『さぁ、大混戦となってきた今試合! 』
『誰のせいなんでしょうか』
『誰のせいなんですかねー』
『あの、お二人ともすみませんが実況解説をお願いできませんか!?』
時枝と出水は遠い目をしながら言葉が漏れる。
『申し訳ない。 では今の柿崎隊から。 柿崎隊は全員が揃い本来の動きが出来始めています。 これは香取隊、玉狛第二も同じく集結していますが柿崎隊が揃った際の制圧力、防御力のポテンシャルはかなりありますので有利に進めそうです。…………が、』
『その揃った柿崎隊をたった一人で受け流している黒崎隊の平子隊員。 空閑隊員とサシでやり合いながら割り込んできた柿崎隊三人相手に浅い数撃は貰ってるものの、深手といえる攻撃は一切受けてません』
『えーと、平子隊員…は、どうにも黒崎隊長と旧知の仲! らしいです』
『どこ情報?』
『平子隊員が言ってました!』
『毒ヶ峰隊員は?』
『黒崎隊長のことを気にかけているようです』
『どこ情報…、というか本人の居ないところで言っていいんでしょうか』
『平子隊員が言ってました!』
【葉子、道を走って三本目を右に。 そしたら物陰に隠れてから十秒、雄太と二人で通ってきた道に向かって弾幕を張って。 十秒耐えれば盤面が動く】
「葉子ちゃん!」
「華が言うんだもの。間違いない、わ!」
オペレーターの言う通り、葉子と雄太は二人して脇道に入り、今来た道へ向かって相手からの射線を切りながら弾をばら撒く。
「追いかけっこは終わりかよ?」
「うっさいわね! 観念しなさい黒崎ぃ!」
「アンタなんであの子にあんなに嫌われてんのよ!? なにしたの!?」
「馬鹿言え、弟子みたいなもんだ。噛みつきたい年頃ってやつだろ」
追いついた一護とリルカに向かっての一斉射は二人の集中シールドやエスクードに防がれる。 射撃が途切れれば、一護のトリオンにモノを言わせたアステロイドが殺到するが…
そうなる前に、一護の背後に建つ建屋の中腹が光った。
「ッ! リルカ!」
「は? な、によこれ!?」
咄嗟にシールドを張ったリルカの脚にズッシリと、黒い塊が生えて動けなくなった。
【鉛弾…!? 葉子、今のうちに!】
「悪く思わないでよね……!」
影浦雅人直伝(何回も首を飛ばされて覚えたとも言う)マンティス葉子ver.がリルカの首を刈り取った。
「ちっ、やってくれるじゃねーか玉狛第二…!」
背後から狙撃手。目の前には香取隊の二人。 一護ならばやれなくない。逃走よりも闘争を取ると染井華はそこまで読み切っていた。
一護と葉子達の睨み合いを打ち切ったのはまたしても玉狛第二の横撃。
三雲の射撃と空閑の強襲が一護を挟み込み、正面からは香取隊の一斉射撃。 背後からは鉛弾ライトニングによる狙撃。普段通りの攻撃手編成ならば空閑を落とし、三雲も落として狙撃を交わしながら香取隊の二人まで真っ二つにしていただろう。だが、ここまで接近を許しての五対一は流石に想定外だったのか顔が引きつっていた。
「お前ら、俺の為にやり過ぎじゃねぇのか…?」
三雲側にエスクードを出現させながらグラスホッパーで飛び、空閑に向かってアステロイドを撃ちまくるも弾の間をすり抜けるように入り込み、スコーピオンを腹部へと突き刺した。が、簡単に終わらせないのが黒崎一護という男だ。
腹にスコーピオンを突き刺された瞬間に空閑の腕を掴み取り、片手をゼロ距離射撃で吹き飛ばした。しかも、射線が香取隊に重なるようにして一発で複数の的を捉えている。 一護を落とすために構えていた葉子と雄太も慌てて回避を取り、トドメは間に合わない。
「まだ慣れてないようでたすかったよ。いちご先輩」
「平子にドヤされんな…っ」
失った腕の代わりに断面からスコーピオンを生やして一護の首を跳ね飛ばす。
「あと二人このまま落とそう」
「…………やってみなさいよ!」
『あーーっと! 黒崎隊長、毒ヶ峰隊員が緊急脱出! 香取隊と玉狛第二にそれぞれ点が入ります!』
『鉛弾を使った狙撃。 トリオン量が莫大な雨取隊員の技が光りましたね』
『集中シールドで防げないから避けるしかない。 さっさと避けて狙撃手を狙いそうな黒崎さんをここで落とせたのは玉狛第二にとって得点以上の価値がある。 あるんだけど、黒崎さんが鉛弾おもしれーな。とか言って変な真似しないかだけが心配だな』
『黒崎隊は平子隊員のみが残っていますが…これは、』
『一筋縄ではいきませんね』
ザワザワと観戦者たちが騒めくのはモニターに映された平子真子の様子。
柿崎隊三人に囲まれだいぶ時間が経っているのにも関わらず、その姿は健在。それどころか柿崎隊の三人それぞれがダメージを負っているのが見て取れた。
「あれが黒崎の知り合い……つまるところアレということか」
「太刀川達が外を相手にしていてよかったな。すぐにバトりに行ってたぞ」
「やるやないか。 驚いた」
グラスホッパーに孤月、アステロイド。 たった三枚の手札しか見せずに柿崎隊三人を相手に落ちず、粘り続けている平子真子に柿崎は無力感を覚えそうになった。それと同時に矛盾しているかのように感じるが、柿崎隊としての力は十全に振るえれば上位に届くとも思った。
目の前の男は一対一ならば、太刀川さん相手でさえ恐らく即落とせる実力がある。 黒崎とはまた違った圧を感じる相手だ。 それを相手に落とされず、粘り続けていられる。文香と虎太郎のポテンシャルはやはり高く、それを活かすも殺すも隊長である自分次第なのだと改めて思い知れた。
対する平子は素直に感動している。 死神とは違う、現世の戦士たち。 彼ら彼女らは今は届かないかもしれない。 それは一重に経験の差。もし自分が同じ年齢であった時に比べればボーダーの隊員たちの方が上やもしれない。 だからこそ、この世界の現世の戦士である隊員たちが半ばで果てぬようにしてやりたいと思った。
【平子くん。 リルカちゃんと黒崎くんが落とされた。 玉狛第二は香取隊とぶつかり合ってるけど、多分……玉狛第二がそっちに攻め込むよ!】
「落とされたァ!? なにを……はぁ…しゃーない。追加の1点くらいはもぎ取ってくわ」
「黒崎が落ちた! チャンスだ。 必ず取るぞ文香、虎太郎!」
平子、ひとりを囲うように柿崎隊は構える。
視線を外さずにジリジリと距離を測っていると柿崎隊の三人が凄まじい悪寒を感じた。 感じ慣れないその悪寒は死神や滅却師達ならば相応に応えていただろう。しかし近界民との戦いの際に直接、黒トリガー相手にした隊員以外では初めて身に受けたモノ。
トリオン体とはいえ純粋な生の殺気。
平子は指導の一環として、三人を一段登らせるために初めて殺す気で構えた。
「……ッ! あ、ぁぁ!!」
「虎太郎……ッ!」
分からぬ気持ちの悪い感覚に虎太郎は声を上げて斬りかかった。 その光景に柿崎は声を上げて数瞬遅れて追い掛ける。
「悪いなぁ…、あとで飴ちゃんやるから」
虎太郎が振り下ろした孤月をスルりと逸らし、逆に首の近くへと振るうった。が、それは柿崎の連撃によってギリギリ食い止められる。
「はぁ……っ! はぁ!」
「隊長さんなんやろ。 よく見て、考えて、進まなきゃあかん。 手札を使っても使い切るのはダメや」
鍔迫り合いをしながら、文字通り虎太郎を一蹴し、反応が遅れた文香へのアステロイドでの牽制は忘れない。
「上に立つ者は下の者の気持ちは汲んでも顔色は窺ったらあかん」
「なにが…!」
言葉を続けようとした柿崎は歯を食いしばり、その瞳に闘志を燃やした。
(文香も虎太郎も、真登華も俺には勿体ねぇような隊員だ。 今回だって俺が二人に思うように戦わせていれば上手くいったかもしれない。 だけど、俺は、俺のところに来てくれたあいつらをもっと上へ押し上げてやりたい!)
ズンッ、と深々に孤月が柿崎の身体を貫いた。
「隊長…!」
「悪いな平子。 あんたは強えが、タダでくれてやるつもりは…ねえ!」
「おっと…ダメやったか」
孤月からいつの間にか切り替えられていた突撃銃が平子の胸元に押し付けられ、柿崎が緊急脱出する寸前まで引き金を引きっぱなしにしてトリオン体を破壊した。
『ここで平子隊員、柿崎隊長ともに緊急脱出!』
『音声が拾えてないため何があったかは分かりませんが…すこし柿崎隊らしからぬ動きが一瞬ありましたね』
『珍しく乱れてたって感じがしたけど、柿崎隊長が三人相手にほぼ無傷だった平子隊員をきっちり道ずれにしたなぁ。 これで玉狛第二、柿崎隊、香取隊、それぞれ1点ずつ。 黒崎隊が2点か』
『いえ、そうこうしてるうちに三雲隊長が三浦隊員を落としますが逆に香取隊長が三雲隊長を落としました!』
『だけど香取が三雲を落とした時、三雲がワイヤーを香取に取り付けてたらしいな…。上手い』
『一瞬の静止は空閑隊員には命取り……と思えば』
モニターには空閑と香取が同時にマンティスを放っていた。が、ワイヤーによって動きが阻害されたせいもあり、香取のマンティスは狙いを外し空閑の脇腹に刺さり、逆に空閑のマンティスは香取の供給機関を穿った。
『これで残るは柿崎隊が二人に玉狛第二が二人!』
「悪りぃ平子、リルカ」
「いーわよ。別に勝たないといけない!って訳じゃないんでしょ」
「せやな。 楽しかったわ。あ、あとで柿崎隊のところ行ってくるわ」
「ごめんね、黒崎くん。 私がもっと早く玉狛第二の動きに気がついていれば……」
「気にすんなって井上。 今回はこれで良かったんだよ」
三人とも落とされた黒崎隊は隊室で顔を突き合わせて話していた。 試合の状況は雨取が鉛弾で文香を封じるも落とされ、緊急脱出で逃げられ、残った虎太郎が食らいつくも空閑に落とされて試合終了となった。 玉狛第二が生存点も含め、6点。 香取隊が2点、柿崎隊も2点、黒崎隊も2点となった。
玉狛第二的には取れるだけ取りたかっただろうが、他の隊がイーブンで持っていってしまった。
「今回は色んな戦い方をアイツらに経験させるって意味合いがあった。最初は俺たち無視されてたが……」
「一護の日頃の行いが悪いからやろ」
「く、黒崎くんは凄いから皆が安全を取ろうとしただけだよ!」
井上のフォローが痛い。
「私は元々、戦闘要員じゃなくて運搬でこっちに呼ばれただけだし。 ついでにあんたの所に来ただけだからこんな事しなくても良いんだからね!」
「なんだかんだ手伝ってくれてあんがとよ…」
「俺は現世に慣れてて、仕事が少ないから来たんやけどな!」
「…………本当か?」
「せや。 阿散井副隊長やらルキアが来るはずやったんやけど……アイツらにトリガーを使いこなせ言うても無理やろ。 そんで、暇してた俺が来たってわけ」
絶対にあっちの世界の雛森あたりが仕事を抱えててんやわんやしてるんだろうな。
というか、確かにルキアと恋次がトリガー使ってるイメージが湧かない。 乱菊さんとかだったら野郎共の視線が鬱陶しかったし平子で本当に良かったやもしれない。
「それより外は大丈夫なんか」
「ん、あぁ……ボーダーの精鋭達に加えて、今回はあの人達も出張ってるしな」
「あの人ら?」
那須隊は黒崎射手編成の犠牲者の会の為、観戦ブースに居り対ガロプラに参戦していません。
代わりにどっちの世界でもオサレに巻き込まれてお労しいことになっている彼女が変わりに参戦する。ぶっちゃけ近界民が可哀想である。
次回 ガロプラ