銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)   作:銀推し

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21. 風呂の話

 

 

 

 

 俺に向かって天使が囁く。

 けれどそれは悪魔の囁きの如き言葉で。

 

「やいち。おふろはいろ」

 

 その言葉を聞いた瞬間に俺は一度死んだ。

 そしてすぐさま現世に転生を果たして、俺を殺した罪深い幼女に向けてこう答えた。

 

「うんっ! そうだね! お風呂入ろっか!」

 

「逮捕」

「了解」

 

 何たる迅速な動き、何という見事な意思疎通だ。

 俺の答えを聞いた瞬間にJKとJC二人の銀子ちゃんがさっと動き出す。

 二人共に片方の腕を掴み、俺はあっという間に両腕を背中で拘束されてしまった。

 

「ちょ、ちょっと二人共、痛いって!」

「ねぇ、このクズどうする?」

「そうね、とりあえずベランダに出しておきましょうか。ここに置いておくと危険だし」

 

 我が姉弟子ながらなんたる酷い言い様だ。まるで人を犯罪者かのように扱うではないか。

 俺はただ純粋に幼女の望みに応えようとしただけなのに……って二人共目がマジだし! 

 

「二人共待って待ってっ! まだセーフでしょ、まだお風呂には入ってないから!」

「馬鹿ね、風呂に入ってからじゃ遅いのよ。犯罪は未然に防ぐものなの」

「ていうかこれ犯罪じゃないし! 俺は大人として幼女のお風呂に付き添うだけで……」

「はいはい、言い訳は署で聞くから」

 

 署ってなにさ、署って!

 

「それに、これは幼女銀子ちゃんの方から誘ってきた事だよ!? ねぇ幼女銀子ちゃん?」

 

 このままではベランダと言う名の署に連行されて寒空の下で放置されてしまう。

 俺はどうにかこの冤罪を逃れようと、唯一味方になってくれそうな幼女に縋った。

 

「うん。やいちといっしょにお風呂にはいるの」

 

 すると彼女はこくりと頷いて答える。

 あぁ、やっぱりこの子は俺の天使やで……。

 

「ほらほら二人共、幼女が、幼女がこう言ってるんだよ? 他ならない幼女がさぁ!」

「幼女幼女言うな。……お風呂なら私が一緒に入ってあげるから、それでいいでしょ?」

 

 俺の代わりに、という意味合いで、JK銀子ちゃんが幼女の自分に向かってそう言う。

 

「やだ。やいちとお風呂はいる」

 

 しかし幼女銀子ちゃんも折れない。

 どんな心境の変化かは分からないけど、とにかくこの子は俺と一緒にお風呂に入りたいようだ。

 

「ちょっと、わがまま言わないの」

「やだ。やいちと一緒にはいるの」

「駄目」

「やだ」

「あのねぇ」

「やーだ、はいるの」

 

 高校生の自分から睨まれても一切動じず、幼女銀子ちゃんは「むー」とほっぺを膨らませる。

 お、俺と一緒にお風呂に入りたくてプンスカしちゃうとか、可愛すぎんだろこの幼女……!

 そして俺も目が覚めた。こんな天使のような子に縋ってはいけない、矢面に立たせてはいけない。むしろこの子の願いは俺が守らなければ。

 

「JK銀子ちゃん、JC銀子ちゃんもだけど、二人共変な事を気にし過ぎだって。幼女銀子ちゃんはこの通り幼女、まだ4歳の幼女なんだよ? 男親と一緒に風呂に入るのなんか普通の事だって」

「あんたがいつ幼女の私の父親になったのよ」

「い、いやいや、それはものの例えというか……親じゃなくてもこの子にとって、俺と一緒に風呂に入るのは普通の事なんだよ。だって俺達、子供の頃は毎日一緒に風呂入ってたじゃん」

「っ、それは、そうだけど……」

 

 俺の発言は一定のダメージを与えたようで、JK銀子ちゃんが言い淀む。

 共に清滝師匠の内弟子である俺と銀子ちゃんの関係性はとても深い。俺は6歳、銀子ちゃんは4歳の頃から同じ家の同じ部屋で暮らしてきた訳で、姉弟のような関係と言ってもいい。

 

 そして姉弟である以上当然なのだが、子供の頃は一緒にお風呂に入っていた。

 だってそれが子供というものだ、子供にとっては一緒にお風呂に入るのなんて当たり前の事だ。

 正確な時期とかはもう覚えてないけど、桂香さんとお風呂に入るのは早々に辞退した俺も銀子ちゃんとは長らく一緒に入浴していたと思う。

 

 そしてここに居る幼女銀子ちゃんとは、まさにそんな子供の頃の銀子ちゃんそのものだ。

 だからこの子にとっては九頭竜八一と一緒にお風呂に入るのは当たり前の事で、変に気にしたりするような事ではないのだろう。

 というべきか、そもそもこの子はまだ男の人と一緒に風呂に入る事の意味すら分かっていないに違いない。なんたって4歳の幼女だしね。

 

「ねー幼女銀子ちゃん。俺と一緒にお風呂に入るのなんて普通の事だよねー?」

「うん。じぇーけーでもヤじゃないけど、やっぱやいちじゃないとへんなかんじなの」

「ほーらこう言ってる。いいかい銀子ちゃん、これは自分自身の言葉なのだよ? 君だって4歳の頃は俺と一緒に風呂に入らないと変な感じがする時期があったはずなんだ」

 

 俺がそう言うと、JK銀子ちゃんは「……そんな事は、無いと思うけど……」と弱々しく呟く。

 とはいえ幼い自分自身の言葉を否定する事は出来ないのか、その顔には戸惑いの色が見える。

 よしだいぶ弱ってきたぞ、後もうひと押しだ。

 

「銀子ちゃん、幼女の頃の自分の言葉を無下にするのは駄目だと思うよ? 自分だって昔はそうだったのに、それを幼女銀子ちゃんから取り上げちゃうなんて酷くない?」

「……でも、私は4歳だけどあんたは6歳じゃなくて18歳じゃない。幼女の方は気にしなくてもあんたが変な気を起こしたらどうするのよ」

「ちょ、ちょっとちょっと、さすがにそこは信用してよ……いくら何でも4歳児相手に変な気なんて起こさないってば……」

 

 この子に対して穢れた想いを抱いたとしたら、それはもうロリコン以上のおぞましい何かだ。

 当然この俺はそんなおぞましい存在ではない。いや別にロリコンでも無いんだけどね?

 というかJK銀子ちゃんや、君は俺の恋人なのだしもうちょっと彼氏の事を信用してくれても良いのでは……などと考えていると、ムッとした顔の幼女が俺のズボンをくいくいと引っ張り出す。

 

「わたしはやいちと一緒におふろにはいるの。じぇーけーもじぇーしーも手をはなして」

「ほらほら、幼女銀子ちゃんもむくれてきちゃってるし、この子の為にもお風呂に入らせてよ」

「……どうする?」

「……仕方無いわね」

 

 JCの自分と目を見合わせた後、JK銀子ちゃんは渋々俺の手を離してくれた。

 ふぅ、ようやく無罪放免だ。俺を含めて、やはり誰しもが幼女には弱いという事なのだろう。

 JK銀子ちゃんはまだ少し逡巡していたようだが、やがて俺の目を真っ直ぐ見つめて言った。

 

「八一、一応信じてるから」

「え、一応なの? そこはガッツリ信じてくれていい所なんじゃないっすかね?」

「……あの幼女が私じゃなかったらガッツリ信じてあげてもいいんだけど……」

 

 銀子ちゃんじゃなかったら……か。

 ふむ、それは確かに一理あるかもしれない。幼女銀子ちゃんとはただの幼女ではない、空銀子というただでさえ可愛い存在が可愛い幼女になった、まさしく奇跡的に可愛い幼女だ。

 特に俺にとっては大切な恋人が幼女になった姿なわけで……そういった点から不安視しちゃうのかもしれないけれど、それでも幼女は幼女、どんなに可愛くてもこの子は幼女という存在だ。

 

 幼女に対する「可愛い」という気持ち、それは言わば父性愛のようなもの。高校生の銀子ちゃんに対する「可愛い」という気持ちとは明確に別物だ。

 相手が如何な銀子ちゃんであっても、幼女となればやましい気持ちを抱く事は無い。身も蓋の無い言い方をしちゃうと……要は……あれだ。幼女相手なら俺のドラゴンが目覚める事は無い。

 

「心配しなくても変な事になんかならないよ、子供とお風呂に入るのなんて普通の事なんだしさ。……さ、それじゃ幼女銀子ちゃん、お風呂入ろっか」

 

 そう言いながら幼女銀子ちゃんの脇の下に手を回してひょいっと抱え上げる。

 そうして俺の腕の中にすっぽりと収まった幼女は「ん」と小さく頷く。あらかわいい。

 

 当時は俺の方も子供だったから、銀子ちゃんを抱っこしたりとかは出来なかったからなぁ。

 今になってこの子と接すると当時は見えなかった新たな発見がある。意外とこうして抱っこには素直に応じる所とか、今度他の銀子ちゃん達にも試してみようかな……。

 

 ……なんて事を考えていると。

 

「……八一」

「ん?」

 

 俺の名前を呼んだのはJS銀子ちゃんだった。

 

「………………」

「どしたの?」

「………………」

 

 長らくの沈黙の後。

 ここまで一度も会話に混ざらなかった小学生の彼女は、意を決したような表情で口を開いた。

 

 

「……私も。私も一緒にお風呂に入る」

 

 

 それを聞いた瞬間に俺はまた死んだ。九頭竜八一は二度死ぬ。

 そして再びこの世に転生を果たした。どうやら俺は余程現世に未練があるらしい。具体的に言うとすぐ間近に迫った彼女達との混浴とか。

 

「な、な、じぇ、JS銀子ちゃん!? どど、どうしてっ、どうしてそんな事を……!?」

 

 とはいえさすがにこれには「そうだね! お風呂入ろっか!」なんて返す事は出来なかった。

 だってこれはあまりにも破壊力が強すぎる。蘇生したばかりの俺でも動揺が隠せない。

 同じように衝撃を受けているのか、JCとJKの銀子ちゃん達も「あんた何言ってんのよ!」とか「正気なの!?」とか口々に叫んでいる。

 

「だって、さっき八一が言ったじゃない。子供と一緒にお風呂に入るのは普通の事なんでしょ?」

「そ、そりゃそう言ったけどさ……」

「だったらいいじゃない。私だってまだ小学生で子供なんだし、普通の事でしょ?」

「それは……いやけど、そもそもJS銀子ちゃん、俺と一緒に風呂なんて恥ずかしくないの?」

 

 確かに小学生は子供だ。だから例えば低学年の頃なら一緒にお風呂に入る事もあるだろう。

 けれどもJS銀子ちゃんは小学4年生だ。小学4年生だったら男女の性別の違いとその意味というものを理解してくる頃合いなはずだ。

 いくら相手が俺だとはいえ、一緒にお風呂となるとさすがに抵抗があると思うのだが──

 

「……べつに。恥ずかちきゅにゃいっ」

 

 恥ずかしがってるー!! 

 絶対に恥ずかしがってるよこの子! 真っ赤な顔でそっぽ向いちゃってるし!

 喋り方だって銀子ちゃんがマジ照れしてる時特有の赤ちゃんみたいな感じになってるし!

 

「……JS銀子ちゃん、恥ずかしいんだよね?」

「恥ぢゅかしくにゃい! 幼女が入るならわたちも一緒にお風呂に入るの!」

 

 キレ気味に言い返すJS銀子ちゃん。

 あぁこの子ってば、また幼女の自分に対して対抗心を燃やしちゃってるよ……。

 そんな所で張り合っても意味なんて無いのに、当の幼女銀子ちゃんもきょとんとしちゃってる。

 

「それに私だって、私だって八一と一緒にお風呂ぐらい全然慣れてるし!? ちょっと前までは一緒にお風呂入ってたし!?」

「え? ちょっと前まで? 一緒に……お風呂入ってたっけ?」

「……うん」

 

 JS銀子ちゃんがすっと頷く……けど、その目は俺の方を向いていない。露骨に逸している。

 うーん? この子が言う「ちょっと前」って……一緒にお風呂入ってたかなぁ? 当時の記憶が曖昧で中々思い出せないな……。

 

「銀子ちゃんが小4だと俺が小6の頃だから……ねぇJK銀子ちゃん、この頃ってまだ俺達一緒にお風呂入ってましたっけ?」

「入ってないわよ! ……入ってないわよね?」

「うん、小4の頃はもう多分……」

 

 JK銀子ちゃんは食って掛かるように否定して、更にJC銀子ちゃんも同意を重ねる。

 でもそうだよな、さすがに小6の頃はもう一緒に風呂に入るのは止めていたような気がする。ていうか小6だと、正直何らやましい思いを抱かずお風呂に入るのはもう無理だと思うし……。

 

「……間違えた。一緒にお風呂に入ってたのは1年前頃だったかも」

 

 1年前?

 

「それだと銀子ちゃんが小3で俺が小5の頃……この頃はまだ……一緒に入ってたんだっけ?」

「……入ってない……はず?」

「入って……ない、ような気がするけど……」

 

 俺もJKもJCもみんな当時の記憶があやふやなのだろう、全員が揃って眉根を寄せる。

 

「……2年前だったかも」

 

 2年前? 

 となると銀子ちゃんが小2で俺が小4の頃……。

 

「……一緒に風呂入ってたっけ?」

「……入ってた……かな?」

「……入ってた……可能性はあるわね」

 

 真相は闇の中。もはや思い出せない……が。

 銀子ちゃんが小学校低学年の話となると、俺達が一緒に入浴していた可能性は否定出来ない。

 

「とにかくっ! ちょっと前までは私も八一とお風呂に入ってたの! だから問題無いの!」

「けれど……それでも今はもう一緒に入ってないんだよね? それにさっきも言ったけどさ、俺と一緒に風呂に入るのほんとはメチャクチャ恥ずかしいんでしょ?」

「だからはぢゅかちくにゃいって!」

 

 JS銀子ちゃんは相変わらずの口調で答える。

 そして、俺の事を強い目付きでキッと睨んで。

 

「それともなに!? 八一は幼女はセーフでも小学生の私とは一緒に入れないとでも言うの!? どっちも子供なのに!」

「む……!」

 

 鋭い一手を打たれて俺は思わず口籠った。

 

 

 

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