銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集) 作:銀推し
その日、俺達はいつものように過ごしていた。
「……ふぁ」
聞こえたのは誰かが小さく欠伸をする声。
朝。ワンルームの部屋に敷かれた五枚の布団から俺と銀子ちゃんズが目を覚ます。
「おはよう、銀子ちゃん」
「………………」
「……ん」
「……おはよ」
「……んにゅ」
俺がおはようと挨拶をしてみれば、各銀子ちゃんが思い思いの返事をくれる。
ちなみに沈黙で返したのがJK銀子ちゃんで、「ん」と一言だけくれたのがJC銀子ちゃん。
おはよと言ってくれたのがJS銀子ちゃんで、んにゅと可愛く鳴いたのが幼女銀子ちゃんだ。
銀子ちゃんという生き物は朝に弱く、どの年頃の子も起きたばっかはこんな感じだ。それはとっくに分かっている事なので朝っぱらは塩対応を受けても特に気にしない。
というか……起き抜けで眠そうにしている銀子ちゃんは全体的に隙だらけだ。しかもパジャマを着ている訳で、パジャマ姿のままぽけーっと油断しきっている銀子ちゃんが四人も居て……ううむ、朝から目の保養になる光景だ。
「ほら、銀子ちゃん達。起きたら布団を畳んで」
「んー……」
まだ頭がシャキっとしていないのか、生返事のままによちよちと動き始める銀子ちゃんズ。
ちなみに現在時刻はまだ五時を過ぎた頃。随分と早起きな時間だけどこれには理由がある。
普段から俺達は就寝が早い。幼女銀子ちゃんに合わせて全員が夜九時過ぎには眠るので、その分次の日の朝早くに起きて将棋をするという生活リズムになっているんだ。
なので朝五時過ぎには目を覚まして、布団を片付けたり顔を洗ったりと朝の支度を済ませて。
そこからは暫し将棋の時間。朝っぱらは俺も含めて頭の回転が鈍めな分、普段ならしないようなポカをやらかしがちなんだけど……まぁ、そういう悪手を打つのも将棋の醍醐味だろう。
とにかくそうして皆で将棋をして。
そして六時半ぐらいになったら朝ごはんの支度に掛かる。
「ふぅ、お腹すいた」
「八一、お湯沸いたけど」
「あ、うん。これ、味噌汁」
「幼女、あんたは食器並べて」
「ん」
まぁ支度とは言っても、インスタント食品や出来合いのものを準備するだけなんだけどね。
さすがに朝は出前が取れない、けれど料理をするような甲斐性のある者も存在しないので、朝ごはんだけはどうしてもスーパーで買った惣菜やレンジでチンなどがメニューとなる。
「いただきます」
全員の声が綺麗にハモった。そしてすぐにそれぞれの箸が動き始める。
今日の朝ごはんはコンビニ惣菜の焼き魚とインスタントの味噌汁、白米、そして沢庵。
俺はともかく銀子ちゃん達には、特に小学生や幼女の銀子ちゃんには惣菜ではなくもっとちゃんとしたものを食べさせてあげたいという気持ちが無いでもないのだが……。
でもこればっかしは難しい。ここには桂香さんもいないしね。あぁ、思えば毎日朝っぱらから料理をしてくれていた桂香さんという人はかくも偉大なお方だったのだなぁ。
ともあれ朝食を食べ終わって、その後の片付けは毎日必ず俺の仕事となっている。
というのもJS、JC、JKの銀子ちゃん達には学業があるからね。彼女達は学校に登校する為の支度をしなければならない。そして幼女のおててに水仕事などはさせられない。
故に俺が食器を洗っている中、学生銀子ちゃん達が慌ただしく身支度を行う物音が──
「……って、ありゃ?」
おかしいな。銀子ちゃん達が慌ただしく身支度を行う物音が聞こえてこないぞ?
この時間帯は色々と混み合う洗面所の方から姦しい声が聞こえてくるのがいつもの流れなのに。
「あれ、銀子ちゃん……って、どうしたの、みんなして丸まっちゃって」
「……んー」
皿洗いを済ませてリビングに戻ると、そこには想像通りな姿があった。
食後の休憩とばかりにまったりしている幼女銀子ちゃん。そんな幼女銀子ちゃんを抱き抱えながらまったりするJK銀子ちゃん。
そしてそんなJK銀子ちゃんのそばに身を寄せるJCとJS銀子ちゃんと、皆同じような格好でまったりしちゃってるではないか。
「ねぇ銀子ちゃん達、学校行かないの?」
「うん、行かない」
「え、どうしてさ。学校で何かあったの?」
「別にそういう訳じゃないけど……今日はサボりたい気分なの」
「サボりたい気分ってそんな……てか、JC銀子ちゃんとJS銀子ちゃんも?」
確認の為に俺が尋ねてみると、JCとJS銀子ちゃんは同時にこくりと頷く。
しかしサボりたい気分とは。それだけで休もうだなんて何とも強気な欠席理由である。
まぁ銀子ちゃんは皆勤賞を狙っているような真面目な生徒ではないし、むしろ将棋の予定と被った日には軽率に学校の創立記念日を捏造しちゃうような子ではあるのだが。
「でも、どうして今日に限ってそんな……」
「なに? 悪いの?」
「いや別に悪いとまでは言わないけどさ……」
JK銀子ちゃんにじろりと睨まれ、その圧に押された俺はすっと視線を外す。
勿論サボりは良くない。良くないとは思うんだけど……しかし当の俺自身が中卒の身なので、こういう事に関してあまり強く言える立場に無い。
しかし高校生のJK銀子ちゃんはともかく、義務教育段階のJSとJC銀子ちゃんはちゃんと学校に行っておいた方がいいと思うんだけど……。
「ていうか思ったんだけど、なんで夢の中なのにわざわざ学校に行かなきゃならないわけ?」
「えっ!? それ今更言うの!?」
それは俺だってもうずっと前から不思議に思っていた事なんですけどっ!?
どうして銀子ちゃん達は夢の中だというのに毎日毎日学校に行くのだろう。銀子ちゃんってそんなに学校が好きな子だったっけ?
と不思議に感じていたものだが、まさか銀子ちゃん本人からそんな言葉を聞く事になるとは。
「ま、そういう訳だから。今日は学校に行かないでここでゆっくりする。ねぇJC?」
「えぇ。もう決めたから。ねぇJS?」
「うん。駄目って言っても駄目だから」
という事で、今日の銀子ちゃん達は全員が学校をサボる運びとなった。
というか冒頭で「いつものように過ごしていた」とか言っちゃったのに、いきなりいつもとは違う流れになってしまった。本当に銀子ちゃんの身勝手さには困ったものである。
……ただ、もしかしたら……。
もしかしたらだけど、銀子ちゃん達には何となく予感があったのかもしれない。
今日だけはみんなで一緒に居たい。
そうするべきだという、そんな予感が。
さて、そんな流れで今日は平日なのに全銀子ちゃんズと一緒に過ごす事になった訳だけど。
まぁそうは言っても普段から休日は全員一緒に居る事だしね、それと大きな違いはない。
「ねぇ、平日の午前中って普段は何してんの?」
「別に休日と大差無いよ。この時間帯はいつも幼女銀子ちゃんと一緒に将棋。ねぇ?」
「うん」
JC銀子ちゃんからの質問に俺が答え、幼女銀子ちゃんが相槌を打つ。
俺と銀子ちゃんが一緒に居て時間を過ごすとなったら、何をするかなんて言うまでもない。
ここで将棋以外の選択肢を、例えばタブレット端末で映画を見て楽しんだりとか、一緒におでかけをする選択肢とかだってあるにはある。あるにはあるんだけど……。
……けれど、それでも選ぶのは将棋だ。
俺達が一番楽しいと感じる事、一番心で通じ合えるのは将棋以外にないのだから。
「………………」
故にこの日もいつものように。いつも通り俺達は皆で将棋を打つ。
静かで緊張感のある独特な空気の中、それぞれの指が駒を打つ音がパチンと響く。
「うーん……」
悩みの声を上げたのはJS銀子ちゃんか、それともJC銀子ちゃんだろうか。
どの銀子ちゃんも違わず、将棋盤に向き合う時はとても真摯な表情をしている。やっぱりこの子はこうしている時が一番綺麗だなと思う。
そんな彼女達の真剣さに負けないように、俺も盤面に集中して……。
そして、数時間後。
「……よし、そろそろいい時間だね」
午前中の将棋タイムは終了。となればお次はお昼ごはんの時間だ。
朝とは違って、お昼はちゃんとした料理を出前で注文する事にしている。銀子ちゃんズには少しでも美味しいものを食べて貰いたいからね。
「ねぇ八一、今日の出前は何にするの?」
「そうだなぁ……お寿司はこの前食べたし……JS銀子ちゃんは何が食べたいものある?」
「ん~と……中華とか」
ふむ……中華ときたか。
俺としては文句無いんだけど……しかし中華料理にソースはマッチするのだろうか。
我が家の姫達はあらゆるものにソースをかけたがるのでついついそんな心配をしてしまう
ともあれその後注文した出前が届いて。
「いただきまーす」
皆で美味しい中華料理に舌鼓を打って。
「……ふぅ、ごちそうさん。どうだったJS銀子ちゃん、美味しかった?」
「うん、美味しかった」
「そうね、中華も中々悪くなかったわ」
JS銀子ちゃんに続いてJK銀子ちゃんも頷く。
どうやら中華も好評なようで一安心だ。まぁこの子達の場合、ソースかけさせときゃ大概のものには美味しいって言うんだけどね。
さて食事を終えたら勿論将棋の時間。
……ではなく、昼食後はしばしの休憩タイムだ。
何事も根を詰めすぎるのは良くないからね。食後は適度にリラックスしないと。
「やーいーち」
「あ、うん。ちょっと待ってね。すぐに敷いてあげるから」
俺のズボンをくいっくいっと引っ張る幼女。そのおめめはとろんとしている。
この通り、昼食後というのは幼女銀子ちゃんがおねむになる時間帯でもあるからね。
何よりもまずはこの子の為にお布団を敷いてあげなければ……。
……と、なるのがいつもの流れなのだが。
しかし、この日はそうならなかった。
その時──
ピンポーン、と。
「え?」
玄関のチャイムが鳴る音がした。
という事は……誰が訪ねてきたという事だ。
「あれ……誰だろう?」
謎の来客に思わず首を傾げる俺。
そして俺だけじゃなく、ふと見れば銀子ちゃん達も皆不思議そうな顔をしていた。
「……でまえ?」
「出前はないでしょ。さっきお昼ごはん食べたばっかじゃないの」
ここでの共同生活が始まって以降、俺達が暮らすこの801号室を訪れる人といえば全員が出前の配達員なのだが、しかし今玄関ドアの前に立つのは出前の配達員ではないだろう。
今日は中華以外を注文した覚えは無いし、それにもし仮にこれが出前だとしたら、直接この部屋のチャイムを鳴らす前に一階のエントランスからコールをしてくるはずだ。
それに食器の回収は翌日以降のはずだし……そもそもここ最近は使い捨ての食器ばかりだったから回収にも来ないはずだし……。
……とか考えていたら、もう一度ピンポーンとチャイムが鳴らされた。
「八一、見てきて」
「……うん」
JK銀子ちゃんに背を押されて、立ち上がった俺は恐る恐る玄関まで歩いていく。
……って、なんで恐る恐るなんだろう。
ただ単に接客対応をするだけだってのに。
けれど、なんか……。
なんか、上手くは言えないんだけど……この来客からは不思議な感じがするんだ。
それが直感なのか虫の知らせなのか、はたまた棋士としての第六感なのかは分からないけど……とにかく妙な胸騒ぎがする。
……とか思っていたら。
どうやらその胸騒ぎは正解だったらしくて。
その時……ガチャガチャ、と。
鍵穴に鍵を差し込む音が。
「えっ」
そして直後、ガチャリとロックが外される。
勿論俺が開けた訳じゃない。玄関ドアの反対側から誰かがこの部屋の鍵を開けた。
──まさか、この部屋の鍵を持っている!?
え、だれだれ怖い怖いっ! 一体誰が訪ねてきたっていうんだ!?
だって俺達の他にこの部屋の鍵を持っている人なんて……あ、銀子ちゃんのご両親とか?
それなら可能性はあるか? 銀子ちゃんから直接聞いた訳じゃないけど、ご両親になら合鍵を渡していても不思議じゃないような──
──などと考えていたのは一瞬の事。
すぐに玄関ドアが開かれて、
……って、このひと、は。
「……な」
驚愕する俺を見て、
「……ふふっ」
いたずらが成功した子供のように、その子は得意げに微笑む。
その表情も。
その容姿も。
その見惚れる程に綺麗な銀髪も。
俺はその子の全てを知っている。
決して見間違えるはずの無い姿……なのだが。
……けれど、この子の事は──知らない。
「……ぎ、銀子ちゃん……」
そこには銀子ちゃんが。
全てを知っているはずの俺が知らない、五人目の空銀子がそこに居た。