「遊ぼうぜ」
「射手編成…!? あんた、ほんと、…ほんとにあんたは!!」
「一護、遅い!」
「悪い、柿崎隊追っかけてたらちょっと時間食ってな」
混乱に乗じて修は走り出す。 それを追おうとリルカが飛び出すが ぐぇっ… と潰れたカエルのような声を出してすっ転んだ。どうにもしっかりワイヤーを仕掛けまくりながら逃げたようだ。 一護ならば追えるが…、それよりも香取隊を料理することを選んだが如く、アステロイドとハウンドを交えた射撃を展開して面制圧を始めていく。
「リルカ、やれるか」
「だから私は最前で戦う柄じゃないんだけど!?」
片手でアステロイド:拳銃をばら撒きながら飛び出し、壁に手をつくとエスクードが飛び出て狭い街路が行き止まりになる。 反対、リルカと逆の位置取りをしていた一護もエスクードをカタパルトにして道を塞ぎながら上へと大きく飛び上がった。
「…っ、ヨーコ、雄太逃げろ!! 不味い!」
「ちょ、……行くわよ雄太!」
「ごめん麓郎くん!」
急速に離脱を始める二人に合成弾は間に合わない。 まだ出水や二宮のように素早く合成が出来ない一護に麓郎がハウンドを目掛けて撃つも、リルカのシールドによって防がれ、既に機動力を削がれ退路も塞がれた麓郎に向かって辺りを吹き飛ばすほどの一撃が叩き込まれた。 オーバーキルである。
『黒崎隊長またまた強襲ー!! なんでこの人は戦場を縦横無尽に駆け回ってるんだー!』
『狙撃手が玉狛第二にしか居ないのをいいことに好き放題だ…』
『黒崎隊は今回から三人編成ですが、オペレーター…やっぱり井上さんの判断も良いのが伺えますね』
『と、いいますと?』
『恐らくですが玉狛第二、柿崎隊、香取隊は互いに黒崎隊を押し付けあってダメージを与えたい。 それを分かっている黒崎隊長と井上さんは戦闘が膠着し始めた場所をすぐさま狙って崩してます。 満遍なく、黒崎隊はノーダメージのまま三部隊を疲弊させている』
『あげく、普段のように近接で押さえ込もうにも黒崎隊長の馬鹿みたいな弾幕で面制圧。 隙間を縫おうとすれば毒ヶ峰隊員が刺し込む……うわぁ、相手したくねー…!』
頭を抱えるように言葉を零す出水に腕を組んで静かに頷く二宮隊、那須隊の被害者面々。
そんな観戦ブースの空気を他所に戦場は動き続ける。
玉狛第二の砲撃が戦場の一角を抉りとった。
『そうこうしてる間に北側のエリアがまるまる吹っ飛んだー! ベイルアウトはしてないものの玉狛第二のワイヤー陣から逃れるために移動をしていた柿崎隊が逃げ場を失います!』
『とはいえ、空閑隊員も中々動けませんね…彼、相当腕がたちますよ』
「おどろいた。 戦場で逆さに立ってる人は中々見ないからさ」
「なんや。 中々ってことはたまには居んのか」
ワイヤーに片手を引っ掛け、落ちるタイミングをズラした空閑の足元を弧月が通り過ぎる。 軽口を叩いてくる男を見て、修との合流が出来そうにないことを考えながらスコーピオンを構え直しグラスホッパーを踏み、ワイヤーを巧みに引っ掛け軌道を変えながら強襲するも容易く防がれ蹴りを入れられてしまった。
「お兄さん、名前聞いてなかったね。 おれは空閑遊真だよ」
今一度、上へと跳ねて相手の頭上…逆さの相手故に足上を取る。
くるり、回転して斬撃を躱せば男は見えていないはずのワイヤーに両足を付け、事情を知らない他の隊員から見れば中に浮いてるように見える状態で笑った。
「黒崎隊 平子真子。 よろしく──ゥ」
ワイヤー陣を使って回避をするが相手もまたワイヤーを使い空中を駆け、時にグラスホッパーを踏み距離を詰めてくる。 戦い方が上手いなんてもんじゃない。 下手をすればアフトクラトルの爺さんよりも何倍も上手に感じてしまう圧力を持っていた。
「まずいね」
「いや、ほんま。 その歳でだいぶ修羅場潜っとるな」
弧月よりも脆いスコーピオンでいなし、躱し、膝から生やした刃先で平子の脇を浅くだが傷付ける。
「ほいっ、と」
斬り結んで数十秒ばかり、その程度とはいえ弧月とグラスホッパーしか使ってないことに意識を割かれていたからか流石の空閑も面食らった。
分割無しの大きなアステロイドが一直線に飛んできたからだ。
咄嗟にグラスホッパーを踏んで避ければアステロイドは背後の家屋の壁を壊し、空閑がいた所から数メートル程度で消失した様子を見るに威力速度を上げて射程を極端に短くしたもの。
「なんちゃって虚閃。なんてな」
「せろ、ってなにさ」
互いに獲物を構えて動きを止めると二人にそれぞれオペレーターの声が入った。
「悪いねひらこ。 おれは逃がさせてもらうかな」
「は、ちょい待てぇ…!」
平子と空閑を狙った疎らな射撃。 その隙にフリーになった空閑は離脱をし平子はワイヤーを伝って上へと逃げ、横合いから刺してきた相手を見る。
「あーらら、お客さんが釣れた」
「本当は、空閑に残って欲しかったんだがな…」
「なんや、不満?」
ガガガガガガ!!!
殺到する弾をようやく見せたシールドで防ぎ切りながら孤月を肩口に担ぎ見下ろす。
柿崎隊隊長に巴の二人が銃を構えて平子を睨んでいた。
「んで、あと一人はこちらさんと」
ノールックで背後へ、今度は分割したアステロイドをばら撒くと平子の背後から甲高い音が鳴り下へ落ちていく。
「文香!」
「大丈夫です!」
二人での奇襲から更に攻撃で意識を向けさせ、最後のひとりが時間差での攻撃。 オペレーターの腕が余程腕利きか、仕掛けられた側が手練でなければ無傷ではいられない良い攻撃だった。
もちろん自分は無傷だけど、と平子は笑うがそこはそれとして彼らの技術は褒める以上に価値があるものだ。
「あかん。 霊術院の生徒より優秀かも」
ドヤ顔で奇襲を防いだのもつかの間。 下から横から前からと三者のタイミングがわざとズラされた射撃や斬撃にワイヤーを斬られ、慣れぬ装備での戦いに冷や汗を流し始める。 一護もリルカも、オペレーターである井上織姫の報告からしてエリアの反対に居り、どう考えても自分への援護には間に合いそうにもない。
「しゃーない……気張るか」
「一気に行くぞ!」
「「はいっ!」」