銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)   作:銀推し

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5. 初日の話

 

 俺と四人の銀子ちゃん達の共同生活。

 まるで夢のような、というかまさしく夢そのものな生活がスタートした。

 

 人間が生活を送るとなれば、必然的に無くてはならないものというのが存在している。

 それが衣・食・住の3つだ。けれどJK銀子ちゃんが研究用にと購入したこのワンルームマンションの801号室には、現状その一部が欠けている。

 

 『住』に関しては一応備わっている。さすがにワンルームは狭いが文句は言えない。

 そして『食』の部分は出前やコンビニで何とか済ませるとしても『衣』の部分は大変だ。

 それぞれの銀子ちゃん達や俺が必要とする服や着替え類がまず必要だし、他にも布団や毛布などの寝具類は現状二人分しか備わっていないし、バスタオルやハンドタオルなども足りていない。

 それらは早急に必要となるものだ。まさか銀子ちゃんズを今日フローリングの上で寝かせる訳にもいくまいし、急いで準備をしなきゃ──

 

 ──と思っていたのだが、どうやらそれは杞憂だったようだ。

 というのも、この部屋のリビングには押入れが設置されている。当時は殆どゴミ入れのようになっていたその押入れも、姉弟子の三段リーグが終了して俺がこの部屋にちょくちょく訪れるようになって以後、一度綺麗サッパリ大掃除を敢行した。

 だから今では本来の機能を取り戻しており、とにかくそんな押入れを一度開けてみた。三人分の寝具を買ってくるとしてこの中に収まるかなぁと、確認の為に開けてみたつもりだったのだが……。

 

「……八一、これって……」

「……うん。なんていうか……凄いね」

 

 その光景に唖然とするJK銀子ちゃんと俺。

 引き戸を開けた押入れの先、そこはまさかの異次元だ、異次元に繋がっていたのだ。

 

 ……何を言っているのか分からないと思うが、これは決して出鱈目な話ではない。

 本来なら縦横共に2m程で奥行き1m程の暗い押入れの中、そこはさながらもう一つの部屋、ちょうどリビングと同じぐらいの空間が広がっていた。

 そしてその中には必要な『衣』が、つまり銀子ちゃん達や俺が必要とする服や着替え、夜眠る為に必要な寝具やタオル類など諸々が全て揃っていた。

 

「……わぁ、なにこれ凄い……」

「私の制服の替えまであるし……なんだか至れり尽くせりって感じね」

 

 JS銀子ちゃん、JC銀子ちゃんの二人も驚きに目を丸くしている。

 しかし本当に凄いなこれは……それぞれ身長や体付きが異なる銀子ちゃんズ用にと、あらゆる衣服類が取り揃えられているではないか。

 こうなると押入れというより衣装室のようだ。照明が無いのだけはネックだが。ていうかおぉ、下着まであるし、なんだかこれ程に色々な服が揃っていると眺めているだけで時間が潰せそうだ。……いや、変な意味じゃなくてね?

 

「……ねぇ八一。これ、私が居ない間にあんたが密かに揃えていた代物とかじゃないわよね?」

「さすがに無理があるでしょそれは! 大体この押入れ、位置的に考えると隣の802号室を完全にブチ抜いているし!」

 

 銀子ちゃんの知らぬ間に隣の部屋を購入して、銀子ちゃんの知らぬ間に押入れを繋げたのだとしたら……それはさすがに冗談では済まない、俺の両手に手錠が掛かってしまう事態だ。

 さすがにこの押入れの奥が802号室に繋がっているという事は無く、そうなるとこれは異次元としか表現しようがない訳で……。

 

 そしておかしな事といえば他にもある。

 キッチンや洗面所には購入した覚えのない大型家電、冷蔵庫や洗濯機などが設置されていた。

 その他にも色々と、俺と銀子ちゃん達がこのワンルームで共同生活を送る準備が万全にされていて……つまりはまぁ、そういう事なのだろう。

 

 ──あぁなんて気が利くんだ将棋の神様! 本当に有り難うございます名人!

 ……と、いう事で良いのだろう、恐らくは。

 

 だがそんな事を思うと同時、俺と三人の銀子ちゃん達は改めて思った。

 これは絶対に現実ではない、間違いなく夢なのだと強く実感したのだった。

 

 ……え、幼女銀子ちゃん? あの子はこの押入れを見ても特に驚いてはなかったです、はい。

 俺達がこの押入れを見てビックリしていたそのすぐ隣で、JK銀子ちゃんからおやつとして貰ったらしいポッキーのチョコ部分だけをペロペロと舐め取っていた。死ぬ程可愛い。

 

 

 とまぁそんな訳で。

 ここでの共同生活を送るに当たって、衣・食・住問題はこの通り全て解決された。

 だが衣食住というのは生活する上で最低限必要なものであって、豊かな生活を送る為にはそれだけで事足りるというものでは無い。

 俺と銀子ちゃん達が豊かな生活を送ろうとするならば、何は無くてもこれだけは絶対に必要な物がある。それは言わずもがな、勿論将棋だ。将棋なくして俺達は生きていけない。

 

 だがこの部屋には将棋盤と駒が無く、あるのは将棋アプリが入ったタブレット端末が一つだけ。

 俺とJK銀子ちゃんの二人きりで研究会をするならこれ一つで十分なのだが、そこに銀子ちゃんが三人増えた今となっては到底足りない。というか幼女銀子ちゃんに至ってはまだ年代的にタブレット端末を見た事が無いらしく、使い方をまるで理解していなかったし。

 ちなみにそんな幼女銀子ちゃんに一度端末を与えてみた所、画面から将棋アプリを開こうとして色々四苦八苦した挙げ句に諦めたのか、ぽいっとタブレットを捨てちゃった様子はとても可愛らしかった事を明記しておく。

 

 やはり幼女の手に最新電子機器は荷が重い。彼女の為にも現物の将棋盤と駒を買ってこよう。

 そう思って俺はJK銀子ちゃんと一緒に買い物に出掛けた。関西将棋会館まで足を伸ばして、実物の将棋盤と駒、そしてあの子が好んで持ち歩いていたマグネット式の小さな将棋盤も。

 他にもあの子が好みそうな将棋の指南書や解説本などなど、色々と必要そうなものをこの際奮発して買っちゃう事にした。

 

「八一、この本なんて良いんじゃない?」

「どれどれ……え、こんなに難しいの読める? あの子4歳だよ?」

「読めるわよ。ていうか私が4歳の頃どうだったかをあんた知ってんでしょ」

「……そうですね。考えてみたらこれくらいは楽勝で読破してたっすね、姉弟子は」

 

 姉弟子は(ここは将棋会館の売店内なので姉弟子と呼ばなきゃいけないルールだ)俺と違って漢字に強かったからなぁ。幼女の頃は分厚い本をサクサク読んじゃうスーパー幼女なのだ。

 そしてここ関西将棋会館の売店には本以外にも色々なものが売られている。中にはファン向けに棋士達のグッズなどもあって、現在空銀子に関するグッズは完売御礼が続いて生産が追いつかない中、俺に関するグッズはだだ余りだったりする。

 

 ……別に? 拗ねてなんかないし? この子に人気で勝てる訳が無い事はもう分かってるし?

 けどやっぱりちょっと寂しい、というか虚しい。一向に在庫の減らない俺の扇子が可哀想だし、一つ買っていって幼女銀子ちゃんにあげようかな。

 そしてあの子を今の段階から棋士・九頭竜八一のファンにする為の英才教育を施すのだ……なんて事を考えていると。

 

「……ねぇ、八一。ちょっとこっち来て」

 

 姉弟子が俺の腕を取って、周囲の人の目を気にしてか売店の隅っこまで移動する。

 その顔は不安そうな表情をしていた。一体どうしたんだろう?

 

「何ですか、姉弟子?」

「あの……さ」

「うん」

「……その、大丈夫なの? あれは……」

「……え?」

 

 あれ? あれとは何だ?

 と、俺は数秒ほど悩んで。

 

「──あ、あぁ! うん、まだ大丈夫。全然大丈夫だから心配しないで」

「……そう。なら良いんだけど……」

 

 慌てて取り繕ったような俺の言葉に、JK姉弟子は安心した様子で胸を撫で下ろした。

 

 

 そうして将棋盤と駒、本などを購入して俺達はマンションに戻ってきた。

 八階の801号室、そのドアプレートには相変わらずあの文字が。『銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの部屋』と書いてある(これ銀子ちゃんが書いたんだよね? と尋ねたらそんな訳ないでしょと白い目で見られた)

 けれどそれがこの夢の目的というか、この夢を見ている意味とはきっとそれなのだろう。ならば俺はもう開き直って、思う存分銀子ちゃんを可愛い可愛いしちゃうつもりだ。

 とはいえ、そんな決意を銀子ちゃんに言ったら真っ赤になっちゃうから口にはしないけどさ。

 

 ……いや。

 

「あのさ」

「なに?」

「俺はもう開き直ってね、思う存分銀子ちゃんを可愛い可愛いするつもりだから」

「ひゃ!? な、なに、急になに言ってんのよ、このバカ……♡」

 

 あ、やっぱりすぐ真っ赤になった。そっぽを向いた事で見える横顔が本当にきれいだなぁ……。

 最近はもうむしろ銀子ちゃんの喜びそうな事を沢山声に出してあげて、この子が真っ赤になって照れた顔をみたいなぁと思ってしまう俺が居る。

 だがまぁそれも仕方が無いというものだ。なんせ銀子ちゃんは可愛すぎるのだから。

 

 そうして部屋に返ってきて早々、俺は幼女銀子ちゃんに扇子をプレゼントした。

 

「はい、これあげる」

「……なにこれ?」

 

 すると幼女銀子ちゃんは扇子を受け取って、バッと開いては閉じ、またバッと開いては閉じ……を三回ぐらい繰り返した後。

 

「いらない」

 

 なんら興味を引かなかったのか、ポイっと投げ捨ててしまった。

 

「ひ、酷い……酷いよ銀子ちゃん……」

「……私、4歳の頃はまだ扇子なんて使ってなかったし……」

 

 幼女な自分が仕出かした所業を見てか、JK銀子ちゃんが控えめにフォローを入れる。

 

「じゃあ……JS銀子ちゃん、これ使う?」

「……私?」

 

 今度は小学生の銀子ちゃんに与えてみた。

 すると彼女はその扇面に書かれている「九頭竜八一」の名を見て僅かにその目を見開いた。

 

「これって……ねぇ、八一は……八一はプロになったの?」

「え? ってそっか、JS銀子ちゃんは知らないんだね。そうだよ、俺はプロ棋士になったんだ」

「……ふーん、そうなんだ……」

 

 何やら思う所があったのか、JS銀子ちゃんは俺の事をしげしげと眺める。

 そして一応は気に入って貰えたのか、その扇子をポケットにしまい込んだ。

 

 

 そうして時刻はもう夕食の時間だ。

 五人分の料理を作るのは手間だしその能力も無いので、今日の夕食はピザを取った。

 計2枚注文したピザを4人の銀子ちゃんズがもしゃもしゃと食べる様は中々に見ものだった。というかぼーっと見てたら次々とピザを食われて俺の手元には一切れしか残らなかった。銀子ちゃんズは見かけによらず健啖家なのだ。

 

 食事を終えたらその次は風呂の時間。

 当然お風呂は別々に入る事になったんだけど、ただこの中で一人だけ、幼女銀子ちゃんだけは幼女という事もあって一人でお風呂に入るのは難しい。浴槽で溺れちゃったりでもしたら大変だしね。

 幼女の入浴には大人が付き添う必要がある。そしてこの中で大人と言えば……分かるな?

 

「じゃあ幼女銀子ちゃんは俺と一緒に──」

「どきなさいクズ」

 

 それは実にドスの利いた声だった。

 でもだってー、この中で俺だけは18歳だしー、18歳と言ったらもう大人だしだしー……。

 などと言う屁理屈はまるで通じず、JK銀子ちゃんは幼女銀子ちゃんの手を掴むと、俺を無視してすたすたとバスルームへ向かっていった。

 

 そうして浴室にライトが灯り、やがてシャワーの水音が扉ごしに聞こえてくる。

 ……むぅ。銀子ちゃんのお風呂……か。裸になった銀子ちゃん、一糸纏わぬ銀子ちゃんの姿を俺はついつい想像してしまう。

 いやそれどころか、今は幼女銀子ちゃんと一緒に入浴している訳で……こんなの不埒な妄想をしてしまうのを避けられないというものだろう。

 

 お風呂で銀子ちゃんが、銀子ちゃんにそっくりな幼女の世話をあれこれ焼いてあげている。

 そんなシーンを想像すると……これはなんというか……若妻? いや若母? 感が凄い。これがJKとJCとかなら姉妹感になるんだろうけど、JKと幼女だとそんな感じだ。

 ……うん、これはいい。『銀子ちゃん』に『妻』とか『母』とかそういうキーワードの合わせは実に良いね。是非この俺も『夫』としてそこに混ざりたいものなのだが……。

 

 とそんな妄想をしている内に二人が風呂を上がって、JC、JSの銀子ちゃんと続いて入浴した。

 え、俺? 俺は最初からレディファーストという事でみんなに先を譲ったよ。別に他意は無い。

 そうして最後に銀子ちゃん四人分の残り湯を味わうように身体を癒やした。決して他意は無い。

 

 そして風呂を上がってからは各自思い思いに時間を過ごして……。

 今日は4人の銀子ちゃんと出会って初日という事もあってか、俺も銀子ちゃんズも何処かよそよそしいというか、落ち着かない雰囲気の中にいた。

 唯一そのような空気を気にも留めない存在、幼女銀子ちゃん。この子の唯我独尊さ加減は自分が何人いてもお構いなしといった感じなのだが……。

 

「ねる」

 

 生憎と幼女なのでおねむの時間が早い。

 9時を回った頃にはもう限界が来たのか、俺が敷いてあげた布団にもぐり込んだ。

 

「どうする? まだちょっと早いけど、でも……」

「……そうだね。今日はもう俺達も寝ようか。幼女銀子ちゃんが眠っちゃったのに照明を付けたままにしているのも可哀想だしさ」

 

 今日はもうビックリした事が多すぎて、早めに身体を休めたいという気持ちは同じのようだ。

 幼女に合わせて夜更しせず、俺も銀子ちゃんズも早めに眠る事にした。

 

 こうして俺と銀子ちゃんズの共同生活、その一日目が終了したのだった。

 

 




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