時は少し遡る。
「敵が来る」
迅の一言で一気に隊員達は警戒配備へと移る。
狙撃手達が構え、ゲート発生地点を目視し人型のトリオン兵達に雨を降らせていた。
「奴さん、生意気にもシールド重ねて防いでやがるぞ」
「集中的に狙いましょう! 左から!」
「それなら俺は右から!」
古寺を始めとする数人、当真を含めた数人ずつの狙撃手たちが左右から人型トリオン兵アイドラを撃滅していく。 狙撃で崩れないシールドは地上部隊の嵐山隊や諏訪隊などの混成部隊挟撃して次々と崩していく。だが攻め込んでいる近界民達も甘くは無い。
狙撃手達が構える基地の上部へ向けて花火のようなモノが打ち上げられると飛び散った塊がゲートとなり小型のトリオン兵をばら撒き始めた。
「ちょっ!? なんか出てきたァ!」
「人型じゃないだけセーフ!」
「セーフかなぁ!?」
「撃ちながら下がれ。 俺と荒船でコイツらを潰す。 地上部隊は援護無しの状態でやり合うな。数に食い潰されるぞ」
『了解!』
荒船と木崎の武闘派狙撃手、器用に近距離でツインスナイプを決めてドヤ顔をする佐鳥が犬型トリオン兵を削るが手薄になった基地の外壁に孔を開けられた。
「基地内部に近界民! 数、三!」
「ちっ、抜かれたか!」
「黒崎隊は呼ばなくていいのか」
「彼らに頼るまでもない。それが迅の視たものだ。 それに今回は協力者も居る」
基地内を駆け抜ける近界民三人は迅の風刃を避け、壁抜けを利用しながら遠征艇の攻撃を目的として進んでいく。
曲がり角で背後と正面が同時に爆裂した。
「ウェン対処できるか」
「任せて。 ここで止める」
小部屋に入ると同時にウェンと呼ばれた近界民の女が犬型トリオン兵ドグを数匹出しながら三人を相手取ろうと舐めた歳若い女を相手に斬りかかった。
「大丈夫です。 少なくとも一人、私が受け持ちます。 皆さんは遠征艇を防衛お願いします」
「ちっ……!」
焦る様子もなく、通信しながら変わった形のブレードを振り飛び出た弾がトリオン兵を穿ち、そのままウェンのブレードを防いだ。
「器用ね」
「それほどでも」
ブレードを振るい、飛びかかりと這い回るドグを次々と撃ち抜く。 斬撃に加え、誘導弾や爆裂、速射の効いた攻撃にウェンは何度目かの舌打ちをついて少しだけ距離を開けた。
「お名前、聞いていませんでしたね」
「…名乗るとでも?」
時間稼ぎの為ならば、多少の会話に付き合ってやるのも手と思えば言葉を返し睨みつける。 アフトクラトルの連中にくれてやるものでは無いがこの手強い女の名前くらい知っておけばガロプラに損は無いだろうと。
「技術検証室 副室長 雛森桃。 いきます!」
「……ウェンよ」
名乗りと共に煙幕を撒くウェンに対して雛森は視えているように襲いかかってくるドグを切り捨て撃ち抜く。 何らかの方法を用いて把握していることが分かった上で更なる札をウェンは切った。
「近中隙がないトリガー。 卑怯ね」
背後に現れたウェンを振り向きざまに斬り捨てるも、斬撃はすり抜け変わりに脇腹を浅く刃が切り裂いた。 切り裂かれたところからはトリオンではなく血が少し流れる。
「……そういうこと。 卑怯なりに代償があるの」
「分身だなんて、そちらも随分とズルいんじゃないですか?」
雛森の握る七支刀型の孤月。 名を『梅花』。
孤月に旋空ではなく中距離で戦えるようにアステロイド、ハウンド、メテオラ、その他複数を仕込んだ試作型。 それぞれの弾は本来の威力の半分程故に使い勝手はいい物ではないが、雛森はその手数を上手く利用している。 最もそこまでの機能を詰め込んだ故に緊急脱出機能どころかトリオン体への換装を有しておらず生身での利用となるが。
「
分身はそれぞれトリオン反応を持っており、それで本物を把握することは不可能。 本物以外はすり抜ける分身は殺到するように雛森へと襲いかかる。
「手はあります…!」
ウェンが斬り掛かる寸前、目の前に特大の光弾が浮かび上がった。 先程見た爆裂する弾。 まさか自滅覚悟と躊躇した途端に弾は炸裂し、眩い光が辺りを照らし目を潰される。
(閃光弾……!?)
思いもよらぬ一手に怯むと同時に分身の数体が消えた。 雛森が部屋の上部に飛ぶ分身を映し出していたトリガーを破壊し始めていた。
「そこ!」
一刀、ウェンが咄嗟に身体を傾けると片腕が飛ばされる。
「やはり、分身は今の貴女を映すようですね」
ウェンの腕を落とせば全ての分身達が片腕をなくしている。 それはそうとしてだ。
「なぜ、私が本体だと?」
「勘ですよ」
霊圧感知、とはまた違うが元々死神であったもの達はトリオンの揺らぎを感じることが出来る。 分身は確かにウェンのトリオン反応をトレースしていたが虚をつかれた際に僅かながら本体のトリオンが揺らいだ。 だからこそ本体が分かった。加えてもう一つ、確信させる助言があったのもある。
最もこの一撃で決められなかったのは雛森にとっても誤算ではあったが詰めの隊員がいる以上、最早時間の問題である。 地下の遠征艇付近ではボーダートップクラスの隊員達が近界民二人を相手取っている。
今回、雛森が課せられた任務は試作型トリガーの対人検証と近界民が虚トリオン兵を使用してこないかの確認である。 後半の任務に関しては此度は空振りではあったが。
「これで終わりです。 私に気を取られすぎましたね」
「……!?」
視界に入らなかった、いつの間にか現れた二人の男に脚と腕を落とされウェンは地へと伏した。
「歌川さん、菊地原さん。後詰めありがとうございました」
「いえ、それよりもお怪我を…」
「生身で戦ってるとか……」
あら、なんて血が流れ落ちる脇腹や肩口を見て恥ずかしそうに笑う雛森に途中から機会を伺っていた歌川と菊地原は若干引いている。
室内での戦いが進む中、外でもボーダー隊員達は戦闘を繰り広げている。
基地エリアを離れては三輪と米屋が人型近界民と。 木虎と黒江がエースと思われるトリオン兵が相手になっている。
物量のトリオン兵達は狙撃手組、二宮隊、加古隊、玉狛第一の二人が崩し始め戦線はボーダー側へと傾き始めた。
「双葉ちゃん」
「…恐らく次は対応されます」
一度、『韋駄天』を使用して破壊したエース機のアイドラがまた現れた。 以前の黒江ならばもう一度『韋駄天』で仕留めるつもりだったろうが黒崎と模擬戦を行った際に軌道上に孤月を置かれて首を跳ねられた恐怖から慎重になっていた。
「そうね。 相手が黒崎さんだと思えば…まだまだ遅い相手だわ」
「エース機は私が抑えます」
「わ、私達ね?」
黒江が孤月を構え、前傾になるとアイドラが動きを止めガードの構えを取りながら肩の突起を張り出して『韋駄天』を待ち構えた。 が、黒江はアイドラ目掛けではなくその真上へ高速移動をした。
驚きを見せるように首を上へと動かしたアイドラの両脚は視線を逸らした隙に木虎によって切られ、体勢が崩れた状態で上から落ちてきた黒江の孤月に貫かれて撃破される。
「次」
「木虎、黒江、両名次行けます!」
【了解。 ポイント送ります】
そして街側の外れ。 アフトクラトルの近界民であるヒュースが一人の近界民と向かい合って話をしていた。
曰く、捕虜となったヒュースは見捨てろ。との命令だと。
「そうか『蝶の楯』」
「くそ、『剣竜』!!」
骨の竜の尾とも言うような外見のトリガーを近界民が発動するが遅く。 ヒュースの『蝶の楯』が彼を地面へと縫い付け、そのまま地に伏した身体を真っ二つへと切り裂くとその近界民は緊急脱出した。
「ベイルアウトか……」
「逃がしたか。 大丈夫か陽太郎?」
「ヒュースにしこんだのはおれですからな!」
「迅」
「あぁ、わかってる……」
ギチッ、と軋んだ音がする。
蝶の楯よりも先に風刃が疾り、斬撃が黒い影を細切れにしてしまった。
「ひゅー、これが虚ってやつか。 視えにくかったな」
「……ガロプラの新規のトリオン兵か?」
「ヒュースはそういえば知らなかったか……いや、待ってくれ。 ヒュースが知らない…? アフトクラトルが知らない…? ちょっとこれは浦原さんに相談だな」
雛森桃
ステータスは後日。
藍染は裏切ってないし、冬獅郎は同僚だし福利厚生がしっかりしてるので十全どころかオーバースペック気味。
元々鬼道の達人であった雛森のために孤月1つで射撃や捕縛、撹乱を行えるように改造された試作品『梅花』を使ってる。
相手がトリオン兵やトリオン体である近界民は斬りあっても相手に血を流させることも無いので荒事もなんのその。