美しき城へ続く道:「大和姉妹の事情」編 作:Whiplash
--ライブが進んでいく。
年々インフレしてるとすら感じられる、今年「も」猛烈だった暑さを象る楽曲たち--「Orange Sapphire」や「SUN♡FLOWER」、あるいは「いとしーさー♥」も含まれるだろうか。いずれもCDでの歌唱メンバーが1人ずつしかいないが、前者2つはもはやそれが例え0人でも演奏される定番曲である一方、「いとしーさー♥」まで押さえられていたのは、オーディエンスに意外だと受け止められただろうか。また、「銀のイルカと熱い風」も前半戦のうちに演奏されたが、こちらはOrange Sapphire以上に季節もメンバーも気にせず演奏される曲ではあるので、ここに含めるのは多少ためらわれるか。
夏は夏でも納涼感を感じさせるのは小学生組のいない「なつっこ音頭」*1からの多田李衣菜・向井拓海・二宮飛鳥による「でれぱ音頭*2」、「とんでいっちゃいたいの」辺りであろう。
それらの、ライブのタイトルに沿って選出された曲たちに加えて演奏される、バラエティ様々なソロ曲や、メンバーがそろっているユニットの曲もいくつか演奏され、前半戦はあっという間に過ぎ去っていく。
前半の締めくくりとなる「イリュージョニスタ」が始まろうかというところで、ライブ運営スタッフがPastel*Palettesの5人を呼びに来る。
「時間ですので準備お願いしまーす」
「「「「「はい!」」」」」
気が付けば、本番の時がやってきていた。おのおの緊張の色はあれど、出来への不安はない。手ごたえはリハーサルで掴んだ通りだと、その顔が物語っている。
移動した先では、この後休憩中に出される台の、その上に乗った楽器たちのチェックをまず行う。本番中ということで音は出せず、改めて配線等に問題がないかだけを見ることになる。各自でチェックを行ったあと、再度麻弥が確認し、異常がないことを認めると、ちょうど、レギュラーの出演者全員による
『--Have a Good Night♪』
が聞こえてきたところであった。
「後半戦も、今まで以上に盛り上がっていこうね!」
ピンク髪の少女--城ヶ崎美嘉が休憩前を締めると、演者たちが一旦舞台裏へと消えていく。入れ替わるように、楽器を乗せた台の移動が開始される。
「ただいまより、10分間の休憩に入ります--」
裏では、休憩に際してのアナウンスが入る。時刻は18時10分を回ったところであった。
舞台裏へ戻ってきた面々から、「期待してる」、「お客さん、驚くよー」、「気合です」といった声がかけられる。亜季などは、もはや言葉は不要か、麻弥たちに向けてサムズアップだけをして送り出していた。
台の設置が終わり、出音のチェックをしているさまが聞こえてくる。必要があればスタッフに紛れて出向く必要があったが、今回は大丈夫のようだ。
それらが止むころには、間もなく休憩終了であることを告げるアナウンスが聞こえてくる。
「私たちも円陣、しよっか」
アナウンスが聞こえてくる裏でふと、彩がそのようなことを提案してくる。
「……別にいいけれど、急ね」
「うん、円陣いいね!さっき見ててるんっ♪てきてたんだ!」
「そういえば、剣道部でも団体戦の前などにはやっていますね、ブシドーを感じます!」
「バンドらしくていいと思います!」
4人から、おおむね快諾を得られたところで、彩が、遅れて4人が、手をかざす。
「まんまるお山に……」
「パスパレー!」
彩の声に割り込んだのは、他の3人と比べて乗り気でなさそうだった千聖で--
「「オー!」」
「ブシドー!」
円陣はいささか、締まらないものになってしまったが、彩を筆頭に緊張はほぐれてくれた様子だ。
---
「--それじゃー、そろそろ次の曲に行ってみよー」
「次の曲は……」
『この曲です!』
休憩明け、客席に向けてウェーブを要求するなどの煽りを入れつつ短いトークを挟み、次の曲の始まりを告げると、一旦照明が落ちる。観客は、休憩の間に搬入された楽器群を見て、この後の展開を察している様子だ。
「しゅわりん☆どり~みん」のオフボーカル版が流れだし、ステージ上のモニターには
「Today's Guest...」
「Pastel*Palettes」
と、Pastel*Palettesのロゴが表示される。事前に幾度となく告知されていたことからこの登場は予期されたものであったようで、観客席からはしっかりと歓声が起こる。
まだ照明がつく前に5人は所定の位置につく。照明が再び点灯するまでに軽く音出しをして、チューニングに問題がないことを確認する。各自、準備が終わったことを確認し、全員で顔を見合わせあい、うなづく。そして、改めて麻弥とイヴが見つめ合う格好になり、麻弥がドラムスティックを打ち鳴らしながら
「5、6、7、8!」
4カウント。リハーサルと同様のルーティンから、曲が開始される。
まずはスネアとショルダーキーボードの音が同時に鳴り出す。よく言えばきらびやか、悪く言えばキンキンとした、鉄琴のような電子音を下支えするように、スネアロールが響く。高速なロールが4小節続き、ラスト1小節の4拍目直前に日菜が、2弦の5フレット辺りからグリッサンドでさっと往復する。それに彩の「せーのっ!」という掛け声が被さる。
『ファイファイファイオー!ファイファイファイ! \ねばーぎぶあっぷ!/ ファイファイファイオー!ファイファイファイ! \ねばーぎぶあっぷ!/』
5人でのユニゾン。あわせて、歌詞通りの合いの手が観客席からも飛ぶ。日菜・千聖ともに、イントロから動きがやや多く、歌いながらで弾くのはなかなか難しいフレーズがあるが、日菜は軽快に、千聖もどうにかリズムを崩さずに弾くことが出来ている。
『雨、雪、嵐が吹く どうしようもないそんな日は』
日菜の跳ねるようなアルペジオをバックに、彩のボーカルが響く。『そんな日は』に重ねて、「そう!そう!あるね!」と、コーラスと観客席からのコールが重なる。
『とにかく進むしかないの!アイドル人生は甘くないね…』
ここも、最初のフレーズとコード自体はほぼ同様……なのだが、このフレーズでは日菜は2小節ごとにハンマリングとプリング*3を活用した、速いアルペジオを使用している。『アイドル人生~』からは、素早く通常のコード弾きに戻してもみせる。いずれも、オーディション合格の少し前というギターの開始時期からすれば驚異的とも言える技術だ。
『泣きたいときは、泣けばいいのです。』
Bメロに入り、日菜のアルペジオは3弦付近を使用し、フレットもボディ寄りの位置を選択することで先ほどよりオクターブ単位で音が上がる。それをバックに彩が歌い、フレーズの末尾に合わせて「エ~ン!エ~ン!エ~ン!」と、4人のコーラスと観客からの合いの手。
『怒ったときは、怒ればいいのです。』
続けて、フレーズの末尾に合わせて「プン!プン!プン!」と、4人のコーラスと観客からの合いの手。
『ガマンするのは』
ここでは合いの手として「カラダに毒ですっ!」とコーラスと観客席からのコールが重なる。
『歩けないなら 後ろから押してあげる!』
再び日菜はコード弾きに切り替えた後、ハイポジション側からのグリッサンドを合図に、5人、そして観客からの
『\せーのっ!/』
で、サビへと突入する。
『5人ピースでうまれた☆[ほし]たち 夢のてっぺんまで \コッチだよ/って引っぱって』
サビは再び5人でのユニゾンに変わる。千聖は左手の細々とした動き、日菜はスタッカート交じりのコード弾きを要求されながら、そしてAメロBメロでは出番の少なかったイヴも、ここではボーカルと同じ音域に入り、楽器隊側でのボイシングにおける高音部を確保しながら、の歌唱となり、急に鼻歌を歌いださんばかりの日菜はともかく(若干スタッカートの怪しい瞬間はあるが)、千聖とイヴは何とか両立しているというところだ。なお、これまでと比べ圧倒的に高速な楽曲なのにも関わらず、涼しげな顔でドラムボーカルをこなす麻弥については考えないものとする。
『支え合い、許しながらも進むんだ!』
ここは「5人ピース~」と同じ進行。フレーズの締めでは、この曲の要所要所で挟まる日菜のグリッサンドがあり、
『(チャチャチャッ♪)拍手で (チャチャチャッ♪)おめでと! 言える日までは…☆』
「チャチャチャッ♪」はこの曲用の同期音源にあるコーラスだが、音がやや小さめで、観客からの合いの手が入ることが前提になっている。この会場の大部分でも、観客によるコールしか聞こえてこない。
『(チャチャチャッ♪)みんなで (チャチャチャッ♪)目指すよ サイコーへ!』
「チャチャチャッ♪」のところでは一瞬楽器の音を消して、ボーカルだけになるようにしなければならないが、麻弥が少しだけ出音を大きくしてアクセントをつけ、4人ともそれなりに揃ったタイミングでミュートすることが出来ている。麻弥による工夫はあれど、短期間で必要なクオリティまで持っていけたのは練習と、場数を踏んできた成果と言えよう。ここでも、音源のコーラスに合わせて、観客によるコールが聞こえてくる。
1番が終わると入りの緊張が解けてきて、観客のコールや歓声に気づいたのか、彩の表情が綻ぶ。
「ありがとうございます!Pastel*Palettesでーす!」
歓声。
ウェイティングルーム。
「彩ちゃん、カタさとれていいカオしてんじゃーん☆」
「あの白鷺千聖がバンド組まされてベース弾いてる、って言うから興味本位で見てたけど……本番でもだいぶ様になってるわね」
LIPPSの5人がやいのやいの言っている傍らでは、
「リハーサル通り出来てる……よかった……フヒ」
「あの子も……楽しそうにしてる……」
「バンドという形でやるにはきらびやかすぎるけど……悪くないね」
衣装はメタル用ながらまだ「オフモード」の輝子と、金髪で片目が隠れた少女--白坂小梅、頭の方々にピンクや水色のエクステをつけた少女--二宮飛鳥が、それぞれに所感を述べあう。
別の一角では、
「おっし、ファンからの声援もいい感じに来てんな!」
「発表してからアタシらでしっかり宣伝したかいがあった感じだね~」
「麻弥ぁ……いいぞぉ……今日も輝いてるぞぉ……」
炎陣の面々がいつも通りのはしゃぎよう。
そして--十時愛梨と、この日の出演者のなかでも一際年上と思われるボブカットの女性……高垣楓--多忙ゆえに定期ライブにはめったに現れない、事務所を代表する2人が真剣な表情で見守っている。
さてこの「SURVIVOR ねばーぎぶあっぷ!」については、多くを語る必要はないだろう。何しろ、プライムタイムのシメに流れた曲である。1週間少々前に放映された特番の直後に、各種サイトで配信が開始され、特番によるタイアップをおこなった分しっかりと売上等への反映があったという。楽曲としては、これまでライブで演奏してきた曲や、「はなまる◎アンダンテ」と比べると、ギターとベースの音がより全面に押し出された曲である。が、この種の曲も今となってはアイドルの歌としては珍しくなくなり、しっかりアイドルポップスの範囲内に収まっている。観客側に求める合いの手がこれまでよりずいぶんと多いことも、アイドルの曲らしさを助長しているだろうか。その一方で、テンポはこれまでの曲と比べ物にならないほど速く*4、特番で行ったようなサバイバルと、アイドルの道の険しさを絡めた歌詞と合わせて、これまでとは別の方向性を打ち出そうという試みがなされている。
閑話休題。
『(チャチャチャッ♪)みんなだ ありがとう☆』
2番も終わり、間奏へと入る。サビ終わりでテンポを落とすような歌い方になり、間奏に入ると一旦拍子も3/4に変化する。日菜は左手をネックの中央付近に触れさせてのピッキングハーモニクス*5。それに合わせ、イヴもこの曲で一貫して使用してきた音色でバッキング*6をしていく。
再び4拍子に戻ると、今度はショルダーキーボードの音がエレクトリックピアノに変わり、こちらがメロディラインを紡ぐ。入れ替わるように日菜のギターはバッキングとなるコード弾きに一旦切り替わる。10秒ほどそれが続き、イヴが弾き終えると歓声。その歓声をかき消すように、今度はギターソロが始まる。曲自体の速さもあってか、例によって「アイドルの曲」としては浮いてしまいそうなほど激しいプレイであるが、相変わらずギリギリのところで曲との調和を崩さずにいる。その激しさを保持したままに、曲はクライマックスに入る。
『5人いるには訳がある 乗り越えられない試練なんてない! さあ、いくぞ~っ!』
短いがこの曲にはいわゆる「Cメロ」があり、ここがそれに当たる。やや早口で歌うこの部分も基本的にはユニゾンなのだが、「さあ、いくぞ~っ!」は音源では5人で歌っているところ、彩が叫ぶように呼びかける。
『\フレッ!フレッ!パスパレ~!/』
呼びかけに応えるように、歌詞、そして5人の声に合わせて、観客たちの合いの手が飛ぶ。
「ありがとー!」
日菜のバッキングギターとイヴのメロディラインによるフィルインをバックに、彩が感謝の叫び。そして--
「せーのっ!」
楽器の音が一瞬消えて、Pastel*Palettesと観客一体での掛け声。そして最後のサビへとなだれ込んでいく。ここからは1番と同様の展開、歌詞、コールだが、クライマックスとあってより会場一体となっての演奏に変わっていく。
『(チャチャチャッ♪)目指すよ 』
「サイコーへ!」
次に備えて、彩のみで声を張りつつ、勢いはとどまることなくサビが終わる。そしてそれに被せるように、
『ファイファイファイオー!ファイファイファイ! \ねばーぎぶあっぷ!/』
まず4人と観客で。
『ファイファイファイオー!ファイファイファイ! \ねばーぎぶあっぷ!/』
そして彩も合流し、5人と観客で歌う形を3回繰り返す。それも終わると、麻弥のはテンポを落としながらタムを回していき、日菜と千聖がサスティーンをしっかりかけ、麻弥が軽くかき回しをする。イヴも締めにかかるよう短く音を鳴らし、最後は日菜のグリッサンドで幕を下ろす。
大きな歓声。
ウェイティングルームも、拍手と……
「いいぞぉ麻弥ぁ!」
「やっかましい!」
ひとかどの、賑わい。
「大きな声援ありがとうございまーす!改めまして……」
彩が左右、後ろと見て。
「「「「「Pastel*Palettesです!」」」」」
曲が終わった直後と同様の大きな歓声。
「ええっと、発表がちょうど3週間前のフェスで、この「SURVIVOR ねばーぎぶあっぷ!」なんて初出し、配信して1週間ちょっとだったから、どれくらいパスパレやこの曲のこと知っててくれてるか不安だったんだけど」
「コールおっきかったねー、るんっ♪ってしちゃった」
「イヤモニつけてましたけど、声援がしっかり聞こえてきて……心強かったです」
「みんな、ありがとー!」
三度の歓声。
「そ・れ・で・も、今日初めて私たちを見る人もいるみたいなので、メンバー紹介をしてこうと思いまーす!」
歓声に交じって、「噛むなよー」などと聞こえてくる。
「もー、そんな簡単には噛まないです!それじゃあまずはギター、ひきゃ……氷川日菜!」
「るん♪ってする声援よろしくね、氷川日菜でーす!」
先の「SURVIVOR ねばーぎぶあっぷ!」における、間奏入りでのハーモニクスからのタッピングを再度披露する。
「ドラムス、大和麻弥!」
麻弥も、同曲の冒頭を多少アレンジしたスネアロールとタム回しを行い、最後はシンバルを叩いてすぐに手で掴んでミュートした。
「上から読んでも下から読んでもやまとまや、大和麻弥です!」
「続いてキーボード、若宮イヴ!」
先ほど日菜が弾いた箇所の直後にあるキーボードソロの前半部を弾く。
「若宮イヴです。みなさんの声を力に変えます、ブシドー!」
「そしてベース、白鷺千聖!」
イントロを弾くと、どこを弾いているのか気づいた一部の観客からコールが起こる。
「ありがとうございます。白鷺千聖です、最後まで楽しんでいってください!」
千聖が自己紹介すると、やはり子役としての知名度なのか、歓声に交じって千聖ちゃーん、などという声が他の面々よりはっきりと聞こえる。
最後は例によって千聖が引き継いで、
「それじゃ最後はボーカル!」
「まんまるお山に彩りを、丸山彩でーす!」
歓声の中に、噛んじゃったねー、などと聞こえてくる。
「あーちょっと!なにもなかったんだからね!」
1曲やった後とあって紅潮していた顔をさらに赤くする彩である。観客席からは実際に噛んだときよりも大きな笑い声。一つ深呼吸。
「さて、楽しい時間もあっという間で……次で最後の曲になります!」
えー、まだきたばっかー、などの声が飛び交う。
「この曲は、あの……パスパレが始まってからずっと歌ってきた曲で、この間のフェスでも最後に歌ってきたので、みんなも知ってくれているんじゃないかな、って思ってます」
おー?っとの観客席からの声。
「それでは聞いてください。「パスパレボリューションず☆」!」
イヴがエレクトリックピアノの音でメロディラインを奏でる。裏では同期用音源からアコースティックギターがバッキングとして鳴らされている。4小節、この構成が続いた後、音源からブラス音が聞こえてくるのに合わせ、ドラム・ベース・ギターも曲に入ってくる。
日菜は1小節分のストローク、続く1小節ではバッキングのような刻むコード弾き。そこからはイヴに代わってメロディリフを弾き始める。
『I・MY・ME!I・MY・ME・MINE! I・MY・ME!I・MY・ME・MINE!』
彩以外の4人でのコーラスと、やはりライブでの知名度があるのか、先ほどよりしっかりと観客席から聞こえる合いの手が重なり合う。歌を意識してか、ギターとベースは「I・MY・ME!~」のリズムに合わせたタイミングで音が鳴らされ、バックではイヴのショルダーキーボードから電子音のリフが奏でられる。
『自信をなくしたら ひろって(届けよう) いつでも(わたしがねっ!)』
ギターは一小節分ずつ、軽くサスティーンをかけたコード弾き。ベースは八分のピック弾き。キーボードの音は彩のボーカル付近の音域で第二の主旋律とでも言うべきメロディラインを奏でる。最初期の曲であるためか、コーラス優先で同期音源からの音も多く、先の「SURVIVOR ねばーぎぶあっぷ!」と比較すれば技術的には負担の小さいものになっているだろうか。「届けよう」と、「わたしがねっ」は4人でのコーラス、それに重ねて観客席からの合いの手も飛ぶ。
『きみが持つヒカリを知るひとは 神様だけじゃないよ?覚えててっ♪』
楽器隊の変化は、ギターが八分刻みになったことと、ドラムのリズムくらいか。そして「じゃない~」のところで、観客席からは「せーのっ、はーいはーいはいはいはいはい!」と、いわゆる「警報」が発せられる。
『わたしときみの色あわせたら ナイス☆カラーができるかな???』
日菜のギターは跳ねるようなアルペジオになり、千聖のベースも主に裏拍を取るものになる。麻弥がリズムの中心をハイハットからシンバルへ移行させる。観客からは手を叩きつつ「おーっ、ハイッ!」と、いわゆるPPPHと呼ばれる合いの手が入る。
『信じるスパイスかけたら 心がキュンと溶けだして 輝きだすキズナたちが生まれたの…』
イヴが音色をブラスサウンドに切り替えて、引き続き第2の主旋律というべきメロディラインを紡ぐ。観客の合いの手も「ッハイ!」を裏(偶数)拍に入れるものに変わり、最後にブラス音に乗せた軽快な「フッフー!」とともに、サビへとなだれ込む。
『パスパレボリューション☆☆☆ どんなことが起きても』
5人でのユニゾンに変わる。ベースはAメロと同様に戻る一方、初期の曲ということなのか、歌いながら、ということで日菜のギターは四分のコード弾きになっている。(細かなタイミングや強弱の付け方は独特ではあるが)
『自分(らしく) カラフルにミラクルを!』
「自分」と「カラフルに」は彩が一人で、「らしく」は彩以外の4人と観客で、「ミラクルを!」は5人で歌う。
『想いの色がパレットにダン!ダンシング!』
ここは一貫して5人でのユニゾン。
『おんがくの(しゃらら~ん♪)』
彩のボーカルに、1拍置いて、4人での「しゃらら~ん♪」、それに重ねて観客席からも「しゃらら~ん♪」の声が飛ぶ。
『キャンバスに』「1!2!」
『夢のうた』「3!yeah!」『描こう!』
彩のボーカルの裏拍に、4人と、観客席の合いの手が重なった声が被さりつつ、1番が終わりを告げる。
歓声とともに、日菜のギターソロ。そして再びの『I・MY・ME!I・MY・ME・MINE!』コールが2回。
再びウェイティングルーム。
「これが、その……「仕切り直し」のライブで披露した曲、だったっけ」
「はい……その前のこともあって、他人ごとじゃないって気持ちになって、ライブを見に行ったんです……」
二つ結びの長い黒髪の小柄な少女--中野有香の問いかけに、こちらも黒髪だが、ベリーショートの、有香よりは背の高い少女--白菊ほたるが応える。
そう、この曲の話をするにはPastel*Palettesというユニットの成り立ちに触れざるを得ない。Pastel*Palettesのことを多少なりとも認知していればおおよそみな知っていることではあるが、このユニットは元々いわゆる「エアバンド」路線であることを伏せて売り出される予定であった。しかし--デビューイベントでのトラブルと、それに伴う告知なき「エアバンド」路線の露見、そしてそれに伴うバッシングから、大きな方向転換を迫られたこの一件。今となって、アイドルがアイドルポップスを自ら演奏する、という路線が整ったと言えば聞こえはいいが、その実は、Pastel*Palettesの面々が所属する事務所の行き当たりばったりの体質を、嫌というほど思い知らされるこの一連の騒動によるものでしかない。
バッシングを跳ね返しての仕切り直しに向けて動くその最中で提供されたこの曲は、ユニット名(略称)を曲名の一部に冠し、自らを、聞くものを勇気づける存在として定義するものであった。それは皮肉にも、当時の逆風一辺倒なメンバー達自身を、まずもって勇気づけるものとなっていたのかもしれない。
曲としては、他の曲と比較してバンド形態で演奏することが意識された作りになっている以外は、普通のアイドルポップスである。楽器を演奏する4人がコーラスで入るところは簡略化されているところが多かったり、キーボードはほぼ単音で構成されていたり、ベースが作るリズムはかなり単純なものになっていたり、配慮らしきものも(どの段階でそうなったかは不明だが)見受けられる。曲の構成もポップスの王道構成をなぞるごく単純なものだ。
この後バンドメンバー入れ替えを繋ぐMCなどで出番が近い面々が出払っていて、このウェイティングルームにいる面々もごく少人数になっている。その中で2人が祈るように、そしてそのそばで、ショートの黒髪の女性--鷹富士茄子が、笑みをたたえながら見守る先では。
『自分自身を』「1!2!」
『つらぬいて』「3!jump!」『GO!』
観客と渾然一体となって生き生きと、本来の曲の意図を反映したパフォーマンスを見せる5人の姿がある。
構成の単純さもあり、今どきのアイドルソングとしてはこの曲はかなり短い部類に入る。2番が終わり、短いギターソロが再び始まる。例によって、オーバードライブの効いたテレキャスター型特有の音はアイドルポップスとしては苛烈なものであるが、しかしここでもギリギリ浮くことはない。
『パスパレボリューション☆☆☆ どんなことが起きても』
10秒少々のギターソロが終わると音が一旦、彩のボーカルと、イヴのボーカルとユニゾンしたキーボードだけになる、いわゆる「落ちサビ」特有の展開となる。『起きても』のタイミングで残りの3人も演奏を再開し、ボーカルも5人でのユニゾンに戻る。
あとは1番の繰り返しとなり、
『キャンバスに』「1!2!」
『夢のうた』「3!yeah!」『描こう!』
最後ということでより気合の入った合いの手を観客から受けると、音源のキラキラ~と形容される音に、最後にストリングサウンドに切り替わったイヴのショルダーキーボードの音が重なり、クレッシェンドしながら曲が締めくくられる。
歓声の中、やり切った、という達成感をにじませる表情のままに、彩は他の4人をぐるり、と一瞥し、せーの、の掛け声をかけて--
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
エピローグ:7/6 19:00投稿予定