銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)   作:銀推し

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※前書きという名のお詫び
本来は本編の次の話を書く予定だったのですが、原作最新巻を読んで色々とメンタルブレイクした結果、今回の更新は特別短編に変わりました。

タイトルの通りバレンタインネタです。
一部に原作最新巻のネタバレがありますのでご注意下さい。
肝心のバレンタインはもうとっくに過ぎていますがそこはご了承下さい。



短編 そんなバレンタイン

 

 

 

「ねぇ銀子ちゃん」

「なに」

「チョコが欲しい」

「チョコ?」

「うん。バレンタインのチョコ」

 

 2月14日。となれば誰もが頭に浮かべるバレンタインデーのチョコレート。

 そんなお決まりのキーワードを出すと銀子ちゃんは「……あぁ」と気だるげに呟いて、

 

「チョコ、ね」

「うん。勿論くれるよね?」

「……さぁ」

「えぇ!? ウソでしょ!?」

 

 さぁ、って何!? 何その反応!? 俺達恋人同士ですよね!? 

 恋人同士だってのにバレンタインデーにチョコ貰えないの!? そんな事ってある!?

 

「……い、いやいや、それは無いよね」

「なにがよ」

「俺には分かる。そっけない事言ったりしても裏では準備してるんでしょ?」

「チョコを? 私が?」

「うん。銀子ちゃんはなんのかんの言ってチョコをくれる子だよね。俺はそう信じてるよ」

 

 空銀子といえば、その外見から冷たくてクールな人間だと勘違いされがちだ……が。

 しかし俺の見解は異なる。この子はクールである以上に乙女、根がとっても乙女なこの子は乙女のイベントは絶対に外さないはずだ。

 ……とそんな読みは見事に冴えていたようで。

 

「……ま、一応考えてはいたけど」

 

 やれやれとばかりに頭を振る銀子ちゃん。

 あぁ良かった。やっぱりちゃんとバレンタインデーを意識してくれてはいたようだ。

 

「でもね。はっきり言って難しいのよね」

「難しいって?」

「チョコを選ぶのが。私、チョコレートの販売メーカーとか詳しくないし……あんたがどんなチョコでもOKだって言うなら簡単なんだけど」

「いやまぁ……別に俺は貰えるならどんなチョコだっていいけど……」

「じゃあパ○の実とかキット○ットでいい?」

「そ、それはさすがに……ちょっと……」

 

 バレンタインデーに愛しの恋人から貰うチョコがパ○の実というのはあまりに切ない。

 どんなチョコだっていいとは言ったものの……せめて、せめてG○DIVAのチョコぐらいは高望みしたってバチは当たらないはずだ。

 

 ……というより、欲を言えば──

 

「なら……手作り、とか」

 

 俺がそう言うと、

 

「あぁん?」

 

 うわ、すっげー不機嫌な声が聞こえた。

 これ程にメンチを切るのが似合う女性は中々居ないと思うよ……じゃなくてっ!

 

「手作り! いいじゃん! やっぱ手作りチョコ欲しいじゃん!!」

 

 ね! ね!? そうだよね!? 

 せっかくのバレンタインデーなんだし恋人からの手作りチョコが欲しくなっちゃうよね!!

 

「手作りなんて……そんなのどうせ店売りのチョコの方が美味しいに決まってるじゃない」

「いやいや銀子ちゃん、こういうのは美味しさの問題じゃないんだよ。銀子ちゃんが俺のために頑張って苦労して手作りでチョコを作ってくれた……っていうその気持ちが嬉しいんだよ」

「なにそれ。市販品のチョコレートには気持ちが籠もらないとでも言いたいワケ?」

「い、いやそうは言わないけど……でもほら、今回のチョコは銀子ちゃんと恋人同士になってから初めて貰えるチョコだしさ。となればそういう気分にもなっちゃうっていうか」

 

 そりゃあね。味で言うなら市販品のものを選べばいいんだろうけどさ。

 というかその方が俺も銀子ちゃんも色々な意味で安心だとは思うんだけどさ。

 てか正直な所、去年までだったら別に市販品のチョコだって十分嬉しかったんだけどさ。

 

 でも今年は……今年は違う。

 去年とは違う、今年だからこそワガママを言ってみたい。

 そりゃあ銀子ちゃんにとっては面倒だろうけど、それでもおねだりをしてみたいのだ。

 

「……手作り、ねぇ」

「うんうん、手作り手作り」

「でもあんたさぁ、そのわりには私が料理を作ってあげようとすると露骨に嫌がるじゃない」

「うぐっ!」

「なのにこんな時だけ手作りチョコが欲しいとか、随分と都合の良い事を言ってくれるわね」

 

 さ、さすがに痛い所を突いてくるね。

 半眼になってジロリと睨みを効かせてくる銀子ちゃん。視線が冷たいっす……。

 

 ……いや、だってさぁ。

 銀子ちゃんって……ほら、料理の腕が少々……あれじゃん?

 そんなこの子がキッチンになんて立ったら……あれがあれになっちゃうじゃん? 

 それで完成した料理なんてのはもう……あれのあれのあれに決まってるじゃん?

 

 ……だが。

 

「……うん、ごめん。都合の良い事を言うようだけど手作りチョコは欲しい」

「堂々と言い切ったわね」

「言い切ったさ。だって欲しいんだもん」

 

 今日この時ばかりは悪びれるつもりは無い。

 俺は銀子ちゃんの手作りチョコが欲しい。恋人からのチョコを望んで何が悪いってんだ。

 

「……はぁ、手作りチョコか……」

 

 すると強情な俺に見かねたのか、銀子ちゃんは面倒くさそうに嘆息する。

 根がとっても乙女な銀子ちゃん。この子の心に『彼氏に手作りチョコを作ってあげたい欲』がある事ぐらい俺にはお見通しだ。だからここまでの展開だってお見通しなんだよね。

 

 ……特に、今年は。

 

「あれって確かお店で売ってるチョコを一旦溶かして、それで型にはめて冷やすんだっけ?」

「そうそう。溶かして固めるだけなんだからさすがの銀子ちゃんにだって出来るって」

「さすがの私にだってとはなんだ貴様」

「ごめんなさい調子乗りました」

「……全く」

 

 口を滑らせた俺を見ながら呆れ顔になって。 

 そして、囁くように言う。

 

「……先に言っとくけど、自信無いわよ。手作りチョコレートなんて」

 

 だろうね。

 けど、それでもいいんだ。

 

「失敗しちゃうかも」

「失敗したっていいよ」

「砂糖と塩を間違えるかも」

「それでもいいよ。食べられさえすれば」

「……間違えて賞味期限切れのチョコを使っちゃうかも」

「そっ、……いや、うん、いいよ。ちょっとお腹壊すぐらいなら平気だから」

 

 こうなったらどんとこいだ。たかだが腹痛程度で退がる俺ではない。

 最悪食中毒で入院するかもしれないけど……まぁ、それでも死にはしないだろう、たぶん。

 

「……そんなにチョコが欲しいの?」

「うん、欲しい」

 

 真っ直ぐに、真っ向から頷きを返す。

 たとえチョコとは呼べない代物だったとしても、それでも俺はこの子のチョコが欲しい。

 

「……そっか」

 

 だがそんな気持ちを伝えても、銀子ちゃんの表情には笑みがなくて。

 かといって照れたり恥じらったりしている訳でもなくて……その憂いを帯びた表情は。

 

「……でも」

「え?」

「そもそもあんた、チョコなんて私以外の女から沢山貰ったんじゃないの?」

 

 ──おいおい、そこに触れるか。

 わざわざ自分からそこに触れてくるとは……やっぱりこの子は。

 

「──うん。そうだね、貰った」

 

 だから俺はそう答えた。

 隠そうかとも一瞬考えたけど……でも今更な話だと思ったから。

 

「可愛い弟子達は勿論の事、綾乃ちゃんからも貰っちゃった。他にも桂香さん、月夜見坂さんや供御飯さん、あぁそうそう、飛鳥ちゃんからも貰っちゃってさ。後は──」

 

 次々と女性の名前を上げて、バレンタインデーにおける戦果を発表していく俺。

 

「……ふーん」

 

 けれども銀子ちゃんは怒らない。

 恋人の隣で他の女性から貰ったチョコの話を自慢げにする俺に対して怒ることもなく、それどころか自らその話題を広げてきたりして。

 

「それってどれも義理チョコ? それとも本命チョコがあったり?」

「どうだろ。もしかしたら本命チョコも一つ二つぐらいはあったかもね」

「へぇ……私以外の女から貰ったチョコは美味しかったかしら?」

「うん。どのチョコも美味しかったよ」

 

 にしても俺、我ながらおっそろしいセリフをべらべらと喋ってるよね。

 こんなのいつ断罪の刃が頭上に振り下ろされたっておかしくない……と思うんだけど。

 

「……そっか」

 

 でも銀子ちゃんは。

 怒るどころか切なげな笑みすら浮かべて。

 

「──なら、良かった」

 

 ……あぁ、もう。本当にこの子は。 

 

「……銀子ちゃん」

 

 これ以上見てられなくて……俺は愛しい恋人をぎゅっと抱きしめた。

 

「銀子ちゃん」

「なに?」

「俺さ、銀子ちゃん以外の女の子からチョコを貰ったんだよ」

「それは聞いたけど」

「んでそれを美味しくいただいたわけ。全部ぺろりと平らげたわけ」

「だから?」

「怒んないの?」

 

 そう尋ねずにはいられない。

 傷口に触れているのは分かってるけど、下手に放置して化膿するよりは良いはずだ。

 

「怒らないけど」

「……怒っていいのに」

「……怒れないよ」

 

 むしろ怒って欲しい。

 そんな気持ちで呟いた俺の言葉に、銀子ちゃんは小さく首を振って答える。

 

「……そっか」

「うん」

 

 やっぱり……そう簡単には消化出来ないか。銀子ちゃんらしいと言えばらしいけど。

 ここで俺をぶん殴るくらいで解消出来るなら。それならいくらだって殴られてあげるんだけど……中々そうもいかないみたいだ。

 

「……でもさ。やっぱりちょっと違うなぁとは思ったよ」

「違う?」

「貰っといて本当に失礼な話だけどね。でも……貰う側としての本命っていうかさ」

 

 とはいえ。俺だってむやみやたらと傷口を突きたいわけじゃない。

 ここからはもっと前向きに。これからはもっと明るい話をしたいんだから。

 

 なんたって、今年は──

 

「俺は……俺は、銀子ちゃんからのチョコが一番欲しかったんだからね」

「……ほんとに?」

「本当に。もちろん今だってそうだよ?」

「……そっか」

「うん。だって……去年は貰えなかったからさ」

 

 ──そう。今年のチョコは二年分だ。

 去年のバレンタインの日には……銀子ちゃんは俺のそばにはいられなかったから。

 

「だから……欲しい」

 

 この子の作るチョコを。

 銀子ちゃんの愛情が欲しい。今は何よりもそれが欲しい。

 

「……八一」

「なに?」

「ごめんね。去年のチョコ、あげられなくて」

「それはいいって何度も言ってるじゃん。お願いだから謝らないでよ」

「……うん」

 

 去年の2月14日。俺と銀子ちゃんが付き合い始めて最初のバレンタインデー。

 その時この子は体調不良で長期入院をしていた。当時は俺との連絡手段を完全に断っていて……だから去年はチョコを貰うどころか会うことすらも出来なかった。

 

 その選択は正しかった。その事は今ここにいる銀子ちゃんが証明している。

 けれどもその選択によって、暫くの期間俺達が一緒にいられなかったのもまた事実で。付き合い始めて最初のバレンタインデーを幸せな思い出には出来なくて。

 その事を未だに後悔してる。だから銀子ちゃんはこんなにもしおらしくなっちゃってる。

 

「銀子ちゃん」

「………………」

「……ぎーんこちゃーん」

 

 これ以上しおらしい銀子ちゃんを見ていたいとは思わない。

 困った俺は銀子ちゃんをハグしたまま、その頭の上で顎をぐりぐり。ぐーりぐーり。

 

「……痛い。なに?」

「もう済んだ事なんだしいい加減気にするのは止めなって。気分が滅入るだけだよ?」

「それは分かってるんだけど……でも、バレンタインみたいな特別な日は……どうしても去年の事を思い出しちゃって……」

 

 去年の事を思い出す……か。

 ……まぁ、気持ちはよく分かるけどさ。俺だって当時は凄くすごーく寂しかったし。

 さっき言った通り、幸いにも他の人達からいくつかチョコを貰えたおかげで気分を持ち直す事は出来たんだけど……それでも埋めようのない空白を感じていたのは事実だ。

 

 しかしそれはもう一年も前の話。だから俺としてはもうとっくに消化済みの話だ。

 そりゃ当時こそ落ち込んだものの、その後全ての事情を聞いたらすとんと腑に落ちたというか、俺としては怒るべくも無い話だと理解したから。

 だからこそ、銀子ちゃんにはこれ以上無用な負い目を感じて欲しくはないんだけど……そう簡単にはいかない話なのか。傷が癒えるのにはまだまだ掛かるかもしれない。

 

「でもさ、この分だと来年まで引き摺るかもよ?」

 

 俺は一旦身体を離して、銀子ちゃんの顔をよく見ながら言う。

 

「……そうかな」

「そうだよ。いいやそれどころか再来年、更にその先までずーっと引き摺るかもね」

「………………」

「毎年毎年バレンタインデーの度にこうやって暗いテンションになるの、さすがにヤじゃない?」

「……そうね。さすがにそれはイヤ」

 

 銀子ちゃんは苦笑するように笑う。

 そうそう、せっかくのバレンタインデーなんだしもっと笑顔を見せて欲しい。

 あの時の苦しさはもう終わった事なんだから、早く吹っ切ってくれていいんだ。

 それに……なにも全てが悪かった事ばかりではないんだから。

 

「分かったわよ。じゃあ作ればいいんでしょ、チョコレート」

「お、その気になってくれた?」

「まぁね。じゃないとあんたがしつこそうだし。それに……」

「それに?」

「……本当の事を言うとね、最初からそうしようかなって決めてたから」

 

 少し恥ずかしそうに口にした、その言葉とか。

 去年の今頃はそりゃもうキツい時期だったけど……でも、良かった事だってある。

 それは勿論今こうしていられる事。元気になった銀子ちゃんから、今年のバレンタインチョコを貰えるってのが一番嬉しい事なんだけど。

 

 ……でも、それだけじゃなくて。

 

「八一」

「ん?」

「……あの」

「なに?」

「……遅くなったけど、去年の分、あげる」

 

 もじもじしている銀子ちゃん。どうやら去年の分をくれるようだ。

 あぁ可愛い。これも良かった事の一つかな。銀子ちゃんはより一層可愛くなったよね。

 

「いいの?」

「……いいけど」

 

 特に……すっと一歩分、自分から歩を進めて距離を寄せてきた銀子ちゃんの、これを。

 この変化を怪我の功名と言っては怒られちゃうかもしれないけど。

 

「……八一。好き」

「うん。俺も」

「好き。……大好き」

 

 するりと俺の首に回される腕。

 あの頃よりも、銀子ちゃんはちょっとだけ自分の気持ちに素直になったようで。

 

「……んっ」

 

 そうして去年の分を、チョコレートよりもとびきり甘いやつを貰った。

 

 

 

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