星屑の散る宇宙空間。その中でもやっと、人一人隠れられるくらいの星影に、きゅうくつそうに身を寄せる二人の男が居た。
「いいか、今ここで手を出したら駄目だ」
「分かってる。例の女がブルーパールを探し出すのを待つ、だろ?」
「ちまたじゃ、手に入れてお祭り騒ぎ、なんてやってるみたいだけど」
「本当は手に入れてなかった、だからもう一度ここへ来た」
「オレたち海賊をダマそうなんて、とんだ食わせ物だな」
「甘くないって事を教えてやる。手に入れた所をチョット脅してやれば」
「へぇ、良いアイディアじゃない。アタシもまぜてくんなぁい?」
イヒヒ、と笑い合った所で突然!あわてて振り返るとレスカが、ニコーっと満面の笑みを投げかける。と、男たちの後頭部に強烈な衝撃が走ったのはどちらが早かったか。
「クビョウの案内、バッチリだったわね。それにしても…鼻の良いこと!」
「そ、そだな」
両手に持った野球バットを持て余しながらダ・サイダーは、誤魔化すように手早く、気絶した男たちを縛り上げる。
「レスカはダーリンとカシャとの事が誤解だって、分かった途端に凶暴化したジャン」
「フン!それはアンタでしょ!途端にゲンキになって。本当、ゲンキん!」
「イエ~イ!ダーリン、最高に面白いジャン!…ってあれ?ウチ何してるジャン」
「バカねぇ。でも本当に、ダ・サイダー?お腹痛いの」
なんて…デリカシーの無い女だ。
首をかしげて覗き込んで来る顔から逃げたのは、呆れて物が言えなかったのか、まだ顔が見れないのか。どちらにしても
「最悪だな」
「クビョウ、間に合うと良いんだけど」
「あった!良かった…」
思わずとも、その場にヘナヘナと座り込んでしまう。
ダ・サイダーに忠告されて、それなのに勝手に飛び出して。覚悟はしていたつもりでも…抜けてしまった腰がカシャの不安を何より物語っている。
「ううん、ノンビリしてる場合じゃないわ、早く帰らないと。帰って」
このブルーパールをどう、したいのだろう。どうする事が一番かしこいか。そんな事くらい分かってる、でも。
クビョウの頬の傷を思い出す。いつもヘラヘラ締まりのない彼が、見た事も無いくらいに茫然と立ち尽くした顔が。
ブルーパールを見つめると、歪んだカシャの顔が映り込む。見たくないと、目を瞑ればすぐにでも目の前に、あの時のクビョウの顔が見える。自分の気持ちくらい、痛いくらいに分かってる。でも…
…分からない。
その時だった。
突如として吹いた風によってカシャの手の中から重みが消え、驚いて目を開けた少し先に居たのは。
「鑑定のやり直しだ。本物かニセモノか、このオレが判決を下してやる!」
「クビョウ!あなた、この期に及んで…盗む気ね?待ちなさい」
ベロベロバ~!と、挑発する姿を、クラウチングスタートでもって追いかける!だが、それに続く者たちが居た。
そこここの星影に隠れていた海賊たちは慌てて、出るわ出るわ…カシャの後を追い、カシャはそれに気付かぬままクビョウを追いかける。
クビョウはそれを…ほんのわずかな間見つめ、それからくるりと踵を返して、走り出す。
「おっと!野暮なことするモンじゃないわよ」
「アッチは若い二人に任せて、ダーリンが相手してやるジャン!」
ね!と、ヘビメタコに言われて我に返る。イカンイカン、集中しなければ。でも
チラ、と盗み見るレスカの横顔が、歓喜に紅潮している。嬉しそうな、ニヤけそうになるのを堪えるような何と言うか、かわい…
「え~い!何だと言うんだ、さっきから。キサマら、オレ様は今、非常~に腹が立っている。よって…覚悟しやがれ!」
絶妙のタイミングでヘビメタコが愛用の日本刀を吐き出し、構える。そうだ、コイツさえ振るっていれば。いつも通りに、いつも以上に力が入って、向かう敵に向かう事になったのだが。だが、それはもろ刃の剣。
ダ・サイダーはまだ、気が付いていない。
そんな、縁の下の力持ちの仕事も知らずの若い二人は追いかけっこの末、小さな一畳ほどの星の上でニラみ合いながら、くたびれ果てていた。
「あ、あんた…いい加減にしなさいよ」
肩で息をするカシャに対してクビョウは、膝を付いて四つん這いに、立ち上がる事も出来ない。
「こ、こうしよう。お前が正直に、コイツを手に入れたい理由を言うなら、オレも考えなくはない」
「お金になるからよ!アタシはローン商会を立て直すの」
「カシャ~素直になれよ」
「じゃぁ、それをダ・サイダー様に受け取ってもらうためよ!」
「なんでそう!ヒネくれてるんだ?」
「ぜんぶ、アンタの悪影響でしょ!」
やけっぱちに、足元の小石を投げつけると丁度タイミング良く。とうとう力尽き、うつ伏せに倒れ込んでクビョウの頭の上をすり抜ける。だが、そんな恰好悪い極限のクビョウもまだ、何とか向けて来る顔に…目が諦めていない。
「…いいわ、ハッキリ言ってあげる。私はアンタの事なんて大っきらい!」
すぅっと、クビョウが息を吸い込むのが分かる。力を込めていた手がほどけ、ブルーパールが…転がり落ちる。
カシャはそれを慌てて拾い、なんとか!今度こそ本当にブルーパールを奪還。けど…心がズキリ、と痛む。
「それを、どうするつもりなんだ?」
見ると、いつの間にか立ち上がって、俯いたままのクビョウが…顔をあげてカシャの顔を真っ直ぐ見る。頬にはカシャの付けた浅い傷が線を引き、見た事も無いくらいの真剣な顔に一歩、思わず後ずさるとクビョウも一歩。詰める足取りはやっぱりフラ付いて、無理をしているのだ。
本気なのだ。
「カシャはそれを、どうしたいんだ?」
「私は…」
シュン!
すぐ後ろで音が聞こえた。と思った一瞬遅れて、頬に痛みが走る。おそるおそる…触れてみると指先には血が。クビョウに目を映すと真っ青に、固まっている。
ナイフだ。隠れていた海賊の一閃が襲ったのだ。それなのに、庇いもしないで茫然と突っ立ている。カシャが恐ろしい想いをしていると言うのに…
「カシャ、また!」
もう一閃。クビョウの一言で今度は身をよじり、何とか避ける事は出来たものの。
グラ…
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
バランスを崩して真っ逆さま!
目の回るような速度で石が、星が頭の上を通り過ぎて行く、落ちて行く。嫌だ、こんな所で。こんな、事ならちゃんと…
突然、目の前にクビョウの顔が現れると、途端に怒りが体じゅうを支配して、気が付いたら。
ぱん!と、頬を張っていた。
「本当は、ブルーパールが欲しいだけなんでしょ!」
「お前…この期に及んで!」
「もう嫌、アンタなんか、アンタなんか…好きになるんじゃなった!」
涙なんか死んでも見せたくない。だから顔を覆ったのに後から後から…溢れて指をすり抜けて行く。ブルーパールも、今の拍子に放してしまった。だったら決まりだ。クビョウは…
ぐっと、体が引き寄せられて、腕にすっぽりと包まれる。頭を胸に押し当てて、カシャを守れるように。
その瞬間。
爆発音が聞こえたと思うと続いて、吹いてくる爆風に切りもみされ、無数に砕け散った星屑がクビョウに降りかかる。それでも何とか、目を閉じずにどこか、安定した場所を必死に探している。
ゴツン、と衝撃音と共に、痛!と文句を言う声でようやく…落ち着いたようだ。
「ダーリン、手榴弾を爆破させて激突を避けさせたジャン?」
「うわ~痛そう!アンタ、後で謝っときなさいよ。でも」
今にも泣き出しそうな顔のカシャに…思い切り抱きつかれたクビョウはそのまま仰向けに、カチコチに固まってしまった。遠くからでも良く見える。
どうにか。
「あっちはどうにかなったみたいね」
ああ、と聞いているのか居ないのか。レスカが怪訝そうに見ている事にも気が付かないで、頭を振ってばかりいる。
もろ刃の剣。上の空なんて命取りになると、分かっているのに今も。
海賊を引き付ける役くらい、余裕でこなす自信があった。それなのに。…事もあろうにカシャに、女の顔に傷を付けるようなミスを犯してしまった。
それなのに…それでも頭を支配しているのはあのパーティーでの出来事、レスカの温度。
最悪だ。
誰よりも分かり過ぎているハズなのに、それでもまだ…抜け出せない。
「ダ・サイダー!」
まただ。
間一髪でレスカに助けられたらしい。気が付いた時には男が、足元に転がっている。しっかりしなければ!頭を抱えて打ち消そうとするけど。…だめだ。やっぱり
「レスカ!あの…」
バシ!と、首がもげるくらいに強く、頬を張られる。思わず、バランスを崩すほどの強烈な一撃に、何とか踏みとどまったけど。ビックリして、痛みも忘れてレスカの顔を見る。
「何に気を取られてるのか知らないけど。あんたジャマ。死にたくなかったら尻尾捲いて帰んな!」
言うなり、背中を見せて独り構える。その向こうには海賊たち。もう言えば…何人も残っていない。そもそも、何人くらい居た?どのくらい倒した?オレ様が倒したのか?そんな事も覚えていないなんて。
ヤキが回ったって事だ、レスカごときに忠告されるくらいだ。でも…
何だかおかしくて、笑っちまう!
「ふふ、くっくっく…ぬわーっはっはっはっは!」
「な!何よイキナリ?とうとうイカレちゃった訳?」
「イカカレーは明日の夕飯にリクエストするとして、今はこれだ!オレ様、大復活っ!」
パンパカパーン!とファンファーレでも聞こえてきそうな大げさなフリで懐から取り出したのは…大福とトンカツ?
「大福とカツでだいふっかつ!」
「イエーイ、ダーリン待ってました、お帰りジャン!」
「ハァ?…やっと調子取り戻したと思ったら。で?それから、どーするつもりよ」
「こうするのだ!」
言いながら、手裏剣の要領で敵に向かって投げつける!
するとどうだ?ちょうど人数分の大福とトンカツがそれぞれの口に入るなり、いきなり爆発したではないか。
「ふっふっふ。こんな事もあろうかと、パーティー会場でたまたま拾ったカンシャク玉を仕込んでおいたのだ」
「クビョウが捲いてた奴ね。でもいい感じ…」
「レスカ!…オレ様を信じて体を預けてくれるか?」
突然呼びかけた所為か?まん丸に見開かれたレスカの目の周りが…みるみる内に赤くなる。驚いた顔、おもしろ…いや。可愛いじゃねぇか!愉快痛快!その隙に、ダ、サイダーはレスカを組み体操よろしくリフトして。
「ひかえおろう!てめえらいい加減にしやがれ、このお方をどなたと心得る?ほらレスカ!」
「へ?あ、アンタたち!ここで逃げるなら勘弁したげるわ。でももし、まだやろうってんなら…容赦しないよ!」
「いよっ女海賊レスカの姐御っ!」
ビシっと決まり、口からブスブスと煙を吐き出す海賊たちもグッタリと、崩れて行く。ダ・サイダーの思う所、レスカの目つきの悪さが決め手になったと思うが…言わない方がよさそうかな、うん。
カシャはようやくそろった二つのブルーパールを両耳に付けて、ダ・サイダーにペコリ、と頭を下げる。
「何だよカシャ、クビョウにくれてやるんじゃ無かったのか」
「だってアイツ、てんで信用出来ないんですもの」
そうだな、と目を向けると。レスカに内緒話があると言っていたクビョウは端の方で、ヒソヒソと耳打ちしている。ちょっと…イラっとしないでもないが、何を話し込んでいる?
と、クビョウはダ・サイダーをチラっと指差し、つられたレスカと目が合って…さっと青くなって?機械人形のように膝をカクカクと震わせながらこちらに来るなり。
「だ、ダ・サイダー、アタシ…その、なんてお詫びしたらいいか」
「?何だよ」
「クビョウに聞いたの。パーティー会場で…アタシ、アンタに」
これで何度目か。
少しの間忘れていた事がフラッシュバックする。真っ赤に頬を染めたレスカ、胸に感じた重み、思わず抱きしめてしまった肩。熱く…こみ上げる想いに耳がしびれる。
「ゴメン!忘れて、ね?アタシ相当酔っぱらってたのよね、あんな事…どうかしてるわ」
「どうかって、お前…ちょっと待て。本気じゃ無かったって言うのか」
「当たり前じゃない!あんな事…」
フイ、とそっぽを向いた横顔に、一気に…気温が下がる。
「冗談であんな事言ったっていうのか?」
「アンタの胸でゲロ吐いちゃったのよね、本当ゴメン!」
「ふざけるな…って、へ?」
クビョウを見ると、ニヤニヤ…コイツ!
怒りはそこそこに、それよりも…伺うように覗き込むレスカに、うっすらと涙まで浮かべた顔に再び、…。
「何よ、怒鳴らなくってもいいじゃない。でも、あんなことって…なぁに?アタシ、何かアンタに言ったっけ?」
あわててそっぽを向くダ・サイダー。横目に捉えたレスカは明らかムっと、しかめっ面。「ちょっと、気になるじゃない。何か言ったのね?何ていったのよ、ねぇ!」
「…ヨシ。帰るそ、ヘビメタコ!」
「ねぇってば!」
時刻はそろそろ、夜が明ける頃。猛ダッシュでアルミホエール号を目指すダ・サイダーと、それを追いかけるレスカ。こっちはまだまだ…ゴールは遠いかな。でもいいカップルだよ、あんたら。
おわり
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