銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)   作:銀推し

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おまけの話 JS銀子のその後③

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 気だるい。

 疲れた。身体が重い。

 

「…………はぁぁ」

 

 肩を落として、大きな溜め息。

 全身に残る倦怠感が晴れない。嫌になる程の重苦しさが胸の内にずっと渦巻いている。

 

 あれから、一ヶ月。

 女流棋界最高峰のタイトル、女王の冠を獲得してから早一月後。

 栄えあるタイトルを獲得した事によって、私のスケジュールは一気に忙しくなった。

 

 それは例えば記者会見とか。

 他にも大阪府知事への表敬訪問とか。

 雑誌の取材とか、テレビ出演とか。とかとか。

 

 そういった予定が、将棋盤と向き合わない予定が一気に増えて私の日常を圧迫していく。

 これまでは小学校と将棋会館を往復するだけだった私の日常に、タイトルを獲ってからは色々な場所に呼び出される機会が激増した。

 

 公の場に立つ責任あるお仕事。それはタイトルホルダーの責務の一つなのだろう。

 だからやらなくちゃいけない。私は自らにそう言い聞かせて全ての予定をこなしてきた。

 

 ……けれど。それでも、やっぱり疲労が溜まっていくのはどうしようもない。

 毎日毎日本当に忙しくて疲れるし、どの仕事もあんまり楽しくないから心も踊らない。一人きりでの予定ばっかで気分も沈んでいく。

 

 それが今の私の日常、女王のタイトルを獲得してから変わった今の日常だ。

 だから今の私は気だるくて、疲れていて、身体が重くて倦怠感が晴れないってわけ。

 これは仕方のない事だ。タイトルホルダーになった以上どうしようもない事なんだけど……あるいはそうやって受け入れるしかないからこそ、心の内に溜まっていくばかりなのかもしれない。

 

 

 ……そして。

 今はそれ以上に……それよりも大きな問題が私の心を縦横無尽に荒らしている。

 日常の忙しさもそうなんだけど、それ以上に重くのしかかる──この現実が。

 

 

 

「姉弟子、おはようございます」

 

 朝。私が目を覚ますと、まず耳にするのは八一のそんなセリフだ。

 

「…………ん」

 

 それに返すのは無愛想な返事一つ。

 私は基本的に朝が弱くて、起きてすぐは頭の中がぼんやりしてるから八一の相手をするのが億劫だってのもあるんだけど……でも、これはそれだけが理由じゃない。

 

 八一から「姉弟子、おはようございます」と言われる度、胸の奥がきゅってなる。

 一ヶ月前には「銀子ちゃん、おはよ」って言ってくれていたはずなのに……今は、もう。

 よりにもよって朝っぱらから毎日不快な気分にさせてくれる。まったくふざけた弟弟子だ。

 

 

「姉弟子、行きましょう」

「ん」

 

 その後、一緒に家を出て学校に登校する。

 小学生の私が向かうのは小学校で、中学生の八一は向かうのは中学校だ。

 だから私達は途中で通学路が別々になるので、その途中までは毎日一緒に登校している。

 

 ……けれど、今は。

 一ヶ月前までとは違って、今ではもう私達は手を繋いでいない。

 八一も。私も。これまでは繋いでいた手を自然と離して、それが普通のように歩いていた。

 

 この手は繋いでいなきゃ駄目だって。そうじゃないと破門だって。

 私達は子供の頃に師匠からそう言われたはずなんだけど……でも、こうしてその手を離した。

 

 まぁ、ね。もうそんな子供じみた言い付けを気にするような年齢ではないって事はある。

 だから手を離して歩く私と八一を見ても師匠は何も言ってはこない。これが原因で破門にされるなんて事はもうないだろう。

 

 でも……破門にならないのならいいのかって言えばそうじゃなくて。

 これまでずっと繋いでいた手を離した。そういう目に見えた分かりやすい変化は、私と八一との関係性が大きく変わったって事を如実に伝えてきて。

 私は、これを……この変化を、受け入れなきゃならないんだろうか。

 

 

「姉弟子、対局しませんか?」

「……いいけど」

 

 学校から帰宅すると八一から対局に誘われた。私は頷いて将棋盤の前に座る。

 こういう流れはこれまで通りというか、別に私は避けられたりしている訳ではないんだけど。

 ある意味これが普通なんだろうけど……でも。

 

「………………」

「………………」

 

 対局中は一言も喋らない。

 それは別におかしな事じゃないけど。でも……やっぱり今の空気は前までとは違う。

 

 前までの対局は、もっと。

 八一と一緒に打つ将棋は、もっと──

 

 

「……姉弟子、もう一局いきましょうか」

「……ん」

 

 ……八一は八一で切り替えが早いというか、図太いというか、なんと言うか。

 一月前までは当たり前のように「銀子ちゃん」って呼んでいた私の事を、こいつは今どんな心境で「姉弟子」って呼んでいるんだろう。

 八一は八一で思う事があったりするのか……それとも案外なんとも思ってはいないのか。

 

 私は八一から「姉弟子」って言われる度、どう返せばいいのか分からなくなる。

 姉弟子らしく振る舞う事を意識してしまって、結果八一への当たりがキツくなってしまう。

 

「………………」

「……あの、姉弟子」

「……なに?」

「……いえ、なんでもない、です」

 

 言葉を交わしても、視線までは交わらない。

 八一は何かを言い掛けたが、私の反応を見て諦めたように視線を戻す。

 

 私と八一は姉弟だ。お互いに小さい頃からこの部屋でずっと一緒に育ってきた。

 それなのにどうしてこんなにも会話がぎこちなくなるんだろう。どうしてこんなにもよそよそしい雰囲気になっちゃうんだろうか。

 

 

「姉弟子、電気消しますよ?」

「………………」

 

 夜。すでに二段ベッドの中に入っている私は返事をしない。

 気にせず八一が照明のスイッチを押して、部屋の中が暗闇に包まれる。

 

「…………はぁ」

 

 溜め息が漏れる。疲れた。今日も一日疲れた。

 今日は小学校に行って帰ってきただけだけど、それでも私は十分に疲れた。

 今の八一と一緒にいるのは落ち着かない。ずっと気が晴れない。つまらない。

 

 こういう時はとっとと眠るに限る。だから私はすぐに瞼を閉じた。

 すると……脳裏に思い出されるのは、ついこないだ見た不思議な夢の記憶。

 

 全部、JK銀子達の言っていた通りだった。

 八一が素っ気無くなって、それに釣られるように私の態度も素っ気無くなって。

 そうならないようにとJK達から忠告を受けていたけど、私はそれを活かす事が出来なかった。

 

 この先もJK銀子の言う通りになるのかな。

 私と八一はこんな感じなままで、こんなのが、あと5年近くも続くのかな。

 だったら私も変わらないといけないのかな。これに慣れないといけないのかな。

 そんな事を考えたら……。

 

「……ぅ」

 

 また胸の奥がきゅっと痛くなって、目尻がじわりと濡れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 ふと、気付く。

 すると私はいつの間にか、見知らぬ部屋の見知らぬ玄関口に立っていた。

 

「……ってちょっと、これって」

 

 これ、この前の流れと全く同じじゃないの。

 この見覚えがある玄関口も、同じく見覚えのよくある廊下も、その先の光景も。

 ここがあの場所だって事を示している。あのワンルームマンションの801号室だって事を。

 

「まさかまたこの夢なの? なんだか最近頻度が増してきてない?」

 

 急な展開に思わずぼやきを入れる私。

 この夢はつい先日、私が女王のタイトルを獲得した日の夜に見たばっかしだ。

 まぁ夢の内容なんてのは偶然の産物、誰が何を決めているってわけじゃないんだろうけどさぁ。

 けれど……それでもどうしてか恣意的なものを感じてしまうのは私だけだろうか。

 

「まったく、今回はなんの用事なんだか……」

 

 言いながら私は玄関を上がって。

 もはや慣れた感じで廊下のドアを開けると、そこには──

 

「……来たわね」

「うん。来たけど」

 

 ほーら、やっぱり居た。

 背丈が大きくなって白いセーラー服を着た私、高校生のJK銀子がそこに居て。

 

「久し振りね、JS」

「じぇーえす、ひさしぶり」

「JCと幼女も……本当に前回と全く同じね」

 

 そして勿論JC銀子と幼女銀子も。

 もはやお決まりのような流れ、年齢違いの三人の私がまたまた勢揃いしていた。

 

「それで? 今回は一体なんの用なの?」

「なんの用じゃないわよ、JS」

 

 私が軽い調子で尋ねてみると、JKは険しい表情と重々しい声を返してきた。

 そして、ごごごごご……! と、そんな感じの効果音が鳴りそうな仁王立ちのポーズ。

 この様子を見る限り、どうやらJK銀子は今すこぶる機嫌が悪いようだ。一体なぜ。

 

「あんたねぇ、この前私達が教えてあげた事を聞いてなかったの? あれほど忠告してあげたのに結局八一とギクシャクしてんじゃないのよ」

「っ、……まさか、今回はそれが目的?」

「その通り。今回はあんたに文句とダメ出しを言いに来たのよ」

 

 来なくていい。マジで来なくていいから。

 ダメ出しなんていらないから帰って欲しい。ほんとに心の底からお帰り願いたい。

 

「……ていうかさ、どうしてJK達がそんな事を知っているわけ?」

「そんな事って?」

「だから……あのあと、私と八一が、その、あんまし上手くいってないって……」

「そりゃ知ってるわよ。ついさっきまでここでJC達と一緒に全部見てたからね」

 

 見てたってなんだ。見てたって。

 

「JSがあまりにもぐじぐじうだうだしてるから、仕方なくもう一度集まってあげたのよ。今回は誰もタイトルも獲ってないし、本来ならこの場所には来ちゃいけないはずなんだからね」

 

 じゃあなんで来てるんだ。

 相変わらずJKの言葉は意味不明だ。私は早くも頭が痛くなってきた。

 

「てかそんな事はどうでもいいの」

「どうでもよくはないと思うけど」

「どうでもいいのよ。……そんな事よりも問題はあんたの事よ。JS」

 

 そしてJK銀子は改めて私を見た。

 まるで呆れ果てたかのような、あるいはダメな子を見るかのような表情で。

 

「あれだけ念入りに忠告したってのに、結局は同じ過ちを犯しちゃってるんだから」

「……う」

 

 詰るような、咎めるような目付きから逃げるように私は顔を横に背ける。

 私が今体験している事、JK達と同じ過ち。それを回避するようにとJK達からあれこれ忠告を受けていたけど……私にはその忠告を役立てる事が出来なかった。

 

「ねぇJS、あんたこのままでいいわけ?」

「いいも何も、私は……」

「言った通り、八一との関係が悪化して辛い思いをしてるんでしょ?」

「……別に、辛くなんて……」

「それがこれから5年近くも、高校一年の夏頃まで続くかもしれないけど、それでいいわけ?」

「っ……!」

 

 思わず息を飲み込む。

 言い返そうにも言い返せなくって……私は小さく頭を振った。

 

 今の日常が続く。一気に遠くなった八一との距離感があと5年近くも続く。

 そんなの……そんなの、絶対にいや。

 そんなの……もう地獄だ。

 

「JS。女王を獲った次の日から八一が素っ気無くなるって、そう教えといたわよね?」

「そりゃあ聞いてたけど……」

「その時に大事なのはあんたの対応だって、そうも教えといたわよね? 八一の態度に合わせてあんたの方まで素っ気なくなっちゃ駄目だって、そう忠告しといたわよね?」

「……そ、そうだけどぉ……!」

 

 確かに忠告はされてた。

 されてたけど……でも、だって……だってっ!

 だってあれは八一が悪い! 八一の態度がムカつくから、ムカつく八一が悪いんだもんっ!

 

「JS。素直になるのが大事だって、そう言わなかったっけ?」

「だ、だって、八一が……!」

「それに『姉弟子』って呼ばせるのも良くないから止めさせろとも言ったわよね?」

「それは止めろって言ったもん! けれど八一のバカが言っても聞かなくて……!」

「そこが甘いっての。言っても聞かないならぶん殴ってでも言う事聞かせるのよ。そうしないで逃げ出した時点であんたの負けね」

「む、む、むぅぅ~~……!」

 

 た、確かに逃げ出したけどぉ……!

 あの時、朝食の場で先に席を立ったのは私の方だけど……けど、だってぇ……!!

 

「八一の事が好きだって、そう伝えちゃうのが一番手っ取り早い方法だとも教えたはずだけど」

「そっ、……それは無理。だって、私はもう八一の事なんて好きじゃないから」

「JS……そういうのはいらないって、そうとも教えてあげたわよね?」

「……うぅ」

 

 私は八一の事なんて好きじゃない。

 本当にそうだったら……八一から素っ気無くされてもあんなに気分が重くはならないはずで。

 そうやって自分の心を偽るのは良くないって、JK銀子はそう言いたいのだろう。

 

 それは分かってるんだけど……でも。

 

「JSまで地獄を見ないように、せっかく私達が気を利かせてあげたってのに……ねぇJC?」

「ほんとにね。小学生の私がこんなにも愚かだとは思わなかったわ」

「な、なによ……私が悪いっての?」

「それ以外になにがあるのよ。私達が忠告してあげた事を何一つ活かせてないんだから。このバカ、バカ小学生、バカ銀子」

「っ、な、なによぉ!」

 

 あぁもう! なんか自分自身から罵倒されるとすっごいムカつくっ!

 頭がカッとなった私が食って掛かるように言い返そうとした、その時。

 

「ううん。ちがう」

「え……」

 

 そこで声を上げたのは幼女銀子だ。

 私達の言い合いをただ傍観していた幼女は、唐突にてくてくと私の方に近付いてきた。

 

「ん」

 

 そして、手をパーにして前に出す。

 

「な、なに?」

「しゃがんで」

 

 ……え? しゃがむの? 私が?

 

「じぇーえす、しゃがんで」

「……はぁ」

 

 言われるがまま、私は腰を落として幼女と視線の高さを合わせる。

 すると幼女の手が、小さな小さな手のひらが私の頭の上にぽんと乗せらせた。

 

「じぇーえすは悪くない」

「あ……」

「よしよし」

「ちょ、幼女……」

 

 そして頭をなでなで。

 ちっちゃな手が私の頭を撫でる。

 

「じぇーえすは悪くないよ。よしよし」

 

 じぇーえすは悪くない。幼女の呟く言葉がが私の荒んだ心を癒やしてくれる。

 あぁ……幼女優しい。大きくなって薄汚れてしまったJK銀子達とは違って、子供の頃の私はこんなにも優しさに溢れていたんだ。

 けれど……幼女に慰められるというのは。小学6年生11歳の私が、4歳の幼女に気を遣われちゃってるってのはどうなんだろう。

 

「じぇーけー、じぇーしーも、あんまりじぇーえすをいじめちゃだめ」

「別にいじめてるわけじゃないわよ。ただその小学生があまりにもおバカだから……」

「ううん、ちがう」

 

 そこで幼女銀子は首を大きく左右に振って。

 

「じぇーえすはわるくない。悪いのはやいち」

「そ、そうっ! そうだもん!! 今幼女が凄く良いこと言ったっ!」

 

 その言葉に便乗して私は声を荒げた。

 そうだ。今の幼女の言葉こそが正しい。私は立ち上がってJKとJCを睨み返す。

 

「私は悪くない! 悪いのは全部八一の方なんだから!!」

 

 そう、私は悪くない。私は断じて悪くない。

 悪いのは八一だ。あのバカが、あのバカ八一が馬鹿すぎるからこんな事になっちゃったんだ。

 

「わたしは悪くないもん……! だって、だって八一のやつが、突然あんな……!」

「JS……」

「あいつが悪いんだもんっ! あいつがいきなり、人が変わったように他人行儀になったり、姉弟子とかって呼んできたり……あいつが、あいつが意地悪してくるんだもん……!」

「ちょ、ちょっとJS……泣くんじゃないの」

「泣いてないっ!」

 

 言いながら私は目元をごしごしと拭う。

 別に泣いてなんかないっ、ただちょっと……目元が熱くなってきただけだもん。

 

「けれど……そうね」

 

 すると涙混じりの訴えが響いたのか、JC銀子が口を開く。

 

「幼女やJSが言う事も確かなのよね。JSに悪い点が全く無かったとまでは言わないけど……」

 

 そう言ってJCが隣に視線を向けると、JK銀子も「……はぁ」と息を吐いて。

 

「……まぁね。確かに……どっちがって言うなら悪いのは断然八一の方よね」

「でしょ!? そうでしょう!?」

 

 そうだ。今回の問題は私が悪いんじゃない。だって私はなにも変わってない。

 ただ女王のタイトルを獲っただけで、私のスタンスはあくまでこれまで通りなはずだ。

 変わったのは私じゃなくて八一の方だ。あいつが急に敬語を使いだしたり、姉弟子と呼ぶようになったり、私から一定の距離と取ろうとするからこんな事になったんだ。

 変わっちゃったのは八一の方。だから悪いのだって……八一の方なんだから。

 

「正直、あの時の八一の変わりようは今思い出しても頭にくるレベルよね」

「同歩。あれは完全にケンカ売ってたわよね。なのに当時の私ったら八一から敬語を使われたり、姉弟子って呼ばれるのにちょっと気分が良くなっちゃってたのが更にムカつく」

「それ分かる。ホントにあいつは私を苛立たせるのが得意っていうか、なんていうか……」

「いっそJSには八一相手に素直になれとかそんな優しい事を言わないで、出会い頭にグーパンかましてボコボコにしてやりなさいって教えといたほうが良かったかもね」

「確かにそっちが正解だったわね。八一に対して甘い態度を取ったのが失敗だったか……」

 

 ……な、なんかJKとJCが盛り上がってる。

 よっぽど八一への恨み辛みが溜まっているのだろうか。二人共目付きが怖い。

 

 まぁなにはともあれ。私だけが悪いわけじゃないってJK達も納得してくれたようだ。

 そもそも私達は同じ空銀子なんだし、思考の果てが行き着く先は同じなんだろうけど。

 

「でもJK、だとしてもどうする? こうなるとJS相手にアドバイスを追加したところで……」

「そう、ね。問題の大元は別、このままじゃ埒が明かないってのも事実……か」

 

 JKは私を見ながら噛みしめるように呟いて。

 

「……仕方ないわね。ちょっと待ってなさい」

「え……JK?」

 

 そのままJKは私達に背を向けた。

 そしてすたすたと廊下を歩いて、玄関ドアを開いてこの部屋から出ていった。

 

「……ねぇJC。JKは何処に行ったの?」

「さぁ……?」

「こんびにかな?」

「えぇ? このタイミングで突然コンビニ行く?」

 

 展開に付いていけない私とJCと幼女が顔を合わせながら首を傾げる事、数分。

 

 

「……あ、帰ってきた」

 

 再び玄関ドアを開く音が聞こえて。

 

「ほら、とっとと来なさいよ」

 

 次いで聞こえたのは。

 JKの声と……もう一つ。

 

「い、痛い、ちょ、痛いって銀子ちゃん……!」

 

 って、あ……あの声は──!

 それを聞いた途端、私の全身が表現しようのない熱っぽさに包まれた。

 懐かしさを覚えるその声は……私が知っているのより数年間成長したあのバカの声。

 

「お待たせ。元凶を連れて来たわよ」

「元凶ってなにが……って──んん?」

 

 玄関から歩いてきたのは八一と銀子だった。

 JK銀子に耳を引っ張られながら、大きく成長した18歳の八一が私達の前に現れた。

 

 

 

 


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