美しき城へ続く道:「大和姉妹の事情」編 作:Whiplash
自らのパフォーマンスを終え、individualsと入れ替わるように控室に戻った炎陣の5人を、控室で見ていたPastel*Palettesとドリームアウェイの面々が出迎える。
「おつかれさまです!」
と真っ先に声をかけてきたのは彩であった。
「おう、お疲れ!」
「おつかれぴょ~ん」
等々、彩たちへと返すと、亜季は麻弥の方へと近づいて、
「ちゃんと見ててくれたかな?」
「うん!」
「シンデレラバンドの面々に気が行ってたりはしなかった?」
「そ、それは大丈夫、ちゃんと亜季姉たちの方を見てたって……」
「ホントに?じゃあ……」
と、実際に何を見ていたか訝しんだ亜季は、いくつか炎陣のパフォーマンスについての質問をしていく。3つ目辺りで既に答えに窮し始めた麻弥は結局、6つ目ほどで観念し、
「うう~ごめんなさい~……やっぱり自分で楽器をやる身としてはどうしても……」
「まあ別にそれで怒ったりはしないからさ、何も私たちの方だけに、麻弥にとって有用なヒントが落ちてるわけでもなし」
アタシらから得るもんないって言われんのも悲しいけどなー、と拓海が茶々を入れてくるのを無視しつつ、
「まあちょうど、一番タメになりそうなユニットの出番だし、それ見ながらまた考えよっか」
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炎陣が控室に戻った辺りのタイミングで、煽りVTRが流れていた。
「Today's Headliner ...」
「individuals」
ロゴと、撮影用にだけ使っているという意匠を統一したコスチュームの3人が映し出される。
それが消えると数秒、完全に暗転したところから、下手側にピンスポ。シンセサイザーからのストリングスと、音源側のハープの音からなる数秒のイントロ。
『こんにちは お元気にしてますか? 私は今もりのくにで暮らしています』
引き続きシンセサイザーが奏でるストリングスの音と、音源側のグロッケンがバックに流れる。そこへ、へにょっ、としか表現のしようのない、アイドルの歌としてはやや特異的な声が乗る。序盤の歌詞から読み取れるように、この曲では乃々を思わせる少女が森の中へと隠遁した後、「あなた」宛へ送った何通かの手紙、という体の歌詞となっている。このよう体裁をとったな曲としては、さるシンガーソングライターの「風に立つライオン」という曲が著名であるが、こちらは実在したとある医師(あるいはそれをモデルにした人物)と、日本に残してきた恋人のやりとりという体であって、あくまで歌い手は語り部に過ぎない。一方で、こちらは差出人が乃々を思わせる少女ということもあって、全体として歌詞は私小説めいた雰囲気を醸し、乃々の歌唱も自らの心情をモノローグとして語るかのようになっている。
しばしその編成でのオケが続いた後、ピアノも合流して、
『正直ムリって 何度も 何度も思いましたけど それも今はいい思い出です』
両手が空いていれば、指先をつつき合わせているのではないか、と思わせるように左手を振りつつ、身体を左右に2度振り、一旦胸の前に左手を置く。そこから胸の上で手を2度回し、人差し指を立てて一旦前に突き出す。一旦引っ込めて、今度は手を広げて前に出し、頭上までゆっくりと振り上げる。目線も、手の動きに合わせて上下させる。
ハープは2度鳴って。
『都会の公園を走るリスさんのように ビルの屋上を渡るツバメさんのように--』
まずリスの手つきをイメージさせるポーズから左右に身体を振り、続いて鳥の羽ばたきを表す手振りをしながら左右に身体を振る。腕を狭めて前に出し、気合を入れるかのようなポーズ。
『虹の光に包まれたきらめく世界で--』
歌詞としては、身の上話、近況報告が終わり、どうもこの頃は隠遁を始めて日が浅いのか、サビではかつて「あなた」と過ごしていた時のことを、感謝とともに綴っていく。「彼女」は誰が自分を取り巻いていた「やさしい世界」を誰が形成し、守り抜いてきたのか、それに薄々勘づき始めている中で、あえて別れを選んでいたのだ。
そして手紙の締めとして。
『照れくさいから お手紙ですみません』
一瞬、音が消えるか消えないか、というほど小さくなり、
『もりのくにから愛をこめて ありがとう ありがとう』
器用にも両手でハートを作りそのまま、1通目の手紙は、ここで終わっていた、という体で1番が締めくくられる。
ここから、30秒余りとやや長めの間奏に入る。編成としてはサビまでと変わることはなく、メロディラインはストリングスが、その後ろではピアノが鳴っている。余談であるが、この曲中を通して基本的には流れ続けるストリングスは、作曲者の希望もあって、すべて実際に奏者を呼んで演奏させているという。内訳としてはヴァイオリン6名、ヴィオラ2名、チェロ2名の計10名であり、CD等に付属のライナーノーツにも、全員の名前が掲載されている。今回はさすがにその面々を呼ぶことは叶わず<<ref>>検討の俎上にも載らなかった。主にスペースの問題ではあるが。<</ref>>、どこまで再現できるかは、SHUNの腕にかかっている。
間奏の締めくくりでは一旦すべての音が消え、JOEによるアコースティックギター(アコギ)の音、正確には、アコースティックシミュレーター(アコシミュ)を通したエレキギターの音のみがアルペジオを奏でる。JOEはアコースティックの方も弾けるクチである、とのことであるが、今回は設備との兼ね合いもあって、アコシミュを利用しての演奏となっている。
控室。
間奏中、拓海が何か叫びたそうにうずうずしているのを、他の4人がたしなめる中で、亜季と麻弥は何かを話すでもなく、乃々の聞き入っていた。ただ、間奏の締めのところでは麻弥が「あ、そこはアコシミュなんすねー……」と呟くのみであった。
『何度も手紙を奥ってすみません 私はもりのくにで生きています』
ギターに加えて、ピアノもアルペジオで合流してくる。歌詞は1通目とうって変わって「生きています」から始まり、「もりのくに」がこれまで過ごしていた「やさしい世界」とは全く異なる厳しい環境であることを示唆している。振りとしても胸の前で左手を何度か握るような動作になり、上手くいっているわけではない様子を表す。
そこから、1通目同様の近況報告が入る。食糧1つ確保するために、生傷が絶えないさまを、左手で膝を擦る動作で表す。
『私のいなくなった街はどうですか?』
オケからギターの音が消え、これまで同様のストリングス中心の編成に戻る。ここでは「あなた」の近況を尋ねる歌詞になっている。街の様子は変わりないだろうと推測し、それを踏まえて、「あなた」の様子も変わりないことを希求する、という内容だ。
しかし、本当に変わってないほうが、「彼女」の希うことに沿っているのだろうか?
歌詞の中でも「いい、のかな…」とあるように、何かを抑え込んでいるかのような内容になっている。
先ほど、似た体裁をとっている「風に立つライオン」との相違を、視点の違いという形で述べてきたが、それ以外は同曲とのオマージュと思われる要素がいくつも指摘されている。2番冒頭、ギターの音をメインにしている部分があることはその典型例といえるだろう。
したがって、「風に立つライオン」を踏まえて、この歌詞のようなことが乃々と誰かとの間に実際に起きていたのではないか?という疑問は、発売当時のインタビューでも自然となされることになった。これについて、乃々本人は「雑誌には出せないような顔」で強く否定していた、と当時の記事に記載されている。歌詞については、乃々と担当した作詞家が何度か直接やり取りをしながら制作されたとのことである。本人と作詞家による回答で一致するところを取り上げると、この当時乃々が書いていた物語に基づいて練り上げられたもの、ということになる。一方で、「もりのくにから」を制作していた当時は、アイドルとしてのあり方に悩んでいて、書いていた物語にもある程度それが反映されていた、とは乃々の弁である。
これを踏まえれば、この「いい、のかな…」も、(「彼女」が意識してないにせよ)反語的に捉えたほうがいいのではなかろうか、と考えられる。
閑話休題。
2枚目の手紙は、都会というものが「彼女」の気風に根本的に合わなかったことが続いて述べられている。そこからサビに入って、馴染めないなりに生きていけた、すなわち「「やさしい世界」を誰が形成し、守り抜いてきたのか」について、「ようやくやっと 気づくことができました」と今度は確信を得たところで、また両手ではハートを作り、愛をこめて、と綴って2枚目の手紙は終わっている。
3通目の手紙は途中から。毛虫に襲われ、怖くなって泣いてしまったことを、乃々が目の下を擦る振りをしつつ、告げている。
『こんな時にあなたがいたらって何度も何度も思いました』
と、2枚目にあったように、「もりのくに」の厳しさに当てられ、「あなた」をより直接求め始めている様子が見える。そして--
『街は街で大変で もりはもりで大変です』
『同じ大変でも 街にはあなたがいて もりにはいないから』
とうとう、「もりのくに」の厳しさに耐えかねかけていることを文面にも率直に表すようになる。それを伝えることに一つ、躊躇を見せつつも、
『一度、遊びに来る、というのはいかがでしょうか』
熊が冬眠から覚めて、カエルが繁殖期を迎える4~5月ごろに、「あなた」から「もりのくに」を訪ねてほしい、と文中で提案してくる。
『迎えに来てほしいとか そういうのじゃないですから…』
照れ隠しか、本心を伏せたいのか、「もりのくに」が、いかに素晴らしいところであるかを伝え、見に来てほしいだけである旨を言い立てている。<<ref>>ツンデレか?<</ref>>そして、最後の手紙の締めは、こう綴っている。
『また会える日を楽しみにしています。』
『最後まで聞いてくれて ありがとう』
『ありがとう』
一礼。
こうして、実に7分20秒と「アイドルが歌う曲」としては恐ろしく長尺な1曲が幕を下ろし、照明も一旦フェードアウトする。
観客席からは、アイドルライブには珍しく歓声はごく少なく、拍手の音が大きく響くのだった。
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またまた控室。
「うぉああああああああああああああああ!!もりくぼぉぉぉぉぉ!!!」
とうとう押さえきれなくなった拓海が叫びだす。それを引き気味に横目で見ながら、麻弥以外のPastel*Palettesの面々が、乃々の内面をすべてさらけ出すかのようなパフォーマンスに、惜しみなく称賛の拍手を送る。
その裏で。
「どうだった?」
「すごい頑張ってる……確かストリングスって音源では生演奏だったから、それを1台のシンセサイザーであそこまで再現してるとなると」
「いやそこではなく……」
ズレたところで感心する麻弥と、それに呆れる亜季である。
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『強く深くひっかいて 見える全て Claw my heart』
電子感を前面に押し出したシンセサイザーとともに歌い出し、そこからドラムとギターも合流する。「ひっかいて」、「Claw」では美玲が右手を前に突き出し、指は手のひらと指先が平行になるよう曲げる。
イントロは歌い出しと同じ音のシンセサイザーがメロディとなるリフを2度繰り返し、ドラムのフィルインから、JOEのリズムギターが同じ音の三連符、ボーン、とベースが鳴って、ギターはまた同じ音程でより細かく刻み、ベースが歯切れよく三連符のメロディ、引き継いでHEYのリードギターが同じ音の単音4つで締める。
『大人しく懐いてばっかじゃ退屈だし』
ベースの音が同化して、聞こえてくるのはほぼギターとハイハットのみという中で再びボーカルが入ってくる。
『縛られた過去の中から飛び出そう』
徐々にハイハットの音が大きくなり、スネアロール。続いてギターとシンセサイザーが1拍半ずつ鳴らす、オクターブ違いのユニゾン。そして冒頭同様の引っ搔くポーズとともに、客席と一体になっての--
「Year!」
再び、ギターとシンセサイザーのユニゾン。メロディも同じ。
『分かってるひとりきりでは生きれない』
ベースとリズムギターについては先ほどと同様のコード進行を繰り返すが、ここからはHEYによるリードギターが交じってくる。
『ならどうしてこんな想いが生まれたの』
締めのロングトーンの裏ではギターとベースの音が消える。パンキッシュな音から、シンセサイザーの電子音(微妙に音が変わって、くぐもったようなタッチになった)にクラップが交じる、ダンスミュージックを思わせるような音作りに変わる。
『闇夜なんて振り払って 爪痕残してやるッ』
ボーカルは美玲自身の声を加工して作られたバックコーラスにしっかりと重ねる。そこからスネアロールを挟んで、ボーカルからドラムまで同期して音を鳴らす。最後にフィルインとして鳴ったベース音の余韻が残る中で--
「さあ吠えろ!」
『ノイジーネイルで今をかき鳴らせ 刺激的な夢を描こう 何度でも強く深くひっかいて 朝焼けまで進め』
サビに入っても、ボーカル以外のメインを司るリフはシンセサイザーが奏でている。その裏でギターがユニゾンしてせわしなく動く。
『Here and now』
サビ終わりではギター・ベース・シンセサイザーがタイミングをシンクロさせて1小節1音を伸ばし続けることで展開に一瞬のブレーキをかける。そこからはイントロと同じリフをシンセサイザーが奏で、締めにおけるリズムギターの三連符、ベース一音、ギターによる三連符と同じ音程の細かい刻み、ベースの三連符のメロディ、リードギターによる単音4つ、という展開も同じ。
さてこの「Claw my heart」、同じ事務所のアイドルが歌うソロの中では後発の部類に入る曲であるがその分、本人のパーソナリティを反映させるという点では、これまでのノウハウがしっかりと生かされていると言えよう。ジャンルとしてはさしずめ「ピコリーモのスクリーモ抜き*1」であり、この後間違いなく歌われるだろう∀NSWERも下敷きになっていることは言をまたないことだろう。ただし∀NSWERと違ってこちらの場合は、先のBメロにも表れているように、ここ数年のメタルコアやオルタナティブロックと呼ばれるジャンルでのトレンドに沿って、ダンスミュージックからの影響も強く受けている。これは、individuals以外の、白坂小梅、的場梨沙とのラフ&フィアーズや藤本里奈とのShock'in Pink!、最近では砂塚あきらとのMy-Style Revoといったユニットからのイメージに基づくところが大きいようだ。
さて曲の方は2番のサビが終わり、間奏に入るところだが、この間奏が先ほど述べた「ダンスミュージックの影響」を最も色濃く受けているところである。まず、リードギターが長さ2小節のリフを繰り返す裏で、EDMでよく用いられる、サイレンにも似たキューン、という音(ビルドアップ・ライザー、あるいはライザーサウンド)が、徐々にキーと音量を上げつつ響いてくる。一旦強くエフェクターを強く効かせたギターの音だけになった後、再びギターが別のリフを奏で、ライザーサウンドも先ほどよりキーを上げて、ジェット音のような音も交じって急勾配で盛り上げにかかる。盛り上げ切ったところでベースが3音。そして……
『Don't stop 獲物をrock on
捕まえるぞ Like a lone wolf
もう逃がさない Gothic night
Monster Attack 喰らえShow time
Break out 首輪はStandard
Roar ついてこい そうだStand up
3、2、1 shout! 振り向かずに叫ぼう』
右手で右耳を押さえ、首を左右に傾げてラップパートであることを示す。ここでは2小節ごとに1文になっていて、「Stand up」までは例えば「rock on」と「lone wolf」のように、2文1セットである程度韻を踏むように作られている。
裏ではギターとシンセサイザーが極端ではないものの低音を鳴らし、ドラムも意図的にテンポを落としたかのように鳴らすことで、メタルコアにおけるブレイクダウンの類似物を形成している。もっとも「Break out~」からはそれも解除され、ラップパート前にも鳴らされた、サイレン調のライザーサウンドが再び聞こえてくる。ジェット音のような音も再度合流してくると、ラップパート開始前同様加速度的にライザーサウンドのキーが上昇していき、ラップパートの終了とともに頂点となって緩む。
またしてもクラップが鳴り響いて、最後のBメロ。
『遠くまで響くように 今は絶対届くと信じているから』
これまでと異なり、Bメロの締めは少しだけ伸びて、「信じているから」は半音上げとなる。ロングトーンが途切れると、シンセサイザーのEの単音に、スプレーのようなシューッという音が交じったものだけが聞こえる。それらも無くなって無音となり--
「さあ吠えろ!」
最後のサビに入る。入りでは後ノリのリズムで同期して各楽器が鳴らされ、フィルインから以前のサビと同様の進行に戻る。それもあっという間に終わりを告げ、
『Claw my heart』
最後のサビが終わり、アウトロに入るとイントロ同様のリフが鳴らされる裏で、
「Wow wow」
の声が美玲から、そして観客席から、タイミングを計ったように2度、重なって聞こえてくる。最後もイントロの締めと似た展開の裏で、強く歪ませたギターの音が途切れ途切れに刻まれ、ギューン、とピックスクラッチの音が鳴ると
『Wanna be a dreamer』
右手を顔の横で広げるポーズ。
ファッションモンスターここにあり、とばかりの歓声とともに消灯。
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「美玲ちゃん、私よりずっと年下でこれだもんねー。ファッション含めて見習うところがいっぱい……」
「アヤさん、ファッションはまず自分に合ってることが大事ですよ!」
「そ、そんなプライベートでの服装が似合ってないかのような……」
「……この際だから改めて言っておくけど、バレたくてああいう奇抜な服を着ても、現状の知名度じゃ気づかれようがないわよ」
「えー……」
「あははは!」
美玲のパフォーマンスを肴にプライベートでのファッション談義に花を咲かせるPastel*Palettesの面々を横目に、
「さーて、次は輝子だな」
「噂には聞いてますけど、見るのは初めてですね……」
「アイドルってアタシらが思ってるより随分懐が深いんだなー、って思わされるモノ、見せてくれると思うよ」
炎陣と麻弥は、輝子による猛き「咆哮」の幕開けを、今か今か、と待っていた。
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暗転はそのままに、絶叫(シャウト)が響く。
「来たぜ宮城ィ……iyaaaaaaaaaaaaaahaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
ドラムによるカウント代わりのフィルイン。紅色に染まる照明。
『invade!』
先のClaw my heartと比べても段違いに歪んだギターをバックに、強烈なロングトーン。炎陣の後、もりのくにからで一瞬クールダウンし、Claw my heartで再度盛り上げられてきたここまでの空気を、また別方向に一変させる。それはまさしく、森林へと侵掠をかける茸の胞子のごとく。
「hyaaaaaaaaaaaaaaaaaaahahaaaaaaaaaaaaaahaaa!!」
音源通りの、哄笑交じりのシャウトがさらに叩き込まれて--
「Mush up!」
1回目は観客と輝子が同時に発し、2回目は輝子が観客席を煽り、それに続いて観客が応える。*2そしてバックでピックスクラッチの音が響く中に。
「かかってこい!!!」
観客も応えて猛烈な「ウォォ!」という歓声。
『光満ちる街の裏 夢を拒む地下で 絶えず続くとめどなく うごめく闇の声』
ここでは音程の上下は小さく、しかし発声は激しく、吐き捨てるように。裏でリズムを刻んでいるギターも、基本的に音の動きは小さく抑えている。
『爪弾きされたバラバラの切れ端をより合わせ 伸び上がる糸は唸る ままならぬ日々に』
歌の方は先ほどの吐き捨てるような発声から一転、歌い上げるようなものに変わる。バックではギターだけでなく、シンセサイザーの電子音が聞こえるようになってくる。
そこに、コーラスに合わせて「マラスミウス・オレアデス*3」と観客席がグロウルを模した低く、くぐもった声を上げる。
「今夜ついに動き出す 傘を開き立ち上がれ」
この部分も音源上コーラスがあり、観客席からのコールも飛んでいる。音程の関係もあってか、Aメロ序盤のような吐き捨てるような歌い方に再び変貌するが。
『一度叫べば 姿あらわし 二度叫べばたちまちに増え』
先ほどまでの激しいものからやや歪みが抑えられた、妖しいギターリフをバックに、またしても歌い上げる方に発声が変化する。
『力へとみなぎる時は まさしく今』
力強いロングトーンでサビ前を締める。このタイミングで、単に赤いシーリングライトやフットライトで照らされるだけでなく、赤や緑のレーザーが方々へ放射されるようになり--
『世界よ踊れ! 七色に狂い咲く毒の華で』
一気に音程が跳躍するサビ冒頭でも、声に揺らぎはない。裏で鳴るコーラスに合わせ、「行こう立とう七色に 行こう立とう 毒の華」と観客が引き続きくぐもった低い声でコールする。「毒の華」も輝子のボーカルとしっかりと合わせてきている。
『喰らい尽くせ』
輝子が右手で口を模して、何かを食べるような動作。そこから身体ごと、腕を降ろし、一気に腕を振り上げメロイックサイン!
「Mash up!」「Mash up!」「「全部を!」」
リードギターは左手だけでなく右手でもチョーキングをしたり、ピックスクラッチやタッピングを交えながら、わずかな時間の間奏を埋めていく。
この「毒茸伝説」は彼女のファーストアルバム*4の発売にあたり、先行シングルカットされてヒットを飛ばした1曲である。音作り自体は、まあまあ古典的なメタルの音をさせているが、曲を象徴するギターリフが間奏までを含めて存在しなかったり、そもそもギターの音が聞こえづらいところがあったり、ドラムも手数や音の重さといったところが抑えられていたり、と、昨今様々に生み出されたサブジャンルでも備えているような、音を重たくする要素が欠けている。また、この後現れる間奏もメタルとして捉えようとすると、いささか困惑させられる展開をしていたりする。以上の点から、ヘヴィメタルとして評価するには特異的なところが少なからず存在する1曲だが、今回はバンドサウンドが加わったことにより音の重みについては大きく積み増しされている印象だ。歌詞については、作詞を担当した人物がキノコについての歌詞を書き下ろしてきたのを、輝子が手直ししたものとされている。その結果、この曲は「侵略」を想起させる物騒な単語選び*5とは裏腹に、その意味するところは輝子による、目の前で群生するキノコがすくすくと生長していくことを祈願するものになっている。
なお、2番のコーラスでは「プシロキベ・アルゲンティペス」という茸の名前が歌われている。これは和名でヒガシシビレタケとされているもので、国内の法律上で「マジックマッシュルーム」と分類されているキノコの代表格といえるものである(ただし、中毒事故の多さという意味で)。1番の同じ位置に現れる「シバフタケ」がまがりなりにも食用である一方で、なぜマジックマッシュルームが出てくるのかについては、このキノコが当初、見た目の類似点からかアイゾメシバフタケという名称で報告された、という歴史的経緯に基づいていると推測されている。*6
「Slash down!」「Slash down!」「「脅威を!」」
手刀を縦に振り、キノコソード。そしてひときわキーの高い『Invade!』。そのまま転調して間奏に入る。数小節もすると拍子まで8分の6に変化している。それに合わせてゆっくりとしたヘドバン。
『アソベヤ ウタエ チカラツキルマデ』
リバーブのかかったコーラスと重ねて、メタルとはいささか異なる調子で歌い上げていく。ギターは2人が1小節分のリフをユニゾンしてひたすら繰り返している。
「「指ならせ 手を叩け 伸びて行く為の術 壁際を生えて行け 扉まで辿りつけ」」
こちらはリバーブなしのコーラスが裏で鳴っており、観客も輝子とともに歌っている。
『ユラメキ アオグ ソラニアコガレル』
ここは前半と同様。ギターリフも延々と同じ進行、同じキーで繰り返される。
「「指ならせ 手を叩け 伸びて行く為の術 土の中くぐり抜け」」 「地上まで辿りつけ!」
途中までは「指ならせ~」と同様に観客席とともに歌い上げていたが、最後は音程を度外視してシャウト気味に、まくしたてるように叫ぶ。
どどーっ、と歓声。裏ではAメロ等と同様のエフェクトが効いたギター。それらが消えて、リバーブの効いたコーラスのような電子音。
『かちどきの歌 虹色に崩れ去る昨日を蹴って』
オーバードライブ程度に歪みを抑えたリードギター、薄くハイハットの音。そこから強いディストーションのかかったギターの単音。輝子のボーカルはサビと同様のメロディラインを、抑え気味に、ウィスパーボイスのように息交じりの発声で歌っていく。
『開けよ道 Cut up…』
輝子の発声が元に戻る。ボーカル以外はフロアタムとバスドラムのみになり、そこからシンセサイザーが合流。そして--
「恐怖を!」
ここでも、力一杯の絶叫。
『世界よ変われ! 朝露に燃え上がる夢の華で』
最後のサビ、裏では「行こう立とう何度でも 行こう立とう夢の華」と、観客によるコールも聞こえてくる。
『晒し尽くせ』
「Wake up!」と輝子のさらなる絶叫ののち、「「……狂気を!」」と、輝子と観客のユニゾン。
そしてもう一度『Invade!』。最後の追い込みとばかりに観客を煽りながらの細かく刻むヘッドバンキング。
「「全部を!」」
最後にもう一度メロイックサインをキメての締め。けたたましい、と形容せざるを得ないほどの歓声。
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控室。
「アイドル、アイドルってなんなのよ……」
「噂には聞いてたけどこれは……うごご……」
「ぶ、ブシドー……」
輝子のパフォーマンスに困惑を隠せない3人。
「すっごーい、こういうのもありなんだね!」
るるるんっ♪と付け加える日菜。その様子を見て、あらあら、とまゆは微笑ましく見守る。
麻弥と炎陣の面々は奇妙な空気に晒されたそれ以外の面々を脇に置いて、
「実はソロライブも何度か見に行ってますけど、相変わらず……ですね」
「あぁ、相変わらずだ。事務所全体でやるライブの時も、輝子のソロってだけで空気変わるくらいのインパクトがあるよ」
「でけぇ会場でバンド入りの毒茸は初めてだったけどよ、さらにやべえのがお出しされたと来たもんだ」
「まったく、輝子殿にはいつも驚かされますな。で、麻弥」
部屋のモニターを注視してた亜季が、麻弥の方を向いて問うことには。
「答えは見つかりそう?」
「うん、見えてはきた、かな……」
「近いうちに聞けるの、楽しみにしてるから」
そして、3人でのMCが始まろうかというところ。
「ではここのみなさんは希望されてるということで、準備お願いしまーす」
運営スタッフからの誘導に従い、この部屋にいたドリームアウェイ、炎陣、そしてPastel*Palettesの面々が、一旦控室を後にする。
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数秒消えていた照明が、色を元に戻して再び点灯する。そして美玲が
「よーし集合だッ!」
と一声かけると、乃々と輝子もステージの中央にやってくる。
「ていうわけで、ウチらのソロ、3曲続けてお届けだ!」
ウォォ、という歓声に交じり「もりくぼォ!」「最高だったぜ!」「ヒャッハー!」等々、別の声も交じる。
「さァて、このフェスのラストを飾る曲に行く前に私らからもお知らせ……」
「はないんですけど……」
ハハハ、と会場にひとしきり笑いが起きる。
「今日、炎陣に続いてウチらの演奏をしてくれたシンデレラバンドのメンバー紹介だ!いくぞッ!」
「ギター1、JOEですけど……」
ヘヴィメタル等で聞くような攻撃的な早弾きのソロを、時折観客を煽りながら弾いていく。自身がレコーディングでもギターを務めた「ØωØver!! -Heart Beat Version-」の冒頭部分を交えつつソロは続き、ピックスクラッチ、そしてミュートして締める。
「ギター2、HEYだァ!」
この日は演奏されない輝子のソロ曲「Pandemic Alone」のサビ部分、そのリードギターを、この後も使用するドロップBチューニング*7用のギターでかき鳴らす。自ら作曲した曲でもあるから、ライブアクトであることを差し引けば演奏は慣れたもので、最初の数音で気づいた観客からおおーっという驚きの声と、HEYを煽り立てるようなコールが飛び交う中、ワンフレーズ弾き切って締める。
「ベース、SHIN!」
各弦ずつ確かめるように鳴らした後、最近のライブでよくやっているというソロベース用の曲をワンフレーズ披露する。右手は一定間隔ごとに弦を叩くようにして、微弱なノイズのような音を立てつつ、主に人差し指と中指を使って、時には親指がわずかばかり触れて、オクターブ単位の音程の跳躍*8をが現れたりもする。左手はフレットの端から端までせわしなく動き、時には押さえたところから弦を上下させて音程を揺らす。淡々と弾き続け、30秒ほどの長さで構成されたワンフレーズ分が終わると、全ての弦を一通りかき鳴らして締める。
「ドラムス、MAOですけど……」
まずはスネアとタムタムを確かめるように叩き、そこからスネアロールを中心として、今回セットされている各シンパルをルーティン的に叩くと、続いて足元にセットされているツインペダルを高速で踏みつけつつのスネアと各タムタムのロール。そしてツインペダルを踏みつけ続けながら、おもむろに取り出したペットボトルを開け、一気飲みしながら右手はシンバルを連打する一芸で締める。
「そしてシンセサイザー、アンドバンドマスター……」
「SHUN!」
まずはピアノを皮切りに、上下2台のシンセサイザーと足元のフットスイッチをフルに使用して次々と音色を変化させていく。上下を行き来したり、2台同時に弾いてみたりしつつ、サンプラーを通じてリズムも自動で鳴らしだす。最後はピアノに戻して、彼が昔から弾き続けているという、とあるクラシックの曲の一節で幕を下ろす。
アイドルフェスであることを忘れるワンシーンに、1人紹介され、ソロを披露する毎にこれまでとは異質な、拍手と指笛交じりの歓声が飛び交うのであった。
そしてMAOがバスドラムを踏み始める。
「それじゃあ……いよいよフェスも締めくくりだッ!」
「楽しんでもらえると、うれしいですけど……」
「最後はもちろん、分かっているなァ!?」
この日一番といって過言でない歓声。
それとオーバーラップするように、ドラムがハイハットとバスドラムを鳴らす裏で、まずはベースが1小節ごとに音を上下させる、4小節のリフを2回。
ベースの音が消え、続いてギターの2人が弾き始める。JOEはサスティーンを強く効かせ、音程の変化があるごとに弾きなおす。HEYはJOEとユニゾンしつつ、先のベースと同じリズムで音を鳴らす。
そしてシンセサイザーが、頭の音だけ1拍伸ばし、他は八分音符で構成されたキーボードリフを4度奏でる。
最後は全員で同様に8小節弾き、楽器の音がミュートされて、カーン、という音が響いて--
「これがウチらの」
「「「∀NSWERだ!」」」
ドラムのフィルインをきっかけに、individualsのキラーチューン、「∀NSWER」が幕を開ける。メロディラインはシンセサイザーが奏で、一方ドラムはツインペダルをひたすら踏みつけながらリズムを形成していく。ギターは歪みを毒茸伝説と同様にしてシンセサイザーとのユニゾン、ベースは先のライブ用イントロでのシンセサイザーと同様のリズムで刻んでいく。
『誰もが一つ』『ヒトツダケ』
まずはセンターにいる美玲が、4度、右手で観客席を方々に指差し、一つタメを作って、腕を真上にゆっくりと上げながら歌い、上手側の輝子は美玲の声が消えるか消えないかというタイミングで、コーラス的に「ヒトツダケ」と続ける。
『熾烈な闘争』『イキノコレ』
今度は下手側の乃々が、上げていた右腕を、広げていた手を巻き取るように握り拳に変えつつ胸まで降ろし、一瞬のタメから、前に突き出す。そこから腕を再び縮め、顔の横で、「闘争」に合わせて2度前腕部を振る。声も先ほどの「もりのくにから」とは異なり、乃々なりに∀NSWERのインストに寄せて作ったものとなっている。それに続いて、先の美玲の時と同じタイミングで、輝子のコーラス的な「イキノコレ」が挟まる。
『ツメを噛んで待つより』
輝子が客席を指差し、手を足の付け根まで一瞬降ろして一気に顔の上まで上げ、頭を傾げつつ手を顔の横まで持っていく。
『振りかざして切り裂け』
乃々は右手を身体の左から右へ円状に回し、顔の右横でカウントするように手を二度振ったのち、それをまず左脇腹辺りまで一気に振り降ろし、今度は右肩の横まで斜めに振り上げて、切る動作をする。他の2人も、タイミングを合わせてまず右上から、続いて左上から何かを切る動作をしている。
『もがき続け彷徨い』
美玲が先の「切り裂け」での動作から繋いで右腕を大きく広げ、手を広げたまま側頭部へと移動させる。
『暗闇さえ味方に』
輝子と乃々のユニゾン。一瞬マイクを両手で持った後、手を頭上まで一気に持ち上げて、ゆっくりと降ろす。美玲はその間仁王立ちしている。
『Cry heart』『癒せないキズも』
いかにもな電子音からピアノと似た音に移行したシンセサイザーと、ツインペダル連打からハイハットとシンバルのみを鳴らすように移行したドラム、そしてサスティーンがかかった低音を鳴らすギターとベース。それらをバックに、美玲が英語のロングトーン、それに重ねて乃々が歌う。乃々は右手を、身体を裂くように動かし、何かに傷ついたさまを表す。
『Lightning in the dark』『やるせない想いも』
再度、美玲が英語歌詞で締めには、突き出した右手で下を指差しつつのロングトーン。それに重ねて輝子が歌う。一度右腕を広げた後、胸の前に持ってきて心中に秘めたモノを表す。
『ともに行こう』
乃々は手のひらを上に向けた状態で腕を前に出し、一気に頭上まで振り上げつつ歌う。そして--
『With me!』
3人のユニゾン。
『解き放て』「限界を超えて」
低音がより強調され加減なのを除いてイントロ等と同様の構成になったオケをバックに、ユニゾンから続けて、まずは乃々が、
『打ち破れ』「カラを捨てて」
再びのユニゾンから、続いて美玲が吠える。
『代わりなんてきかない』
首を傾げつつ、輝子が(そう、アイドルの世界では個性そのものな輝子が)この歌詞を歌うのに続き、
『オマエだけの音色を』
指を顔の前で数回回しながら、ユニゾンへと戻る。
『To give you answer 地平の果てまで 鳴らせ』
ユニゾンのまま、人差し指を立てた状態で方々へ右腕を振り、最後は上下に2度振った後、頭上までゆっくり持ち上げながら、ロングトーン。締めでは始終ピロピロと響き続けていたシンセサイザーの音が一瞬消えて、低音をことさらに強調している。
∀NSWERも先の純情midnight伝説同様の、individualsというユニットの何たるかを表す曲といえよう。後にClaw my heartの下敷きにもなっているように、シンセサイザーによるリフが耳に残りやすい曲であるが、こちらはいささか方向性が異なり……
『月夜に響く遠吠え』『ムリジャナイカナ…』
現在流れる2番の冒頭のように、すべてのパートで低音をフィーチャーする箇所がいくつかあり、このような音作りや、各パートにおけるリフのリズムから、メタルコアやdjentと呼ばれるジャンルの影響を強く受けているとされる。本曲中はこのような低音の強調ににょってノイズを思わせる作りになっていて、シンセサイザーのリフと合わせてエレクトロコアど真ん中の仕上がりというべきものになっている。
余談ではあるが、評論家から見たメタルコアやdjentの影響が大きかったのか、この曲は発表後しばらくしてラウドロック・ヘヴィメタル系の雑誌でも取り上げられるに至っている。*9
また、影響を受けたジャンルの関係上歌唱も、先の毒茸伝説のように「吐き捨てるような」というところまでは行かない(なので輝子はむしろ抑え気味)ものの、荒く、客席へと意志をぶつける様な、強い発声が求められている。これについては制作時の話として、乃々は関係者らのイメージを覆して、そのような声を案外あっさりと出せるようになっていった、というものがある。後日、本人に聞いたところによれば、「仮歌をもらった時は無理だと思ってて、でもやらないわけにも行かないから、当日はヤケになって、歌が崩れるかもとか気にせずやったら、あっさりOKが出て当惑した。あの感触を忘れずにライブではやっている」とのことだった。*10
振り付けも、この種のインストが鳴り響く曲としては(あるいはこの激しさ故なのか)大きく、素早くやらなければならないものになっている。先の乃々のエピソードにもあった通り歌については極めて順調だった一方、振り入れには時間を要したとのことで、美玲についてはこの曲をライブでやる際、眼帯を付け続けるかどうかが真剣に検討されたという話が出るほどだったという。*11
こうしてサウンド、歌唱、ダンス、演出、全てにおいて、個性をぶつけあうことを、苛烈な戦いになぞらえた、荒々しくラウドなこの曲も、2番が終わりを迎えて、間奏に入るところになっていた。
まずはSHUNのシンセサイザーとHEYのギターがユニゾンしてメロディラインを形成し、JOEのリズムギターとSHINのベースが、これまで同様の「強い低音」を作る。続いて、シンセサイザーの音がピアノと似たものに変わり音量が抑えられ、リードギターが複雑なリズムのリフで、低音部をより厚くする。djentの影響が最も大きいと思われる箇所である。
それをバックに、3人がヘドバンをするかのごとく下を向いて(輝子に至っては実際にヘドバンしている)激しく手を振って客席を煽り、観客はそれに裏打ちのリズムで「ッハイ!」と叫ぶことで応える。
この間奏も20秒弱で幕を降ろし--
『旅路に迷うもいい』
まずは乃々が歌う。歌詞は乃々が常日頃からインタビュー等でも語っている「アイドル活動への迷い」を反映したものといえよう。
『孤独を纏うもいい』
次は美玲が。かつての、一匹狼であることを良しとした自身のことを表したかのような歌詞が割り振られている。
『だが見失うな』
続けて輝子。アイドルという肩書で活動している少女たちの中でも、一際目立った存在が呼びかけるかのごとく歌う。
『己はそう』
『信じて』
先に述べた∀NSWERの制作過程で、3人はそれぞれの個性・あり方について見つめなおす機会があったという。どのようなものか、詳しくは語られていないものの、その結論がどうであったかは、現在の3人のライブパフォーマンスを見れば想像に難くない。この歌詞もそれを表していると言えよう。
『No doubt!』
一瞬、シンデレラバンドからの音がすべて無くなり、3人の声だけが響く。
『何を知って』
シンセサイザーの音はなく、ギターも最低音に近いところを奏でる中で、まずは輝子が歌い、
『忘れるか』
美玲が引き継ぐ。
『それさえも』
乃々が、本曲中でもひときわ強く、硬い声を張り上げ--
「∀NSWER!」
と同時に、パーンッ、という乾いた音が響き、テープと紙吹雪がステージ中に舞う。ステージには3人とシンデレラバンドを囲うように。もちろん、舞台で演奏を続ける8人はこの演出を知っていて、ゲネプロでもチェックしている演出である。会場がどよめきとも歓声ともつかない声を上げる中、最後のサビは続いていく。
『答えに限りはない』
美玲が発破をかけるかのようなこの歌詞を歌い上げると続けて、
『全てを巻き込むような』
3人が、頭上で腕を激しく回しながらのユニゾン。
『To give you answer 個性の嵐を起こせ』
2番までと同様の振り付けであったが、最後は「個性の嵐」を見届けんとばかりに、右腕を徐々に上げつつ、顔も上を向けてのロングトーン。
アウトロも腕を振って煽り、観客がそれに応える。最後はサスティーンの効いたギターの音とともに、手を広げ、眼前に掲げるポーズで締めた。
「みんなありがとなッ!individualsでした!」
と美玲が言う傍らで、乃々から拓海へマイクが渡される。
「おーし、みんないるな?んじゃあ改めて……」
というと、演者側のマイクが切られる。そうして、会場に残っていた面々による
「本日もご来場ありがとうございました!」
の生の声とともに、「夏の偶像」は2日間にわたる日程を全て、終えるのであった。
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みな、わちゃわちゃとしながら控室へと戻って、着替えも終わり。この日亜季たちの引率を担当していた、「ロック系のアイドルおよびユニットからなる部署」を統括するプロデューサーがやってきた。シンデレラバンドのデビュー戦ということもあっての起用であったらしい。
「おーっし、みんなおつかれ!」
「「「おつかれさまです」」」「おつかれちゃーん」「おつかれさま……フフ」
プロデューサーが一声、ねぎらいの声をかけ、
「パスパレも、ドリームアウェイも、炎陣も、individualsも、トラブルなく終えられて安心したよ」
と続ける。それぞれに、今日の演奏ぶりについて、その充実感を表す言葉が口をついて出てくるのに割って入って、
「さて、このフェスではケータリングはお昼までしかなかったね。……積もる話もあるようだし、ここにいるみんなで打ち上げ、というのはどう?」
とプロデューサーが提案してきた。
「……それって私たちも、ってことですか?」
「ああ、もちろん。今日のところは君たちがいないと話が始まらないね」
それに君たちの事務所のスタッフ全然見当たらないし、現地解散じゃ寂しかろう、とまではさすがに口にしないプロデューサーである。
千聖がこの日の現場管理者だという人物へ電話をするが、繋がらず。SNS経由でメッセージだけ送り、
「……事後承諾ということで、何とかしてもらいましょうか」
「出ないんじゃしょうがないよ~」
等々、Pastel*Palettesの面々が口々に言う中、
「それじゃあ、荷物の確認済ませたら出発ですな!」
そうして、亜季たちは衣装等が搬出されたのを見届けると、仙台の街へ向けて繰り出すのだった。
次回投稿予定:6/14 17:00