銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)   作:銀推し

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おまけの話 JC銀子のその後⑤

 

 

 

 

 それは忘れもしない声。

 あの不思議な夢の世界で聞いた声、同じ部屋で一緒に生活して毎日聞いていたその声は……!

 

『じぇ、JK銀子!?』

『そうよ。久し振りね、JC』

 

 居た。あいつが居た。

 私を救う守護霊のような顔をして、本当は呪いの言葉で私を誑かす悪霊、JK銀子がそこに居た。

 

 ……ううん、違った。

 今回はなんとそれだけじゃなくて。

 

『JC、顔真っ赤』

『なぁっ! あんたはJS!?』

『むぅ。じぇーしーってばゆうじゅうふだん』

『まさか幼女まで!?』

 

 あ、あああ悪霊が増えたっ!?

 なんと私に降り掛かる呪いの量が増加していた。小学生の頃の私であるJS銀子、そして幼女の頃の私である幼女銀子までもがそこに居た。

 いや勿論現実にこの三人が居るわけじゃないんだけど、私にだけ見える脳内ビジョンの中、懐かしきあの三人の私達が勢揃いしているではないか。

 

『JC、久し振りね』

『じぇーしー、ひさしぶり』

『あ、うん、久し振り……って、挨拶なんてどうでもいいのよっ!』

 

 思わずノリツッコミをしてしまう程、今の私は大いに混乱していた。

 けどそれも仕方ない事だと思う。だって急にこいつらが、悪霊がやって来たんだから。

 前回の一件から考えるに、こいつら悪霊がやって来たって事はきっと碌な目に会わない。すでにそんな予感がひしひしとしていた。

 

『一体なんなのあんた達は!? またこんな突然に、それもJKだけじゃなくてJSと幼女まで……今度はなんの用だっての!?』

『なんの用もなにも、JCが悩んでいる様子だったからアドバイスしに来てあげたんじゃない。JSと幼女が居るのはおまけみたいなもんだから気にしなくていいわ』

 

 要らないから。アドバイスとか本当に要らないから。

 悪霊共は今すぐにでも成仏して欲しい。大体おまけってなによ、おまけって。

 ……とか思っていたら、まるでそんな思考を見透かしたかのようにJK銀子が続けて言う。

 

『アドバイスなんて必要無い……とかなんとか、どうせそんな事を考えてるんでしょ?』

『っ、……そうよ。アドバイスなんて要らないわよ。あとついでにおまけも要らない』

『そう。まぁあんたならそう言うと思ってたけど』

 

 私が強めの口調で拒否してもJKは動じず、むしろ呆れたようにやれやれと首を振る。

 むぅ、なんというムカつく仕草だ。JKは高校生で私よりも年上だからか、まるで先達者の余裕を見せつけるかのように振る舞ってくる。率直に言ってとてもムカつく。

 

 そもそもこの状況は一体なんだ。

 もはやこれは私があの夢の記憶を思い出したとかそういう話じゃなくなってきている。

 これは白昼夢というものなのか。私は起きているまま夢を見ているのか、それともまさか本当に私の頭は呪われてしまったというのか。

 

『JC、その不満そうな顔は止めなさい』

『私が不満そうにしてるって分かってるなら、早々にお引取り願いたいんだけど』

「……はぁ。まったく、何も分かってないようだから言ってあげるけどね。ここであんたがどちらの選択をするか、それはとても重要な事なのよ』

『え……?』

 

 JKの言葉を聞いて私は瞠目する。

 ここでの選択とは。それは先程まで八一としていた会話の事に違いない。

 

 ロマンチックなシチュエーションが整うまで、八一は告白するのを待つ事になって。

 けれどもその代わりに、もう一度勝利のおまじないをして欲しいと言ってきて。

 つまりここで八一と勝利のおまじないをするか、しないか。選択というのはその二択の事だろう。

 

 でも……これがそんなに重要な選択なの?

 正直言って私はそうとは思えないんだけど……けれど、JK銀子の、瞳が。

 

『この選択はとても重要よ、JC。ここでの選択はあんたの今後を大きく分ける事になる』

『……そうなの?』

『えぇそうよ。けれどもJCはそんな事を全く分かってなさそうだったから、仕方無くこうしてわざわざ伝えに来てあげたってわけ』

『JK……』

 

 そこにはからかいの色なんて無い、JK銀子の瞳は真っ直ぐに私を貫いていて。

 その威に押された私は少し冷静になった。少し冷静になって考えてみて……。

 

『……いやでもおかしくない? どうしてそんな事をJKが知ってるの?』

『そりゃ私は高校生だもの。高校生ってのは何でも知っている存在なのよ』

『何でもって何よ。それにこんな話はあの夢の中でもしなかったよね? それなのにどうしてJK達の声が私の頭に聞こえるの? あんた達って本当に悪霊なの?』

『まぁその辺の事は深くは考えない事ね。詳しくは将棋の神様にでも聞きなさい』

 

 なんだそりゃ。はぐらかすにしてももうちょっとマシな言い訳があると思う。

 

『てかそんな事はどうでもいいのよ』

『いやどうでもよくはないでしょ』

『どうでもいいの。それよりも大事なのはJC、あんたがここでどんな選択をするかってこと』

『む……』

 

 それは……そうなのだろうか。

 思えば前にJK銀子が現れた時、あれは確かに私の人生において最重要とも言える局面だった。

 その事を考えたら……今回のJKの忠告にも素直に従っておいた方が得策なのかもしれない。

 

『……でもJK、どうしてここでの選択がそんなにも重要なの? ここで八一とおまじないをしちゃったら……なにか問題でも起きるって言うわけ?』

『問題っていうか……ねぇJC、あなたは結局どちらの選択肢を選ぶつもりなの?』

『そ、それは……』

 

 ここでキスをするか。しないか。

 その答えに私が口籠っていると、JKの両脇に居る興味津々な二つの視線がこちらを見てくる。

 

『JC、どっちなの?』

『……う』

『どうなの? やいちときすするの?』

『…………うぅ』

『どうしたの?』

『じぇーしー、こたえは?』

「……ね、ねぇJK。JSと幼女まで居るとなんだか無性に恥ずかしいんだけど』

『恥ずかしがってないで答えなさい。ほら、あんたはどっちを選ぶのよ?』

 

 どっちって、それは……。

 ……それは、その…………ねぇ?

 

 

『………………まぁ、してもいいかな、とは』

 

 長考の末に私はぽそりと答えた。

 するとJS銀子はわぁっと驚き顔になって、幼女銀子はその目をちょっとだけ大きくした。

 

『わわっ、JC、八一とキスするんだ……!』

『な、なによ!? 別にしたっていいでしょ!?』

『じぇーしーはきすしてもいいの?』

『い、いいいいのよっ! どうせもう一回はしちゃったんだから二度目だっていいの!!』

 

 そうだ。私はもうこの年下の二人とは違う。

 私はもう初心な女子供ではなくて、れっきとしたキス経験者なんだから。

 八一とキスするのは初めてじゃないんだし、だったらしちゃっても良いはずでしょ?

 

『それに今回は私が悪いっていうか、私の都合で八一の告白を待たせる事になってるんだし、それならキスの一つぐらいしてあげたっていいでしょ!? そう思うわよね!?』

『ま、まぁ、そうかもね』

『うん。そうおもう』

 

 私の必死な雰囲気に飲まれたのか、JSと幼女はやや控えめに同意する。

 でもこれは間違っていないはずだ。今日にでもしようとしていた告白を待つ事になった八一だって大変なんだから、それぐらいのお返しはしてあげるべきではないか。

 

『……いいえ。それはどうかしら』

『え……』

 

 しかしそこでJK銀子が反対の意を示した。

 この反応は正直言って予想外だった。JKなら真っ先に賛成してくれると思ってたのに。

 

『えっ、てことはまさか……この局面でキスの選択をするのは間違いなの? ここはあえて拒否するのが正答だって言うの?』

 

 まさか私は頓死する寸前だったというのか。

 困惑する私がそう尋ねると、

 

『うーん……間違いとか正解とか、そういう話じゃないんだけど……』

 

 JK銀子は複雑そうに眉を顰めて。

 そして人差し指をピンと真っ直ぐ立てて。

 

『いーい? JC銀子』

『な……なに?』

 

 大事な事を伝えるように。

 幼い子供に諭すかのように……JK銀子は大事な事を私に教えてくれた。

 

『ここでキスをすると……八一は盛るわよ』

『さ、盛る!?』

『そう、盛る。八一は盛りが付くの。あいつは私とキスをすると獣になっちゃうのよ』

 

 や、八一が盛る!? 

 八一が獣になる……だと!?

 

『え、それって、それってあの、男は全員オオカミだとか、そういう類の話ってこと!?』

『そうよ。まさにそういう類の話』

 

 や、八一がオオカミになっちゃう!? でもそんなっ、あの八一が!? 

 だって、だって年がら年中将棋の事しか考えていない将棋バカの八一が、私とのキスがきっかけで盛ってオオカミになっちゃうだなんて……そ、そんな事が……あり得るの!? 

 

『ていうかJK、ここには幼女や小学生もいるんだからそういう話はちょっと……』

『そんな悠長な事を言ってる場合じゃないのよ。いいことJC、もしここであんたが八一とのキスを受け入れたりでもしたら……』

『……受け入れたら、どうなるの?』

『その場合、この一回だけじゃ済まないわ。盛りの付いたあいつは事あるごとにキスを要求してくるようになるでしょうね』

『こ、事あるごとに!?』

『えぇ。きっと勝利のおまじないっていう名目で対局がある度にキスを求めてくるわよ』

『た、対局の度に!?』

 

 そんなっ、それじゃ順位戦とか各種棋戦やらを戦う度に私はあいつとキスをする羽目に──

 

『それだけじゃないわ。私の読み通りならあいつは色々と理屈を付けて、最終的にはあんたの対局の際にもおまじないをしようとするでしょうね』

『わ、私の対局の際にも!?』

 

 あまりの衝撃に声が上擦ってしまう私。

 そ、そんな……! そんなに何度も八一とキスをする羽目になっちゃうの!?

 八一はプロ棋士として、私は奨励会員として、それぞれ異なる対局スケジュールがあるのに。

 その上でお互いの対局の度に勝利のおまじないをするなんて、そ、そんなの、そんなの……!

 

『は、はわわわ……っ!』

『盛りの付くってのはそういう事よ。そして八一が盛ったらもうそれが最後、あんたは抵抗する事なんて出来なくなる』

『て、抵抗……できないの?』

『ムリね。全てはあいつの言うがまま、されるがままになっちゃうと思いなさい』

 

 全てが八一の言うがまま。されるがまま。

 まるで実体験を語っているかのように、JK銀子の言葉にはとても含蓄があって。

 

『そうならない為には……最初が肝心なのよ』

『最初……』

『そう、最初。まぁあんたにとってこれは最初じゃなくて二度目だろうけど、でも八一が盛っていない今ならまだ間に合うはずよ』

『あ、そっか……だからJKはこのタイミングでアドバイスを……』

『そういう事。ここでの選択は本当に重要よ。ここでちゃんと節度ある対応を取らないと、その後はズルズルと行っちゃう事になるわよ』

『な、なるほど……』

 

 JK銀子の言いたい事がようやく分かった。

 ちゃんと節度ある対応を取る事。時には毅然とした態度を貫く事。

 相手が八一だからって何でもかんでも受け入れるのではなく、そういう姿勢が大事だって事だ。

 

 八一を盛りの付いた獣にしない為には、きちんと躾をしなければならない。

 だからこそ、盛りが付く瀬戸際であるここでの選択肢が重要になるって事なんだ。

 

『……そっか、分かったわ。JK』

『えぇ。くれぐれも気をつけるように』

『……うん』

 

 私は真面目な表情で頷く。

 盛りの付いた八一なんて、正直私には全く想像出来ない姿なんだけど……。

 ……でも、私よりも年上のJK銀子が言うなら、きっとそれは正しい事なんだろう。

 

 だとしたらこれは貴重なアドバイスだ。まさしく金言だ。

 ごめんねJK、そしてJSと幼女も、悪霊なんて言って悪かったね。……ありがとう。

 

 ……と、そんな謝意が伝わったのか。

 JKは去り際にぼそっと一言。

 

 

『……ま。とはいえそうなっちゃうのも……それはそれでって感じだろうけど』

『え……』

 

 とそこで三人の姿は煙のようにぽんと消えた。

 以上、時間にしたらほんの一瞬の事、私の白昼夢みたいな脳内会議はここで終了。

 

 ──そして。

 

 

 

「……姉弟子。いいですよね?」

 

 そして、八一が動き出す。

 私の肩を抱いて、その顔を近付けて──

 

「あ……」

「おまじない、しますよ?」

 

 キスを求める八一の目が、私を捉える。

 熱っぽいその目を、私もじっと見つめ返して。

 

 ──最初が肝心だ。

 ──節度ある対応を。毅然とした対応を。

 

 先程のJKがくれた貴重な金言を。

 私は何度も頭の中で思い返しながら、そこで私の口が唱えた言葉とは──

 

 

「……うん。いいけど♡」

 

 

 ……………………言い訳は、しない。

 

 だって、やいちに、盛られたかったんだもん。

 やいちに……女の子として、見られたいんだもん。

 

 だって八一って、八一って小学生か巨乳にしか興味を示さないようなやつなのに。

 それなのに、私相手に、欲情する八一なんて、そんなの……そんなの、う、うれしい、もん。

 

「……銀子ちゃん」

「ん……♡」

 

 すると……あ、やいちが近付いてきて……。

 あぁ……やいちぃ……♡

 やいちの唇……柔らかいよぉ……♡

 

 

 ──ふと、視界の隅っこで。

 まだ去ってなかったのか、やれやれといった感じで首を振るJK銀子の姿が見えた……けど。

 

 知らない。もう無視する。

 一切なにも見なかった事にする。

 所詮私は……ううん、私達は、どうせ同じ空銀子なのだから。

 

 

 

 

 ちなみに。

 ちょっとした後日談だけど、その後はまさにJK銀子の言う通りになった。

 

 八一は対局がある度に「姉弟子、今日も勝利のおまじないが欲しいです」とか言ってきて。

 そして私はその都度それに応じた。恥じらいながらも何度も何度もキスをしちゃった。

 というかなんかもう途中からキスするのが対局前のルーティンのようになっちゃって、対局への影響を考慮したら止めようにも止められなくなってしまった。

 

 その挙句に私の対局の際にも「姉弟子にもおまじないをしてあげますよ」とか言ってきて。

 そして私はその都度おまじないを貰った。これも途中からルーティンのように以下略。

 

 八一の実家の準備が出来るまで。

 肝心の棚田の状態が、ロマンチックなシチュエーションが完成するまで。

 対局の度に何度も何度も勝利のおまじないを繰り返す、そんな私と八一の関係は……。

 

 ……うん、なんていうか。その、ね?

 その、ちょびっとだけ風紀を逸脱した関係だったけどね?

 でもそれはそれで、って感じだった。ほんとにJKの言う通りだった。

 

 

 

 

 

 

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