銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)   作:銀推し

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38. 更に空銀子たちの話

 

 

 

 

「じぇーけーはやいちの右手をすきになったの?」

 

 その言葉に、JK銀子は「……む」と眉を顰める。

 

「あのねぇ幼女、これは別にそういう事を言っている訳じゃないの」

「そうなの?」

「そう。八一ってのは特に右手がいいよねーって話をしているだけで、なにも右手だけを好きになったとかそういう話ではないのよ」

 

 JK銀子にとって九頭竜八一の右手とは、あくまで自身の性癖に刺さる要素の一つでしかない。

 そのわりには先程存在価値の9割があるとか言ってたりもするのだが、とにかく彼女はそれだけを以て八一に惹かれた訳では無いのだ。

 

「じゃあどこをすきになったの?」

「え?」

「やいちのどこ、すきになったの?」

 

 こてりと首を傾げる4歳の銀子。それは幼女にとって前々から気になっていた事だった。

 自分は大きくなったら八一から告白されて恋人同士になる。……らしいのだが、しかして自分は八一のどこら辺の評価して、どういう部分が好きになって恋人となったのか。

 八一の良さとは一体何なのか。それを是非とも大きくなった自分自身に聞いてみたかったのだ。

 

「八一の何処を好きかって、それは~……」

「どこなの?」

「だから、その……」

 

 あなたは恋人の何処が好きなの? それは恋愛トークにおいて鉄板とも言える話題。

 その問いになんと答えるべきか、恋愛初心者のJK銀子はしばらく言葉に悩んで……。

 

「……八一の何処を好きになったか、ね」

「うん」

「……ほらJC、言ってやりなさい」

「え、私が!?」

 

 悩んだJKは年下のJCにバトンタッチ。

 

「じゃあじぇーしー、おしえて?」

「え、と、だからその、つまり、なんだろ、何処が好きっていうか、ええっと……」

「どこなの?」

「だからっ、右手と、あとはこう~……なんかこう、全体的って言うか、なんだろ、その……」

 

 八一の事は間違いなく好きだ。

 しかしそれを言語化しようとすると……どうしてか中々言葉にならない。

 突然話題を振られた事もあって、最初テンパっていたJCの銀子ではあったが……しかし。

 

「あの、その……」

「かっこいいところとか?」

「格好良いところ? ううん、それは違う」

  

 ──格好いいところ。

 その言葉に対しては即座に冷静になって首を左右に振ってみせた。

 

「ちがうの?」

「そうね、それは違う……ていうか、八一に格好良いところなんて……ある?」

「え、無いの!?」

 

 驚きの声を上げたのは小学生の銀子だ。

 彼女は成長した八一と顔を合わせた時、格好良いなぁと心をときめかせてしまった前科がある。

 なので八一にも格好良い所ぐらいあるだろう、いやあって欲しいなと願う立場だったのだが。

 

「……うーん、けれどあのバカに格好良いところなんて……ねぇJK、どう思う?」

「そうねぇ……」

 

 年上の銀子達二人は共に悩みの表情で。

 二人がこれまで見てきた九頭竜八一。あの弟弟子に格好良いところなんてあっただろうか。

 思い出される記憶といえば、ロリを見ればあっちにフラフラ、巨乳を見ればこっちにフラフラと、そんなダメダメな思い出ばっかりで……。

 

「……無いんじゃない?」

「そうね。無いと思う」

 

 答え、無し。という事で落ち着いた。

 ただそれではJS銀子は納得いかないのか、食って掛かるような勢いで反論する。

 

「そ、そんな……そんな事はないはずよっ! そりゃ確かに八一は普段からちょっと駄目な所は多いけど、それでも探せば格好良い所ぐらいちゃんとあるはずだもん!」

「……JS、そう思いたい気持ちは分からないでもないけど……でも実際は……ねぇ? JK」

「……うん。格好良い八一、となると……」

 

 4人の空銀子達の中でも一番八一を知る女。

 いやそれどころかこの世界で一番八一の事を知る女、JK銀子は再度うーんと頭を悩ませて。

 

「なら間を取って……稀にはある、という事で」

 

 小学生の夢を壊さぬようにと、最終的にそんな形の結論を導き出した。

 

「稀……なの?」

「稀か、確かにそうね。格好良い八一なんて普段はまず見れないけど、それでもまぁ大阪に雪が降るぐらいの頻度では見られるかもしれないわね」

「え、そんなに少な──」

「えー、そんなにある? 対局が台風で延期になるぐらいの頻度じゃない?」

「えぇ!? でもそれってもう年に一回あるかどうかってレベルじゃ……!」

 

 格好良い九頭竜八一とは年一の代物。その衝撃的な事実にJS銀子は悲鳴を上げる。

 けれど一方でJK銀子は成長した分達観しているのか「そんなもんでしょ」とあっさり呟く。

 

「基本的にね、八一ってのはダメなヤツなの。特に格好良さなんてのは以ての外よ。八一は格好付けようとすればする程にダメさが増すタイプだから」

「あぁ、分かる分かる。あくまで普通にしているのがいいんだよね。八一ってのはさ」

「そうそう。だから格好付けようとしてちゃんと格好付く八一なんて……そんなのはまさしく年一ぐらいでしか見られないでしょうね」

 

 そう語るJK銀子にとって、ここ最近見られた格好付いた八一と言えば……あれだ。

 今からもう半年近く前、福井県の八一の実家の棚田で告白されたあの日の出来事まで遡る。

 なので次見られるのは半年後、その位の期間を開けなければ格好良い八一の姿なんて見られないだろうなぁと内心覚悟していた。

 

「……やいちはだめな男なの?」

「そうね。ダメダメよ、ダメダメ。それは幼女のあんたにだってなんとなく分かるでしょ?」

「ん。やいちはだめだめ、それはわかる」

 

 4歳児の幼女銀子から見ても、九頭竜八一がおバカでダメダメな奴だという事は分かる。

 分かるんだけど……けれどもその場合、自分は将来そんなダメダメな奴と付き合うという事で。

 

「なら、じぇーけーはだめな男がすきなの?」

 

 と尋ねてみると、JK銀子は「んぐっ」と喉を詰まらせた。

 だってその言い方では……それではなんか、自分こそがダメな女に聞こえてしまうではないか。

 

「……あ、あのね幼女。違うから。そうじゃない、そういう事じゃないから」

「でも、やいちはだめだめなんでしょ」

「そ、それはまぁ……」

「それでかっこよくもないんでしょ?」

「ま、まぁそうだけど……」

「でもそんなやいちが好きなんでしょ?」

「そ、そうなんだけどっ、でもそれは、それはつまり、なんていうかその~……」

 

 幼女が言う言葉に間違いは無い。……が、しかしこのままではマズい。

 このままでは幼い頃の自分からダメンズ好きの烙印を押されてしまう。それは嫌だ。

 だからここは絶対に反論しなければ。そう思うJK銀子だったが……またしても回答は控えた。

 

「確かに八一はダメな男だけど、でもそれだけじゃないのよ。……ほらJC、言ってやりなさい」

「え、また私にパスするの!? ……ほらJS、今度はあんたが言ってやりなさい」

「えぇ!? 私にまで振るの!?」

 

 回り回ってお次は小学生の番。

 見ればJKとJCは我知らぬとばかりに顔を背けている。この辺は年上故のズルさが出ている。

 

「て、ていうか別に、別に、私は別に八一の事なんて好きな訳じゃないから……!」

「ウソおっしゃい。私が小4の頃なんてもう将棋と八一の事しか頭に無かったはずよ」

「そ、そんな事ないもんっ! 自分が高校生だからって勝手な事を言わないでくれる!?」

「ほらJS、そういう言い訳はいいから。あんたの答えを幼女が待ってんのよ」

「うん。おしえてじぇーえす。じぇーえすはやいちのどんなところが好きなの?」

「え、えぇ~!? そ、それはぁ~……!」

 

 幼女が向けてくる無垢でピュアな眼差し、誰しもがこれには弱い。

 それはJS銀子も例に違わず、彼女はあたふたと落ち着かない様子で視線を彷徨わせて。

 

「だ、だからね? 八一はほら、あれで結構優しい所はあるから……まぁ確かにダメダメだし、あんまし格好良くもないんだけど……でもなんか、そんな所も含めての八一だから、その、八一だからしょうがないっていうか、まぁ良いかなっていうか……」

「だめでもいいの?」

「うぅ~……良いって訳じゃないんだけど……でも、でも八一だから良いのっ! なんか、なんかよく分かんないけどそんな感じなの!」

「よくわかんないの?」

「そうなの、よく分かんないの! よく分かんないけど八一が良いっていうか、八一のそばに居たくて、なんか八一じゃないとイヤで……」

 

 確かな本心を語っているのだろう、JS銀子の顔はもう真っ赤だ。

 けれどもその言葉はどうにも曖昧で抽象的な表現が多く、まだ4歳の幼女には理解が難しい。

 

「……つまりそんな感じなのっ! 分かった!?」

「ううん、よくわかんない」

「だ、だからぁっ!」

 

 自分の言葉が上手く伝わらない。

 どうしようかと困り果てたJS銀子は……未来の自分を真似る事にした。

 

「だからね、だからその~……、じぇ、JK! あなたが答えてよっ!」

「えっ、なんで私が──」

「そうそう、中学生や小学生にパスしないで高校生のあんたが答えなさいよね。大体JKは現在進行系で八一と付き合ってるんだから恋人の好きな所ぐらい言えるはずでしょ?」

「ぐっ……!」

 

 痛い所を突かれてJK銀子が呻いた。

 確かにこの4人の中では自分だけ、唯一自分だけが九頭竜八一と恋人関係になっている。

 だったらこれはやはり自分が言わなければならない事、JCやJSにパスしてはいけない事だ。

 

「……仕方無いわね」

 

 JK銀子は一度こほんと咳払いをして。

 

「……けどまぁ、おおよそJCとJSが言った通りだと思ってくれていいわ」

「うわ、ズルい言い方」

「うるさい中学生。大体ね、私だってあなた達と同じ空銀子なんだから頭の中身は同じなの。高校生になったり付き合い始めたからって特別八一への見方が変わったりする訳じゃないんだから」

「そうなの?」

「そうよ。それこそ幼女の頃から比べても大して変わってないと思うけどね」

 

 そこで一呼吸置いたJK銀子は、不思議そうに首を傾げる幼女の銀子に目を向ける。

 

「……そう、私はこんなに小さかった頃からずっと八一と一緒にいたから、だからあのバカの事はなんでも知っていて……」

 

 自分こそが九頭竜八一の事を一番知っている。

 銀子はそのように自負しており、この点に関しては誰にも譲るつもりは無い。正直これに関してはちょっとばかし知った気になっている小童共なんて歯牙にも掛けない。

 唯一対抗馬が居るとしたら桂香だ。自分や八一にとっての姉のような存在である清滝桂香はそりゃもう八一の事を熟知しているだろう。

 ただそれでも、桂香よりも自分の方が八一を見てるはずだ。なんせ自分は八一に恋をしていた。だから自分が一番八一の事を見ていたはずで、そんな自分が思う九頭竜八一評こそが一番的を射ているはずだと銀子は考える。

 

「だから……ねぇ、幼女」

「なに?」

「あなたにとっての八一ってのはどんな男?」

 

 JK銀子が幼い自分にそう尋ねてみると、4歳の小さな銀子は「んー……」と数秒唸って。

 

「将棋がよわくてバカなおとこのこ」

「それだけ?」

「……けど、やさしいところはある、かも」

 

 その答えにJK銀子は「そうね」と頷く。

 

「将棋が弱いって所以外は私も完全に同歩。八一はバカだけど優しくて、けど優しいっていっても私以外の誰に対しても優しくするようなヤツだし、さっきから言ってる通り格好良い姿なんて滅多に見られないし……要はダメダメなヤツなのよ」

 

 自分にとって八一とはそんな男だ。決して悪し様に言っている訳では無い……はずだ。

 そのくせ妙に女からモテるのがまたムカつく所ではあるのだが……しかしそれには理由がある。

 それはきっと良いところだけを見ているから。八一に惹かれる女共が八一のカッコ悪い部分を知らないから、ダメダメな部分を見てないからだろうと銀子は考える。

 

「いい幼女? 私は別に八一の駄目な所やカッコ悪い所が好きな訳じゃないの。むしろそれは直して欲しいと常々思っているわ……けど」

「けど?」

「ほら、幼女には前に教えたでしょ? いずれ八一の事しか考えられなくなる病気に罹るって」

「うん、しってる。こわい」

 

 こくりと首を縦に振る幼女。

 未だその病に罹っていない頃の自分を見ながら、高校生の銀子は真面目な表情で言葉を続ける。

 

「それでその病気に罹ると……八一ならいいかな、って感じになっちゃうの。駄目でも格好悪くても、八一ならしょうがないかな、って気分になっちゃうのよ。さっきJSもそう言っていたでしょ?」

「うん。よくわからなかったけど」

「そうね、だから実際よく分からないのよ。きっとそういう病気なんだと思う」

「……そっかぁ。病気ならしかたないね」

 

 病気というなら何も言えない。

 幼女銀子が納得したようにそう呟くと、

 

「ほんとにね。特に私は八一とずっと一緒だったから、その分悪化しちゃってるんでしょうね」

 

 JK銀子も諦め気味の表情で同意する。

 見ればJC銀子もうんうんと頷いている。

 

 先の通り、空銀子は九頭竜八一の事をこの世界で誰よりも一番知っている。

 だからこそ病気に罹ってしまって……その重篤度具合で言うなら自分に敵う者など居ない。

 こんな事で張り合うのもどうかと思うが、とにかく病気の進行度で言えば自分こそが一番なのだ。

 

 それは例えば、棋界を代表する竜王になって以降の顔しか知らない小童共とは違う。

 そしてよそ行きの顔しか見た事の無い何処ぞの女流玉座や山城桜花共とも違う。

 なんせ4歳の頃からずっと一緒に居たのだ。自分こそが一番八一の事を深く理解している。

 

 それは例えば、八一がプロになっての初戦、A級棋士に大惨敗してその後行方不明になったりと。

 他にも竜王位防衛後、引退間際の棋士にこれまた大惨敗して自分の膝の上で大泣きしたりと。

 

 他に例を挙げればキリが無い。八一のそういうダメダメで情けない姿は銀子だけが知っている。

 そして、銀子はそういう無様な八一を見ても決して失望したりはしない。だって八一はそういう情けない奴だと子供の頃から知っているから。

 

 

 ……いや、それどころか──

 ……そんな所すら愛おしいなと、そこまで思ってしまう程には病気が悪化しているのだ。

 

 

「ねぇじぇーけー、その病気、なおすほうほうはないの?」

「治す、か……それはとても難しいわね……」

「難しいってか、無理じゃない? そんな生半可なもんじゃないでしょ、これって」

「……ていうか、これは治しちゃいけないものなんじゃ……」

 

 ……と、4人の銀子達が語り合っていると。

 

 

「……ふぅ、サッパリしたー」

「あ、八一……」

 

 風呂から上がって、着替えを済ませた寝間着姿の八一がリビングに戻ってきた。

 

「あれ、どしたの? みんなして集まっちゃって」

「ううん、別に?」

 

 素知らぬ顔で答えながら、JK銀子はタブレット端末をそそくさっと背後に隠す。

 まさか4人の銀子達でフェチ画像の鑑賞会をしていたなどとは言えない。更に八一への恋愛論を語っていたなど当の本人には絶対に言えない。

 

「さ、それじゃお開きにしましょうか」

「そうね。中々良いものが見られたわ」

「え、なに、みんなで映画でも見てたの? だったら俺にも見させてよ」

「駄目よ。これはあんたが見て楽しいと思えるようなものじゃないの」

 

 こうして空銀子達の集いは解散する運びとなったのだが……。

 

「……むぅ」

 

 すると即座にJS銀子が立ち上がって、ムッとした顔のまま八一の下へ近付いていく。

 

「……八一!」

「は、はい!」

 

 そしてその顔をぐっと睨みながら、場違いな程の大声で言った。

 

「もうちょっと格好良くなりなさいっ!」

「え、えぇ!? い、いきなりどうしたの?」

「さすがに年一は辛い! だからせめて月一、月一ぐらいで格好良くなってっ! お願い!」

「え、あ、うん、が、がんばります……?」

 

 なんの事かよく分からなかったが、八一はとりあえず同意しておいた。

 すると幼女銀子もてくてくと近付いてきて、不思議そうな顔で八一の右手をきゅっと掴んだ。

 

「……んー?」

「幼女銀子ちゃん、どうしたの?」

「……じぃ」

「えっと……」

「……(ぺちぺち)」

「あの~……」

 

 その右手をじっくりと見つめてみたり、手の甲をぺちぺちと叩いてみたり。

 けれどもそれはやはりただの右手。その魅力は未だ幼女には理解し難いもの。 

 

「……むーん、やっぱりよくわかんない」

「何が分からないの?」

「やいちの良さ」

「え!?」

「むぅ、もうねむい、ねる」

 

 八一が思わずドキリとする言葉を残して、おねむになった幼女はお布団の方へ歩いていく。

 

「ええっと……これ、どういうことなんです?」

「もっと精進しなさいって事よ。ねぇJK?」

「そうそう。年若い銀子達はピュアなんだから、せいぜい失望されないようにしなさいよね」

「えぇー……」

 

 困惑顔の八一をよそに、JCとJKの銀子は茶目っ気のある顔で微笑み合った。

 

 

 

 

 

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