【全知全能】になった俺がアイドルになって人生を謳歌していく【書直し版】 作:PL.2G
ピンポ~ン
「ん? ルームサービスは断った気が……」
俺はドアに向かい歩く。
初めまして皆さん。いかがお過ごしでしょうか?
前回のプロローグで大切な事を言い忘れていました。
俺の名前は『一n「おっにいさま~♡」のわっ!!」
「お兄様お兄様お兄様~♡。hshshshshshshshs!!! そんなに隙だらけだと志希ちゃんに良いようにされちゃうよ~? hshshshshshs!!」
「いや、すでに良い様にされているんだが?」
さてさて、自己紹介もままならないままちょっと話を進めさせて貰いましょう。
唐突ですが、チェックアウトの時間が差し迫っている。今俺は宿泊していたホテルの部屋で帰り支度をしている最中であった。実はどうしても明後日までには東京の我が家に帰らなければならなくなった次第で、少なくも多くも無い荷物をまとめてさぁいざ出ようとしていた時のことだった……
え? ん? ふむふむ……
明後日までに帰るのならば、わざわざ二日前にチェックアウトする必要は無いだろうって? 心配しすぎだって?
そうだね、その意見はごもっともだ。
いやいやいやいや、それがですね……俺は現在、仕事で
強いて言うのなら、俺は今をトキメくアイドルなものでして……
まあそれはそれで置いておいて……だ、さっきも少し話しはしたが、明後日は俺のとあるお祝いで日本に帰らなければならない。そう、祝って頂けるのだからこちらが出向くのは俺としては当然な話であって、それに間に合う様に、と言うか今日でないと間に合わない訳で、チェックアウトの時間とか飛行機の離陸時間とか諸々あるわけなのである。
それで、早朝から帰り支度とか朝食のバイキングとか後片付けをしていた訳なのですが……、いざ後少しでチェックアウト出来るかなぁってタイミングで、ちょ~っとばかり面倒な問題が発生。
それがつい先程飛びついて来た人物である。
「で、我が妹よ。
「クンカクンカクンカhshshshshshs……」
俺の話も聞かず、夢中で俺のコートとじゃれ合っている。
何故こんな事になったのか。語れば長く……ならないな。
前述の通りものの数分前。正確には4分32秒前(現在経過中)に部屋のピンポン(死語)が鳴った。覗き穴から覗くとそこには妹の志希。部屋を開けたら目にも止まらぬ速さで今の状態に……
「おーい、志希ー? 志ー希ー。志希ちゃーん? おーい? おーい聞いてー?」
俺の言葉は尚も無視をされる。当の本人は気付くとベッドの上に乗り、俺のコートに我が身を包みながらコロコロと右往左往と転がりつつ、綺麗な御御足を交互にバタバタと、そう……バタ足を繰り広げていた。
折角ベッドメイクも終わらせて居たと言うのに……悪い子には躾ですね!!
「hshshshshshshshshs」バタバタバタバタッ
「……そいっ!!!」
コートを掴み、破れないように気を付けつつ勢い良く志希ごと持ち上げる。次の瞬間、志希はくるくるときりもみしながらコートから剥がれ落ちる。
「「にゃああああ~~~~~ぎゅんっ!?」
ベッドに沈む志希は不思議な鳴き声を上げた。
「む~!! お兄様~!! 志希ちゃんのコートを盗らないでよ~!!」
すぐさま顔を上げ、両手を掲げ頬を膨らましたかと思うと意味のわからない文句を言い出した。
「おっ! れっ! のっ! コートだっ! 勝手に志希のにするんじゃない、まったく!! あーあー、ベッドがしわくちゃだし、トランクの中もぐちゃぐちゃだ……」
俺はコートを掲げたまま凄惨になってしまった部屋に溜息を吐く。
犯人の志希はと言うと、掲げたコートに鋭い視線を向けつつ俊敏な動きで俺の胸に左手をつき、ピョンピョンと跳ねながら必死にコートに手を伸ばし騒ぎ始めた。
「にゃ~はっはっはっは~っ!! 志っ希ちゃんのっ! 物はっ! 志っ希ちゃんのっ! もっので!! おっ兄様のっ! ものもっ! 大体は志希ちゃんのものな~のだ~っ!! ふっふ~ん♪」
コートを取る行動をピタリ止め、腰に手を当てふんぞり返る。「フンスッ」と鼻息が聞こえた。
「どこぞの小学生ガキ大将みたいな物言いはやめなさい。女の子でしょ!!」
志希の頭に「ていっ」と超絶弱ーい
「うぐっ」
やられた志希は頭に両手を添えワナワナと小刻みに震えだした。
あれ、そんなに強くやったつもりは…
「いや~ん♡お兄様が虐めるぅ~ん♡」
直後、頭の手を頬に持っていきクネクネと身を捩りだした。砂底で揺れるチンアナゴみたいだ。
しかし、
「何ちょっと悦に浸ってるんだ。行儀悪いからやめなさい!」
「
声のトーンを低くし、凄く真面目な感じで答え始めた。
「はぁ」と一つ溜息を吐き、額に手をやる。
「志希、キャラがおかしい。後、せめてもう少しだけで良いから自我を保ってくr「うんそれむり~♪」……最後まで言わせてくれよ……それと誰がご主人様だっ! 変な勘違いされちゃうだろっ!!」
「にゃはは~♪ だいじょうぶだいじょうぶ。今日本語で喋ってるから聞こえててもきっと意味わかってないと思うような気がしなくも無いかな~♪」
再度、溜息を吐く。
この超絶お転婆っ娘は話に出てきた通り俺の妹で、名前を『
腰に届くか届かないか程度の長さのウェーブ掛かったクセのある猫毛ような質をした髪(手触り良好)に、割かし高めの身長(正確には161㌢)、そして控えめに言っても容姿端麗(シスコン)。
でもだがしかし少し割とちょっといやだいぶかなりやっぱり凄い変な妹である。
更に、妹と言っても血が繋がっていない。まあ要するに義妹と言うヤツである。
さて、妹の紹介もそこそこ?に、俺の情報と環境について話しておきたいと思う。むしろ最初にやるべき事だったかもしれないが、まぁ良しとしましょう。
ここでやっと俺の自己紹介。
俺の名前は『
一ノ瀬家(志希の家族)の養子だ。
事の発端は八年前。当時十一歳の時に両親がこの世を去った。詳細は語る必要性が全く無いので省かせてもらう。今後語る予定もつもりも無いのであしからず。
その後、俺の実の母親の実兄である
研究者であった現父さんは、幼少の頃から頭の良すぎる俺を非常に気にかけてくれていた。もしも俺がアイドルになっていなかったならば、現父さんは、自分の勤める
生まれながらにして【
とは言え……アイドルになった今でも時間があれば志希と共に現父さんの仕事の手伝いはさせて貰っている。
息抜きと言うか、親孝行と言うか、人助けと言うか。とりあえず俺って何でも出来ちゃうし、別に俺の技術が他所に出回った所で困る事も無い、何より断る理由が無い上でそれなりの暇つぶしになるって言うのが一番の理由だ。
そして前述の通り志希も一緒に仕事の手伝いをしている。その理由は、何の因果か一ノ瀬夫妻の実子である志希も、中々どうして天才児である為だ。俗に言う
俺と同じく幼少期から抜群の頭の良さを発揮しており、俺と出会うまでは世界に辟易しながら毎日毎日少しでも楽しい事を探しつつ、誰に縛られるでもなく自由奔放勝手気ままに生きて来たらしいのだ。
因みにらしいと言うのは、この話の志希の真偽を、俺が汲み取れないからである。汲み取る方法も無くは無いが、正直したくないので却下だ。それに何より志希の言っている事なので俺は一切疑ってはいない。だから【らしい】を使うのも志希に失礼な話ではあるのだが、これもややこしい問題であるので今は気にしないで居て欲しい。
そして最後に【
実は今、そこまでやっかいな事になっていない。詳細は長くなるので簡潔に話すが、志希のおかげで何とかなったのだ。今ではそこそこな感じで過ごさせて貰っている。
さて、話を戻そう。
そうそう、志希とじゃれてる場合じゃない。さっさとチェックアウトしなければならない。気合を入れ直しコートを畳み、トランクに入れ、
「ねぇねぇ、お兄様?」
そこへ志希のゆったりとした柔らかい声で呼ばれ、ふと顔をそっちに向ける。
微笑みはすれども普段のお転婆な雰囲気はなく、至極真剣な雰囲気でこちらをじっと見つめてくる志希と視線が交錯する。
瞬間に察知し心拍が急激に上昇、ジワリと嫌な汗が背中を伝う。それを志希悟られまいと俺は目線を自然にベッドに移す事に成功する。非常に助かります【全知全能】さん。
「どうした?」
間違いなくこの後に苦手なイベントが発生する。
しかし苦手であるだけで別に嫌いではない。むしろ好きな部類のはずなのだが、やはりひどく苦手であるので避けて通りたくは思うのだ。
「お兄様──」
はじまってしまった……
「──私、一ノ瀬志希は……私のお兄様こと一ノ瀬騎士を、心の底より愛しております。どうか私と、一生を添い遂げて頂けませんでしょうか?」
「…………」
「……」
訪れる気まずい沈黙が部屋を支配する……
「じー……」
しかし、秒を待たずにそれを打ち破る志希。
「はぁ…またか……」
大きく溜息を吐く。正直、安堵の溜息の割合が多いのは確かだ。
「溜息吐くとかちょっっと失礼じゃないかな~? 可愛い可愛い
腕を組みわかりやすく機嫌を悪くする。しかし、そこに本気の雰囲気は無い。
「この状況で溜息吐かずに居られると思うか?」
この
志希が、とある時期から定期的にするようになった。
定期と言っても、間隔が一定と言う訳では無い。一ヶ月であったり、三日だったり。何なら二時間なんて事もあった。告白総数、実に二四四回。
そしてこの告白の意図・目的、志希の本当の気持ち。
それらを知りたくて【全知全能】を使ってみたが
そう全く
【全知全能】とは……知らない事は一つもなく、出来ない事は何もないということ。
全てのことを知り尽くし、行える完全無欠の能力。
だのに、だのにだ……
判らない・分からない・解らない・理解らない・ワカラナイ……
だがしかし、それが、その状態が『楽しい』。
判らなくて、分からなくて、解らなくて、理解らない事が本当に『楽しくて』、非常に『嬉しくて』仕様がなく仕方がないのだ。
【全知全能】を得た俺の、本当に数少ない楽しみ。今の俺が得られる最上位の楽しみの一つ。【全知全能】に理解できない・知り得ない・認知出来ない、人の感情に触れる瞬間・相見える瞬間。俺は俺と言う生、それを最大限に感じる事が出来る瞬間がこれだった。
俺は【全知全能】の
褒められても出来て当然なのでこれっぽっちも嬉しくない。確かに最初の頃は楽しかったさ。やった事の無い事を瞬間で熟した時に見せる周りの驚愕の顔と感嘆の声。非常に優越感に浸れたよ。でもそれが続き過ぎると人間誰しも空きが来るもの。恐れられたりいじめが始まったりね……
それでも他の人間に仲間外れにされようとも、奇異な目で見られようとも、中身は一応成人を優に超えた【
そんな環境に身を投じて心身共に深淵まで疲れて果てていた俺は、数年で感情を完全に欠落させた。喜怒哀楽を享受出来なくなった。
しかしそんな俺はわからない事がある事を知った。そうして俺は他人の感情に興味を持ち始めた。
この世界にはまだ俺に出来ない事がある事を知った。そうして俺は他人の
俺の生き甲斐が増える事に喜びを感じた。色褪せた人生が色めき彩り始めるのを感じた。
生きているって素晴らしいと思え始めた。まさに世は――「おに~さま~っ!!」
「はっ!?)」
どうやらトリップしていたらしい。志希の言葉で夢幻から現実に引き戻される。
「お兄様ってさ~ぁ? ちょいちょ~い、私の事を変な子~変な子~って言ったりするけどさ~ぁ? お兄様も大概変な子だよね~? 自覚してんの~?」
にんまりと悪戯っぽく笑う。
「ぐぅ……すまん……」
ぐぅの音が出た。
「にゃははは~♪ まぁ? 志希ちゃんが変な子なのは重々承知してるし~? 全然これっぽっちも気にしてないし~、お兄様が変な子だってそんなのは全然マイナスにならないしね~♪ そんな事よりホレホレ~♪ 答えを聞かせておくれよ。好っ青っ年っ!!」
「ほれっ♪ ほれっ♪」と言う言葉に合わせ、手で掬うような動きを左右交互に何度も何度も繰り返す。
「一生お前は俺の妹って事で添い遂げるんだ、今から気にしてもしょうがないだろ? それにいつも言ってるだろ? 俺は誰とも結婚するつもりはないよ」
頭を掻きながら返答をする。
「にゃはは~♪ いつも通りの返答ありがとうございます♡ところでお兄様? さっきから何してるの~? ホテルで働き始めたの?」
不思議そうな顔をして、顎に人差し指を当て首を傾ける。
「は?」
何を言っているのか良くわからなかった。ナニコレ楽しい。
「いやいや~♪ 志希ちゃんはさ~学校行くのが飽きちゃって~失踪したくなっちゃったから~『あっ!! そうそう、そう言えばお兄様は先週から仕事でこっちに来てるじゃん!!』って、思い出したから~いや思い出したと言うよりずっとそれしか考えて無かったんだけどさ~、
淡々と語る天才少女。
「おっおう……懇切丁寧な説明ありがとう。それで、俺の予定を
額に右手を当てる。
「それはちょっと語弊があるかにゃ~。志希ちゃんはちゃんと聞いたんだけど、『取り合えず何も聞かずに行ってこい』って言われたから二つ返事しといた。ブイっ!!」
目を覆いたくなるくらい眩しい笑顔でピースサインをしてくる志希。まるで後光が差しているようだ。
「……志希ちゃんに問題です。明後日は何の日でしょう?」
「明後日は~、日本では十二月一〇日~……おおぅっ!! 【全知全能の
「うん、そうだね。憶えててくれてありがとうね。ついでにトンでも二つ名まで呼んでくれてね……本当にね。まじでお兄様は感謝感激雨霰でガチで泣きそうです……」
【全知全能の
【世界の
このトンでも二つ名は俺の芸能界での通称。他にも、ある一定の条件下で【
まぁ、【アイドル界のオーガ】だの【世紀末歌姫】なんて呼ばれてるアイドルもどこかに居るので、それに比べればまだマシだろうかな、とは思う。
そこはまぁまぁ置いておいて、実はこの二つ名は好きじゃない。だから呼ばれるのも好きじゃない。志希の事だから、わかってて敢えて言っているんだろうけれど……それにしても志希に言われると特に傷ついてしまう。
閑話休題
「で、ソコまでわかってるならもう答えは分かっただろ天才少女」
「なるほどね~、お兄様の
まるで一休さんみたいに蟀谷に人差し指を当て目を瞑り、う~んと唸りだした。
「そう言うことだ。そんなわけだから片付けの邪魔をしないでくれ? ぶっちゃけ搭乗まで1時間も無いんだから」
「じゃあ志希ちゃんも一緒にか~える~♪」
「は?」
とても無邪気に、さも当然のようにさらりと間髪入れずに物凄い事を言い出した。俺の【全知全能】を持ってしても理解するのに時間を要してしまっていた。ナニコレ楽しい。
「あ! それとそれと~。私の分の帰りのチケットの手配をよろしくお願いしま~す。あ、あとあと~飛行機代もお兄様持ちでよろしく~てへぺろ~♪ ぺろぺろ~♡」
悪びれる様子もなく、やっぱり当たり前のように無邪気に言い放った。
「……」
言葉を失うとは正にこれだった。
「それにねお兄様。私にはお兄様の誕生日を祝わないって言う選択肢が無いのよ? もともとここに来たのだってそれが目的だったし。そんな事よりなによりもさぁ~、可愛い可愛い妹のお願いなんだから~、聞いてくれるよねっ? ねっ? ねぇっ!?」
フンフンと鼻を鳴らし、いつの間にか飛び乗っていたベッドの上で騒ぎ始める志希。それを見つめる俺の顔は、一瞬だが
「まったく……、仕様がない妹だな。我儘を聞いてやるのも兄の努め……ってヤツか?」
ベッドの上から志希を退け、三度目になるベッドメイクをしながら、肩を竦める。
「違うよお兄様~、なに言ってんのさ~。つ・と・めじゃなくて特権だよと・っ・け・ん♡こんな美少女天才高校生美少女JKジーニアス義妹の我儘が聞けるなんて特権以外の何ものでも無いよ~? 業界ではご褒美だよ~? 希少価値だよ~? 超高値だよ~?」
「どこのどんな業界なんだよそれは。それと、義妹に特典盛り過ぎだしいろいろ被り過ぎだ。でもまぁ、そう言うものなのかもな」
妹様のそんな言葉を聞きつつスマホを取り出し航空会社へ席のキャンセル。次いで席の取り直しをし、そして誕生日会の管理責任者へ「最悪遅れるかもしれない」と連絡をした。
「……」
連絡を終え、スマホをしまうと同時位に志希の方から何かが聞こえたが余りに小さくうまく聞き取れなかった。
「なんだって?」
「なんでもな~い」
今日も今日とていつも通りだ。
「おいっ、なんでベッドの上に乗ってるんだよ!!」
「志希ちゃん眠くなっちゃった~、おやすみ~♪」
少し騒がしいがそれも悪くない。しかして四度目のベッドメイクが始まる。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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