美しき城へ続く道:「大和姉妹の事情」編   作:Whiplash

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「道は拓かれる」
”ジブン”なりのやりかたで


 Pastel*Palettesの特番放映から1週間少々経った8月最後の日曜日、時刻は午前8時。Pastel*Palettesの5人の姿は、新横浜駅近くの、国内指折りの大きさを誇るアリーナにあった。

 かねて*1より発表されていた、亜季たちのプロダクション主催で行われる定期ライブ、その拡大版とでもいうべき1dayアリーナライブ「SummerEnd Story」へのゲスト出演。夏のしめくくりを飾るこのイベントの、17時の開演を前に、まずは9時からゲネプロが行われることとなっていた。

 

 以前に出演したフェスとは違い、この「ゲネプロ」はすべての演目について1曲通しで流し、都度音声面と、舞台演出のチェックを同時におこなう方式となっている。また、順序もはじめからおわりまでセットリスト通りで行うことになっている。*2さしずめ、各曲に対する「通し稽古」とでも呼ぶべきだろうか。

 

 そんな場に、ゲストとはいえ演者としてやってきた5人であったが。

 

「うわぁー、ロビーからもうひっろーい!」

「これが……関東屈指のアリーナ……」

「この間の「夏の偶像」も一応アリーナ級の会場でしたけど、ちょっと格が違いますね……」

 

日菜以外はみな一様に、「夏の偶像」すら大きく上回る会場の威容に飲まれそうになっていた。彩など、早くも声も上げられず顔を青くしているありさまで、次に緊張していただろうイヴに、

 

「アヤさん、本番どころかリハーサルもまだですよ!」

 

と檄を飛ばされる始末である。

 なだめすかして、何とか彩を立ち直らせると、5人は関係者口から入る。案内のままにまずは控室へ向かう途上、この日5人につく事務所のスタッフと合流した。

 

 これまでのゲストを呼んだ定期ライブでは、レギュラーの出演者とは別の控室・ゲネプロ等は必要な時刻での入りで最小限のチェック・出演が終わると即退出、という待遇にすることも結構な割合であったそうだが、今回は亜季を含めた演者数人の希望と、ライブ運営側上層部の厚意もあって一部演者と同室・レギュラーの出演者と同様のチェック・ゲネプロから終演後まで滞在可能、という扱いがなされることとなった。以前から別部門でも関わりのある事務所として、ライブにおける管理面でのノウハウの共有もある程度意図しているものと思われる。……が、ブッキングした演者以外にやってきたスタッフが1人だけ、という状況はその意図が伝わっていないことを示しているようであった。

 

 控室にはひとまず荷物を置きに来たくらいで、ほどなく運営側のスタッフから、控室と別口で用意されている集会室*3への移動を促される。事前に5人が聞いたスケジュールによれば、ここでは楽器周りの上げ下げをはじめとした大まかな段取りの最終確認が中心だが、当日までに変更となった演出内容があれば、それも伝達されることになっている。

 

「えー、おはようございます。本日のアリーナ公演、午前中の早い時間ではありますけどもリハーサルのほう進めていこうと思います」

 

舞台演出を担当している、中肉中背の、赤みがかった茶縁の眼鏡をかけた男性により、説明が進められていく。金曜の会場設営以降に2回行ったという、演者抜きでのリハーサルの結果を受けていくつかの変更点が報告されていたが、特にPastel*Palettesの面々と関係のある事項はない。続いて、今回から定期ライブにもシンデレラバンドが投入され、そして楽器を使用するということで、事故防止も兼ねて改めての上げ下ろし*4の段取りが確認される。こちらはセットリストの都合上5人にも関係があるため、何度も聞いたことではあるが改めて、これまで聞いた内容との違いが発生していないかを確認していた。

 

「……さて、本日はシンデレラバンドとは別に楽器を使って演奏される方がいらっしゃいます、というわけでね、リハーサルで舞台上がられる際にも改めて紹介しますけども、本日のゲスト出演者、Pastel*Palettesがすでに後ろにいらしています」

「「「「「よろしくお願いします!(しまーす)(いたします)」」」」」

 

亜季たち、レギュラーの演者側も「よろしくお願いしまーす」などと声をかける。が、亜季、夏樹、輝子といった、ある程度顔なじみのある面々はともかく、そうではない、初対面の演者は「本当に大丈夫なのか?」という疑念を、その多寡によらず顔に滲ませている。(どこか試すような表情の5人組やら、関心があるのかないのか、泰然自若とした様子のボブカットの演者やらもいたが)

 

 亜季たち顔なじみの者も、その様子について無理もないことだとは思う。なにしろ今日のPastel*Palettesが登場するタイミングは、楽器設置のために設けられている休憩明け。単なるゲスト出演者でではなく、ある種の露払いとしての役割--休憩をはさんだことで緩んだ空気の会場を温めなおし、シンデレラバンドおよびレギュラーの演者たちへとバトンタッチすることが求められているのだ。

 

「それでは1日事故なく進めていきましょう、よろしくお願いいたします!」

「よろしくお願いします!」

 

いささかの不穏をはらみつつも、その場は一旦解散となった。5人は炎陣の面々をはじめとした、同じ控室の面々で固まって移動する。

 

「いやはや、先ほどは失礼しましたな」

 

リハ前からあんな空気を出してしまうとは、と亜季が代表して、Pastel*Palettesの5人に向けて陳謝する。

 

「いえ、セットリストをもらった時点で何を任されているのかは理解してますから」

「結成3ヶ月のゲストに休憩明けを任せる、なんて聞いたら、私たちが同じ立場なら不安にもなりますって」

 

千聖と彩が、亜季の言葉に恐縮する中で、

 

「フレちゃんみたいにバックバンド付で歌う子たちで先にトークして温めておくし、ケセラセラだよ~」

「英語でもフランス語でもないんですね……」

 

同じ金髪でも千聖とは異なって、いかにも異国の出身という顔立ちをした女性--宮本フレデリカがどこか暢気な声かけをし、イヴがつい、脱力したようなツッコミを入れてしまう。結果的に空気を和らげてみせたフレデリカであったが、それが当人の、いつものおちゃらけから来たものなのか、本当に空気を読んで実行されたもの*5なのかは、誰にも分からないのであった。

 

---

 

 控室に到着して動きやすい服装に着替えると、すぐさまリハーサルでの所定の位置への移動となる。着替え自体はそれなりに急ぎでのものであった。が、はじめからそういう服装であったらしい、フレデリカや、ベリーショートに近い黒髪をした少女--速水奏をはじめとした、全員が10代であるとは到底思えない大人びた顔立ちをした5人組--LIPPSの面々からの、「フェスの映像見て、共演を楽しみにしてた」だの、「不安がってた子たちもやさしさからだよ」だの、「噛んだりとか含めてかわいいところが見たい」だのという、激励半分からかい半分の言葉をかけられながらのものでもあった。

 控室の面々が全員着替え終わり、事前の水分補給などしていると、まずはLIPPSと炎陣が、ステージが設置されている方へと誘導され、Pastel*Palettesの5人はそのあとしばらくしてから案内がかかり、()()()からアリーナ内部へと通されていく。

 Pastel*Palettesの5人が入ってきたのは、このライブの開幕を告げる「BEYOND THE STARLIGHT」がちょうど流れ始めたところであった。ここでは、いつもの定例ライブよろしくまず全員がステージの両袖から入って指定の位置に立ち、「私たち、シンデレラガールズです!」という掛け声をきっかけに曲がかかる、という流れになっていた。

 もはや様式美というべき手順を踏んでいることから、ここでは音響面、演出面いずれもつつがなくチェックが進んでいた。この時間帯はもっぱら、初めての会場ということで懸念されている各種のトラブルについて、応急的な対処のレクチャーがなされていった。と、一通りその辺りの説明が終わったところで--

 

「さて、Pastel*Palettesのみなさんにはもっと近くに寄ってもらって、先輩方の様子をまずは客席から目に焼き付けてもらいましょうかね」

 

ホラホラ、と、軽口とも何ともつかない舞台演出の一声により、客席最前部から10列ほど後方、ファンとしては近さと全体の見えやすさが両立された垂涎の位置からの見学と相成ったのである。

 

 そこからしばらく、ライブ前半に固められた、打ち込み音源による楽曲の確認が行われていく。それは、出演者のソロ曲のうち、明らかにシンデレラバンドによる演奏に無理がある*6ものから、夏を表すのにふさわしいパッション溢れる曲たちであったりとか、どこか沖縄を感じさせる音、本来はちっちゃい子によるものであろう音頭だったり、続けてなぜか非公式な感じの音頭であったり。どちらかといえば季節重視で、これまでも事務所の様々なアイドルが歌ってきた曲を中心に選択されており、いわゆるユニットの曲は大きく絞られているものの、メンバーが揃っている曲*7については、後半に回されたもの以外しっかりと含まれていたりもする。

 

 そうして前半戦が終了し、現在の確認事項が終わると次は前半の締めくくりとなる「イリュージョニスタ!」、というところで

 

「ではパスパレのみなさん準備お願いしまーす」

 

と声がかかる。いよいよ、5人の出番がやってくるのだ(まだリハーサルだが)。

 

 5人は一旦、控室へと戻る。

 ドラムは共用、イヴのみが使用するショルダーキーボードは、事前に搬入して台に置いてあり、出番終了時にイヴが持ち帰る、という段取りになっており、彩を含めた3人については日菜と千聖を待つ形になっている。ギターやベースは前日に調整した上で引き渡しがあったが、最低限のチューニングのチェックを日菜と千聖、各自で行っていく。

 

「よし、昨日と同じ状態になったかしら」

「こっちもオッケーだよ!」

「はい、こっちから聞いていても、どちらも大丈夫ですよ」

 

ほどなくして弦楽器組の最終調整が終わり、楽器は一旦スタッフへと引き渡される。それを確認すると、誘導係と思われるスタッフの1人が、今度は5人をステージ方面へと案内していく。

 

---

 

 「イリュージョニスタ!」のチェックが終了し、休憩明けに短く挟まれるトークの内容確認が行われているところに、Pastel*Palettesの5人が現れる。5人は、既に楽器のセッティングが完了している台の上へと乗り、イヴ・日菜・千聖はまずは目視での接続確認を行う。

 日菜(ものの20秒くらい!)、イヴ、千聖の順で、麻弥に向けて確認が終わったことを示すハンドサインをすると、今度は麻弥が再度確認して、いつもの機材との位置関係と微妙に違っているところを修正したり、を3人分行ったところで、麻弥も両腕で〇を出してきた。そして--

 

「さておおよそトークの内容もまとまったところで……どうやら後ろにいるみんなの準備もできたみたいですねぇ。んじゃあ、音出ししてもらってる間にみんな移動しよっか」

 

演出担当がそう言うや否や、舞台上にいた10人ほどの演者たちは捌けていく。どうやら控室等へと向かっているようだ。とはいえ5人に気にする余裕は……

 

「がんばりまーす!」

 

日菜は捌けていく面々の声に応えて手を振っていた。これには麻弥と千聖も苦笑い。

 そして他の演者たちが捌けきるかどうか、というタイミングで音出しが開始される。

 

「ではまずドラムからお願いします、イヤモニも随時確認してもらってよろしいですか」

 

というPAからの指示に、おのおの了解を示すハンドサインをする。

 

「ではバス*8からー!」

「スネアお願いしまーす!」

「次はタム回してくださーい」

「では3点*9でおねがいしまーす」

 

矢継ぎ早に飛んでくる指示に、何事もなかったかのように応える麻弥の姿は、さすがに(駆け出しとはいえ)スタジオミュージシャンであったことの名残といったところか。そこを抜きにしても、Pastel*Palettes結成以来それなりに場数を踏んできたということでもあるが。

 ともあれ、つつがなく麻弥のチェックは終わるものと思われたが、

 

「んー、ちょっとドラムのマイク位置動かしましょうかね。微妙にノイズ乗っちゃってる感じに聞こえるので」

 

という指示とともに、ドラムの音を拾うために設置されているマイクの位置が、わずかではあるが先ほどよりドラムから遠くなるようにずらされ、

 

「では改めてバスから--」

 

ともう一度、先ほど行ったルーティンを行うハメになってしまった。今度は問題なしということで、

 

「じゃ最後全体でー……イヤモニ大丈夫ですか?」

 

(チェックのしようもない麻弥以外の)各自で、両腕で〇を作るなどのサイン。それを見て。ではOKですので続いてベースください、とPAからの千聖への指示が入る。まず今日弾く中での最低音(4弦の2フレット目、頻出)、続いて2曲目で何度か現れる最高音(1弦の12フレット目)をしばらく鳴らし、そして音程の上下動が激しい、1曲目のサビで弾くリフをひたすら、本番同様に弾いていく。

 

「オッケーです!他のエフェクト等ありますか?」

「特にありませんね」

「ではベースも一旦おしまいで、次ギターください!」

 

はーい、と手を挙げて応えると、まず両曲で頻出する最低音(6弦の1フレット目)に始まり、続いて1曲目のギターソロで出現する最高音(1弦の20フレット目付近)を鳴らし、2曲目のAメロをひたすら鳴らしていく。

 

「はいオッケーです、他ありますか?」

「2曲目ちょっとだけエフェクターちがいまーす」

「ではそちらもお願いしまーす」

 

日菜からの申告に沿って、先ほどと同様のルーティンでチェックを行うよう指示を出し、日菜は2曲目用の設定へと、フットスイッチで切り替える。こちらもつつがなくチェックが進んでいく。

 

「はい大丈夫です。ベースとギターについてもイヤモニ通ってましたか?」

 

PAから再度の、イヤモニに関する質問に、各自で大丈夫、の意を示すハンドサイン等をする。

 

「ではキーボードお願いします」

 

イヴもベースやギターと同じ要領で進めていく……のだが。彩ほどでないものの既に緊張しているためか、手がうまく動いてくれない。

 

「ちょっと音小さかったのでもう一度お願いできますかー?」

「すみません、お願いします!」

 

数秒ほど、瞑目して一つ深呼吸。目を見開くと、再び音を出し始める。今度は本番同様の音量で出すことができた。

 

「はいOKです。こっちはライン入力ということでまた確認なんですけども、イヤモニにも音は通ってますか?」

 

すぐさま、大丈夫とのジェスチャー。

 

「ではマイク行きますね、まずはコーラスをする4人から、さっきのチェック順でそのままお願いしますー」

 

続けて、マイクのチェックが始まる。まず、麻弥のみ*10が使用するヘッドセットのチェックが行われ、続いて他3人のハンドマイクを、チェックしていく。*11トレーナーから教わったチェック方法(ハ行を伸ばして発音する、というもの)に従って、各自で進めていく。

 こちらもつつがなく終了すると、最後に、メインボーカルである彩の番となる。こちらはほぼコーラスのみの4人と同様のチェックを簡単に行ったあと、1曲目のサビを歌うことでチェックを進めていく。

 

「はい、大丈夫です」

「それじゃあ、まず入りから1曲やってMCまで行ってみましょう……あ、じっくり見たい子は観客席来ちゃっていいからね」

 

思いの外スムーズに音出しを終えた直後、演出家がしれっと告げた一言に、主に彩とイヴが震えあがることになった。

 

「じゃあ一旦はけてもらって……ここでMCが「続いては……この曲です」って言ってそれきっかけでー、キュー」

 

 一旦、待機位置へと移動した5人が、入りの切欠指示とともに入場してくる。バックではしゅわりん☆どり~みんのオフボーカル版が流れ、モニターにはPastel*Palettesの紹介ムービーが映されている。実際にはこの紹介ムービーを映すモニターくらいしか光源がなくなるが、現在は多少薄暗くする程度で進行している。彩が台の段差から降りるところで若干躓いたものの、大きく転倒してしまうようなことはなく、建て直すことに成功した。

 そして、全員が所定の位置につくと音が小さくなり、イヴ・千聖・日菜が音を軽く確認していく。BGMが音が完全に消えたところで、全員で顔を見合わせあい、うなづく。そして、改めて麻弥とイヴが見つめ合う格好になり、麻弥がドラムスティックを打ち鳴らしながら4カウント。スネアとショルダーキーボードの音が同時に鳴り出して--

 

 

 

 サスティーンを効かせたギターとショルダーキーボードから奏でられるストリングスの音が徐々に消えていく。見ている人数のせいかまばらではあるが、この後しばらく間が空く演者が集まっている観客席の一角からは、拍手も起こっていた。

 

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

「……はい、OKです!とりあえず、こっちの設定は2曲ともさっき合わせた通りで大丈夫でしたけども、イヤモニ等、違和感あれば今のうちにお願いします」

「……千聖ちゃんは?大丈夫、うん、日菜ちゃんは……聞くまでもなさそう、イヴちゃんと麻弥ちゃんもおっけー……はい、大丈夫です!」

 

彩が後ろを見回し、他の4人にそれぞれ確認していく。特段異常はなかったのか、千聖は直接大丈夫だと声をかけ、日菜はニコニコしてサムズアップ、イヴと麻弥はそれぞれ大丈夫である旨のハンドサインを出してきたことから、彩は問題がなかった旨を報告し--

 

「それではPastel*Palettesのみなさん、チェック完了です。おつかれさまでした!」

「「「「「おつかれさまです!」」」」」

「では、この後シンデレラバンドのみなさんが来ますので一旦サオモノ*12とショルキーは持ち出していただいて、アンコール部分のチェックの時間になりましたら、また持参してください」

 

5人のリハーサルは幕を下ろしたのであった。

 

---

 

 舞台演出からの指示に従って作業を行い、再び控室。渡し終えた直後、ケータリングルームが開いたとの案内を聞いて、日菜は早々にそちらへと向かっていった。まだ一応チェック箇所もあるのだから、と千聖が止めようとしたものの失敗してしまった上に、イヴも一緒に引きずられて行ってしまっていた。

 麻弥がモニターの方に目を向ける。モニターからは、亜季が所属している、炎陣とは別の、タイアップで結成されたユニットの曲である「Max Beat」が流れていた。

 

「うぅ……高垣楓さんや十時愛梨さん、それに……さっきはリハーサルの緊張で考えてもなかったけど、LIPPSの人たちとも共演……今更だけど……」

 

彩が、今になってまたに緊張し始めた様子でうつむいており、その様子を見た麻弥と千聖が苦笑する。

 

 ともあれ、ひとまずはリハーサルを無事に終えることができた。MCはさておき、ライブについてはPastel*Palettesの中では慎重派な2人にも十分な手ごたえが生まれてきている様子だ。もちろん、修正したいところはまだ多数あるのだろうが、特に1曲目--「SURVIVOR ねばーぎぶあっぷ!」はレコーディングすらここひと月での話であるから、ライブアクトについてはこれから演奏を積み重ねていく中でブラッシュアップしていけばいいのだ。

 そして今舞台上にいる亜季に言わせれば、麻弥の中ではなによりも--「ジブンなりに何ができるのか」に従って動けるようになってきてるのだという。彩やイヴのように、普段から声をかけたりして、精神的な支柱になるのは、今はまだ難しい。それでも、練習やライブ前、みんながやりやすいよう先んじて機材のセッティングしたり、機材に問題がありそうな時に確認したり、チューニングが大丈夫か(特に、チューナーを使わない日菜について)外から見たり。これまで目の前の仕事に追われていたなりにやっていたことのうち、何が・どのように他のメンバーのためになっているか、分析してやれるようになっているのだ、と。

 

 

 

 日菜たちもほどほどに食べて一旦満足したのか戻ってきた後、さらにしばらくすると、再び5人に声がかかる。アンコール前までリハーサルが進行したので、先ほど指示があった通り、一旦楽器隊で持って引き上げた機材を再度台へと戻す作業へと向かうこととなった。

 5人がステージ袖に置かれた台へ着くと、舞台上ではアンコール1曲目となるM@GICが流れていた。日菜・千聖・イヴはそれを聞いてか聞かずか、黙々と再度の設置・機材設定をしていき、特に機材設定についてはあいまいなところがあれば、順次麻弥へと尋ねていく。

 

「イヴさんもこれでよし……再設置終わりました!」

 

麻弥が作業終了を報告すると、本番での、ドラム以外の楽器類の取り扱い(舞台袖で待っているスタッフに手渡し)について説明がなされ、麻弥が順次必要な点をメモをしていく。

 そこまで終われば、あとは控室に戻ることになる……はずなのだが、実はもう一つだけ、舞台上でやることが残っていた。アンコールのMC確認も終わったのを見たスタッフが、5()()()()()()()()()()()()。そして、受け取った5人はステージ袖へと向かっていき--

 

---

 

16時50分、ウェイティングルーム。この日の出演者が全員集まり、円陣を作る。その様子をスタッフ共々、Pastel*Palettesが遠巻きに見ている。

 

「それじゃあ、夏の終わりにピッタリの、熱いライブにしていきましょう~。シンデレラガールズ、わたしたち~」

『ナンバーワン!』

 

 

 

 そして、17時……出演者数人による開演前の諸注意ののち、アリーナ全体が消灯される。

 

「わたしたち~」

十時愛梨の、漏れ聞こえてくる普段の様子からは想像できない、アイドル然とした掛け声を切欠に--

 

『シンデレラガールズです!』

ライブが、幕を開ける。

*1
筆者注:5話を参照。

*2
本公演のように、途中で楽器の設置・使用があるライブでは逆順にしておくのが普通だが、この日のセットリストではアンコール前に撤去作業を行うことになっているため、正順で行うという判断になった。

*3
本番中はウェイティングルームに変わる。

*4
今回、楽器は移動用の台に乗せられた状態で使用する。

*5
時折、そういう姿を見せるらしい。

*6
バンド編成の一部楽器が使われていないとか、シンセサイザーが担当しなければならない音が多すぎるとか、その辺りが理由になりがち。

*7
たとえば、白菊ほたると鷹富士茄子からなるミスフォーチュンが揃っていたりする

*8
バスドラム。

*9
スネア・ハイハットシンバル・バスドラムのこと。ステージ上で行われているのは、この3つを使って適当にリズム刻んでくれ、という指示。

*10
この「SummerEnd Story」には、残念ながら三村かな子らの出演がない。

*11
余談だが、アンコール後最後に歌うとある曲にも途中から、5人が参加することになっているのだが、麻弥はそのままヘッドセットを装着しなおして歌うことになるらしい。

*12
ギターとベースのこと。




次回、最終回&エピローグ。
投下予定日時:7/5 19:00
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