クトゥルフの門   作:邑真津永世

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初投稿だぜっ


Arnold・Ian

辛気臭い顔がいくつも並んでいる。

この街はいつもの様に時間だけが過ぎ去っていくようだ。

あいも変わらず野郎どもは女の尻追いかけ回して、その女に罵倒されはっ倒される。

本当に変わらない肥溜めの様な所。

 

「はぁ、馬鹿が馬鹿やってるよ」

 

こんな一言でも奴らの尻に火をつけるには十分な発火剤だ。

 

「んだてめぇ、坊ちゃんが正義の『警察(お巡りさん)』気取りかい?アメリカン・ドリーム掴みに来たんなら、とっととママのおっぱいに飛びついた方が賢明だぜ?」

 

などと下卑た声で下品なことを白昼堂々と言う。

社会的秩序などあったものではない、まさしく唾棄されるべき集団。もしジャパニーズポリスがこの現状を見たら、嬉々として取り締まることであろう。奴ら“日本人”は潔癖なまでに隅々を気にする、まぁ悪い意味でではないが、良い意味でない場合もある。

取り敢えず、無駄な思考をうちやめた彼は煙草に火をつけ、吸った煙りを絡んだ男に吹き当てる。

 

「ぶぉ!?何しやがるてーー」

 

言葉を続けようとした瞬間、男の前から彼の姿が消えたと思うと、後頭部あたりから衝撃が走る。

まるでその衝撃は不倫相手との現場を妻に見られたかのような、鈍痛とも呼べるものだ。

 

「マヌケ。馬鹿が馬鹿してるっつったろ?もうその時点で気づくべきなんだよ。てめぇの実力差さえ測れねぇ時点で『IQ(知能指数)』が低いんだよ。もう一度パパの睾丸の中からやり直してこい」

 

……汚い言葉には汚い言葉、とでも思っているのだろうか?

はたまた、ハンムラビ法典の教えを間違えた具合で全うしているのだろうか、皆目見当もつかないぐらいの醜い言葉の罵り合い。

恒常的にここアメリカでは使われている罵倒。

こうも口からスラスラと出てくるのは、育ちの問題の他にないと言わざるを得ない。

さらに彼は言葉を続けて一言。

 

「あと、私は一応『警察(お巡りさん)』だ。さっき正義のなんちゃらとかって聞こえたが、聞き間違いか?」

 

彼は明らかに青筋が立っており、ピクピクと顳顬が動いている。

これは完全に男の言葉に対して、根に持っていて標的にされている。

男は一抹の恐怖と、冒瀆的な考えを巡らせ、脳が理解する頃にはもう顔が真っ青になっていた。

 

「ママのおっぱいがなんだって?ん?……テメェの頭にもう一つ尻の穴が増えることになるぞ?」

 

男の脳味噌が覆われている箇所に拳銃を突きつけて、ものすごい形相で睨みつけている。

ただでさえ睨んでいる顔で人が殺せそうな顔をしているのに、銃を突きつけてしまっては『殺し屋(クリーン アップ)』となんら変わらない。

人間一つの命なんて、なんでも思ってないような冷酷な目で拳銃を突きつけている絵を見てしまったら、その拳銃を持っている人間を殺戮のために作られた兵器だと疑ってしまうような絵面。

彼の愛用している『銃(チャカ)』の種類はベレッタM92、さらに二挺持ちである。

生産国はイタリア、9mm口径の装弾数15発の重量950gの彼の相棒。全長は217mmと少し大きいぐらいだろうか。

ベレッタM92は、米軍にとても熱い信頼を寄せられる、世界での知名度が高いとされている武器。

そんなものは麻薬密売人やゴロツキでもわかるぐらいに有名であろう。

実際、拳銃を突きつけられている男には、大粒の汗が流れている。

どうやらこの『得物(ベレッタ)』を知っているらしい。

 

「俺の引き金は今"とてつもなく"緩いんでな。ふとした瞬間に"鉛玉がてめぇの頭蓋骨と同時に脳みそまでもを撃ち抜いちまうかも知れねぇ"。その事を理解した上でよぉ〜く聴け。この写真の女を殺ったのはてめぇだな?」

 

「ち、ちげぇ!!!俺は殺ってねぇ!!!本当だ!!!」

 

精神的動揺が隠せておらず、目までもがそれを物語るかのように右往左往している。

その事件に首を突っ込んでいますよと、自ら言ってしまっているみたいなものだ。

目は口ほどに物を言う、有名な日本の諺だったと思うが、それが今一番当てはまる。

この精神的動揺は彼に見せてはいけない類のものであった。

何故なら、動揺した奴が一番早く戦場でやられる。ここはもう一つの戦場なのである。

 

「ん〜?よく聞こえなかったなぁ?こ の 写 真 の 女 を 殺 っ た の は て め ぇ だ な ?」

 

否定を許さない、言外に含んでいる言葉はそれで片がつく。

もし次言い訳をしたら間違いなくこのポリ公は打つ。そう言った凄みが前面に出ている。

これは最早事情聴取どころの騒ぎではない。

事情聴取の皮を被った脅迫以外の何者でもない。

ところで、彼の名前をご存知だろうか?

ここで重要なのは彼の名前ではないのではあるが、一応様式美なんてものがこの世界には存在している。

[Arnold Murderer(アーノルド・マーダー)]、それが彼の名前。

彼はこう呼称されることがある。

【殺戮兵器(マーダーマシン)】と。

これだけで彼の説明は十二分に果たせていると言っていいだろう。

この名前を聞いただけで、大体のアメリカ在住の市民は知っている。

手のつけようがない『警察(キチガイ)』がいるという事を。

 

「お、お前まさか……murdererか?!は、話す!!俺が知ってる事全部話すから、いの、命だけは!!!」

 

その台詞を聞いた直後のArnoldの顔は、都合のいいおもちゃを見つけんばかりの満面の笑み。

男の寿命ではいくらあってもバラされ足りないであろうその残酷な笑みは、全てを黙らせる効果を持つ。

まるでサンドバックを見つけたと言わんばかりの目ではあるが、彼にその気はない。

 

「ほーほー、中々良い覚え方されてんじゃねぇか。私も有名になったもんだ。じゃあ"命だけは"見逃してやるから、この女のことについて知ってるだけ全部吐け」

 

手短に簡潔に、その写真を男の前でぺらぺらさせているArnold。

男の脳裏に浮かぶのは鮮明な“死”、最早単純明快であった。

何をしても死に直結する、まるでparallel worldの線が一つの線に集束されるかの如く。

そして口を開かないことによって、目の前の男が少しイライラしだしたあたりで早く喋らないとまずいと思い喋り出す。

 

「お、俺の名前は[Carey(ケアリー)]。ファミリーネームはしらねぇ……。"ごみ溜め"に捨てられていたからな。そ、そそその話は今どうでもいいなんてことぐらいは俺でもわかる……。しかし今は自分の身分をはっきりしておくべきだと判断したんでな!?それで、おん、女を殺した経緯だったか?…………それはある男から依頼を受けたんだ。『この女を殺ったら金をくれてやる』……とな。俺はその日の路銀を集めるので精一杯で、でかい実入りが入ると思い、その女を一思いに刺した、それが大体の経緯だ! ……あ、ああ依頼人の顔と名前、性別に至るまでまるでわからなかったんだ!変声器のようなものを使っていたし、まず顔面が仮面で覆われていた……。ろ、ローブを着ることによって体格すらもわからなかったしな?!な、なぁこれで全部だぜ?命は助かるんだよな?!」

 

ここまでArnoldと相対している時、彼に対する恐怖心を押さえつけて話していたためか、Careyの動悸が酷いことになっている。

素人目で見ても過呼吸寸前であるということがわかる。

取り敢えず危害を加えないという事を約束し、Arnoldは頭に当てていた銃を漸く離す。

 

「にしても"ごみ溜め"出身か、今回のヤマは碌なことが起きないだろうな。大体あそこ出身の奴が大人しくできた試しがねぇ。私は慈善事業でこの仕事についているわけじゃねぇんだぞ?」

 

こんな文句を垂れるぐらい面倒くさい事件だという事を、再確認したArnold。

彼の目は既に死んだ魚の目をしており、DHAが豊富そうである。

どうにもやってられない気持ちで、2本目のタバコに火をつける。

この情報をどう上司に報告しようか悩みどころではあるのだが、本当の悩みはその上司への報告のことではない。

story childrenの集まりや、職の無いNEETどもの溜まり場、通称"ごみ溜め"。

肥溜めよりひどい匂いを感じさせるあの場所は、現代アメリカの一角にあるものの、その場所だけは浮世離れしたようなそんな感覚に陥る。

この惨状を見た諸外国がどう反応するのかは想像に易い。精々頑張って諸外国連中にお節介をしなければ、信用及び物品の輸入・輸出は途絶え、社会的地位若しくは世界的権威が失墜するであろう。

あれ程日本の政治に首を下ろしていたのだ、失墜したと同時に狙われてもなんらおかしくはない。

ArnoldはCareyに帰っていいぞと一声かけると、ため息とともに煙りを吐き出し、スマホを手にかけ、上司の[Ian Bell(イアン・ベル)]に向けて発信する。

コールが流れる事数回、中性的な声が耳に聞こえてくる。

 

「やぁ、Murderer警部。君から電話がかかってきたという事は、何か手がかりが見つかったという事だね?」

 

少しの間と、独特な雰囲気の喋り方。まるで娼館の女と話しているような気さえしてくる。

その迷惑極まりない考えを取り下げると、言いたい事を吐露する。

 

「ああ、わかってんなら話は早ぇ。ヤマの女、"ごみ溜め"出身のクソガキにバラされてやがった。しかも想像できる限りの最悪な状態だ。……これじゃあ碌な情報にすらなりゃしねぇ。お陰でこっちは歩き損だ。手がかりがねぇことが手がかりなんだからよ。あんたの方はどうんなんだ、私よりもいい成果が得られてるんだろうな」

 

上司に使う口調ではない事を当然Arnoldは理解している。理解していると同時に、この上司に敬語は必要ないということもまた、理解しているのだ。

この上司に敬語を使っても意味のない理由、それは……。

 

「君より僕が成果を上げているわけないじゃない。少しインターベースで調べ物をしたけど当たりは無し。オマケに丁重に『彼方さん(犯罪者)』から『手紙(紙くず)』が届く始末さ。《警察というのは余程暇なのだな。そこまで暇を安売りしているなら、その暇を我々が買ってやろうか?貴様らの命が代償、つまりは金額になるが……》なんて、素敵な文が送られてきたもんだ。お上もカンカン、下のやつらもカンカン。今この『手紙(紙くず)』の送り人を血眼になって探している。人間というのは直情的だからね、すぐ怒っていけないよ」

 

などとなんの緊張感もなくいうのだから凄い。

偶に尊敬できなくもないのだが、脱力している時と本気の時とのギャップが激しい。全く誰がギャップ萌えなどというおかしな造語を作ったのだろう。それは大いなる間違いだという事を声を大にして言いたい。

そんなこともあり最近の上司には…………、敬語を使えないというより、抵抗があると言ったところである。、

 

「…………まぁ、そっちの情報はある程度は理解した。だが的を射ていないな?何故奴らがそんなriskyな事をする。今ポリ公どもの前から姿を隠したいはずなんだが。ーーーーあ」

 

アイディアを思い巡らせる。

するとふとこんな事が思い浮かんでくる。

そのヤマの女の名前は[Claire Wilson(クレア・ウィルソン)]。

麻薬カルテル(drug Kartell)の密売人と関わったことのある人物だ。それもかなり深くまで関わってしまっているために質が悪い。

この女は以前から警察に追われていた。実際その女の身元調査も行なっていたぐらいだ。

女の足取りを追っていく間に、必ずKartellの情報に辿り着くはずだろうとArnoldは気づく。

そして、その『手紙(紙くず)』を『プレゼント(送りつけてきた)』してきた奴らが必ず背後にいると言うこと知るだろう。

奴らは撹乱することによって、自らを紛れさせるのがいの一番にしたいこと。

 

「そうだ、Ian。あのアマの身辺調査を辞めさせろ。最悪ーーーーーー大勢の人間が火の海と鉛の雨に消えることになる。これは揶揄とかじゃねぇ。麻薬カルテルどもと関わってた女なんて碌なもんじゃねぇぞ?畜生、早く気付くべきだった……!」

 

声音で大体Arnoldの表情を察する事ができる。

とてもではないが女子どもに見せられないような顔、微塵粉をすり潰したかのような苦い表情を浮かべている事が電話越しで伝わることなど、そうそうない。

彼の持つユニークな特技の一つなのだが、今は緊迫した空気が二人の間を流れる。

 

「ふぅむ、確かにmurderer警部の言い分もわかる。しかし、もう奴らの手の中だ。仏の御手で斉天大聖が踊らされたかのようにね。いやはや、僕らは斉天大聖の様に頭がいいわけではないからね、やはり人間というのはどこまでいっても、情に流されてしまうね?」

 

斉天大聖、簡単に言ってしまうと孫悟空のことを指す。その童話とも呼べるそれは、日本でかの有名な三蔵法師と妖怪3人組の旅の話の最初に直結する話、だということを頭の片隅に置いてあったArnoldは簡単に理解する事ができる。

しかし、こんな重要な時に『冗談(ジョーク)』を披露できるほど、Ianは余程余力があるらしい。

そんなIanを少し恨めしげに思うが、彼の性格の一部分であると判断し、バレないように回り込んできたつもりのノータリンどもに天誅を加えようと、スマホを持っていない右の手でホルスターに手をかける

 

「まぁこれでとりあえず、外には敵しかいねえって事がわかったな。よかったな、クソッタレどもが泣いて喜んでやがる。こちらから『お迎え(エスコート)』する必要もない、勝手に奴さんがおもちゃ引っさげて遊びにきてやがるぜ」

 

「血の気の多いことだね、まるでそれじゃ獣じゃない?彼らは理性的と感情的を履き違えているみたいだ。まるで靴下を逆に履いてしまったみたいにね。はぁ、これだから時間外の労働には困り果てるよ、おかげで寝不足だ。涙がちょちょぎれてしまいそうだよ。ほんと、馬鹿だよね?」

 

二人の言葉が皮切りになったのだろうか、麻薬カルテルどもが彼らを撃ち殺さんとばかり迫ってくる。

互いに、襲撃者の人数はわからないだろうが、関係はないだろう。

お互いが死んでも、どちらかが根絶やしにするまで止まらない。

 

 

 

Arnoldに押しかけてくる襲撃者達は3人。

今出動できるのはこの人数しかいないとばかりに、野郎達(Kartellども)の顔は優れない。

ショットガンを相手方が発砲、がどこを狙っているのかArnoldの横の木箱に当たり(hitして)木箱が弾け飛ぶ。

 

「おいおい、どこ狙ってやがる。いいか、此の玩具は銃っていうんだ。まずは手を胸に添えて、そうして片目瞑って(別に瞑らなくても良いが)こうやって当てんだよ」

 

Arnoldがそう言うと、目にも留まらぬ速さで先程から手にかけていたホルスターから銃を抜き取り発砲する。

するとどうだろう、さっきショットガンを打った男の眉間に命中するではないか。

男二人はさっきまで動いてた同僚が横でゴミクズみたいにされた瞬間の動揺か、発砲こそしたが弾丸はあらぬ方向へ飛んでいく。

さらにこんなことを考えてしまう。Arnoldの攻撃は必中なのではないだろうかと。

そんなに離れていないとはいえ、人体に球を食わすことは人間の倫理観的に躊躇われる。

しかしホルスターから銃を引く初動から察するにバラし慣れている。一片の躊躇もなく人をバラせるのはキチガイ若しくはPSYCHO-PASS野郎。

そして男は更に最悪な予想に辿り着く。

あの【殺戮兵器】には血も涙もないのは勿論、丁寧にいたぶれるぐらいの銃の腕があるのではないだろうかと感じてしまう。

 

「玩具の正しい使い方を知れてよかったな。……あぁ、もう聞こえちゃねーか。それで、何もしねぇのか?せめて抵抗ぐらいしてくれよ、俺の行動の意味を『シガーに香りづけするために(正当防衛を完成させるために)』……!」

 

Arnoldの目は狂気に染まっていて、第一人称が変わっており、おまけに瞳孔は開ききり、次はお前だと射撃ゲームを楽しんでいるかの様である。

人間がまるで的に見えているようだ、ヘッドが100点満点であろう、彼の心はもう何処か別のところへ戻らない永遠の海外旅行している。

 

「こ、この人殺しが…………!!!」

 

「あ〜ん?なに寝言ほざいてやがる。寝言っていうのは寝てからじゃないと言えないんだぜ。これでお前も一つ賢くなれたなァ?」

 

もう最早目の前にいるそれらを動く肉塊としか見ていないArnold。

彼の道は茨の道以上に険しい獣道だろう。

だが、もうその道は彼が『決めて(歩んで)』しまったのだから仕方がない。もう戻れないなんてことは、とっくのとんまに知っている。

脳裏に殺した奴らを一々浮かべていたらキリがない、警察というのは常に死と隣り合わせだ。

気にする方が酷である。

人殺しとポツリと言われたところで、特にその言葉に怒れる感情を見出せない。

やはりArnoldの放った弾丸がその人殺しをしているブーメラン野郎にぶち当たり絶命する。

残り一人になってしまったKartellの売人。

そこでポツリと言葉を漏らす。

 

「自分のお友達がやられて激昂するのか?もしそうだとしたらとんだお笑い種だな。テメェもテメェで他人の命とってんだ。たかが人間が一人二人死んだぐらいだろ?私には理解が出来んな。なら過去にバラした奴らの家族もテメェらにSteam podみたく怒ってるんだろうさ。だからもう一度だけ言うぞ、なんで身勝手にキレてんだ?」

 

「くっそがぁぁああああ![Enoch(イーノック)]と[Ernest(アーネスト)]の仇だ!!!!!」

 

「はぁ…………。人の命をバラしておきながら仇だなんだと口にするのも甚だしいぞ?バラしちまったんなら、バラしちまったなりの覚悟を決めろよ。それができなきゃ、ただの阿呆みたくとっととこの世のために死んでくれ」

 

そうArnoldは口にすると、男は銃では無理だと判断して、近接戦闘で決めにかかろうとした。

しかし、その男は決定的な勘違いをしている。

Arnoldは只々自分の出番を譲っていただけである。

近接戦闘で決めようと仕掛けた男であるが、もう目の前にいた筈であるArnoldの姿形はどこにもない。

気付いた時にはもう遅かった。その男の顎に激痛が走り回ったと思うと、男は先ほど立っていた景色とは違う景色を向いている。

単純に顎を殴りこんだだけで反対を向かせるほどの腕力、そしてArnoldはその男を殴った要領で自分も回転し、そして男の頭を自身の肩に押さえつつ乗せ跳ね上がり、首の骨を叩き折る。

martial arts(マーシャルアーツ)、軍人の所属であれば大体の近接戦闘は、この殺人体術に等しいモノを使用する。Arnoldの放った一撃は、彼のSWATにいた頃を彷彿とさせる一撃であった。

そのため、男達3人は痛みを感じるとともに激痛を伴い死んでいった。

この悪魔【殺戮兵器】に関わってしまったばかりに。しかし、逆に痛みを伴わずに死んでいったことは幸いかもしれないが、死んでしまった3人がどう思ったかは別問題だ。

彼は一仕事終わったと言わんばかりに、胸ポケットにある煙草、スーリアマイルドに火を点ける。

スーリアマイルドとは、煙草の王様と名高いガラムのスーリア缶のタールが少しほど落ちた煙草という認識でいい。

以前としてタールは32mg、ニコチンは1.5mgという化け物ような数字ではあるが、Arnoldのお気に入りはやはりスーリアマイルドだろう。

一服し、今回のヤマのことについて思慮を巡らせていた時、突如として電話がかかってくる。

Arnoldはかかってきた電話について見覚えは全くと言っていいほどない。ただ、このタイミングでかかってくる非通知番号など、碌なものではないというのは瞬時に理解できた。

しかし、ここで電話に出なければ始まらない。

そっと通話ボタンを押し、電話に応じる。

 

「やぁ、【殺戮兵器】。君の戦いっぷりを見ていたよ!凄かったねぇ、あのKartellの無能どもが焦って君に突っ込んでくる瞬間にhead shot!爽快だねぇ、まるで“射的ゲーム”をやっている感覚に陥ったよぉ〜。おまけに、最後のあれは何〜?あんな殺人体術があったなんて、知りもしなかったよぉ!ムエタイと同じぐらいかそれ以上に残酷な体術だね、それは!」

 

一頻り言いたいことが終わったのだろうか、男の声か女の声か判断がつかない声が消える。

そして、ふとした瞬間沈黙は破られた。

 

「お前ぇ?首を洗って待っていろぉ〜!必ず生きていることを後悔させてやるぅ〜?」

 

口調的にも(字面的にも)ふざけていることが容易にわかる。奴らKartellどもに弔いの気持ちなど、等の昔にお花畑に捨てている筈だろう。

全くと言っていいほど怒りの感情を微塵も感じさせない、まさに惰力仕切った言葉の人物は、その言葉にさらに続けてこう言った。

 

「まぁ【殺戮兵器】を、たかだか3人程度の雑魚にバラせるなんて、思い違いもいいところだよねぇ。“上層の老害共”はどこまで言ってもバカなんだなぁ。【殺戮兵器】、君もそう思わない?」

 

妥当でないと言ったら嘘になってしまう。

決して自分を持ち上げるという心は持ち合わせていないにしろ、そう言ったニュアンスの含まれる言葉を使うと、間違いなく『ナルシスト(そう言った筋の人)』と思われてしまう。

其れこそ勘違いも甚だしいし、何より自分のちっぽけなプライドのちっぽけな部分が自身を許せない。

 

「……老害が“目障り”っていうのは、どの組織に行っても同じことなんだな?Kartell然りpolice然り。ただ、あんたはその老害なんて歯牙にかけちゃいない、大体声で分かるよ。そんな能天気に声出してられるのは、自身が安全か・そもそも自身の命に興味がないか、老害より上の存在か・下の存在でありながらも上より強い力を持った存在か、だな。今上がるだけでも四つ候補がある。火の無いところに煙はたたねぇ、当然だよな」

 

相手は悩むそぶりを溜息に載せつつ、ふと口に出すのも憚れる話がArnoldの耳に飛び込む。

 

「ふぅ〜。流石に【殺戮兵器】の洞察力を侮っていたかな。そうだね、確かにある程度の機関であれば、老害どもは考えること且つ、上から目線で偉そうにしかしない。まるでそのことを脳味噌に植え付けられた『屍(zombie)』みたいだね。………………だから、その老害どもの心を綺麗植え付けたんだ。そう、もう君は気づいている筈だ。考えることができない、綺麗な心を植え付けてやったのさ」

 

それは最悪の返答、求めていもしない返答。

そう、確かに奴はこういったのだ。

どんな手段かはわからないが、"老害どもをzombieにした"と。

有り得ない、非科学的だと一蹴するのは容易いが、奴の言葉には現実味を帯び過ぎている。あんなに冷静な奴が取り乱し、老害をzombieにしたなどと、言外にもないだろう。

そう簡単なことである、彼奴はそれを行う力があったとしか言えない。

全くといって良いほど、説明しづらいというか、説明したら人の殺し過ぎでとうとう頭がおかしくなった、と判断されかねない。

 

「……ッち!テメェ、正気か?まともな脳味噌じゃこんなことは思いつかねぇ。テメェの後ろに何がいるなんざ興味ねぇが、自分に降りかかる火の粉ぐらいなら、自分で払う権利は当然ある、違うか?」

 

「違わないね、全く違わない。でも、時にその正しさは自分を腐らせ鈍らせると言うことを覚えていた方がいい。脳味噌をスクランブルエッグみたいにされたくなかったらね?待っててよ、熱々の血を垂らした『屍(zombie)』が、君を黄泉の国にお迎えに上がるから」

 

軽口にならないぐらいのありえない言葉の応酬。

この会話だけがこの瞬間世界で一番、非日常を感じさせる会話になっている。

プツンと電話が切れたスマホをArnoldは見つめ、新たに煙草に火をつける。

まるで溜息をタバコの排煙で代弁しているかのように、極自然にその動作を行う。

このスマホに電話をかけてきた人物ーー仮にKとしようーーは探し出して見つけ次第必ず殺すと、彼の目は怪しく光った。

程なくして、スマホの着信音が辺りに響き渡る。

どうやら警察本部からの指令で、あの探偵事務所で発砲沙汰があったらしい。

彼はcrown Victorian police carに乗り、サイレンを鳴らして現場に直行した。

 

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