銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集) 作:銀推し
祝ッ!!
……と、言っていいのだろうか。
それはとても難しい所だけれど……ともあれこうして俺は無罪放免、無事釈放となった。
……うーん。正直言うとこの対応は意外だった。
なんせ俺は浮気をしてしまった。JC銀子ちゃんとキスしてしまったんだ。となれば当然JK銀子ちゃんはブチ切れるだろうと、怒りのままに八つ裂きにされるだろうと思っていた。
勿論悪いのは俺だ。だから如何なる制裁を下されようとも構うまい、全てを受け入れるっ!
……と、そう決意を固めていたんだけど。
しかしそんな覚悟とは裏腹に、銀子ちゃんは驚く程にあっけなく俺の事を許してくれた。
最後には寒空の下で土下座をしていた俺の身体を気遣うような言葉までくれちゃって……。
まさかあの空銀子がこんなにも情け深い対応をしてくれるとは。
これは全くの想定外だ。この点に関して俺の読みは大きく外れる事となった。
付き合い始めてからあの子の心も大分読めるようになってきたなと自負していたんだけど……どうやらまだ甘かったようだ。幾つになっても銀子ちゃんの心というのは読めないね。
「……(そわ、そわ)」
「八一、なにをそわそわしてるの?」
声を掛けてきたのはJS銀子ちゃんだ。俺が買ってきてあげたソフトクリームをペロペロ舐めながらこちらに顔を向けている(かわいい)
その言葉通り、一人リビングに戻ってきた俺は今そわそわしていた。気になってちらちらと視線を向ける先、それは先程まで居たベランダの方向。
何故なら今、そのベランダではJK銀子ちゃんとJC銀子ちゃんがお話し中なのである。
「……ううむ」
俺がリビングに戻ってすぐ、交代のようにJC銀子ちゃんが呼び出された。
呼び出したのは俺の恋人で、呼び出されたのは俺の浮気相手。となるとこれは、ま、まさか、女同士の血で血を洗う戦いが始まるのでは……ッ!
……と、俺は戦慄したものだが……。
「……けど、大丈夫そう……だよね?」
「あの二人の事?」
「うん。JS銀子ちゃんにはどう見える?」
「どうって、普通に会話してるように見えるけど」
うん、俺も同感だ。こうして見た所あの二人は普通に会話をしているようにしか見えない。
JC銀子ちゃんの方はさすがに少し表情が強張っているように見えるものの、対してJK銀子ちゃんの表情は怒っているような感じじゃない。
あくまで普通通りの表情……というか、ちょっと困惑しているようにも見えるな。
「……お」
とその時。JK銀子ちゃんとJC銀子ちゃんが二人共に優しい笑みを浮かべた。
うわ、何があったのかは知らんけどめっちゃ貴重なシーンを見た気分……。
とか思っていたら引き戸が開かれて、渦中の二人がリビングに戻ってきた。
「ふぅ、寒かった。八一、温かい紅茶を淹れて」
「私も」
「あ、うん、分かった」
オーダーを受けた俺はすぐにキッチンに向かう。
電気ケトルでお湯を沸かしながら二人の様子を窺ってみるけど……うん、やっぱ普通だな。
あの二人の間に何かしらのわだかまりが残ったようには見えない。二人共至って普段通りだ。というか早速とばかりに対局を始めてるし。
二人の間でどんな言葉が交わされたのかは分からないけど、なんにせよ無事に済んで良かった。
こうして、俺とJC銀子ちゃんがキスしちゃった事件は結果として軟着陸に成功した。
そしてこの一件の影響だろうか、銀子ちゃん達の様子にもまた変化があった。
それから二日後の休日。
お昼ごはんを食べ終わって、幼女銀子ちゃんがすやすやお昼寝を始めた頃。
残りのみんなでする事と言えばもちろん将棋……ではなくて。
「…………むぅ」
三角座りをしながら、むすーっとしたお顔になっているのは小学生の銀子ちゃん。
その不満顔の理由は手元にあるタブレット端末が表示する詰将棋アプリの難問……じゃなくて。
「改めて思うけど……やっぱり長いわよね」
「確かに。これは弄り甲斐があるわね」
その背後に座る二人の女性、JCとJK銀子ちゃんズがその理由だ。
二人共に手を伸ばして、小学生の自分が靡かせる長くて綺麗な銀髪をさらさらと撫でる。
「ええっと、こうして、ここを……ん? ねぇJK、三編みってどうやって作るんだっけ?」
「こうするのよ。ほら、まず3つの房を作って、それで……あれ? こんな感じじゃなかった?」
「……むー」
「ちょっとJS、動かないの」
「そうよ。じっとしてなさい」
左右に分けた長髪を更に3つの房に分けて、銀子ちゃんズはちまちまと編み込んでいく。
小学生の自分にヘアアレンジを施そうとする二人の手付きは双方共に覚束ない。……けど、それでも真剣な顔で髪を結っていく。
「んー、なんか上手くいかない……昔桂香さんに教えてもらったはずなんだけどな……」
「……もう、人の髪で遊ばないでよね……」
「別に遊んでないわよ。ねぇJC?」
「そうそう。ちゃんと結んであげてるんだから」
JS銀子ちゃんの長い銀髪、それを三編みに結ぼうと奮闘する二人の銀子ちゃん達。
自分の髪をおもちゃにされているJS銀子ちゃんはむすーっといているものの、JCとJK銀子ちゃんの表情は共に楽しそうで。
その光景はなんというか……もし銀子ちゃんに姉妹が居たとしたらこんな感じなのかな。
「……よし、完成」
「出来たの?」
「えぇ、ちゃんと可愛く出来上がったわよ。……ほら八一、三編みのJS、可愛いでしょ?」
「はい可愛いですとても可愛いです」
三編みJC銀子ちゃん可愛いです。率直に言って素晴らしいです最高です。
「……ほ、ほんと? ほんとに可愛い?」
「うん。めっちゃ可愛いよ」
俺がそう言うとJS銀子ちゃんは「……そっか、かわいい……えへへ」と嬉しそうにはにかむ。
あーもうマジかわです本当に良いものを見せてくれましたねありがとう銀子ちゃんズ。
……ただ、肝心の三編み自体の仕上がりはちょっと不出来だけどね。
「めっちゃ可愛い、だって。ねぇ聞いたJK? 今の八一のロリコン発言」
「聞いた聞いた。こいつ今みたいなノリでそこら中の小学生に可愛い可愛い言って口説いてんのよ」
「んなっ、そんな事してないから! 大体『三編みのJS、可愛いでしょ?』って俺に訪ねてきたのはJK銀子ちゃんの方じゃん!」
唐突なロリコン嫌疑に反論する俺。
しかし銀子ちゃんはしれっとした顔で言い返す。
「うそ、私はそんな事言ってないわよ」
「言ったよ!」
「ねぇJC、私ってそんな事言ったっけ?」
「えー、言ってないんじゃない? 八一が勘違いしてるだけだと思うけど」
こ、こいつら……! 結託して俺を嵌めようとしてやがる……!
そして、そんな二人の表情はよく似ている。二人共に口元が微かに弓形に曲がっていて。
とにかくこんな感じで、あの一件からこの二人は随分と仲良くなった……ように見える。
正直俺の考えとしては、あの一件によって二人が喧嘩してしまうのでは。その後仲直りしたとしても関係がギクシャクしてしまうのでは。
……とそんな事を危惧していた為、むしろ逆に仲良くなるというこの状況にビックリだ。安堵する気持ちはあれど、少し不思議に感じてしまう。
「ねぇ、銀子ちゃん」
「なに?」
その辺の事情が気になったので、俺は直接尋ねてみる事にした。
JK銀子ちゃんがお手洗いから戻ってきた直後、洗面所にて声を掛ける。
「なんかさ、この前から随分とJC銀子ちゃんと仲良くなったんじゃない?」
「え。……そう見える?」
「うん」
どうやらその変化について自覚は無かったのか。
俺がこくりと頷くと、JK銀子ちゃんは少し考えるように沈黙してから答える。
「……そう、ね。まぁ……確かにそうかもしれないわね」
「だよね。俺もちょっと驚いててさ、銀子ちゃん的にはどういう心境の変化?」
「……別にそんな、心境の変化なんて大げさな話じゃないわよ」
ただ……、と呟きながら、JK銀子ちゃんは神妙な顔になって。
「あの子に関して、ちょっと見方が変わったっていうか……」
「見方が変わった?」
「うん。……ほら、なんていうか……」
中学生の自分自身。それは夢の中だからこそ出会えた非現実的な相手。
それをどう見ているのかはこの子にしか分からない事だろう。銀子ちゃんは自分の思いを確かめるかのように、ゆっくり言葉を続ける。
「まず第一にね、私とJC銀子って基本的に物事の考え方が同じなの」
「まぁそりゃそうだろうね。なんせ二人共同じ空銀子な訳だし」
「うん。まぁそれは幼女やJSも同じなんだけど、特にJCとは年齢が近い分、より考え方が共通してるっていうか、あの子が頭の中で考えている事とかも簡単に察しが付いたりするわけ」
「ふむふむ、それで?」
「そうなると意見が食い違ったり言い争いになったりもしないでしょ? それに自分の嫌がる事はお互いに分かるからその辺は避けてくれるしで、慣れてくるとむしろ他人よりも接しやすいっていうか、気を遣わなくて済むっていうか……」
「なるほど。そういう感覚になるんだ」
俺がそう言葉を返すと、JK銀子ちゃんは「うん」と柔らかい笑顔で頷いて。
「だから……なんていうのかな、もしかしたらこういうのが、とも──」
しかしそこでピタっと、まるで石化したかのように口の動きを止めて。
「………………」
「……どったの?」
「──別に。なんでもない」
長い沈黙の後、彼女は何事も無かったかのように口を閉ざした。
……が。銀子ちゃんが何を言おうとしたのか、俺には手に取るように分かるぞ。
この子は今「もしかしたらこういうのが友達っていうのかもね」とか言おうとしたんだ。
けれど「自分自身が友達というのはあまりにも虚しい事なのでは?」と気付いて沈黙したんだ。
……大丈夫だよ、銀子ちゃん。
俺は友達なんて居ないぼっち上等な君の事が大好きだからさ。うん。
「黙りなさい。ぶちころすわよ」
「いや待ってよ銀子ちゃん。黙れもなにも俺今全く声に出してなかったですよね?」
「つべこべ言うな。大体そんなものはね、そもそも私には必要なかったというだけの事なのよ」
な、なんちゅう強がりを言うんやこの子……。
というかそれはもっと大切な、もっと重要な局面で使うべきセリフではないのか。
けどまぁこれが銀子ちゃんだ。どこまでもこど……孤高を貫くのが浪速の白雪姫なのである。
「とにかく。私にとってJC銀子はそういう相手、そういう見方をするようにしたの。だから……確かに前よりは親しくなったのかもね」
「そっか。良かった、なんか安心したよ」
「……安心、ねぇ」
すると銀子ちゃんがじろっとした目付きを、探るような視線をこちらに向けてくる。
「なに、もしかしてあんた、あの封じ手のせいで私とJCが喧嘩するかも、とか思ってた?」
「それは、えっと……まぁ、そうっすね、その可能性もあるかな~、とは」
「ならお生憎様ね。私は過去の私自身と争ったりするような狭量な女じゃないの」
そう言って銀子ちゃんはふふんと笑う。
狭量な女。それは幼女銀子ちゃんも言っていた言葉だ。正直な話、自分は狭量じゃないわと銀子ちゃんに言われると、俺としては物申したい気分にならないでもないのだが……。
……まぁ、いいか。俺は今日九死に一生を得たような身だ。これ以上あえて刺激はすまい。
「それに……さ。ほら、あの子は中学3年の頃の私でしょ?」
「うん、そうだね」
「中3の頃って言ったら、私に対して八一が色々と意地悪をしていた時期だし」
んなッ!?
「い、意地悪!?」
「うん。いじわる」
「い、いやいや、俺、銀子ちゃんに意地悪なんてしてないっすよ!」
「してた。だってあの頃の八一って私に対してすごく冷たかったもん」
「そ、そんな事は──」
──そんな事は無いよ!
と、口を突くままに反論しようとしたのだが。
「……いや、でも……意地悪……だったかな?」
「うん。意地悪だった」
「………………」
思わず沈黙してしまう俺。
ふと考えてみるとそれは……その言い分には心当たりが無い訳でもないような、なんていうか。
俺とこの子は子供の頃からずっと一緒だ。互いの気持ちさえも子供の頃からずっと一緒だった訳なんだけど……そのわりには遠回りをしてしまったなという自覚はある。
特に俺が中学卒業後、師匠の家を出てから今こうして恋人同士になるまで。その間の期間は俺達の距離が一番開いていたとも言える時期な訳で……。
その頃の俺の対応というか、銀子ちゃんへの接し方を振り返ってみると……まぁ、なんだ。確かに、ちょっと冷たかった、のかもしれない。
……でもさぁ、だってさぁ。
あの頃はさぁ、あの頃は姉弟子が俺の事を好きだなんて思いもしてなかったし……。
むしろその逆かのように思っていたから、あんまりべたべた馴れ馴れしくすると更に嫌われちゃうんじゃないかって、そんな事を考えちゃって足を踏み出す事が出来なかったんだよ……。
……けど、そんな俺の態度を冷たかったと銀子ちゃんが感じていたのなら……確かにそれは、意地悪だったと言うべきかもしれない。
「……ごめん」
「別に今更気にしてないわよ。……むしろ、それはJCに言った方がいいんじゃない?」
「……そうかもね」
「えぇ。あの子はそんな時期の私、八一から意地悪されている最中の私なんだから……」
そこで一度言葉を区切って。
「……ちょっとは優しくしてあげなさいよね」
そう呟いた銀子ちゃんの表情は、意外……と言っては怒られちゃうかもしれないけど。
とにかく、珍しいぐらいに優しげな顔で……思わず俺は見惚れてしまった。
「分かった?」
「……うん、分かった」
そっか、そうだよな。
確かに冷たくした分、JC銀子ちゃんには優しくしてあげないとな。
「……ん?」
……え。けれど、優しくって……。
果たしてそれはどういった意味での、どういった優しさなのだろうか。
まさかとは思うけど、中学生にはまだ早い意味での優しくって訳じゃ──
「……八一。今、えっちな事考えたでしょ」
「な、なな何を仰いますやら! そんな事これっぽっちも考えてないですよ!」
「どーだか。……ま、JCとの接し方についてはあんたの好きにしたらいいわ」
「え、それってどういう──」
「あえて一つ言っておくなら……別に私は怒ったりしないからね」
そう言って銀子ちゃんはまたふふんと笑う。
その表情といい思わせぶりな言葉といい……なんか随分と銀子ちゃんが大人びて見える。
ていうかこれって……あれか? 俺は今、試されているって事なのか?
もしそうだとしたら、ここはビシッと宣言せねばなるまいて。
「……大丈夫だよ銀子ちゃん。俺はもう君以外の子とキスなんてしたりしないからさ」
「は? なにそれ。あんたそれでJCの私が可哀想だとは思わないの?」
「えぇ!? そうなっちゃうの!? でもじゃあ俺は一体どうすれば……!」
「だからそれはあんたの良識に全部任せるって言ってんでしょ」
りょ、良識って……それはまた随分と曖昧な表現というか、思わせぶりな言葉ではないか。
果たして良識で許される範囲とはどこまでなんだろう。うーん、これは難しい……。
「それより……」
と俺が頭を悩ませていると、そこで銀子ちゃんの様子が変わった。
声のトーンが少し下がって、俺の顔を覗き込むかのように見つめてきて。
「ねぇ、八一は、もう──」
心配そうな顔で何事かを言い掛けた、その時。
「なにしてるの?」
「あ……」
「幼女銀子ちゃん、起きたんだね」
洗面所のドアが開かれて、お昼寝から起きた幼女銀子ちゃんがやってきて。
そのタイミングの良さ、あるいは悪さによって、JK銀子ちゃんはその先の言葉を遮られた。
「ふたりとも、対局しよ」
「……そうね。八一、リビングに戻りましょう」
「あ、うん」
そうしてその後はいつもの通り、みんなで将棋を指したんだけど……。
先程の言葉の先。それが銀子ちゃんにとって本当に話したかった事なんだろう。
それは俺がこの日まで避けてきていた、JK銀子ちゃんに心労を掛け続けてきた事。
恋人だからこそのあの問題。それにいよいよ向き合わなければならない。
遂にその時が来たのかもしれないと、俺はそんな予感がしていた。