次回は少しランク戦になるかも?
「よぉ、黒崎」
「何の用だ太刀川さん。俺これから帰るんだが」
入隊から半月、先日ランク戦を行った少女(木虎というらしい)の度重なる挑戦により順当にポイントを稼いだ俺はあっという間に昇格に必要な4000に達した。
B級に上がった為にトリガーを幾つかセット出来るようになったらしく国近に教えられながらとりあえず暫定的にトリガーを決めてセットしてもらった。使いこなせるかどうかはよく分からないが何とかなるだろう。
んで、太刀川さんの用事なんて恐らく一つだ。
「俺とバト「断る」早いな!?」
片手で制しながら子供のように駄々をこねる太刀川を手でシッシッと追い返す仕草をみせる。
「大体、俺はこれから戻って店を開けねぇといけないんだよ」
「そういや駄菓子屋か何かしてるんだっけか。よし、俺も店に行く」
「来るな」
「だから何でだよ」
「黒崎さん店行ってもいい?」
「あぁ、構わねぇぜ。 どーせ米屋とかも一緒なんだろ? ちゃんと買い物して行けよな」
「なんで出水と米屋がよくて俺がダメなんだよ黒崎ぃ」
情けない声を上げる太刀川を引き摺りながら本部から出ようとするとゲートの付近に長身でストレートロングヘアーの女性が仁王立ちをしていた。 なーんか嫌な予感しかしねぇ。
「黒崎一護くんね? 私は加古望よ」
「人違いだ」
「あら、私が見間違えることないわ。 貴方の戦闘訓練見ていたし太刀川くんとこの前一本勝負したのも見ていたわ」
「……はぁ、それで? 手合わせとかだったら時間が無いから無理だぞ」
「大丈夫よ。時間は取らせないから。貴方はうん、と頷くだけで」
あー…と出水は彼女が告げようとしていることを察したようだが様子を見るにそう面倒な事でもないのか?
「ウチの部隊に入らないかしら?」
「お断りさせてもらいます」
「ウチの部隊、イニシャルが《K》で優秀な子をスカウトしてるのよ。だから黒崎くんもね?」
「いや、ね?って言われても入らないものは入らないが」
「それなら私と5本勝負で勝ち越したらお断りさせられてあげるわ」
「おい、出水。ここの連中ってこうも聞き分けのないヤツらばかりなのか?」
「いや、黒崎さんが面倒臭い人達にしか絡まれてないだけ」
なるほど、と太刀川と加古の交互に見て溜息を吐く。
仕方ないこうなったら潰しあってもらうか。
「太刀川さん、今度あんたが満足するまで殺りあってやるんであの人どうにかしてくれ」
「なんでお前はそこまで上からなのか分からないがヨシ、俺が何とかしてやるか」
「ちょっと、太刀川くん。私の部隊の有望株にちょっかい掛けないでよ」
「悪いな加古。コイツは太刀川隊の3人目なんだ」
「なら力づくででも奪い取ってみせるわ…」
……余計にめんどくさいことになった気がするが後でしらばっくれれば良いか。と、黒崎は火花散らす二人の横を出水と共に素通りして帰路へとついた。
基本ここまでチャリで来ているのだが生憎今朝は何処ぞのバカにチャリを持ってかれていたので徒歩で来ているせいか、今日は普段あまり気にしない道をゆっくりと歩いている。
こちらの世界に来て早1ヶ月と少し。
トリオン兵の数は確かに虚に比べると数は多いが倒せない程ではないし何ならドン観音寺でも時間をかければ撃破ができるぐらいだ。
それにトリオン兵が出るせいか虚の姿は見えない。 関係性があるのかどうかは今、浦原さんが調べているようだが進展はないようだ。
こっちで何か分かれば報告をくれと言っていたがこっちもこっちで何も無い。
別に退屈ということは無いが多少ゲンナリしながら浦原商店十五号店に到着すると戸を開く。開店しててもしてなくても客なんてボーダーの連中ぐらいしか来ないのだが。
出水は槍バカと共に来ると言っていたのでもう少し時間が掛かるだろうと判断し、一応店の入口が見える場所に腰を据えて《向こうの大学》の講義の録画を携帯端末で再生しながらノートにペンを走らせる。 …浦原さんはどうやって講義を撮影してきたのか。
少しすると気配を感じたので画面から視線を外し入口を眺めていると件の二人ではなく、高校生と中学生ぐらいの女子二人組が店の入口から顔を覗かせていた。
「…あー、いらっしゃい?」
「こ、こんにちは…っ」
あからさまに怯えた様子の中学生は小動物のようにちょこちょこ歩きながら店内に入ってくる。 それともう一人の女子はどっかで見かけたことある様な気がした。
「あの、先日はありがとうございました」
「なんの事だ?」
「え? いや、この前あたしがお店の前で男達に絡まれてて…黒崎さんが助けてくれたじゃないですか」
あー、そうだ。
朝っぱらから人の家の前で騒ぐヤンキー?(命名横ちん)を掃除した時にいた奴か。
「別に。人の家の前で騒いでたから片付けただけだ。たまたまだよ…つーか、何で名前を…」
「あ、熊谷友子です。 ボーダーの入隊式で黒崎さんを見掛けた…というか騒ぎになってましたし…有名ですよ。黒崎さん」
どういう方面で有名なのか。
最速B級。 ヤンキー。 女相手に容赦なく蹴りをぶちかまし首を跳ね飛ばすヤンキー。
ここ数日で耳にした俺のことで大体分かってる。
「なるほどな。 まぁ、気にすんなよ…同じボーダーのよしみだ、なんかテキトーに菓子を持って行っていいぞ。お前も」
「え、い、いいんですか!? 後で高額請求されたりしませんか!?」
「人をなんだと思ってるんだよ」
怯えた様子の少女を熊谷が軽く小突くと必死に謝ってきた。
日浦茜というらしい。
とりあえず、請求は迅にするから勝手に商品を持っていけと再度言うと二人はすごすごと駄菓子を選び始めたので俺は再び手元のノートにペンを走らせるんだが…数分もしないうちに出水と槍バカこと、米屋が店に顔を出した。
やはりと言うべきか、当たり前と言うべきか二人とも熊谷、日浦の事を知っており一緒になってワイワイとはしゃいでいる。
高校生の頃の記憶なんて大抵喧嘩か死神代行業が色濃く残っているのであぁいうはしゃぎをした記憶は少ない。 まぁ、手前も去年までは高校生だったんだが。
「そういや黒崎さんは自分で部隊を作るんだよな?」
「ん? あぁ誰かの下ってガラでもねーし、今更加入したって戦術が変わって迷惑かけそうだしな」
「いや、黒崎さんが入るならその辺は全く気にしないと思うけどな〜」
「太刀川さんは入れる気満々だし」
出水と米屋はそう言うが正直、俺が動きやすい様にするには自分で部隊を持つのが一番だってのが一応、現状での最適解なはずだ。
まぁ、俺が誰かに指示を出すのはそれはそれで経験はねーんだが。
「って事はオペレーター探しか…」
「黒崎さん、首尾はどうなんすか?」
「声を掛ける前に逃げられるな」
実はB級に上がって太刀川さんやらのスカウトが鬱陶しかったので手っ取り早く隊を作ろうとフリーオペレーターに声を掛けてみた事が何度かあるのだが何れも全敗。
人の顔を見て完全に萎縮しちまってたしな。
「あ、それなら私の友達はどうですかね?」
「それいいですねっ!」
「熊谷の知り合いってーと…あぁ」
「アイツ、だな」
なんだか分かり顔をする四人に件の当事者であるはずの俺はただただ、成り行きを見守ってることしか出来なかった。
そろそろ話に混ぜてくれ。
「黒崎さん、明日のお昼空いてますか?」
「あぁ、店は閉めればいいしな」
閉めていいのかよ…と米屋が言っていたが気にしない。
浦原商店の売上なんて特に気にしなくてもいいし…つか、十五号店って他の店舗は誰が切り盛りしてんだよ。
「それじゃあ明日の昼に那須隊の作戦室に来てくれませんか? 私の友達、紹介するので」
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そして翌日。
言われた通りに那須隊の作戦室に顔を出すと熊谷が迎え入れてくれた。隊長である那須玲は具合が優れないらしく今日は不在だということで、熊谷、日浦、そして椅子に座ってるために後ろ姿だが熊谷の友達で俺の隊に入ってくれそうな少女が見えていた。
「こっちおいで!」
「う、うん! 本当にあたしでもいいのかな…」
立ち上がり俺の目の前に立つ。
花を模したヘアピンに少し緊張をした笑みを見せ、身体付きは男からすれば抜群によく、その少女は胡桃色のロングヘアを靡かせた。
「い、井上織姫ですっ。 その友子ちゃんからお話を聞いてお力になれるかなーって…」
いや、確かに浦原さんが言ってたけどよ。 俺の知ってる誰かじゃないんだろうけどよ。
それにしたってお前か、井上。
つーか、若いな井上。
「黒崎さん? 大丈夫ですか?」
「織姫さんが美人だからビックリしてるんでしょうか」
「あ、茜ちゃん?!」
あまりにもな展開だったのでついつい言葉を失っていたのを余計な方で勘違いされちまってるな、おい。
「悪いな、知り合いに似ていたから驚いただけだ。 俺とチームを組んでくれねーか?」
「は、はい! 喜んでっ」
なんて軽い挨拶を交わし部隊申請する為には何やら書類とかを書かないといけないらしいので志岐(那須隊オペレーター。人見知りの為ボイスチャット)にレクチャーを受けつつ書類を埋めていく。 横でソワソワしている井上(歳下)にはなれねーが…まぁ、そのうち何とかなるだろう。
三十分程で必須な部分を埋め終わった書類を手に申請に向かうと即座に承認された。
たまたま居合わせた鬼怒田のオッサンから今度新武器に関するアイデアをくれやらなんやら言われ、手伝いの代わりにと俺と井上にジュースを奢ってくれた。
鬼怒田本吉。
ボーダーにおける開発本部長でゲートの基礎システムなどの事柄に大きく貢献したオッサンらしい。 浦原さんもその手腕を褒めていた程だ。
さて、申請も終え割り振られた隊室に必要な椅子やテーブル、その他小物を備品を用意して部屋へと入ると改めて井上に向き合う。
「え、えっと黒崎さん何か飲みます?」
「いやさっき鬼怒田のオッサンに貰った飲み物あるし大丈夫だ」
「あ、そうですよね…」
「あー、そんなに気を使わなくていいぞ? これからは一緒の隊なんだし年齢なんか気にしねーし。なんだったらボーダーとしては井上の方が先輩だろ?」
「先輩だなんてっ。 私はオペレーターだし…そんな事ないですよ…」
めんどくせぇし違和感がすげぇ。
井上織姫だけど俺より年下ってのが一番の違和感なんだろうけど。
「とりあえずだ。 俺を呼ぶ時は敬称はいらねーしタメ口でいい」
「えぇ!? それは流石に…」
「隊長命令だ」
「う、うん…でもせめて黒崎くん…で許してくださ……許して?」
まぁそれなら向こうと同じか。と納得するととりあえずシフトを決めることにする。 まぁ、シフトといっても俺は大抵フリーだし井上の都合のいい曜日だけ他の隊と共に防衛任務に当たるだけだ。
「えっと、黒崎さ…くんは何時でもいいの?」
「あぁ、店は俺の好きな時に開けたり閉めたりしていいからな」
「えぇ…それ、本当に大丈夫?」
心配そうな声を他所に隊室の扉が開かれ乱入者…というか珍入者が騒がしく部屋へとやってきた。
「黒崎の裏切り者!」
「いや、元々アンタのところ入るなんて言ってねーし太刀川さん」
「黒崎くんなら私の所入ってくれると思ってたのだけれど」
「アンタのところどんだけ人数増やすんだ加古さん…」
「あ、お客さん…お、お茶だしますね!」
「井上、コイツらに気を使う必要は…」
騒がしくも、こうして俺と井上だけの黒崎隊が結成されたのだった