砕蜂から迫られて困っています   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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君は変わった。

良いことか、悪いことか。

ただ変わってしまった。

それを僕は受け止め切れない。


Evening&Bee

「なぁ、チャド。あの屋台でラーメン食ったことあるか?」

 

「むっ……?」

 

 空座高校一年、黒崎一護はその特徴的なオレンジの髪を掻きながら友人の茶渡泰虎に問いかけた。

 二人とも、お世辞にも制服は清潔とは言えなかった。

 高校生としては長身の一護も、日本人離れした長身のチャドもどちらも土で汚れていて、袖口にはまだ乾ききっていない血が滲んでいる。

 髪が目立つ一護も巨体が目立つチャドも喧嘩は珍しいことではない。二人とも根は好青年なのだが喧嘩を売られれば買うし、二人ともめっぽう強かった。

 つい十数分前も隣町から一護とチャドの噂を聞きつけた不良グループが三十人ほどで殴り込みに来たので、返り討ちにしたばかりだ。

 流石に無傷とはいかず、それぞれ口元やこめかみあたりから血を流しているが、それでも軽傷なのだから二人の強度が窺えるし、そんな喧嘩をした後、何事もなかったように二人で帰宅しようとしているのだから驚きだ。

 

「いや、ないな。よく見かけるが、あの手の屋台には行ったことない。高校生には入りにくいだろう」

 

 一護が口にしたラーメン屋の屋台。

 それをチャドは知っていた。彼がこの街の中学に来た頃から既にある店だ。入ったことはないし、入ったことがあるという人間も聞いたことがないので評判も知らないし、碌に意識したこともなかったのだ。

 

「だよなぁ。俺もだけど、前から結構気になってたんだ。ちょっと動いて小腹も空いたし、寄っていかね?」

 

「むっ……まぁ、構わんが」

 

 答えを聞いた一護がホイホイ進んでいく。

 高架下、日光がギリギリ入らない所に止まっている屋台に人の気配はない。客もいないが店員もいるのかが怪しい。

 荷車を改造したであろう漫画や古いドラマで見かける屋台には、これまたいかにもな暖簾があり、カウンターと席はその中。

 

「すんませーん……あれ?」

 

 暖簾をくぐった先、そこには誰もいなかった。

 

「やってないのか?」

 

「みたいだな。完全に放置してんのか」

 

「放置ではない」

 

「うおっ!?」

 

 その声は背後からだった。

 暖簾の外、一護とチャドの背後にいたのは一人の女だった。

 女、といっても身長はかなり小柄だ。チャドは勿論、一護よりも頭数個分低い。150センチくらいだろうか。身長だけ見れば中学生にも見える。

 だが、なんというべきか。

 一護には彼女が子供には見えなかった。

 立ち振る舞いか、雰囲気か、とにかくそういうものが一護の目には自分たちよりも年上に見えたのだ。

 

「えっと……店員さんすか?」

 

「あぁ。そうだ。客か、高校生は珍しい」

 

 セミロングの黒髪に黒のデニム、黒のタートルネックに黒い瞳。全身黒づくめの上にさらにそこに真っ黒なエプロン。ワンポイントで胸のあたりに猫の肉球のワッペンだけが彼女に彩りを加えていた。

 

「……あの、貴女、どこに?」

 

「ん? 普通にこの屋台の横にいたぞ。気づかなかったか?」

 

「はぁ……」

 

 怪訝そうな顔で問うチャドだが、一護も同感だった。この屋台の横にいると言っていたが、しかしまるで気づくことはない。真っ黒だから影に紛れていたのだろうか。

 そんな二人の考えを彼女は無視し、軽く溜息を吐きながら肩口で切り流した髪を掻く。

 

「来てもらって悪いが、店主はいま買い出し中でな。アレがおらんと料理は出んのだ」

 

「ありゃあ、そうなんすか。おねーさんは、じゃー手伝い?」

 

 問われ、彼女はその平坦な胸を張り、

 

「ん? あぁ―――――妻だ」

 

「妻ァ!?」

 

 年上には見えた。

 だが、まさかの人妻とは。

 一体いくつなんだこの人は。

 

「ふっ……驚くのは無理もない。私は見た目は若いからな。合法ロリというやつだ」

 

「一護、何故この人はこんなにもドヤ顔なんだ……!?」

 

「わか……らん……!」

 

「何を言うか。合法ロリは需要が高いとネットでいくらでも見るぞ?」

 

 何言ってんだこいつという顔で見られたが、この女が何を言っているのか。

 ネットとかサブカルにはあまり詳しくない一護とチャドにはまるで理解できなかった。

 

「ふっ……まぁ10年そこらしか生きてない小僧には解らんだろう」

 

 謎の上から目線である。

 このあたりでちょっと一護もチャドも帰りたくなってきた。

 というか、帰ろうとして、

 

「何やってんだシャオ」

 

「ぐあっ!」

 

 ごつんと、拳骨が少女の小さな頭に落ちてきた。

 

「高校生にあることないこと吹き込むんじゃあない」

 

「ぐおおおお……舌噛んだではないか……!」

 

 口元を押さえる少女の背後、これまたいつの間にか青年が立っていた。

 一護よりも身長の高い、細身の青年だった。紫色の髪を首あたりで括っており、背の中まで伸びている。目を引く琥珀色の瞳と褐色の肌。

 シャオと呼ばれた少女とサイズ感は違うが服装は同じく黒尽くめ。左手には買い物してきたであろうビニール袋が。

 

「悪いな、少年たち。こいつが変な絡みを……うん?」

 

 青年は苦笑しながら一護とチャドを見て、何故か一護に視線を向けて軽く目を見開いた。

 

「ど、ども」

 

 そういう視線に一護は慣れていた。

 何しろ髪の色がオレンジだ。地毛なのだが、しかし初見には関係ないだろう。この髪のせいで悪目立ちして、不良に絡まれているのも現実なのだから。

 

「……ふむ。あぁ悪い、ぶしつけな視線だったな。客だろう? シャオが絡んだ詫びに、ラーメン一杯はおごるよ」

 

「え!? まじすか!」

 

 帰ろうと思った気分は一瞬で消えた。

 高校生にはラーメン奢りというのはとても大きい。

 青年は屋台を回り込んで調理側に入り、少女と同じエプロンを身に着け笑う。

 猫のような、人懐っこい笑みで。

 

「ようこそ俺の店、『くろねこ』に。俺は四楓院宵丸だ。味わって行けよ、少年たち」

 

 

 

 

 

 

「あぁ、あれが一心殿の息子か。なるほど、思い返せば顔立ちが似ているな。母親とは似ておらんが」

 

「気づいてなかったのか」

 

 一護とチャドにラーメンを出し、軽く雑談をして見送った後。

 残された二人は向き合い、先ほどの少年、黒崎一護について口にしていた。

 呆れたような宵丸にシャオ―――砕蜂は唇を窄め、

 

「二回くらいしか会ったことないだろう。生まれた時と真咲の葬式の時。その葬式の方は遠目から見ただけだ。覚えられるものか。お前と違って、私は浦原とあれこれ話し合ってないのだからなダーリン」

 

「ダーリン言うな」

 

 後半から投げキッスをかましてきたが、身体を逸らして避ける。

 文句を言われるが、無視し、

 

「一心殿はちょいちょい飯食いに来るが息子は初めてだったな。偶然だろうが、一応一心殿と喜助の兄貴に報告はいれておかないと」

 

「なぁなぁダーリン、私の前であの男の名前を出すなと何回言えば解るのだ」

 

「そろそろ仲良くしてくれ。この100年どんだけ世話になったと思ってるんだ」

 

 100年。

 凡そ人としての一生を超える年数だが―――宵丸と砕蜂は人間ではない。

 この現世とは違う死者の世界、尸魂界に生きていた死神だ。

 100年ほど前にその尸魂界で起きた一件より、現世に追われた。今は義骸という現世で生きる為の仮の姿で二人とも過ごしており、この空座町でラーメン屋をやっているのはここ20年程のこと。

 

「むかつく男だ」

 

「だけど、頼りになる。シャオのあの超絶使いにくい卍解をどうにかしてくれたのも喜助さんだ」

 

「それは、そうだ。そうだが……この100年間の逃亡生活において、宵丸と婚前旅行を現世で世界中でできたのは喜ばしいことだが、問題はその婚前旅行が浦原の力を借りなければならなかったということだ」

 

「仕方ないだろ。最近はもう慣れたけどさ。あと婚前旅行のつもりはない」

 

「なん、だと……!?」

 

 砕蜂がまるで自分の斬魄刀の能力がまるで効かない時みたいな顔をした。

 婚前旅行などと宵丸は一度も言った覚えはない。

 

「尸魂界に戻ったら結婚してくれるのではなかったのか!?」

 

「そんなことを言った覚えはないよ!」

 

 幼いころからの友人。かつては四楓院家の長男の傍付きとして宵丸の護衛となった砕蜂とは文字通り生まれた時からの付き合いだ。最初は砕蜂は非常にへりくだっていたが、年が近いこともあり、立場を超えた対等な友達になった。

 それからともに切磋琢磨した日々が懐かしい。

 始解も卍解も、それぞれが得意とする奥義も互いに習得し、この100年絶えず共にいた。

 なのだが、何時からか砕蜂の頭の螺子が大分緩みだし、ここ数年はずっとこんな感じだ。

 困る。

 非常に困る。

 浦原喜助は笑ってた。

 黒崎一心は笑ってた。

 石田竜弦は笑ってた。

 平子シンジとその仲間たちも笑ってた。

 宵丸の師である握菱鉄裁だけは苦笑気味だがやっぱり笑ってた。

 味方がいない。

 

「姉上が見たらなんと言うか…………というか、年々姉上に似てきてるな」

 

「なんと。それは最高だ。流石はダーリン、私の喜ばせ方を心得ているな。そんな感じで閨も頼むぞ」

 

「お前マジで布団潜り込んでくるのやめて。やめて」

 

 二人が住んでいる浦原商店にはまだ子供の雨とジン太もいるのだ。

 この頭の螺子が虚圏まで飛んでる砕蜂はとても教育に悪い。

 無論、宵丸の精神的にも。

 

「そも、姉上が結婚する前に俺がするわけにもいかないよ」

 

「は? 夜一様は結婚とかしないんだが?」

 

「一昔前のアイドルかよ……」

 

 砕蜂との会話には姉である夜一の名前は頻繁に出てくる。

 それがどんな下らない話だとしても、その度に懐かしい思いがよみがえる。

 

「尸魂界に戻れば私は二番隊隊長である夜一様の副官、副隊長に返り咲くぞ。宵丸はどうする? 次は鬼道衆の長にでもなるか?」

 

「あー……別に、階級はあんま興味ないからなぁ。総帥補佐も地味に大変だったし。適当に隠密機動に混ぜてもらえばいいさ」

 

「権力や立場に囚われないところは、夜一様によく似ている」

 

 くすっと彼女は柔らかく微笑む。

 かつて、尸魂界にいた時はあまり見られなかった表情だ。

 

「……ま、それも帰ってからの話だけどな」

 

 肩をすくめ、いつかの話を切り上げる。

 いくらこんな会話をしても、昔のように尸魂界に帰る目途は立っていない。宵丸も、砕蜂も彼の地では罪人で、戻りたくても戻れない。

 何より―――あそこには敵がいる。

 100年前、宵丸や砕蜂、喜助たちを陥れた敵が。

 100年より前からずっと準備していた敵が。

 今なお、牙を潜め、闇で笑う敵が。

 

「……ま、それも帰ることが出来たらの話さ」

 

「確かに。……現世の生活も、存外悪く無かったがな」

 

「シャオは大分……というか馴染み過ぎたよな」

 

「あぁ」

 

 ふっ、と砕蜂はアンニュイに笑みを浮かべ、

 

「――――剛腕WALKの放送が終わるまでは現世にいたいものだ」

 

 

 

 

 

 




四楓院宵丸
100年前:鬼道衆総帥補佐、四楓院家長男
現在:ラーメン屋

砕蜂
100年前:二番隊副隊長
主人公とめっちゃ切磋琢磨してたので早めに副隊長に。
現在:夜一様も大好きだし、夜一様の弟も大好きだし、宵丸も大好き。
大分現世の文化に染まった。合法ロリ。おかっぱやめてセミロングに。

1話は原作開始前。
結構ぽんぽん時間飛ばす予定。
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