銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)   作:銀推し

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八一と銀子が同棲を始める話⑤

 

 

 

「いやぁ、晴れて良かったねぇ」

「そうね。私はそんなに嬉しくないけど」

 

 大阪駅から徒歩数分の距離。

 今そこに来年結婚を予定していて、これから同棲を始めようとするカップルが一組いる。

 

 ……ん。まぁ私達のことだけど。

 

「今日に限ってはいいじゃんか。なにも外を歩こうってんじゃないんだし」

「それなら天気を気にする必要だってないじゃない。晴れでも雨でも一緒でしょ?」

「そりゃそうだけどさ、せっかくのデートに相応しいデート日和ってことで」 

 

 日差しが強い日は日傘をささないと私は体調が悪くなってしまうので、常に片手が塞がってしまう。それで手を繋いだらもう両手が塞がってしまうので買い物袋や荷物を持てなくなる。

 なので今日みたいに買い物目的で外出した日なんかは晴れだと嬉しくない。ていうか正直言っていつだろうと晴れは嫌い。ただ今回に限っては関係無い話だからそれは置いておくとして。 

 

 同棲を始めるに当たって、いくつか必要になる生活必需品等を買い揃える。

 そんな目的で今日私と八一はここ、大阪駅近くにある大型ショッピングモールにやってきた。

 施設内には五十以上の店舗が入っていて、カジュアルな雑貨品店から高級志向のアンティークショップまで幅広いニーズに対応している。なので大体のものはこのショッピングモール内で揃えられるはずだ。

 

「しっかしまぁ……こうもお店が多いと目移りしちゃうよね。どうしよっか」

「ある程度絞って考えないと一生決まらないわよ。特に大阪駅周辺はここだけじゃなくて他のショッピングモールや百貨店だってあるんだから」

「うーん、そうよなぁ……好きなメーカーとかブランドとかあれば方針も定めやすいんだろうけどなぁ……」

 

 ちなみに今日の私は私服に変装用の眼鏡に加えて口元にはマスク。更には目立ちすぎる銀髪を帽子ですっぽり隠した完全防護仕様である。

 この恰好なら広いショッピングモール内で八一とお買い物デートをしていても早々身バレはしない……はず。隣を歩く八一が一応は著名人のくせして何の変装もせずラフな格好で平然としているのが少々癪だけど、こればっかりは仕方が無い。

 

「ここだけの話をするとさ……実は俺、あんまりそういうものに拘りとかって無いんだよねぇ」

「知ってる。八一が部屋に置く小物のインテリアにまで気を回している姿なんて見たことないし、そんなオシャレな男だったら逆にビックリよね」

「ぬぅ……じゃあ銀子ちゃんは? そういう拘りとかってあるわけ?」

「当然。私は部屋に置くアイテムの一つ一つだって自分が気に入ったものを選んで使いたいタイプなんだから。八一みたいな貰い物の食器やタオルをそのまま家で使う人間とは違うのよ」

「……だってせっかく貰ったんだから使わないと勿体ないじゃん」

 

 この通り八一は意外と貧乏性。と言うべきか、身の回りのものに頓着しない気質をしている。

 こいつは本当に将棋バカだからね。将棋盤とか駒とかには高いお金を掛けたりするけど、将棋に関係しないインテリアとかファッションとかには大して目を留めない人間。それが九頭竜八一……だったんだけど。

 

「でもね銀子ちゃん、今回は違うよ! 今回はちゃんと部屋のインテリアにまで拘りたい、自分の目で選んだものであの部屋を飾りたいんだ!」

「へぇ、珍しいこと言うわね。前のアパートに引っ越しした時なんかとりあえず使えればいいって感じでとにかく安いものを探していたのに」

「ま、まぁあの時は金が無かったから……でも今は違う! 獲得した賞金が沢山あるし、何よりも今回の引っ越しは銀子ちゃんとの同棲だからね! そりゃあもう気合が入るってもんさ!」

 

 一緒に住む為の最高の部屋を作り上げるんだ! なんて口上と共にグッと拳を握る八一。

 ……別に、そんな、気合を入れられても困る……けど。

 

「……そうなんだ」

「うん」

「……じゃあ、とにかく……色々見て回ろっか?」

「そうだね。今日中に最低限の準備は終わらせたい。一緒に買い物出来る機会も貴重だしね」

 

 竜王位を所持している八一は年末が近付くにつれてスケジュールが厳しくなる。

 なので急いで準備を済ませて可能な限り早く同棲を始めたい! というのが本音なのだろう。同棲を約束したあの日以降、早く同棲したいよねするよねしようねっ! と急かしてくる八一の圧を私は常日頃から感じているのだ。

 全くこのバカ、こっちはまだ病み上がりなんだから変なプレッシャーを掛けないで欲しいんだけど……とにかくそんな同棲急進派と化した八一はポケットからスマホを取り出してメモアプリを開く。

 

「この前一緒にあの部屋をチェックして作った購入品リストの内、スーパーやドラッグストアで買えるような消耗品類は既にネットで購入済みだ」

「残るは家具や家電みたいな大きいもの、それと食器とか身の回りで使う生活雑貨全般よね」

「で、その中でもまず見るべきは……」

 

 ……まず見るべきは?

 

「それは家具だ! 家具! 何を置いても家具だけは選ばないと!」

 

 答えは──家具。

 

「……家具、ねぇ」

「だってほら、大型家具は注文してから配達されるまで時間が掛かるだろ? とっとと同棲準備を済ませる為にも早めに決めておくべきだよ」

「むぅ……」

 

 確かに家具はお店に現物が無い場合とかもあるし、取り寄せて貰うのなら更に時間が掛かる。

 なので最初に購入を済ませてしまおうってのは合理的な話、同棲急進派の八一の理論武装は完璧で異を唱えようがない。異を唱えようが無い以上仕方がないので仕方ない。

 

「んじゃまずはベッドを見に行こう」

「……ん」

 

 ベッドだって。やっぱりそこからかぁ……と思いつつも、仕方が無いことには口を挟めない。

 という事で……大型ショッピングモール内の一角、家具を扱うお店が並ぶフロアに移動。手を繋いだ八一に半ば引っ張られるような形で。

 

「この辺にあるのが家具を取り扱うお店みたいね。いくつかあるけど……」

「ふーむ、リーズナブルな代物から海外の輸入品まで色々あるねぇ。あ、ほら見て、アンティーク家具を扱うお店なんかもあるよ。銀子ちゃんってこういうのは興味無いの?」

「釈迦堂先生なら好みそうなデザインだけどね……でもあの部屋に置くのはどうなのかな。こういうアンティーク家具って部屋全体でそういう雰囲気に整えないと家具だけ浮いちゃう気がしない?」

「あー確かに。釈迦堂先生のお店ぐらい全部を揃えてオシャレにするのはちょっとハードル高そうだな……あ、ちなみに銀子ちゃん、値段なら気にしなくていいよ! 今日は俺が全部払うからね!」

「わぁ嬉しい。太っ腹な恋人がいて銀子幸せー」

 

 二人で住む家の準備費だし別に折半でも全然構わないんだけど、ここは八一を持ち上げておく。当の本人も「わっはっはー!」と鼻を高くして喜んでいるし。単純なやつ。

 お財布が八一持ちになったから……というわけでもないけど、立ち並ぶお店の中でも比較的グレードが高そうな家具を揃えている店舗に入ってみる。今後毎晩使う事になる寝具には私もそれなりに拘りたいのよね。

 

「ほぉ……この辺にあるのは海外の高級ベッドブランドなんだね。セレブ御用達とか、多くの一流ホテルでも使われているとかって書いてあるよ」

「そうみたいね。ただあんまり派手なのは好みじゃないから……そうね……うん、これとか落ち着いたデザインであの部屋に置くのも問題無さそうかな」

 

 いくつも並ぶ高級ベッドの内、目に留まった一つの縁に座ってマットレスに触れてみる。

 どれどれ……うん、ふわふわだけどしっかりした感触もあって……ふむ、中々良さそう。

 

「どう?」

「少なくとも病院や修業時代に使っていた二段ベッドのマットレスよりは上等ね。このタイプの高級マットレスだけでも色々種類があって決め手に欠けるってのはあるけど……」

「銀子ちゃんが気に入ったのを好きに選んでくれていいよ。俺は実家の布団でも寝られるタイプの人間だからマットレスに拘りはないし。それよりも肝心のベッドサイズだけど」

「……あんたねぇ、それしか頭に無いわけ?」

「今の所はそうだね。ほら、この辺にあるのがダブルサイズのベッドだってさ。……どう?」

 

 どう? って言われてもねぇ……ううむ。八一に促されてダブルサイズのベッドに目をやる。

 ベッドのサイズは横幅によって決まっていて、ダブルの規定は140cmとなっているらしい。一人分で70cmの幅って聞くと結構狭いような気もするけどどうなんだろう。意外とそんなこともないのかな?

 

「どう? どう? 銀子ちゃん?」

「……なんか、こうやって見るとダブルサイズだと狭いような気がしない? ここに二人も並んだら両手を横に広げる事も出来ないわよ?」

「そりゃそうだけど……実際寝る時に両手を横に広げたりはしないっしょ。それにこのサイズが二人用のダブルってのはベッドメーカーによる長年の信頼と実績によって決まっている事なんだからさ、きっとこれが最適のサイズなんだよ」

「それは……そうかもだけど」

 

 うぅん……ダブル、ダブル……横幅140cmのこのベッドで、毎日八一と一緒に……むぅ。

 ど、どうなのかなぁ。あっちにあるキングサイズのベッドぐらいに広めな方がゆったりと寛いでリラックス出来ると思うんだけどなぁ……いや別に決して恥ずかしいとかそういうわけじゃなく……。

 

「日本の住宅環境とか考えたらこれぐらいが色々とちょうどいいんだって、きっと」

「むむぅ……」

 

 しかしぃ……逆を言うならこれぐらい狭い方が八一とくっ付きやすいとも言えるわけでぇ……。

 あえてそう考えると……ふぅむ、確かに……これぐらいのサイズの方が色々と都合が良いのかも……。

 考えてみれば180cmのキングサイズなんてシングルサイズの約二倍だ。それだと十分な幅を取れてリラックス出来る反面、わざわざくっ付く理由が無いという事にもなる。

 

「どうかな? 銀子ちゃん」

「……八一」

「うん?」

「八一は私といっしょに寝たい?」

「えッ!? あ、うん! 勿論! そんなの当然だし当たり前だよ絶対!!」

 

 そ、そっか。そうだよね。それは当たり前だよね。

 うん。それなら……そうだね。いざって時にくっ付く為の口実はあった方がいいよね。

 

「……じゃあサイズはダブルでいい。ていうか元々ダブルにしようって決めていたんだしね」

「そ、そうだよね。じゃあダブルサイズで気に入ったベッドを──」

「……なんなら私はダブルより一つ小さいセミダブルサイズでもいいかなって思ったけど」

「ッッ!!? そ、それなら──!」

「でもカタログに書いてあったんだけどセミダブルは一般的なサイズの枕を二つ並べると横にはみ出ちゃうんだって。私、枕には拘りがあるからやっぱりセミダブルは却下」

「あ、そう……」

 

 一瞬盛り上がった気持ちを急降下させて、なんとも言えない表情になる八一。

 ほーんと分かりやすいやつー。なんなの? そんなに毎晩私とぴったりくっ付きたいわけ?

 ばーかばーか。ばかやいち。……ばか。

 

 

 

 

「……よし。これで家具はオッケーだね」

「うん」

 

 その後、お店にあったダブルサイズベッドの中から気に入ったものを選んで購入。

 別の家具屋で衣服の収納に必要な収納タンスも購入してそれぞれ配達の手続きを行い、ひとまずこれであの部屋に足りない大型家具は揃った。

 あ、ちなみにソファを買い替えるのは保留となった。理由は必ずしも買い替える必要性があるとは言えないこと、そして狭いのは狭いなりに利用価値があると判明したからである。

 

「それじゃあ次は家電だけど……家電はこのショッピングモールじゃなくて、駅のそばにある家電量販店に行った方が良さそうなんだよね」

「それなら先に小物を見ない? 雑貨店ならこのショッピングモール内に沢山あるし」

「それもそうだね。んじゃ移動しよっか」

 

 という事で、やってきたのは主に日用雑貨やインテリア雑貨を取り扱うお店が並ぶフロア。

 家具のフロアよりも一つ一つの店舗が小さい分細々した印象を受けるけど、どの店舗もそれぞれそのお店ごとの特色があって商品の傾向も微妙に異なる。気ままに見て歩いても飽きなさそうな場所だ。

 

「おぉ、さすがにお店の種類が豊富で……これだけあるとどの店から入るか迷っちゃうな」

「そんなの片っ端から入ればいいのよ。それで気に入ったものを買えばいいの」

 

 そんな宣言通り、とりあえず一番近くにあった雑貨店に足を踏み入れる。

 そこはネットなどでも名前を聞くぐらいには有名な雑貨店。こういう場所の空気はここ一年以上私には縁が無かったのでなんだか新鮮な感じだ。

 

「こういう店の店内ってさ、落ち着いた雰囲気なんだけどなんかこうオシャレで……いいよね」

「展示している商品と内装がマッチしているからでしょうね。ここにある商品を買ってあなたの部屋を飾ればこういうオシャレな雰囲気になりますよって教えてくれているのよ」

「なるほど、確かに自分の家がこれぐらいオシャレだったら格好いいかもなぁ。売っている商品もそこまで値が張るってわけじゃないし……ほら、これとかどう?」

 

 そう言って八一が指差したのはチェックリスト項目の一つでもある食器セット。

 

「そうね……シンプルなデザインだけど悪くはないんじゃない?」

「んじゃとりあえず二組買おっか。銀子ちゃんも気に入ったものがあったらどんどんカゴに入れていいよ。食器なんて多少余るぐらいで丁度いいんだから」

「お皿なんて遅かれ早かれ全部割るしね。殆ど消耗品みたいなもんよね」

「い、いやいや……そこは割らないように気を付けようよ……」

 

 無理ね。ムシャクシャしたらきっと割る。お皿なんてその為にあるんだから。

 大体あの部屋で八一と一緒に住むって事は今後対局の機会が格段に増えるということだ。それこそ昔みたいに朝から晩まで対局漬けになるような日だってあるかもしれない。でもって昔はよくそれでケンカをしていたわけだから……そこはやはり何かしらのストレス解消手段は必要にならざるを得ないわけで……。

 

「って、そういえば……あの部屋で一緒に住むのなら対局スペースはあった方がいいよね?」

「それは絶対に必要だ。リビングの一角は将棋スペースとして確保した方がいいだろうね。公式戦で使うような座布団と将棋盤を置いてさ」

 

 当然とばかりに答える八一に私もうんうんと頷く。

 将棋スペース。私と八一が毎日対局する場所。それが無い家なんて絶対に考えられない。

 

「となると問題は……将棋関係のものをどれだけ置くか、よね」

「そうだねぇ……対局には直接必要ないけど棋士にとっては必要なものって多いからねぇ。かと言ってそれを全部あの部屋に置くってのも……」

「もう読まなくなった本とかは私の実家に預けちゃってもいいんだけど……でも読まなくなったとは言いつつもたまに確認したい事が頭に浮かんで手に取りたくなったりするのよね」

「あるある。そのせいで俺なんて棋書はおろか将棋雑誌までなんだか捨てにくく感じちゃって……電子書籍化する前のナンバーとかはまだ残ってたりするよ」

 

 八一と一緒になってうんうんと頷く。

 これは分かる人には分かるはず。決して片付けが出来ないとかそういう話ではないの。人生を懸けて戦う将棋のことだから、いつか将棋で使うかもしれないから簡単には手放せないの。分かるわよね?

 他にも関係者やスポンサーからの贈答品や記念品なんかもあるし、私が女流の対局で各地を訪れる度に買い集めたおみやげのペナントとかもあって……あれどうしようかな……せっかくここまで集めたのに今更捨てるのはちょっと勿体無いし……。

 

「俺と銀子ちゃんの二人分だし、ある程度絞るとしても結構な量になりそうだよね」

「それをあの部屋に置くとなると……結局いつも通りっていうか、このお店みたいにオシャレで落ち着いた雰囲気の部屋にはならない気がするわね」

「……まぁ、しょうがないよ。どの道部屋の一角が和の雰囲気になるのは避けられないんだから。でもそう考えると釈迦堂先生の一門は凄いよなぁ、あれぐらい自分のスタイルに拘れば和の雰囲気との調和どうこうなんて気にならなくなるのかね?」

「確かに……もうあの恰好に慣れちゃったから今更おかしいとは感じなくなっちゃったものね……」

 

 ともあれ。そんな話をしながら私と八一は一緒に店内を歩いて。

 あるいは次のお店へと渡りながら、一つ一つ買いたいものを見定めていく。

 

「おぉ、見て見て銀子ちゃん。ティーセットがあるよ。こういうの部屋に置いてあったら凄いオシャレな感じがするよね」

「ティーセットかぁ……ふむ……これとか小さくて可愛いわね……結構いいかも」

「これ使って毎日お茶淹れてよ。銀子ちゃんの淹れてくれるお茶は美味しいもんね」

「お茶を淹れて欲しいの? それなら急須も買わないと……あと八一、今の台詞は関西の奨励会員にとっては嫌味になるって知ってる?」

「長くいる人間はお茶を用意する記録係の機会が増えるからってことでしょ? そりゃ意味は分かるけどさぁ、そうは言っても実際俺と銀子ちゃんの昇段スピードなんて一年ぐらいしか違わないわけで……」

 

 ここで買うものは全部あの部屋で使うもの。私と八一が同棲する部屋で使うアイテム。

 それを八一と一緒に選んでいく。一緒に住む部屋の環境を整えていく。

 

「あ、壁掛け時計だ。そういやあの部屋に壁掛け時計は無かったよね。どれか飾ろうか?」

「スマホがあるから必要無いような気もするけど……でもまぁ一つぐらいあってもいいかもね。文字盤が大きくて見やすいやつがいいな」

「それなら……そうだな、これとか」

「うん、いいと思う」

「よし、じゃあ決定。んでお次は……あ、ほら見て花瓶があるよ、花瓶。花瓶も買う?」

「花瓶? 花瓶なんて花を飾る時にしか使わないと思うけど。飾りたいの?」

「いいじゃん花、飾ろうよ。部屋の雰囲気が華やかになりそうじゃん? 観葉植物とか飾ってある部屋ってオシャレな感じがするし。いっそベランダで家庭菜園とか」

「家庭菜園ねぇ……私はともかく八一には向いているかもね。農家の血が流れているし」

 

 八一と一緒に住む部屋のことを考えながら、八一と一緒にお買い物。

 これって……これってなんか……。

 

(なんか……楽しくなってきた、かも)

 

 これは……うん、これは楽しい。なんか楽しい。心が弾むのが自分でも分かる。

 八一とお買い物をする機会はこれまで何度もあったけど……同棲するからなのかな? 今日のお買い物には今までとは違う新鮮な楽しさがある、感じたことの無かったワクワクがある。

 

「ね、ね、八一。ほら見て、あっちに照明器具があるよ。部屋のライトも変えてみない?」

「ライトか。あんまり意識してなかったけど変えてみるのも面白いかもね」

「だよね。ほら、テーブルランプとかフロアランプとか色々あるよ、どれにしよっか」

「銀子ちゃん、なんかいつもより楽しそうだね?」

「……うん、楽しい」

 

 素直にそのまま答えちゃう。楽しい。

 だって今こうして選んでいる商品はあの部屋を飾るアイテムになる。このランプが私と八一のお部屋を照らして、この壁掛け時計で同じ時間を共有して、この急須で八一と一緒にお茶を飲んで一休み、みたいな。

 きっとどのアイテムにも私達二人だけの思い出が生まれる。そう考えると楽しくなる。それこそこうしてお買い物をしている事自体が一つの思い出にもなるわけで。

 

「そっか……そう考えるとお皿だって割っちゃ駄目な気がしてきた」

「それは当然なのでは……?」

「ね。せっかく一緒に選んだんだもんね。八一、ムシャクシャしても割っちゃ駄目だよ?」

「俺はそんなことしないって……実際問題お皿を割るのは破片とか飛び散って危険だからね。ストレス解消目的ならもっと安全なものに当たった方がいいよ、クッションとか」

 

 同棲の準備……楽しい……わくわく……。

 話も弾んで楽しい気分になってきたし、そもそも今日はせっかくのデートだし。

 ん~……えいっ! と勢い付けて八一の腕に抱き付いちゃう。ぎゅ。

 

「ぎ、銀子ちゃん?」

「彼女の真似」

「はい?」

「こうしていると彼女っぽいでしょ? カップルに見えるでしょ?」

「いやいや、ぽいもなにも彼女でしょうよ」

 

 ブッブー。違いまーす。彼女じゃないもん婚約者だもんお嫁さんだもーん。

 

「ねぇ八一、あっちのお店も見ようよ。何か面白いものありそう」

「そうだね。んじゃとりあえず会計を……」

 

 普通のカップルっぽいことをするのは普通に楽しい。これ世紀の大発見かも。

 八一の腕を引っ張るようにして次のお店に向かう。ほらほら早く。ぐいぐい。

 

「あ、ほら見て八一。アロマがあるよ、アロマ。アロマ始めたら?」

「アロマかぁ、いい香りだしちゃんと効能とか覚えたら実用的だしで結構楽しそうだよね」

「あ、調理器具がある。圧力鍋とか買おっか? どて焼き食べたいな」

「いいねぇどて焼き! 桂香さんにレシピを聞いて挑戦してみよっか!」

「八一、筋トレ器具があるよ。筋トレ始めたら? どうせ身体なまってるんでしょ?」

「うーむ、否定は出来ない。でも筋トレ器具を色々買い揃えるのは嵩張るからなぁ、それならジムに通った方が良い気がする」

「あ、八一、キャンプ用品があるよ。キャンプ行こっか? キャンプ連れてって」

「キャンプ用品かぁ……これも正直レンタルとかで済ませた方が楽なんだけど……でも連れてってと言われるとちょっと頑張りたくなっちゃうなぁ」

「ねぇ八一。ペット用品があるよ。念の為ペットフード買っておこうか?」

「え、ペットフード? いやでもペットなんていないし、さすがにペットフードを買うのはペットを飼う事を決めてからでいいんじゃ……」

「ねぇ八一。手品グッズがあるよ。手品グッズ買って」

「て、手品? 銀子ちゃん手品したいの?」

「ねぇ八一。ジグソーパズルがあるよ。ジグソーパズル買って」

「……銀子ちゃん。目に付いたもの片っ端から買ってって言ってない?」

 

 別にそんなことはない。ないんだけど、なんとなくおねだりしてみたり。なんか普通のカップルっぽいことをしていると普段なら買わないようなものまでなんとなく欲しくなってくる、みたいな。

 というかね、あのね……気付いたんだけど……八一におねだりするの楽しい。別に買って欲しいわけじゃないんだけどおねだりする事自体が楽しく感じちゃう。

 それでいて八一も断らないからついつい色々おねだりしちゃう。その結果必要そうなものからあんまり必要なさそうなものまであれこれ買った。手品グッズとジグソーパズルも買った。今度八一と一緒に遊ぼうっと。

 

「ふぅ……色々買ったなぁ。そろそろ一旦荷物を預けにいかない? 結構重くなってきちゃって……」

「だーめ。せっかくのデートなんだからもう少し男らしい所を見せてよね」

「ぐっ、そう来たか……今後の為にもやっぱり筋トレ器具は買うべきだったか……?」

「ね、ね、あっちも面白そうだよ」

 

 ぐいぐいと八一を引っ張るように次の場所へ。

 様々な商品を見ながら店内を巡り歩いていると、やがて──

  

「──あっ」

「ん?」

「こ、これは──!」

 

 そこで私達が出会ったのは。

 

「……マグカップだ」

 

 そこに並んでいたのは、可愛らしいデザインのマグカップ。

 ……それが二つセットで。対照的なデザインのマグカップが二つ。

 

「ペアのカップだね」

「……うん」

 

 ペアマグカップ、という商品だ。

 二つのマグカップのデザインが共通していて、主に二人で一緒に使用する事を目的としている。

 要するにカップルで使用するマグカップだ。大きなハートのデザインもカップル用だからだ。

 

「ふむぅ……」

 

 カップルで使うペアマグカップ、ねぇ……。

 例えば──そうね、それまで熱中していた将棋に一段落付いて。

 沢山脳を使ったので、糖分を補給するべく暖かいミルクティーでも淹れて。

 八一と一緒に、このマグカップ片手に二人でソファに腰掛けて、ゆったりした一時を──

 

「──いいっ!」

「えっ! き、急にどうしたの?」

 

 わっ、わっ! なんか今すっごい同棲中のカップル~、みたいな絵が頭に浮かんだっ!

 ペアマグカップで束の間のティータイムを楽しむ時間。何気ない一時なんだけどむしろそういう時間を当たり前に共有するのが同棲中の関係っていうか、とにかくなんかそういうのいい! すごくいい!

 

「成る程……中々悪くないわね……」

 

 ペアグッズ。こういうのは今まで一度も使ったことが無かったからちょっと盲点だった。

 でも……よくない? いいよね? こういう些細なマグカップの存在が私と八一の関係性を如実に物語るっていうのが……うん。いいよね。こういうさりげないアピールがグッとくるのよね。

 それにこれが例えばペアTシャツとかだったら外で着て歩くのはさすがに勇気がいるけど、家の中で使うアイテムだったらペアグッズにしたって特に問題はないと思う。そうだよね? ね?

 

「……八一。ペアマグカップがあるよ」

「うん。……欲しいの?」

「悪くはないと思うけど」

「そっか、じゃあ……せっかくだし一つ買おうか」

 

 どうやら八一もペアマグカップが欲しいみたい。ふふっ、可愛いやつ。

 でもやっぱり恋人同士で同棲しているんだったらこういうアイテムは必要だよね。うんうん。

 これであの家にお客が訪れた時にも私達のアツアツな関係を主張してやれる。こういうものを当たり前に使っちゃう関係なのよねーってことを。まぁすでに婚約してるんだしいちいち主張するまでもないって言えばそうなんだけど。

 

「どのデザインにする? これとか?」

「もうちょっと小さいのがいいな。そうねぇ……これとか軽くて持ちやすいかも」

「よし、銀子ちゃんが気に入ったのならそれにしよう」

「八一、これは絶対に割っちゃ駄目だからね」

「割らないってば……」

 

 という事で。二つでお揃いデザインのペアマグカップ、お買い上げー。

 でもこうなると他にもペアグッズが欲しくなってきたな。他になにかないかなー……ときょろきょろ辺りを探して見ると、あった。どうやらここら辺はペアグッズを置いてあるエリアのようだ。

 

「あ、ほら見て八一、ペアキーホルダーだって」

「へぇ、ハートと鍵の形でくっつけると一つになるんだ。よくあるよねこういうの」

 

 鞄やスマホに付けられるサイズで、二つをくっ付けると一つになるペアキーホルダー。

 その内の一つを手に取って八一はカチャカチャと遊び始める。むむむ、さてはこれは……。

 

「もしかして欲しいの?」

「えっ?」

「だってそんなに興味津々だし。このペアキーホルダーを買って私と一緒に付けたいのね?」

「あ、ええと……そうだね、うん。銀子ちゃんと一緒に付けたいな」

 

 やっぱりー。

 まったくもうっ、仕方ないなぁ八一ったら。可愛いやーつ。

 

「じゃあ買おうね。どれにする? このピンクのハートのが可愛くていい感じかな?」

「うん、じゃあそれで──」

「それともこっちのゴールドにする? ゴールドの方が鍵の色にはマッチしているよね」

「あ、うん。そっちでもいいけど」

「ちょっと八一、もっと真剣に選びなさいよねっ! あんたが欲しいって言ったんでしょっ!」

「ご、ごめん……!」

 

 神は細部に宿る。こういう小物選びだって蔑ろにしてはいけないんだから。

 

「じゃあそうだな……あ、このシルバーのがいいな」

「シルバー? ふーん……シンプルな色だけどそれでいいの?」

「うん、なんせほら、銀だし。俺が付けるペアアクセサリーとしては最適な色だと思わない?」

「っ!」

 

 な、ななっ、ななななっ、なー……るほど?

 なかなか……子洒落たことを言うじゃないの。八一のくせに……。

 

「……ばか♡ わたし色のペアキーホルダーなんて、あんまり目立つところに付けちゃ駄目なんだからね……♡」

「やっぱり分かりやす過ぎるかな? 中継とかで映ったら匂わせすんなって叩かれちゃうかも──」

「まぁでも問題無いんじゃない? ペアグッズとはいっても片側だけを見ればただのキーホルダーにしか見えないわけだし?」

 

 むしろ積極的に主張しなさいっていうか? いっそ匂わせ万歳っていうか?

 銀色のペアキーホルダーを普段から身に着けて生活する八一かぁ……いい、いいね……!

 

「じゃあペアキーホルダーはそれに決定ね。お次は……ペアリング、は一番良いのを貰っちゃったからさすがに必要無くて……ペアネックレスとかもあるけど」

「ネックレスかぁ……ネックレスはさすがに……俺はちょっと身に着けないかもな……」

「八一はアクセサリーとかしないもんね。でもそれならペアブレスレットとかペアアンクレットとかも無しで……ペアウォッチも……腕時計は前に一つ貰っちゃったし……」

「ペ、ペアに拘りますね。……あ、それならこれは? ペアTシャツとか、ペアパーカーとか」

 

 それは男女で共通したデザインの衣服、いわゆるペアルックというやつだ。

 ペアルックかぁ……う、ううむ。さっきもちょっと言ったけどこれを外で着るのは……コーディネートを揃えるだけならまだしもデザインまで一緒となると……な、なんというか、その、かなりの存在感になるのよね。

 

「……八一、これ、着たい? 八一がどうしても着たいっていうなら考えてあげてもいいけど」

「うーん、このTシャツもパーカーもかわいいとは思うけどね……ただこれを外で着て歩くとなるとちょっとハードルが高いかなぁ、特に銀子ちゃんは目立つ格好をするべきじゃないし」

「そうだよね。ペアルックのカップルなんて目立っちゃうよね」

「つってもまぁ銀子ちゃんは何を着ても目立っちゃうからあんまり変わらないかもしれないけど。……あ、でもほら、ペアパジャマなんてのもあるよ」

「ほんとだ。パジャマねぇ……成る程……」

 

 シンプルなデザインのペアルックパジャマ。パジャマなら部屋着だから他人に見られることはない。

 同じ柄のパジャマを着て八一と一緒に、かぁ……ふむぅ……悪くはないわね……。

 

「これなら買ってみても……って思ったけど、そういえば八一って寝る時にパジャマとかはもう着ないんじゃなかった?」

「そうだね、昔は着ていたけど今はTシャツと短パンだけで寝ちゃうなぁ。銀子ちゃんは今も寝巻きはパジャマなの?」

「……まぁ、一応」

「そっか、そういや以前入院中にお見舞いに行った時もパジャマを着ていたっけ。ねぇねぇ、あれは着ないの? 普通のパジャマよりも全体的にもこもこしていてかわいいやつ」

「もこもこ?」

「ほら、よく女の子が寝巻きとして着てるやつあるじゃん、もこもこしてて……」

 

 八一はスマホを取り出してポチポチ検索して……画面を見せてもらうと、あぁ、これ系か。

 いわゆる女性に人気のルームウェアブランドの商品、その中でももこもこしているタイプのやつだ。

 

「……こういうの着て欲しいの?」

「え、いやまぁ着て欲しいっつーか、別に普通のパジャマでも全然良いんですけどね? でもほら、こういうの銀子ちゃんが着たら可愛いだろうなって」

「っ、そ、……そう、かしらね、ふーん……」

 

 ほ、ほほぉう……? 

 そっかぁ……やっぱり八一もこういうルームウェアが好きなんだ……さすがに人気なだけあるわね……。

 かわいい……かぁ。まさにその可愛い印象が強くて私には合わないかなって思ってたんだけど……でも八一がそう言うなら……ちょっとチャレンジしてみてもいいかも……。

 

「ちなみに銀子ちゃんさ、部屋着はどんな感じなの?」

「どんなって……別に普通だけど。八一だって普段通りのTシャツ短パンでしょ?」

「まぁね。わざわざ部屋着と寝巻きを分けるってのも億劫だからさ、洗濯物も増えるし」

 

 一日中寝巻きのままでも問題無いだなんて、ズボラに暮らせてなんとも羨ましい話だ。

 私だったら……一人暮らしならまだしも、八一と同棲するあの部屋で寝巻きのままでいるのは無理だ。だらしない女だなんて思われたくないもん。

 

「……ちなみに。部屋着については私にどういうのを着て欲しいの?」

「え、どういうのって言われてもそんな、別に銀子ちゃんが好きなのを着ればいいと思うけど……でもまぁそうだな、あえて意見するなら……こういうのとか」

 

 またポチポチと検索してから八一が見せてきたスマホの画面には……あぁ、こういうのか……。

 それは至ってシンプルな部屋着だ。シンプルなキャミソールにシンプルなショートパンツを合わせただけのよくあるやつだ。要するに……。

 

「シンプルに露出が多いわね」

「いや違うよ? 別に俺が好きとかそういうのじゃなくてね? なんか女性の部屋着のイメージっつったらこういう恰好かな? って咄嗟に思っただけでね? つまり世の女性が部屋着でこういう露出の多い、もとい動きやすくてラフな恰好を好むからこそ俺のイメージもそちらに引っ張られただけであって──」

「そもそもこれって夏の部屋着よね? これからの季節にこんな薄着でいたら寒いじゃないの」

「そこは大丈夫。銀子ちゃんが寒くならないよう暖房は二十四時間付けっぱなしにするから」

「………………」

「あ、それだと乾燥しちゃうかな? なら加湿器も買った方がいいよね、加湿はウイルスを防いで風邪予防にもなるって言うし買い忘れないようにしないと──」

 

 そそくさとスマホのメモアプリを開いてチェックリストを更新していく八一。

 こいつは……そこまでして私にラフな格好をさせたいのだろうか……。

 

「させたいのよね。そうなのよね。八一はそういうヤツだもんね……えっち」

「いやいや、俺はあくまで一般的な女性の部屋着をサンプルとして勧めただけであって……」

「ま、別にいいんだけどね。部屋着なんて着心地が良ければなんでも」

 

 そう、正直なところ部屋着や寝巻きなんてなんでもいいのよね。なんでも。

 だから……えっと、寝巻きは可愛いもこもこ系で、部屋着はシンプル系ね、ふむふむ……。

 別になんでもいいから、なんでもいいので今度桂香さんを誘って買いに行こうっと。別に八一の好みに合わせるわけじゃないけど。決してそんなつもりじゃないけど。

 

 

 

 

 

 

 そして、その後。

 

「いやぁ、平日のこの時間帯でも結構人がいるもんだね」

「そうね、席が空いていて良かった」

 

 日用雑貨のチェック項目を一通り埋め終えて。

 ちょっと休憩しようかと八一が提案してきたので、ショッピングモール内にあるカフェに入った。

 

「ここまで荷物持ちお疲れ様」

「ほんとに疲れたよ……でもまぁこれで必要なものは大体揃ったかな」

 

 先程までの荷物の重みから解放された八一はホットコーヒーを飲んで一息。

 私もカフェラテの甘みを楽しみながらワッフルを一口。うん、美味しい。

 

「にしても結構買っちゃったねぇ。元々買うつもりだった物からそうでもなかった物まで色々と……」

「ちょっと買い過ぎたかもね。改めて考えるとなんで買ったのかよく分からないものもあったし」

 

 一通りショッピングモール内を巡り歩いて、増えすぎた荷物は現在貸しロッカーに預けてある。

 八一とのお買い物が楽しかったのでついつい買い過ぎちゃった。荷物が増えすぎたので帰りはタクシーを呼ぶ必要がある。けど楽しかったからいいよね。

 

「最後に買ったカエルの置物とか、あれは本当に必要だったのか今でもよく分からないんだけど」

「いいのよあれは、可愛かったから玄関に置くの。それよりもあれだけ探したけど対局時計は見つからなかったわね。もっとオシャレな対局時計が欲しかったんだけど」

「さすがに対局時計は一般的なやつしか売ってないんじゃないかな……オシャレな対局時計なんて見たことないよ俺」

「でも腕時計や置時計や壁掛け時計にはデザイン性が高くて高級なものとかアンティーク調のものとか色々あるのよ? だったら対局時計だってオシャレなのがあっても良くない?」

「そりゃまぁ……つっても対局時計はさすがに需要がニッチだからなぁ。それにどれだけオシャレなものがあっても結局大会とかでは一般的なやつしか使えないだろうし」

「むぅ……」

 

 オシャレな対局時計、見つけたら釈迦堂先生に教えてあげようと思ったんだけど。

 あれだけ自らのセンスとデザインに拘りがある先生の家でも対局時計だけは無機質でシンプルなものを使わざるを得ない。ただアンティーク調のごてごてした対局時計があったらあったでいざ使う時に戸惑いそうだけど。

 

「このショッピングモール内で買うべきものは買った。残りは家電だけだ」

「家電はここじゃなくて隣にある家電量販店で買うのよね?」

「うん。その方が品揃え良さそうだからね。炊飯器に電気ケトル、あとオーブントースター、それとアイロンに加湿器と……色々買わないとね」

「まだまだ結構あるわね。そんなに沢山買って持って帰れるの?」

「た、多分……それにあそこの家電量販店は配送サービスもやっていたはずだから、最悪全部それで」

 

 ふむ、まぁ八一の細腕に頼り過ぎるのは危険だからそれが正解ね。

 家電、家電かぁ……ペア家電なんてのはさすがに無いかな……とか考えながらワッフルをもう一口味わっていると、ふいに八一が真っ直ぐ私を見つめてきて。

 

「でね、でね、銀子ちゃん」

「なに?」

「残りの家電を買い揃えたらさ、いよいよ同棲の準備が完了するね!」

「そうね」

「いよいよ待ちに待った同棲が始められるってことですね! 楽しみだなぁ!」

 

 そう言ってにこやかに笑う八一。

 うーん、良い笑顔だ。わざとらしいわねと指摘するのも馬鹿らしくなるぐらいのイイ笑顔。

 

「……まぁそうね。今更水を差すような事を言うつもりも無いし、いいんじゃない?」

「だよねだよね! んで具体的にいつから同棲始めよっか?」

「いつから? って言われても……」

「じゃあいつでも?」

「………………」

 

 い、いつでも……ってわけじゃない、けど。

 でも、まぁ……ここまで八一が嬉しそうにしてくれるのなら……いいのかな。

 

「……八一に任せる。好きに決めて」

「任されました! やっぱ記念すべき初日は二人で一緒に始めたいからなぁ、両方の予定が空いている日にしようか。銀子ちゃん、ちょっとスケジュール見せてよ」

「……ん」

 

 私がスマホのスケジュールアプリを開いて見せると、同じように八一も自分のスマホのスケジュールを表示して見比べ始める。

 という事で同棲開始日は八一任せになった。きっと私達のスケジュールが一致する日での最速になるだろう。恐らくは来週ぐらいだろうか……いよいよ心の準備をしなきゃ。

 

「じゃあ明日ってことで」

「……え、明日?」

「うん明日。ほら、これ見ると明日は銀子ちゃんの予定が空きになってるからさ」

「え、でも八一の予定が埋まってるじゃないの。仕事か何かがあるんでしょ?」

「あぁ大丈夫。それは今すぐリスケするから。絶対に動かせないって程の予定じゃないからへーきへーき」

「………………」

 

 ……スケジュールが合う日。

 じゃなくて、向こうからスケジュールを合わせてくるとは。

 

「俺に任せるって言ってくれたよね?」

「………………」

「ね?」

「……その顔、ムカつくから止めて」

 

 うぅ、同棲急進派の八一の行動力を舐めていたわね……反省。

 ともあれ、そういうわけで……どうやら早速、明日から同棲が始める、らしい。

 

 ……こ、心の準備が、まだ。

 

 

(続く)

 

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