「じゃ、あとヨロシクね!」
と、通信を切ってから随分経った後。膨れ上がった荷物を一旦、宅配でアララ城に送るための伝票も書いて、さー第二弾よ!と意気込んだ矢先だった。
「そんな事ありえないジャン。ウチとダーリンは超合金の赤い糸で結ばれてるジャン」
とっさに、何の事が思い当らなくてハトが豆鉄砲。その間抜け顔じっと見返して来るヘビメタコの目が思っていた以上に血走っていたのでレスカは仕方なく、記憶を総動員する。
「あ~!先週、じゃなくって朝の。アンタ、いやに口数が少ないと思ってたら。まだそんな事、引っ張ってたの」
「それに引き換え、ブスの赤い糸はその乾燥肌とおんなじでボロボロのシワくすみだらけジャン」
「何ですってこのクソヘビ!」
時も場所も関係なくバチバチ!と、早速火花を散らす二人。
休日の、大型ショッピングモール。大型の巨大モニターから流れる軽快な映像と音楽をバックに行き交う人々の顔は平和そのもの。その輪を乱す?いえいえ。遠巻きながらも見物する顔は不安に、ちょっぴり期待をトッピングしているから、やっぱり平和なのだ。
ただ、一人。
出来たてのタコヤキを片手にジロジロと見ている人物がいた。見ている、と言うよりは検分しているような。その人物はヨシ、とひとつ頷くと二人の方に、歩みを緩めず、それどころか加速して…
ドン、と。思ってもみない、肩のあたりの軽い衝撃に目を丸くして少しよろけて。反動で肩にしがみ付いていたヘビメタコがポテン、と地面に落下する音を聞いたが、今はそんな事よりも。
「ちょっとオバサン!どうしてくれるんだよ、今買ったばっかりのタコヤキが全部落ちちゃったじゃないか」
衝撃と、声の聞こえた方に首を向けると、そこには頬を膨らませた少年が、精いっぱいニラみを利かせてレスカを見上げていた。
「ウチを突き飛ばしておいて謝りもしないなんて。失礼な奴ジャン!」
「おば?…アンタ、それ言って無事で帰れると…って、あぁ!あ、アタシのブラウスにソースが!ちょっと、どうしてくれんのよ?」
「うお!ヘビがしゃべった、気持ち悪い!てか、オレの知った事じゃないよ。それに、こっちの被害の方が断然大きい」
「アンタ、ママにレディーファーストって言葉を教えて貰わなかったの?」
「そうジャン!気持ち悪いだなんて、うぅ…レスカ、このチビ軽く捻ってやるジャン!」
「ガーン!気にしてるのに。むぅ…ここまでコケにされて引きさが下がったら男じゃない。ヨシ分かった、アンタがそこまで言うならこのオレが、新しいブラウスを見立ててやろうじゃないか」
「冗談!アンタみたいなガキんちょに…ってちょっと?」
言いながら強引に…何処まで引っ張って行くつもりかと思ったら最奥。モールの中でもひときわ高級なブランドショップのこれまた奥の、試着室に押し込まれてしまう?
「ちょっとガキんちょ!この店、いくらするか知ってるジャン?」
「ったり前だろ。大~丈夫!それに、このくらいの店でも無いと釣り合わないだろ、天下の女海賊サマには」
ヘビメタコがハテナ顔で首をかしげるのと、試着室からハデな物音が聞こえたのと、どちらが早かったか。
「あれ?ヘビちゃん知らないのか。レアジュエルある所に女海賊レスカの姐御あり!この辺りじゃ知らない奴は居ないぜ」
「や、嫌だわ。人違いじゃないかしら、ホホホ!」
「その焦り方。まさか本当ジャン?」
カーテンの隙間から出した顔がギク!と強張り、冷や汗タラタラ…
「時々コッソリ出掛けてる事は知ってたけど。やっぱり悪の華が忘れられないジャン?」
「た、たまには羽目ハズしたい時ってあるじゃない?ただのトレジャーハントよぉ」
「ダーリンはこの事」
「お願い!それだけは」
と、拝む恰好で何となく出て来ちゃって。大丈夫?と思うなかれ。お色直しを済ませた姿は意外にも。
「悔しいけど…似合ってるジャン」
「でっしょ~やっぱりシルクは違うわ!…じゃなくって。ガキんちょ、アンタさては金持ちね、いいセンスしてんじゃない。ってアレ?」
「あれれ?さっきまでウチの隣にいたのに。何処行ったジャン?」
と、店の中をそろってキョロキョロ。右を見ても左を見ても、何処にも見当たらない。おかしい…でもさ、ノンキに構えてるけど。何~か大事な事忘れてない?
「あの、お客様。お会計を」
「って、え~?…ちょっと待ってよ、何でアタシが」
「あ~!レスカ、さっきまで着てたブラウスも消えてるジャン。って事は」
チャリ~ン!ありがとうございました!
ショップ入口の自動扉がレスカを吐き出すと、うつむいた前髪を北風がさらってゆく。いや、前髪だけではなく、お財布の中身も。今や身も心も冷え切ってしまって凍えるばかりのレスカの肩はフルフル震えて…
「あんのガキ!」
…凍えては無かったのね、やっぱり。怒りに任せた髪が天を突き、さながら燃え盛る炎のごとく!それにはヘビメタコも、気の所為と分かっていても熱を感じてしまうほど。
「まだまだまだまだ…あの店もこの店も行こう思ってたのに!絶っっ対に見付け出してブン殴ってやる!」
「れ、レスカ?暴行は駄目ジャン」
「はん!バレないようにボコればいいのよ。って、見付けた!」
張り切って指差した先。少年は命知らずにも満面の笑みで両手を大きく振って、更にレスカの髪が燃え上がる!ような気がして、猛ダッシュ!
「おうおう!ナメた真似してくれんじゃない?」
「驚いた!結構な額だったでしょ…」
頭で理解するよりも手が先に動いた。レスカは少年の横っ面に向かって殴りかかり
…寸止めさざるを得なかった。だって!
「嫌だな、ほんのイタズラじゃないか。ホイこれ、小切手」
「名義人、オ・クビョウ。アンタの名前ジャン?」
「ちょっと待って。オ家って言ったら長者番付じゃないの」
「その御曹司からの依頼、受けてみないか。って、ぐは!」
レスカのこぶしがまともに少年、クビョウの顔面に!それとこれとは話が別、そんなんじゃアタシの気が収まらないの、の一発がキレイに決まると。
ようやくレスカもホッと一息。
「今日の所はこれで勘弁したげるわ。せっかくのお誘いだけど、まだショッピングの途中なの」
「そんなつれない事言わないで!」
「キャー!放しなさいよスケベ!」
言いながら、腰にしがみ付いて来るクビョウの頭を押し戻すも、キッチリ回された手は一向に離れようとしない。なんてシツコイ奴!
「ブルーパールを手に入れなきゃいけないんだ、あんたの好きなレアジュエルだよ。他のお宝は全部持って行っていいから、オレを連れてってくれよ!」
「お宝全部ですって?…でもダメ!と言うか無理。もの凄~く心惹かれるけど、明日からしばらく仕事が続くんだもの」
「そこを何とか!」
「まるでスッポン。ジャン」
「ヘビメタコ!アンタもちったぁ手伝いなさい!」
ヘイヘイ。一応、形だけでもクビョウに移るヘビメタコだが。ヤル気、もとい力も無ければ意味も無く、クビョウは気にせず更に強くしがみつく、相変わらずの押し問答!
と再び、モールを行き交う平和な一般市民がその様子を遠巻きに眺め、そろそろと人だかりが出来ようという時だった。
広場の巨大モニターが突然切り替わり、速報が入った事を知らせている。なになに?
伝説の勇者、結婚宣言!世紀のシンデレラガール誕生。ピースサインのダ・サイダーと、その隣に映っているのは…見た事も無い少女?
「ちょ、ちょっと待って、どういう事?」
デカデカと踊る文字と、見慣れ過ぎている顔とを見比べても、何一つ理解できない。だが、それはレスカだけじゃない?クビョウもまた真っ青に、口をパクパクさせるばかりで声が出ていない。
「そんな、まさか。でもあのイヤリングは確かにブルーパール。どうなってんだ?……レスカの姐御!」
あまりの大声にビックリして声が裏返ってしまう。クビョウを見ると決死の、思わず一歩引いてしまうほどの眼差し。
「仕事の依頼だ。オレを、ローン家まで連れて行ってくれ」
クビョウの差す指の先、モニターに映されたカシャの青いイヤリングと、ダ・サイダーの耳を飾るあれは…預けているハズのレスカのイヤリングではないのか?
「そうよ!こんな事…何かの間違いだわ、確かめなくっちゃ!」
利害の一致。何だかんだでレスカ、クビョウのコンビは一路、ローン家邸宅へ向かう事になった。