クトゥルフの門   作:邑真津永世

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どぞ


Richard・Sophie

lucky strikeに火を点け、彼は今日も今日とて息及び煙を吐く。

【天国に一番近い煙草】が俗称の煙草ではあるのだが、それは俗説に過ぎず論文があるわけでもない。

タール14mg・ニコチン1.2mgと、どこぞの警察よりは控えめではあるのだが、それでもガツンとパンチのくる煙草で、愛煙家にも好まれている。

それはさておいて、彼の探偵事務所には依頼件数は少なく、実入りがあるのか疑問になっていると、地域ではかなりの有名である探偵事務所。

そんな依頼が少ない探偵事務所がこの地域で生き残る為には、ある程度コツがいるのだ。

それは、一つの依頼が法外なものであり且つ、依頼料が多少どころの騒ぎではなく多い、という事にあるのだ。

だから今日も煙草を吸いつつ、珈琲を嗜んで依頼を待っていると、インターホンが事務室内に鳴り響く。

 

「Richard〔依頼人がいらっしゃったようですよ?いつものように、ネギを背負って〕」

 

この憎たらしい事を言外に含みすぎている女性の名は[Sophie・ear]。この事務所唯一の助手であり、また探偵の一人である。

彼は彼女の心内を読み取ることができるが、側から見たら、何も喋っていない女性と喋るただのキチガイになってしまっている。

 

「あんまりな事を思うな、Sophie。現代のアメリカでは、どんな所で何を聞かれているかわからない。たとえ黙っていたとしてもこんな事を思うなんて、配慮とモラル共に欠けているとは思わんかね?」

 

やはり上司というだけあって部下を諌めるのは朝飯前である。

実際、Sophieは大体の機嫌は取り戻した様だ。

彼、[Richard・celldan]の実力と言えるだろう。

こうして言葉を掛け合う間に、依頼人を待たせていることに気づき、一言どうぞと声を掛ける。

彼らが会話していたことに気を遣っていたのか、会話中は事務室に入ってはこなかった。

そんな礼節ある者は、あまりアメリカでは見かけ無いと思ったRichardは、依頼人を見た瞬間肩透かしを食らったかのような感覚に陥る。

 

「japanese?Do you understand English?(日本人か?英語はちゃんと話せるかね?)」

 

「OK.No problem.And,be right with the recognition(あぁ。問題はねぇ。それと、その認識で正解だ)」

 

日本人の発音から、ほぼ間違いなく始めて英語を使ったと言う認識はなくなり、流暢に喋ると判断したRichardは、自己紹介を始める。

 

「俺はRichard。ゴミみたいに人の命が捨てられる価値観の国へようこそ。あんまり大手を振って歓迎はできないが、ここのソファーでくつろいでくれ給え。……おっと、そんな物騒なものを持って何をするつもりだね?あまり穏やかな内容の依頼ではないと思うが」

 

これは『釣り(フィッシング)』。この『餌(言葉)』に食いついてきてくれるかどうかが問題であり、今はとにかく情報収集が先だと、勘が告げている。

しかし、特大の『餌(核心)』にどう『魚(日本人)』が食いつくか少し不安に駆られているようだ。

 

「……俺はKartellの取り締まりの壬生淳太郎、Junでいい。察しが良くて説明する手間が省ける。ここの事務所は法外な金額を積めば動いてくれると聞いた。…………そこでだ、少し頼みたいことがある」

 

ここで中途半端に締めくくり、Sophieの方をチラチラと伺っている。

無理もない、Sophieから放たれる殺気というのは肌で感じると、猫と同じように全身の毛が逆立つ様に改造されたみたいになる。

しかし、針にある餌を食ってくれたのは事実で、安堵の溜息を心内で吐くものの、まだ超えていない峠が残ってはいる。

此処は少し気合いを入れ直し、Sophieの事を説明してから会話を進めることにした様だ。

 

「済まないね。気になっているだろう?彼女のことを。彼女の名前はSophieと言う。この事務所の探偵でもある。なので安心して欲しい」

 

日本人の顔にも、幾らかの安堵を感じる微笑みになると、少し真面目くさった顔をして、依頼内容を話すことについて決心したみたいだ。

依頼内容をまとめてしまうと、謎のKartellの組織の男に命を狙われて困っているとのこと。

その話を聞いて、彼は中々の大物を釣り上げてしまったとばかりにゲンナリする。

それは彼以外の人間でも起きてたことだろう。

何故ならば、身元不詳の人間に命を狙われている者を助けるのだ。こちらにも当然少なくない火の粉はかかる。

その火の粉を払いのけるためには、まずそのJunを狙う人間の尻の穴にbirthday candleを突き立て、その火を点けてやることだろう。

Richardがアルバカノンを構え、机を盾にして後ろに座り込むと同時に、Sophieはホルスターに手を掛け、ソード・カトラスのセーフティーを外す。

急のことでJunが動けずに困っていると、RichardがJunの首根っこを引っ張り、同じところに引き寄せた。

とどのつまり、敵襲である。扉が酷くひしゃげた音を聞いたRichardは、敵をどう駆逐するかの考えの傍に、修理代はJunに請求しようと心に決めていた。

 

ここで彼ら彼女らの『得物(アルバカノンとソード・カトラス』について説明せねばなるまい。

アルバカノンというのは、大口径ライフル弾を使用する【朝焼けの大砲】の名を持つ、スラスターリボルバーのエレヴカノンのロングバレルモデルである。

次にソード・カトラスはかの『二○拳銃(トゥーハ○ド)』を彷彿とさせる、髑髏のマークが刻まれているのが特徴のカスタム銃である。正しく言うのであれば、ベレッタM92カスタム“プライヤチャット・ソード・カトラス”という、ベレッタのカスタムで、実際にはベレッタのソード・カトラスという括りになるのだが、使っている本人は、あまりそう言った些事は気にしない質だ。

 

そして入ってきた5人の男たちは、ひしゃげた扉の上に立ち、銃を乱射し終えた後にこう言い放つ。

 

「このこなくそ虫どもが!腹かっさばいて、そのかっさばいた肉を腸に詰めていただいてやる!さぞゴミみたいな味がするだろうよ!」

 

Richardの中で何かが弾けた音がした。

大凡、健常者である人間の脳から出てはいけない音が数回響いたような気がした。

そして、顔からすぐに感情が読み取れるぐらい、酷く顳顬が浮き出た顔で、ダーティーハリーもびっくりな言葉を交わし始める。

 

「おい、複数人で入ってきた腰抜け野郎。てめぇらがどこの誰だかは知らねぇがな、そこにボロ切れみたいに転がっちまってる扉を見てみろよ。これな、昨日変えたばかりなんだ、そう昨日変えたばかりだ……。てめぇらのような後先短い奴が、0歳と1日の子どもを殺したも同然なんだ、その意味を咀嚼した上でよく聴きやがれ、このチベットスナギツネ。……そこの『子ども(扉)』と同じ目に合わせてやる。ひしゃげた顔を鏡で見て楽しんでろ、このウスノロ。あ、今から死ぬ奴が鏡なんて見られるわけねぇがな?」

 

彼の口調は普段は丁寧であるのだが、ある時その口調は穏やかな波から、台風の夜の荒波に変わる。

まるで飢えた獣のように、すらすらと罵詈雑言が浮かんでくるあたり、流石にボギャブラリーに富んでいると言えようか。

彼はすっかり青筋が立っている。

 

「ハッ!てめぇのその貧相なあーー」

 

五人のうちの一人が挑発に乗った後、その後の言葉を続けられることなく、アルバカノンでhead shotを決められた男は、糸人形の糸が切れたかの如く事切れてしまった。

一瞬のうちで、仲間の四人も気づくことができなかったのだろう、また四人の内の一人がロケット花火みたいに飛ぶ。

こんな有名なイギリスの話をご存知だろうか?

そう、十人の兵隊さんのお話だ。

見立て殺人の話ではないにしろ、誰もいなくなってしまうということを、嫌でも連想させてしまう。

そんなことに恐怖を覚えたのか、三人のうち一人は狂乱・錯乱はしなかったが、二人は冷静な判断に欠いてしまったのだろう。

次の瞬間、見事にソード・カトラスから放たれた弾丸は男二人の眉間ど真ん中を捉える。

 

「〔さて、と。最後の一人になってしまいましたね。〕何か知っていることを吐きなさい。〔そうすれば神は許してくれますよ?まぁ、話さないのだったら、Richardも言ったように、そこに貴男方に転がされた扉と一緒の運命を辿ることになりますが?〕」

 

端的に、冷静に告げる。

彼女の纏っている雰囲気は死そのもの。

彼女の後ろ側には、地獄から這いずり出た死神が立っているような気がしてならなかった。

しかし、男も立派な構成員であり、務めを果たさなければならない。

 

「だ、誰が喋ってやるものか!この売女め!」

 

喋り終わるのと同時に太腿に弾が打ち込まれる。喋るのを待っていただけでも良いと判断するべきだろうか。

人間に本当に度し難い存在などいない。人間は元から良くも悪くも欲深いのである。それを体現しているかのような一連の流れ。

 

「誰が情報以外を喋れと?そのクソみてぇなてめぇの産声を部屋中に満たしたくはねぇんだ。さっさっと吐かねぇとこのままこの世とサヨナラバイバイだ」

 

アルバカノンから打たれた弾はソード・カトラスより容赦はない。アルバカノンの弾は素人から見ても明らかに、ソード・カトラスよりも大きいのだ。

 

「ほ、ほほほ本当に何も知らないんだ!俺は、俺はまだ死にたくない!死にたくないんだ!たの、頼む頼む頼む!!!!」

 

本来であれば痛みで卒倒するであろうが、男の生きたいという精神力の前では痛みは跪き、今も尚弁明を続けている。

しかし、もう男の出血量では助かるべくもなく、『慈悲の一撃(クードグラス)』しか助かる方法は存在し得ない。

 

「『Doom(滅びの運命)』だったということだ。我々の事務所を壊してタダで済むとは思うまい?安心しろ、必ず地獄に俺は落ちる。そこで花見でもして待ってろ」

 

彼はニッコリ笑うと、引き金をまるでライターのボタンと同じように軽く引き、事の顛末を起こした人物をあるかもわからない天国か地獄に送った。

探偵事務所から、一切の銃声は聞こえなくなる。

この惨状を警察が見たら、戦争でも起きたのかと勘違いするぐらいの銃痕が残されている。

ふと窓を見やると、サイレンを鳴らしたポリスカーが一台事務所の前に停まっている。

ある一人の男が、此方を物凄い形相で見ている。

この街で一番怒らせてはいけない、【殺戮兵器(マーダーマシン)】がタバコに火をつけ、スチームポッドみたいにキレている。

 

「Hay,boy?この辺りに散らばっているガラス片、及び戦争の後みたいなのは一体なんだ?私は一仕事終えた後にこっちへ来てるんだが、臨時収入があるんだろうな?でないと、地獄への片道切符をお前らに渡しそうだ」

 

スチームポッドみたいになってるとは言え、冗談を言っている内は大丈夫であろうとは思うが、不用意に無視をしたとしても死にかねない。

それは得策ではないと考え、RichardはArnoldに声を掛ける。

 

「迷惑をかけて申し訳ない。思わぬ『来客者(アリンコ共)』がこの探偵事務所を巣だと思ったらしくてな。そんな年中ヤクをキメ込んでいる奴らは、どう考えても豚箱行きだ、そうだろ?だから豚箱よりも気持ち良い『箱(相応しい場所)』に送ったのさ。これは同情じゃなく、せめてもの慈悲だと思ってのことだ。Arnoldが出っ張る事の物でもない」

 

彼の脳によぎる考えは、どうにかして依頼人を見られないようにすることだけであった。

それ以外の考えに時間を使うと、Arnoldが上へ上がってくるだろう。

Junが見られたら、確実にJun共々Richardらが豚箱送りになるだろう。

 

「……あー、そうは言ってもな、一応死体の状況は確認しておかねぇと、上司にどやされるんでな。私もこんな面倒くせぇ事はしたくねぇし、効率的でもねぇ事に割く時間もねぇ。だからぱっぱと済ますようにしてんだ。それとRichard、お前少し荒々しい言葉になってんな…………。そこに何が居る?事と状況に応じちゃ、『警察(税金泥棒)』を敵に回す事になるんだが……。これは俺の考えすぎか?それとも、『正しい(true)』か?もし、俺の考えが正しいのであれば、やはり俺もそれなりの対応ってもんをしなきゃなんねぇ。もう一度だ、もう一度よく聞くぞ。……そこに何が居やがんだ?」

 

彼の恐ろしいところは勘の良さだけでなく、その冴え渡った状況把握能力だろう。

彼は前者より、後者の能力の方が長けている。そんな彼に隠し事をしようとするのが、まずそもそもの間違いになってくるのだが。

簡単にArnoldを表せる言葉として、獣並みの感覚というのが脳裏にどうしても浮かぶ。

どうしようもなく慈悲深く、どうしようもなく度し難い。彼の脳味噌は常に生かすか殺すかと、生殺与奪のことしか考えていないように見える。

しかし、彼は『猶予(Chance)』という立派な譲歩を先にしており、そこから先は知らないというスタンスを通している。彼自身、利己主義者であるのにだ。

この機会を逃したら、きっともう「猶予(Chance)」は訪れず、死に至らしめるまで止まらない・止まれない殺戮兵器になる。

 

「あぁ、そりゃあ勘違いだ。Arnold、あんたの勘も偶に外れる。そしてこりゃぁ依頼だし、『警察(税金泥棒)』の出る幕じゃねぇよ」

 

もうこれで引き返せない、銃の引き金を引いた。

この行動が吉と出るか蛇とでるか果たして不明であり、今のArnoldの顔は影に隠れて見えない。

これはどっちだ?と言わざるを得ない、精神的圧迫感にある。

簡単には行かない、そんなことはこの事務所であったところにいる、三人の共通認識であろう。

一分一秒が長く感じられるとはまさにこのこと。

Richardの心を占めている感情は、より良く圧迫された緊張感のみ。

 

「--はぁ、しょうがねぇ。今回は不問にしてやるから、その依頼ちゃんと遂行してこい。どうせこの『事務所(ダストボックス)』をまた元に戻すんだろ。なんか今ここで一発やらかしたとして、自分にメリットがねぇことねぇこと。まぁ、気が変わる前にその立派な『高級車(crown)』でお出かけしな。Ianにはこっちから伝えておく」

 

「ーーありがとう。また酒でも酌み交わそう」

 

そうRichardが言い、手を後ろに向かってあげて、crownのエンジンをかける。

少し遅れてSophieが会釈をして車に乗り込む。

その姿を見たclientは、目を伏せ同じようにして車に乗り込む。

荒々しいエンジンの音が辺りに鳴り響き、Arnoldから一台のcrownは見えなくなっていった。

 

「……ったく。こりゃぁ大目玉を喰らいそうだ。これからの事を考えると涙がちょちょぎれちまう」

 

悪態をつきながら、もう何本目になるかわからない煙草に火をつけ呼吸をする。

これは時間外労働が長くなりそうな予感がしてたまらない、と言わんばかりにため息混じりだ。

やはりArnoldは空に向かって煙を吹くと、虚無かのように空に霧散した。

願わくば、であるのだろうか。

この心の失った殺戮兵器が何を願うかは神のみぞ知り、常人には与り知らぬものなのである。

 




武器の資料をお借りしました。お叱りを受けたら、武器を変えます。
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