美しき城へ続く道:「大和姉妹の事情」編   作:Whiplash

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熱量の伝わるよう書けてるといいなぁ。


思い思いのパステルカラー

 8月に入って最初の週末、ついに「夏の偶像」が開幕した。1日目は例年通りの大盛況に終わり、いよいよ2日目、大和姉妹の出番がやってくる。

 Pastel*Palettes、炎陣ともに仙台市内のラジオに出演していたものの、あちらは2日前、こちらは前日と、出演した日時からして異なっており、結局4週間前の顔合わせ以降面と向かって話をする機会がないまま、亜季と麻弥は本番を迎えることとなっていた。

 10:00の開演を前に、段取りと機材等の最終チェックが簡単に行われたのち、出演者たちは割り当てられている控室へと通された。開演まで50分。

 

「やっと、話をする時間ができたね」

 

後から控室にやってきた亜季はそう切り出しつつ、麻弥のそばにある椅子へと座る。

 

「うん。メールでやり取りはあったけど、一応近くにいたはずのリハでも時間取れなくって。前々から、スケジュール的には分かってたけど」

「と、も、か、く、短くてもこうやって時間がとれてよかったよ。メールでは元気そうだったけど、それってユニットがうまく回ってることには直結しないわけだし」

「フヘヘ、亜季姉もミュージカル出た時そういうことあったっけ。で、こんな時に話って何かあったの?」

 

麻弥は急に話を持ちかけてきた姉へ、少しばかり訝しんで疑問を投げかける。亜季はそれに、いやあ、とPastel*Palletesの他のメンバーを一瞥した後、

「この間の顔合わせじゃパスパレの普段の様子って聞けなかったから。仲が悪いようには見えないけど」

 

と、声のトーンを大きく落として返していく。

 

「彩殿だっけ?あの子以外はアイドル志望でパスパレに来たわけじゃないでしょ、麻弥含めて」

 

と問われると麻弥は渋りつつも頷いて、肯定の意を示す。

 

「何をモチベーションにして活動してるのか、どうしても気になっちゃうよね」

 

亜季が、この間ちゃんと答えてあげられなかった自分が言えた義理じゃないけど、と付け加えて苦笑しつつ、2人は本題へと入っていく。

 

「ジブン含めて、今はそういうの考える段階にない、のかな……?」

「それは、結成して日が浅いから?」

「それもあるかも、だけど……まずは目の前のお仕事に全力でぶつかるので精一杯、みたいな」

 

エヘヘ、と恐縮する素振りで、頬を掻きながら力なく笑う麻弥。亜季は一息ついて、

 

「今は、それでもいいのかもね」

「そう、なのかな……」

 

 気がつけば、開演まで10分少々。Pastel*Palletesスタンバイお願いしまーす、と運営スタッフから声がかかり、5人が席を立つ。

 

「それじゃ、しっかり見てるからね!」

 

亜季の言葉に、はいっ、と力強く応えて手を振り、麻弥も控室を出ていく。気合いだ気合いー、だの、盛り上げ隊長頼むよーん、だの、炎陣の他の面々からもはやし立てるかのような檄が飛び交いつつ、5人は送り出されていった。

 

-------------------------

 

 10:00ちょうど。客席、ステージ、双方の明かりが一旦落ちる。後方にあるスクリーンには、この日の出演ユニットを紹介するVTRが流れている。

タイムテーブルが書かれていることもあってか、ここではあえて、出演順ではなく読みのあいうえお順で紹介がなされていた。そのため、出演順では最後も最後のindividualsや炎陣が早々に登場していた。

 そして、すべてのユニットが紹介され終えると、

 

「And... First Act is...」

 

大写しになる5人のプロモーション用画像。(事務所の公式サイト等でもよく使われているものだ)

 

「Pastel*Palletes」

 

そして歓声とともにスポットライトが彩へ向けて点灯しーー

 

『しゅわしゅわ はじけたキモチの名前 教えてよ』

音源から流れるストリングと、ショルダーキーボードからのグロッケン、クリーントーンのギターに合わせ、スポットライトに照らされた彩が「心中にとどめ置けない恋」を炭酸になぞらえた歌詞を歌い上げ始める。

『きみは知ってる?しゅわしゅわ! どり☆どり~みん yeah!』

今度はステージ全体が照らされ、同時にリズム隊の音も鳴り始める。そしてここでは彩以外もボーカルに参加し、さらに客席からも「しゅーわしゅーわ!どりーどりーみん!いぇい!」とコールが巻き起こる。

 

 先の『きみは知ってる?』から、ギターサウンドは日菜が使用するテレキャスター特有の「ジャギジャギ」感を強調したオーバードライブに変わり、それはイントロに入っても変わらない。ともすると典型的なアイドルポップスというべき曲調からは浮いてしまいそうであるが、そこは音量やフレーズによって奇妙にも調和がとれるように整えられている。

 イヴのショルダーキーボードは音色がブラスサウンドに切り替えられ、イントロでのメロディラインを奏でる。

 

控室。里奈が一人、観客のコールを後追い気味に唱えている一方で、

「音源は聞いてたけど、ライブでもあんな音出しに行くんだな」

「テレキャスが今にも曲調を叩いて壊しそう……違法スレスレ……フフ……」

「こんな危ないチョイスを前に平然としている……魂からロックなんだろうな」

バンドサウンドに一家言ある涼、輝子、夏樹が、日菜の音作りに対する度胸に称賛を送っていた。

 

曲は、彩が横ピースのポーズをキメたところでイントロを終え、いわゆる「Aメロ」に入る。ここからは再び彩の歌声が戻ってくる。

『お気に入りのグラス眺めながら そそぐ(cha,cha!) さわやか(cha,cha!) しゅわりん☆サイダー』

始めは再びクリーントーンに切り替えられたギターに乗せて彩の歌声、『そそぐ』は日菜と千聖、『さわやか』は麻弥とイヴがそれぞれ歌い、合いの手を残りの3人で入れていく。『しゅわりん☆サイダー』は再び彩が歌いつつ、合いの手が「たのし~!るんるん」と、他の4人、そして観客からあがる。

 そこから、『しゅわりん☆サイダー』でオーバードライブに切り替わったギターとともに、先ほどと同様の流れ。2人で歌うところでは他の3人と観客から「ぴょぴょん!」と合いの手が飛んでくる。

 

『きみの目 見ていると なんだか こころがパチパチ』

 いわゆる「Bメロ」に入り、音のつくり自体は変わらずも、「しゅーわしゅーわ!どりーどりーみん!」と、4人が観客とともに行うコーラスに至るまでタメを作る形になり、

『しびれて…アツい~!?』

合わせてコーラス「あーちちちちちのちー!」、そして一瞬の間。

 

『しゅわしゅわ 氷のダイヤに揺れながら そっと』

そこからサビに入り、5人でのユニゾンに変わる。キーボードは引き続きブラス音を奏で、第2のメロディラインとでもいった様相で、そこに重なるようにいわゆる「ウィンドチャイム」の音が鳴り、炭酸がはじけるイメージを強調していく。

『小さな 泡を 弾ませてる』

Aメロの締めと同様に、日菜と千聖、麻弥とイヴ、最後に彩の順でメロディを歌い、各所それ以外の面々や観客により合いの手が入る。そして最後の「わーくーわーくー」から間髪入れずに、

『キモチがあふれて 不思議と とてもドキドキで』

再びのユニゾン。そして、音源からのグロッケンの音とともに、彩の典型的な「アイドルの声」に乗せて

『甘くなるの…』

と紡がれる。観客もここが声の出しどころとばかりに「しゅーわしゅーわ!どりーどりーみん!いえい!」と、4人のコーラスに合わせて叫ぶ。『yeah!』にタイミングを合わせて、彩は再びの横ピース。(さすがに他の4人はそれどころではなかった)

 そして2番へ向かう10秒ほどの間奏。「イマドキのアイドルソング」としてはそうは珍しくないギターソロを、相変わらず曲調を壊すギリギリの音で日菜が弾いていく。

 

 そこからの流れはおおよそ1番と変わらない。しいて言えばAメロのはじめはドラムを最小限にして、ギターとグロッケンのような音、そして彩のボーカルに絞っていたことか。

 さてここまでの流れでおおよそお察しのことであるとは思うが、やはりこの曲--「しゅわりん☆どり~みん」については、まだ実際に演奏するのが前提になる前、すなわちいわゆるエアバンドとして売り出そうとしていた時期のものということで、ごくごく典型的な「アイドルポップス」と呼ぶべきものだ。もう少し正確に述べるならば、この後演奏されるであろう他の曲を含めて、Pastel*Palletesの曲は総じてアイドルポップスの枠組みから大きく逸脱するものではない。ギターサウンドはこれまでに聞いたとおり、奇妙な調和、と形容せざるを得ないくらいにポップスの枠から外れ加減のものではあるが、これはおおよそ氷川日菜のセンスに従うところのものであって、曲の方が初めからこの音前提で作られているわけではない。これは今の時点でPastel*Palletesが発表しているすべての曲で同じことが言える。

 では、彼女たちがわざわざバンドサウンドとしてそれらの曲を紡いでいるのはなぜだろうか。実態は事務所の行き当たりばったりの帰結だ、と言ってしまえばそれまでではあるが、あえてアイドルポップスをバンドスタイル--それもメンバー自身で演奏しにいく試みは、少なからず他の芸能事務所に影響を与えつつある。

 「バンドスタイルのアイドル」自体は珍しいものではない。しかし、そうしたユニットの楽曲は生演奏であることに引きずられる形でポップスの枠外--ロック、あるいはパンキッシュなものに向かっていってしまうことがほとんどであった。むしろそれが新鮮ということで、徐々にオーディエンスに受け入れられるようになり、今やその延長線上では、バンドサウンドを強く意識したコンセプトの(バンドスタイルでない)ユニット、あるいはアイドルの楽曲、という業界内の一つの文化が形成されている(さすがに星輝子のような存在は例外だが……)。そしてこの「バンドスタイルのアイドル」をはじめとして、いわゆるガールズバンドのムーブメントがこのアイドル文明がで巻き起こりつつある。これらのガールズバンドブームについては、背景にいるクリエイターによる、かつてのロック全盛期への回帰を求めた「アイドルへの抵抗」という面が強い。「バンドスタイルのアイドル」たちがラウドなサウンドを志向することになるのはこうした側面があってこそだろう。

 しかしPastel*Palletesはバンドとして形になった経緯もあって、それとは趣を大きく異にする。アートワークまで含め、「アイドルユニットがなぜか楽器持って演奏してる」という奇妙な状況を描き出すことに(今のところは)成功しているといってよい。それが意味するところは、彼女たちが駆け抜けるだろうこの先の軌跡によってしか、明らかにはならない。

 

閑話休題。

2番が終わると、この4分弱の曲の中でもっとも長い、25秒ほどの間奏が挟まる。ここではまずイヴのキーボードがメロディラインを紡いだ後、日菜がもはやロックに片足を突っ込んでいるのでは?と疑問を呈したくなるギターソロをプレイ。最後はしっかりとミュートし、続く最後のBメロにはその残響さえ残さない。

 

『きみの目 見ていると なんだか こころがフワフワ』

そこから日菜のひとストロークとともに彩の歌が再開され、「しゅーわしゅーわ!どりーどりーみん!」の合いの手。観客からは「おー はい!」の掛け声。

『ときめき…しちゃう!?』

合わせてタメを頂点に持っていくような「しーせんがきょろきょろー」のコーラスと観客からの合いの手。

『しゅわしゅわ 氷のダイヤに揺れながら そっと』

ここからは1番の歌詞の繰り返し。歌とともにギターのアルペジオが強調され、一瞬、さらなるタメが作られ、『氷のダイヤ』からはこれまでのサビ同様のユニゾン。

『小さな 泡を 弾ませてる』のところも再び日菜と千聖、麻弥とイヴ、最後に彩の順で歌いつつ、それ以外のメンバーのコーラス、そしてそれに合わせた、興奮最高潮の観客によるコール。そして再び5人でのユニゾン、そして--

『甘くなるの…』

「しゅーわしゅーわ!どりーどりーみん!いえい!」

大きな歓声。アイドルポップスでの典型的なブラスサウンド。最後までポップスという概念と喧嘩せんばかりのリードギター。それらを包んでまとめるドラム。ささやかに余韻を残すブラスサウンドとともに、曲は終局を迎えるのであった。

 

 歓声冷めやらぬ中、勢いそのままに次の曲が始まる。その最中に控室で--

「スタジオミュージシャンしてたって話の通りか。他の面々と違って歌いながらでも涼しい顔してやがる……っと、そのまま次の曲か」

「実はギターも弾けたりするのです、使う機会は当面ないでしょうが……おっと、集中集中」

麻弥の一挙手一投足に目を向け続ける拓海と亜季であった。

 

 さて曲の方である。始めはベースと、先ほどよりやや歪みを増したギター音がリズムを形成する。そこにいかにもシンセサイザーらしい、というほかない電子音で、キーボードが1小節ごとにオクターブを上げてリフを奏でていく。3小節目からはドラムも混ざりつつ、静かに、シリアスな幕開けだ。最初に入るボーカルも

『ゆら・ゆら・ゆら・ゆら Ring-Dong…』

と、曲名の一部を3回繰り返す形を取る。ただし、始めは彩が右手を頭より高いところに上げ、左右に振りながら降ろす、という振り付けとともに歌い、続いて千聖が演奏しながら、 最後は他の3人が、という順である。

 ともすれば、今度こそアイドルポップスを逸脱するのではないか、という前奏が明けると--

『きみを映した きれいな姿は “わたし”で見てた まぼろしだったの』

まずは音源からのドラムパターンと、オルガンを思わせるキーボードの音だけを頼りに彩が、

『ため息泳ぐ くもり空見上げ 与えられたレールを ひとり歩く』

他の楽器も演奏に戻り、引き続きベースを弾きつつ千聖が歌う。

 次の歌詞も彩、千聖の順で交互に、どこか吐き捨てるように。

『がんばれの言菓も』

『ねじれて届かなくて』

『さなぎのまま 閉じこめた羽根』

『素直に』

『なれずに』

彩の方から少し、千聖へと近づく。

『miss you…』

3度、彩、千聖、他の3人、という順で繰り返し、そして2人声を合わせ--

『ちぐはぐ lonely heart』

 

 --先の「しゅわりん☆どり~みん」とは異なり、クールでどこか綱渡りな状況を表す歌詞と曲調。それでありながら、リードはもっぱらキーボードの役割でギターの主張は抑えられている。歌に入ると曲自体は案外しっかりとアイドルポップした仕上がりだ。

 一方でこの歌詞、どうにもアイドルポップとしてはシリアスに過ぎる……が、同時にここまでの流れからは、曲一つの中で紡がれるドラマ性を予測させる。最近のアイドルの歌でも割とよく見かける方式だ。まだ世上に広く伝わってはいないが、どうも歌詞はレコーディングギリギリになって一気に書き上げられたものであることが示唆されている。時期から見て、ちょうど白鷺千聖が、さる著名な演出家の主宰する劇団の舞台に出演していたころであり--有り体に言ってしまえば、この歌詞は千聖のことを書いたもの、らしいのだ。

 

『こころ 揺らし 幕が ひらく きみの声で』

5人のユニゾン……ではなく、彩・千聖、他の3人と交互に歌い上げ、最後にユニゾン。

『ひらり生まれ』

『ひらり飛んだ』

『おんなじ』『世界』

『つよく』『今』

『息をして』

彩と千聖が交互に歌いながら、彩は千聖のポジションに近づき--

『真実にふれて』『溶けた』『かたいヴェールも』『ひかりとなって』

歓声とともに、背中合わせになり目配せしてそれぞれのパートを歌う2人。そこからの2人のユニゾン、日菜イヴ麻弥の3人でのコーラス。

2人が今度は徐々に離れていきながら、それぞれのパートを歌っていく。

『わたしたち』『ひとつに』

最後は5人のユニゾンで。

『美しく包んだ』

 

 1フレーズ終わった後の間奏でも、キーボードがストリング音でのリードをし続けている。おもむろにショルダーキーボードのポジションを変え、空いた左手でボタンを押す。すると先のしゅわりん☆どり~みんのブラスサウンドと似た別の音が左手から奏でられだした。

「……あの子ってパスパレ入ってから楽器始めたんだよな?」

「そのはず……器用なことする……フヒ」

初めてキーボードに触れて3か月半--それも仕事や学業の合間で練習している、という経歴に思えない上達ぶりに、思わず舌を巻く涼と輝子であった。

 

2番に入ってもパート分け等の流れは変わらない。違いはよりキーボードによるリードに寄った音作りと、今度は初期のポジションよりも千聖から離れていく彩の位置取りだろうか。距離だけではなく、2人の視線も大きく外れた状態がサビ前までしばらく続き、サビへと入る『うらはら lonely heart』でようやく2人が向き合う形となる。

 1番のサビでは背中合わせだった2人が、今度は彩の『伝えあう愛を』から見つめ合うように向き合って歌い、再び観客席からは歓声。そのまま彩は曲開始時のポジションに徐々に戻っていき、サビが終わる。

 

 間奏はまず、冒頭のメロディラインをキーボードでなぞるところから始まる。オクターブを変えて右手、左手、右手、左手と4回の繰り返し。メロディラインのリズムが危なっかしく揺らぎそうになるが、、そこに麻弥のドラムが寄り添って導く。

『ゆら・ゆら・ゆら・ゆら Ring-Dong…』

キーボードのリードに従いつつ、再び曲の冒頭と同様の3回繰り返し。パート分けもはじめと同じだ。

ドラムとキーボートがタイミングを合わせて音を出すブレイク。そのまま最後のBメロへ。

 そこからはこれまでの流れと同様であったが、目線は『あべこべ lonely heart』の歌詞に従い、彩と千聖で互いにどこか上手く重ならないように向け合っている。

『こころ 揺らし 幕が ひらく きみの声で』--再び、1番の歌詞に戻る。ただし、ここで音は一旦バックの音源とキーボードのみに絞られた。

それを保ったまま、徐々に近づく彩と千聖。

2番同様、ごく近い距離で顔を向けあう形で、2人は『真実にふれて』からの詞を歌い上げる。そのまま、今度は距離をほぼ変えずに、サビの終わりまで2人並んで歌を紡ぎ続けていた。

最後も、『ゆら・ゆら・ゆら・ゆら Ring-Dong…』を同じパート分けで3回、そこからキーボードで同じメロディを4回。最後の最後はギターがリードを取る形で締めくくり、2曲目もおおよそ無事に終え、5人のファンからと思われる歓声がしばし続いた。

 

 

 

「応援ありがとうございます!」と、彩から観客への感謝でMCが始まる。

 

「しゅわりん☆どりーみん、ゆら・ゆら Ring-Dong Dance、2曲続けておおきゅりしぃ……しましたぁ」

「あー彩ちゃんまーた噛んでるー」「やーめーて!」

 

日菜がはやし立て、千聖はくすくす笑い。観客席からも失笑が漏れる。彩は顔を赤らめつつもそれらを遮るように--

 

「はい、はい!じゃあ、私たちを今日初めて見たって人も……どれくらいいますかー?」

 

会場の5、6割ほどから「はーい」と声が上がる。

 

「じゃあ、みんな自己紹介しよっか!こういうのって順番あるんだっけ?」

 

麻弥の方を向く彩。麻弥の「ギターから、最後に彩さん、ですかね」という声が、小さくマイクに乗る。

 

「なーるほどー……じゃ、はじめるね!まずはギター!氷川日菜!」

 

しれっと、この後演奏されるとある曲のフレーズを奏でる。

 

「氷川日菜でーす!るんっ♪ってくるライブにしましょー!」

 

いささか野太い歓声。それがやむかやまないかというところで。

 

「それじゃあ次は……ベース、白鷺千聖!」

 

ゆら・ゆら Ring-Dong Danceの冒頭部分の演奏を挟む。

 

「白鷺千聖です。私たちのパフォーマンス、最後まで楽しんでいってくれると嬉しいです!」

 

Pastel*Palletes所属以前からの知名度もあってか、先ほどよりやや大きめの歓声。

 

「キーボード、若宮イヴ!」

 

同じくゆら・ゆら Ring-Dong Danceから、こちらは間奏部の一部を弾いてみせる。

 

「若宮イヴです!ブシドーの心で最後までがんばります!」

 

モデルをしていることもあってか、前の2人よりは黄色い歓声も聞こえてくる。

 

「ドラムス、大和麻弥!」

「上から読んでも下から読んでもやまとまや、大和麻弥です!」

 

麻弥だけは先に自己紹介をした後、最近のライブでのルーティンにしているらしい、スネアから、フロアとタムの交互打ち、2つのタムを8打ずつ、スネアに戻り、最後はクラッシュシンバル、そしてそれを手でミュート、という流れのソロを見せる。演奏しているジャンルの都合上ライブ中には目立つことのない彼女の技術へ、惜しみない歓声が送られる。

 

 

 

 そう、それは控室からも。

「まーーーーやーーーーー!!カッコいいでありますよーーー!!!」

「だーーーー!もうちょい声抑えろォ!」

「ショーコ、アキってあんなんだったっけ……?」

「さすがに私も初めて見る……フフ……」

 

 

 

「そして最後にリードボーカル……まんまるお山に彩を♡丸山彩でーす!」

 

紹介もラストということで、マイクを通した彩達の声の残響をかき消さんばかりに歓声が轟く。

 

「楽しい時間はあっという間で、次の曲が最後になってしまうんですが--」

 

えーっ、だの、まだ来たばっかー、だのという声が飛び交う。

 

「その、まえ、に!Pastel*Palletesからのお知らせをさせてくださーい!」

 

おーっ、と曲中や先の自己紹介とは違う歓声が上がっている。

 

「まずは、最新曲のはなまる◎アンダンテが好評配信中です!」

 

後ろのスクリーンに映し出されるジャケット画像。

 

「さらに、新曲「SURVIVOR ねばーぎぶあっぷ!」の発売と……」

「それに連動した特番の放送が決定しました!」

 

切り替わったスライドに別のジャケット画像が映り、続いて「連動特番の放送決定!詳細は続報をお待ちください!」と、文字のみのスライドが映される。再びの歓声。おめでとー、といった声も交じる。

 

「実はロケもまだこれからなので、詳しい内容などについては続報をお楽しみに!ということでよろしくお願いしますね?」

 

はーい、との観客席からの返事。スクリーンが消灯される。

 

「そしてなんと、この後のフェス終盤でも、私たちに関するお知らせがあるみたいです!おたのしみに!」

「それでは最後まで盛り上がっていこうね!せーの」

「「「「「パスパレレボリューションず☆」」」」」

 

一瞬の消灯。再び照明が点いて--

 

「「「「「ありがとうございましたー!」」」」」

 

「この後も、楽しんでいってください!それではMCのみなさんよろしくお願いしまーす!」

 

-------------------------

 

 1番手のアーティストに向けたものとはとは思えない万雷の拍手と歓声の中、舞台袖へ捌けていく5人。

 

 5人が運営スタッフの案内に従って、控室へと戻ってきた。ここでも待ち構えていた、フェスTシャツ姿の炎陣、individualsから拍手で迎えられ、

 

「すっごいカワいかったじゃーん☆」

「いいもん見せてもらったよ、こりゃアタシらも負けてらんないねえ」「ああ!」

「アタシにも負けない気合、見せてもらったぜ!」

「ウチらも、これ以上に盛り上げないとな」「そうだね……しっかり、スイッチ入れてかなきゃな……」「やるくぼになりますけど……」

 

称賛の声が飛ぶ。

 

「みなさん……ありがとうございます!」

「ご期待に添えて、なによりです」

「お褒めの言葉、嬉しいです!ブシドーです!」

「ありがとーございまーす!」

 

互いに称え合う姿を見つめながら、亜季はふと思う。この控室が、着替え等を行うための衣裳部屋的な役割も与えられていることを考えても、この場にPastel*Palletesの関係者を一切見かけないのは妙だ。それどころか今日会場入りしてからずっと、かの事務所のスタッフを全く見かけていない。一体あっちの関係者たちはどうやって彼女たちの様子を確認しているのか。どうやって彼女たちを評価しようというのか。

 

 ともあれ、

 

「いいパフォーマンスだったよ!お疲れ様、麻弥」

「うんっ!」

 

Pastel*Palletesは切り込み隊長としての役割を十二分に果たしたのであった。




次回投稿予定:5/24 16:30(書き溜めの状況により延期の可能性あり)
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