銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)   作:銀推し

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 ※これは本編とは関係の無い短編ネタとなります。
 ※この話は16巻までのネタバレを含むので既読後に読む事を推奨します。
12月に発売予定の最新17巻あらすじより、遂に八一と銀子が再会を果たすようですね。
しかし疑問が、二人はどういった経緯で再会をする事になるのか。そこら辺を筆者なりに想像して書いた(クッソしょうもない系の)短編です。




短編 天地創造宇宙開闢空銀子

 

 

 

 

 好きな人と会う事が出来ない、という状況。

 これは多かれ少なかれストレスの原因になるなぁ、と最近の俺は強く実感している。

 

「へぇ、好きな人?」

「うん」

 

 そう、好きな人。

 俺の大切な恋人、空銀子。銀子ちゃん。

 今ここに銀子ちゃんはいない。ある日突然いなくなってしまったんだ。俺の隣から。

 

「それから一度も会っていないの?」

「うん……」

 

 去年の暮れ頃のこと、公に休養宣言を残してそのまま彼女は消息を絶った。

 そして今に至る。それが世間一般の知る空銀子の現状だろうが、銀子ちゃんの恋人である俺でも実情としては世間一般と大差無かったりする。

 要するに突然の休養宣言の真相とか、体調不良が原因らしいが実際のところはどうなのかとか、一番気になるであろう復帰の目途とか、そういった事は俺も何一つ聞かされていない。

 

「それ、あんたは気にならないの?」

「そりゃ気になるよ。気になるけどさ……」

 

 さすがに誰も知らないという事は無く、桂香さんや師匠はある程度事情を知っていそうだった。

 だから知る方法がない訳じゃなかった。俺が本気で知りたいと望めば強引にでも聞き出す方法はあったんだろうけど……でも、そうはしなかった。

 

 だって、銀子ちゃんは必ず帰ってくるから。

 そうと心に固く刻んで、俺はあの子の帰りを待つことにしたんだ。

 

 ……が。

 

「……あー、会いたいなぁ、銀子ちゃんに」

 

 ぽつりと零れた本音。

 弱音にも聞こえるそれを聞き逃がしてはくれなかったのか、すぐに反応が。

 

「会いたいんだ?」

「そりゃ会いたいよ……会いたいに決まってるでしょ」

 

 会いたい。そう、会いたいんだ。

 俺は銀子ちゃんに会いたい。もう切実に会いたいよ、本当に。

 待つと心に誓ったけど、それで会いたいという気持ちまでもが無くなる訳じゃないんだ。

 

 だって俺と銀子ちゃんは恋人同士なんだから。

 そうでなくとも、幼い頃からずっと一緒にいた相手なんだから。

 

「ていうかね、そんなに会いたいんだったら会いに行けばいいじゃないの」

「いやぁ……そういう訳にもいかないよ。相応の事情があっての事だろうし」

 

 もう何度も自問自答した回答、俺は自分を納得させるように呟いた。

 今、会いに行くのは最善手ではない。以前に桂香さんからは時間が必要だと言われた、暗に今は会うなと言われているようなものだ。

 当時は苦々しく飲み込んだ理屈も今なら一応理解は出来る。だって突然連絡も無しに消息不明になるなんて普通じゃない。普通じゃない事が起こったんだから、そこには普通じゃない理由があるのだろう。

 

「それに会いに行くったってさ、そもそも銀子ちゃんが何処にいるのかだって俺は知らないし」

「でも……向こうだってあんたと会いたがっているかもしれないじゃない」

「銀子ちゃんが? それは……どうだろうね」

 

 たとえ離れ離れになっていようとも、想いは同じだといいな、とは思う。

 俺と会えないこの状況に、銀子ちゃんも寂しいと感じていて欲しい。とは思うけど。

 しかし、じゃあ実際に会いたがっているのか──って考えると、それはなんだか違う気がする。

 

「違うの? 恋人と会えるんだから嬉しいんじゃないの?」 

「いやそりゃね、きっと内心喜んでくれるとは思うんだよ。でもあの子ってプライドが高い子だからさ、自分で一度決めた事を途中で反故にしたくないと思うんだよね」

 

 銀子ちゃんは自ら離れる決意をした。さっきも言ったけどそれには相当な理由があるはずで、その理由が解消されていないからこそ彼女はまだ帰ってきていないと考えるべきだろう。

 となると今はまだ会うべきではないという事であって、そんな状態にもかかわらずあの子が俺と会う事を望んでいるのかというのは甚だ疑問だ。

 

「それにさ、一度会って解消する寂しさなんてのはきっと一時のもので、またすぐ寂しくなって会いたくなっての繰り返しだよ。それに銀子ちゃんの状態だって分からないんだ、もしかしたら療養期間内に俺と再会する事が切っ掛けで精神的な負担なんかが増しちゃうかもしれないし」

「ふーん……」

 

 今会えないのならば、会えない理由がある。俺に分かる事はそれぐらいで。

 だったら俺がすべき事は。銀子ちゃんを信じてその帰りを待つことだろう。

 

「だから、待つ。俺は待つって決めたんだ」

「……ほんとに?」

「……うん」

 

 けれども心配そうに尋ねてくる声が、俺の脳を揺さぶる。

 

「……平気そうには見えないけど」

「それは……」

 

 柔らかく響く声。これが本当に難敵だ。

 俺の心をいとも容易く解していく、固く誓った決心が揺らぎそうになる。

 

 いやまぁそりゃね。待つと誓った気持ちは嘘なんかじゃないんだけどさ。

 でもこういうのってさ、結局のところは俺の見栄やプライドみたいなもんじゃん?

 そこに本音があるかと言われたら、必ずしもそうじゃないよねっていう。

 

「だってぇ……そりゃあ会いたいじゃん……」

「だーから、そこまで言うならとっとと会いにいけばいいじゃない」

「だから無理だってぇ……でもさーみしーい……あーいたーいよぉ……銀子ちゃーん……」

 

 てかね、待った。待ったから。もう結構待ってるからね。

 一ヶ月二ヶ月の話じゃないんだ。待つ期間が長くなればなる程心に積もっていくものがあるんだよ。

 だから本音の箱の蓋を開ければこの通り。あーあーあーいたーい。銀子ちゃんにあいたーい。

 建前と本音は違う。ただそれだけの話だ。それに今は本音を隠す必要だってないしね。

 

「てかさー……会いたいだけならね、まだいいんだけど」

「いいの?」

「いや良くないけど。良くはないんだけどね。でもいいんだ」

 

 会いたい会いたいと本音が叫べども。

 ただ俺だってもう子供じゃない、会えない理由を理解している以上本音を抑える事は出来る。

 だから会いたいだけなら。寂しい気持ちと葛藤するだけの日々ならばまだ我慢は出来る。

 

 まだ我慢は出来る……んだけど。

 

「悪影響っていうのかな……最近はいよいよ実害まで出てきちゃってさ……」

「実害?」

「うん」

 

 実害。

 その一つが、これ。

 

「これって?」

「いやだからさ、それなんだよ。これがもう幻聴なんだよね」

 

 俺は虚空に向けてツッコんだ。

 今更言う事でもないが、こんな本音と弱音塗れの話を聞かせられる相手なんて一人もいない訳で。

 つまりここには誰もいない。俺は一人で、一人っきりでこうも長々と会話をしている訳で。

 

 それは本物ではない偽りの声。俺にだけ聞こえる幻聴。

 銀子ちゃんの声がね、聞こえるんだよ。本当に銀子ちゃんの声が聞こえてきちゃうんだよね。

 

「幻聴、ねぇ。そんなに問題なの?」

「そりゃ問題でしょ……だって今の俺って、傍から見たら誰もいないのに一人でぶつぶつ誰かと喋っているヤバい人そのものじゃん……」

 

 脳内銀子ちゃんと会話をしている、とかじゃない。マジでガチで声が聞こえてるからね。だから会話も出来る、俺ぐらいのレベルになると銀子ちゃんの幻聴と会話が出来ちゃうんだよ。

 そんな幻聴無視すりゃいいじゃん、って思うだろうけどね。でも大好きな銀子ちゃんボイスで俺に語り掛ける声が聞こえてきたら返事しちゃうでしょそんなの。その結果が冒頭から続く会話という名の独り言である。

 

「なに? たとえ幻聴でも私の声が聞けて嬉しくないの?」

「いや嬉しいよ……嬉しいからこそ問題なんだけどね……」

 

 原因はまぁ、分かる。去年の暮れからもうずっと銀子ちゃんに会っていないからだろう。

 その寂しさに耐えきれず、遂に自らその声を生成して聞く事で幸福感を得るまでになった。どんだけ銀子ちゃんに飢えているんだ俺の脳よ。

 

「前に将棋盤が目の奥に焼き付いて眠れなくなったりした事とかもあったけど、あんたって結構精神的な影響が身体に出るわよね」

「あー、あったあった、そういや不眠症になった事もあったねぇ……」

 

 思い返せば不眠に悩んでいたあの時も、銀子ちゃんと一緒なら途端にぐっすりと眠る事が出来た。

 きっと俺の身体はそういうふうになっているんだ。空銀子が特効薬である一方、それが尽きたらたちまちこんな感じになってしまう。

 

「あの時よりも原因がハッキリしている分、まだマシなんだろうけど……」

 

 幻聴と淀みなく会話をこなしたりと、中々危ない領域に差し掛かってきている俺。

 ……が、それでもまだ幻聴だけだったら。それならまだ平気というか、まだなんとかなるんだよ。

 でも最近はもう幻聴だけじゃ済まなくなってきている。そっちも大きな問題だ。

 

 

 例えば。ふらっとコンビニにでも出掛けてようとして。

 

「何を買うの?」

「んー……なんか頭がシャキッとするようなエナジー系飲料でも買おうかなって」

 

 相も変わらず銀子ちゃんの幻聴と会話しながら、ふらふら道を歩いていると。

 

「八一、もう信号変わってる」

「んー……」

「ちょっと、そんなボーっとしながら歩いてちゃ危ないわよ」

「んー……なんかさぁ、最近ずっとこんな感じで頭が冴えないっていうか……──ッッ!?」

 

 不意に、それは現れる。

 ほんの5m近く、目の先にあったお店の前。

 

「ぎ、ぎぎぎ銀子ちゃん!? ど、どうして、こんなところで会えるなんて!!!」

 

 いた。そこには銀子ちゃんがいた。

 俺が会いたかった銀子ちゃんが。俺が会いたかったままの姿でそこに立っていた。

 

「ああああ銀子ちゃん!! 帰ってきてくれたんだね!!」

 

 もう脇目も降らずに飛び付いた。

 俺の心の穴を埋めてくれる唯一の存在、二度と離すまいと強く抱き締めた。

 

「銀子ちゃん……! 銀子ちゃん……!!」 

「……ねぇ、八一……」

「あれ!? でもなんか固い!? どこ触っても銀子ちゃんの身体が固いぞ!?」

「八一、あんたそれ……」

 

 抱き締めた銀子ちゃんの身体が、固い!

 どうして!? どこ触っても固い!! 柔らかい部分がどこにもないよ!

 

「なんで、なんでこんなに身体が固いの!? もしかして銀子ちゃん、入院生活が長引いたせいでおっぱいがなくなっちゃったの!?」

 

 ないの!? おっぱいないの!? 

 でもそんな事はどうだっていい!! おっぱいなんか無くたっていいよ!! 

 

「ああもう離さない!! 離さないぞー銀子ちゃーん!!」

「……ちょっと、そこの人……」

「……へ?」

 

 離さないぞー銀子ちゃーん!! とか大声で叫んでいたら普通に人を呼ばれた。

 そんでお店の責任者らしき方に注意を受けて、正気に戻った俺はぺこぺこと頭を下げた。

 

「うぅ……銀子ちゃん……絶対いたと思ったのに……」

「いるわけないでしょ、ばか」

 

 まぁ、つまり。これが悪影響の二つ目、幻視である。 

 ふとした瞬間、視界の中に銀子ちゃんの姿が見える、もうクッキリと見えちゃうんだ本当に。

 そして銀子ちゃんに飢え過ぎている俺の脳は不意に現れるそれを幻だと判断出来ない。そのせいで白昼堂々奇行に走る九頭竜八一竜王という将棋界にとって不名誉なエピソードが一つ加わってしまった。

 ちなみに俺が銀子ちゃんだと見間違えたのは不二家の前に置いてあるペコちゃん人形だった。通りで銀子ちゃんの身体が固いはずである。

 

「あんたねぇ……置物と私を見間違えるなんて頭おかしいんじゃないの?」

「だって……だってぇ……」

 

 幻聴に叱られる。それでも銀子ちゃんの声だと思うと嬉しいなぁと感じちゃう俺。

 頭おかしい、実際もうその通りなんだと思う。自分でもそう思うもんホントに。

 

「あぁ……銀子ちゃん……会いたい……」

「八一……」

 

 幻聴と幻視。それが今、俺の脳みそと身体を確実に蝕んでいる。

 これはもう病気と呼んでも差し支えない。今の俺は途轍もなく深刻な銀子ちゃん欠乏症なんだ。

 

 

「こういう時は……」

「こういう時は?」

「……寝よう」

 

 こういう時は寝る。とっとと眠ってしまうに限る。

 コンビニにも寄らずに帰宅して早々、俺は身支度もそぞろにベッドに潜り込んだ。

 

「こんな時間から眠ったら生活リズムが狂っちゃうわよ」

「いいんだよ。起きていたって今日はもう何も手に付かなさそうだし、生活リズムなんてとっくに狂ってるようなもんだし」

 

 睡眠、睡眠だ。安らかな睡眠こそが今の俺を癒してくれる。

 特に最近の俺は銀子ちゃん欠乏症による悪影響に苛む一方で、身体が銀子ちゃん不足を少しでも補おうとする為か、就寝時にはほぼ必ずと言っていいほど銀子ちゃんが登場する夢を見る。

 それで目を覚ました時に「あぁやっぱり夢だったか」とガッカリする所までがセットではあるものの、それでも夢の中でなら銀子ちゃんと会う事が出来るのである。

 

「夢の中にしか癒しが無いだなんて……八一、可哀想に……」

「そう思うんだったら帰ってきてよぉ……マジでさぁ……」

 

 こうして銀子ちゃんの幻聴があれば、一緒に眠っているような気分になれるし。

 それで銀子ちゃんの夢を見られたらさ、もう十分幸せを感じられるでしょ?

 

「……今日も銀子ちゃんに会えますように……」

 

 ──将棋の神様よ。どうかどうかお願いします。

 ──今日もこの俺に、愛しの空銀子ちゃんと会える夢を見させて下さいな。

 

 そんな事を考えながら、俺は眠りについた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「……んー……」

 

 そして、ふと気が付くと。

 

「……んぁ? あれ? なにこれ?」

 

 なんか真っ白い世界にいた。

 一面真っ白な視界が遠くまで開けていて、その奥はどこまでも続いているように見える。

 そして足元は地面の代わりにふわふわとした綿、てか雲。なんか雲の上にいるみたいな感じだ。

 

「……ははぁん、分かったぞ。さてはこれ夢だな?」

 

 夢か。あるいは天国かのどちらかだろうと俺は早々に結論付けた。

 雲の上にある真っ白な世界。小さな子供が想像する天国ってこんな感じかもなぁと思う。

 で、そんな天国に俺がいる、そういう夢。自らが夢を見ていると夢の中で気付く夢、これがいわゆる明晰夢というやつだろうか。

 

「そう言えば明晰夢ってさ、なんか夢の内容を自分でコントロール出来るとかって聞くよね」

 

 経験した事は無いけど聞いた事はある。自分の想像通りにコントロール出来る夢、それは今の俺にとっては喉から手が出る程欲しいものだ。

 そりゃ夢ってのは睡眠中に俺の脳が作り出している映像な訳で、だったら自分でコントロール出来るってのも理屈は通る。けれども実際にそんな事が可能なのだろうか。ちょっと試してみようか。

 

「おーい、銀子ちゃーん」

 

 という事で、試しに銀子ちゃんの名前を呼んでみた。

 

「銀子ちゃんに会いたいよー。隠れてないで出てきておくれー」

 

 せめて夢の中ぐらい会わせてくれたっていいじゃないか。

 そんな事を考えながら俺は銀子ちゃんの名を呼び続けた。すると──

 

 

「──まよえるこひつじよ」

「えっ?」

 

 突如、そんな声が聞こえた。

 

 あれ、でもなんか今の声って、なんか聞き覚えがあるような。

 とか思っていたら、すぐ目の前。それまで何も無かった場所に突然それが現れていた。

 

「──ぎ、銀子ちゃん!?」

「ん」

 

 そう。そこにいたのは銀子ちゃんだった。

 いいや違う。これは銀子ちゃんではない。銀子ちゃんなんだけど銀子ちゃんじゃなくて。

 俺が知っている銀子ちゃんよりも遥かに背丈が低くて、遥かに幼い容姿のこの子は──

 

「……こ、子供の頃の、銀子ちゃん、だね?」

「………………」

 

 そこにいたのは幼女、正真正銘完全無欠な幼女だった。

 てかこの子の年齢も分かる。きっと四歳だろう。だって俺と初めて出会った時が四歳だから。

 要するにここにいるのは幼女だった頃の銀子ちゃん、言わば幼女銀子ちゃんである。

 

「…………むぅ」

 

 と唸る幼女銀子ちゃん。可愛い。

 あれ、なんだこれ。可愛い。あれあれ、なんかすごい可愛いんだけど。

 ちっちゃくて幼女で超かわいい。子供の頃の銀子ちゃんってこんなに可愛いかったっけ?

 

「ど、どこからどう見ても究極的に可愛いのだが……ッ! まさしく奇跡の幼女……!」

 

 幼女可愛い、可愛すぎか幼女。あぁなんか駄目だ。今は銀子ちゃん成分が欠乏しているせいもあってかとにかく可愛く見えてしまう。

 そんな幼女銀子ちゃんだけど、容姿は俺が知っているままだけど服装がちょっと違っていて、洋服ではなく白地を基調とした薄地の着物みたいな服を着ている。

 そんで片方の手には木製の杖みたいなものを持っていて、その足元にはなんと雲が、ふわふわした雲の上に乗っかっている。なんか仙人とか、三蔵法師とかのコスプレをしているみたいな感じだ。

 

「とにかく銀子ちゃんは小っちゃくても可愛いなぁ。欲しいなぁこれ、欲しいな欲しいなー!」

「……むー」

 

 どうにかしてこの幼女を現実世界に持って帰って愛でる方法は無いのだろうか。

 なとど考えていると……。

 

「ちがう」

「え?」

 

 すると幼女銀子ちゃんは。

 その可愛らしいお顔をふるふると左右に振って。

 

「わたしはぎんこではない」

「え?」

 

 私は銀子ではない?

 いやでも、銀子ではないって、そんな事言われても……ねぇ?

 

「銀子ちゃん、だよね?」

「ちがう」

「えぇー、うっそだー」

「うそじゃないもん」

「でもでも、どこからどう見たって子供の頃の銀子ちゃんじゃ……」

 

 そのキュート過ぎるお顔も。綺麗な銀髪も。遥か昔に聞き覚えのある声も。

 まるで天使と見紛うようなこの幼女が銀子ちゃんじゃなくてなんだと言うのか。何故か仙人みたいな恰好をしている所を除けば、今でも鮮明に覚えているあの頃の銀子ちゃんのままだってのに。

 

「ちがうもん」

 

 それでもこの子は。

 自分は銀子じゃないと主張するその子は、もう一度その首を振って。

 そして、言った。

 

「わたしは……かみ」

「神!?」

 

 それは衝撃の告白だった。

 かみ!? 神!? 神様なのかこの子は!?

 

「いや、え、神ってなに!?」

「かみはかみ。それだけ」

「いやそれだけじゃ分からないよ! 一体神ってどういう……」

 

 まさかの事実。子供の頃から一緒にいたこの幼女の正体は神様だったというのか。

 そりゃ幼女の銀子ちゃんは神憑り的に可愛いって話には同歩だけど、それにしたって──

 

「……て、あ、まさか将棋の神様ってこと?」

 

 直感でピンと来た。もしかしてそういう事だろうか。

 そういえば寝る前、夢の中で銀子ちゃんと会えるようにと将棋の神様にお願いしたんだった。

 だからこうなったのか。将棋の神様が俺の願いを叶えてくれた、それでまさか銀子ちゃんが幼女でしかも将棋の神様そのものになって現れるってのはビックリだけど、それでも概ね俺が願った通りの夢になっている。

 

「ちがう」

「え?」

「しょうぎの、とかじゃなくて、あらゆるかみ」

「あらゆる神!?」

 

 あらゆる神ってなに!? もしかして創造神とかそういう系のアレですか!?

 なんてこった。まさかこの世界は唯一神幼女銀子が創り出した一神教の世界だったのか。

 

「あ、あらゆる神……」

「そう。わたしはかみ、ゆいいつにしてすうこうな存在。すごいえらい」

「……そ、そっか。君がこの世界の……あらゆる神様なんだね?」

「ん。りかいした?」

「……うん」

 

 流されるままに頷いた俺。……けどまぁ一応理解はしたよ。

 というか、ほら、ね。要するに、これは俺の深層意識みたいなもんが作った夢だからね。

 夢に整合性なんかを求めてはいけない。そりゃ夢なんだからなんでもアリでこんな突拍子も無い展開にもなる、幼女銀子ちゃんが神様になる事だってあり得るだろうさ。

 

「そっか、神様かぁ……この世界を作った神様がこんなに可愛い銀子ちゃんだとは知らなかったよ」

「だからぎんこじゃないって」

「うんうん、そうだねそうだね」

 

 たとえこの銀子ちゃんがあらゆる神様であっても、この子がめちゃんこ可愛いことには変わりない。

 なのでと俺は幼女銀子ちゃん(神)の頭に手を伸ばして、なでなで。なーでなで。

 

「むあ」

「なーでなで。なーでなで。あぁもう本当にちっちゃくてかわいいなー」

「んにゅ、あたまをなでるでない」

「かわいいなーかわいいなー、なんかもう食べちゃいたくなる可愛さだなー」

「わたしはかみ、ゆいいつにしてすうこうな存在。たべちゃだめ」

 

 どうやら食べては駄目らしい。とても残念である。

 

「そんなことよりも、やいちよ」

 

 すると幼女銀子ちゃん(神)の透き通った瞳が、俺を真っ直ぐに見つめて。

 

「やいちよ。わたしはおまえを見ていた」

「見ていた?」

「ん。そしてそのなげきを聞いていた。ぎんこに会えなくてさみしいのだろう」

「え、えっと、それは……うん」

 

 素直に頷く俺。不思議と誤魔化すような気分にならなかった。

 なんか神様に懺悔している気分……にはならないけど、とにかくこの幼女銀子ちゃん(神)は今の俺の事情を分かっているようだ。

 

「ずっと見てたけど、なんかかわいそうだった」

「そ、そっすか?」

「うん。ということで、じひをあげる」

「じ、慈悲?」

「ん。わたしはかみだから」

 

 こくりと頷く幼女神様。どうやらこの子は可哀想な俺に慈悲を齎す為に現れたらしい。

 え、なんかすごい優しい。こんな神様なら速攻で惚れちゃいそうなんだけど。

 

「やいちはぎんこがいないからさみしいんでしょ?」

「うん」

「だから、ぎんこをあげる」

「えぇ!?」

 

 思わず飛び上がってしまった。

 それぐらい魅力的なワードが聞こえた。だ、だって──銀子ちゃんを!?

 

「く、くれるの!? 銀子ちゃんを!?」

「ん。好きなぎんこをあげる」

「す、好きな銀子ちゃんを!?」

 

 も、貰っちゃっていいんですか!? 俺の好きな銀子ちゃんを!?

 そんな夢みたいな話があっていいのか。大盤振る舞いにも程があるのでは。

 

「どれがほしいの?」

「え、いやでも、どれって言われても……銀子ちゃんは銀子ちゃんだし……」

「どれでも好きなのをえらべばいい。たとえば……」

 

 言いながら幼女銀子ちゃん(神)は。その手に持つ杖を高々と上に掲げて。

 

「いでよー」

 

 と唱えたその瞬間──

 ポンっ! と何かが軽快に弾けるような音が鳴って。

 

「……んっ……」

 

 すると──そこには。

 

「……ん、あれ……?」

 

 見覚えのある人影、自然と吐き出す声が震えた。

 

「──ぎ、銀子ちゃん、が……」

 

 いた。そこにいた。

 俺がずっと会いたかった相手が。脳が異常を来して幻聴や幻視を見せてしまう程の相手が。

 そこには俺が良く知っている姿そのままの銀子ちゃんがいた。

 

「か、かか、神様、これは……」

「ぎんこ。これは16歳と2か月ぐらいのそらぎんこ。いちばんプレーンなやつ」

 

 16歳と2か月。銀子ちゃんの誕生日は9月9日で、今年で17歳になる。

 となるとこの銀子ちゃんは去年の11月頃の銀子ちゃんという事になる。要するに俺と付き合い始めたあの頃の銀子ちゃん、音信不通となる少し前、俺の記憶に一番色濃く残っている銀子ちゃんという事だ。

 

「──ぎ、銀子ちゃん!!」

「わっ! ちょ、ちょっと八一、いきなりなにを……」

 

 気付けば勝手に身体が動いて勝手に抱き締めていた。

 離れ離れになる前、最後にこうしたのはいつだったかもう分からない。体感ではそれぐらい長く感じるぐらい俺は銀子ちゃんの温もりを忘れていた。

 それが今、こうして確実に伝わってくる。欲しい。俺はこれがずっと欲しかったんだ。

 

「……銀子ちゃん……」

「……もう、どうしたってのよ……」

 

 銀子ちゃんがいる。すごい、まさに神の奇跡だ。

 

「え、てか、神様あの、これ、本当に貰っちゃっていいんですか!?」

「ん。いいけど」

「でも……お高いんでしょう?」

「ただ」

「タダ!?」

 

 タダで!? 無料で銀子ちゃんを一体プレゼント!?

 そんなログインボーナスみたいな太っ腹な話がこの世にあっていいのだろうか。

 

「銀子ちゃんがタダ……無料銀子ちゃん……」

「……なんかよく分からないけど、その言い方はちょっと引っ掛かるんだけど」

「無料銀子ちゃん……無料っていいよね……」

「だからぁ……」

 

 よく分からない状況に戸惑っているであろう無料銀子ちゃん、可愛い。欲しい。

 この子を持って帰る事が出来ればもう安心、悪影響を及ぼす禁断症状も落ち着くだろう。

 

「じゃあやいち、そのぎんこでいいの?」

「と、言いますと……?」

「そのぎんこでいいならいいけど、べつのぎんこでもいい。すきなぎんこをあげると言った」

「てことは……もしかして、プレーンじゃない色々な銀子ちゃんをオーダー出来たり?」

「ん。わたしはなんでもできる。あらゆるかみだから」

 

 どうやらなんでも出来るらしい。あらゆる神たる幼女銀子ちゃん、すごい……。

 しかしそうなると途端に欲が湧いてくる。俺は一旦16歳と2か月のプレーン銀子ちゃんから離れると、そそくさと神様の耳元に近寄って。

 

「じゃ、じゃあ例えば……ごにょごにょ、な時の銀子ちゃんとかを注文しても?」

「むろん。そんなの造作もない」

 

 そう言って幼女銀子ちゃんは、もう一度その手に持つ杖を上に掲げて。

 

「いでよー」

 

 と唱えたその瞬間──

 ポンっ! と何かが軽快に弾けるような音が鳴って。

 

「……う、うぅ……!」

 

 すると──そこには。

 

「くぅ……こんな格好……屈辱……!」

「こ、これは……!」

 

 そこにいたのは、銀子ちゃん。

 しかしその恰好は。先程のプレーン銀子ちゃんが着ていた学校指定制服ではなくて。

 

「これは……デ、デンジャラス……!」

 

 それはあまりにもデンジャラスな恰好だった。

 布面積をギリギリまで削減した信頼仕様の装い、野性味あふれる耳と尻尾。

 それはまごうことなき獣、獣である。かつてこの世に一度だけ現れたというデンジャラスビースト銀子ちゃんがここに再臨していた。

 

「は、恥ずか、恥ずかしすぎ……ッ!」

「凄いです、神様……本当にどんな銀子ちゃんでもオッケーなんですね」

「ん。でんじゃらすなぎんこ、たぶん15歳と4か月ぐらい?」

 

 神の御業によって呼び出されて即羞恥に悶えるデンジャラス銀子ちゃん(15歳と4か月)。 

 ていうか今になって思うけど、当時15歳の銀子ちゃんにこの恰好させてたのってヤバいな。だってもうほぼビキニタイプの水着みたいなもんだし。おっぱいとか見えそうになっちゃってるし。下もギリギリだし。おっぱいも、おっぱい……──

 

「……え、エロいッ! あぁ駄目だ、エロ可愛すぎるよー銀子ちゃーんっ!!」

「なっ! ちょ、八一、あんたなにを──!」

 

 あまりのエロ可愛さに飛び付いちゃったよね。

 すると突然の事態に目を白黒させるデンジャラス銀子ちゃんだったが。

 

「エロい! 可愛い! 俺の銀子ちゃんがエロかわ過ぎる!」

「んなっ!」

「もう好き! 大好き! デンジャラスな銀子ちゃんさいこー!」

「な、なな、ななななななっっっ……!」

 

 途端に顔がまっかっか。身体も石像のように硬直しちゃった。

 そういえばこの銀子ちゃんって15歳だからまだ俺と付き合う前なんだ。そう考えるとこの銀子ちゃんにとって可愛いとか好きとかって言われるのはちょっと刺激が強いのかもしれないね。

 

「じゃあめっちゃ言う! 好き! 俺は銀子ちゃんが大好き! 銀子ちゃんと結婚したいよー!」

「にゃ、にゃにゃ……は、はひゃ、はにゃぁ……」

 

 限界まで茹だった後くったりしちゃったデンジャラス銀子ちゃん。

 とっても初心である。このまま好き好き言い続けるだけで気絶しちゃいそうなところも可愛い、この銀子ちゃん(15歳と4か月)は初心でデンジャラスな生き物なのである。

 

「じゃあやいち、このぎんこにする?」

「……い、いやしかし……最終決定にはもう少し判断材料が欲しいところですね……」

「そう。じゃあちがうぎんこにする?」

「そうですね、それじゃあ次は……」

 

 プレーンも良いけど、デンジャラスも捨てがたい。しかしそれ以外だってどうか?

 他の銀子ちゃんだって魅力一杯だし、なによりこんな絶好機を逃す手は無い。俺は神様に色々な銀子ちゃんを注文してみる事にした。

 

「じゃあ次は、中学時代の黒セーラー服を着ている銀子ちゃんで!」

「ん。ちゅうがくせい、くろせーらー」

「その次は、優雅に着物を着ている銀子ちゃんで!」

「ん。きものきてる、なんかの対局のとき」

「その次は、水着を着ている銀子ちゃんで!」

「ん。がっこうしていのやつにしてみた」

 

 すると次々に黒セーラー服とか、着物とか、スク水とか。

 

「八一? なんなのこれ?」

「ちょっと、私これから対局なんだけど」

「……っ、なんで八一の前でこんな格好を……」

「お、おぉ……銀子ちゃんがいっぱい……まさに理想郷……!」

 

 俺のオーダー通りに次々に現れた銀子ちゃんがずらりと。

 どれも可愛い、これを眺めているだけでも目の保養になる。なんか地引網みたいなのをバッとぶん投げてここにいる全員を捕獲したい気分だ。

 

「じゃあ次は……銀子ちゃんが小学生の頃で」

「ん」

「俺にラブラブで、毎日のように好き好きだーい好きって言ってた頃の銀子ちゃんで!」

「ん、わかった。しょうがくせいで、やいちにラブラブすきすき言ってたころ」

 

 そう言って幼女銀子ちゃん(神)は、もう一度その手に持つ杖を上に掲げて。

 

「……うん?」

 

 とそこでこてりと可愛らしく小首を傾げた。

 

「そんなぎんこ、いたっけ?」

「いましたよ!! 絶対いました!!! 俺はちゃんと覚えてます!!!」

「んー……そうだっけ?」

 

 むーん、とした顔でしばし悩んでいた幼女銀子ちゃん(神)だったが。

 

「……ま、いいや」

 

 と軽く流して「いでよー」と唱えた。

 すると──

 

「……八一」

 

 そこにいたのは、その声は。

 先程までの銀子ちゃん達よりもちょっとだけ幼い姿、幼い声。

 

「……やいちぃ」

「おぉ、小学生時代の銀子ちゃんだ。それに……」

「やいちぃ……すき♡ すきすき♡」

「本当に好き好き言ってる! すごい! 完璧だ!」

 

 夢にまで見た小学生時代から俺にラブラブの銀子ちゃん、ここに誕生である。

 空銀子というただでさえ可愛い女の子が、小学生というただでさえ可愛い存在になって。それで小学生時代には聞いた事も無い「すき♡」を連発してくるっていうね。

 こんな奇跡的な存在だって呼び出す事だって出来るんだよ。そう、あらゆる神様ならね。

 

「やいちぃ♡ すーき♡」

「銀子ちゃん! 俺も好きだよ!」

「やいちぃ……♡ 嬉しい……♡」

 

 朱に染まった頬を両手で押さえて嬉しがるラブラブ小学生銀子ちゃん。

 か、可愛すぎる……こんな銀子ちゃんと一緒にラブラブな小学生時代を送りたかったよマジで。

 

「神様、銀子ちゃんが大変に可愛いです」

「そう。で、どのぎんこにするのか、決まった?」

 

 どの銀子ちゃんにするのか。神様がこちらを見ながら問い掛けてくる。

 そう、俺がこの中から選べるのはただ一人。好きな一人だけを選ばなくてはならない。

 

「それは……」

 

 プレーン銀子ちゃんも、デンジャラスや各種コスプレ銀子ちゃんもラブラブ小学生銀子ちゃんも。

 どの子も皆素晴らしく可愛くて甲乙付け難いというのが本音なのだが……。

 

「……はい。決めました」

 

 それでも、一人を選ばなくてはならない。

 それならば。ここで俺が選ぶのは──

 

「俺が欲しいのは……神様!! あなたです!」

「えっ」

 

 これだ! これしかない!

 狙うは一番小さい幼女一つ。選んだ俺はこの小さな神様に飛び付いた。

 

「幼女銀子ちゃん、好きだよー!」

「わっ! かみに、なにをする……!」

 

 そして見事に捕獲成功。

 俺の腕の中に幼女銀子ちゃんが。やべぇなにこれ、めっちゃ小さくて可愛いんだけど。

 

「神様! 俺は神様が一番好きです!! 最高に可愛いよぉ幼女銀子ちゃーーん!!」

「な、ならぬ、ならぬ。かみにけそうをしては、ならぬ」

「いやだ!! 俺は神様が好きだ!! 幼女な銀子ちゃんが欲しいよーーー!!!」

「な、ならぬ、ならぬ……」

 

 俺の腕の中でぱたぱたと暴れる幼女銀子ちゃん(神)、とっても可愛い。

 絶対これが欲しい。もうこれに決めた。ほっぺたにチューしちゃおう。ちゅー。

 

「ちゅー」

「わっ、わわわ、ちゅ、ちゅーしちゃ、だめ……」

 

 神様のほっぺた、柔らかい。幼女銀子ちゃん、可愛い。

 

「やぁ、やいち、やめ……」

「あぁ可愛い可愛いかわいいよぉ……神様が一番キュートで可愛いよぉ……!」

「だ、だめ。だめだめ、かみにけそうしちゃ、だめなの……」

 

 このまま持って帰って神棚に飾ろうね。そして毎日めっちゃ可愛がろう。

 そうすれば俺は生きていける。銀子ちゃんがいない圧倒的寂しさを埋められるだろう。 

 

「むぅ~……」

 

 とか考えていたら。

 次第に不機嫌になってきた幼女銀子ちゃん(神)はむーっとほっぺたを膨らませて。

 

「……てんばつ」

 

 俺に捕獲されたまま、その手に持つ杖を上に掲げた。

 

「ギャーーーーー!!」

 

 すると天罰が。

 空から降り注いだ神の雷に撃たれて、俺は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はッ!」

 

 そして、目が覚めた。

 

「……ゆ、夢?」

 

 いない。逃がさないようガッチリこの腕で捕獲したはずの幼女銀子ちゃんがいない。

 それどころかここは。天国などではなくて何の変哲もない俺の部屋のベッドの上。 

 

「……あぁ、夢か……いやそりゃ夢だよな……」

 

 どうやら先程のは夢だったらしい。

 いや分かっていたんだけどね? 最初にすぐ明晰夢かなって思ってたし。

  

「にしても……あ゛~……」

 

 夢の中とはいえ、神様の天罰を受けて目覚めた俺の全身はもう汗でびっしょりで。

 心臓の鼓動も激しくなったまま治まらない。身体を起こした俺は深く息を吐いた。

 

「……や、ヤバい」

 

 脳裏には。さっき見た夢の内容がこれでもかと焼き付いている。

 だって銀子ちゃんが。銀子ちゃんが一杯いて……それで、よ、幼女が、幼女が。

 

「……夢の中とはいえ、俺……幼女の銀子ちゃんに襲い掛かっちまったよ……」

 

 これはヤバい。極めてヤバい。これだけは本当にヤバい。

 幼女をお持ち帰りしようとしてしまった。幼女を押し倒してほっぺたにチューしてしまった。

 これではロリコンの誹りを免れない。ていうか幼女銀子ちゃんなんて四歳なのに。他にも沢山選択肢があった上で、それで幼女に襲い掛かったというのがヤバさを際立てている。

 

「……よ、ようじょ」

 

 幼女は幼女。幼女に手を出すなんて以ての外である。

 これまで幾度となく小学生相手との関係を危ぶまれてきた俺でも、さすがに4歳の幼女を相手してそういう目で見られた事は無い。

 ないはずなのに……でも、幼女が幼女で……十年以上ぶりに目の当たりにした幼女銀子ちゃん、もう激烈に可愛くて……銀子ちゃんが、銀子ちゃんががが。

 

「……駄目だ。もう限界だ」

 

 小学生ならまだしも、さすがに相手が幼女となると笑い話では済ませられない。

 だからこれはもう限界なのだと、変な見栄を張るような余地も無く自然とそう納得した。

 九頭竜八一はもう限界にきている。幻聴と幻視に加えて冷静な判断力も消失している。だから血迷って幼女に襲い掛かってしまったのだと、そう思わなくちゃやってられない。

 

「……さすがにこれは駄目だ。もう本物の銀子ちゃんに会わなきゃだめだ」

 

 これ以上虚勢を張ったり、ちっぽけなプライドを守っている場合じゃない。

 せめて一度、一度だけでも本物の銀子ちゃんに会って、銀子ちゃんエナジーを摂取しないと。

 じゃないともう駄目だ。これ以上精神に負荷を掛けては本当に致命的な過ちを犯しかねない。次の過ちは「あぁこれ夢で良かったー」じゃ済まない可能性が大いにある。

 

 というか。もしかしたらさっきの夢は、俺の身体が警鐘を鳴らしてくれたのかもしれないね。

 ここが限界だって、これ以上我慢し続けては危険だって、それを俺に教える為にあの小さな神様は現れてくれたのかもしれない。うん、きっとそうだ。

 つまりこれは神の導き、神託というやつだ。あーでも本当に幼女銀子ちゃん可愛かったなーもっと一緒に居たかったなー、じゃないじゃない。冷静になれ俺。冷静になって……えっと、まずは、早急にギブアップ宣言を。

 

「……あ、もしもし、桂香さん……」

 

 俺は目を覚まして早々、スマホの発信ボタンをタップしたのだった。

 

 

 

 

 

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