銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)   作:銀推し

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42. 5人目の話

 

 

 

 

 

 自ら鍵を開けて、玄関のドアを開いて入ってきた女性。

 その姿は紛れもなく──

 

「……ぎ、銀子ちゃん……」

 

 その美しい銀髪も、そして端正な顔立ちも。

 決して見間違えるはずがない。そこにいたのはどこからどう見ても銀子ちゃんだ。

 

 ……けど。

 この子の姿には……俺は見覚えが無い。

 というかこの部屋内にはすでに4人の銀子ちゃんが居る訳で、となるとこれって──

 

 

「ご、5人目……!」

 

 俺の後ろでJK銀子ちゃんが驚愕の声を上げた。

 いや、驚いているのは彼女だけじゃない。俺も含めてここに居る全員が同じ心境だろう。先程までおねむだった幼女銀子ちゃんですらもびっくりして目を丸くしちゃってるし。

 

 この場で唯一平然としているのは、5人目であるその銀子ちゃんただ一人だけ。

 そんな彼女は玄関で靴を脱いで、リビングに入ってすぐに俺達一同を軽く見渡した。

 

「……なによ。そんなに呆けた顔しちゃって」

 

 いやいや、呆けた顔もするでしょ。

 この事態に驚く事のない人間がいたとしたらそっちの方にビックリだよ。

 

「八一」

「え?」

「そんなに驚いた?」

「……あ。いや、えっと……」

 

 その銀子ちゃんから声を掛けられて、ハッとした俺はしどろもどろになりながら口を開く。

 

「その……うん。正直かなりびっくりしたっていうか……まさかここにきて5人目が現れるとは思ってなかったからさ……」

 

 そう、この銀子ちゃんは5人目だ。まさかまさかの5人目銀子ちゃん登場である。

 なんという事でしょう、すでに4人も居る銀子ちゃんが更に増えてしまうとは。もはや銀子ちゃんというのはポケットを叩けば簡単に増えるような存在なのかもしれない。

 

 けれどもこの801号室に、この幸せ空間に更にもう一人銀子ちゃんを追加してしまうだなんて。

 俺はその内に銀子ちゃん成分の過剰摂取でぶっ倒れてしまうのではなかろうか。

 ……なんてバカな事を考えていた一方、なるほどなと納得するような思いもあった。

 

「……でもそっか。やっぱり5人居たんだね」

「やっぱり?」

「うん。そこがずっと気になっていたからさ」

 

 そう。実のところ、その点に関しては俺も前々から気になってはいたんだ。

 それはこの部屋の玄関ドアにあるドアプレート。初めてこの部屋を訪れた時からずっと、そこには『銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの部屋』と書かれていた。

 銀子ちゃんを可愛い可愛いするのはまぁいいとして、この『×5』というのは何なのか。この部屋内には4人の銀子ちゃんが居るのだから『×4』というのが正しい表記ではないのか。

 

 と、あのドアを見る度にそんな疑問を抱いてはいたんだけど……。

 ……けれどもそうじゃなかった。あの表記は間違っていなかったんだ。

 ドアプレートにある『×5』という字の如く、ここに銀子ちゃんは5人居たんだ。

 

「ふーん……」

 

 そしてそんな5人目の銀子ちゃん。

 今この場は仮名として『5人目銀子ちゃん』と表現しておくけど……。

 とにかくそんな5人目銀子ちゃんがこちらに顔を向ける。そしてなにか観察するかのように、興味深そうにじろじろと俺の顔を見てくる。

 

「……ど、どしたの?」

「……ううん、なんでもない。なんかあんまり変わってないんだなーって思って」

「え?」

「ところで八一」

 

 すると5人目銀子ちゃんは軽く笑って、俺を試すかのようにこんな事を言ってきた。

 

「ねぇ、私を見てなにか気になる事はない?」

「……気になる事、っすか」

「えぇ。一番気になる事を言ってみなさい」

 

 ……気になる事なんて、そんなの挙げようと思えば山のようにあるけど。

 けれども一番に気になる事といえば……それはやっぱりあれだろう。

 

「……強いて言うなら、その……年齢が気になる……かな」

 

 ……言ってから思ったけど、これって女性には尋ねちゃいけない話題だとか言うよね。

 年齢の話題がこの子の地雷だったらどうしよう。ぶちころされてしまうのでは……なんて思ったけど、どうやら杞憂だったようで、5人目銀子ちゃんは軽く笑みを浮かべたまま言う。

 

「そうね。私の年齢、いくつだと思う?」

「……そうっすねぇ……」

 

 うーん、幾つだろうなぁ。俺は腕を組みながら年齢不詳なその顔をじっと見つめる。

 5人目銀子ちゃんの年齢、それはこの子が玄関から入ってきた当初から気になっていた。

 だってこの子は俺が見た事の無い、幼い頃からずっと一緒だった俺の記憶に無い空銀子だから。

 

 年頃で言えばJK銀子ちゃんと、つまり高校生の銀子ちゃんと一番近いように見える。

 ただやっぱり違う部分はある。身長がちょっとだけ違っていたり、その銀髪が少し長めだったり、表情から少しあどけなさが抜けていたりと。

 特にその立ち振舞いから伝わる雰囲気……とでも言えばいいのか。それはやっぱりJK銀子ちゃんとは違っていて……より大人びているというか、より力強さが増しているような印象を受ける。

 そして4人の銀子ちゃんズの流れも考慮すると、この5人目銀子ちゃんの年齢はおそらく……。

 

「……18歳~20歳、ぐらいかな? とにかく高校生よりも年齢が上の銀子ちゃん、だよね?」

「正解。さすがにそれくらいは分かるわよね」

 

 俺が出した答えに5人目銀子ちゃんは少し嬉しそうな顔で頷く。

 やっぱり正解か。この子はここにいる5人の銀子ちゃんズの中でも一番年上な銀子ちゃんだ。

 俺が知っている銀子ちゃんというのは高校一年生16歳の銀子ちゃんなので……この5人目銀子ちゃんは俺がまだ出会ったことのない銀子ちゃん、未来の銀子ちゃんだという訳だ。

 

「……へぇ、これが数年経った私か……」

「確かにJKと似てるけど……1年か2年ぐらいは経っているように見えるわね」

「うん、私にもそう見える。JKが更に大人っぽくなったような感じ」

「じぇーけーより大人なの?」

 

 成長した自分の姿に興味津々、四人の銀子ちゃんズが口々に言う。

 勿論俺も興味津々だ。銀子ちゃんズに混じってじろじろと不躾な程に観察しちゃう。

 まぁ過去の銀子ちゃんが居る以上、未来の銀子ちゃんが居るってのも考えられる話ではあったんだけど……けど、そうか、これが16歳から数年成長した銀子ちゃんの姿なのか。

 

 ……うん、可愛い。

 可愛いです。俺の目を惹き付けて止まないその可愛さは衰え知らずのようで何よりです。

 そして髪が伸びた事もあってより大人びた印象を受ける。というべきか……綺麗になった、と言えばいいのかな、とにかくその美貌は全体的に一つレベルが上がった印象だ。

 ……ただその代わりと言ってはなんだが、胸部装甲の方は据え置きのようだ。はぁ……。

 

 ……いやまだ分からないぞ! 諦めるな俺! 希望を捨てるのには早すぎるッ!

 何も直接触って確認した訳でも無いんだし、服のせいで分かりづらいだけで、その下には成長した膨らみが隠れている可能性だってあるじゃないか。

 ていうかあれだ。実は銀子ちゃんって着痩せするタイプなんだよね。うんうん。尚そんな事は無いだろという反論は一切受け付けない。

 

「八一。あんたね、初対面の場で下らない事考えてるんじゃないの」

「すみません」

 

 すると俺の思考を読んだらしい5人目銀子ちゃんからの叱責が飛んできた。

 どうやらこの子は読みの力も順当に成長しているようだ。現段階でこれだと将来的には俺の思考の全てが筒抜けになってしまうのでは、とそんな危惧すら抱いてしまう。

 

「と、とりあえずさ、こうして5人目の銀子ちゃんと会えた事だし……」

「なに?」

「とりあえず……将棋しない?」

「あ、そうね。早速対局といきましょうか。成長した私の棋力を見てみたいし」

 

 とりあえず将棋。そんな俺の提案に即座に頷いたのはJK銀子ちゃんだ。

 この子にとっては数年後の自分の姿。自分がプロの世界で戦ってどれぐらい成長したのか、それは何よりも知りたい事だろう。

 てか正直言って俺もめちゃめちゃ気になる。5人目銀子ちゃんとは是非とも将棋盤を挟んでじっくりと語り合いたい。欲を言うなら8時間ぐらいの持ち時間で。

 

 ……と、俺達はそう思っていたんだけど。

 

 

「悪いけど将棋はパス。そんな時間も無いしね」

「え? 時間って……5人目銀子ちゃん、これから用事でもあるの?」

「そういう訳じゃないけど。でも……」

 

 すると5人目銀子ちゃんは。

 変わらない表情で、なんでもない事を言うかのような口ぶりで……言った。

 

「盤の上に銀は5枚も乗らないでしょ?」

「それ、は……」

 

 それは、その通りだ。

 自陣にある2枚と相手が持つ2枚、将棋盤の上にある銀将はその4枚だけ。

 けど、それって、どういう意味で──

 

「ところで」

「え?」

「その『5人目銀子ちゃん』っていう呼び方は止めてくれない? この私が5人目とかって呼ばれる筋合いは無いんだけど」

「……あ、それもそうだね」

 

 そう言われて俺も頷く。

 5人目というのは単に登場した順番、それも俺達から見てという話であって、なにもこの子が本来有している要素や属性などではない。

 そんなもので呼ぶのは失礼に当たるだろう。だって銀子ちゃんは一番だ、どんな銀子ちゃんであっても一番の存在な訳だしね。

 

「となるとそうだなぁ、えっと……」

 

 ではではなんてお呼びしましょうかね……。

 ……とまで考えて、そこで俺は首を傾げる。

 

「……あれ?」

 

 ……えっと、この子の呼び名って……なんて呼べばいいんだろうね?

 まだ出会って数分という事もあって、この子を指し示す特徴的な要素が思い浮かばない。

 

「……あの。なんて呼べばいいっすかね?」

「そうねぇ、なら私の事は…………あ」

 

 とそこで5人目銀子ちゃん(仮名)は何かを思い付いたのか、ふっと口元を緩ませて。

 

「……そうだ。八一、当ててみなさい」

「当てる?」

「そうよ。ほら、そこの……」

 

 そう呟きながらすぐ近くに居た女の子、幼女銀子ちゃんの事をピッと指差す。

 

「わたし?」

「そう、そこに居る一番小さな私。それは幼女銀子なんでしょ?」

「うん、そうだけど」

「それで~……次がJS銀子、その次がJC銀子、更にJK銀子と成長してきて……」

 

 5人目銀子ちゃんは順々にそれぞれの銀子ちゃんを指差していく。

 それは空銀子のこれまでの歩み。幼女の頃、小学生の頃、中学生の頃、高校生の頃ときて──

 

 ──そして。ここにいる空銀子。

 そのどれよりも成長した最後の5人目。

 

「……そして私。この私は”なに”銀子だと思う?」

「……”なに”銀子ちゃん、か。ですか……」

 

 ふーむ、と俺は腕を組んで眉を顰める。

 5人目銀子ちゃんを例えるのに適切な言葉とは。

 

 幼女、JS、JC、JKと来たならお次は……。

 

「……JD銀子ちゃん?」

「はずれ」

「だよなぁ……」

 

 自分から答えておいてなんだけど、今のは間違っているだろうなと思ってた。

 JD、つまり女子で大学生の銀子ちゃん。というのはさすがにあり得ない未来だろう。

 一応銀子ちゃんが通っている高校は大学付属なんだけど、それでもプロ棋士になったこの子が大学に進学するとは考え難い。というか大学まで行く気は無いって本人から直接聞いた事あるし。

 

「……でも、だとするとなんだろうな……進学してないなら高卒銀子ちゃんとか?」

「……一応間違ってはいないけど、それじゃとても正解は出せないわね」

「なら……そうだ、銀子ちゃんズは分かる?」

 

 アンサーが浮かばなかった俺は回答権を他の四人の銀子ちゃんズに委ねてみる。

 すると四人はそれぞれ一度目を見合わせて、口々に回答し始める。

 

「えっと……社会人銀子、とか」

「はずれ」

「じゃあ……はたち銀子?」

「それもはずれ」

「だったら成人銀子とか」

「あんた達ね、一度年齢から離れなさい」

「老けぎんこ」

「っ、……そこの幼女。あんたは幼女だから今のは聞き逃してあげる」

 

 何とも恐ろしい回答をする幼女銀子ちゃん。この子は自分相手にも容赦ねぇな。

 いやほんと、5人目銀子ちゃんが幼女への寛容さを持ち合わせている子で良かった。もし俺が『老け銀子ちゃーん』なんて呼ぼうものならその瞬間に八つ裂きにされる事間違いなしだろう。

 

 けれど、うーん……5人目銀子ちゃんの正体は他の銀子ちゃんズにも分からないようだ。

 社会人でも二十歳でも成人でも駄目なら、この銀子ちゃんの事は何と呼べばいいんだろう?

 

「八一。あんた本当に分かんないの?」

「ええっと……考えてはいるんだけど……」

 

 俺がそんなふうに言葉を濁すと、ふいに5人目銀子ちゃんは切なげにその目を細めて、

 

「……そっか、なんか残念」

「え……」

 

 とても憂いを帯びた表情になって、流し目に俺の事をちらっと見てくる。

 

「……そりゃあね。そりゃあこの私はあんたが知らない銀子になるわけだけど」

「……う」

「でも、それでも八一ならすぐに分かってくれると思ってたのに。……なんか、さみしいな」

「ぐぅっ……!」

 

 思わず俺は心臓の辺りを押さえる。て、的確に俺の心を抉る言葉を……ッ! 

 しかしこの子の言う通りだ、たとえ成長していて見知らぬ姿とはいえ、これでは俺が銀子ちゃんの事を理解していないも同義ではないか。

 俺はこの子の恋人なのに。それなのにこんなに悲しい顔をさせてしまったなんて……。

 

 ……とか思っていたら、5人目銀子ちゃんはすぐにその表情を戻して。

 

「……ふふっ、なんてね」

 

 あ、単にからかわれていただけみたいだ。

 けどその態度や表情といい、五人目銀子ちゃんはやっぱり大人っぽさが増している気がする。

 これまで銀子ちゃんからは感じた事のなかったその雰囲気に、俺はどうにもむず痒いような、妙にドキドキした気分になってしまう。

 

「どう? 私の呼び名の答えは分かった? それとも降参する?」

「……はい。降参です」

「しょうがないわね。じゃあ答えを教えてあげる」

 

 すると五人目銀子ちゃんは口元を綻ばせて。

 一歩そばへと近付いて、その顔を俺の顔ぎりぎりまで近付けてきて……。

 

「私は──」

 

 その言葉を耳にする寸前──

 

 ──もしかしてだけど、この子は自らの口でその答えを言いたかったのではないだろうか。

 

 俺はふとそんな事を思った。

 先程のクイズはあくまでフリで、むしろ答えが出ないのを期待していたんじゃないか。

 この子の表情がそれを物語っている。だってとても嬉しそうな顔をしているから。

 

 それはひと目で心を奪われてしまうような……。

 本当に可愛い可愛い微笑みだった。

 

 

「私は……”九頭竜”銀子」

 

 

 え、それって──

 

 とその瞬間に時間がきた。

 全てが終わる時間になって──視界一杯が白い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

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