【全知全能】になった俺がアイドルになって人生を謳歌していく【書直し版】 作:PL.2G
主人公は名前しか出ません。
──ライブ当日──
「島村さーん、この箱を照明の所まで持って行ってもらえますかー」
「はーい! これですね」
「そうそう。場所、わかる?」
「はいっ!! 大丈夫です!!」
「うん、元気なのは良い事だ」
今日は待ちに待った騎士様のライブの日です。
でも今日の私は観客としてではなく、スタッフ(アルバイト)です。本当だったら観客として騎士様を観ていたかったのですけど、今年最初で最後の騎士様のライブと言う事、騎士様の誕生日直後と言う事、発表から開催までの期間が異常に短かった事、スタジアムの収容人数がそこまで多く無かった事、その全ての要因が重なった為、今回のチケットはいつも以上に競争率が激しく、私がチケット販売サイトで予約画面を読み込み終えた時点で既に完売。転売が防止されている昨今、再度手に入れる為にはキャンセルが出るのを祈る事しかなく、それでもキャンセル待ち枠で抽選が発生するも、運無く落選……本当にこの時はこの世の終わりかと思いました。その所為でパパやママにも余計な心配を掛けてしまいました。これはさすがに反省しています。
そんな絶望の最中、気持ちを切り替えようとレッスン場に向かうと掲示板に張り出されていた一枚のアルバイト広告。ライブスタッフ緊急募集の文字。突発なライブ、開催までの期間が短く、年末の繁忙期であったが故、正規のスタッフが方々に散っており足りず、急遽スタッフが必要になったとの事での緊急募集。誰のライブか書かれていませんでしたけど、小さい文字で書かれた詳細にあった開催日時と会場ですぐさま誰のライブか特定できました。これこそまさに一条の光でした。
この時の私の行動はとても早かったと自負しています。その場ですぐに電話、面接の日程確認、帰宅後に履歴書の作成から学校での友達との真剣な面接の練習。その後、合格の通知……この時、私は天にも昇る気持ちになって居ました。騎士様のライブに観客では無いにしろ参加させていただける事になったのですから。本当に、本当に良かったです。
そして本日、ライブの当日。起床してから居てもたってもいられなくなり、予定時刻よりも二時間前に集合場所(現地)に到着。前日から作業に従事している人や長年従事しているであろうスタッフさん達は既に作業をしていて、色々な機材を搬入していたり、立派な飾り付けをしていたり、グッズ売り場の設営など様々な事をしていました。その景色を眺めていると、あと数時間後にはここが騎士様のライブ会場になるのかと思うと胸が熱くなってきてしまいます。
そんな感じで辺りを見回しながら一人ウキウキしていた時、たった今お仕事をくれたベテランスタッフさんが私に『君もしかしてバイトの子?』とにこやかな笑顔で声をかけてきてくれました。開口一番「一生懸命がんばりますっ!!」 と言った所……
『まじか!? まぁ、早すぎるけど人手が欲しいのは確かだからちょっと上の人に聞いて来るよ。その間に控室で作業しやすい服に着替えて貰って、そのまま控室の外で待ってて。あ、ちゃんと男女別になってるから間違えないようにね(笑)』
との事で、言われた通り着替えを済ませ控室の前で待っていると、先程のベテランスタッフさんが現れ、『じゃあ俺の作業手伝って』と言う事でしたのでそのまま作業に加わらせてもらうことになりました。この作業と言うのが、実は他のアルバイトさん達とはかなり違う作業と言う事で、しかもなんとっ! ステージ付近での作業で、尚且つライブ中にもステージ脇にてサポートさせて貰えるという事になったんです!! しかもしかもっ!!
あぁ、私は今日自我を保って居られるでしょうか……この話を聞いた時は少し放心状態になってしまって、ご迷惑をお掛けしてしまいました。ものすごく反省しています。
その反省も踏まえて、気合を入れなおして現在。到着してから私が作業を始めて三時間が経とうと言う頃、周りもだいぶ落ち着き始め、若干の余裕も出だしたこの辺りで、私はずっと気になっていた事をベテランスタッフさんに聞いてみる事にしました。
「あのー、ところでリハーサル……とかって、何時ぐらいから始まるんですか……? やっぱり午後からになるんですよね?」
「あぁ、そっかそっか。島村さんってスタッフ初参加組かぁ。結構郷に入ってて忘れてたよ。なんか島村さんって話しやすくて昔からの知り合いみたいに接しちゃってたわ。そう言うのって長所だよねー」
ベテランスタッフさんは立ち上がり、腰に両手を当て、後ろに逸らした後、体を捻る。ずっと座って同じ姿勢で作業していた気がするので体が固まってしまっていたみたいです。ストレッチは大事です。私も後でストレッチを念入りにしておこう思いました。
「ありがとうございます。 それで、あの……そのですね、私、騎士さ……-んの大ファンでして、そのぉ……今回ライブのチケットが取れなかったからせめてスタッフとしてと思って……ですね……今回、そのー」
「ああーああー大丈夫大丈夫。なるほどねー。でも今回のバイトってそういう人多い筈だよ。それにそういう人たちの方がやる気が満ち満ちてるから例え少しくらい不器用でも若さと気合と情熱と根性でカバー出来るだろうって事で採用されてるって聞いたな。まぁ島村さんがいい例だよね。二時間前に来るって相当だしねー」
「えへへへ、なんだか照れちゃいますね」
「だから、その事に関しては別に後ろめたく感じる必要は無いし、むしろ特権とかご褒美だと思って、その分仕事をしっかりやってくれれば大丈夫だよ」
「はいっ!! 島村卯月がんばります!!」
「んで、リハの時間ねー。それがさー驚くことなかれってのは無理そうだから……なんと驚くことに! 騎士さんはリハを一切やらないんだわ、これが」
「え? リハーサルを……しない?」
ガーン……正直言えばショックは大きいです。本番中は真正面から見れないにしろ、リハーサルならば運が良ければ真正面から歌って踊る騎士様が拝見できると思っていました。しかし私の考えは甘かったみたいです。まさかリハーサルをやらないなんて……え? リハーサルをやらない?
「え? リハーサルをしないんですか!?」
「なぜ二回言った? まぁそうなんだけどさ。俺もこの仕事始めてそれを先輩から聞いた時は、は?何言ってんのこの人? って思ったもんだよーははは」
周りに聞こえる程の声で笑うベテランスタッフさん。周りのスタッフさん達はいつもの事なのか、ちらっとコチラを窺いはするもののすぐに興味を無くしたように自分の作業に戻っていきました。
「はぁ……」
しかし正直ピンと来ません。でも思い返してみればライブDVD等の特典映像でメイキングが入っていたりしましたけど、確かにリハーサル映像って記憶にありません。あ、でも十一歳のファーストソロライブの時はたしかリハーサル映像は入っていた記憶が……
「普通はさ音響のチェックをメインではじめて、マイクやスピーカーの音量とか調整して、出演者の立ち位置とか照明のタイミング、映像とかある場合にはそれの合わせ、後は衣装替えのタイミングやポップアップなんかの場所、それに生演奏時のバンドメンバーとの合わせ等々。そのどれもこれもは非常に大切なモノなのにも係わらず、これらを一切やらないんだよね騎士さんってば」
「えっと正直、いまいちぱっと来ないんですけど、それにしたって無理なんじゃありませんか? 必要な事だからライブ前にリハがあるんですよね?」
「島村さんの言う通りなんだけど、騎士さんは『そちらで決めておいてくれれば僕の方は大丈夫です』の一言で終わらせるんだよねー。ほんとに信じらんねーよ」
「そうなんですか……なんと言って良いか……」
「あぁでも、勘違いしないでくれよ。別に騎士さんは悪気があってリハをやんない訳じゃないんだよ。確かに島村さんみたいに初めての人とか間違いなく勘違いしたりするけど、さぼってたりみんなとコミュニケーション取らないとかそんなんじゃ無いんだよ。騎士さん曰く『本番で皆さんの素晴らしさを初見で感じとりたいんです』て事だそうだ。ちょっとかなりよく意味わかんないし納得いってない人もほどほど居たりするんだけど……でもさ、騎士さんって会場入りは前日から作業している人たちを抜かせば誰よりも早いし、いっつも俺たちみたいな雑用みたいな奴らにも素晴らしい差入をくれたりするし。だから騎士さんって俺たちを馬鹿にしたり邪険にしたりしてるんじゃ無いってすごく感じるんだよね。まぁ、わかってない人も居るのは確かだけど……で、ちなみに今日も差入はある事はわかっていて、しかも島村さん達アルバイトの分もしっかりあるから、お昼休憩は期待しといて良いと思うよ?」
「会場入りは誰より早いって、じゃあもうここにもう居るんですか!? 騎士様がっ!? えっ!? 差入っ!? 騎士様から差入があるんですか!? 私一生の宝物にします!! 島村家代々で受け継いで行きます!! 島村卯月がんばりますっ!!」
「(今騎士様って言った?)そ……それはやめた方が良いんじゃないかなーと俺は先に言っておくよ。まぁ、お昼にその差入の正体はわかると思うんでね。んで島村さんは、騎士さんのライブを実際なり映像なりで見たことあるんだよね?」
「もちろんですっ!! 差入っていったいなにが貰えるんでしょう……もしかして──」
「妄想しそうになってるところ悪いけど話、続けるよ? それならその映像なりでどこかミスを見つけたことある? MCで噛んだり、歌詞飛んでたり、間違えてたり……六年間……俺が見てきた六年間で、騎士さんだけのーってことに限定すれば、だけど……ミスらしいミスなんてたったの一度も、一瞬すらもなかったよ。踊りも歌もさることながら、声量、立ち位置、タイミング、なにをとっても完璧だ」
「完璧……」
この言葉を聞いた時、私の頭の中を一つの言葉が駆け抜け、思わず口から出ていました。
「【全知全能の
「そうだね。まさにそれだよそれ。【全知全能】。きっと陰ですっげー努力してんだろうけど、それにしたって規格外だよ騎士さんはさ。きっとその名前に恥じない様にそう言う事をしてたりするんじゃないかなーとか俺は思うわけだよ。大変だよなー、すげー二つ名貰っちゃう人ってのはさ。その期待を、ファンの希望を崩さないようにしなきゃいけないんだから」
その言葉を聞いて私の中の何かは轟々と燃え上って行きました。
「やっぱり、騎士様は凄いですっ!! 私もがんばらなくちゃ!! 島村卯月!! 騎士様のライブの為に精一杯がんばりますっ!!」
居てもたってもいられず、私は先程頼まれた作業を思い出し、一目散に駆け出しました。
やっぱり騎士様は凄い。私はアイドルを目指して日々がんばっています。きっと騎士様も小さい頃から一生懸命にいっぱいいっぱい色んな努力をした結果が今なんだと思います。私は騎士様みたいになれないかもしれない。いやきっとなれない。でも、きっと少しくらいは近付く事は出来ると思っています。
そしていつかきっと、騎士様と一緒に……
「元気なのは良い事だー。しかし、島村さーん!! この箱ー。持って行ってくれないとー!!」
後方でベテランスタッフさんの大きな通る声が聞こえ、箱を忘れたことに気付きすぐさま振り返り……へ? あれ?
「う、うわわわっああぁぁぁ」ドッテーン!!
「だいじょぶかーい(笑)」
周りから笑い声が聞こえて来ました。うぅぅ、恥ずかしいです……
「えててて……ごめんなさーい」
島村卯月、失敗も沢山あるけれど、今日は……いえ、今日も一生懸命がんばります!!
Wait next time……
最後までお読みいただき誠にありがとうございました。
第三話に進む前にこれシリーズ三人分投稿予定です。
三人とも完成していません。
毎週一話ずつ投稿できたら良いなと思っておりますが、
いつも通り予定は未定です。
では、失礼致します。