「カシャさん!この方角で間違いないでゲスか」
「こっちの方がグーでま!違いないですよっと!」
「…お、面白えじゃねえかぁぁぁぁぁ!」
色とりどりの星がキラめく四方八方に向けて、お馴染みのマシンガンを乱射しているのはもちろん。それを、お腹を抱えて大爆笑している、カシャの先導で進むアルミホエール号。
でも実は、どこに向かっているのか…知らされていない。そも、カシャの言った事が本当だという保障もない。それなのにどうして、ダ・サイダーともあろう人物が大人しく、こうして同行しているのか。
目じりをぬぐうカシャの耳でイヤリングが揺れる。確かに、見た事もない輝きだ。宝石の事なんてもちろんサッパリ。でも、海賊連中が追っかけるような珍品には、ものすごく興味がある。
つまり。美少女のために一肌脱ぐってのもウソではないが、ダ・サイダー生来の冒険野郎の血が騒ぐのだ。
「えっと確か、この辺りのハズなんだけど」
たどり着いたのは本当に、小さいモノは河原の小石程度、大きいものでも石碑に持ってこい!くらいの星、と言うよりは星屑のたまり場、星団だった。
カシャはさっきから、独自に手に入れたと言う地図と実際の星形を見比べている。
「この辺りって。この見渡す限りの星の中から捜すんでゲスか?」
「任せて!えっと…確かつい先日授業で習った事を応用すれば。この辺りの星団は周期的に動いているから…あの人!聞いてみましょ」
と、見るからにバイキングルックのクマみたいな大男にズンズン近づいて、ちょっとすみませーん。って、ちょっと待て!
「お前さては…貧乏なうえに紙の上ばっかで実績無いだろ?」
「ギクリ。そ、そんな事!…誠意をもって接すればそれなりの対応が返って来るものよ、普通」
「普通なら、な。ま、ここはオレ様に任せときな」
とか大きい事を言う割には。
「おーい!チョット、そこのお前。この辺に、旨い発酵乳製品の店が何件あるか、知らねぇか?」
「はぁ?」と、凶悪に顔をゆがませた瞬間。回し蹴りが熊男の横っ面に決まり、地図がフワリと、ダ・サイダーの手に落ちる。
「フッ。答えは十件だ。発酵乳製品、すなわちチーズの店がテン(10)、チーズミセテン、地図見せて。オレ様必殺、ダジャレ殺法でスマートに解決。どうだ、面白ぇだろ」
「本当に強いのね、凄いわ!この調子で良きに計らって」
言うなり、さっさと地図を奪うと眉根を寄せて…上下引っくり返して、裏返して…でもダジャレは無視。
「おい、お世辞にもキャー面白い!とか言えんのか」
「キャー面白いでゲス」
「キサマ…バカにしてんのか」
アワアワと手を胸の前に後ずさる元仕置きロボとの必死の攻防すら、カシャはため息一つで吹き飛ばし、
「私、根っからの正直者なの。あなたと同じね」
根に持ってやがる!…貧乏をバカにしたのは作戦だったのだが。絶対零度の視線になんとか耐えはしたものの。こ、今回ばかりは勘弁してやろう!
「分かったわ!あのちっこい星の影にあると見た!」
と言っても、どの星の事やら。と、伸びた時だった。
チャキ、とダ・サイダーの首筋にナイフが押し当てられる。さっきの熊男の仲間か。
「オレの仲間を可愛がってくれたみたいだな」
「冗談!人違いじゃね~の」
「おっと!動くとこの、お嬢ちゃんの命はねぇぜ」
目線をずらすと、カシャが真っ青な顔で固まってしまっている。元仕置きロボはいつの間にか居ないし。とらえているのは二人。ダ・サイダーを取り捲いているのは三人の占めて五人、さて。
「おい、このイヤリングもしかして」
ちっ、と小さく舌打ちをする。出来れば気付かないくらいに頭が弱い奴らを希望したかったが、そうは問屋が卸してくれなかったか。
男は乱暴に、カシャの耳からイヤリングを引きちぎると眺めて透かして、おかげで彼女を拘束する手は一人に減った。だが…まだだ。
だが、そのぶん考える時間は十分にあった。ダ・サイダーに考える、なんて行為出来るの?なんて野次はこの際置いておいて。すう、と小さく息を吸うと、好青年顔負けの晴れやかな声で。
「なぁ、相談なんだが。ソレをくれてやる代わりにその子、こっちに返してくんねえか。…分かってんだろ、ソレが何なのか」
男たちの目がダ・サイダーを捉える。正直こんなヒゲダルマに見つめられるなんてぞっとしないが。でもここは我慢、じっと見返す。
「…名案だ。お前の、そのイヤリングも付けてくれるってんなら、考えようじゃないか」
ち、どこまでも強欲なやろう共だぜ。わずかに、ダ・サイダーの眉根が寄せられるが、そこもグっと我慢。
「簡単だ、お前がこっちに向かって投げてくれればいい」
「…分かったよ」
ダ・サイダーは少しかがんで、耳元を触り、投げる。っておい!レスカの大事なイヤリングを!でもご心配なく。
孤を描いて男の手にすっぽりと収まったそれを確認、しめて五人が一斉にそちらに注意を集めた一瞬の隙。
風のようにフワリ、と走り出したかと思ったらもう、相手の懐。最初に気が付いた一人が声を出そうとした所でアッパーが決まってノックアウト。遅れて気が付いた残りは四人。カシャの拘束に残った一人を除いた三人が一斉に、ナイフを手に手に襲いかかる。
三人が相手だ、体力の消費は最小限に抑えたい。ダ・サイダーはわずかに首を傾ける程度、当然頬に一筋、また一筋赤い筋が流れる。が、お構いなし!
まさか、そんな捨て身の攻撃に出るなんて予測もしていたなった男たち。一瞬の気後れが命取りとなり、ダ・サイダーの腰に下げていたハンマー型の手榴弾がカシャを捉えていた男の顔面に命中!
残った男たちも、それと気付いた順にビックリ仰天!途端にワラワラと、我先にと逃げ出す。そりゃそうだ、爆発して巻き込まれでもしたら元も子もない。
「逃がさねぇっ」
ダ・サイダーは二つのイヤリングを持っていた男を捉えるとニッコリ目を細めて、体落とし。その手からイヤリングを取り戻すと今度はこっち。あっけなく放り出されて、腰を抜かしているカシャの手を取り、踵を返して猛ダッシュ!
一瞬遅れて大爆発!
「た~まや~!ハハ。見ろよ、いい気味だぜ!」
と、楽しくてたまらない顔を向けて…ありゃ、居ない?繋いだ手の先を辿ると。
「なんだ、腰が抜けてんじゃねーか、だらしねぇ」
「ち、ちょっと休憩してんのよ」
「それはそれは、失礼しました。で?その休憩はいつになったら終わるんだ?さっさと立たねぇと置いてくぞ」
「ば、場所も知らないくせに」
「ま~たアイツらが何か仕掛けて来たら、楽しみだなぁ。ああいう三下ヤローは絶対来るからな、何しろそれしか能が無いんだから」
言いながら、ダ・サイダーは頬に出来たばかりの赤い筋に手を当てる。ほんのわずかな痛みに気を取られたのが、マズかった。
ヒヤ、と首筋に感じたと思った瞬間、腕をねじり上げられる。プライドから、死んでも情けねぇ声は聞かせてやらないが、結構…
逃げたと思っていた五人のうちの一人、リーダー格だろう。
「なめた真似してくれるじゃねえか」
「男に抱き寄せられるなんて。オレ様の魅力が測りがたい証拠だな」
「大人しく、そのイヤリングを渡せば今日の所は見逃してやる」
「そりゃ聞けねぇな」
「じゃぁ死にな!」
と、ナイフがギラリと冷酷に光った時だった。
男の振り上げたナイフはダ・サイダーの予想に反して見当違いな所をかすめ、いや。男はブサイクな顔を更に歪ませて、目をまん丸にしておかしな軌道を描きながら仰向けに倒れた?
見ると、その後ろからカシャが現れたではないか。手には例の、カラッポの銃が握られている。肩で息をして、真っ青な…今にも倒れそうな顔をしている。
「いやお見事!カシャさん、この銃でぶん殴って大将は危機一髪!」
「ってキサマ!何処へ行っていた」
「か!…借りは返したわよ」
そこまで言うと再び、目を回して膝から崩れ落ちて、寸での所で元仕置きロボが抱きとめる。ご、ごめんなさい。と言う声にさっきまでの威勢はどこにもなく、今はただの女の子なのに。
「へぇ、やるじゃねぇか」
「…どういたしまして」
再び改めまして。カシャの計算したポイントと、記憶を頼りに一つの星屑、庭石ほどの大きさの星のくぼみに手を入れて…
「あった!」
カシャの手に収まっていた物はダ・サイダーの予想から大きく外れて、絶対自信のダジャレを思わず言い忘れてしまうほどだった。
普通は、何か粘土のようなものに包まれているとか、地味な袋に入れられているだろう、と思う所をあえて。ちょいと古臭いデザインの道具入れに入れて隠す、と言う事なのか。
これを見付けられない海賊共もそうだが、隠した奴は相当だぞ、とも思ったが。
だが、頬を紅潮させて目を輝かせているカシャには…言ってはいけないような気がして。
とにかく、埃にまみれているが、相当な一級品だろう。カシャは、震える手でホコリをよけ、いとおしそうに見つめる。そして、鍵を…
「え、うそ?」
手ごたえのない鍵、真っ白な震える手で開けたその中身は
「カラッポだな。と言うかコレは違うだろ、やっぱり」
「そんなはずないわ、だって確かにココに」
確かに、入れ物はあった。でもその中身は、何者かによって盗まれた後だった?
再び、真っ青に固まってしまったカシャ。いっぽうダ・サイダーは背後を振り返り、入念にナワでぐるぐる巻きのままの男を見る。わずかだが、唸り声が聞こえている、意識を取り戻しかけている。
「どうする?オレ様としても、さっきの野郎共が気になるんだけど」
「…そ、そうよ、もう一度」
と、その時だった。
パシャ!と、シャッター音とフラッシュに思わずVサインをしてしまう。目の前にはいつの間にかポラロイドカメラに似たメカが浮いて…今、写真が出てきた。
「何だ?記念写真たぁ随分サービス満点だな」
な?とカシャを見ると、またしても真っ青な顔で固まっている。代わりに、ハテナ顔のダ・サイダーに、説明するかのようにカメラから声が聞こえる。
「ローン商会ローン・カシャ嬢。約束通り、婚約者にブルーパールのイヤリングを渡した、証拠の写真を本国に送信します」
「ちょ、待って!違うの、彼のイヤリングは別物で」
「婚約者照会します…アララ国親衛隊長、ダ・サイダー様」
「って、えぇ~!?…ウソでしょ?」
だから…あまり身を明かしたくなかったのだが。
そりゃ確かに聞いてなかったけど、でも絶対違うわ、映画で見たお姿はもっと…と、目を回しながらブツブツ言っている。
そんなに、正直に褒められると、つい…
「だってだって、私が映画で見た勇者様って、すっごく恰好良くって、りりしくて聡明で…本当に、あなたは伝説の勇者様なの?」
「フッ…またしてもオレ様はいたいけな少女を虜にしちまったようだな。だがなベイビー、オレ様はお前一人の物にはなれねぇんだ。なぜなら!オレ様はこの!ドキドキスペースすべての女子の物、いわば公共物!スターの中のスターなのだから!ぬわっはっはっはっは!」
って!ゴキゲンに高笑ってる場合じゃないでしょ!
…どうなっちゃうの~!?