俺の右腕は彼女の右腕   作:しぃ君

1 / 3
 ラブコメを頑張る。


十年越しの再会

 高校三年生の最後の春。

 それは、多くの人にとって掛け替えのない大切な一年。

 受験勉強に励みつつも、残された残り僅かな自由な時間を、今まで過ごしてきた友人たちと笑って泣いて分かち合う。

 

 

 彩りの溢れまくった一年に──なる筈だった。

 今現在、俺──花道(はなみち)(ゆかり)は一人悲しく、電車に揺られて、窓から見える自然の景色に懐かしさを覚え、思いを馳せていた。

 この景色を見るのも…かれこれ十年ぶりくらいだろうか。

 

 

 …漫画やアニメで良くある両親の海外出張、それがまさか現実に起こるなんて、俺は思いもしてなかった。

 兄弟姉妹もいなければ、住んでいたのは都内、海外出張と言うだけでも大変なのに、金を無駄には掛けられない。

 

 

 親父のその判断により、俺は、小学校低学年くらいまで住んでいた、祖父母の実家に行くことになった。

 見知らぬ土地より、そっちの方が良いだろうというお袋の配慮でもある。

 

 

 色々と手配は済ませてくれており、高校への編入手続きや学費の振込に諸々の雑費等々。

 親父にお袋よ…そこまでしてくれるなら、俺にアパートで一人暮らしでもさせてくれ。

 

 

「…はぁ」

 

 

 ため息まで吐いて、俺がアパートの一人暮らしを願う理由は、一つ。

 祖父母の家の隣に、恐らく今でも住んでいる幼馴染。

 その、幼馴染が問題なのだ。

 悪い奴ではないし、嫌いでもないのだが……ただ、会うのが気不味い。

 

 

 彼女──蒼神(あおがみ)総花(そうか)との最後は、所謂喧嘩別れだった。

 喧嘩した理由は今ではもう覚えてないが、物凄く些細な事だった気がする。

 

 

 今更ながら、なんでアイツが俺なんかと連んでいたのが不思議でしょうがない。

 記憶の美化がなければ、総花は、紛うことなき美少女だった。

 サラサラとなびく紺色の長い髪、夜空の輝きをそのまま落とし込んだかのような瞳。

 強く抱き締めたら折れてしまうんではないかとも錯覚する、線の細い体に、端正に整った顔立ち。

 

 

 もし、彼女の欠点を上げろと言われたら、一つしかない。

 しかも、その一つは彼女自身ではどうにも出来ない代物で、現代の人権的な考えからすれば個性の一つ。

 

 

 蒼神総花には、()()()()()

 事故によって失くしたのではなく、生まれた時から欠損している。

 

 

 学校に居た先生や同級生の何人かは、彼女を偏見の目で見ていた。

 容姿が整っていても、身体的欠損なんてハンディキャップも良い所だ…と。

 

 

 取り敢えず、幼馴染の話はこれくらいにしよう。

 考えると、胃が痛くなってくる。

 

 

「今でも、怒ってんのかな…アイツ」

 

 

 憂鬱な気分になるのを回避しようと、俺は目的の駅に着くまでスマホで音楽を聞いて過ごした。

 

 

 春は、もうそこまで迫っていたと言うのに。

 

 ◇

 

 田舎と都会、その中間より田舎寄りな町、三日月町。

 私──蒼神総花は、産まれてからずっとここで過ごしている。

 両親が言うには、田舎に近い方が、お前が暮らしやすいから…だそうだ。

 

 

 私は、特に暮らしやすいとか暮らし難いとかは考えた事ないけど、自然に溢れていて落ち着ける場所だとは思う。

 十年ぶり程に会う幼馴染を迎えに行く為、私は一人駅までの道程を歩く。

 

 

 徒歩で行くには少し遠い道程だが…自転車に乗れないのだからしょうがない。

 昔、片手でもヘッチャラだと言って、お父さんの前で大転倒した日から、自転車には乗ってない──正確には乗らせてもらえてない。

 

 

 だけど、それも今日で終わりだ。

 ゆーくんが来ればモーマンタイ! 

 甘えっ子ちゃんスキルを総動員して、彼に動いてもらうんだ。

 …あんな別れ方した仕返しに、ちょっとくらい痛い目を見てもらう。

 

 

 そんな、未来の明るい計画を立てながら、ルンルンとスキップをして駅に向かっていると……一人の青年とすれ違った。

 やる気のない、と言うよりは気だるげな顔に黒い瞳に、テキトーに切りそろえられた焦げ茶色の髪の毛。

 身長は、百五十ちょっとの私より頭一つ分以上大きい。

 

 

 懐かしい匂いが…した。

 そして、私の特別の印、右手の甲にある傷跡が、青年の右手の甲に見て取れた。

 嬉しさのあまり飛び跳ねる想いを、私は無視なんて出来ず、人間違いを恐れぬ片手の抱擁を青年──いや、ゆーくんと交わす。

 

 

「ひっさしぶりー! ゆーくん!!」

 

「痛てぇ!? …おい! いきなり…なに…すんだ…よ?」

 

「忘れちゃったのかにゃ〜? 可愛い可愛い幼馴染の顔をさぁ?」

 

「総花…か?」

 

「ピンポンピンポン! だーいせーいかーい!」

 

 

 彼の胸板に顔を押し付けるように、強く抱き締める。

 リュックを背負い、ボストンバックも手に持っていたが私には関係ない! 

 私が抱き着きたいと思ったその時に、相手の意思や状況など関係なく抱き着くのだ!! 

 

 

 突然の行動に驚いているのか、ゆーくんは顔を赤くして固まっている。

 赤面して、固まるような事、私したっけ? 

 

 

 抱き着きながら思考を巡らせると、一つの正解に思い至った。

 …ふっふっふ、なるほどなるほど。

 分かったよ、ゆーくん! 

 答えは単純明快だったよ! 

 

 

「えっへへ〜! 照れる程、私に会えたのが嬉しいんだな、このこの〜!」

 

「ちょっ、やめろ! 動くな! それ以上動くな!?」

 

「な〜ん〜で〜?」

 

「幾ら人通りが少なくても! 道の真ん中で抱きつく奴があるか!?」

 

「む〜、しょうがないなぁ」

 

 

 片腕だけの私を、無理矢理剥がさないのは彼なりの優しさなんだろう。

 …昔から、そうだ。

 私を特別扱いしないって言ってる癖に、本当に変な所で気を使ってくる。

 

 

 各言う私も、そう言う所が好きだから一緒に居たのだが……

 まぁ、昔の事は今は気にしないで行こう! 

 

 

 また、彼と同じ学び舎で過ごせるのだから。

 

 ◇

 

 高校生活最後の春。

 少年少女の、空いてしまった溝を埋める物語が始まった。

 忘れてしまった過去を取り戻す、そんな物語が始まった。

 




 次回もお楽しみに!

 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!

 感想や評価、お気に入り登録もお待ちしております!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。