銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)   作:銀推し

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15. 幼女の話

 

 

 

 すっと手が伸びてきて。

 

「ん」

 

 そしてぱちん、と聞こえる駒音。

 

「ふーむ」

 

 なるほど、そう来たか。

 なら……よし、こうだな。俺もそっと手を伸ばして駒を動かす。

 

「ん」

 

 するとまた幼女のおててが伸びてきて、持ち上げた駒をぱちんと鳴らす。

 

「む、やるな……」

 

 あえて俺はそんな呟きを漏らして。

 

「なら……こっちだ」

 

 金を動かして、銀子ちゃんの攻めを封じるかのように壁を作る。

 ……と見せかけて、自陣の王を守る囲いの中に一つだけ穴を作り出す。

 

 ──さぁ気付け! 

 ほら、君がこの先口癖のように言う頓死が、頓死の一手があるよ! 

 ほら気付くんだ銀子ちゃん! ……と、俺のそんな心の声が伝わったのか。

 

「……あ」

 

 と呟いて、

 

「……ふふ」

 

 と微かに笑った後、幼女銀子ちゃんは俺が願っていた通りの場所に角を打った。

 

「む、こう来たか。なら……」

「やいち。それもう詰んでる」

「え? ……あ、ほんとだっ!」

 

 俺は今更盤上の頓死に気付いた……ようなフリをして「あちゃー……」と頭を抱える。

 

「くそー、俺の負けかぁ」

「らくしょう」

「いやー、にしても銀子ちゃんは強いなぁ!」

「とーぜん」

 

 ふふん、と無表情ながら得意げになる幼女銀子ちゃん。ほんとに可愛いなぁもう!

 あまりに可愛いので抱っこしちゃう事にした。よいしょっと。

 

「わ」

「まだ子供なのにこれだもんなぁ! 本当に凄いなぁ銀子ちゃんは!」

「そう?」

「うん、4歳でこれなら将来はプロ棋士間違いなしだね! ほら、高い高ーい!」

「わぁ」

 

 俺は幼女銀子ちゃんの脇の下を抱えて、彼女を天井近くまでぐいっと持ち上げる。

 あぁ、幼女は軽いなぁ。小学生よりも更に軽いなんて……なんて腕に優しい存在なのだろうか。

 

「ほらほら、高い高ーい、高い高ーい!」

「わぁー」

「ほーらほーら、下げてー、上げてー」

「きゃー」

 

 上下に移動を繰り返す度、幼女銀子ちゃんもわーきゃーと歓声を上げる。

 声が殆ど棒読みなので一見分かりにくいが、これはとても楽しんでくれている。子供の頃からずっと一緒にいた俺には分かる、もし楽しんでいないのなら銀子ちゃんは暴れるはずだからね。

 されるがままの銀子ちゃんとはその状況に満足しているという事なのだ。てな訳でもっともっと高い高いをしてあげようね。

 

「高い高ーい!」

「……八一」

「高い高ーい!!」

「ちょっと、八一」

 

 上げたり下げたりと、腕に優しい幼女銀子ちゃんの事を俺が縦横無尽に振り回していると。

 

「八一。あんたね、なに遊んでんのよ」

 

 俺と幼女の戯れをじっと見つめる灰色の瞳、顰めっ面の銀髪美少女。

 先程の対局の観戦者、JK銀子ちゃんからのクレームが入った。

 

「いや、これは幼女銀子ちゃんを褒めているのであって遊んでいる訳では……」

「何処からどう見たって遊んでんでしょうが」

「……あそうだ、銀子ちゃんもやる?」

「やるってなにを? ……高い高いを?」

「うん」

 

 俺がそう尋ねてみると、JK銀子ちゃんは2,3秒程沈黙して。

 

「……え、どっちを?」

「どっち? いやだから幼女銀子ちゃんを高い高いしたいのかなーって」

「あぁ、そっち……別にいい」

 

 JK銀子ちゃんはつまらなそうにそっぽを向く。

 その仕草を見ていると……うーむ、なんだか選択肢を間違えてしまったような気分だ。

 ……て、あ、どっちってまさか……。

 

「銀子ちゃん。もしかしてさ……俺に高い高いをして欲しかったとか?」

「……別にいいっていってんでしょ。そんな事よりも対局に戻りなさい」

「あ、それもそうだね」

 

 俺は持ち上げていた幼女銀子ちゃんを座布団の上に下ろして、自分もその対面側へと戻る。

 

 今は午前11時前。俺と幼女銀子ちゃんにとっては毎日恒例の将棋タイムだ。

 そして他の銀子ちゃんズにとっては学校で授業を受けている時間帯……なのだが、この通り今日のJK銀子ちゃんは早々と帰宅している。

 その理由に関して尋ねてみると、

 

「てかJK銀子ちゃん、今日は随分と学校終わるの早くないっすか?」

「今日は学校がテスト期間だったから二限目までしかなかったの」

 

 と、言う事らしい。

 正直な話、学校の創立記念日を沢山創り出すこの子の言う事が本当かどうかは微妙なところだ。

 とはいえそもそも高校に行っていない俺に高校の授業形態の事が分かるはずもないので、そうなのと言われたらそうなのかと納得するしかない。

 

 とにかくそんな訳で、今日は昼間からJK銀子ちゃんが家に居る。

 観戦者を一人増やした状態で、俺と幼女はいつものように対局をしていたんだけど……。

 

「それより八一、さっきの対局はなんなの? あんたもっと真面目に指しなさいよね」

「そ、それは……」

「あれで指導対局のつもり? あんなんじゃ幼女の私の為にならないじゃないの」

「……はい。仰る通りです……」

 

 実に痛い所を突かれて俺は頭を垂れる。

 確かに先程の対局は指導対局だとしたらダメダメだろう。初心者相手なら将棋の楽しさを知って貰う為にわざと負けたりもするんだけど、幼女銀子ちゃんはもう初心者という段階では無い。

 だから四枚落ち、あるいは二枚落ちぐらいでしっかりと指して、ちゃんと負かしてあげた方がこの子の成長に繋がるはずだ。特に銀子ちゃんは子供の頃から負けず嫌いな性格、負けをバネに出来る性格をしているのだから。

 

 そう、そんな事は俺だって分かっている。

 分かってはいるんだけどさ……でもさぁ、だってさぁ……幼女銀子ちゃん可愛いんだもん……。

 俺に勝ったら嬉しそうな顔しちゃってさぁ……そんなのもっと見たくなるじゃん……?

 

 特にそのむふーっとした顔は俺が子供の頃によく見た覚えのある顔で、この子と対局していると俺も子供の頃に戻ったような気分になる。

 ていうか俺、子供の頃はこの子との対局を殆ど独占していたんだよなぁ。今更ながらに思うけどなんとまぁ贅沢な環境にいたものだ。

 とはいえ今はそれ以上に贅沢な環境を味わっているんだけどね。なんせこの部屋は銀子ちゃんパラダイスだし……なんて事を考えていると。

 

「……む。さっきはまじめじゃなかったの?」

 

 俺の正面に座る幼女銀子ちゃんがそう言った。

 あ、マズいぞこれは。幼女のお顔には見るからに不機嫌度が増しちゃっているではないか。

 

「い、いや違うよ? 決して真面目じゃなかったってわけじゃないんだけど……」

「真面目じゃなかったでしょ。ていうかあれで真面目にやってたっつーならプロ失格ね。タイトル返上したほうが良いわよ」

「ぐぅ……」

 

 俺はどうにか弁明してみるものの……駄目だ。幼女だけならともかくJK銀子ちゃんという観戦者が居る状況では言い逃れが出来ない。

 そして案の定、今の話を聞いた幼女銀子ちゃんはぷぅとほっぺを膨らませてしまった。

 

「……まじめじゃなかったのね」

「え、えっと……」

「もっかいやる。つぎは本気でやりなさい」

「いやでも──」

「やれ」

「うっす……」

 

 命令口調の幼女に対して18歳の俺は小さく身を縮こまらせる。

 やれと言われてしまった以上は仕方無い。逆らう気なんて俺には毛頭ありはしない。

 

 ……にしても本気で、か。

 となるとそうだな……やっぱり最初は四枚くらいだろうか。

 俺は飛車と角、そして両側の香車計四枚を自陣からひょいひょいっと取り除く。

 

「ちょっと、なにしてるの」

「えっと、とりあえず四枚落ちから……」

「ばか。平手にきまってんでしょ」

「い、いやいや、平手はさすがに……」

「うるさい」

 

 俺の反論をピシャっと一言で遮断してしまう幼女銀子ちゃん。

 どうやらこの子は駒落ち無し、同じ条件で指したいようだけど……これは困ったな。

 いくら相手が銀子ちゃんとはいえ、さすがに4歳児相手にプロが平手というのは手合違いが過ぎる。それで本気を出すなんて大人げないにも程があるというものだ。

 

「幼女銀子ちゃん、とりあえずさ、とりあえず一回だけ四枚落ちでやってみない?」

「やだ」

「そこをなんとか、一回、一回だけでも──」

「だまれ」

「………………」

 

 命令通りにしゅんと黙る俺。

 この子に逆らってはいけない。それは俺が幼かった頃からのルール、俺の全細胞に焼き付いている絶対的な指示であり、この子の前では俺は言いなりになるしかない。

 とはいえどうしたものか……と、俺は助けを求めるかのように視線を横に向けてみる。

 

「……ふぅ」

 

 すると目が合ったJK銀子ちゃんは呆れたように息を吐いて。

 

「……いいんじゃない? とりあえず平手でやってみたら。どうやらその幼女、まだあんたの実力をちゃんと理解していないみたいだし」

「いやでもそれにしたって平手というのは……」

「わたしがやいちに負けるはずない」

「ほら、当の本人もこう言ってるし」

「そうは言ってもさぁ……」

 

 幼女でも高校生でも、銀子ちゃんという女の子は無茶言ってくれるぜホントに。

 幼女銀子ちゃんが俺との対局に自信満々な理由は分かる。この子は俺と出会った頃の空銀子で、当時は銀子ちゃんの方が強かったからだ。対九頭竜八一成績では白星先行が当たり前だった。

 

 更に言えばこの共同生活が始まって以降も。

 俺と幼女銀子ちゃんは何度か対局しているけど、その際は先程のように勝ちを譲ってきた。

 それは幼女を気持ちよく勝たせてかわゆい顔が見たかったという邪な考えもあるんだけど、それ以上に大きな懸念が一つあったからで……。

 

「八一。こういう時は一回ガツンとやってやればいいのよ」

「けれど……ていうか銀子ちゃん、幼女の自分に対してちょっと厳しくない?」

「厳しくない。むしろあんたが甘いのよ」

「でも……」

「やいち。早くしろ」

「はい」

 

 早くしろと言われてしまった以上は仕方がない。

 俺は取り除いた駒四枚を盤の上に戻し、平手で幼女銀子ちゃんとの対局を始める。

 

「ん」

 

 幼女銀子ちゃんが7六歩を打ってきた。俺もすぐさま8四歩と打つ。

 この対局は平手であり、その上本気でやれとも言われている。隣でプロ棋士JKが観戦と言う名の監視をしている中、下手に手を抜いたりしようものなら即座に看破されてしまうだろう。

 

 ただ先程も言った通り、この子との対局にはちょっとした懸念があって……。

 だってこの子は幼女銀子ちゃん、幼い頃の空銀子そのものな訳で……だとするとここで俺が勝ったりしようものなら……。

 

 ……と、そんな俺の懸念も虚しく、対局自体はあっという間に終了した。

 

「…………ない」

 

 自陣を悔しそうに見つめながらぽつりと呟く幼女銀子ちゃん。

 俺は普通に指して普通にこの子に勝利した。4歳児とプロが平手で指したら普通にそうなる。

 

「………………」

 

 幼女銀子ちゃんはむっとした顔で盤面をじっと眺めていて……。

 とまぁここまでは良い。幼女の頃の銀子ちゃんだって俺に負けた事自体は何度もある。だから負ける事に問題がある訳じゃないんだけど……。

 

「……やいち。もう一回」

 

 そう言って銀子ちゃんはすぐに駒を並べ直す。

 この通り、幼女の頃の銀子ちゃんというのは俺に負けたら即リベンジしてくる。先程も言った通りこの子はとても負けず嫌いな性格をしているのだ。

 その性格こそが銀子ちゃんの成長、そして俺の成長にも繋がったものだとは思うんだけど、今の俺の懸念とはその性格こそにあって……。

 

「……ない。もう一回」

 

 あっという間に2局目が終了。負けた銀子ちゃんは再び駒を並べ直す。

 この通り、幼女の頃の銀子ちゃんというのは勝つまでリベンジするのを止めない。この子はめちゃくちゃ負けず嫌いな性格をしているのだ。

 そして当時はそれで問題無かった。当時は俺よりも銀子ちゃんの方が強かった訳で、リベンジが成功しないなんて事はあり得なかった。だから当時はそれで良かったんだけど……。

 

「…………ない。もっかい」

 

 これまたあっという間に3局目が終了。負けた銀子ちゃんは再び駒を並べ直す。

 この通り、当時はそれで良かったんだけど……今となっては……さすがに……ね。

 さすがにこの状況においては何度リベンジを繰り返そうとも、18歳の竜王を相手に4歳児が平手で勝利する可能性なんて万に一つもないだろう。

 

 それでも銀子ちゃんは諦めない。

 何度負けても俺にリベンジを繰り返す。

 

「……もっかい」

 

 でもやっぱり勝てない。

 どうやっても勝機の見えない対局が続いて……。

 

 そして。

 

 

「……っ」

 

 駒を打とうとした途中、幼女銀子ちゃんは動かしかけた手を止めた。

 恐らく自玉がすでに詰んでいる事に気付いたんだろう。この段階でもう数手先の詰みが読めるこの子の将棋の才は疑う余地のないものなんだけど……これは相手が悪すぎるとしか言えない。

 

 ……そして。

 ここからが俺の一番の懸念なんだけど……。

 

「……ぅ」

 

 すると微かな呻きが聞こえて。

 そのおめめがうるうるしだして、端正なお顔がくしゃっと歪んで。

 

「……うぅう゛~!」

 

 ほらー! やっぱり泣いちゃったじゃんかー!

 

 

 




次は幼女の番。
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