夜も更けて。ローン・カシャとダ・サイダーの婚約パーティーは大々的に取り行われていた。
もともと、これと言った特徴のない星のそのまた片隅に位置するローン家の、一世一代。ともすると前代未聞、末代まで語り継がれるお祭り騒ぎに参加しようと、邸宅へ向かう人の波は何処までも続いているかのように見えた。と言っても、大半がダ・サイダーに取り入ろうというのが本心だろうが。
「カシャのイヤリングは、ローン家に代々伝わる家宝なんだ。対になっていて、当主が配偶者に送るしきたりらしい。それがブルーパールと分かったのは数年前の事、と言うかオレが鑑定したんだけど」
「ダ・サイダー、どうして?」
「カシャとは幼馴染のよしみで、教えてもらったんだ。でも悪い事にブルーパールは航海のお守りとして、海賊に人気のアイテムなんだよな。ついでに希少価値も高いから、破産のゴタゴタで明るみに出ちまったローン家のブルーパールも狙われる事になった。って、聞いてるのか」
「へ?あ…そうよね、アタもお餅はキナコ派よ」
「おいおい、頼むぞ。とにかく、カシャはもう一方を隠した、と言ってたんだけど」
ショボン、と音が聞こえてきそうなくらいに落ち込んだ眉じりに、レスカがもっと注意を払っていたら。
その後の展開も少しはマシなモノになっていたかもしれなかったのに。
「オレにはその場所を教えてくれなかったんだ。信用されてない訳じゃないぞ?アイツは特に慎重な性格なんだ」
「アタシというものがありながら…ギッタギタにとっちめてやる」
かもしれないのに!やっぱり聞いていない。終にはレスカの戸惑いが怒りに転じ、歯ぎしりが最高潮に達した辺りで、ふと。
「ところで、アンタのお目当てのブルーパールは、あの子の耳に付いてる奴?それとも」
「もちろん、両方!」
盛大なお披露目パーティー会場の門扉が、ドレスアップしたレスカと、クビョウを盛大に歓迎してくれる。一応、構えていた心とは裏腹にアッサリ潜入成功。
拍子抜けも束の間、そこは…あらゆる贅を尽くしたと言っても良いくらいの豪華な料理が溢れるほどに、ミルクではないが思わず、ゴク!
「凄い!特産の肉!魚!サラダも忘れずに!」
「にしてもおかしいな、いくら何でも警備がユル過ぎる」
「動きやすくて有難いじゃない。ま、何にしてもアンタをここまで届けたアタシはお役御免。あ~ん、この舌の上でトロける感じ。なかなかの名酒と見た」
「オレ一人で侵入しろって言うのか?そりゃないよレスカの姐御!頼むから酔っぱらわないで」
「関係ないわね。それにアタシにだって、この後の大事な用事があるのよ」
ダ・サイダーを取り戻す。そう。レスカはどうしてもダ・サイダーに会わなければいけない。会って…
「何よ!あんな小娘が良いって言うの?そりゃ、アタシよりチョットだけおしとやかそうで、たおやかそうで、かいがいしそうで…」
「何より若い!これは大きい」
「誰が!歳寄りですって?」
「そこまで言ってないじゃないか!」
早速、首に手を掛けてブンブン振りまわしていると当然。
ざわざわと、ドレスアップした来客たちが不安に顔を曇らせ始める。これはマズイ!あわてて、そそくさと人目につかない場所に移動して、改めまして。
「せっかくここまで来たんだ、も少し協力してくれよ、な?」
言いながら、小型のタブレットを取り出して屋敷の間取り図を表示させる。
「これだけのパーティー、現にオレらみたいな誰とも知らない輩が簡単に入りこめるのはもちろん庭のみ。さすがに中までは…今日みたいな日は警戒も厳重になっているはず。そこでだ。オ・クビョウ、ブレゼンツのショウタイムって訳だ」
言いながら、何か小さいモノを懐から出す。
「何よ、カンシャク玉じゃない」
「シンプルイズベスト。コイツをこのパーティー会場にコッソリ捲けば」
パーティー会場を緊張した面持ちで見つめるクビョウにつられて、レスカも。でも…駄目なんじゃないかな?
が!テンションがマックスにまで達したクビョウは耳も貸さない。
「酔っ払いどもは一気に大パニック!その隙に、オレは手薄になった警備のゆるい邸宅内へ、まんまと侵入!完璧だっ!!」
「でもさ。芝生に捲いても意味ないんじゃないかしら?」
「…しまった!加えて昼間に水を捲いたと見えてシットリ湿気ってる。クソッ作戦失敗だ」
ガックリとうなだれるクビョウ。…本当、頼りないったら。
「しゃーない。アタシが一肌脱いでやるか」
「そうか、レスカの姐御自らストリップで客の気を引く!そりゃ名案、いよっ太っ腹」
「んふふ~それでも構わないけど。い~い?こういうのはね、正面突破!派手に行っくわよ~!」
「ツッコんでよ、さては酔っぱらってるな?ってちょっと待って!正面突破なんてオレの美学に反する…」
お~!と、機嫌良くこぶしを振り上げた所で…ガス!痛そうな音に確かな手ごたえ。思わずパンチ一発、でも誰に?振り返ると、アゴに手を当ててのけぞっている少女がいるけど。
ん?どこかで見たような。
「カシャ!」
と、クビョウは何処から取り出したのか特大の花束を携えて、大きく振りかぶって…抱きしめる!
「痛!バラのトゲが、イタタ…アゴも痛いけど。誰よ!」
ようやく、首を戻して痛むアゴをさすりながら。怒り心頭、引きはがしたカシャの顔はほんの一瞬、ホッと緩んだように見えた?
「クビョウ?来てくれた…何しに来たのよ。フン!呼ばれもしないのに来るだなんて、ずうずうしいのは相変らずね」
「相変わらず手厳しいな!加えて、相変わらず貧乏丸出しの恰好だな。オレが贈ったドレスを着ればいいのに」
んん?
「嫌よ!それをネタにゆすろうって魂胆、今日こそは引っかからないわよ」
「ゆするだなんて!オレはただ、スケベ心があるだけだ。それより、どーいう事だよ?オレという恋人がいながらっ!」
言いながら、クビョウがカシャの口を広げて引っ張ると、負けじとカシャもクビョウの髪を引っ張る。取っ組み合いのシュラ場と言うよりはむしろ…
まるで小犬がじゃれ合っているようにも見えるコレは、
んんん?…何処かおかしい。
「いたい、痛いって!…酷い!女の子に何て事するのよ。って言うか誰が恋人ですって?いつ?誰が言ったの?何時なんぷん?」
「オレの七つの誕生日にプレゼントと一緒に、大きくなったらお嫁にしてねって!お前が言ったんじゃないか」
「知らないわ!そんなの、でっち上げじゃないの?それに…あなたが私に近づいたのだって…別の目的なんでしょう?」
今度は凄みのある目線でもってクビョウを射抜く。流石にこれには言い返せないか、けど待って。
「ちょっと待って、ストップ。クビョウ、確認なんだけど。アンタは何が目的でここに来たの」
「決まってる。勇者ダ・サイダーなんかコテンパンにして、オレがカシャのお婿さんになる為だ」
「臆病者のクビョウにそんな事、出来るもんですか。フン!ダ・サイダー様の強さも知らないで」
チクリ、とレスカの胸の辺りが疼く。
そう、この娘なのだ。一体どれほど、ダ・サイダーを知っていると言うのか。一体どうやって、ダ・サイダーを言いくるめたと言うのだろう。ダ・サイダーはこの娘の何処に…。そう、思えば思うほど自然と、目が鋭く睨みつけている事にレスカ自身は気が付かなかった。
「カシャ、ここにいたのか。…どうした、真っ青じゃねぇか」
「ダ・サイダー様」
呪縛から逃れられ、ホッと微笑むカシャを見て初めて気が付いた。と同時にまた、チクリと疼く。
見た事も無い、この国の正装に身を包んだ姿、カシャの事を心から心配して、優しく微笑む横顔。いつも通りにその肩にはヘビメタコを乗せていると言うのに、それなのに。
ダ・サイダーは一向にレスカを見ようともしない。
「レスカ、ごめんジャン。ウチ、ダーリンを探し出す事は出来たけど」
「あんたが勇者ダ・サイダーか。お、オレより背が20センチは高いじゃないか!」
「そういうお前は誰だ?」
「クビョウだ!オレの留守中に勝手にカシャをたぶらかしやがって」
「ダ・サイダー!…どういう事?」
「…たぶらかした訳ではない」
一瞬。
今度こそ目が合ったと思ったのに、それなのに。
「オレが手に入れようと思っていたブルーパールを…」
「やっぱり!それが目的なんじゃない。あなたのそう言う所が嫌いなの、大っきらい!」
特大の花束がクビョウの顔に線を付け、カシャは人ごみの中へ。
突き返された想いの大きさに呆然とするクビョウ。それとは反対に…踵を返すダ・サイダー。
思わず、レスカはその腕を掴んでいた。それでようやく、初めてレスカはレスダ・サイダーの目を捉える。一秒、二秒。バツの悪そうな、チクリと棘が刺さったような顔。でも、やっと捕まえた?
いや…
先に目を逸らしたのはレスカの方。その瞳に映った姿は本当に自分だったのか、それとも…それすら確かめられずに、うつむいてしまう。
頭がガンガンする。手がふるえて…ダ・サイダーと繋がった指が、手が、落ちてしまう。
「悪い、レスカ…帰ってくんねえか」
それが初めて、掛けてくれた言葉。
何かが。何かとてつもなく重いものが、のしかかる。顔も上げられないのに、それなのに。それでも顔を上げる。
それでも…顔が見たい。
レスカの瞳に映る横顔は青い石が光りに照らされて、揺れている。
「ダ・ダサイダー?何言ってんのよ、アンタ正気?だって、こんな所にいたら本当に…結婚させられちゃうかもしれないのよ?」
「悪い」
それきり、何も言ってはくれない。代わりに、ヘビメタコが苦しそうに、申し訳なさそうに代弁をする。
「レスカ。ダーリンは、ここに残るって。だから」
「許さない!そんなの、ゼッタイ…」
気が付いたら、ダ・サイダーの胸倉をつかんでいた。そんな事…良くある事、あいさつ代わり。そのハズだったのに。
ダ・サイダーの胸に頭を預ける。足元がフラフラする。そうか…酔っぱらってるんだ。だからこんなにも
「そんなんじゃ全然わかんない。何でそんな事言うのよ、何で?アタシじゃないの?そんなの…嫌。だってアタシ、アンタの事がずっと!ずっと…」
素直に。
「好きなの。…たぶん、初めて会った時から、今でも、ずっと。だから」
「れ、レスカ?」
素っ頓狂な声。きっと…笑っちゃうような顔をしてるんだろうな、見てやりたいな、笑ってやりたいな。でも…顔を上げられない。
泣き顔を見せたくないのか、ただ…抱きしめて欲しかったのか。ただ今はこのぬくもりから離れる事だけは…嫌だ。
ダ・サイダーの胸の中。あったかい。ずっと、このままでいられたら。ずっとこのまま、気持ち…
「おえぇぇぇえ!」
「うわっ姐御…汚ぇ!ゲロりやがった」
と同時に、
ドドド…
地響きがした事はもちろん…効果音ではモチロンない!
足元を揺るがすほどの振動に一同、何事かと見上げると。空に高く、浮かび上がるシルエットは物凄く見覚えのある…
「アルミホエール号、どういう事ジャン?」
一体誰が?
さてさてレスカ!バタンキュウしてる場合じゃないよ!