銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)   作:銀推し

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16. 更に幼女の話

 

 

 

 

「……うぅう゛~!」

 

 お顔をくしゃっと歪めて唸る幼女。

 そのおめめからはぽたぽたと大粒の涙が。

 

「あぁあああっ! な、なな泣かないでっ! 泣かないで銀子ちゃん!!」

 

 こんな可愛い幼女に、天使のような幼女のお顔に涙なんて似合わない。

 俺は慌てて幼女銀子ちゃんのそばに駆け寄り、その頭をよしよしと優しく撫でる。

 

 ……が。

 

「ふぇぇ! うぃいい゛~!」

 

 けれど幼女の泣き声は止まらない。むしろ俺が触れた事で勢いを増したような気さえもする。

 こうなってしまうともう駄目だ。幼い頃の銀子ちゃんというのは一度ぎゃん泣きモードに入ってしまうと中々泣き止んでくれない。それは誰よりも俺が一番よく知っている。

 だからこの子は泣かせちゃいけなかったんだ。俺は幼女の背中をさすさすと擦りながら、八つ当たり気味にJK銀子ちゃんの事を睨む。

 

「ほら言ったじゃん! だから平手で普通の勝負なんてしちゃ駄目だったんだよ!」

「な、なによ、私が悪いっての!?」

「だってだってっ! 平手でやったらって勧めてきたのJK銀子ちゃんじゃん!」

 

 俺はこうなるのが薄々分かっていたからこの子との対局では細心の注意を払っていたのに!

 

「っ、……別に、泣くぐらいなんだってのよ。将棋をやっていたらそれぐらいの悔しさなんて日常茶飯事じゃない」

 

 JK銀子ちゃんはそう言うものの、ちょっとバツが悪そうに顔を背けている。

 多分この子、幼い頃の自分が結構な泣き虫だったって事を忘れてたっぽいな。

 だが俺は覚えている。この子の涙にいつも手を焼かされてきたのは俺なのだから。

 

「ふぎゅぅ~、びぃぃぃい~……!

「銀子ちゃん、いい子だから、いい子だから泣き止んで……!」

「……う゛えぇ、びやぁぁあ~……!」

「あそうだ! 冷蔵庫にアイスあるよ、アイス食べよっか! ね!」

「ふぇ……っ、い゛らないっ! 」

 

 全力であやしてみたり、物で釣ってみようと試みるが……やっぱり効果なし。

 幼女銀子ちゃんは俺の手をぺいっと払って、涙に濡れた瞳でキッと睨んでくる。

 

「……う゛ぅ~! う゛ううぅ~!」

「ちょっ、ちょっと銀子ちゃん……」

「やいちのばかっ! ばかぁ!」

 

 そして両手をぐーに握って、俺の頭や背中などをぽこぽこと叩いてくる。

 あ、これ……なんか可愛い。子供の頃はこの癇癪が怖かったような覚えがあるんだけど、大きくなった今ではこんなのまるで痛くない。むしろ愛おしくさえ感じてしまう。

 

 ……いや駄目だ、痛い! 凄く痛い! 身体は痛くないけど心が痛いっ!

 銀子ちゃんの泣き顔をみる度、泣き声を聞く度、俺の胸がズキズキと音を立てて痛む。

 これは駄目だ。泣いている銀子ちゃんは駄目だ。どの年代であっても空銀子の涙というのは俺のメンタルにもの凄いダメージを与えてくる。

 

「ふぃぃい、うぇぇん……!」

「ぎ、銀子ちゃん……」

 

 だがぎゃん泣きモードの幼女銀子ちゃんを前に、俺はあたふたする事しか出来ず……。

 

「……ふぇ、……く」

 

 そうして暫く泣き続けて。

 やがて少し気分が落ち着いてきたのか、銀子ちゃんがぐずぐずと鼻を啜りだす。

 

「な、泣き止んだ……かな?」

「……ふん」

「あ……」

 

 そしてゆっくりと立ち上がると、てててて……と歩いて俺のそばを離れていく。

 そしてリビングの隅っこに小さく丸まって、いそいそと将棋の指南書を読み始める。

 

「……ぐすっ」

 

 でもその目元は腫れぼったくなっていて、お顔はぶすっとしていて……。

 あぁ駄目だ、あんなに可哀想で寂しそうな幼女を放っておく事なんて出来ない。

 俺は幼女銀子ちゃんのそばへと近付こうとしたのだが……けれど駄目だ。

 

「……や」

「あっ……」

 

 幼女銀子ちゃんは俺が近付くや否やすぐに立ち上がり、てててて……と距離を取ってしまう。

 

 ぐぐぐ、露骨に避けられている……! 

 まぁそりゃそうだよな……この子を泣かせてしまったのは他ならぬ俺な訳だし。

 

 ……けど、それでも幼女銀子ちゃんをこのままにしておくのは良くないと思う。

 なので俺は嫌がられるのを承知で、もう一度そのそばへと近付いてみた。

 

 だが。

 

「銀子ちゃん、一緒に──」

「こないで」

 

 銀子ちゃんはハッキリを拒絶の意思を示して。

 そして俺を見上げながら、言った。

 

 

「……やいち、きらい」

 

 

 ──え?

 ──今、この子は……なんて?

 

 ……嫌い?

 うそ、嘘だろ?

 俺……銀子ちゃんに嫌われた?

 

「……銀子ちゃん、に、嫌われた……」

 

 俺の脳がそれを認識した途端、全身からすぅっと力が抜けていく。

 身体を支えられずに膝が崩れて、そのまま背後へとひっくり返った。

 てててて……とまた離れていく幼女の足音を聞きながら、俺はもう立ち上がる事が出来ない。

 

「……俺、銀子ちゃんに嫌われた……ぎんこちゃんにきらわれちゃった……」

 

 魂が抜けたように呆然と呟く。視界に入る天井がじわりと滲んで見えなくなっていく。

 幼女の頃の銀子ちゃん。初めて出会ったその日すぐに俺の心を一発で奪った女の子。

 俺はこの子と一緒に居たかったから、この子の特別でありたかったから頑張ってきたのに……。 

 

「なのに、きらわれちゃった……」

 

 ……あ、だめだ。俺このまま死ぬかも。

 もう身体が動きそうにない。もう何も出来ない。何もしたくないよ。

 

 あぁ、何だか目の前が真っ暗になってきた。

 俺の人生は幼女に止めを刺されるのか……なんかそれも悪くないな……。

 

 ……とそんな考えが過ぎったその時。

 

「……八一。大丈夫?」

 

 その声は俺に残された最後の希望だった。

 俺を殺す存在が銀子ちゃんであるなら、俺を救う存在もまた銀子ちゃんなのだろう。

 倒れたまま動かない俺を心配してか、JKの銀子ちゃんがこちらに近付いてくる。

 

「……ぎ、ぎんこ、ちゃん……」

 

 俺は最後の気力を振り絞って、どうにか身体を起こして……。

 

「ぎ、ぎ……ぎぃんこぢゃあああぁん!」

「ちょ、ちょっと──!」

 

 その胸の中へと飛び込んだ。

 彼女の背中に両手を回して、ぎゅっと抱き付いたままリビングの床に倒れ込む。

 

「うぐぅぅ……! ぎんこちゃあん……!」

「……はいはい、よしよし」

 

 幼女に嫌われて泣きじゃくる俺。

 その頭を成長した幼女本人、俺の恋人である銀子ちゃんが優しく撫でてくれる。

 

「うぅぅ……ぎんこちゃん……おれ、ぎんこちゃんに嫌われちゃったよぉ……!」

「あんたねぇ、そんな事で泣くんじゃないの」

 

 銀子ちゃんは呆れた声でそう呟く……が。

 いや泣くでしょ。幼女の銀子ちゃんに「嫌い」と言われて平然としていられるはずがない。

 俺は顔をぐりぐりと擦り付けて、銀子ちゃんの制服のリボンで涙を拭う。やわらかい。

 

「っ、もう……八一……」

「……銀子ちゃんに嫌われた、死にたい」

「……大丈夫。嫌われてない、嫌われてないから」

「……ほんとに? ほんとに嫌われてない?」

「ほんとだってば。ちゃんと……ちゃんと八一の事が好きだから」

 

 ちゃんと好き、だって。

 うーん、本当かな? 嫌いと言われた直後だけにすぐさま信じる事は出来ない。

 

「ほんとに? ほんとに好き?」

「……うん、本当。本当に好きだから」

「どれぐらい好き? 具体的には?」

「え、えぇ? ぐ、具体的にって……だ、だから……その、大好き、だから……」

 

 銀子ちゃんは凄く恥ずかしそうにそう答える。

 

「……そっか。良かった……」

 

 本当に良かった。その言葉を聞けた事で俺のHPの減少がようやくストップしてくれた。

 あぁ危なかった。さっきは危うく意識を手放しかけた、本気で死ぬ所だった。

 人間なんて幼女の言葉一つで死ねる。なんと儚い存在なのだろうか。

 

 

 こうして俺は九死に一生を得た。

 しかしこの一件で、幼女に嫌われた事で負ったダメージは甚大で……。

 

「……(ぷいっ)」

「ぐっ……!」

 

 お昼ごはんの時間。幼女銀子ちゃんは俺と目を合わせてくれない。

 そしてこちらから目を合わせようとすると、ぷいっと顔を背けてしまう。

 そんな冷たい態度はお昼寝の時間も同様で。

 

「……じぇーけー、ちょっと」

「え、私?」

 

 普段は俺のそばで眠るのに、今日はJK銀子ちゃんに引っ付くようにして眠っていた。

 俺はカンペキに警戒されてしまっている。というか……嫌われてしまっている。

 

「……はぁ、ツラい……ツラ過ぎる……」

 

 幼女に嫌われるのがこんなにツライとは。

 幼女に避けられて生きるというのがこんなにも苦しいとは。こんなもん拷問だ、地獄だ。

 

 ていうか幼女の、それも銀子ちゃんに避けられているってのがマジでキツい……。

 これがそこらで出会った見知らぬ幼女ならこんなダメージは負わないんだろうけど、いつからか俺はこんなにも銀子ちゃんという存在に弱くなっていたようだ。

 

「……このままずーっと嫌われたままだったりしたらどうしよう……」

「心配し過ぎだって、そんな……」

 

 俺が肩を落として落ち込んでいると、JK銀子ちゃんが慰めの言葉をくれる。

 だけどその膝下にはすやすやと眠る幼女が引っ付いていて……本来ならそこは俺のポジションだったのに……あぁ、哀しい。

 

「案外、昼寝から目覚めたらさっきの事なんて全部忘れているかもしれないわよ? なんせこの子は幼女なんだし」

「……銀子ちゃん。本当にそう思う? 自分自身の事なんだから分かるよね?」

「………………」

 

 俺の問いに銀子ちゃんは微妙な目付きと沈黙で返してくる。それがつまり答えだろう。

 空銀子とは寝て起きたらコロッと機嫌が回復するような簡単な子ではない。むしろ根に持つ時はとことん根に持つとても執念深い子なのだ。

 

 だけど、それだけじゃない。

 そりゃ銀子ちゃんは執念深い子なんだけど、決してそれだけじゃなくって……。

 

 

「ただいまー」

 

 2時過ぎ、JS銀子ちゃんが帰宅した。

 俺が玄関まで出迎えに行くと、彼女はその灰色の目を軽く見張らせて。

 

「……八一、どうしたの?」

「え?」

「なんか辛そうな顔してる。なにかあったの?」

 

 ……ほら、この子は俺を心配してくれている。

 なんて優しい。今も不安そうな表情で俺の顔を覗き込んでいる。なんて可愛い。 

 

「──銀子ちゃんっ!!」

「わっ!」

 

 あまりの優しさと可愛さに感極まった俺は、思わず彼女の事を抱きしめた。

 瞬間驚きの声を上げたJS銀子ちゃんも、しかし俺の腕の中で抵抗しようとはしない。

 

「や、やいち……どうしたの?」

「……銀子ちゃん。ちょっとの間だけこのままでいていいかな……?」

「えっ!? と、ぉ、う、な、も、もう……仕方ないわね……」

 

 JS銀子ちゃんはこくりと頷いた後。おずおずと俺の背中に手を回してきて。

 

「……べ、別に……これくらいなら別に、いつだってさせてあげるけど……?」

 

 え、マジで? いつだってハグしていいの? この子サービス精神旺盛過ぎじゃない?

 ……いや違う。これが銀子ちゃんなんだ。この子は本来とても優しい子なんだ。俺が苦しんでいる時はいつだって助けてくれる、いつだって抱き締めさせてくれる女の子なんだ。

 

 それが証拠に……それから1時間後の3時過ぎ。

 

 

「ただいま」

 

 JC銀子ちゃんが帰宅する。

 俺は再び玄関まで出迎えに行く。すると俺を目にした彼女はJSと同じように表情を曇らせて。

 

「なんかあったの? 随分と暗い顔してるけど」

 

 ……ほら。中学生の銀子ちゃんだって俺の事を心配してくれる。

 やっぱり優しい。今はとにかく銀子ちゃんの優しさに触れたい。癒やされたい。

 

「──銀子ちゃんっ!!」

「きゃ!」

 

 という事で、俺はまた銀子ちゃんをハグした。

 こうして力一杯抱き締めても……中学生の銀子ちゃんだって抵抗したりはしない。

 

「ちょ、や、やいち、な、な、なに、なに──!」

「……銀子ちゃん。ちょっとの間だけこのままでいていいかな……?」

「はぁ!? え、だって、なっ、な、わたし、あの、なん、あの、あの……!」

 

 ……なんだかJC銀子ちゃんの言葉はつっかえつっかえで要領を得ないな。

 でもこの通り、抵抗しないって事は嫌がってはいないって事だよね。うん。

 

「あぁ、銀子ちゃん……」

「や、やいち、わた、わたしっ、わたし──!」

 

 ……うーん。なにやら声が上擦っているし、身体がガチガチに固まっているような気もするけど……けどまぁ些細な事だろう。

 とにかくこの子も優しい。思えば俺がプロになった直後、将棋から逃げ出した俺を連れ戻しに来てくれたのも中学生の銀子ちゃんだった。俺はこの子に助けられてばっかりだ。

 

 やっぱりそうだ。JKは然り、JSでもJCでも、銀子ちゃんとはとても優しい女の子なんだ。

 癇癪持ちだったり執念深かったり、そういう負の側面は確かにあるけど、それを補って余りある優しさを持ち合わせている子なのである。

 

 そしてそれは当然──幼女の頃も同じだ。

 幼女銀子ちゃんだって本当はとても優しい幼女。それは誰よりも俺が一番知っている。

 

 だからきっと……ちゃんと謝ればこの子だってきっと許してくれるはず。

 俺が泣かせちゃったのは事実だけど、俺の事を嫌いになっちゃったのも事実かもしれないけど。

 それでもちゃんと仲直りをすれば、銀子ちゃんもきっと分かってくれるはずだ。これまでのように接してくれるはずだと……そう信じたい。

 

 という訳で、次の日。

 

 

「……む」

「……銀子ちゃん、対局しない?」

 

 仲直りの為、俺はいつものように幼女銀子ちゃんを将棋に誘った。

 

 

 

 

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