美しき城へ続く道:「大和姉妹の事情」編 作:Whiplash
実は、先の貸会議室が入居しているビルの1階にあるレストランに、16人と大所帯になったこの面々を1か所に納めきれるテーブルがあり、亜季たちはそこへ向かうこととしたのであった。
実際にレストランに入ろうとするとウェイターが一瞬ギョッとした様子を見せたものの、そのまま想定通りに大テーブルへと案内され、着座する。一辺に6~7人が掛けられるようなコの字型のテーブルで、厨房側の一辺にPastel*Palletesの面々がコの端から彩・日菜・千聖・イヴ・麻弥という順に、対面には炎陣が座り、残りにindividuals、ドリームアウェイ、統括プロデューサーが座る形となった。
「さてさて、どっから話を聞いたもんかね。奴さんはある程度は事情を知ってるようだけども」
「とりあえず……麻弥がアイドルになった経緯辺りでいいんじゃねえか?亜季もそこはちゃんとは知らねえみたいだけどさ」
「ええ、あくまでざっとしか聞いておりませんね。ちょうどいい機会でありますしな、では麻弥、よろしく頼む!」
メニューから思い思いに選んだ料理を注文し終えたところで、亜季たちの方から話を切り出すことにした。ただ、そう広くはない「メジャーデビューしたのアイドル」の輪の中にいる同士である以上、わざわざ自己紹介から入るというのもおかしな話だ。向こうが、国内最大規模のプロダクションに所属するこちらを知らないとは全く思えない。そして亜季たちも、アイドルバンドという形態を取って、結成からの数奇な経緯を辿って、赤丸急上昇を遂げたこの5人組を無視することなどあろうはずがなかった。そうでなくても大和姉妹という関係があり、まゆとイヴ、夏樹と麻弥のように以前に接点があったらしい面々もいるのだ。
したがって、初めからもう少し込みいった話から入ろう、と拓海が提案することになったのはわりかし、当然の流れだった。
「元々、事務所にはスタジオミュージシャンとして所属することになっていたんですけどね--」
と切り出して、淡々と語っていく。
この大和麻弥アイドル化までの流れは、Pastel*Palletesを少しでも知っているのであればまず知っている経緯であるから、本来はすべて省略すべきであるが、御存知のない場合にも配慮して端的に書いていけば以下の通りとなる。
・Pastel*Palletesはいわゆる「エアバンド」としての活動を見込まれていたが、さすがにドラムは誤魔化しが効かないためにちゃんと演奏した経験のある人物を立てなければならない
・この「ドラム役」選定がおおいに難航したことから、所属したてのスタジオミュージシャンであった麻弥をひとまずの代役として立てることになった
・しかしよくよく他のメンバーが確認してみれば、衣装とメイク次第でアイドルとしても充分やっていけるルックスだと発覚した
・満場一致という名のメンバーの独断により、Pastel*Palletesの正規メンバーとして迎え入れられることになった
この話に、
「ははぁ……私も身内の贔屓目ながら、アイドルに見劣りしない素質はあるものと確信しておりましたが、それを見いだされたということでしたら、実に喜ばしいことでありますな!」
といたく感心しきりの亜季に、
「いやいや、亜季さんと姉妹で……っていうことならこのルックスもすっごい納得ですよー」
と彩が乗っかり、そこに
「姉妹でアイドル--うん、るんっと来るー!」
と日菜が、あたしもお姉ちゃんはいるけど、さすがにアイドルになるつもりはなさそうだから、と付け加えつつ返していく。
「氷川……姉……そうか、Roseliaだもんな……」
「ああ、そっちはそっちで姉妹でバンドのギターやってるんだっけ。既にウチのアーティスト部門でも名前が挙がってるんだってな、Roselia」
「フフ……まだ結成3ヶ月なのに……すごいもんだ……」
と、輝子と夏樹が脱線気味にちょっとした事務所の内情を出すと、日菜はさっすがお姉ちゃんだー、と自分のことのように喜んでみせるのだった。
そうしていささかビジネスめいたものも交じった話題が消化されると、今度は大和姉妹のプライベートな話へと移っていく。
「亜季姉は家を出てしばらく経っているんですよね、高校出てすぐですから、もう3年くらい。お知り合いのミリタリーショップにいたとしか聞いてなくって、急に街頭のビジョンに映る亜季姉を見た時はそりゃあもう、驚いちゃって。亜季姉はずっと前からこういう気風の人でしたけど、さすがにアイドルとは結びつかなかったですね……エヘヘ」
「聞いたとこじゃスカウト受けた時色々あったらしーよ?」
「イロイロ、ですか?気になります!」
「だいぶ無茶を言った、とは聞いてるよ。何なのかはいまだに教えてくれないケド」
「アレは若気の至りというものでありましてな……さすがにあまり語りたくはないのです」
と、亜季の方に矛先を向けたと思えば、しばらくすると
「そういえば麻弥もちょっと前から一人暮らしとは聞いているけど?」
「まあ……そこは2人とも後押ししてくれて。誰かがあっちに残ってたならまだしも、みんな東京住まいなんだし」
「それもそうかな……」
「2人分かれての一人暮らし……といっても、亜季チャンは入社時に前の家引き払って今は寮の個室割り当てってだけだし、麻弥さんも夏樹の話聞くに一人暮らし始めるころには多少なりとも収入があったって話だったか」
「そうですね--」
と、麻弥の方の話題が出ることもあった。麻弥のプライベートについては、どうやらPastel*Palletesの間でもごく限られたことしか分かっていない様子で、麻弥以外の4人はしばしば初めて知ったと言わんばかりの表情を見せてきた。
それから、料理がやってきて、みな一通り食べ終わった後も、この後の集合場所が近いこともあってしばらく話を続けていた。
「福岡って昔撮影でも結構怖いことがあって、どうしても治安の悪いイメージが拭えないけど、どうなのかしら?」
「うーん……場所によりけり、ですね。ジブンが住んでたあたりは自衛隊の基地があるんで、たまに脱走とかがあって騒ぎにはなりますけど、基本的には静かなベッドタウンです」
「ジエイタイ、ですか?」
「えーっと、前に聞いた話じゃ春日出身って話だったっけ?」
「Exactlyでありますよ涼!福岡最大、ひいては国内でも重要な拠点として、1個師団が配備されております!」
料理が届く前に一通り、姉妹の話は終わっていたこともあり、店を出るまでは2人の出身地である福岡にまつわる話題が中心になっていたのであった。
店を出ると集合時刻15分ほど前、集合場所となる仙台駅前広場は歩いて数分ということもあり、一団は少しだけ早めに到着することができた。
広場の傍を通る道路には、既にフェスの会場でもある仙台市立運動公園総合体育館へ移動するためのバス、計5台が到着していた。バスの座席は午前中に渡された説明資料の中に含まれており、残念なことではあるが、亜季たちとPastel*Palletesは大きく離れた別のバスに割り当てられていた。
既に他のアイドル達は乗り込み始めており、それでは会場で、とだけ告げると、一団はそれぞれのバスへと向かっていくのであった。
広場から目的地の体育館までは45分ほどかかるとのことであった。出発時に簡単なアナウンスがあっただけで、運営側から特に何かが用意されているというわけでも無かったことから、バスの中では各々での雑談に興じることになる。それは炎陣の面々も例外ではない。ただし、話題は先のレストランでの会話を踏まえながらのものとなっていた。たとえば
「……で、アイドルとしての麻弥、ちゃんをどう思ってんだ?」
と、炎陣の面々に向けて拓海が尋ね、
「アイドルがどうとか気にしないでやるほうが、受けは良さそうな感じだと思ったかな」「曲はいかにもなアイドルポップスだけど、演出と演奏、器用に両立してる。そのうちドラムボーカルとかもやってきそう」
「普段の身だしなみはもーちょい気にしてもいいかもーだけど、こうして近寄ってみるとめっちゃキャわたんだったー☆」
「身内のことですから多少なりとも贔屓目はありますが、すでに充分にアイドルしている、と思いますよ?」
といった具合で、そこからPastel*Palletesの曲自体の話になったり、夏樹が「麻弥ちゃん含めてみんな頑張ってるとは思うけど、あの事務所がなぁ」と言ったのをきっかけに、Pastel*Palletesの所属事務所の話になったり。
そうこうしているうちに、バスは体育館のある運動公園の敷地内に入り、バス用の駐車場に5台ともに停車した。そこからゾロゾロと降りてくるアイドル達の流れに飲まれる形になり、Pastel*Palletesの面々と再度合流することは叶わなかった。
そこから、会場下見はつづがなく進められた。本番まで3週間ということで、アリーナ自体は貸切にして誰もいない状態になっているが、まだステージは影も形も見当たらない状況ではあるが、ゲネプロおよび本番の関係者受付のフロー、控室の位置と予定されている割り当て、アリーナと、設置予定のステージについて、おおよその広さの説明と確認、などといったことが80分ほどかけて行われていた。その中で控室の割り当てを確認したところ、自ら、あるいはバックバンド、何らかの形で楽器を使用するPastel*Palletes、炎陣、individualsについては同じ部屋に割り当てられることとなっていた(なお、ドリームアウェイはすぐ隣の部屋が割り当てられていた)。
下見が一通り終了し、仙台駅へ戻るバスの準備が整うまでの20分ほど、控室として割り当てられた体育館内で2番目に広い会議室に、亜季たちは通されていた。入ってみると、既にPastel*Palletesの面々が先に入室し、各々で東京に戻った後について確認をしていた。相変わらず、引率責任者と思われる人物はどこかに行ってしまっているようで、姿が見えない。炎陣統括プロデューサーは、
「あの子らまーた放っておかれてるのな。下見の間も離れて話をしてんのが見えたけど、何をしに来たのか分かってないんじゃねえのか……」
とため息をつきつつ、相変わらず上意下達さえなっていない様子が透けて見えるPastel*Palletesの所属事務所のことを思う。
かの事務所の評判は率直に言ってよろしくない。老舗とは言えない程度ではあるが、それなりの歴史があるにも関わらず、噂に聞く入れ替わりの激しさからか、特に現場管理という面で基礎的な部分が出来ていないことを露呈するようなトラブルをPastel*Palletesの一件以前からしばしば起こしていた。責任者もキーマンも不透明なままプロジェクトが進んでいて、連携して企画を進めていたこちらにしわ寄せが行ったことも1度や2度ではない。この2、3年はあくまでマネージメントに徹する方向に舵を切りなおしたという話だが、直近で2度、活動方針の転換やダブルブッキングによるドタキャンを食らった側からすれば、それも遅々として進んでいないように思われる。「マネージメントに徹する」ということをはき違えているように見えてならないのだ。
そのため息が、Pastel*Palletesの耳にも入ってしまったようで、
「正直、慣れたくはないですけど、よくあることって思うようにはなっちゃってますね」
と、彩は苦笑いしてみせるのであった。
やがて運営スタッフから声がかかり、行きと同じ座席に乗り込んでバスが進んでいく。
16:05頃に仙台駅に着くと同時に、この日の行程はすべて終了、流れ解散となった。Pastel*Palletesの面々は挨拶もそこそこに駅へと姿を消していった。10分後の新幹線に乗り込み、19:00からのレッスンに間に合わせなければならなかった、という話を聞いたのは、だいぶ後になってからのこととなった。
次回更新予定→5/10 16:30