銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)   作:銀推し

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おまけの話 幼女銀子のその後②

 

 

 

 ──銀子ちゃんは、ぼくの事が好きなんだ!

 18歳の自分に先行する事12年、6歳の八一くんは早々その答えに辿り着きました。

 

「そうなんだね、ふふふ……!」

 

 絶対にそのはずです。そうに違いありません。

 だからこそ、八一くんは言いました。

 

 

「銀子ちゃんっ! 銀子ちゃんはさ、ぼくのことが好きなんだね!」

「ううん」

 

 銀子ちゃんはノータイムで首を横に振りました。

 

「えッッ!?」

「ん?」

「……え。……ち、ちがうの?」

「うん。ちがうけど」

 

 どうやら違ったようです。

 銀子ちゃんは一ミリも表情を変えずに答えます。

 

「……あ、そう……」

 

 一方で見事に読みが外れた八一くんは力の抜け落ちた表情で呆然と呟きます。

 

「……そ、そう……なんだ……」

 

 やってしまいました。八一くんはやらかしてしまいました。

 ぼくの事が好きなんでしょ? と尋ねておいて即否定されるのはとてもこっ恥ずかしい事です。

 自意識過剰が故の自爆です。赤っ恥です。ヤバいです。八一くんの心の傷が一つ増えました。

 

「……そっか。銀子ちゃんはぼくのことが好きじゃないんだ。そっかぁ……」

「うん」

「……はは、ははは……」

 

 目の前にいる小さな女の子は……特に自分の事が好きなわけではない。

 知りたくなかったその事実を知って、八一くんは乾いた声で自嘲気味に笑います。

 

「……あぁ、なんか駄目だ。ぼく吐き気がしてきたから……ちょっと横になろうかな……」

「でも」

「……ゑ?」

 

 ですが、銀子ちゃんの攻勢はこの程度では終わりませんでした。

 

 

「でも。やいちはわたしのこと、好きでしょ?」

「えぇええ!!?」

 

 ──わたしのこと、好きでしょ?

 まさかの質問を食らった八一くんは素っ頓狂な声で叫びました。

 

「えっ、な、え……ッ!」

「わたしのこと。好きなんでしょ?」

 

 問い掛けというよりも「知ってるんだから」と言わんばかりな様子の銀子ちゃん。

 こんなセリフ、長年恋心を拗らせまくっているじぇーけー達には到底言えないセリフです。

 しかし4歳の銀子ちゃんは無敵です。無敵なのでこんなセリフも平然と言えてしまうのです。

 

「えっ、いや別にそんな、好きなんてそんな!?」

「好きなんでしょ?」

「いやだからそんな、別にぼくは……ぼくはそんな銀子ちゃんのことなんて……」

「ごまかすな」

「ごまかしてないよっ! ぼくだって別にその、ふ、ふ、ふつうだからっ!」

 

 八一くんは真っ赤な顔で答えました。

 あくまで普通。ここで普通と答える所に複雑な少年心が見え隠れしています……が。

 けれども銀子ちゃんは納得してくれません。その灰色の瞳の奥をギラリと光らせます。

 

「うそつくな」

「うそじゃないよ!」

「うそ。好きっていってたもん」

「い、言ってた?」

「うん」

「え、言ってたって……だれが?」

「やいちが」

「……えっ? ぼくが?」

 

 きょとんとする八一くんの一方、

 

「ん」

 

 銀子ちゃんはこくりと頷きます。

 

 どうやらこれもあの夢を見た影響のようです。きっかけになったのはじぇーえすの夢。

 じぇーえすが13歳の八一くんと仲違いして色々と苦労していたあの夢の中、銀子ちゃんは久々に18歳の八一くんと再会する機会がありました。

 そしてその時、銀子ちゃんは18歳の八一くんから直々に「出会ったときから好きだった」とのお墨付きを貰っているのです。

 出会った時からという事はつまり、この八一くんはもう自分の事が好きだという事になります。

 

「やいちが言ってた。やいちはわたしのことが好きなんだから」

「いやあの、ぼくそんな事言ってない……」

「うそつけ。はくじょうしろ」

「白状もなにも、べつにぼくは、そんな、あくまで普通っていうか──」

「あぁん?」

 

 言い逃れは許しません。

 4歳の銀子ちゃんがメンチを切るかのようにその目元口元を歪めます。

 

「ぅ、うぅぅ……!」

 

 弱々しく唸る八一くん。どうやら至近距離から銀子ちゃんに睨まれたので照れているようです。

 たとえメンチ切った顔でも可愛く見えてしまうから困ったものです。八一くんの目には銀子ちゃんのどんな表情でも可愛く映ってしまうのです。これはそういう病気のようです。

 

 ただでさえ八一くんにとって、銀子ちゃんというのは出会ったときからそういう存在でした。

 かわいい。端的に言って可愛いのです。凶暴だけど可愛いのです。ただただ可愛いのです。

 福井の田舎から出てきたばかりの純朴少年八一くんにとって、この可愛さはもはや毒です。

 こんなかわいいい女の子にぎゅーっと密着されたり「きすする?」とか聞かれたりして、それでもなんとか正気を保っていられるだけ八一くんも頑張っているのです。

 

「ま、まぁその……別に嫌いじゃないよ? 嫌いじゃないけどね、でも──」

「それじゃあだめ。好きだといえ」

「え、えぇ~!?」

  

 しかしどれ程に八一くんが頑張ったところで、この銀子ちゃんは無敵です。

 あの不思議な夢の中で多くの事を知った無敵の銀子ちゃんを相手に、何も知らない6歳の八一くんが太刀打ち出来るはずがありません。

 

「いえ」

「……う」

「やいち。いえ」

 

 銀子ちゃんがずいずいと迫ってきます。

 

「ほら。いいなさい」

「…………うぅ」

 

 八一くんはのろのろと背後に退がります。

 

「やーいーち」

「う゛ぅぅ~~……!」

 

 銀子ちゃんにどんどん迫られて、とうとう壁際まで追い詰められました。

 

「……す」

 

 もはや逃げ場はありません。

 八一くんは真っ赤になった顔を斜め下に向けて、

 

「……好き、だけど」

 

 ぼそりと答えました。

 言わされた感は大いにありますが、それでも言ってしまった以上八一くんの負けです。

 

「よし」

 

 と頷く銀子ちゃん。その表情には達成感と僅かな笑みが見えます。

 こうして銀子ちゃんはあっさりと八一くんに「好き」だと言わせる事に成功しました。

 素晴らしいお手並みです。幼少の頃からの初恋を長々と熟成させた結果、両片思いなのに途轍もない時間が掛かったじぇーしーやじぇーけー達とは大違いです。さすがは無敵の銀子ちゃんです。

 

「……で、でもさぁっ!!」

「なに?」

「ぼくは言ったんだからっ、だったら銀子ちゃんだって『好き』って言ってよ!!」

 

 自分だけ好意を言わされて悔しいのか、真っ赤な顔で喚き立てる八一くん。

 

「やだ」

「なんで!」

「だってわたしはやいちのこと好きじゃないし」

「そんなのズルい! ぼくは好きなんだから銀子ちゃんも好きじゃないとズルいー!」

 

 好きという気持ちにズルいも何も無いのですが、そこはそれ。あくまで子供の理論です。

 

「ずるい?」

「うん! ズルいよ! 公平じゃないじゃん!」

「しるかそんなこと」

「そんなぁ!」

 

 ですがそんな子供の理論が銀子ちゃんに通用するはずもありません。

 公平かどうかなんて知ったこっちゃなし。まるで取り付く島もありません。

 

「うぅ……ひどい、ひどいや銀子ちゃん……」

「ひどくない。これが現実」

「現実かぁ……現実ってひどいんだね……」

「ん。現実はそんなもん」

 

 このように随分とつれない態度を取る銀子ちゃんですが、本心なのだから仕方ありません。

 その心の内にある感情も、幼い銀子ちゃんにはまだ理解出来ません。これは八一くんの方も同様なのですが、理解出来ないものは当人にとって無いものと同じなのです。

 

「……ふむ」

 

 だからこそ銀子ちゃんは「好き」とは言わず。

 だからこそ無敵でいられるのですが……しかし。

 

「やいち」

「なに?」

「…………じぃ」

「……ど、どうしたの?」

 

 銀子ちゃんはじぃっとその顔を眺めます。

 

「……じぃ~~」

「銀子ちゃん?」

 

 その瞳に映るのは年上の弟弟子、八一くん。

 まだ幼いからか、どうにもなよっとした感じの頼りない顔付きをしています。

 

「やいち」

「な、なに?」

「やいちはもっとシャキっとしたほうがいい」

「シャキっと……してないかな?」

「うん。だめだめ」

「そっかぁ……」

 

 しょんぼりとする八一くん。

 ですが、これが将来は自分好みの優しい顔付きになる事を銀子ちゃんは知っています。

 

「ねぇ銀子ちゃん。銀子ちゃんはぼくがシャキっとしてないから嫌いなの?」

「ううん。ていうかべつにやいちがきらいとは言ってない。すきじゃないだけ」

「うぅ……それ、あんまり変わらないような……」

「……でも」

「ん?」

 

 そして……自分の気持ちも。

 今は分からない大事な気持ちだって、実のところ銀子ちゃんはすでに知っているのです。

 

「いまはすきじゃないけど。でも……そのうちすきになるらしい」

「え……その内に?」

「うん」

「……ほ、ほんとに?」

「うん」

 

 銀子ちゃんはこくこくと頷きます

 それはあの不思議な夢の世界で、16歳の自分であるじぇーけーから教えて貰った話。

 

「そのうちにやいちのことがすきになる。そういうびょうきにかかるんだって」

「病気?」

「うん。びょうき」

「え……ぼくを好きになることって病気なの?」

「うん。びょうき。じぇーけーが言ってたから」

 

 将来、自分は八一くんの事しか考えられなくなる病気に罹ってしまうそうです。

 そして好きになってしまいます。そんなまさかと思いはすれど、しかしあの夢の中で恋に思い悩むじぇーしーやじぇーえすの姿を幾度と見せられた以上、銀子ちゃんも受け入れざるを得ません。

 

「びょうきはこわいけど」

「怖いの?」

「うん。でもびょうきだからしょうがない」

 

 それはとても恐ろしい病です。恋の病とは特効薬の無い不治の難病です。

 銀子ちゃんはその病気に罹るのがとても怖いです……が、しかし病気ならしょうがないです。

 今のところ全然全くそんな気配は無いのですが、病気とあってはどうしようもありません。病気なんだから自分が八一くんを好きになっちゃうのも仕方無いのです。

 

「病気……」

「うん。びょうき」

「ねぇ銀子ちゃん。その病気っていつになったらかかるの?」

「それはしらない」

「一年後ぐらいかな?」

「さぁ?」

「半年後ぐらいかな?」

「さぁ?」

「一ヶ月後ぐらいかな?」

「さぁ?」

 

 今でこそ平然としている銀子ちゃんも、やがてはそういう病気に罹ります。

 そして病気に罹った事で……その時から、銀子ちゃんは無敵ではなくなってしまうのです。

 

 あの不思議な夢の中で見た、じぇーしーやじぇーえす達と同じように。

 自分の大事な気持ちに戸惑い、思い悩む日がいつかは銀子ちゃんにも訪れるのです。

 

 ですが……いずれ無敵でなくなって、そうした病気に罹ってしまう事も、思い悩む日々も。

 それはそれで悪くないものよ……と、その病気を克服したじぇーけーならそう言うでしょう。

 

「じぇあさ、銀子ちゃんがその病気にかかってぼくの事を好きになったら教えてね」

「え……やだ」

「なんでっ!」

「なんかやだ」

 

 なんかいやなので銀子ちゃんはそう答えました。

 

「……んにゅ」

 

 するとその直後、銀子ちゃんのおめめがとろんとしてきました。

 

「……んぅ、やいち、ねむい」

「あ、お昼寝するの?」

「うん」

 

 そろそろ幼女には必須となるお昼寝タイムです。

 おねむになった銀子ちゃんはそのままカーペットの上で丸くなってしまいました。

 

「銀子ちゃん。身体に何か掛けて寝ないとまた体調わるくなっちゃうよ?」

「もってきて」

「しょうがないなぁ……えっと……」

 

 立ち上がった八一くんは二段ベッドの中から毛布を引っ張り出します。

 そしてそれを銀子ちゃんの身体の上にそっと掛けてあげました。

 

「はい銀子ちゃん。これで大丈夫? まだ寒い?」

「ん、だいじょうぶ」

「そっか」

「やいち」

「ん?」

「て」

「あぁうん、はい」

 

 すっと八一くんの右手が伸びてきて、銀子ちゃんの左手と重なります。

 

「ん……」

 

 そしてちょっとだけ力を入れて握れば、銀子ちゃんの表情がふにゃっと柔らかくなりました。

 

「……やいち」

「おやすみ、銀子ちゃん」

「うん…………すぅ」

 

 その左手にある温もりを感じたまま。

 銀子ちゃんはあっという間に眠りました。どんな時でも幼女は眠るのが早いのです。

 

「………………」

 

 一方で八一くんも、その右手にある温もりも感じたまま。

 さーて詰将棋の問題でも解くかなぁと頭を巡らせ始めた……そのすぐの事でした。

 

「……ふわぁ」

 

 その口から大きなあくびが。

 どうやらおねむな銀子ちゃんに釣られて八一くんも眠くなったようですね。

 

「んー……」

「……すぅ、すぅ……」

「…………すやぁ」

 

 そして、じきに八一くんも同じように眠ってしまいました。

 銀子ちゃんの隣にくっつくような形で。

 ぴたりと寄り添い合うような形で。

 

「……すぅ、すぅ……」

「くぅ、くぅ……」

 

 仲良くその手を繋ぎ合ったまま。

 まだまだ幼い銀子ちゃんと八一くんは今日もすこやかに眠ります。

 

 いつの日か、銀子ちゃんが恋の病に罹ってしまう日が訪れて。

 そしていつの日か、その手を一度離さないといけない日が訪れるかもしれません。

 お互いにそう望まなくても、そうせざるを得ない日がやってくるかもしれません。

 

 それでも大丈夫。二人の手が本当の意味で離れる事は絶対にありません。

 銀子ちゃんも、八一くんも。二人の気持ちはこの時からもう繋ぎ合っているのですから。

 

 

 

 




※次回の更新は短編の更新となる予定です。
ここから暫く不定期で短編の更新が続くと思います。
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