今すぐ、婚約を取り消すのは利口じゃねぇ。どうしてだか分かるか?…思い出してみろ。今頃あの星域にいた海賊どもは、お目当てのブルーパールを取られて仕方なく帰る所だ。だが、もしオレ様たちが手ブラで帰った事が知れると…だろ?ふふん、良く聞け。夜を待つんだ。客が居なくなってからが勝負だ。大~丈夫!ちゃんとオレ様が守ってやるよ、乗りかかった船だしな。だから、それまではお前も…軽はずみな行動はとるな、いいな。
「カシャさん!例の星域が見えてきました」
元仕置きロボの声で我に返り、慌てて意識をフロントガラスの先へ向ける。
「ありがとう。ごめんなさい、面倒な役を押し付けちゃって」
「なんの!慣れてますから」
本当に、運がいい。ぐんぐんと近づいてくる星屑たちを見ながらカシャはこぶしを握りしめる。ダ・サイダーには釘を刺されているけど、そんなつもりなんて無かったけど。
「クビョウ…」
青いイヤリングが揺れている。
「カシャが居ない?どういう事だよ」
「きっと、アルミホエール号に乗って行っちゃったジャン」
「元仕置きロボも見当たらないし、間違いないだろう」
「だろうって!何でそんなに落ち着いていられるんだ?勇者サマはこういう事に慣れてるってか」
噛みつきそうな勢いにチラと顔を向けると、クビョウは喉が詰まったような声を出すだけでそれきり、黙り込んでしまう。
ダーリン、とヘビメタコが心配そうに覗き込んで来る、が。
カチコチと、時を刻む音が耳につく。ここはローン家ゲストルーム。ダ・サイダーにと用意された部屋のリビングルームの肘掛椅子に沈み込んで、頭を抱える。
アルミホエール号の騒ぎの後、当然パニックに陥ったパーティー会場。それを、ダ・サイダーの指揮でどうにか、落ち着きを取り戻せた、までは良かった。
「ヘビメタコ、あれからどのくらい時間が経ってる」
「二時間ちょっとジャン。アルミホエール号の速度を考えると」
はぁ~と、思わずともため息が出てしまう。
あの後、すぐにでも飛び出していたら、追いつく事も出来たのに。ダ・サイダーの采配に感銘を受けた客たちが取り巻いたりしなければ…間にあったかもしれないのに。
いや。
ふと、隣の部屋へ続くドアを見る。隣のベッドルームにはレスカが…まだ眠っている。
「…そう言えば、お前は誰だ?」
「ダーリン?クビョウがパーティー会場で名乗った事、覚えてないジャン」
「そうではない。お前は何者だ?何故レスカと一緒にいる」
「な、何だ?知りたいのか。ふふん仕方ないな、良く聞け。オレは姐御の、女海賊レスカいちの子分だ!」
「誰が!アンタみたいな子分を取った覚えは無いわ。って、あの…ダ・サイダー?これは、その」
勢いよく開かれた扉から、やっぱり勢いよく飛び出してきたレスカがクビョウに掴み掛かる…が。ダ・サイダーを見るなりショボショボと…縮こまってしまう。いや、それより。
「女海賊?どういう事だ」
「その…ゴメンナサイ!だってホラ、アタシ姫じゃない?色々面倒な時があるのよ。だから」
「悪事を働いてる訳じゃないジャン。ウチも昼間、聞いたばっかりだけど」
…ま、ヘビメタコがそこまで言うなら。見ると、まだ恐縮し切ったレスカは肩をすぼめ、上目づかいの頬はわずかに染まり…
「そ!そんな事より」
「勇者サマ、真っ赤だぞ…ん?」
呆れ顔一転、目を細めて一歩、二歩。詰め寄って来るクビョウに何事かと目を丸くしていると。終いには虫眼鏡まで取り出して…何だ?ダ・サイダーの横顔をまじまじと観察している。
「アンタ、そのイヤリング」
「そうだった!レスカ、預かり物を返すぜ」
言いながら、レスカに向かって放り投げ、上手くキャッチした事を確認しては、再び目を逸らす。さっきから…どうしてか、まともに顔が見れない。
「姐御の?…ブルーパールじゃないのか?だったら、アンタはカシャの何なんだ?だったら…どうしてすぐに訂正しなかった」
「それが出来てればこんな所に居ない!それには、本物のブルーパールでも持ち出さなきゃ納得させられねぇだろ」
「だったら何で、すぐにでも捜しに…まさか!」
ダ・サイダーはこっくりと、頷いて答える。
「オレ様は、カシャとブルーパールを捜しに行った。だが、見付けられなかった」
「そこまで分かってるなら!どうしてすぐに追わなかった?」
「オレ様が動けば、カシャが居なくなった事も知れる。なにしろ有名人だからな、コッソリ抜け出す事もままならん。それに…」
レスカを見ると、両の耳にイヤリングが、ようやく戻った青い輝きが揺れている。何かを問うような、不安と期待とをその両手に握り締めている。
「カシャとの事は全くの誤解だ。それに…こんなオオゴトになるなんて思ってもみなかったから、運転していたのは元仕置きロボだったし、場所が」
そうなのだ。これこそが、ダ・サイダーにあるまじき失敗。どうせ一度きりとタカをくくり、どこをどう通ったのか…全く見ていなかったのだ。
だから、あの後すぐに、どんなオオゴトになろうとも追いかけなければいけなかった。なのに、頭では分かっていたのに。
意識を失ったレスカを前に、足が動かなかった。
「何~だ、そんな事か。」
呆れかえった声にダ・サイダーは、思わず掴みかかりそうになるが。声とは裏腹に沈んだ目でどこか遠くを見ているクビョウは幸か不幸か、気付いてない。
「秘密の隠し場所ったら、あそこだろ?正確な位置までは知らないが、分かるぜ。だってオレは…カシャの幼馴染なんだから」
遠く、記憶の光景を。