銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)   作:銀推し

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おまけの話 JS銀子のその後④

 

 

 

 

 

「ほら、とっとと来なさいよ」

「い、痛い、ちょ、痛いって銀子ちゃん……!」

 

 JK銀子に耳を引っ張られて連行されて来た男。

 

「お待たせ。元凶を連れて来たわよ」

「元凶ってなにが……って──んん?」

 

 その声は、その姿は紛れもなく──

 

「あ……!」

 

 ──八一だ、八一だっ!

 あの時あの夢の中で出会った八一が、成長して18歳になった八一とまた会えたっ!

 

 とそんな感じで、望外の驚きと喜びに私が声を上げるよりも先に。

 

「ああっ!! ああああっ!!!」

 

 その数倍もの驚きと声のボリュームで。

 リビングに勢揃いする私達を見た八一は、驚愕に目を見開きながら、叫んだ。

 

「ああああああっ! ああああ会いたかったよぉようじょぎんこちゃーーーんっっっ!!!」

 

 そしてすぐさま低空ダイブ。ぴょーんといった感じで対象に飛び付いた。

 真っ先に。幼女銀子に向かって。

 

「むぎゅ」

「幼女銀子ちゃんだ! 幼女銀子ちゃんだぁ!! 幼女銀子ちゃんだーーー!!!」

 

 両腕でガシッと幼女をホールドしながら、感涙せんばかりに感激する八一。

 そして「わーいわーいっ!」と喜びの声を上げながら地面をころころ転がり回る、その姿を見ていたら、なんか……なんか。

 先程私の胸に湧いた感情が……この八一に会えた喜びがどんどんと薄れていく……ような。

 

「やいち、ひさしぶりだね」

「ほんとに久し振りだねぇ幼女銀子ちゃんっ! こうして君とまた会える日が来るなんて!! ああ嬉しい嬉しい!! 超嬉しいっ!!」

「そんなにうれしいの?」

「そりゃ嬉しいよ! 皆とは突然お別れになっちゃったから俺もう寂しくて寂しくて……! 幼女銀子ちゃんは大丈夫だった? 俺がいない間元気にしてた!? いい子にしてた!?」

「うん。してたよ」

「そーかそーかぁ!! よーしよし銀子ちゃんはいい子だねぇ可愛いねぇ可愛いねぇ!!」

「むぅ、やいち、ちょっとくるしい。はなせ」

「やだーっ!! はなさなーい!!」

 

 会えなかった時間を埋めるかのように、八一は幼女との濃い目のスキンシップに没頭する。

 頭をなでなでしたり、ほっぺをむにむにしたり、全身で包み込むかのようにぎゅーしたり。こうして再会出来たのがよっぽど嬉しかったのか、八一はこれ以上無いぐらいに幼女銀子を愛おしんでいて。

 その光景を微笑ましく感じるか、あるいは別の何かを感じるかは人それぞれだろう。

 

「……チッ」

「いてっ」

 

 生憎と私は後者だった。

 その姿にイラッと来た私は思わず八一の背中に蹴りを入れた。

 

「八一、私も居るんだけど」

「はッ! そうだった!! 幼女銀子ちゃんとまた出会えた感動でつい我を忘れちゃってた!」

 

 八一は幼女から手を離して起き上がる。

 そして相変わらずの嬉しそうな顔で私を見た。

 

「JS銀子ちゃんも、久し振りだね!!」

「ん……」

「JS銀子ちゃんっ!!」

 

 挨拶もそこそこに、八一は幼女にしていたのと同じように手を伸ばしてくる。

 ぐるっと私の背中まで手を回して、なんの許可も無しに勝手に抱き付いてきた。

 

「あぁ、JS銀子ちゃん……!」

「……むぅ」

 

 ……むー。

 てかさー、なんで私は幼女の次なわけー?

 なんかムカつくー。せっかく18歳の八一と会えたのに嬉しさが半減するっていうかー。

 

 ……とか思ってたんだけど。

 

「あぁああ……本物のJS銀子ちゃんだぁ……ほんとうに会いたかったよぉ……」

「八一……」

 

 けれど八一の感極まった声を聞いていたら、ムカッとしていた気持ちはすぐに消えちゃって。

 仕方ないので私も八一の背中に手を回した。あくまで仕方なくだからね? 仕方なく。

 

「八一、そんなに私と会いたかったの?」

「会いたかったよ。次のタイトル戦がもう待ち遠しくてしょうがなかったんだから」

「……そっか」

「うん。そういえばJS銀子ちゃんはちょっと背が伸びたね?」

「私は6年生になったから。今回はなんでか知らないけど私だけはちょっと成長してるの」

「そうなんだ。まぁでも6年生ならJS銀子ちゃんには違いないって事だよね」

 

 言いながら八一の手が私の頭を優しく撫でる。

 んぅ……き、気持ちいい。それに八一の腕が、八一の温もりが……あぅ、あたたかい。

 だ、だめだ、ドキドキしちゃう。だって八一とこんなに近付くのって久し振りなんだもん。

 にしても全く……18歳の八一はこんなに私の事が好きだってのに、どうしてあいつは……。

 

「あぁJS銀子ちゃん、JS銀子ちゃん……!」

「ちょ、ちょっと、八一……!」

 

 八一が自分の頬を私の頬に押し当ててきた。そしてすりすりと頬ずりしてくる。

 ふわわわわっ! ほっぺとほっぺが! や、八一ったらなんて積極的な……!

 

 ……てな感じで。

 私と八一がイチャイチャしていると。

 

「………………私は?」

 

 ボソッと、それでもしっかり聞こえる程度の声で呟いたのはJC銀子だった。

 どうやら痺れを切らしたらしい。やっぱりどの銀子も考える事は同じなのか。

 

「あ、うん」

 

 すると八一は私から手を離して、JC銀子の方に向き直る。

 

「JC銀子ちゃんも久し振りだね」

「……なんか年齢が上がるにつれて再会のテンションが下がってきてない?」

「そ、そんな事無いよ! JC銀子ちゃんに会えた嬉しさだって他の子達と変わらないって!」

 

 慌てて否定する八一の一方、JC銀子は「……どうかしらね」と拗ねたように呟いて。

 

「……だったら、他の銀子達にしたみたいに私にもするべき事があるんじゃない?」

「え、あ……そうだね、では遠慮なく……」

 

 テンションが下がっているというよりも、JC相手には多少なりとも気兼ねするのだろうか。

 八一はおずおずといった感じで手を伸ばして、JCの事をそっと抱きしめた。

 

「……ん」

 

 JC銀子は身動ぎせずに抱擁を受け入れる。

 さも不機嫌そうに目を瞑っているけど、その表情には隠しきれない嬉しさがにじみ出ている。

 でも、いいのかな……確かJC銀子ってこの前……色々あったような、無かったような。

 すると似たような事を思ったのだろう、その光景を見ていたJK銀子が口を開く。

 

「うわ。JC、あんたそれ浮気よ、浮気」

「浮気じゃないわよっ! これは夢だし、そもそも同一人物なんだからセーフなのっ!」

「そうだよ!! 大体ハグなんて欧米じゃあ挨拶みたいなものだって言うし!!」

「八一、あんたまで便乗するんじゃない。……ほら、感動の再会はもういいでしょ? そろそろ本題に入りたいから二人共離れなさい」

「はーい」

 

 そして、JC銀子から離れた八一は。

 

「ってか本題ってなに? 俺なにも聞いてないんだけど……あ、将棋すんの?」

 

 未だ事情を知らない八一はお気楽に呟く……が。

 

「違う」

 

 そんなお気楽八一の顔を、JK銀子は射抜くような鋭い視線で見つめた。

 

「今日はね、元はと言えばJSにダメ出しと文句を言う為に集まったんだけど」

「ダメ出しと文句? JS銀子ちゃんに?」

「えぇ。でもね、やっぱり問題の大元はあんたに原因があるって事が判明したの」

「え、俺が原因?」

「そうよ。だからこうして連れてきたってわけ。八一……あんたの罪を裁く為にね」

 

 JKは脅すような硬い声色でそう告げた。

 すると八一も「お、俺の罪?」と、それまで浮かれきっていた表情を僅かに強張らせる。

 

 そう。今回はなにも八一とイチャつく為に集まったわけじゃない。

 いやまぁ私は別にそれでもいいんだけど、他の銀子達にとってはそうもいかないようだ。

 特にその罪科の重さを知る人物、JK銀子の迫力はいつにも増して強く、罪深き罪人を必ず追い詰めてやるという気概に満ちていて。

 

「八一。これから裁くあんたの罪……自分自身で思い当たる事はあるかしら」

「……いや、ごめん。全然分かんない」

「ヒント1。あんたがやらかしたのは今からだと4年と半年ちょっと前の事ね」

「4年と半年前? ……えっと、それだけのヒントじゃちょっと……」

「じゃあヒント2。私が初めてタイトルを獲得した時の事よ」

「銀子ちゃんが初めて獲得したタイトルって事は……女王戦の時ってこと?」

 

 最初はピンと来なかったのか、ふむふむと聞いていた八一も、

 

「そ。私が女王のタイトルを獲得して、一晩経った次の日からどうなったか……覚えてる?」

「……ええっと。覚えてるかと聞かれると、覚えてるよーな覚えてないよーな……」

「あの日からあんたは私の事を『姉弟子』って呼ぶようになったんだけど、覚えてない?」

「……う。それ、は……」

 

 次第に顔の角度を下向きに、JKと視線を合わせられないのか徐々に俯き始めて。

 

「それで私相手に敬語で話すようにもなって……あの日から随分とよそよそしくなったわよね」

「……そうだったっけ?」

「そうだった。まぁあんたにとっては記憶にも残らない程度の事だったのかもしれないけど」

「……いや、あの、そういうわけでは……」

 

 だんだんと声のボリュームも下がってきて、なんだか顔色も暗くなってきて。

 

「自然と手も繋がなくなって……そんな関係が今年の7月頃までずっと続いたわよね」

「………………」

「その件に関してが今回の議題ってわけ。あんたがあの時……って、ちょっと八一、聞いてる?」

「……あい。聞いてまぁす……」

 

 最終的に八一は膝を折って腰を下ろして、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

 その姿は己が罪状に苦しむ罪人の姿そのもの。どうやら大いに心当たりがあるみたいだ。

 

「あぁぁあ……マジかぁ、その話かぁ……」

 

 そしてそれは……どうやら八一にとっては触れられたくない部分なのか。

 その声色は重苦しく、その表情は言わずもがな。八一のテンションは一気に下落していた。ついさっき幼女に抱きついて床を転がり回っていたのが嘘のようだ。

 

「まさしくその話よ。私があんたに何を言いたいのか、言われなくても分かるわよね?」

「まぁ、その……はい。あれですか、当時の怒りがぶり返したとかそういう話ですかね」

「そうね、それも込みかも。元々はJSの問題について話すだけのつもりだったけど、色々と昔を思い出して私自身もイラついてんのかもね」

「それについては私も同歩。なんせあの時の八一の態度はほんとにムカつく感じだったし」

「じぇ、JC銀子ちゃんまで……」

 

 小さく蹲る八一の前、ずーんといった感じで圧を放つJK銀子とJC銀子。

 この両名は私が今絶賛体験中の地獄を数年単位で経験してきた猛者達だ。だからこの件について思う事は、その胸の内にある感情は私よりも遥かに重くてドロドロとしたものに違いない。

 

「で、でもさ。ムカつく態度って言ってもさ、ちゃんと敬語は使ってましたよね?」

「だからその敬語がムカつくって言ってんの。幼い頃からずっと一緒に育ってきた相手に突然他人行儀になったりして。なんなの? バカなの? ふざけてんの?」

「ぐぅう……!」

 

 JKの言い分が急所に刺さったのか、八一は心臓の辺りを押さえて苦しそうに呻く。

 

「で、でもさでもさ、あれは俺だけじゃなくて銀子ちゃんの態度もじゃない? 銀子ちゃんだって俺から敬語で話しかけられた時はちょっと気分良さそうにしてたじゃん?」

「はぁ~~!? なに!? 私が悪いっての!? 私達の仲が拗れたのはあんたが唐突に敬語を使いだしたり姉弟子とかって呼び出したり、それまでの態度を急変させたのが一番の原因じゃないのよ! ねぇJC!?」

「そうよそうよ! そりゃあ私も念願のタイトルを獲得してちょっと浮かれてたところはあるけど、でもタイトルを獲得したんだから浮かれるのなんて当然でしょ!? それすらも駄目だったって言いたいわけ!?」

「……いえ。そっすね、確かに俺が悪かったです……サーセンした……」

 

 反論しようと試みるも相手は二人。多勢に無勢では勝ち目など無し。

 JKとJCが繰り出す猛攻を受けて八一はその身をしゅんと小さくするのみ。

 

「あの日を境に手も繋がなくなっちゃって、あれって本当は破門なんだからね、破門」

「……そっすね。破門になってもおかしくないぐらいに俺が悪かったです、はい……」

「大体さぁ、私が女王を獲ったあの時ってあんたは中学2年生でしょ? もう少し中学2年生らしくというか、年上らしく出来なかったわけ?」

「はい……出来なかったです……全部俺が悪いんです……ごめんなさい……」

「いくら気心知れた相手とはいえ、中2の男が小6の女子相手に突然冷たくしたり素っ気無くしたりするのってどうなの? ちょっと陰湿っていうか、ハッキリ言って性格悪いわよ」

「ほんとにもうマジで勘弁して下さい……」

 

 余程堪えたのか、心を折られたようにガックリと頭を下げる八一。

 空銀子が女王のタイトルを獲得して、その日から「姉弟子」と呼んで距離を取った過去。

 己が罪状を見つめ直して、断罪を受け入れて謝罪する八一はぽつぽつと語りだす。

 

「でもさぁ、でも違うんだよ……。あれはね? あれはなにも銀子ちゃんに冷たくしたかったとか意地悪したかったとか、そういうんじゃなくて……」

「なくて?」

「その……当時の俺なりにね? 銀子ちゃんとの正しい距離感を考えた結果っていうか……」

「は? なにそれ、正しい距離感とか知っちゃこっちゃないんだけど。あんたそんな下らない理由で私のことを姉弟子って呼び始めたわけ?」

「いや、これは下らない理由ってわけじゃ──」

「あ?」

「ハイ、ソウデスネ……下らないです……」

 

 JK銀子にギロリと睨まれ、それだけで小動物のように身を縮こまらせる八一。

 そして縮こまったまま「……はぁ~~」と、それはもう大きな溜め息を吐き出した。

 

「下らない理由か……。でも、そっか、そうだよなぁ……こんなん下らない理由だよなぁ……」

 

 当時の八一がそうすべきだと思ったこと。そこには一応それなりの理由はあるのだろう。

 けれどもそれは空銀子からしたら下らないこと。そんなJKの意見には私も同歩だ。

 そして当時の自分とここにいる私達、二つの狭間に立って考えた18歳の八一は最終的に当時の自分ではなく私達の意見を採用したらしい。肩を落とすその表情には深い後悔が滲んでいた。

 

「どう? 八一。自分がどれだけ愚かな事をしたのか分かったかしら?」

「……うん。ほんとにごめんね、銀子ちゃん。当時の俺がバカで考えなしだった」

「その通り。とはいえまぁあんたがバカで考えなしなのは今に始まった事じゃないから、私としては5年近くも前の事に今更文句を言ったりするつもりは無いんだけど……問題はJSよ」

 

 そして、JK銀子が私を見る。

 釣られて八一やJC達も、この場にいる皆の視線が私に向いた。

 

「私達と違ってJSは当事者、今まさにあんたのせいで大変な目にあってるんだから」

「あ、そっか……小6になったJS銀子ちゃんは女王のタイトルを獲得したんだね? そしたら当時の俺が敬語になってよそよそしい態度を取るようになっちゃったと」

「そういう事。中2のあんたが優しくしてあげないからJSは苦しんでいるのよ。夜寝る時なんてベッドの中で毎日泣いてるんだから」

「っ、そうなの?」

「別に泣いてなんかないっ!」

 

 咄嗟に声を張り上げて否定する。JKめ、勝手な事を言うな。

 私は別に泣いてなんかない。ただあのバカに対してどうしようもなくイラつくだけだ。

 ……別に、八一が優しくしてくれないからって……べつに、かまわないもん。

 

「ごめんね……JS銀子ちゃん」

「だから、泣いてないって……」

 

 八一の手が、私の頭を撫でる。

 ……っ、なんか、だめだ。もう、私は別に泣いてなんかないのに。

 優しく撫でてくれる八一の右手が……その感触のせいで、目元がじんわりとしてきちゃう。

 

「ほんとにごめん。当時の俺なりに考えての行動だったんだけど……そのせいで銀子ちゃんを傷付けるって最初から分かってたら……」

「………………」

「ごめんで済んだら警察は要らないのよバカ。……ってJSが言ってるわよ」

「傷付いた私が非行の道に走ったらあんたのせいだからね。……ってJSが言ってるわよ」

「……言ってない」

「せきにんとってきすしなさい。……ってじぇーえすが言ってる」

「言ってないっ!」

 

 幼女! この幼女はなんなの!? 最近キスのことばっか言ってない!?

 というかJKとJCもだけど、勝手に人の気持ちを代弁しないで欲しい。

 

「とにかく。JSは今とても困ってるってわけ。だから八一、あんたも解決策を考えなさい」

「解決策か……それって俺とJK銀子ちゃんみたいに時間が解決してくれるのを待つ……って言うのは駄目だってことだよね?」

「当たり前でしょ。それで良いならわざわざあんたをここに連れてきたりしないわよ」

「だよなぁ……」

 

 うん。そうだ。それはやだ。

 JK銀子達の様子を見てたから時間が解決してくれるってのは私も分かってた。でもそれってあと5年近くもこのままって事でしょ? そんなのやだ、絶対にやだ。

 その方法ならJKと18歳の八一みたいに恋人同士になれるのだとしても。それでも今の八一との距離感をこのまま数年間も継続するなんて……そんなのむり。そんなの寂しくて死ぬ。

 

「だったら当時の俺……ていうか、JS銀子ちゃんのそばにいる九頭竜八一にさ、直接そう言っちゃうのが一番手っ取り早いんじゃない?」

「甘い。それはもうやった。ねぇJS?」

「え、そうなの?」

「……うん」

 

 うん。JKの言う通りそれはもうやった。

 敬語で話すのは止めてって、姉弟子って呼ぶのは止めてって直接そう言った。

 けれども八一は聞き入れなかった。なんと私のお願いを無下にしたのだ、あのバカは……。

 

「あの時のやり取りをあんたに見せてあげたいわ。JSが『姉弟子って呼ぶのは止めて』って言ってるのに、中2の八一は全く取り合わないで、それどころか『ワガママ言わないで下さいよー』とか言っちゃって」

「……う」

「どうやら周囲の目が気になったみたいだけど……あの時の八一の変な方向への強情さは……あれはあんたのダメダメな部分がこれでもかというぐらいに詰まってたわね」

「ぐっ! ……返す言葉も無いっす」

 

 呻き、ぐったりと項垂れる八一。

 にしてもJKは見事に八一の急所に刺さる言葉を次々と繰り出していく。

 これが年の功なのだろうか。こういう手際の良さは正直言って私も見習いたいところだ。

 

「でもそうだね。中2の時の俺ってのは……つまり思春期真っ盛りの俺って事だからさ……」

「だから?」

「だから、その……ね? 年下の銀子ちゃんから言われた事をさ、そのまますんなりと受け入れるのが難しい性格をしてるっていうかさ、なんていうかその……あるじゃん? そういうの」

「つまりは面倒くさい性格をしてる、と」

「えっと、まぁ、多少はその傾向があるかもしれないね。なんせほら、当時は思春期だからさ」

「ねぇ八一。なんかさも昔の事のように語ってるけどハッキリ言って今も大差無いわよ」

「なッ……!?」

「ねぇじぇーしー。思春期ってなに?」

「ん? そうね……要はあの時の八一みたく面倒くさい性格になる年頃を思春期って言うのよ」

 

 思春期。詳しくは知らないけど中学2年生辺りは思春期真っ盛りだと言えるだろう。

 確かにあの八一は面倒くさい性格をしている。何を気にしたのか、私に相談も無く勝手に私との距離感を改める事を決めて、そんなのをどうやら5年近くも続ける程に頑なで。

 それでいて18歳になったらこうして当時の事を後悔してるんだから、もう手の施しようがないおバカっていうか、ほんとにこれ以上面倒くさい性格は無いと思う。巻き込まれるこっちは溜まったもんじゃない。

 

「にしても言っても聞かない当時の俺が相手となると……うーん、どうすっかな……」

「やっぱぶちころすしかないかしら」

「JC銀子ちゃん、そういうのはちょっと……」

「でも他に方法がある? 言っても聞かないからもう身体に分からせるしかなくない?」

「同歩。あのバカ相手にはそれぐらいしないと難しいと思う」

「いやいや駄目だって。銀子ちゃんに叩かれるのなんて当時の俺には日常茶飯事なんだから、それぐらいじゃ何も変わらないよ」

「じゃあきすするとか」

「ちょっと幼女! さっきからキスキス言うんじゃないのっ!」

「むぐきゅ」

 

 私は幼女銀子の口を両手で塞いだ。

 すると4歳児は両手を振ってもがもがと暴れる……みたいな事をしていると、

 

「……しょうがない」

「八一?」

 

 何かを思い付いたのか、固い表情をした八一が口を開いた。

 

「当時の俺の考えを変える為には……多分だけど結構な劇薬が必要になると思うんだ」

「そうね。それは私もそう思うけど……なにかいい方法があるの?」

「うん。これは少々酷な方法だけど、当時の俺にはちょっと地獄を見てもらおう」

「じ、地獄?」

 

 思わず呟く私。

 地獄とは。それは今の私が置かれている状況そのものだ。

 まさか私がやられた意趣返しとして、今度は八一の方に地獄を見せるというのか。

 

「地獄を見せるって……どうやって?」

「当時の俺が一番嫌だと感じる事をするんだ。前にJS銀子ちゃんには話したと思うけど……」

 

 そして八一は言った。

 当時の自分に対する劇薬を。中学2年生13歳の九頭竜八一に地獄を見せる方法を。

 

「JS銀子ちゃんが……俺以外の誰かを好きになればいいんだ」

 

 

 

 


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