銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)   作:銀推し

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おまけの話 JS銀子のその後⑤

 

 

 

 

 固い表情をした八一が言う。

 

「JS銀子ちゃんが……俺以外の誰かを好きになればいいんだ」

「それって……」

 

 それが、劇薬。

 私の現実を苦しめるあの八一に、中学2年生13歳の九頭竜八一に地獄を見せる方法。

 成長した本人自らが酷な方法だと言う、劇薬だと称する程の一手を打ち明けた八一は、

 

「あぁでもやっぱ駄目ぇっ!」

「えっ」

 

 直後手のひらを返すように声を上げた。

 

「あぁぁああ……いやだ嫌だぁ……もうそんなん言葉にするだけで嫌だよぉ……」

 

 そして先程のようにまた小さくしゃがみ込んで、両手で頭を抱えて。

 そのまま八一は身体を揺すりながら苦悶の表情でうわぁうわぁ~……と唸りだす。

 

「銀子ちゃんが俺以外の男を好きになるなんて。もう自分で言ってて吐きそうになるよぉ……メンタルが死んじゃうよぉぉ……おえぇえ……」

「そ……そんなに?」

 

 生気の無い顔で口元を押さえて嘔吐く八一。

 そのオーバーなアクションを大げさに感じたらしいJK銀子が眉を顰める。だが、

 

「そんなにだよぉっ! 疑うんだったら銀子ちゃんも自分の立場で想像してみなよぉ!!」

「む……」

 

 涙目になってる八一から言い返されて、JKはしばし思考の海に沈む。

 

「………………」

 

 言われた通りに想像しているのだろう、その劇薬を自らが飲んだらどうなるかを。

 それを自分の立場に置き換えると……つまり、八一が自分以外の女を好きになるという事──

 

「……っ!」

「いてっ!」

 

 瞬間、JK銀子は鋭く息を呑んで。

 そして八一の膝にローキックをかました。

 

「このバカっ! どバカ! そんなっ、そんな縁起でもない事想像させるんじゃないわよっ!」

「だから言ったじゃん……」

 

 ……ほんと、縁起でもない話だ。

 ただでさえ八一との関係が上手くいっていない今、あんまり不吉な事を言わないで欲しい。私まで背筋が凍っちゃったじゃないの。

 だって八一が、私の八一が、私の知らない内に私以外の誰かを好きになって、私の知らない内に恋人同士になったらなんて考えると──

 ……やだ。いやだ。そんなの想像したくもない。

 

「……ぶちころす。そうなったらもう絶対にぶちころす」

「……むぅ?」

 

 同じく想像をしたのか、見ればJC銀子も血の気の引いた表情をしている。

 普段通りなのは幼女銀子だけだ。流石にまだ幼女には事の重大さがよく分からないのだろう。

 

「ね? 分かったでしょ? この一手は本当にヤバいぐらいの劇薬なんだ」

「……そうね」

「ちょっと想像してみただけでも頭痛や吐き気、動悸や息切れ、目眩いや胸の痛みがしてくるんだから……これを直接本人から言われた日には……」

「…………(ゴクリ)」

 

 私とJCとJKは三人共に喉を鳴らして。

 

「その時はもう……死んだっておかしくない」

「……ッッ!」

 

 続く八一の言葉に息を飲んだ。

 その劇薬を直接投与された場合、待ち受ける最悪の結果は──死。

 いやそんな死ぬなんて大げさな話を……と、一笑に付す事は出来そうにない。

 

 だって、本当にそれはキツい。

 今ここで仮定の話として想像してみるだけでこんなにキツいのに、それを嘘だと知らずに直接本人の口から言われでもしたら。

 その衝撃度合いは……そのショックさはもう想像も及ばないレベルだ。特に心臓の弱い私なら本当にそれが死因になってもおかしくない。

 

「……死ぬ」

「うん。死ぬ。死ぬに等しいぐらいエゲツないダメージを負う。今の俺がそうなんだから当時の俺だってきっと同じなはずだ」

「ま……そうね。当の本人がそう言うならそうなんでしょうね」

「うん。他でもない九頭竜八一が保証するよ。これは絶対に効く」

 

 死ぬ……か。私はなにも、八一を死なせたいってわけじゃないんだけど。

 でも言っている意味は分かる。要はそれぐらい致死性の高い劇薬を使わなければ、あの頑なで面倒くさい八一の思考を変える事は出来ないって事なんだろう。

 

「そう言えば八一、前に言ってたよね。私が冗談で『クラスの男子に好きな子が出来たの』とか言おうものなら自分はもう即死だって」

「あぁうん、前の夢の時に話したね。そう、当時の小六の銀子ちゃんに恋人が出来たーなんて事になったら、中二の俺は絶対に平常心じゃいられない、頭が真っ白になってパニックになるはずだ。そうなったら銀子ちゃん相手によそよそしい態度を取ってる余裕なんて無くなると思うんだよね」

「それで……それで元の八一に戻る?」

「と、思うんだけどね。それこそ例えば『八一が元に戻らないなら私はクラスの○○くんと付き合うからー』みたいな事を言えば、中二の俺なんてもう即投了間違いなしだって」

「……ふぅん」

 

 私が──空銀子が、九頭竜八一ではない他の誰かに気があるようなフリをする。

 そうする事によって八一の動揺を誘う。そして上手く言い包めて最終的に投了まで追い込む。

 それが最適解なのか。八一の言う事はまぁ分からないでもないけど…………でも。

 

「……どう、かな」

「銀子ちゃん?」

「私は……そんな簡単にはいかないと思うけど」

 

 私は首を横に振った。すると「どうして?」と八一やJK達が怪訝な目でこっちを見てくる。

 だって、私は当事者だから。問題のあの八一と生活を共にしているから。世代の違うJK達や18歳の八一よりもあいつに関しては私が一番詳しいと思うから。

 だから……そんな私だからこそ分かる事がある。

 

「だって、それって……その劇薬で投了するのは、つまり八一が私を好きだからって事でしょ?」

「まぁ……そうだね」

「でしょ? だったら無理。あの八一は全然そういう感じじゃないもん」

 

 さっき八一が言った戦法は、前提として中二の八一が私の事を意識していなければ成立しない。

 空銀子に恋人が出来てパニックになるのは空銀子の事が好きだからであって、空銀子なんて別にどうでもいい、単なる姉弟子としか思っていないなら特段パニックになどならないはずだ。

 

 だったら……だったらそれは無理だ。

 だって、私には分かる。あいつは……別に私の事なんて好きじゃない。

 だって好きだったらこうはならない。好きな相手にあんな態度は取らないはずだ。そうでしょ?

 

「そりゃ18歳になった八一はJK銀子の事が好きなのかもしれないけど、当時の八一は別に──」

「違う」

「え?」

 

 すると言い掛けた私の言葉を、八一が強い口調で遮った。

 

「それは違うよ、銀子ちゃん」

「……でも」

「うん、きみの言いたい事は分かる。けれどもそれは違う、そうじゃないんだ」

「………………」

 

 違うって……なにが。

 なにも違うことなんて無いもん。あいつは私の事なんて好きじゃない。

 だからそんな劇薬は効かない、って……私はそう思うんだけど……でも、八一が。

 

「俺は銀子ちゃんの事が好きだ。それは当時の俺だって変わらないよ」

「っっ!」

 

 ──や、やいちに告白されたっ! 

 なんかサラッと告白された。『好き』だって言い慣れているような感じがした。す、すごい。

 たかが告白一つ、18歳ともなれば変に気負ったりはしないのか。それとも日頃からJK相手に『好き』だと言ってるからなのか……ごくり。

 

「ただ……当時の俺にはそういう意識というか、そういう自覚が無かったんだ。これも以前の夢の時に話したと思うけど……覚えてないかな?」

「あぁ、そういえば……」

 

 当時の八一は空銀子を『好き』だという気持ちを自覚していなかった。

 確かにあの夢の中でそんな話を八一としたような気がする。聞いた当時はそんなもんかと思ってあまり深くは考えなかったんだけど……。

 

「でも……それって本当にほんとなの?」

「本当にほんとだよ。当時の俺ならともかく今の俺はこんな事でウソ吐いたりしないって」

 

 そして八一は一呼吸置いて。

 私の目を真っ直ぐ見て、言った。

 

「今も、中学生の頃も、子供の頃からこの気持ちは変わらないよ。きっと俺は出会った時から君の事が好きだったんだ、銀子ちゃん」

「……あ、う」

 

 う、そ、そんな……ずっと昔から、ずっと?

 な、なによ、八一、やいちってそんな、そんなに好きなんて……そんなそんな……。

 だってそんな、こんな積極的に来られたらさすがに照れるぅ……ああだめ、顔がにやける。

 

 ……とか思っていたのは私だけではないようで。

 

「…………へぇ」

「…………ふーん」

「ってちょっと、みんなして照れないでよっ! 言ってるこっちが恥ずかしくなっちゃうじゃん!」

 

 見ればJC銀子とJK銀子も、嬉しい感情を表に出すまいとするふにゃっとした表情をしていた。

 そして残る一人、幼女銀子はてくてくと八一のそばに近付いていって。

 

「ねぇやいち。それほんと?」

「うん。本当だよ」

「出会ったときから」

「うん」

「わたしがすきなんだ」

「うん。そうだよ」

「ほうほう」

 

 なにやら四歳児なりに思う事があるのか、幼女銀子は興味深そうに頷いている。

 それにしても……18歳になって成長した八一は自らの気持ちを露わにする事に躊躇いがない。

 私が『好き』だって、真っ直ぐちゃんと言ってくれる八一は……なんか……すごく、いい。 

 

「……ねぇJK」

「なに?」

「私、こっちの八一がいい」

「……これは私のだから駄目」

 

 くぅ、駄目か。出来ることなら交換して欲しかったんだけど……まぁそりゃ駄目か。

 八一は成長してイイ感じな八一になった。きっと私の教育が良かったんだろう……けど、この八一とはあくまで夢の中でしか出会えないもんね。

 

 私の八一は別にいる。私が倒すべき八一はあくまで13歳中学二年のあの八一だ。

 あぁ、あの素っ気ないダメ八一もこんな感じの八一になってくれれば良いんだけどなぁ……。

 

「銀子ちゃんが女王のタイトルを獲った頃は、俺にとっては色々と難しい時期っていうか……なんていうか、色々と悩んでいる時期なんだ」

「……そうなんだ」

「うん。色々と悩んで……その結果銀子ちゃんの事を姉弟子と呼んだり、敬語を使って他人行儀な態度を取ったりする羽目になったんだけど……でも、それでも心の奥底にある気持ちは変わらないはずだ」

 

 心の奥底にある気持ち。

 それはきっと……私が八一に対して向けている気持ちと同じもの。

 

「とにかくそういう訳だからさ。この劇薬は当時の俺に絶対に効くはずだって」

「……うん、分かった。八一がそこまで言うなら信じる」

 

 当の本人からのお墨付きだ。信じてみる価値はあるだろう。

 それにこの八一はちゃんと信頼出来る良い八一だからね。ダメダメな八一とは違うのだ。

 

「八一じゃない他の誰かを好きになったようなフリをして、自分の気持ちを自覚してないあのバカを動揺させれば良いんだよね?」

「そうそう。そんでパニックになってる俺に元通りの態度に直す事を約束させればいい。要は駆け引きだよ、将棋の対局と同じだって」

「将棋と同じ……そっか、そうだね」

 

 慣れ親しんだ将棋と同じだと思えば、なんだか簡単な事のような気がしてきた。

 私は両手をぎゅっと握って顔を上げる。すると優しい目をしている八一と目が合った。

 

「頑張ってね、JS銀子ちゃん」

「うん、頑張る。頑張って中二のダメダメ八一に地獄を見せてくるから」

「ははは……そうだね。あの頃の俺は本当にダメダメだったから、銀子ちゃんも色々と苦労すると思うけど……頼むから見放したりしないでね?」

 

 見放す? 私が、八一を?

 

「別に……見放したりはしないけど」

「ほんとに?」

「うん。だって私は八一の姉弟子だもん」

 

 私がそう答えると、八一は「そっか」と嬉しそうに笑った。

 

 ──そして。

 

 

 

 

 

 

「……あ」

 

 光が差し込む気配──朝だ。

 気付けば私は目を覚ましていた。どうやら不思議な夢は見終わっていたようだ。

 

「……夢、か」

 

 夢を見た。相変わらずの変な夢だった。

 相変わらずの銀子トリオが居て、でも今回は久々に八一の姿もあって。

 まるで全てを見ていたかのような、今の私の悩みにピンポイントで刺さる内容の夢だった。

 

 ていうかもうこれ意図的だよね? 偶然に見た夢とかって話じゃ済まないよね?

 これはもはや超常現象の一種なのでは……とすら思うけど、この点に関しては考えた所で答えは出ないような気がするので目を瞑る事にする。

 だって超常現象の謎を解き明かすよりも、今の私にはするべき事があるから。

 

「んしょっと……」

 

 ゆっくりとベッドから身体を起こして、サイドフレームを掴んで真下を覗き込む。

 二段ベッドの下段で眠る、あいつを。

 

「…………ぐぅ」

 

 寝てる。八一はぐーすか寝てる。

 私が倒すべき相手。一月前から急に素っ気ない態度になった中学二年生13歳の八一が。

 

「……八一」

 

 昨日までの私は何も出来なかった。

 八一の変化をただ受け入れて、仕方の無い事だと自分の心を納得させようとしていた。

 JK達から貰っていた助言も活かせず、寂しい心を押し殺していただけだった。

 

 ……けれど。

 

「……見てなさいよ」

 

 けれど、今は違う。

 今の私には秘策がある。18歳の八一から授けられた劇薬があるのだ。

 

「……ぐぅ、ぐぅ」

「呑気に眠っていられるのは今だけよ。じきに地獄を見る事になるんだからね」

「……ん、んん……んあ……?」

 

 あ、どうやら起きたらしい。

 目を覚ました八一はごしごしと両目を擦って、ふわぁーと大きなあくびをして。

 

「……あ」

 

 そして、上から覗き込んでいる私に気付いた。

 

「あれ? 銀子ちゃん、どしたの?」

 

 ──銀子ちゃん?

 

「……ねぇ」

「ん?」

「……姉弟子、じゃなかったの?」

 

 呼び名間違いを指摘すると、八一は「あ」と寝ぼけ眼を大きく見開いた。

 

「……うん。姉弟子、どうしたんですか?」

「……別に」

 

 それだけで私はスッと身体を戻す。

 おはようぐらいは言ってあげようかなと思ったけど……ムカついたからやめた。 

 ……まったく、言い慣れない呼び方なんてしなきゃいいのに。ほんとにこのバカときたら。

 

 やっぱりこれは駄目だ。うん、これは良くない。

 朝っぱらからこんなじゃ疲れちゃう。八一と会う度に私のテンションも下がる一方だ。

 今後私が健やかな日々を送る為にも、このダメダメ八一にはお灸を据える必要があるだろう。

 

 と、いう事で。

 

 

 

「八一。対局するわよ」

「あ……はい」

 

 その日の学校終わり。

 帰ってきて早々私は八一を将棋に誘った。

 その懐に……致死性の劇薬を忍ばせて。

 

 

 




そろそろ原作14巻発売も近いので、
次の更新は14巻までに出しておきたかった短編の更新になります。あしからず。
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