銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)   作:銀推し

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これは短編になります。

八一と銀子がおでかけデートをする話です。
夏の日の、とあるように二人が付き合いだしてから半年以上は経過している、という設定になります。



銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの短編集
短編 夏の日の1頁


 

 

 

 

 ──おでかけデートとは何か。

 それはその名の通り、恋人同士がおでかけしてデートをする事を言う。

 

「いい天気ね、八一」

「うん、そうだね」

 

 空を眺めながら銀子ちゃんが呟く。

 これは確かにいい天気だ。こういう天気であれば絶好のおでかけデート日和と言えるだろう。

 

「ほら、風も気持ちいい……」

「そうかな?」

 

 思えばこのおでかけデートという言葉。これはよくよく考えてみると不思議な言葉だ。

 だってデートといったら言うまでもなくおでかけをする事だろう。であるならば、わざわざ言葉の頭におでかけと付ける必要は無い。

 だからこれはきっとおでかけをしないデート、つまりおうちデートという考え方の隆盛がそのキッカケにあるのだと思う。

 互いに想い愛し合う恋人にとって、家の中でおうちデートする事だって選択肢の一つになってきたからこそ、その対局にあるおでかけデートという言葉が生まれたのだろう。

 

「あ、なんかいい匂いがする。なんの香りだろ?」

「どうだろう。俺にはちょっと分からないかな」

 

 そして今ここに居る二人、俺こと九頭竜八一と空銀子ちゃん。

 俺達は互いに想い愛し合う恋人であって……そして俺達にとってのデートというのは、普段からおうちデートの頻度が圧倒的に多い。

 

 その理由としては、銀子ちゃんは超が3つ付く程の有名人なので、外出して身バレでもしたら色々と面倒くさい事になりかねないという事。

 他にも銀子ちゃんがインドア気質なので人混みを嫌っていたり、直射日光が駄目であったりと。

 そしてお互いにとって共通の趣味……というか、まぁ要するに結局は将棋が一番楽しくて、盤を挟んでいる時間が一番至福であったりと。 

 それらの事情が合わさって、俺と銀子ちゃんのデートはおうちデートが多めになっている。

 

「ちょっと遠かったけど……でも、やっぱり来てよかったね」

「そうだね、そうかもしれないね」

 

 そして、俺達は普段からおうちデートの頻度が圧倒的に多めだからこそ……今日はおでかけデートをする事にした。

 そこはほら、一応カップルだしね。勿論おうちデートだって悪くは無いんだけど、やっぱり恋人同士になったからには、もっと色んな所に行って色んな事をしてみたいよね。

 

 だから今日はおでかけデートだ。俺も銀子ちゃんもよそ行きの整った格好をしている。

 一応俺の方でデートプランの大枠は決めてあるけど、しかしそこは臨機応変に。今日は銀子ちゃんの行きたい所に付き合ってあげるつもりだ。

 

「ほら、八一……」

 

 とその時、隣にいた銀子ちゃんが眩しいものを見るかのようにその目を細めて。

 

「どうしたの?」

「見て……古都ローマの町並み……凄く綺麗……」

 

 あぁ、本当だ。

 俺達の眼下に広がる景色、ローマの町並みは思わず息を呑んでしまう程に美しい。

 

 今日はおでかけデートという事で、俺と銀子ちゃんは遠くイタリアはローマまでやって来た。

 やっぱりおでかけデートと言うからにはね、これ位のおでかけはしちゃうよね、うんうん。

 

 

 

 ──なわきゃない。

 いい加減この茶番に付き合うのも虚しいので、そろそろ本題に入る事にする。

 

 

「あのさぁ銀子ちゃん」

「なに?」

「今日ってさ、二人でおでかけデートの予定だったはずだよね?」

「そうね」

 

 俺の問い掛けに対して、銀子ちゃんはなんら憚る事なくいつも通りの顔で頷く。

 ここに来てこの平然とした態度、この神経の図太さにはさすがと言う他無いだろう。

 

 今、俺と銀子ちゃんは関西将棋会館近くにあるワンルームマンション、銀子ちゃんが将棋の研究用にと購入した部屋のリビングに居る。

 こうしてこの部屋に居る時点で明らかなのだが、俺達はおでかけデート中では無い。むしろ完全にいつも通りというか、いつも通りのおうちデートに突入する流れとなっている。 

 

 ……え? ならさっきまでの会話は一体何だったのか、って?

 それは単に写真を見ての感想だ。銀子ちゃんがその手に持つタブレット端末に表示されているローマの風景写真、恐らくはネット上から適当に拾ってきたものだろう。

 まさかこんなものまで用意していたとは。驚いた俺はついついそのノリに付き合ってしまったよ。

 

「てか銀子ちゃん、もしかしておでかけデートの予定を忘れてた……なんて事はないよね?」

「あのねぇ、デートの予定を忘れる訳が無いでしょ。私だって勿論そのつもりだったわよ」

「だったら──」

「でもね八一、これを見なさい」

 

 すると銀子ちゃんはタブレット端末を操作して、切り替わった画面を俺に見せ付けてくる。

 そこに表示されていたのはお天気アプリだ。本日の大阪の天気は晴れ、そして気温は──

 

「ほら、今日は最高気温31℃だって」

「そうだね。もう8月だし、これから更に暑くなってくるだろうね」

「えぇ、そうね」

 

 すると銀子ちゃんは我が意を得たりとばかりに大きく頷いて。

 

「つまり……そういう事よ」

 

 ……なるほど、そういう事か。

 つまり「やだやだお外暑ーい。銀子エアコンがガンガンに効いたこの部屋から出たくなーい」……と、この子はそう言いたいのだろう。

 

「今日は天気が悪いの。残念な事にね」

「いやいや、むしろいい天気でしょ。雲一つ見当たらない晴天だよ」

「八一。何事もね、過ぎたるは猶及ばざるが如しって事なのよ」

 

 過ぎたるは猶及ばざるが如し。何事も程々が一番という意味合いの中国の故事だ。

 どうやら銀子ちゃんの内にあったおでかけ欲は、夏の暑さの前に萎れてしまったらしい。

 一緒に段重ねのアイスを食べながら、おてて繋いでのラブラブデート……なんてイメージは、残念ながら絵に描いた餅になったようだ。

 

「……そっか。まぁ、銀子ちゃんが出不精だってのは元から分かっていたけどね」

 

 ただでさえ出不精な銀子ちゃんなのだが、夏になるとその傾向はより一層顕著になる。

 ちなみにそれは何も暑さだけでは無く、冬の寒さを前にしても似たりよったりである。空銀子というのは室内を好む生き物なのだ。

 

「別に私に限った話じゃないわ。アウトドア派な将棋指しなんてこの世には存在しないのよ」

「それは言い過ぎだって……」

 

 そりゃ将棋はインドア向けのゲームだけど、棋士達の中にはアクティブな人も多い。最近では棋士達によるフットサル大会なんてものが開かれたりするぐらいだし。

 かくいう銀子ちゃんだって時にはサッカー観戦を楽しんだりと、口ではこう言っているがなにも完全なるインドア派という訳では無い。

 

 けれど、まぁ、銀子ちゃんの言い分も分かる。特にこの夏という季節はどうしてもねぇ。

 この子の白磁のような真っ白お肌にとって、夏の太陽の光というのは特に天敵だ。ただ日に焼けてしまうからというだけでは無く、色素が薄い体質のせいで体調を崩してしまう事も多い。だからこそ夏は特に外出したがらないのだ。

 

「……うーん」

 

 けれど。それでも。

 暑いし日差しも強いから外に出たくない、という銀子ちゃんの言い分は大いに理解出来る。

 だがそれを理解した上で尚、俺はまだ気持ちの落とし所が見つけられないでいた。

 

 だってさぁ。元々の予定だと俺達、今日はおでかけデートをする予定だった訳じゃん?

 けれどもポシャった。となるとこれって、俺は恋人として夏の暑さに負けたって事じゃん? 

 銀子ちゃんの中での優先順位として、彼氏とのおでかけデートよりも『暑いのやだやだ日光やだやだー』の方が上にあるって事じゃん?

 それってなんかさぁ、事情は分かっていてもなんかちょっとさみしいじゃん……?

 

 ──しかし、だ。

 

「……でも、そうだね。なら今日はこの部屋で大人しくしていようか」

 

 あえて、あえてここは頷いておく。ここはひとまず物分かりの良い彼氏を演じておく。

 ここでゴネてもあまり益は無い。そのように俺の棋士としての読みが言っている。

 

「……いいの?」

「いいよ。せっかくの二人だけで居られる休日なのに銀子ちゃんに無理させたくないしね」

 

 俺が笑顔でそう答えると、

 

「……うん、ありがと」

 

 銀子ちゃんが小さな声でそう呟く。

 その顔はちょっぴり照れ混じりで……こういう表情をしている銀子ちゃんは本当に可愛い。

 おでかけデートはポシャったけど、俺としてはこの子のこんな表情を見られただけでもう満足だ。

 

 ……とは言えない、そう思えないぐらいには俺も欲張りになっちゃったんだけど。

 それでもこの場はこうしておくべきだ。とにかくここは譲っておくのが吉だろう。

 

 例えばここで俺が本気で駄々をこねたら。

 そうしたら最初こそ反発するだろうが、多分最終的に銀子ちゃんは折れると思う。

 何故なら元々の予定はそっちだから。だからここで俺がひたすら駄々をこねればきっと銀子ちゃんも「……はぁ、仕方ないわね……」とか言いながら重い腰を上げてくれる。

 そしてガンガンにエアコンの効いたこの部屋から出て、俺とおでかけデートしてくれるだろう。

 

 しかしその場合、恐らく銀子ちゃんの機嫌があまり良くないものとなってしまう。

 せっかくのデートをご機嫌斜めな状態で迎えるというのは宜しくないし、それにやっぱり今日が暑いのは本当だからね、銀子ちゃんが本当に体調を崩したりでもしたら大変だしさ。

 

 なのでここは文句を言わずに、いつものようにおうちデートを受け入れておく。

 その事について何かを言うのは……仕掛けるのはもう少し後になってからだ。

 

「さてと、それじゃ……」

 

 言いながら俺は座布団を二枚、座りやすいような位置に並べて。

 

「それじゃあ、対局しよっか」

「うん」

 

 そして、俺達は将棋盤に向かい合う。

 それは恋人ではなく棋士として。ここからは棋士の時間だ。

 

 

「……ところでさ」

「なに?」

「エアコンの温度、もう少し上げない? これ涼しいっていうより寒いぐらいなんだけど」

「寒いなら上に何か着たら?」

「………………」

 

 あくまで譲る気はないらしい。

 この身震いするような涼しさの中で平然としているこの子は本当に身体が虚弱なのか。そう思ってしまったのは俺だけではあるまい。

 

 

 

 

 

 

 そして、その後。

 午前中はずっと対局を重ねて──昼。

 出前で頼んだ昼食を食べ終えて、そして時刻が昼過ぎになった頃。

 

 

「……はぁ」

 

 俺はおもむろに溜息を吐き出した。それはもう残念そうな表情を作って。

 

「……はぁぁ~~」

「……なに?」

 

 これみよがしに大きく嘆息してみせると、銀子ちゃんが警戒心を孕んだ目を向けてくる。

 昼食休憩を挟んで対局は一旦終了、つまり棋士の時間はもう終わった。

 ここからは恋人の時間で……そろそろ仕掛ける頃合いだ。

 

「なんかさー、やっぱりおでかけデートしたかったな~、って思ってさー」

「む……」

 

 俺が仕掛けた一手に反応して、銀子ちゃんの整った眉がぴくっと動く。

 これは何も虚言ではなく、おでかけデートがポシャった事に対する俺の率直な気持ちである。

 それをこのタイミングで仕掛ける。あえてあの時すぐではなく「今からじゃもうおでかけデートって気分じゃないよねー」と思う位の時間が経過してから言うのがミソだ。 

 

「久々のおでかけデートだったのになー。予定組んだ時から楽しみにしてたのになー」

「……別に、私だってそうだったわよ。……ただ、今日はなんか、ちょっと、暑すぎて……」

 

 言い訳している自覚はあるのだろう、歯切れが悪く答える銀子ちゃん。

 互いのスケジュールを調整して今日の日の予定を組んだのは一週間前程。だからその時は銀子ちゃんもおでかけする気満々でいたのだろう。

 しかしこれも夏の悪戯か、ここ一週間で急激に最高気温が上昇した。そしていざ当日になって玄関から出たら、うだるような外気温を前にして急激にテンションが下落してしまった……と、銀子ちゃんの事情としてはそんな所だろう。

 

 ……が。

 そんな事情は分かっているけど俺は仕掛ける。棋士としてこの攻め所は逃すまいて。

 

 ……え? 過ぎた事を今更になって言うのは男らしくないって? 

 知らんねぇそんな事は。男には時として男らしさなんかよりも優先するべき事があるのだよ。 

 

「そりゃあ確かに今日は暑い、暑いのは分かるけどさぁ。でも恋人とのデートだよ? 一週間前から約束してたんだよ?」

「……でも、暑いんだもん」

「んな暑いっていってもずっと外に居る訳じゃないし、どっかお店に入ったら涼しい訳じゃん?」

「……でも、最近は環境問題がどうこうって、あんまりエアコンが効いてない店も多いじゃない」

「そんなの極一部の店だけでしょ。大体の場所はちゃんと快適な気温が維持されているって」

 

 しかしこの子、ほんとにエアコンに拘るな……。

 この様子だとエアコン無しではきっと一夏も越す事は出来ないだろう。同年代の俺が言うのもなんだがバリバリの現代っ子精神極まるといった感じだ。

 

「……てか銀子ちゃんさぁ、俺とエアコン、どっちが好きなわけ?」

「エアコン」

 

 ノータイムで答えやがった……。

 どうやら俺は恋人をエアコンに取られてしまったようだ。エアコンめぇ……許すまじッ!

 大体銀子ちゃんも銀子ちゃんだ! そんなにエアコンが好きならエアコンとデートしてればいいよ!

 

 ……とは言わないけどね。

 さすがに先程の発言、あれがただの冗談だって事ぐらいは俺にも分かる。

 その程度なら恋人同士の他愛ない会話の一つであって……だからこれぐらいだって許されるはずだ。

 

「あーあー、おでかけデートしたかったなー」

「………………」

「昨日から楽しみにしてたんだけどなー。デートプランとかも沢山考えてたんだけどなー」

「………………」

 

 俺が次々と繰り出す口撃を受けて、銀子ちゃんはむすっとした顔で沈黙するのみ。

 うるさい黙れ、とは言ってこない。というか言えないのだろう。何故ならそれが俺の本心の一つであるという事をこの子も分かっているから。

 

「………………」

 

 今の銀子ちゃんにはおでかけデートをポシャってしまったという負い目がある。

 だからこそ俺に対して言い返す事が出来ず、ただただ沈黙していたのだが……。

 

「……ちっ」

 

 やがて大きく舌打ちを──自らの敗北を認めるかの如き舌打ちをして。

 

「……八一」

「なに?」

 

 そして俺と向かい合って。

 少し赤らんだ頬、そして目線を右斜め下に向けて俺と目を合せないまま──言った。

 

 

「……どうして欲しいの?」

 

 

 ──よし来たっ!

 来たぜ来たぜぇ! こちとらその言葉をずっと待ってたんだよぉ!

 

「うん? どうして欲しいのって、それはどういう事かな?」

 

 しかしここは逸らずに。ちゃんと言葉にしてその意図を確認する。

 あるいは……焦らすかのように。銀子ちゃんの事を徐々に追い詰めていく。

 

「どういうもなにも……言葉の通りだけど」

「というと?」

「だから……そこまでいじわるな事を言うって事は、私に何かして欲しい事があるんでしょ?」

「いじわるな事なんてそんな、俺はただ率直な気持ちを口にしていただけで──」

「もう、分かったから。今回は私が悪かったから……だから……」

 

 その声はとても弱々しくて。

 その表情はとても恥ずかしそうに。

 

「……代わりに、したいこと、させてあげるから」

 

 なんという事でしょうっ! あの銀子ちゃんが自ら無条件降伏をしてくるだなんて!

 その様子は自らの運命を受け入れて怯える小動物のよう、普段からクールで強気な浪速の白雪姫もこうなってしまっては型無しである。

 

 ふふふふ。どやぁ、これぞ俺の狙い通りの展開、言わば名を捨て実を取る作戦。

 やはり隙を見せたらそこを突くのが棋士というもの。銀子ちゃんの負い目を上手く突いて文句の言えない状況に追い込み、抵抗の出来ないお人形さんにしてしまおうという訳だ。

 

 とかく銀子ちゃんっていうのはね、意外と律儀な性格をしているからね。

 おでかけデートに対する俺の期待と楽しみをフイにしてしまった分、代わりの何かを差し出さなきゃと考えるような子なんだよね、可愛いね。

 

「へぇ。したいことって……なんでもいいの?」

「…………(コクリ)」

「後から文句言ったりしない?」

「…………(コクコク)」

 

 この先何をされるのか分かっているのだろう、銀子ちゃんのお顔はもう真っ赤だ。

 そっかそっかぁ、この子にここまで言われちゃあしょうがないよね。

 なんでもしちゃう程に負い目を感じているなら、それを解消してあげるのが彼氏の役目だよね。

 

「では遠慮なく」

 

 という事で、まずはと俺は銀子ちゃんの身体をぎゅっとハグした。ぎゅー。

 

「あっ……」

 

 あぁ、女の子の柔らかい感触が、銀子ちゃんの低めな体温がじわりと伝わってくる。

 その心地を味わうのもそこそこに、そのまま銀子ちゃんの身体を優しく押し倒す。

 

「んっ、やい、ち──」

 

 そして押し倒したのもそこそこに、俺は目の前にあった瑞々しい唇に自分のそれを重ねた。

 

「……ふ、ぅ……」

 

 銀子ちゃんの唇、柔らかい。

 銀子ちゃんの唇の端から漏れる息、エロい。

 このままこの感触を味わってもいいんだけど……だけどここはもう少し踏み込む。

 

「……んっ! ぅ、む……っ」

 

 唇を割ろうとする舌先の感触に気付いたのだろう、銀子ちゃんの両目が大きく見開かれる。

 基本的に銀子ちゃんというのはムードを重視する女の子なので、これ程に攻めを急いだ場合、普段であれば多少なりとも嫌がる素振りを見せたりするはずなんだけど……。

 

「……ん、……んぅ」

 

 そのまま銀子ちゃんはすっと瞼を閉じる。

 そして唇を少し開いて、ねじ込んで来た俺の舌を優しく迎え入れてくれる。

 

 おぉ、やっぱり抵抗が無いっ! 抵抗が無いぞ!

 今日の銀子ちゃんはもう無抵抗だ。無抵抗な銀子ちゃん……いいよね! 

 俺なんてもう『無抵抗な銀子ちゃん』っていう字面だけでめっちゃ興奮するもん。

 

「…………はっ、はぁ……もう……」

 

 そうして暫く濃厚接触をした後、唇を離した銀子ちゃんは熱い吐息を吐き出して。

 

「……ねぇ、八一」

「なに? ここまで来て待ったは無しだよ?」

「そうじゃない。そうじゃないけど……」

 

 そこで銀子ちゃんはじとっとした目付きを、とても非難がましい目を向けてくる。

 

「……もしかしてさ、最初からこうなるって分かってた?」

「こうなるって?」

「だから……おでかけデートが駄目になって、その代わりに……こうなっちゃうって」

「……んーと、それは……」

 

 まぁ、ここまで来たら言っちゃってもいいか。

 

「──うん、そうだね。正直に言うと最初からこっちを期待してた」

「やっぱり……」

 

 見事に読みが当たっていた事を知って、銀子ちゃんが恨めしそうに呟く。

 けれども読みの早さと深さで言うなら、今日は俺の方が上回ったかな。

 やっぱり俺達は棋士だからね。どんな状況にあっても先の展開は読んでいかないと。

 

 ……ていうかね、答えを言っちゃうとね。

 出発直前になって、突然待ち合わせ場所を駅前からこのマンションに変更する旨のLINEがあった時点で、なんとなく察しがつくよねっていうか。

 だったら今日はどうするか、どんな流れにもっていくかは計画立てるよねっていうか。

 

「……すけべ」

「知りませんなぁ。大体これは銀子ちゃんが悪いんだからね。当初の予定通りおでかけデートをしていればこんな事にはならなかったんだから」

「ぐぅ……」

 

 ここを突けば何を言えない時点で、今日の銀子ちゃんはまな板の上の鯉を逃れられないのだ。

 さーてさて、となればこの可愛い可愛い鯉をどうやって料理したものか。

 

 まぁとりあえず? さっきはエアコンに浮気をされてしまった訳だし?

 となれば「エアコンよりもやいちが好き♡」と言わせるのを目標にしてみようか。

 

 

 

 

 

 

 ──そして。それからしっとり数時間。

 恋人らしくイチャイチャと、恋人らしい事を沢山して。

 無事「エアコンよりもやいちが好きぃ♡」という言葉まで頂戴した後……。

 

 

「……いい天気ね、八一」

「うん、そうだね」

 

 確かに良く晴れたいい天気だ。

 まぁ、もはや天気とかよく分からないぐらいに真っ暗なんだけどさ。

 

 あれからたっぷりとイチャついて……夜。俺と銀子ちゃんは買い物に出掛けていた。

 マンションの近くにあるコンビニまで。銀子ちゃんが食べたいと言い出したアイスを買いに。

 

「ほら、風も気持ちいい……」

「確かにね。これぐらいの時間になったら涼しくなってきて気持ちいいね」

「あ、なんかいい匂いがする。なんの香りだろ?」

「これは……カレーかな? よその家の晩飯の香りって妙に美味しそうに感じるよね」

「ちょっと遠かったけど……でも、やっぱり来てよかったね」

「そうだね……って、それは待った。すぐそこのコンビニまでだし遠くはないでしょ」

 

 恋人らしい会話を交わしながら、恋人らしくその手を繋いで。

 どちらのものか、重ね合った手のひらからは少し汗ばんだ感触がするけど……まぁ、それ以上に散々イチャついた後ではお互い気にはしない。

 

「……でも、珍しいね。銀子ちゃんがこうして買い物に付いてくるなんて」

「そう?」

「うん。家で待っていても良かったんだよ? アイスぐらい俺が買ってきてあげたのに」

「……まぁ、そうね。いつものように八一をパシらせても良かったんだけど……」

 

 パシらせるのは当然の事のように言いながら、銀子ちゃんはふぅ、と息を吐いて。

 

「……したかったんでしょ、おでかけデート」

 

 えっ?

「……あ、これってそういう事?」

「そーいう事。ちゃんとした埋め合わせは今度するつもりだけど……ひとまず、ね」

 

 なるほど。おでかけデートとは恋人同士がおでかけしてデートをする事を言う。

 だとしたらまぁ確かにこれも一応、おでかけデートっちゃおでかけデート……かな? 

 但しとっくに日も落ちちゃってるし、目的地はすぐそこのコンビニまでだけど。

 

「そっか、おでかけデートか。確かに今日はそういう予定だったもんね」

「そうね。……はぁ、最初からこうしていればあんな事をせずに済んだのに……」

「……ハハハ」

「なにその笑い。ムカつくんだけど」

 

 そんな話をしながら歩いていると……お、目的地であるコンビニが見えてきた。

 なんとも短いおでかけデートだったなぁ……とか思っていたら、

 

「……ねぇ八一。私、段重ねになってるアイスが食べたい」

 

 唐突に銀子ちゃんがそんな事を言い出して。 

 

「え。食べたいアイスってそのアイスなの?」

「うん。コーンの上に丸いアイスが重なってるアレが食べたい」

「でもそれってコンビニには売ってないんじゃないかな? ソフトクリームなら見た事あるような気がするけど……」

「やだ。段重ねのがいい。三段にしたアイスが食べたい気分なの」

「って言われてもなぁ……」

 

 段重ねのアイスはコンビニじゃなく、専用のアイス屋さんとかじゃないと売っていないだろう。

 さーて困ったぞ。こうなった銀子ちゃんを納得させるのは結構大変な仕事なのだ。

 ここはなんとかハー○ンダッツとかで満足してくれないものか……って、あ……これはまさか。

 

「……じゃあ、もう少し歩こうか。駅前まで行けば売り場があったと思うけど」

 

 その意図を読み切った俺がそう尋ねてみると、

 

「……うん、そうする」

 

 正解だと言うかのように、銀子ちゃんが満足そうな顔でこくりと頷く。 

 

 という事で。

 三段重ねのアイスを見つけに、俺達はもう少しだけおでかけデートを続行する事にした。

 

 

 





Twitter上の企画の一環として書き上げたものです。
テーマは「おでかけデート」でした。
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