銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)   作:銀推し

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26. 報いの話

 

 

 

「今、私が八一にしてほしいなぁと思ってる事……当ててみて?」

 

 そう言いながら俺を見つめてくる女の子。中学生だった頃の銀子ちゃん。

 少しだけ見上げるような形で。その言葉通りになにかをねだるような表情で。

 

 その顔はなんというか──

 

「……か、」

「か?」

 

 ──かっ、可愛いすぎかっ! 

 

 と言いたくなってしまうぐらいに可愛くて。俺は思わずごくりと生唾を飲み込む。

 つーか、これはちょっとヤバい……中学生の銀子ちゃんというのはもう可愛いだけじゃなくて……とても、綺麗なんだ。

 その潤んだ瞳にじっと見つめられると頭がクラクラしてくる。何も考えられなくなってしまう。

 

「えっと……ヒント下さい」

「……冬だから寒い」

「な、なるほど」

 

 寒い、か。だとすると、今この子がして欲しい事というのは……多分これかな?

 俺はJC銀子ちゃんと密着する程に近付いて、その背中にそっと両手を回した。

 

「……これですかね?」

「……当たり」

 

 JC銀子ちゃんが今、俺にして欲しい事。その正解は抱きしめる、で当たっていたようだ。

 あぁ良かった。こんな真似してもしも外れていたら大恥を掻く所だった。

 

「八一、この前も突然抱きしめて来たよね」

「え? あ、あぁ、そうだね。あの時はちょっとショッキングな事があったからさ、どうしても癒やしが欲しくて、つい……」

「……私を抱きしめるの、好きなの?」

「……うん。好きだよ」

 

 俺はすんなりと頷いてしまう。

 こんな言葉、この子が知る俺だったら……約一年半前の俺だったら絶対に言えないと思うけど。

 

 けれども今の俺なら言える、俺は銀子ちゃんを抱きしめるのが好きだ。あぁ好きだとも。

 髪先が触れ合う程に密着する感覚。銀子ちゃんの身体から伝わる柔らかい感触。ほのかに香る甘い香り。それを好きにならないはずがない。

 というかね。この魔力に取り憑かれるのはなにも俺だけじゃくて、男ならきっと誰だってそうなっちゃうはずなんだ。いやまぁこの感触を誰にも譲る気はないけど。

 

「……ん」

 

 小さく喉を鳴らすJC銀子ちゃん。

 ……あぁ、なんか、普段この子を抱きしめる時とは異なる胸の高鳴りがしている気がする。

 だってこの子はまだ中学生なのに、こんな事しちゃって良いんだろうか……どきどき……と、俺がやましい気持ちになっちゃっていると。

 

「……ねぇ、八一」

 

 ふいにJC銀子ちゃんがその口を開いて、

 

「じゃあさ……今、は?」

「え?」

「だから……今」

 

 そして、更なる難問が出された。

 

「……いま。こうして八一の腕の中に居る私がして欲しいなって思う事。……それが、分かる?」

 

 言いながら銀子ちゃんはそっと目を閉じて。

 そして……その首を少しだけ上に向かせる。まるで何かをせがむかのように。

 

 その表情は──

 

「……銀子ちゃん」

 

 これって……あれ、だよな?

 何度か見た事あるからもう分かる。要は……キス待ちの表情、だよな? 

 

 えっと、つまりJC銀子ちゃんが今俺にして欲しい事ってのは……キス、で、正解だろう。 

 ……いや、けど、これは……中学生の銀子ちゃんにキスをしちゃうってのは……。

 

 それは……ちょっとマズくないか? 

 いやマズイっていうか……駄目、だよな?

 

 だって俺には彼女がいる。恋人がいる。俺は高校生の銀子ちゃんと付き合っているんだ。

 なのにこの子とキスをしちゃうのは、それは……あくまで同一人物とはいえ、それでも浮気と認定されて然るべき案件なのではなかろうか。

 

 ……ただまぁそれを言うと、こうしてハグしてるのもどうなんだって話になっちゃうんだけど。

 それでもやっぱりハグとキスは重みが違うような気がする。まして俺の方からするのでは。

 

「……えっと」

「……どうしたの?」

 

 JC銀子ちゃんは一度その目を開ける、そして軽く非難するような目付きを向ける。

 

「あのさ、今JC銀子ちゃんが何をして欲しいか、それは分かるっちゃ分かるんだけど……」

「……だけど?」

「その、ここでそれをするのはちょっと……」

「……なに? 出来ないの?」

「………………」

 

 返答に窮して沈黙してしまう。

 ……あぁ、そういえば……なんか前にもこんな事があったような気がする。

 あれは去年のハワイの時だったか。あの時もこんな感じで銀子ちゃんからキスをせがまれて。けれども俺は動く事が出来なくて。

 

 あの時の俺は……この子の気持ちをなにも知らなかった。

 いや、というよりも知ろうとしなかったから一歩踏み出せなかったというダサい話なんだけど……それと今の理由は大きく異なる。

 

「なんかさ……ここでそれをしちゃうと、高校生の銀子ちゃんに悪いような気がするんだ」

「……同じ空銀子なのに?」

「そ、れを言われると……すごく弱いんだけど」

 

 分かってる、この子は銀子ちゃんだ。

 JKとJCのどっちかが本物でどっちかが偽物だとか、これはそういう話じゃない。

 

 この子の心はJK銀子ちゃんのそれと同じで、だからこそこうしてキスをねだっている。

 きっと恥ずかしい気持ちはあるだろうに、それでもこうして想いを露わにしている。そんな銀子ちゃんに何もしないというのは……正直に言ってものすごく心苦しい。

 

 ていうかこれは同じ銀子ちゃんなんだし、だったら他人じゃないしノーカウントだよねっ! 

 みたいなノリでキスしちゃってもいいのかもしれないけど、でも……。

 

「……けど」

「……やっぱり出来ない?」

「と、いうか……ね? 俺がここでほいほいとキスするような男になっちゃうのって……それはなんというか、JK銀子ちゃんに限らず、君にとってもあまり喜ばしい事じゃないと思うんだ」

「……そうね。それは確かに」

「でしょ? だから……」

「……うん」

 

 そして銀子ちゃんは──

 中学生の銀子ちゃんは一歩下がって、俺の下からゆっくりと離れる。

 

「………………」

 

 そしてまた目と目が合った。

 その表情を見ていると……あぁ、なんか……胸を掻き毟りたくなる。

 

「……ごめん」

「別に謝らなくていいわよ。むしろ……ちょっとだけ見直した」

「そ、そう?」

「うん。『同じ銀子ちゃんならノーカンだよね!』とか言ってサラッとしてくるかと思ってたから」

 

 ひぃ! あ、あっぶねぇ……! 

 完全に俺の思考を読まれてるし……!

 

 と、とにかく、とにかく正解を選べたようだ。

 俺がほっと胸を撫で下ろしていると、銀子ちゃんが俺から視線を外して801号室の方を向く。

 

「あんたに聞きたかったのはそれだけ。用事はもう済んだから」

「……そっか。じゃあ部屋に戻ろうか」

「うん。……あ、そうだ」

 

 そこでJC銀子ちゃんは何かを思い出したのか、パンと両手を叩いて。

 

「八一、あんたはちょっとここで待ってて」

「え?」

「部屋を出る前にJK銀子に言われたの。私の話が終わったら次は自分が八一と会うからって」

「あ、そうなの?」

「うん。だから八一はここに居て。すぐにJK銀子を呼んでくるから」

 

 そう言ってJC銀子ちゃんはすたすたとこの場から立ち去っていく。

 

「JCとの話が終わったらお次はJKか。……一体なんの話だろ?」

 

 その場に一人となった俺が首を傾げながら待ち人待つ事数分。

 

「……お、来たかな?」

 

 だだだっと廊下を駆ける足音が聞こえてきて。

 

「──八一!」

「おっとっ!」

 

 廊下の角を曲がってすぐ、俺の視界に飛び込んできたのは白いセーラー服。

 何故か分からないけどダッシュしてきたJK銀子ちゃんを俺は慌てて抱き止めた。

 

「ど、どしたの銀子ちゃん。そんなに走って……なにか急ぎの用事でもあったの?」

「……八一」

 

 銀子ちゃんは俺の胸に顔を埋めたまま動かない。

 なんだろう、一体どうしたというのか。様子が気になった俺は自然と彼女の背中を擦る。

 ていうかこの子、今日は休日なのにわざわざ制服を着てきたのか。てかそういやさっきのJC銀子ちゃんも黒のセーラー服を着てたな……と、そんな益体もない事を考えていると。

 

「……やいち」

 

 依然として俺と顔を合わせないまま、JK銀子ちゃんは囁くような声で呟いた。

 

「……キス、して」

「え!?」

 

 き、キス!? 突然ここでですか!?

 

「……だめ?」

「い、いやまぁダメって事は無いけど……」

 

 けど、だ。けど……この子の方からキスを求めてくるのはとても珍しい事だったりする。

 というのも基本的に俺達の間でこういうイチャつきは俺発信というか、俺が要求して銀子ちゃんが応じるという図式が成立している。その理由は簡単、銀子ちゃんが照れ屋さんだから。

 銀子ちゃんはシャイな子なので普段はこんな直球でキスを求めてきたりしないんだけど……。

 

 ……でも、そんなの些細な事だよね、うん。

 いきなりな展開に戸惑う部分はあるものの、とはいえ彼女とのキスを拒む理由なんてなにも無い。

 という事で俺はJK銀子ちゃんの、白いセーラー服を着ている彼女の肩にそっと手を当てて。

 

「それじゃあ……するよ?」

「……うん」

 

 もう片方の手を、俺の胸元に押し付けたままでいる銀子ちゃんの後頭部に回して。

 ちゃんとこちらを向かせて、目を閉じていた銀子ちゃんと距離を近付けて──

 

「──んっ」

 

 そして、俺は銀子ちゃんとキスをした。

 恋人とのキスならもう何度もしている。今更恥ずかしがったり躊躇するような事はない。

 

「ん、ぅ……」

 

 そのまましばらく唇を重ねて。

 十分満足した頃合い、互いの顔を離す。

 

「……はぁっ」

 

 すると聞こえる荒っぽい呼吸。

 見ればその顔はこれ以上無いというぐらいに真っ赤になっている。

 

「……きす、しちゃった……」

 

 JK銀子ちゃんがうっとりとした顔になってる。

 その表情はなんか……あぁ、思い出した。そういえば始めてキスしたあの時の顔に似ている。

 俺とは違って銀子ちゃんはまだキスに慣れていないのかな。こういうウブな所も可愛いよね。

 

「やいち……」

「ん? もう一回する?」

 

 そして俺が軽い気持ちでそう尋ねてみると。

 

「……バカ八一」

 

 ……って、あれ?

 それまで熱病に罹っていたかのような瞳が、唐突にじとーっとしたものに変わって。

 

「ほいほいとキスは出来ないとか言っておいて、ちゃんとしてんじゃないの。このバカ、どバカ」

「……え?」

 

 ……あれれ? 

 それは……それはつい先程JC銀子ちゃんと話した事ではないですか?

 それをどうしてJK銀子ちゃんが? ていうか、それは一体どういう意味で──

 

「……まだ気付かないの? ほんとにバカ」

 

 ……あれれれ? 

 このJK銀子ちゃんは……ど、どちらさまで?

 え? いやでもだって、この通りJKの証である白のセーラー服を着ていて……。

 

 ……白のセーラー服を、着ていて? 

 着ている……だけで?

 

「……ばか」

 

 それだけ言い残して、顔を真っ赤に染めた銀子ちゃんが走り去っていく。

 

「い、今のは……」

 

 今のは……JC、銀子ちゃん?

 

 

 

 

 

 

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