銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)   作:銀推し

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34. 命にも関わる話

 

 

 

 

 ……う゛ぅ~、恥ずかしいぃ……。

 

 心の中でそんな泣き言を漏らしてしまう。

 少しでも気を抜いたら、膝から崩れてへたり込んでしまいそうになる。

 

 というのが今の私の率直な心境だ。

 残念だけど、こういう状況下でそれでも強気で挑める程に私の心は強くない。

 だからこうして八一と顔を合わせた時から、すでに私の心臓はドクドクと早鐘を鳴らしていた。

 

 みんなが寝静まった頃合い、毎夜のように布団の中から抜け出して。

 そして今、この洗面所には私と八一がいる。ここまではいつも通り、いつもの流れ。

 

 けれど……ここから先はいつもとは違う。いつも通りの流れにはしないつもりだ。

 私がこれから言おうとしている事。あるいはこれからしようとしている事。

 それを考えると、恥ずかし過ぎて顔から火が出そうになる。今すぐここから逃げ出して布団にもぐり込みたくなっちゃう……んだけど。

 

 でも。それでも。

 萎えそうになる心に活を入れて、私は八一の顔をぐっと見据えながら、言う。

 

「……ねぇ、八一」

「どうしたの?」

「……あの、さ」

「うん」

 

 私の言葉に八一は相槌を返すだけ。……やっぱり、何も言ってはこないか。

 でも、その理由だって分かっている。分かっているからこそ今日は……今日こそは、私が。

 今日はそのつもりでここに来た。私はそのつもりで今、八一の前に立っている。

 

 ……先に言い訳しておくけれども、私は普段ならこんな事言わないし、こんな事しない。

 だって、そんなの……そんなの女性の方から言うなんて恥ずかしいもん。だからこういう事に関しては基本的に八一の方に意思決定を委ねており、当の八一もそれで良しとしている。

 

 けれど……今日は私が言わなくちゃいけない。今日こそは私から切り出さなくてはならない。

 だって八一は優しいから。八一は優し過ぎて、自分からそれを言ってはくれないだろうから。

 八一は私を気遣っていて、それが分かっているからこそ、私が……私の方から言わなくちゃね。

 

「……ねぇ」

 

 だって、だってこれは……。

 これは、八一の命にも関わることなんだから。

 

 

「……八一。キス、して?」

 

 だから言った。

 えぇ、言ってやりましたとも。

 

「……うん」

 

 すると八一はすぐに頷く。……けど、その声には何処か緊張の色があった。

 普段は言わない私からキスを求める言葉、その裏にある意図を何となく察したんだと思う。

 

「んっ……」

 

 そして私と八一の唇が重なる。

 何度触れても熱くて堪らない感触。私の大好きな八一の感触。

 この柔らかな触れ合いにこのまま身を委ねていたいけど……今日ばかりはそうもいかない。

 

 キスだけじゃ駄目だ。だってキスなら毎日のようにここでしているから。

 普段からしている事をしたって、そこに変化は生まれない。八一の気持ちは動かせない。

 今日はキスだけじゃ駄目なんだ。私はその先へと踏み込まなければならない。

 

 ……こ、これはっ、これはね!?

 これは、普通のキスよりも何倍も何倍もメチャクチャ恥ずかしいキスなんだけどぉ……!

 けどっ、これは八一の為、八一の為なの! 八一の為なら私は……! う゛ぅ~、えいっ!

 

「ん、……ちゅ」

 

 意を決した私は唇をゆっくり動かして、八一の唇を啄むように刺激する。

 驚いた八一がその身体を強張らせるのが分かったけど……ここまで来たらもう止まれない。

 

「は、ん……ちゅ、うぅん……」

 

 そうして開いた歯の隙間を舌で突き破って、八一の舌と自分の舌を絡めさせる。

 これが大人のキスだ。手を絡ませるのではなく、舌を絡ませるのが大人のキスと言う。(ディープキスとも言うらしい。私は知らなかったんだけど八一が教えてくれた)

 

「……はぁ、ん……ちゅ、やいち……」

 

 これ、なんで……なんか、すごい、ふしぎ。

 舌を、絡ませてる、だけ、なのに……なんでこんな……えっちな気分になるんだろう。

 ……あぅ、なんか、きもちいい、よぉ。もっと、ずっと、このまま……。

 

 ……って、違う違うっ! 

 しっかりしなさい私! ここで私が理性を失くしてしまっては意味がない。

 むしろその逆、八一の理性を溶かさなくちゃならないんだから。

 

 けれど……八一はまだ我慢しているみたいだ。

 私の肩を掴む手にぐっと力が入っている。きっと心の中では強く葛藤しているのだろう。

 

 ていうかこの私がここまでしてあげてんだからいい加減に手を出しなさいよねこのクズ。

 ……と、普段ならそう言いたくなっちゃうけど、しかしこの場においてはそうも言えない。

 先程も言ったけどこれは私を気遣っての我慢、八一は私の為に耐えてくれているんだから。

 

 ……もう、仕方無いわね。今日ばかりは特別だ。

 優しくて頑固な弟弟子の為、この姉弟子が一肌脱いでやろうじゃないの。

 

 ……恥ずかしいけど。

 

「……はぁ、やいちぃ……」

 

 熱い吐息と共に唇を離して。

 

「……ねぇ」

 

 そして、言った。

 

 

「……ねぇ、…………する?」

 

 

 ……あぁ、言っちゃった。

 こんな台詞、恥ずかしい。やだな。はしたない女だって思われたらどうしよう。

 

「……銀子ちゃん」

 

 私がその行為を求めてくると半ば分かっていたのだろう、八一の顔に驚きの色は無い。

 けれどもさすがにノーリアクションではいられなかったのか、その喉がごくりと大きく動いた。

 

「……する、っていったって、でもそんな……こんな洗面所でなんて……ねぇ?」

 

 ねぇ? じゃないでしょこのバカ。

 する? って尋ねたのはこっちなのになに聞き返してきてんの? バカなの? 死ぬの?

 

 全く我が弟ながら本当に往生際の悪い男だ。こっちはこんなに恥ずかしい思いをしてるんだからとっととYESかはいで答えなさいよね。

 ただこの期に及んで「するって何を?」みたいにとぼけてこなかったのだけは評価する。もしそんな反応が返ってきていたらグーが出ていたと思う。

 

「……八一は、私としたくないの?」

「そんなっ、それは違うよ! それは違うけど、ただ、ここでするのはさ……ほら……」

 

 そう言って八一はちらっと視線を横に向ける。

 そっちには洗面所のドアがあって──その先には廊下が、そしてあの三人が眠るリビングがある。

 

 ……八一の言いたい事は分かっている。

 こんな洗面所で、こんな状況で、え、ぇ、えっちな事なんて出来ないと言いたいのだろう。

 

 それに関してははっきり言って完全に同歩だ。本当は私だってこんな場所でするのは嫌。

 もっと落ち着けるような場所で、他に気を削がれないで八一の事だけを考えていられる場所で……八一と触れ合いたい、心ゆくまで愛し合いたい。

 

 そして何よりこんな場所で変な事をしてたら、あの三人にもバレちゃうかもしれない。

 もし私達のそんなシーンをあの三人に目撃されたらと考えると……駄目、想像したくもない。そんなの恥ずかし過ぎて頓死しちゃう。

 

「……まぁ、ね。やっぱりリビングの様子は……どうしても気になっちゃうよね」

「うん。それにどう頑張ってもさ、その……ちょっとはあの……ほら、声が、出ちゃうでしょ?」

「……出来る限り、我慢、するけど?」

「い、いや、それもなんか申し訳無いし……」

 

 申し訳ない。その言葉に今の八一の心情の大部分が詰まっていると思う。

 だってここでえっちな事をする場合、より負担が大きいのは間違いなく私の方だから。

 それが分かっているからこそ……八一は誘いに乗ってこない。手を出してはこない。

 

 だからこれは私と、そしてリビングで眠る三人の私達と、つまり空銀子に遠慮しての選択で。

 それが八一の優しさで……だからこそ私は、そんな優しい恋人に対して、言う。

 

「……だったら、ほら、……手、とか、口、とか、でも……」

「え゛っ……!」

 

 この切り返しは予期していなかったのか、八一が驚きに目を剥いた。

 そしてぐぐぐっと眉根を寄せる。あ、さてはこいつ……ちょっと悩んでいるわね。

 

「そ、そっか、手とか口……なるほど、その方法は考えてなかったな……」

 

 そう。えっちな事はなにも身体だけではなくて、手とか口とかを使ってする事も出来る。

 それも付き合い始めてから八一に教えてもらった事だ。もはや私はキス一つでおろおろあたふたしていたウブな女の子ではない。色々な事を知って大人の女になったのだ。

 

 ただね、大人の女とはいってもね? 

 勘違いしないで欲しいんだけど、こんな提案するのはスゴく恥ずかしいのよ? 

 ていうかもう頭おかしくなりそうなぐらい恥ずかしいんだけどね!?

 

 ──でも、それでも。

 どれだけ恥ずかしくても、それが八一の為だったらしてあげたい。

 いいえ、むしろしてあげなくちゃいけない。だって私は八一の恋人なんだから。

 

 ていうか、そもそもの話ね?

 どうして私がここまで、これ程に八一とのえっちにこだわっているのかって言うと……。

 

 それはほら……あれよ、あれ。

 ほら、その……男の人の、生理現象ってやつ? その辺の事情なの。ほら、分かるでしょ? 

 

 あのね? この話も以前、付き合い始めてから八一から教えてもらった事なんだけどね?

 男の人の、その……下の部分の……なんて言えばいいのかな、あの~……せ、精嚢っていうの? 

 とにかく下に、ほら、その……袋になってる部分があるでしょ? あるわよね?

 

 それでね? そこは、そこは男の人にとってなによりも大事な部分らしくてね?

 それで、その袋の部分には、その、球と、あと……せ、せ、ぃ、液が、入ってるんだって。

 

 ……でもね。でも……男の人が、その袋の中で貯めておける液の量には限界があるの。

 特に八一みたいな若い男の人はそれが作られるのも早くて、すぐ一杯になっちゃうんだって。

 

 だからそれは定期的に出さないといけなくて。

 ずっと貯めておくのは、袋が一杯のままにしておくのは……どうやらとっても辛いらしい。

 

 いいえ、辛いどころか……それは身体にも悪影響を及ぼしてしまう事なんだって。

 何事も溜め込み過ぎは毒、これもそういう事なんだよって八一は言ってた。

 だから一杯のままにしておくと、次第に袋の部分には激痛が走って、それでも出さないと全身に毒が回って、最終的には命の危険に及ぶそうだ。

 

 その話を八一から聞いた時、私は息の仕方も忘れる程の大きな衝撃を受けた。

 だってそんな事全然知らなかったから。女性にとっての生理のように、男の人の身体にもそんな事情があるだなんて想像すらしていなかった。

 

 そしてその話を聞いて以降、私はそういう事に対して、ちょっとだけ……。

 ほんのちょっとだけだけど、それまでよりも積極的になったと思う。

 

 だって出さないと八一が苦しむんでしょ? 苦しいどころか八一が死んじゃうんでしょう? 

 だったらそれは……それは彼女の私が何とかしてあげなきゃいけない事じゃないの。

 恥ずかしいとか言ってる場合じゃない。恋人として八一の求めに応えてあげないと。つまりはこれもりゅうおうの彼女のおしごとの一環だ。

 

 なのに……なのにだ。

 私と八一はここでの共同生活以降、まだ一度もそういう事をしていない。

 

 ワンルームでの生活にはプライベートが無くて、そういう事をするタイミングが全く無い。

 午前中ならどうかと前に学校を早退してみた事もあるんだけど、幼女が居るので無理だった。

 それは八一にとっても同じで、きっと出すタイミングなんか全くなくて……。

 

 ……だから。

 だから八一は今とても苦しんでいるはずだ。

 袋が一杯になってしまって、このまま出さなければ命にも危険に及ぶ、そんな状態にあるのだ。

 

 けれども優しい八一は、そんな時でも私の事を気遣ってしまうから……。

 だから、だからこそここは私がなんとかしてあげなくきゃいけないの。

 

「八一。もう限界でしょう? これ以上苦しみに耐える必要なんてないから」

「……いや。あのね、まだ大丈夫だよ? そこまでキツイって訳じゃ……」

 

 私がぐっと視線を向けると、八一は逃げるかのようにすっと横に目を逸らす……が。

 大丈夫なんて言葉は嘘だ。八一は今必死で我慢してるんだ。ずっと耐えているんだ。

 

 だってね? この前……一月程前かな? お互いのスケジュールが全然合わない時があったの。

 その時は結局、私と八一が二人きりで会えたのが2週間ぶりぐらいになって……。

 

 ……そして。2週間ぶりにこの部屋で研究会を開いたら……八一は即座に飛び掛かってきた。

 もう限界だからと、今すぐ出さなきゃ死んじゃうからって、そう言って私に手を伸ばしてきた。

 そ、それで、なんかもう、なんかもうその日はほんとに何度も何度も……今思い出しても恥ずかしいんだけど、とにかく沢山身体を重ねてしまった。

 

 ま、まぁ、そんな思い出はとにかくとして。

 2週間でああなっちゃうんだったら、それ以上の日数が経っている今は更にキツいはずだ。

 そう、絶対にそのはずだ。八一は平然としているけど本当は一刻を争う事態なはずなんだ。

 

 だから私がなんとかしてあげなくちゃ。

 私が八一を苦しみから開放してあげなくちゃ!

 

 

 

 ■

 

 

 

 ……てな事をさぁー!

 きっと銀子ちゃんは考えてるんだよー!!

 

 あーもうどうしよう、どうしよう!! 

 ほんとにあんな冗談言うんじゃなかったっ!!

 

 

 

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